説明

金属合金からボデーを製作するための方法

【課題】自己着火式の内燃機関で用いられるような、特に急速に加熱するグロープラグに関して、比較的長時間の運転後でも亀裂の形成を確実に防ぐ。
【解決手段】再結晶温度で加熱した後に、少なくとももう一度ボデーを変形させ、これにより20〜50%の変形度を生ぜしめ、次いでニッケルベース合金から成るボデーを再結晶加熱又は溶解加熱し且つ/又は1220〜1330℃の範囲内の温度で溶解加熱を実施するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの溶接結合部を有する、ニッケルベース合金から成るボデーを製作するための方法に関する。更に本発明は、該方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶接結合領域における金属合金の結晶構造は、溶接されていない領域における金属合金の構造とは異なっている。この違いは、例えば異なる粒径及び場合によっては非金属封入部の分布に現れる。このような非金属封入部は、例えば鋼における炭素封入部である。
【0003】
金属合金から成るボデーの著しい負荷に際しては、例えば大きな温度勾配が生じる可能性のある、ボデーの急速な加熱又は冷却に際しては、溶接結合部が特に負荷される。つまり、例えば溶接結合領域には、ボデーに生じる温度勾配に基づき、引き続く過程において当該ボデーの溶接結合領域の裂断に至るまで一体となって成長する、複数の細孔が形成される恐れがある。
【0004】
本発明により製作されるような、少なくとも1つの溶接結合部を有する金属合金製のボデーは、例えば自己着火式の内燃機関のグロープラグに使用されるようなグローチューブである。自己着火式の内燃機関は目立った予熱無しで始動することが望ましいので、グロープラグを極めて迅速に加熱することが必要である。この場合、大きな温度勾配がグローチューブに生じる。チューブ材料及び溶接シームの領域における異なる組織組成に基づき、両領域の強度特性は互いに異なっている。これにより、一般にその他の材料よりも低い強度を有する、熱の影響を受けるゾーンは著しく負荷され、この熱の影響を受けるゾーンにおいて、溶接シームに沿った亀裂が発生する恐れがある。
【0005】
現在、グロープラグのグローチューブは一般にニッケルベース材料から製作される。このためには、金属薄板帯材がチューブを成すように曲げられ且つ長手方向シームにおいて溶接される。溶接シームの組織と基本材料の組織とは、特に粒径及び例えば炭化物等の非金属封入部の形状に関して異なっている。これらの異なる粒径及び非金属封入部の形状は、溶接シームと基本材料との間の異なる強度特性を生ぜしめる。
【0006】
グロープラグのグローチューブ用に使用される材料は、例えば2.4581又は2.4633の合金である。溶接応力を除去するためには、チューブは溶接後に焼き鈍しされ、次いで心棒を介して延伸される。この場合、チューブは10〜50%の変形度で変形される。最後に再結晶加熱(Rekristallisationsgluehen)が行われ、これにより、機械的特性及び組織を調整する。但しこのことは、現在自己着火式の内燃機関で用いられるような、特に急速に加熱するグロープラグに関して、比較的長時間の運転後でも亀裂の形成を確実に防ぐためには不十分である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来公知の欠点を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために本発明では、再結晶温度で加熱した後に、少なくとももう一度ボデーを変形させ、これにより20〜50%の変形度を生ぜしめ、次いでニッケルベース合金から成るボデーを再結晶加熱又は溶解加熱し且つ/又は1220〜1330℃の範囲内の温度で溶解加熱を実施するようにした。
【発明の効果】
【0009】
少なくとも1つの溶接結合部を有する、ニッケルベース合金から成るボデーを製作するための本発明による方法は、以下の段階を有している。即ち;
イ)ニッケルベース合金から成る少なくとも1枚の金属薄板からボデーを成形し、この場合、結合箇所において前記金属薄板の縁部をオーバラップさせることなく互いに突き合わせ、
ロ)前記縁部を溶接し、
ハ)ボデーを一度変形させ、これにより20〜50%の変形度を生ぜしめ、
ニ)ニッケルベース合金から成るボデーを再結晶加熱又は溶解加熱する。
【0010】
本発明では、再結晶温度での加熱後に、少なくとももう一度前記段階(ハ)及び(ニ)が実施され且つ/又は1220〜1330℃の範囲内の温度での溶解加熱が実施される。
【0011】
本発明による方法の利点は、20〜50%の変形度が得られるボデーの複数回の変形に基づき、その都度材料における転位密度が高まり且つ引き続く再結晶加熱により、組織状態の適合が行われることにある。
【0012】
1220〜1330℃の範囲内の温度での溶解加熱の利点は、溶接シームにおける粒子成長を阻む、合金内に分布する炭化物、特にクロム炭化物が溶解することにある。これにより、粒子成長の妨害が少なくなる。
【0013】
基本材料の組織は、溶接シームの組織よりも平衡状態に近いので、引き続く再結晶加熱を伴うボデーの変形においても、1220〜1330℃の温度範囲内でのボデーの加熱においても、溶接シームの組織は基本材料におけるよりも多く変化し、これにより、基本材料と溶接シームとの物理的な特性が互いに適合する。
【0014】
前記段階(ハ)におけるボデーの変形は、有利には延伸、ハンマ打ち又は当業者に公知の、別のあらゆる任意の適した変形方法により行われる。特に延伸又はハンマ打ちによって、材料内の転位密度が高められる。材料内の転位密度が高められることにより、後続の加熱に際して溶接シームでも基本材料でも再結晶が行われる。基本材料においても溶接シームにおいても組織を変化させる変形過程無しでは、再結晶は行われない。
【0015】
前記段階(イ)においてボデーが成形される金属薄板は、有利には0.6〜1.5mmの範囲内の肉厚を有している。段階(ハ)の変形過程によって、材料の肉厚が変化される。製作されるボデーが例えばチューブの場合は、延伸によりチューブの直径及び肉厚が減少され得る。また、ハンマ打ちによっても、例えば肉厚が減少され得る。肉厚の縮小は、例えば適当に成形された心棒に沿ったハンマ打ちによって可能である。択一的に、チューブの直径が延伸によって拡径されることも勿論可能である。この場合も、一般に肉厚の減少が行われる。しかし択一的に、例えば心棒無しで外径を減少させることにより、材料の圧縮延いては肉厚の増大を生ぜしめることも可能である。一般に、変形過程によりボデーの肉厚が変化される。しかし例えば、圧縮と延伸とを同時に行うことにより、肉厚ではなくボデーの形状を変化させることも可能である。
【0016】
成形されたボデーが、例えばグローチューブとしてグロープラグで使用される場合、当該ボデーは有利にはチューブ状であり、溶接結合部はチューブ状のボデーの長手方向シームである。この溶接シームに沿って金属薄板縁部がチューブを形成するように互いに結合される。前記縁部の溶接は、有利には溶加材の添加無しで行われる。これにより、別の物質が材料に入り込むことが防止される。材料の化学的な組成は変わらない。このことは、これにより溶接シームの組織の、基本材料の組織に対する適合が行われるために必要である。
【0017】
ボデーを製作するニッケルベース合金は、有利には記号2.4581又は2.4633の合金から選択されている。再結晶加熱は、有利には1100〜1200℃の範囲内の温度で実施される。特に有利には、複数の変形段階においても1220〜1330℃の範囲内の温度で溶解加熱が実施される。この温度で、合金内に分布する炭化物、特に溶接シームにおける粒子成長を阻むクロム炭化物が溶解する。これにより、溶接シーム内の粒子成長が所要速度で可能になる。
【0018】
特に有利には、グロープラグ用のグローチューブを製作するために本発明による方法が用いられる。本発明による方法の別の使用分野は、例えばサーモエレメント保護管、調理分野又は電気グリル等において使用されるようなパイプ加熱体のためのパイプ、又は高速ガスバーナのための管又はノズルの製作である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面につき詳しく説明する。
【0020】
図1には、第1の変形段階及び引き続く再結晶後の組織の顕微鏡写真が示されている。
【0021】
この顕微鏡写真は、自己着火式の内燃機関用のグロープラグのグローチューブの組織の、溶接シームの領域における部分断面図を示している。グローチューブ1を製作するためには、金属薄板がチューブを形成するように曲げられ且つ溶接シーム3で以てチューブを成すように閉じられる。この溶接シーム3の領域は、図1では右上に認識され、基本材料5は左側に認識される。
【0022】
基本材料5は微結晶7の不規則な構造を示している。これらの微結晶7の平均サイズは約20μmの範囲内である。個々の微結晶間には炭化物9(図示の写真ではクロム炭化物)が封入されている。これらの炭化物封入部9は、図示の顕微鏡写真では白色である。
【0023】
基本材料5における組織構造とは異なり、溶接シーム3の組織はより高密度で配列された構造を示している。つまり例えば、微結晶11により形成される個々の線を認識することができる。更に、溶接シーム3の微結晶11は、基本材料5の微結晶7よりも小さい。従って、溶接シーム3の微結晶11は約10μmの平均サイズを有している。
【0024】
図2には、2つの変形段階及び引き続く再結晶後の溶接シームの組織の顕微鏡写真が示されている。再結晶は、その都度1180℃の温度で行われた。
【0025】
図1と比べて図2では、2つの変形段階及び再結晶段階後の溶接シームにおける微結晶11の大きさが増大しているということが認識される。つまり、溶接シームの微結晶11は、2つの変形段階及び再結晶段階後には約15μmの平均サイズを有している。
【0026】
2つの変形段階の変形度は、それぞれ約30%である。変形は、心棒を介したチューブの延伸により行われる。2つの変形段階及び再結晶段階を経た後でもなお、規則的な構造の微結晶配列が認識される。
【0027】
図3には、2つの変形段階及び再結晶段階後の基本材料の組織の顕微鏡写真が示されている。
【0028】
図3から認識されるように、基本材料の微結晶7も、第2の変形段階及び再結晶段階により拡大している。即ち、基本材料における微結晶7は、2つの変形段階及び再結晶段階を経た後では約40μmの平均サイズを有している。
【0029】
炭化物封入部9は、基本材料内に一様に分布している。
【0030】
図1及び図2から、溶接シームの領域では炭化物9がより微細に分布していることが認識される。つまり、基本材料におけるような大きな可視の炭化物封入部9は存在していない。
【0031】
図1〜図3において用いられたグローチューブのための材料は、記号2.4633のニッケルベース材料である。但しこの材料の他に、例えば材料2.4581も、グロープラグ用のグローチューブを製作するために適している。
【0032】
変形及び引き続く再結晶に基づき、溶接シームと基本材料との物理的な特性が互いに適合される。このことは、基本材料の組織が溶接シームの組織よりも平衡状態に近く、延いては各変形段階及び再結晶段階により、溶接シームの組織が基本材料におけるよりも多く変化するという結果をもたらす。材料が変形される変形度は、有利には20〜50%の範囲内である。再結晶が行われる温度は、複数の変形段階及び引き続く再結晶段階が行われる場合、有利には1100〜1200℃の範囲内である。
【0033】
択一的に、1変形段階及び再結晶段階のみを実施することも可能である。この場合、変形はやはり20〜50%の変形度で行われる。但し、再結晶は、溶接シームにおける粒子成長を阻む、微細に分布する炭化物がまさに溶解する温度で実施される。一般に、記号2.4633のニッケルベース材料におけるクロム炭化物の溶解温度は、1220〜1330℃の範囲内である。この場合も、溶接シームの組織は基本材料の組織よりも著しく変化する。それというのも、基本材料の組織は溶接シームの組織よりも平衡状態により近いからである。これにより、溶接シームと基本材料との物理的な特性が適合する。このことは、1280℃の再結晶温度で図4に示されている。
【0034】
図4には、自己着火式の内燃機関用のグロープラグのグローチューブ1の部分断面図が示されている。上で既に説明したように、このグローチューブは、ニッケルベース材料から成る金属薄板がチューブを成すように成形され且つ長手方向溶接シームで以て溶接されることにより製作された。溶接シーム3の熱処理された領域と、基本材料5との間の境界は、線12でマーキングされる。溶接シーム3の組織は前記線12の左側に位置し、基本材料5の組織は前記線12の右側に位置している。
【0035】
図1及び図2に示した溶接シームとは異なり、この場合は溶接シームにおいても、組織中の微結晶11の不規則な配列が示されている。炭化物が溶解する高い温度に基づき、基本材料においても、図1〜図3に示したような比較的低い温度での再結晶時よりも大きな微結晶7が生ぜしめられる。つまり、この場合は例えば約150μmの平均微結晶サイズが得られる。この場合、炭化物9は微結晶7において一様に分布している。図4で用いられたグローチューブのための材料も、やはり記号2.4633のニッケルベース材料である。
【0036】
溶接シーム3の組織の基本材料5の組織に対する更なる適合を得るためには、図4に示した1220〜1330℃の範囲内の温度での再結晶に際しても、複数の変形段階及び再結晶段階を実施することが可能である。各変形及び引き続く再結晶において、溶接シーム3及び基本材料5の組織構造は、互いにより密接して適合する。これにより、特に急速な温度変化に際して、溶接シームの領域におけるグローチューブの亀裂が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】第1の変形段階及び引き続く再結晶後の組織の顕微鏡写真である。
【図2】2つの変形段階及び引き続く再結晶後の溶接シームの組織の顕微鏡写真である。
【図3】2つの変形段階及び再結晶段階後の基本材料における組織の顕微鏡写真である。
【図4】1変形段階及び引き続く1280℃での再結晶後の組織の顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0038】
1 グローチューブ、 3 溶接シーム、 5 基本材料、 7,11 微結晶、 9 炭化物封入部、 12 線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの溶接結合部を有する、ニッケルベース合金から成るボデーを製作するための方法であって、
イ)ニッケルベース合金から成る少なくとも1枚の金属薄板からボデーを成形し、この場合、結合箇所において前記金属薄板の縁部をオーバラップさせることなく互いに突き合わせ、
ロ)前記縁部を溶接し、
ハ)ボデーを一度変形させ、これにより20〜50%の変形度を生ぜしめ、
ニ)ニッケルベース合金から成るボデーを再結晶加熱又は溶解加熱する形式のものにおいて、
再結晶温度で加熱した後に、少なくとももう一度前記方法段階ハ)及びニ)を実施し且つ/又は1220〜1330℃の範囲内の温度で溶解加熱を実施することを特徴とする、金属合金からボデーを製作するための方法。
【請求項2】
前記変形を延伸又はハンマ打ちによって行う、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記変形によりボデーの肉厚を変化させる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記ボデーがチューブ状であり、このチューブ状のボデーの長手方向シームが溶接結合部である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記縁部の溶接を溶加材の添加無しで実施する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ニッケルベース合金を記号2.4581又は2.4633の合金から選択する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記再結晶加熱若しくは溶解加熱を、ボデーの複数回の変形に際して1100〜1350℃の範囲内の温度で実施する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
グロープラグ用のグローチューブ、サーモ保護管、パイプ加熱体用のパイプ、又は高速ガスバーナの管又はノズルを製作するために用いられる、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−131899(P2009−131899A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304086(P2008−304086)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】