説明

金属含有有機化合物の製造のための方法および装置

本発明は、金属性ナノ粒子成分および有機成分を有するまたはそれらから成る複合体を製造するための方法および装置を提供する。この方法は、レーザ放射で金属体を照射することによる、活性化したまたは反応性の金属含有ナノ粒子の生成を利用し、かつこのような複合体の有機成分がレーザ照射により変化または損傷することを回避する。ナノ粒子状金属性成分は、プラズモン共鳴する金属を含む。本発明による製造方法は、特に酸素を含む担体流体、例えばアルコールまたは水を使用する場合に、金属性コアと金属酸化物性シェルとを含む粒子を生成することが分かった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属性ナノ粒子成分および有機成分を有するまたはそれらから成る金属含有化合物を製造するための装置およびそれによって実施可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機成分は、分析物、特に細胞成分への親和性を有することが好ましい。代替策として、有機成分は天然または合成の有機分子、特にモノマーまたはポリマーでもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US 5125759
【特許文献2】DE 10 2005 044 530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、金属含有複合体の製造方法およびこの方法の実施に適した装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、請求項で定義している方法および装置によって課題を解決する。その際、本発明は、金属性ナノ粒子成分および有機成分を有するまたはそれらから成る複合体の製造、好ましくは連続的な製造のための方法を提供する。この方法は、レーザ放射で金属体を照射することによる、活性化したまたは反応性の金属含有ナノ粒子の生成を利用し、このような複合体の有機成分がレーザ照射により変化または損傷することを回避する。
【0006】
ナノ粒子状金属性成分は、好ましくはプラズモン共鳴する金属、特にAu、Ag、Ti、および/またはCuを含むまたはそれらから成る。本発明による方法に基づいて製造された化合物のナノ粒子状金属性成分は、好ましくは特に下記の群、すなわち金、銀、チタン、白金、イリジウム、タンタル、鉄、ニッケル、コバルト、および銅、およびその混合物、特に鉄ニッケル合金、およびコバルトサマリウム合金、金銀合金(AuAg)、鉄金合金(FeAu)、およびニッケルチタン合金(NiTi)を含む群から選択される金属の形で存在し、または特に下記の群、すなわちチタン、亜鉛、および鉄の酸化物、特にその強磁性金属酸化物を含む群から選択される金属酸化物として存在する。さらに好ましくはナノ粒子状金属性成分は、コアが金属でシェルが同じ金属の酸化物であるコアシェル粒子であり、例えばZn(コア)/ZnO(シェル)である。本発明による製造方法は、特に酸素を含む担体流体、例えばアルコールまたは水を使用する場合に、金属性コアおよび金属酸化物性シェルを含む粒子を生成することが分かった。
【0007】
複合体の金属含有成分と有機成分の結合を安定化させるため、これらの成分の一方が軟らかいルイス塩基で、これに対しもう一方が軟らかいルイス酸であること、またはこれらの成分の一方が硬いルイス塩基で、これに対しもう一方が硬いルイス酸である、例えばAuとチオール基含有有機成分またはFeとアミン基含有有機成分であることが好ましい。
【0008】
ナノ粒子状金属性成分と有機成分の間の結合は、直接的な結合であることが好ましいが、随意で、有機成分がいわゆるスペーサ基、例えばC1〜C6アルキルまたはポリグリコール、特にヘキサエチレングリコールを有してもよく、その場合は、このスペーサ基が金属性成分に結合する。
【0009】
金属含有有機化合物の有機成分はルイス塩基であり、かつ反応性基を有することができ、この反応性基は、例えばC-C二重結合、特にエチレン性不飽和二重結合、カルボキシ基、カルボニル基、チオール基、スルフィド基、およびエポキシド基、特に末端チオール基を有するもの、例えばシステイン残基、アルキルチオール残基、もしくはエチレングリコールチオール、またはジスルフィド、例えばピリジルジスルフィド、C1〜C12アルキルジスルフィド、エチレングリコールジスルフィド、またはリポ酸から選択される。
【0010】
好ましい実施形態では、有機成分は、分析物への特異的な親和性、特に原核生物または真核生物、なかでも動物の細胞の細胞内または細胞外の細胞成分への特異的な親和性を有する核酸配列および/またはアミノ酸配列を含んでいる。好ましくは、有機成分は、例えば分析物である標的配列に対して相補的な、つまりハイブリッド形成可能な核酸配列(オリゴヌクレオチドとも言う)を有する。特に好ましくは、有機成分は、動物の細胞、特に精子細胞の性染色体特異的な区域に特有の核酸配列である。
【0011】
さらなる一実施形態では、有機成分は、抗原と結合する抗体成分、例えば抗体のパラトープを構成する1つまたは複数のアミノ酸鎖、特に天然もしくは合成の抗体、または抗体の抗原結合部分を有している。
【0012】
これに対応して有機成分は、本発明による化合物の結合部分であってもよく、例えば天然もしくは合成の一本鎖もしくは二本鎖の抗体、特に、ここでは5'位から3'位の向きに示される核酸配列、例えばRNA、DNA、リン酸化されたDNA(PSNA)、ペプチジルDNA、例えばLNA(locked nucleic acid、ロックされた核酸)、もしくはPNA、または例えば細胞のレセプタに特異的なリガンドのレセプタ、または細胞表面結合成分もしくは細胞内成分と特異的に相互作用する別の化合物、特に抗体である。
【0013】
本発明による複合体の有機成分である核酸配列は、例えば性染色体特異的、対立遺伝子特異的、またはSNP特異的な核酸配列を有することができる。
【0014】
好ましい核酸配列は、TCT GTG AGA CGA CGC ACC GGT CGC AGG TTT TGT CTC ACA (配列番号1)、牛のY染色体に特異的な配列AGA GAC TGT GGA ACC GG (配列番号2)、GGC GAC TGT GCA AGC AGA (配列番号3)、もしくはAGC ACA TCT CGG TCC CTG (配列番号4)、またはマーカ遺伝子、例えば蛍光タンパク質、特にGFP、eGFP、Redをコードする発現カセット、疾患マーカに特異的な配列、例えば前立腺膜抗原に特異的なGGG AGG GCG AUG CGG AUC AGC CAU GUU UAC GUC ACU CCU UGU CAA UCC UCA UCG GC (配列番号5)、またはsiRNAをコードする配列、例えばGFPに向けられたsiRNA ACC UUC AGG GUC AGC UUG C (配列番号6)である。
【0015】
本発明による複合体の有機成分が分析物に対して特異的な親和性を有する場合、本発明による複合体は、証明用複合体(Nachweiskonjugat)または検出用複合体(Detektionskonjugat)とも呼ばれる。
【0016】
本発明による複合体、特に、金属含有ナノ粒子と、分析物に対して特異的な親和性を有する有機成分とが結合している検出用複合体は、追加的に、結合された透過促進性(Penetrationsverstarkend)化合物、例えばポリアルギニンペプチドを、特に好ましくは結合されたミリスチン酸残基および/または例えばトランスフェクション試薬と共に含んでいることが好ましく、このトランスフェクション試薬は、フゲン(Fugene)、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、オプチフェクト(Optifect)、DMRIE C、AntHD、ペネトラチン(配列番号 7、RQIKIWFQNRRMKWKK)、ペネトラチン43〜58、HIV1-Tatタンパク質(配列番号8、GRKKKRRQRRRPPQ)、Tatペプチド49〜59、Tatペプチド48〜62、Tatペプチド2〜4、配列番号9 (YGRKKRRQRRRGYGRKKRRQRRRG)の配列を含むもしくはそれから成るペプチド、両親媒性ペプチド(MAP)、例えばアミノ酸配列KALAもしくはKLAL、cis-γ-アミノ-L-プロリン含有ペプチド、VP22、LL37、TP10、MPG、ガルパラン(Galparan)、トランスポルタン(Transportan)、MPG、SynB1、フシタラズ、エングレイルド、pVEC、pls1、システイン、グリシン、ヘキスト33342、多糖、特にデキストラン、グルコサミングリカン、特にヒアルロン酸、ヘパリン、およびキトサン、脂質、ポリビニルピロリドン、エチレングリコール、ならびにその混合物および複合体の群から選択される。その代わりにまたはそれに加えて、透過を促進するために、複合体を、細胞内にリポソームとして処方することができ、またはリポソームと混合して処方することができる。
【0017】
さらに本発明は、分析物をフローサイトメトリー分析および/またはフローサイトメトリーで分別するための、分析物に対して特異的な有機成分を有する検出用複合体の使用およびこの検出用複合体の製造方法の使用にも関する。分析物は粒子に結合していることが好ましく、分析物は特に細胞成分である。したがってこの分別は細胞の分別でもあり得る。
【0018】
一般的に、本発明は、複合複合
例えば表面プラズモン共鳴の励起に特異的な励起波長の放射を照射することにより、複合体の金属性ナノ粒子成分を励起し、
発せられた放射の測定により、複合体によって発せられた信号を検出し、
放出ピークまたは吸収ピークの変位を決定することによる、
分析物を分析するための検出用複合体の使用、および随意で、後続の分析物の分別段階と結合された、この検出用複合体の製造のための製造方法の使用に関する。
【0019】
随意に、続いて分析物または分析物を有する粒子を、放出ピークまたは吸収ピークの決定された変位に対応して、2つ以上の画分に分別することができ、例えば閾値の一方の側での信号強度を有しており、その分析物に対して複合体の有機成分、特に複合体の核酸配列が特異的であり、特にハイブリッド形成可能な画分と、閾値のもう一方の側での信号強度が測定され、その分析物では例えば複合体の核酸配列がハイブリッド形成しない画分とに分別することができる。
【0020】
一般的に励起波長は、350〜1000nmの範囲内、好ましくは450〜800nmの範囲内、特に好ましくは633、488、514、または543nmでよい。
【0021】
特に本発明は、精子を性染色体特異的に検出するための、性染色体特異的な結合部分、特に性染色体特異的な核酸配列を有する検出用複合体の使用およびこの検出用複合体の製造方法の使用、特に、雄の非ヒト哺乳動物の健全で生存能力のある精子を、基本的にX染色体を含む画分と基本的にY染色体を含む画分とに分別するための検出用複合体の使用およびこの検出用複合体の製造のための製造方法の使用に関する。
【0022】
この実施形態では、本発明は、雄の非ヒト哺乳動物から得られた健全で生存能力のある精子に接触する段階を含む、フローサイトメータを用いた分別によって非ヒトの精子の画分を生成する方法における、金属性ナノ粒子成分および有機成分を有する複合体の使用であって、
好ましくは導電性かつ等張性のシース液の液滴中、例えばフローサイトメータ内で生成される流体流中で精子をバラバラにする段階と、
例えば表面プラズモン共鳴の励起に特異的な励起波長の放射を照射することにより、複合体の金属性ナノ粒子成分を励起する段階と、
発せられた放射を測定することにより、複合体によって発せられた信号を検出する段階と、
放出ピークまたは吸収ピークの変位を決定する段階と、
測定された信号強度に対応して少なくとも2つの精子画分、例えば性染色体特異的な精子画分のための閾値の一方の側での信号強度を有しており、その性染色体に対して複合体の有機成分、特に複合体の核酸配列が特異的であり、特にハイブリッド形成可能であった画分と、閾値のもう一方の側での信号強度が測定され、その信号強度では例えばこれに対応して複合体の核酸配列がハイブリッド形成しない精子の画分とを製造するために、精子を少なくとも2つの精子画分に分別する段階を有する使用にも関する。
【0023】
励起波長は、例えば金粒子に対しては350〜1000nmの範囲内、好ましくは520〜800nmの範囲内である。一般に、複合体によって発せられた信号の検出は、散乱光の測定によって行うことができる。すなわち、分析物に複合体が結合することによって放出波長が変位するので、放出ピークまたは吸収ピークの決定は、放出波長のピークの変位の決定であることができる。
【0024】
この使用の特別な利点は、製造された複合体がそれぞれ、対応する励起の際に、精子内に含まれる性染色体に対して特異的に、質的に有意に相違する検出可能な信号を放出し、この信号がハイブリッド形成に応じて有意に相違しており、この相違が、照射される励起エネルギーに対してまたは放出された信号を記録するための検出器に対して精子を特異的に配向させなくても測定可能なほど大きいことである。
【0025】
これに対応して、性染色体特異的な精子画分を製造する際の、複合体の製造方法のこの使用は、複合体から発せられた信号の検出中およびこれに続く測定された検出信号に基づく画分への分別中に、好ましくは精子をバラバラにすることを伴って、精子をその長手軸に沿って位置合わせせずに実施可能であり、例えばフローサイトメータ内でも連続液相の生成または液滴流の生成を伴って実施可能であり、その際、それぞれの液滴内には正確に1つの精子が含まれている。
【0026】
好ましくは、精液画分を製造する際のこの使用は、検出用複合体の信号検出に続いて、バラバラの精子を、例えば精子を含むシース液または担体液の液滴または体積区域を偏向させることによって画分に割り振ることに関する。この偏向は、例えば検出された信号に応じて生成される電界によって行うことができる。少なくとも2つの画分へのこの分別の代わりに、本発明による使用では、検出に続いて、バラバラの精子を、検出信号の高さに応じて何の干渉もせずに担体媒体またはシース液中でそのままにしておくことも、または検出信号に応じて、例えばこれに先立つ検出で信号の閾値を上回ったもしくは下回った精子を適切なレーザ照射で加熱することにより、一部の精子を失活させることも可能である。複合体の使用のこの形態では、生成された一方の精子画分は、失活されていない、つまり例えば照射されていない精子を含み、もう一方の画分は、失活された(受精能力のない)精子を含み、その際、失活化は、測定される検出信号のための閾値を下回るか上回るかに応じて行われる。したがってこの使用は、連続的な液体流中の個々の細胞を、検出用複合体から放出される信号に応じて失活させる照射をするためのレーザがフローサイトメータ内に設置されている方法に関することができる。
【0027】
好ましい核酸配列、特に牛のY染色体に特異的な核酸配列は、配列番号4 (5' AGC ACA TCT CGG TCC CTG 3')であり、その代わりに配列番号4および/または配列番号5の核酸配列を使用してもよい。
【0028】
本発明による複合体は、細胞、特に精子を対立遺伝子特異的またはSNP特異的に分画するために、性染色体特異的な核酸配列の代わりに、例えば対立遺伝子またはSNP(一塩基多型)に特異的な核酸配列を、含むことができる。
【0029】
検出用複合体が、コロイド状金ナノ粒子とそれに直接結合した性染色体特異的な核酸配列から成り、任意でさらに、金ナノ粒子に直接結合する透過促進性化合物を含むことが好ましい。したがってこの検出用複合体は、コロイド状金属ナノ粒子、特にコロイド状金ナノ粒子に直接結合した性染色体特異的な核酸配列、場合によってはさらにナノ粒子に直接結合する透過促進性化合物を含んでいる。
【0030】
コロイド状金ナノ粒子を有する検出用複合体を励起するには、精子を分画するための使用の場合、例えば350〜1000nm、好ましくは450〜1000nm、特に好ましくは約800nmの波長の光を照射のために使用することができる。性染色体特異的な検出のための信号として、励起放射の吸収を測定することができ、その際、複合体の核酸配列の性染色体特異的なハイブリッド形成を、吸収の変化として、場合によっては波長の変位、特により高い波長への変位による吸収の変化として検出することが好ましい。
【0031】
分析物を検出するために使用する際の、複合体によって放出された放射の検出、任意でこれに続く、蛍光の変化、吸収、および/または散乱としての検出された複合体の信号に応じた分別、随意でこれに伴う波長の変位の決定に基づき、本発明は、性染色体特異的なハイブリッド形成を非接触で検出する段階と、これに続く、バラバラの精子を検出された信号に応じて分画および/または失活化する段階とを含む、細胞、特に精子のための分析方法および分別方法のために、複合体を使用することができる。
【0032】
本発明による方法は、レーザ照射による担体流体中の金属体のアブレーションを提供し、その際、担体流体は、レーザ照射中に、金属体の表面上を移動する、例えばポンピングされる。レーザ照射によって生成された金属含有ナノ粒子は、担体流体の強制的な移動によって、レーザビームの領域から外に移動し、したがって金属含有ナノ粒子は、有機成分の前駆体化合物との接触または反応後は、基本的にレーザビームを通り抜けることはない。本発明において、金属体の概念には、一体型の金属または金属酸化物だけでなく、粒子状の金属または金属酸化物、特に金属粉末または金属酸化物粉末も含まれ、この粒子状の金属または金属酸化物は、任意で固化しており、かつ/または結合剤を含んでいてもよい。
【0033】
この製造方法で使用される担体流体は液体であることが好ましく、この液体は、例えば、水性組成物、特に、純粋で塩を含まない水、水性緩衝剤であってトリス、HEPES、MES、イミダゾール、グリシン、および/またはトリエタノールアミンを含むもの、水またはこのような水性緩衝剤であって例えば下記の群、すなわちC1〜C5アルコール、特にエタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、ホルムアルデヒド、およびTHF、およびそれらの少なくとも2種の混合物を含む群から選択された有機溶剤を含むるもの、から成る群から選択される。代替策として担体流体は、前述の有機溶剤およびその混合物からなる群から選択することができ、好ましくは、担体流体はTHFまたはアセトンである。
【0034】
担体流体には、時間的にレーザ放射を金属体に作用させる前または後に、複合体の有機成分の前駆体化合物を添加する。担体流体に含まれる前駆体化合物は、金属体をレーザ照射することによって生成された金属含有ナノ粒子と共に、さらなる結合なしで複合体を形成し、つまり複合体は、例えば反応性で二官能性のカップリング試薬なしでも生成される。前駆体化合物は、レーザ照射による金属含有ナノ粒子の生成後の短時間内(特に0.5μs〜100ms内)は金属含有ナノ粒子と反応性のある、少なくとも1個の基を含むことが好ましい。
【0035】
代替の一実施形態では、レーザ放射が超短パルスレーザ放射である。超短パルスレーザ放射でのレーザ放射により、複合体の変化は回避され、その一方で担体流体中の有機前駆体化合物と反応して複合体になるナノ粒子は、金属体の照射によって十分に生成されることが分かった。目下のところ、超短パルスレーザ放射による製造方法において、生成された複合体の変化が回避されるのは、例えば1〜100ps未満であるパルス幅が、金属含有ナノ粒子の緩和時間より短いというプロセス操作のためとされる。これに対応してこの実施形態は、担体流体の金属体上の移動を生じないことができる。
【0036】
この実施形態では、担体流体としての水性媒体中の金から超短パルスレーザによってナノ粒子がアブレーションされることによって、性染色体特異的なオリゴヌクレオチド、特にPNAと結合している、好ましくはコロイド状の金ナノ粒子である検出用複合体が製造され、この水性媒体中には核酸配列が存在し、任意でさらに、同時にまたは後で添加された透過促進性試薬が存在している。超短パルスでのレーザアブレーション(Laserabtragung)による金ナノ粒子の生成は、反応性の表面を有するナノ粒子を製造し、このナノ粒子は表面に、部分酸化されたAu+、Au3+を有することもできる。意外にも、性染色体特異的な核酸配列が存在すると、場合によっては透過促進性試薬を混合したまたは後から加えた場合でも、超短パルスのレーザアブレーションにより金属ナノ粒子を生成するだけで、核酸配列または透過促進性試薬と金ナノ粒子との直接的な結合が生じることが発見された。超短パルスのレーザアブレーションによって、金属粒子、特に金ナノ粒子が部分的に酸化され、電子受容体として作用し、この受容体が、結合部分、特に核酸配列および随意で同時にまたは後で存在する透過促進性試薬と結合し、例えば錯体結合または配位結合し、したがって複合体内では金属が金属の形で、特に金属酸化物としてではなく存在する。
【0037】
結合強度を高めるために、核酸配列または透過促進性試薬(透過促進性化合物)は、ナノ粒子と結合するために、核酸配列の3'末端および/または5'末端側に、好ましくは3'末端側に、金と反応する基、特にチオール基、カルボキシ基、アミド基、および/またはアミン基を含むことができる。この製造方法は、貫流チャンバ内で連続的に実施することができ、その際、核酸配列を含む水性媒体が、金の傍を通って流され、その一方で、超短パルスレーザ放射の照射によって、金からコロイド状ナノ粒子が製造される。この実施形態では、透過促進性試薬を、所望の比率で核酸配列と混合して使用することができ、または透過促進性試薬を、コロイド状金ナノ粒子の生成場所の下流で流体流に加えることができ、したがってナノ粒子と核酸配列の反応後に、ナノ粒子の反応部位が透過促進性試薬と反応することができる。
【0038】
本発明によれば、磁性ナノ粒子、例えばFe、Fe酸化物、および/またはFe合金を含むまたはそれらから成るナノ粒子が生成され、このナノ粒子はその後、特異的な性染色体に結合した際の緩和の変位を検出することによって検出可能であり、例えば哺乳動物精子の表面または中に検出用複合体が特異的に結合することによる緩和の差を検出することによって検出可能であり、例えば性染色体特異的な核酸配列の場合、後で精子を選択するために、Y染色体を含む精子に対するX染色体を含む精子の緩和の差を検出することによって検出可能である。精子は全体的なDNA含有量の違いによっても区別されるので、検出用複合体の核酸配列が非特異的な場合、検出および選択を、緩和の量的な差に基づいて行うことができる。
【0039】
したがって性染色体特異的な核酸配列の代わりに、偶然のまたはランダムな核酸配列、および/またはDNA内にインタカレーションする物質、例えば色素、特にヘキスト ビスベンズイミド33342を、有機成分として検出用複合体内に含むことができ、したがって性染色体に基づく同定のために、Y染色体を含む精子の全体的なDNA含有量が比較的少ないことによる信号の量的な差を検出することができる。
【0040】
本発明による検出用複合体内に含まれるナノ粒子は、好ましくは、水性媒体中の金属を超短パルスでレーザアブレーションすることによって製造され、例えば水性組成物中に潜り込み、その際、波長が330nm超から最大1030nm、特に500〜1000nmの範囲内の場合、超短パルスは、10fs〜15psのパルス幅を有する。アブレーション時間は、パルスエネルギーが約50〜200μJ、特に80〜120μJ、好ましくは120μJの場合、好ましくは約10〜200秒、例えば40〜60秒、特に53秒であり、パルス幅は、好ましくは800nmの場合、約100〜140fs、特に約120fsである。
【0041】
本発明による製造方法は、例えばペプチドまたは好ましくはPNAとしての性染色体特異的な核酸配列である結合部分が結合しても、哺乳動物、特に牛の精子の細胞壁を透過するのに特に適したサイズおよび/または立体配座を有するナノ粒子を生じさせる。ナノ粒子のサイズは、例えば1〜150nm、〜100nm、好ましくは5〜50nmまたは〜25nmである。
【0042】
ナノ粒子を含む検出用複合体の製造方法は、この実施形態では、ナノ粒子が超短パルスレーザ放射によって生成されるので、複合体の成分または担体流体への熱作用が少ない場合、金属性ナノ粒子の反応性が高い非常に短い期間中、例えば1〜10ps内で、検出用複合体を生成する。ナノ粒子はその生成直後には、例えばチオール含有の核酸配列に対するこの反応性を有すが、一方、この期間の後にはナノ粒子の凝集が始まる。少ない熱作用は、それによって有機成分の損傷が低減され、好ましくは実質上回避されるので有利である。これに対応してこの製造方法に用いるべき核酸配列は、金ナノ粒子に対する対応する配位結合を、しかも核酸配列とナノ粒子の間の追加的なカップリング試薬の使用なしで作るために、好ましくはチオール基、ケト基、カルボキシ基、アミド基、またはアミン基、またはホスフィン基を含んでおり、したがって検出用複合体は例えば、金属性ナノ粒子と、ナノ粒子と配位結合している特に末端の反応基、例えばチオール基、ケト基、カルボキシ基、アミド基、またはアミン基、またはホスフィン基を有する核酸配列とから成る。
【0043】
好ましい実施形態では、金属性ナノ粒子成分および有機成分を有する複合体の製造方法は、循環機構またはポンプ機構によって、特に担体液である担体流体を金属表面上で移動させること、およびレーザによって金属を照射することを提供する。金属のレーザ照射によって金属性ナノ粒子が生成される。担体流体が複合体の有機成分の前駆体化合物を含んでいてもよく、またはこの前駆体化合物を、金属より下流で担体流体に添加してもよい。
【0044】
レーザ放射で照射中の金属の表面上を担体流体が移動することにより、生成されたナノ粒子は直接的なレーザビームの領域から移動し、こうしてレーザの繰り返し率に応じて低減した程度でレーザビームによって励起され、またはもはや励起されなくなる。したがってこの実施形態でも、レーザ放射がその繰り返し率に応じて、基本的に、有機成分が金属性成分に結合された既に形成された複合体の有機成分に対し、実質的に低減した作用を及ぼし、または作用を及ぼさないことが好ましい。これは、担体流体に含まれる前駆体化合物が、レーザ照射によって生成された直後の反応性ナノ粒子と反応できるという利点を有しているが、ただし担体流体のうちレーザビームが横断する体積部分の外部で担体流体が移動するからである。
【0045】
前駆体化合物を含む担体流体中で連続的なレーザ照射により金属性表面からナノ粒子を生成する場合でも、金属の表面上を担体流体が移動する場合、超短パルスレーザによる製造よりも高い収率で複合体が生成され、かつ/またはナノ粒子と結合する前駆体化合物の反応基、例えばチオール基、ケト基、カルボキシ基、およびアミド基を除いて、前駆体化合物が変化しないことが分かった。こうして、例えばオリゴヌクレオチドについて、レーザ照射中の金属の表面上を担体流体が移動することを伴う本発明によるプロセス操作において、担体流体が金属表面より上流で既に前駆体化合物を含む場合、ナノ粒子への結合を除いて実質的にオリゴヌクレオチドの変化が生じないことを示すことができた。これとは異なり、静的なプロセス操作、つまり担体流体の移動なしで、高いレーザエネルギーを用いてナノ粒子を生成する場合は、複合体の有機成分の化学的変化が証明できたが、目下のところこの変化は、複合体のレーザ照射のせいであり得ると推察される。
【0046】
金属が中に配置されており、連続放射レーザによって照射され得る容器内で、担体流体をポンピングすることにより担体流体を移動させることが好ましい。簡単な一実施形態では、このポンピングは容器内のポンプ機構としての撹拌器によって引き起こすことができ、その際、容器に前駆体化合物を含む担体流体を断続的に投入し、撹拌しながら、担体流体中に配置された金属または金属酸化物を連続的なレーザ放射で照射する。代替策として循環機構は、容器に接続されており、担体流体を移動させるためのポンプ機構を備える循環機構であってもよい。容器は、前駆体化合物用の入口および/または流出口を有することが好ましい。
【0047】
この説明では、前駆体化合物の概念には、本発明による複合体の有機成分、特に分析物に特異的な有機成分の前駆体化合物および前駆体物質も、非特異的な有機性の前駆体化合物および前駆体物質、例えば透過促進性または非特異的な有機化合物の前駆体化合物も含まれる。
【0048】
本発明による複合体の製造方法の説明において、プロセス段階の説明は、その方法に適した、それぞれ説明するプロセス段階のための、装置の要素の対応する機構にも適用される。
【0049】
好ましい一実施形態では、担体流体がポンプまたは加圧された液体供給源により、第1の流入口を通って、金属が固定されレーザビームによって照射される貫流セル中にポンピングされ、続いて流出口を通って貫流セルから出ていく。
【0050】
特に好ましくは、金属が貫流セルの内表面の一区域を構成しており、例えば貫流セルの内表面上に配置されている。貫流セルは、最大7cm2、好ましくは最大2cm2、より好ましくは最大1cm2、より好ましくは最大1〜50mm2または〜20mm2の、金属表面に隣接する通り抜け断面を有することが好ましく、したがって担体流体は、金属表面に対して限られた間隔でのみ金属の傍を移動し、担体流体に含まれる前駆体化合物、または金属のレーザ照射後に、つまりレーザビームもしくは金属の下流で担体流体に供給される前駆体化合物は、金属表面に隣接する限られた体積区域内だけに存在し、そこで、生成されたナノ粒子と反応し、一方、金属表面との間隔が大きいところには、金属表面のレーザ照射直後にナノ粒子は存在せず、実質的に担体流体も前駆体化合物も存在していない。
【0051】
容器または貫流路内の金属の表面に向けられるレーザビームは、レーザによって生成され、容器または貫流チャンバの、レーザ放射に対して透明な壁区域を通って入射することが好ましい。貫流チャンバは、層厚が100μm〜4mmの担体流体が金属体上を流れられるように、金属体を上回る100μm〜4mmの高さを有することが好ましい。チャンバは、実質上垂直に配置され、または垂直方向に貫流するために位置合わせされることが好ましく、その場合、レーザビームは、実質上垂直に配置された金属体表面に向けられる。レーザビームは、金属体表面とほぼ水平に位置合わせすることができる。
【0052】
本発明に従って金属のレーザ照射中に担体流体が金属の表面上を移動することに基づき、レーザ照射によって生成されたナノ粒子は、容器または貫流路のレーザビームが横断する体積区域から外に移動する。その結果、レーザ放射は、超短パルスレーザ放射でもよく、または例えばCWレーザ、固体レーザ、例えばND-YAGレーザ、エルビウムYAGレーザ、チタンサファイアレーザ、ファイバレーザまたはダイオードレーザによって生成される連続的なレーザ放射でもよい。
【0053】
金属または金属酸化物の表面に当たったレーザ放射が金属体に対して相対的に移動することが好ましい。金属体に対するレーザ放射の相対移動は、金属もしくは金属酸化物の表面に沿ってレーザビームを螺旋状またはメアンダ状に案内することによって、またはレーザ放射の向きが確定している場合はチャンバをそのように移動することによって行うことができる。
【0054】
金属の表面に対するレーザビームの相対移動を引き起こすために、金属体または貫流チャンバを、可動な固定装置上に固定することができ、かつ/または例えばレーザ媒質からのレーザビームを金属の表面に向ける偏向ミラーを移動することによって、レーザビームを金属の表面に沿って移動させることができる。
【0055】
担体流体は、好ましくはその凝固点より高い温度に、例えば最高20℃に、好ましくは1〜10または〜5℃に冷却することができ、有機溶剤を含むまたはそれから成る担体流体は0℃未満に冷却することができる。これに対応して本発明による装置は、この温度に担体流体を冷却するための冷却機構を備えることが好ましい。
【0056】
この方法の最中に、金属体の下流でさらなる前駆体化合物、例えば透過促進性試薬の前駆体化合物を添加することが好ましい。
【0057】
担体流体が連続的に、またそれより好ましくはないが断続的に、金属の表面上を移動する、さらなる好ましい実施形態では、貫流路の、金属の下流および/またはレーザビームの下流の一体積区域が、センサによって捕捉される。センサは、分光計、特に分光光度計であることが好ましい。その代わりにまたはそれに加えて、金属の上流および/またはレーザビームの上流で、一体積区域をセンサ、特に分光計によって測定してもよい。少なくとも1つの分光計で記録した測定値は、随意で、レーザビームの位置決めの制御のため、金属の位置決めを制御するため、および/または強度もしくは金属体の表面に対する相対移動に基づいてレーザ照射を制御するために、特に超短パルスレーザ放射の場合は周波数および/またはパルス幅を制御するために使用することができ、例えば分光計によって記録された測定値を、金属用の固定機構の移動、レーザビームの位置決め、および/またはレーザビームの生成、および/または前駆体化合物の配量添加を管理する制御ユニットに結合することによって使用することができる。
【0058】
この方法は、複合体が生成された後、例えば担体流体がその中に含まれる複合体と共に流出口3を通って出てきた後に、担体流体の少なくとも一部を分離する段階、および/または生成された複合体から、複合体に転換されなかった前駆体化合物もしくは転換されなかったナノ粒子を分離する段階を含むことが好ましい。転換されなかったナノ粒子もしくは前駆体化合物を複合体から分離するには、従来の分離方法、特にクロマトグラフィによる方法、例えばサイズ排除クロマトグラフィを用いることができ、または特に、第1の前駆体化合物か、またはそれから製造された複合体の有機成分のどちらかが、分析物に対して特異的な親和性を有する場合は、分析物を固定させたクロマトグラフィ媒体を用いた、アフィニティークロマトグラフィによる複合体からの分離を用いることができる。分離のために、随意で、複合体の金属性成分に特異的な第2のクロマトグラフィ段階を実施することができ、例えば強磁性ナノ粒子の場合は、磁場、遠心、および/またはAFFFF(非対称フローフィールドフローフラクショネイション)による担体流体からの複合体の分離を実施することができる。
【0059】
ここで図を参照しながら例に基づき本発明をより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明による方法を実施するための簡単な装置の概略図である。
【図2】連続的な方法を実施するための装置の好ましい一実施形態を示す図である。
【図3】本発明による方法を実施するための装置のさらなる実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図において同じ符号は機能的に同じ要素を表している。
【0062】
この方法のための使用に適した簡単な装置が図1に示されており、この装置は、ここでは共通の開口部の形の、第1の流入口2および流出口3を備えた容器1を有する。担体流体4の移動を引き起こすために、ポンプ機構5が、担体流体4と接触して、例えば容器1内に配置されている。概略的に示したように、ポンプ機構5はこの実施形態では撹拌器とすることができる。
【0063】
金属は、一体型または粒子状の金属および/または金属酸化物を含むまたはそれらから成る金属体6の形で、固定機構7によって容器1内に固定される。金属体6が粉末状の場合、固定機構7は、1つの面が開いた容器であってもよい。レーザビームを生成するための光学素子に接続されたレーザ媒質を有するレーザ8は、レーザビームが、固定機構7のうちの金属体6を配置すべき区域に向くように配置されている。レーザ8によって生成されたレーザビームは、ミラー9で制御することが好ましく、ミラー9は可動であり、固定機構7のうちの金属体6が配置されている区域に向かってレーザビームを移動させ得るように制御される。
【0064】
その代わりにまたはそれに加えて、固定機構7はその金属体6を配置すべき区域をレーザビームに向かって移動させるために、制御ユニットと接続されており、かつ制御されて移動することができる。
【0065】
第1の流入口2によって、担体流体4に第1の前駆体化合物10を添加することができ、この前駆体化合物は、レーザビームによって金属体6から生成される金属性ナノ粒子を含む複合体の有機成分を構成する。
【0066】
任意で、第2のまたはさらなる前駆体化合物、例えば透過促進性試薬を添加することができ、これは、第1の前駆体化合物10と同様に、レーザ照射によって生成された直後の金属性ナノ粒子と反応して複合体になる。
【0067】
図2および図3は、容器1が流路として実施されている実施形態を示しており、この流路は、この方法では連続的または断続的に担体流体が貫流する。これに対応して、これらの図に関して挙げる装置または方法の特性をそれぞれ相互に組み合わせることがき、かつ/または前述の説明で挙げた特性と組み合わせることができる。
【0068】
図2は、複合体を製造する方法で使用するための本発明による装置を製造する際に使用するための装置の好ましい一実施形態を示しており、この装置では容器1は流路として形成されている。容器1はその第1の端部に第1の流入口2を備えており、反対側の第2の端部には流出口3を備えている。流路として形成された容器1の一区域内に、金属体6を収容するための固定機構7が配置されている。流路として形成された容器1は大部分が閉じ、固定機構7の向かい側に、使用するレーザ放射に対して透明な区域11を有することが好ましい。これに対応して、偏向を制御するためのミラー9を選択的に備えたレーザ8が、レーザビームが、流路として形成された容器1の透明な区域を通って固定機構7のうちの金属体6を配置すべき区域に向けられるように配置されている。
【0069】
一般に、担体流体には、第1の流入口に入る前または後に、第1の前駆体化合物10を加えることができる。流路として形成された容器1は、固定機構7のすぐ下流に第2の流入口16を備えることが好ましく、この第2の流入口には、第1の前駆体化合物10および/または第2の前駆体化合物、例えば透過促進性試薬の前駆体化合物用の第2の貯蔵容器17が接続されている。第2の流入口16への接続配管は、好ましくは配量機構15を備えており、この配量機構は、説明中では配量弁15とも呼ばれる。
【0070】
流路として形成された容器1は、第2の流入口16に追加的または代替的に、1つまたは複数の第3の流入口18を備えることができ、この第3の流入口は、第1の流入口2と固定機構7の間の流路の一区域内に配置されている。第3の流入口18は、第3の貯蔵容器19と連結されており、かつ第3の貯蔵容器19と第3の流入口18の間の接続配管内に配置されたさらなる配量弁15を介して制御可能である。第3の貯蔵容器19は、例えば第1の前駆体化合物10および/または第2の前駆体化合物で満たすことができる。
【0071】
したがって、第1の流入口2を担体流体用の第1の貯蔵容器と接続し、第2の流入口16および第3の流入口18をそれぞれ割り当てられた第2または第3の貯蔵容器と接続する配管が、それぞれ制御可能な配量弁15を備えることが好ましく、この配量弁が制御ユニット21と接続されていることが特に好ましい。
【0072】
装置および方法を管理および/または制御するために、装置は、担体流体の内容物質の特性を検出するセンサ22を備えている。センサ22は分光計、特に分光光度計であることが好ましく、センサの検出範囲は、容器1の内部体積の少なくとも1つの区域である。特に好ましくは、流路として形成された容器1は、固定機構7と流出口3の間の区域内に、つまり固定機構7の下流またはレーザビームが容器1の内部体積を通り抜けるレーザビームの下流に、キュベット区域12を有しており、このキュベット区域は、2つの離隔したキュベット壁13、14の間隔が流路の直径よりも大きく、第1のキュベット壁13および/または第2のキュベット壁14に検出器が配置されている。第1のキュベット壁13は、センサによって測定される波長に対して光学的に透明であることが好ましく、第2のキュベット壁14は、センサの放射器によって生成される波長もしくはセンサによって測定される波長に対して光学的に透明であってよく、または第1のキュベット壁13に向かって放射を反射するためのミラーでよい。
【0073】
特に好ましくはセンサ22が制御ユニット21と接続しており、この制御ユニットは、レーザ8の制御、ミラー9の位置調節、ならびに/または第1および/もしくは第2の前駆体化合物の配量に用いる配量弁15の調整のために、検出器の測定値に応答して制御信号を生成するように構成されており、かつ制御信号を伝達するために、レーザ8、ミラー9の位置調節機構、および/または配量弁15と、データ回線によって接続されている。
【0074】
さらなる好ましい一実施形態では、流出口3が、好ましくは制御されたポンプを含む戻り配管23を介して流入口2と接続されており、本発明による方法が実施される場合、この戻り配管を通って担体流体の少なくとも一部が、制御されて流出口3から流入口2に戻される。この実施形態では、担体流体は、容器1の、レーザ放射が金属体6に向いており、容器1のある体積区域を横切る区域を通って再循環することができ、その際、担体流体の少なくとも一部を戻すことにより、既に生成されたナノ粒子にレーザビームの作用が及ぶ。この実施形態では、第1のプロセス段階で前駆体化合物を含まない担体流体が流路を通り抜け、かつ金属体6がレーザ放射で照射されることが好ましく、したがって流出口3から流入口2に担体流体を戻すことにより、担体流体中に懸濁している金属性または金属酸化物性のナノ粒子が、容器1のうちのレーザ放射が容器1を通り抜ける体積区域を通り抜けることになる。担体流体中に懸濁している既に生成されたナノ粒子に対するレーザ放射の作用が、ナノ粒子の適切な変化、特にナノ粒子のサイズまたはサイズ分布の縮小をもたらし、したがって例えば好ましくはサイズ分布が均質なまたは狭いより小さい粒子をもたらすことが分かった。その際、第2のプロセス段階で、第1の前駆体物質10および/または第2の前駆体物質を、第2の流入口16を通して、流路として形成された容器1内に投入することが好ましく、その際、流出口3から流入口2への担体流体の戻りは停止されており、担体流体は流出口3を通って出ていき、好ましくはこれに続いて、生成された複合体から担体流体の少なくとも一部が分離される。
【0075】
図3は、複合体の製造方法において使用するための本発明による装置のさらなる好ましい実施形態を示しており、この形態では、ハウジング20の内部に、流路として形成された容器1が配置されている。レーザ8は、連続的なレーザビームまたはパルス状のレーザビームを生成し、このレーザビームは、制御可能なミラー9によって、容器1の壁のうちの透明な区域を通って金属体6に向けられている。ミラー9は、例えば制御ユニットによって制御される位置調節機構に取り付けられており、例えば走査機構(スキャナ)を構成している。流路として形成された容器1の第1の流入口2は、担体流体用の貯蔵容器(図示せず)に接続されており、この第1の流入口2に、例えばポンプ5で生じる加圧によって担体流体が流入する。担体流体は前駆体化合物と混合されていてもよく、または特に担体流体が第1の流入口2に流入する際に前駆体化合物を含んでいない場合は、前駆体化合物を第2の流入口16および/または第3の流入口18を介して供給してもよい。
【0076】
図2に関して説明したように、第1の流入口2を担体流体用の第1の貯蔵容器(図示せず)と接続し、第2の流入口16および第3の流入口18をそれぞれ割り当てられた第2または第3の貯蔵容器(図示せず)と接続する配管は、好ましくはそれぞれ制御可能な配量弁15を備えており、この配量弁15は、特に好ましくは制御ユニット21と接続されている。
【0077】
流路は、壁の一区域内に固定機構7を備えており、この固定機構上に金属体6が配置されている。固定機構7の向かい側の壁区域11はレーザ放射に対して透明である。
【0078】
概略的に図示したように、容器1はハウジング20によって構成することができ、このハウジングは、例えば金属体6を固定機構上で位置決めするために、少なくとも固定機構7が配置される区域内で分割することができる。
【実施例1】
【0079】
ナノ金粒子を含む検出用複合体の製造
金属性ナノ粒子を有する検出用複合体を製造するために、図1に基づく装置内で、金属体としての金箔を、配列番号3に対応する核酸配列を前駆体化合物として含む担体液としての水溶液中に入れた。この金箔を、レーザインパルス120fs、波長800nm、パルスごとの最大エネルギー400μJ、ビーム直径4mm、金箔とレンズの間隔約40mm、繰り返し率5kHzで照射した。金箔へのエネルギー入力は約100μJであった。水溶液は、水中に約3μMの核酸配列を金箔より約1cm高い層の高さで含んでいた。
【0080】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動による反応生成物の分析では、核酸配列は少ししか分解を示していない。透過型電子顕微鏡検査による反応生成物の分析では、複合体が平均値で約5.2〜5.5nmのサイズ分布を有することが明らかになった。複合体は凝集しておらず、ほぼ球状の形状を示しており、使用したパラメータでは、約20μg/minで金粒子が生成され、この金粒子は、さらなる化学的なカップリング試薬なしで核酸配列と安定した結合を形成した。
【0081】
レーザ放射による比較的高いエネルギー入力を伴うこの方法を、水溶液の移動なしまたはありで繰り返した場合、同じ複合体が生成され、その際、複合体の分析で、水溶液を移動させる場合に、分解した核酸配列を含む複合体の割合がより少ないことが示された。ここでは、担体流体の本発明による移動が、複合体の有意な分解を引き起こさずに、レーザ放射による金属体への高いエネルギー入力を可能にすることが分かる。
【0082】
この方法を、図3に対応する流路を備えた装置でも実施し、その際、担体液は再循環させなかった。第2および第3の流入口を閉じ、流出口をホースで捕集容器と接続した。第1の流入口2にポンピングされた担体液は、配列番号3に基づくオリゴヌクレオチドを前駆体化合物として含んでおり、1mL/minの流量で搬送された。金属体(金箔)と透明な壁区域の間の流路の体積区域は約2mLであった。レーザとして、放射出力が約200μJ〜300μJの超短パルスレーザを用いた。
【0083】
精製のために、担体液中の生成された複合体を、遠心により、ナノ粒子と結合しなかったオリゴヌクレオチドから分離し、かつ有機成分と結合しなかったナノ粒子から分離した。
【0084】
[実施例2]
新鮮な精液中のY染色体を含む精子を検出し性特異的に分別するための複合体の製造方法の使用
新鮮な状態で取得した雄牛の精液を通常の方法で希釈剤中で希釈し、例1の形態に基づいて製造された検出用複合体と共に3〜120分、好ましくは20℃〜40℃の温度で定温放置し、続いてUS 5125759またはDE 10 2005 044 530に基づき、フローサイトメータ内で、金ナノ粒子のためのそれぞれの励起波長(520nm)の光で照射した。この放出が測定された。
【0085】
例1に基づく検出用複合体によって特異的に標識されたY染色体を含む精子では、X染色体を含む精子に関して測定された信号に比べて変位したピークを有する蛍光信号が測定された。これは、この検出用複合体が、核酸配列とハイブリッド形成する場合には、励起波長で照射すると分析物に特異的な信号を生成するが、一方、検出用複合体の核酸配列とハイブリッド形成する配列を含まない細胞は、照射した場合に相違する信号を放出することを示している。
【0086】
例1に基づく検出用複合体によって染色体特異的に着色された精子において、Y染色体を含む精子では、検出される表面プラズモン共鳴の変化が確認され、一方、X染色体を含む精子は、変化が有意により少ない表面プラズモン共鳴を示した。
【符号の説明】
【0087】
1 容器
2 第1の流入口
3 流出口
4 担体流体
5 ポンプ機構
6 金属体
7 固定機構
8 レーザ
9 ミラー
10 第1の前駆体化合物
11 透明な区域
12 キュベット区域
13 第1のキュベット壁
14 第2のキュベット壁
15 配量弁、配量機構
16 第2の流入口
17 第2の貯蔵容器
18 第3の流入口
19 第3の貯蔵容器
20 ハウジング
21 制御ユニット
22 センサ
23 戻り配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器(1)内に担体流体(4)を準備し、
担体流体(4)中に金属または金属酸化物を有する金属体(6)を準備し、
レーザビームで金属体(6)の表面を照射することにより金属含有ナノ粒子を生成することによって、
金属含有ナノ粒子成分および有機成分を含む複合体を製造する方法であって、
担体流体(4)が、ポンプ機構(5)によって金属体(6)の表面上を移動させられ、
担体流体(4)が有機成分の前駆体化合物と混合される方法。
【請求項2】
レーザ放射が連続的なレーザ放射であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レーザ放射がCWレーザ(8)によって生成されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
レーザ放射が超短パルスレーザ放射であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
担体流体(4)が、金属体(6)の表面上を移動する前に前駆体化合物と混合されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
金属体(6)が一体型または粒子状の金属または金属酸化物であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
担体流体(4)が、金属体(6)の表面上を移動した後で有機成分の前駆体化合物と混合されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
容器(1)が流路として形成されており、金属体(6)が、容器(1)の第1の端部における流入口(2)と容器(1)の第2の端部における流出口(3)との間の流路の一区域内に配置されており、担体流体(4)が、流入口(2)から流出口(3)に移動することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
担体流体(4)が乱流として金属体(6)の表面上を移動することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
担体流体(4)が金属体(6)の表面上を移動する前または後に、担体流体に、少なくとも1種のさらなる有機成分の前駆体化合物が加えられることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
担体流体(4)が流出端(3)で捕集され、ナノ粒子と反応しなかった前駆体化合物および/または前駆体化合物と反応しなかったナノ粒子が、複合体から分離されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
担体流体の少なくとも一部が流出端(3)から流入端(2)に戻されることを特徴とする請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
容器(1)のキュベット区域(12)で担体流体(4)の少なくとも1つの特性を検出する際に測定信号が生成されることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記検出が、分光測定法による検出または動的光散乱であることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
担体流体の検出に基づく測定信号からレーザ照射のための制御信号が生成され、前記制御信号が、レーザ放射および/または金属体に対するレーザ照射の相対移動および/または担体流体中への前駆体化合物の添加を制御することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
第1の前駆体化合物が、少なくとも1種の反応基を有する、オリゴヌクレオチド、ペプチド、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、およびモノマーを含む群から選択され、前記反応基が、不飽和C-C結合、ジスルフィド基、チオール基、ケト基、カルボキシ基、ホスフィン基、アミン基、およびアミド基から選択されることを特徴とする請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
金属が金(Au)であり、第1の前駆体化合物が性染色体特異的なオリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
細胞内または細胞外の分析物を同定するための、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法の使用であって、第1の前駆体化合物が分析物に特異的であり、細胞表面における複合体の金属含有ナノ粒子成分の存在が検出される、使用。
【請求項19】
細胞が、細胞表面における複合体の金属含有ナノ粒子成分の検出に応じて、フローサイトメトリーにより画分に分別されることを特徴とする請求項18に記載の使用。
【請求項20】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法で使用するための装置であって、
担体流体(4)を収容するための容器(1)と、
容器(1)内の担体流体を移動させるための、容器(1)と接続された循環機構と、金属体(6)を固定するための、容器(1)内に配置された固定機構(7)とを備え、
前記容器が、担体流体(4)を供給するための流入口(2)および担体流体(4)を排出するための流出口(3)を備えており、
レーザ放射を生成し、固定機構(7)のうちの金属体(6)を配置すべき区域に向けるように構成されているレーザ(8)を備える装置。
【請求項21】
前記循環機構が、容器(1)に接続され、ポンプ機構を備えている循環配管であり、または容器(1)内に配置されたポンプ機構(5)であることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
容器(1)が流路として形成されており、前記流路がその第1の端部に流入口(2)を備え、反対側の第2の端部には流出口(3)を備えており、固定機構(7)が、流入口(2)と流出口(3)の間の流路の一区域内に配置されており、前記流路が、レーザ(8)によって生成されたレーザ放射に対して透明な区域(11)を有しており、前記区域(11)を通ってレーザ放射が向けられることを特徴とする請求項20または21に記載の装置。
【請求項23】
前記流路が、第1のキュベット壁(13)および離隔した第2のキュベット壁(14)を備えたキュベット区域(12)を有しており、第1のキュベット壁(13)に、担体流体(4)および/または複合体の少なくとも1つの特性を測定するためのセンサ(22)が配置されていることを特徴とする請求項20から22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
第1のキュベット壁(13)が光学的に透明であり、センサ(22)が測光器であることを特徴とする請求項23に記載の装置。
【請求項25】
第2のキュベット壁(14)が光学的に透明であり、放射源が、第2のキュベット壁(14)に配置され、第1のキュベット壁(13)に向けられていることを特徴とする請求項23または24に記載の装置。
【請求項26】
第2のキュベット壁(14)がミラーであることを特徴とする請求項23または24に記載の装置。
【請求項27】
流出口(3)に、弁を備えた戻り配管(23)が接続されており、前記戻り配管が流入口(2)とつながっていることを特徴とする請求項18から23のいずれか一項に記載の装置。
【請求項28】
レーザ(8)が、連続的なレーザ放射を生成するように構成されていることを特徴とする請求項20から27のいずれか一項に記載の装置。
【請求項29】
容器(1)が、固定機構(7)と流出口(3)の間の区域内に第2の流入口(16)を備えており、前記第2の流入口が、第1および/または第2の前駆体化合物を収容するための第2の貯蔵容器(17)と、間に配量機構(15)を連結して接続されており、かつ/または第3の流入口(18)を、流入口(2)と固定機構(7)の間の区域内に備えており、前記第3の流入口が、第1または第2の前駆体化合物を収容するための第3の貯蔵容器(19)と、間に配量機構(15)を連結して接続されていることを特徴とする請求項20から28のいずれか一項に記載の装置。
【請求項30】
センサ(22)が、測定信号を伝達するために制御ユニット(21)と接続されており、前記制御ユニットは、センサ(22)から受信した信号を処理し、かつ配量機構(15)、レーザ(8)、および/またはミラー(9)の位置、および/または戻り配管(23)内の弁(15)を制御するための制御信号を生成するように構成されており、前記制御信号を伝達するために、配量機構(15)、レーザ(8)、および/またはミラー(9)、および/または戻り配管(23)内の弁(15)と接続されていることを特徴とする請求項20から29のいずれか一項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−528054(P2011−528054A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517924(P2011−517924)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/059116
【国際公開番号】WO2010/007117
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(511013382)
【Fターム(参考)】