説明

金属微粒子の製造方法

【課題】 保護コロイドの存在下、金属化合物を媒液中で還元して、保護コロイドを粒子表面に有する金属微粒子を生成させると、保護コロイドの存在により生成した金属微粒子が高度に分散しているため、濾過し難いという問題を解決し、金属微粒子を簡便に回収する方法を提供する。
【解決手段】 保護コロイドの存在下、金属化合物を媒液中で還元して得られた分散液に、保護コロイドを分解あるいは溶解する保護コロイド除去剤を添加し保護コロイドを除去して金属微粒子を凝集させ、次いで、加圧濾過機、真空濾過機、吸引濾過機等を用いて濾過する。例えば保護コロイドとしてゼラチン等のタンパク質を用いた場合、保護コロイド除去剤としてタンパク質分解酵素を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子の製造方法に関し、特に積層セラミックスコンデンサーや、プリント配線基板に形成される電極を製造する際に好適に用いられる金属微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は電気伝導性、熱伝導性などに優れた特性を示し、また、金属光沢を有するなど独特の性質を有することから種々の用途に利用されている。例えば、銀、パラジウム、ニッケル、銅などの微粒子は、良好な電気伝導性を有する材料であり、プリント配線板の回路等の電極部材、各種電気的接点部材などの電気的導通を確保するための材料として幅広く用いられている。特に、銅、ニッケルは廉価な材料であることから、近年、積層セラミックスコンデンサーの内部電極にも用いられている。
【0003】
このような金属微粒子の製造方法としては、アラビアゴム等の保護コロイドを含む水性媒液中で、ヒドラジン系還元剤により酸化銅を還元して銅微粒子を得る方法(特許文献1参照)、貴金属化合物を水と低級アルコールの混合媒液に溶解した第1の溶液と、還元剤とポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン等の保護コロイドとを混合した第2の溶液とを混合し、還元反応を行い、金、銀、白金、パラジウム等の貴金属微粒子を得る方法(特許文献2)が知られている。また、本出願人は、銅酸化物を硫黄化合物とゼラチン等の保護コロイドの存在下で還元して銅微粒子を得る方法(特許文献3参照)を提案している。
【0004】
【特許文献1】特公昭61−55562号公報
【特許文献2】特開2004−43892号公報
【特許文献3】特開2004−315853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1〜3記載の方法では、保護コロイドの存在下、金属化合物を媒液中で還元して、保護コロイドを粒子表面に有する金属微粒子を生成させている。この理由は、生成する金属微粒子の粒子径が小さい故に表面エネルギーが大きいので、金属微粒子を凝集させずに単分散の状態で得るには、保護コロイドを分散安定化剤として用い、粒子表面に保護コロイドを被着(または吸着)させることが必要不可欠であるためである。しかしながら、保護コロイドの存在により、生成した金属微粒子が高度に分散しているため凝集剤を添加したとしても、還元反応時に使用した金属化合物、還元剤の残分、保護コロイドのほかpH調整剤などの添加剤に由来する陰イオンや陽イオンが多量に存在する分散液から金属微粒子を固液分離し難く、大量生産に不向きな限外濾過を行わなければならないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、保護コロイドと金属微粒子を含有した分散液に保護コロイド除去剤を添加して保護コロイドを除去すると、金属微粒子が凝集し易くなって、通常の手段でも濾過できること、金属粒子生成後に保護コロイドを除去して金属微粒子を凝集させてもその後に容易に一次粒子にまで再分散できること、しかも、濾過漏れも少なく金属微粒子の収率が向上し、濾過・洗浄時間を短縮できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、保護コロイドと金属微粒子を含有した分散液に保護コロイド除去剤を添加して金属微粒子を凝集させ、次いで、分別することを特徴とする金属微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、金属微粒子を含有する分散液を工業的に有利に濾過して金属微粒子を固液分離することができる。濾過して得られた金属微粒子の固形物は十分洗浄して不純物を取り除くことができ、純度の高い金属微粒子固形物やそれを乾燥して金属微粒子乾燥物を得ることができる。このような金属微粒子固形物や金属微粒子乾燥物は保護コロイドの含有量が少なくても凝集粒子が生じ難く、水や有機溶媒に再度分散し易いために、金属ペースト・塗料・インキ等の流動性組成物にして、例えば、積層セラミックスコンデンサーの内部電極、プリント配線基板の回路、その他の電極等に用いると、薄膜で高密度の電極等が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、保護コロイドと金属微粒子を含有した分散液に保護コロイド除去剤を添加して金属微粒子を凝集させ、次いで、分別する。本発明において、金属微粒子を構成する金属種には特に制限はなく、遷移金属元素、典型金属元素などを対象とすることができ、特に、周期表VIII族(鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)、IB族(銅、銀、金)であれば、多くの用途に用いることができる。その中でも、金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケルは導電性が優れているので好ましく、銅、銀、ニッケルがより好ましく、廉価な銅が特に好ましい。金属種はこれから1種を選択して用いても、2種以上を合金にしたり、積層するなどして組み合わせて用いても良い。また、金属微粒子はどのような大きさのものでも本発明を適用できるが、微細なものほど濾過がし難いために本発明の効果が大きく、例えば、一次平均粒子径が2.0μm以下の範囲が好ましく適用され、より好ましくは0.005〜1.0μmの範囲であり、更に好ましくは0.01〜0.75μmの範囲である。前記の一次平均粒子径は電子顕微鏡法により測定した累積50%径で表す。
【0010】
保護コロイドと金属微粒子を含有した分散液は、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、保護コロイドの存在下、金属化合物と還元剤とを媒液中で反応させる方法が挙げられる。また、保護コロイド及び錯化剤の存在下で、同様に媒液中で金属化合物と還元剤とを反応させると、粒子形状が整い、凝集粒子を含まない微細な金属微粒子が、いっそう得られ易くなるので好ましい。それぞれの原材料の添加順序は、金属化合物と還元剤との反応時に、保護コロイド、あるいは保護コロイドと錯化剤が存在していれば、特に制限はない。例えば、(1)保護コロイドを含む媒液に、金属化合物と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(2)保護コロイド、金属化合物を含む媒液に、還元剤を添加する方法、等が挙げられる。また、錯化剤を保護コロイドと併用するのであれば、例えば、(3)保護コロイド及び錯化剤を含む媒液に、金属化合物と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(4)保護コロイド、錯化剤、金属化合物を含む媒液に、還元剤を添加する方法、(5)保護コロイド、金属化合物を含む媒液に、錯化剤と還元剤とを同時並行的に添加する方法、(6)保護コロイド、金属化合物を含む媒液に、錯化剤と還元剤の混合液を添加する方法、等も挙げられる。中でも(5)、(6)の方法が反応を制御し易いので好ましく、(6)の方法が特に好ましい。尚、「同時並行的添加」とは、反応期間中において金属化合物と還元剤あるいは錯化剤と還元剤とをそれぞれ別々に同時期に添加する方法をいい、両者を反応期間中継続して添加する他に、一方あるいは両者を間欠的に添加することも含む。
【0011】
「金属化合物」としては、前記の金、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケル等の金属の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物、酸化物等を用いることができる。金属化合物を溶解する媒液には、例えば水系またはアルコール等の有機溶媒系媒液を、好ましくは水系媒液を用いる。還元反応温度は、10℃〜用いた媒液の沸点の範囲であれば、反応が進み易いので好ましく、40〜95℃の範囲であれば更に好ましい。反応液のpHを酸またはアルカリで3〜12の範囲に予め調整すると、金属化合物の沈降を防ぎ、均一に反応させることができるので好ましい。反応時間は、還元剤等の原材料の添加時間などで制御して設定することができ、例えば、10分〜6時間程度が適当である。
【0012】
「還元剤」は公知のものを用いることができ、例えば、ヒドラジンや、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、抱水ヒドラジン等のヒドラジン化合物等のヒドラジン系還元剤、水素化ホウ素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、次亜硝酸ナトリウム、亜リン酸及び亜リン酸ナトリウム等のその塩、次亜リン酸及び次亜リン酸ナトリウム等のその塩、アルデヒド類、アルコール類、アミン類、糖類等が挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。特に、ヒドラジン系還元剤は還元力が強く好ましい。還元剤の使用量は、金属化合物から金属微粒子を生成できる量であれば適宜設定することができ、金属化合物中に含まれる金属1モルに対し0.2〜5モルの範囲にあるのが好ましい。
【0013】
「保護コロイド」は、生成した金属微粒子の分散安定化剤として作用するものである。本発明では保護コロイドとして公知のものを用いることができ、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等のタンパク質系、デンプン、デキストリン、寒天、アルギン酸ソーダ等の天然高分子や、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のビニル系、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸アンモニウム等のアクリル酸系、ポリエチレングリコール等の合成高分子等が挙げられ、これらを1種または2種以上を用いても良い。高分子の保護コロイドは分散安定化の効果が高いので、これを用いるのが好ましく、水系媒液中で反応させる場合、水溶性のものを用いるのが好ましく、特にゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールが好ましい。保護コロイドの使用量は適宜設定でき、金属化合物100重量部に対し1〜100重量部の範囲であると、生成した金属微粒子が分散安定化し易いので好ましい。
【0014】
「錯化剤」は、金属化合物から金属イオンが溶出するか、または金属化合物が還元されて金属が生成する過程で作用すると考えられ、これが有する配位子のドナー原子と金属イオンまたは金属と結合して金属錯体化合物を形成し得る化合物を言い、ドナー原子としては、例えば、窒素、酸素、硫黄等が挙げられる。具体的には、
(1)窒素がドナー原子である錯化剤としては、(a)アミン類(例えば、ブチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、エチレンジアミン等の1級アミン類、ジブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、及び、ピペリジン、ピロリジン等のイミン類等の2級アミン類、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等の3級アミン類、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンの1分子内に1〜3級アミンを2種以上有するもの等)、(b)窒素含有複素環式化合物(例えば、イミダゾール、ピリジン、ビピリジン等)、(c)ニトリル類(例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等)及びシアン化合物、(d)アンモニア及びアンモニウム化合物(例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等)、(e)オキシム類等が挙げられる。
(2)酸素がドナー原子である錯化剤としては、(a)カルボン酸類(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸等のオキシカルボン酸類、酢酸、ギ酸等のモノカルボン酸類、シュウ酸、マロン酸等のジカルボン酸類、安息香酸等の芳香族カルボン酸類等)、(b)ケトン類(例えば、アセトン等のモノケトン類、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン等のジケトン類等)、(c)アルデヒド類、(d)アルコール類(1価アルコール類、グリコール類、グリセリン類等)、(e)キノン類、(f)エーテル類、(g)リン酸(正リン酸)及びリン酸系化合物(例えば、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、亜リン酸、次亜リン酸等)、(h)スルホン酸またはスルホン酸系化合物等が挙げられる。
(3)硫黄がドナー原子である錯化剤としては、(a)脂肪族チオール類(例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、アリルメルカプタン、ジメチルメルカプタン等)、(b)脂環式チオール類(シクロヘキシルチオール等)、(c)芳香族チオール類(チオフェノール等)、(d)チオケトン類、(e)チオエーテル類、(f)ポリチオール類、(g)チオ炭酸類(トリチオ炭酸類)、 (h)硫黄含有複素環式化合物(例えば、ジチオール、チオフェン、チオピラン等)、(i)チオシアナート類及びイソチオシアナート類、(j)無機硫黄化合物(例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素等)等が挙げられる。
(4)2種以上のドナー原子を有する錯化剤としては、(a)アミノ酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、グリシン、アラニン等の中性アミノ酸類、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸類、アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸類)、(b)アミノポリカルボン酸類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、エチレンジアミンジ酢酸(EDDA)、エチレングリコールジエチルエーテルジアミンテトラ酢酸(GEDA)等)、(c)アルカノールアミン類(ドナー原子が窒素及び酸素:例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等)、(d)ニトロソ化合物及びニトロシル化合物(ドナー原子が窒素及び酸素)、(e)メルカプトカルボン酸類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、チオジプロピオン酸、メルカプトコハク酸、ジメルカプトコハク酸、チオ酢酸、チオジグリコール酸等)、(f)チオグリコール類(ドナーが硫黄及び酸素:例えば、メルカプトエタノール、チオジエチレングリコール等)、(g)チオン酸類(ドナーが硫黄及び酸素)、(h)チオ炭酸類(ドナー原子が硫黄及び酸素:例えば、モノチオ炭酸、ジチオ炭酸、チオン炭酸)、(i)アミノチオール類(ドナーが硫黄及び窒素:アミノエチルメルカプタン、チオジエチルアミン等)、(j)チオアミド類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えば、チオホルムアミド等)、(k)チオ尿素類(ドナー原子が硫黄及び窒素)、(l)チアゾール類(ドナー原子が硫黄及び窒素:例えばチアゾール、ベンゾチアゾール等)、(m)含硫黄アミノ酸類(ドナーが硫黄、窒素及び酸素:システイン、メチオニン等)等が挙げられる。
(5)上記の化合物の塩や誘導体としては、例えば、クエン酸トリナトリウム、酒石酸ナトリウム・カリウム、次亜リン酸ナトリウム、エチレンジアミンテトラ酢酸ジナトリウム等のそれらのアルカリ金属塩や、カルボン酸、リン酸、スルホン酸等のエステル等が挙げられる。
このような錯化剤のうち、少なくとも1種を用いることができる。錯化剤の使用量は適宜設定でき、金属化合物1000重量部に対し錯化剤を0.01〜200重量部の範囲に設定すると本発明の効果が得られ易いので好ましい。
【0015】
銅微粒子を以上に述べた方法で得るのであれば、銅化合物には銅酸化物を用いると、還元反応がいっそう制御し易いので好ましい。「銅酸化物」は、通常の銅の酸化物の他に、銅の含水酸化物、銅の水酸化物を包含する意味で用いており、銅の酸化物としては亜酸化銅(または酸化第一銅)、酸化銅(または酸化第二銅)等を用いることができる。酸化物の製造方法には特に制限はなく、例えば、電解法、化成法、加熱酸化法、熱分解法、間接湿式法等で工業的に製造されたものを用いることができ、銅酸化物の粒子径が、生成する銅微粒子の粒子径に関与することが考えられるため、銅酸化物の粒子径を適宜設定して、目標とする粒子径を有する銅微粒子が得られるようにすることもできる。
【0016】
銅酸化物を用いて銅微粒子を得る場合、保護コロイドの使用量は、銅酸化物100重量部に対し1〜100重量部の範囲であると、生成した銅微粒子が分散安定化し易いので好ましく、2〜50重量部の範囲が更に好ましい。保護コロイドと錯化剤を併用するのであれば、銅酸化物1000重量部に対し錯化剤を0.01〜200重量部の範囲に設定すると、本発明の効果が得られ易いので好ましく、0.1〜200重量部の範囲がより好ましく、0.5〜150重量部の範囲が更に好ましい。還元剤の使用量は、銅酸化物から銅微粒子を生成できる量であれば適宜設定することができ、銅酸化物中に含まれる銅1モルに対し0.2〜5モルの範囲にあるのが好ましい。還元剤が前記範囲より少ないと反応が進み難く、銅微粒子が十分に生成せず、前記範囲より多いと反応が進みすぎ、所望の銅微粒子が得られ難いため好ましくない。更に好ましい還元剤の使用量は、0.3〜2モルの範囲である。
【0017】
次に、前記のようにして製造した保護コロイドと金属微粒子を含有した分散液に保護コロイド除去剤を添加して金属微粒子を凝集させ、次いで、分別する。「保護コロイド除去剤」は、保護コロイドを分解または溶解して保護コロイドの作用を抑制する化合物であり、分散液から保護コロイドを完全に除去できなくても一部でも除去できるのであれば、本発明の効果が得られる。保護コロイド除去剤の種類は、用いる保護コロイドに応じて適宜選択する。具体的には、タンパク質系の保護コロイドに対しては、セリンプロテアーゼ(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、チオールプロテアーゼ(例えば、パパイン等)、酸性プロテアーゼ(例えば、ペプシン等)、金属プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素を、デンプン系に対しては、アミラーゼ、マルターゼ等のデンプン分解酵素を、セルロース系にはセルラーゼ、セロビアーゼ等のセルロース分解酵素を用いることができる。ビニル系、アクリル酸系、ポリエチレングリコール等の保護コロイドには、ホルムアミド、グリセリン、グリコール等の有機溶剤や、酸、アルカリ等を用いることができる。保護コロイド除去剤の添加量は金属微粒子を凝集させ分別できる程度に保護コロイドを除去できる量であれば良く、その種類によって異なるが、タンパク質分解酵素であれば、タンパク質系保護コロイド1000重量部に対し0.001〜1000重量部の範囲が好ましく、0.01〜200重量部がより好ましく、0.01〜100重量部が更に好ましい。保護コロイド除去剤を添加する際の分散液の温度は適宜設定することができ、還元反応温度を保持した状態でも良く、あるいは、10℃〜用いた媒液の沸点の範囲であれば、保護コロイドの除去が進み易いので好ましく、40〜95℃の範囲であれば更に好ましい。保護コロイド除去剤を添加した後、その状態を適宜保持すれば保護コロイドを分解することができ、例えば10分〜10時間程度が適当である。保護コロイドを除去して金属微粒子を凝集させた後、通常の方法で分別する。分別手段は特に制限はなく、重力濾過、加圧濾過、真空濾過、吸引濾過、遠心濾過、自然沈降などの手段をとり得るが、工業的には加圧濾過、真空濾過、吸引濾過が好ましく、脱水能力が高く大量に処理できるので、フィルタープレス、ロールプレス等の濾過機を用いるのが好ましい。
【0018】
保護コロイド除去剤を添加した後、更に凝集剤を添加すると、収率がよりいっそう向上するので好ましい。凝集剤としては公知のものを用いることができ、具体的には、アニオン系凝集剤(例えば、ポリアクリルアミドの部分加水分解生成物、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合体、アルギン酸ソーダ等)、カチオン系凝集剤(例えば、ポリアクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ポリアミジン、キトサン等)、両性凝集剤(例えば、アクリルアミド・ジメチルアミノエチルアクリレート・アクリル酸共重合体等)等が挙げられる。凝集剤の添加量は必要に応じた量を適宜設定することができ、金属微粒子1000重量部に対し、0.5〜100重量部の範囲が好ましく、1〜50重量部の範囲が更に好ましい。
【0019】
あるいは、凝集剤の使用に替えて、保護コロイド除去剤を添加後、酸を用いて分散液のpHを6以下の範囲に調整しても、同様の収率の改良効果が得られる。pHが3より低いと、金属微粒子を構成する金属種によっては、例えば、銅などは腐食したり、溶解するので、3〜6の範囲が好ましいpH領域であり、4〜6の範囲とすると酸の使用量を減らせるので更に好ましい。
【0020】
金属微粒子を固液分離した後、得られた金属微粒子の固形物を例えば水系またはアルコール等の有機溶媒系媒液に、好ましくは水系媒液に分散して用いることができる。あるいは、金属微粒子の固形物を通常の方法により乾燥することもできる。銅微粒子のように酸化され易いものであれば、酸化を抑制するために、乾燥は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましい。乾燥後は、必要に応じて粉砕を行っても良い。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0022】
実施例1〜3
工業用酸化銅(N−120:エヌシーテック社製)24g、保護コロイドとしてゼラチン9.6gを300ミリリットルの純水に添加、混合し、15%のアンモニア水を用いて混合液のpHを11に調整した後、20分かけて室温から90℃まで昇温した。昇温後、撹拌しながら、錯化剤(用いた錯化剤の種類及び添加量を表1に示す)の溶液と、80%のヒドラジン一水和物28gとを150ミリリットルの純水に混合した液を添加し、1時間かけて酸化銅と反応させ、銅微粒子を生成させた。銅微粒子の生成後、保護コロイド除去剤としてセリンプロテアーゼ(プロテナーゼK:ワシントン・バイオ・ケミカル社製)5ミリリットルを添加して1時間保持した。セリンプロテアーゼの添加量は、ゼラチン1000重量部に対し100重量部であった。
【0023】
実施例4〜6
実施例1〜3において、タンパク質分解酵素を添加して1時間保持し、更に凝集剤としてポリアミジン系高分子凝集剤(SC−700:ハイモ社製)を添加した。ポリアミジン系高分子凝集剤の添加量は金属微粒子1000重量部に対して30重量部であった。
【0024】
実施例7〜9
実施例1〜3において、タンパク質分解酵素を添加して1時間保持した後、硫酸を用いてpHを5に調整した。
【0025】
比較例1〜3
実施例1〜3において、タンパク質分解酵素を添加しなかったこと以外は実施例1〜3と同じ操作を行った。
【0026】
評価1:収率、濾過・洗浄時間の評価
実施例1〜9、比較例1〜3について、ブフナーロートを用いて吸引濾過により固液分離し、濾過中に純水で洗浄を行って、濾液比導電率が100μS/cm以下になるまでに要する時間を測定した。また、回収した銅微粒子の重量を測定し、収率((銅微粒子の回収量/酸化銅から算出した金属銅換算の仕込み量)×100)を算出した。結果を表1に示す。保護コロイド除去剤の使用、及び、保護コロイド除去剤と凝集剤またはpH調整との併用により、収率及び濾過洗浄性が向上していることが判る。
【0027】
【表1】

【0028】
評価2:一次粒子及び二次粒子の平均粒子径の測定
実施例1〜9、比較例1〜3において、固液分離後、窒素ガスの雰囲気下で60℃の温度で10時間かけて乾燥し、銅微粒子を得た。それぞれを、試料A〜Lとする。試料A〜Lの一次粒子の平均粒子径(D)を、電子顕微鏡法により測定し、二次粒子の平均粒子径(d)を、動的光散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックUPA型:日機装社製)を用いて測定し、d/Dを算出した。二次粒子の測定には、試料を超音波分散機を用いて水中に十分に分散させ、レーザーの信号強度が0.6〜0.8になるように濃度調整した水系スラリーを用いた。結果を表2に示す。d/Dが1に近似するほど分散性に優れ、凝集の程度が低いことを示しており、本発明の製造方法により、保護コロイドを除去しても、凝集粒子をほとんど含まない銅微粒子が得られることが判る。
【0029】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により得られる金属微粒子、特に銅微粒子は、電子機器の電極材料等として有用であり、金属ペースト・塗料・インキ等の流動性組成物にして用いると、積層セラミックスコンデンサーの内部電極、プリント配線基板の回路、その他の電極等に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護コロイドと金属微粒子を含有した分散液に保護コロイド除去剤を添加して金属微粒子を凝集させ、次いで、分別することを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
保護コロイドとしてタンパク質系保護剤を用い、保護コロイド除去剤としてタンパク質分解酵素を用いることを特徴とする請求項1記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
タンパク質系保護コロイド1000重量部に対し0.001〜1000重量部の範囲のタンパク質分解酵素を用いることを特徴とする請求項2記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項4】
保護コロイド除去剤添加後に、更に凝集剤を添加して金属微粒子を凝集させることを特徴とする請求項1記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項5】
保護コロイド除去剤添加後に、更に分散液のpHを6以下に調整して金属微粒子を凝集させることを特徴とする請求項1記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項6】
保護コロイドの存在下、金属化合物と還元剤とを媒液中で反応させて保護コロイドと金属微粒子を含有した分散液を製造することを特徴とする請求項1記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項7】
保護コロイド及び錯化剤の存在下、金属化合物と還元剤との反応を行うことを特徴とする請求項6記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項8】
金属化合物が銅酸化物であり、得られる金属微粒子が銅微粒子であることを特徴とする請求項6または7のいずれか一項に記載の金属微粒子の製造方法。