説明

金属捕集性・担持性に優れた繊維

【課題】 安価でかつ高い金属捕集性能を有し、さらに環境問題にも配慮した金属捕集繊維を提供することを目的とする。
【解決手段】 塩基性基を側鎖に持つことを特徴とする高分子(A)と、親水性基を持つことを特徴とする高分子(B)が混合されてなる繊維状組成物であって、かつ、その直径が0.05μmから100μmであることを特徴とする繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中、廃液中、またはある限定された領域の液中に含まれる極めて微量の金属であっても、捕集・回収・担持することが可能であり、更に好ましくは、捕集・担持した金属の放出を容易にコントロールできるため、リユースが容易である繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のコンピューター産業の発達は目覚しいものがあり、国内でも200箇所以上の半導体工場が稼動している。半導体製品の内部には金などの貴金属を含む部材が多数使用されており、これらの工場においても多量に消費されている。その結果、半導体工場から排出される廃液中には回収しきれなかった低濃度の貴金属イオンが含まれており、結果的には廃棄されている。また、半導体工場のみならず、各種メッキ工場の排水中にも未回収の貴金属が含まれており、貴重な資源が無為に廃棄されているのが現状である。
【0003】
このような廃液中に含まれる微量貴金属を回収する手段として星型ポリマーと親水性ポリマーをブレンドした繊維が知られている(特許文献1)。しかしながら、星型ポリマーは極めて高価であり、より安価で高性能な金属捕集繊維が望まれていた。
【特許文献1】特開2006−70094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は上記の事情に着目してなされたものであり、その目的は、安価でかつ、高度な金属捕集性能を有し、さらにこれを放出してリユースすることが可能であり、環境問題に対しても有用な繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、(1)塩基性基を側鎖に持つことを特徴とする高分子(A)と、親水性基を持つことを特徴とする高分子(B)が混合されてなる繊維状組成物からなり、直径が0.05μm〜100μmであることを特徴とする繊維、(2)前記高分子(A)が、ポリアリルアミンであることを特徴とする(2)に記載の繊維、(3)前記高分子(B)が、ポリビニルアルコールもしくはセルロースであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の繊維、である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の繊維によれば、例えば排水中の極微量の貴金属を捕集・担持することが可能である上、再放出することも容易におこなうことができ、環境問題に対しても有用であるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の繊維は、塩基性基を側鎖に持つことを特徴とする高分子(A)と、親水性基を持つことを特徴とする高分子(B)が混合されてなる繊維状組成物からなることが好ましい。
高分子(A)と高分子(B)両者を含むことにより、極微量の金属であっても、捕集することが可能となり、さらにリユース性も付与することができるためである。高分子(A)と高分子(B)を混合することにより、捕集性能が向上することにつき、詳細は不明であるが、高分子(A)の塩基性基と高分子(B)の親水性基の相互作用が関与していると推定される。高分子(A)および高分子(B)を単独で使用するよりも、混合した方が高い金属捕集性が発現することより、上記の相互作用の存在が示唆される。さらに、伸張変形によって繊維の断面直径を低下させることは、体積に対する表面積の割合(比表面積)を向上させるため、金属捕集性を向上させる。また、塩基性基を有する高分子(A)が水溶性であった場合、高分子(A)単独での繊維化は困難であることに加え、水系廃液での本繊維の使用時には、系中へ高分子(A)が溶出する問題が生ずる。水に不溶な高分子(B)とのブレンドによって安定に高分子(A)を保持し、水系への高分子(A)の溶出を防ぐことができる。さらに、紡糸工程で導入される分子配向が高分子(A)の溶脱を抑制する効果を発揮する。すなわち、紡糸工程において、ノズル内では数百から数千s-1のせん断速度の流動が、紡糸原液に印加される。さらには、ノズル吐出後には伸張変形が加えられる。この紡糸工程におけるせん断流動、伸張変形は、高分子(A)および高分子(B)の分子セグメントの配向を誘起する。分子セグメントの配向は、分子運動の拘束、結晶化などを誘起し、高分子(A)の溶脱を抑制する。従って、紡糸工程により伸張変形を溶液に施し、直径が0.05μm〜100μmの細い繊維を得ることは、比表面積向上および高分子(A)の溶脱抑制の両方の効果によって金属捕集性を高める効果を発揮する。本発明において、金属捕集繊維とは、液中から本発明の繊維状組成物へ目的物質を捕集し、または既に目的物質が取り込まれた繊維状組成物から液中へ目的物質を放出するための材料をいう。
【0008】
本発明において使用可能な高分子(A)は、側鎖に塩基性基を含有しているという条件を満たすかぎりにおいて1種類の高分子に限定するものではないが、特にポリアリルアミンを使用することが望まれる。
【0009】
本発明において使用可能な高分子(B)は、親水性基を側鎖に含有し、水中に浸漬させた際に形状を保持し続けることが可能なポリマーであって、ポリマー中に水分を包接することのできる任意のポリマーを用い得る。このような親水性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシドなどのポリアルキレンオキシド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−n−ヒドロキシビニルアルコール、ポリ−n−ヒドロキシアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアセタール等を挙げることができる。なかでも、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド及びポリアルキレンオキシドよりなる群から選択されるものが、水中での安定性、含水性、ポリマーの加工性の点から好ましい。
また、セルロース、及びメチルセルロース、アセチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ジエチルアミノエチルセルロース等のセルロース誘導体、アルキルデンプン、ヒドロキシアルキルデンプン、ヒドロキシアルキルアルキルデンプン、デンプンエステル、寒天、アルギン酸、カラギーナン等の多糖類などに例示される天然ポリマー由来の親水性ポリマーも用い得る。特に、加工性、経済性から望ましいのはポリビニルアルコールおよびセルロースである。
【0010】
このような親水性ポリマーは、共重合体であってもよく、例えば共重合成分や共重合割合を選択することによって、ポリマーの親水性をコントロールでき、また、多種の溶媒との親和性を容易に付与し得る点で有利である。
適当な共重合体成分としては、例えばポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0011】
上記親水性ポリマーは、架橋体であってもよく、例えば架橋密度を変化させることによって、ポリマーの力学特性を飛躍的に向上させることができ、また、ポリマーの親水性をコントロールし得る点で有利である。このような架橋体を形成するためには、例えば、架橋剤の添加、放射線の照射等の方法を採用し得る。
【0012】
本発明において、上記の高分子(A)は、好ましくは高分子(B)を含むマトリックス中に分散または溶解された構造となるようにブレンドされる。ここで、高分子(B)を含むマトリックス中に高分子(A)を分散または溶解させる方法は特に限定されないが、溶融ブレンド法、水系及び/又は有機系の溶剤を用いてブレンドする溶液ブレンド法などを採用することができる。
ここで溶融ブレンド法とは、ある温度範囲で溶融または軟化し得る二種以上のポリマーを、溶融状態で機械的に混練することによりブレンド物を得る方法をいう。また、溶液ブレンド法とは、二種以上のポリマーを一種または二種以上の溶剤(混合物)中に溶解(溶液状態、エマルジョン状態の両方を含む)させ、若しくは、該溶剤(混合物)中で機械的に分散させることによりブレンド物を得る方法をいう。
また、分散または溶解された構造とは、高分子(A)が1μm以下、好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは5nm〜0.1μmの大きさで存在している状態を意味する。
【0013】
ブレンド方法は、用いる高分子(A)及び高分子(B)の性質に応じて適宜選択することができる。例えば、両方のポリマーが同一温度範囲で溶融体を成形する場合には溶融ブレンド法を採用することができ、両方のポリマーが同一溶剤に分散または溶解する場合には溶液ブレンド法を採用し得る。各ポリマーが異なる溶剤に分散または溶解する場合であっても、これらの溶剤が相互に親和性を有する場合にはブレンドが可能である。また、同一温度範囲で、一方が溶融体、他方が溶剤に分散または溶解した状態を形成する場合にも、これらを混合することによりブレンド物を得ることができる。ブレンドを行う際に各ポリマー相への相分離が生じる場合には、適当な相溶化剤を添加することにより、均一なブレンド物を得ることができる。
溶液ブレンド法を採用する場合、溶剤としては、水、またはエタノール、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、その他の有機溶剤を、単独又は混合物として使用し得る。このような溶剤(混合物)は、高温の状態で使用してもよい。
【0014】
ブレンド後の混合物を、直径が0.03〜0.5mmの細孔より押出し、速度1〜6000 m/minで回転するロールによって延伸することにより繊維状組成物とする。溶融ブレンドで得た混合物の場合には、細孔より吐出後に高分子(A)および高分子(B)のガラス転移温度もしくは結晶融点以下の温度に冷却することにより固化させることができる。また、溶液ブレンドで得た混合物の場合には、細孔から吐出後に、気流を繊維に当てることによる溶媒の気化や、溶媒とは相溶するが高分子(A)および高分子(B)には混合しない貧溶媒に浸漬する方法などによって、溶媒を除去することにより固化させる。
【0015】
本発明の繊維が捕集し得る金属としては、例えばニッケル、クロム、金、白金、銀、銅、バナジウム、コバルト、鉛、亜鉛、水銀、カドミウム等が挙げられる。
捕集される目的物質を含み、または目的物質が放出される溶液としては、例えば水およびアルコール類、アセトン、アセニトリル等から選択される1種または2種以上の混合溶液が挙げられる。
【0016】
本発明の繊維は、不織布や織物とし、フィルターとして用いる形態が好ましい。また、種々のイオンを担持できるため、例えばアミノ酸等を担持し、これを衣料用途として用いるのも好ましい形態の一つである。
【実施例】
【0017】
以下に実例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例によって制限を受けるものではなく、前後記の主旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に含まれる。
【0018】
(金属捕集性評価)
金メッキ液(エヌ・イー・ケムキャット株式会社製ECF−88K建浴液。亜硫酸金ナトリウム 約3%を含有)40mlに金属捕集繊維100mgを室温で5時間浸漬した。その後、金属捕集繊維を金メッキ液より取り出し、金属捕集繊維を浸漬する前後の金メッキ液中の金濃度を、ICP(HORIBA ウルティマ2)を用いて測定し比較した。金属捕集繊維の金属捕集能は以下の式より求めた。
A: 金メッキ液中の金の初期濃度(単位mg/kg)*金メッキ液重量(単位kg)
B: 金属捕集繊維浸漬後の金メッキ液の金の濃度(単位mg/kg)*金メッキ液重量(金属捕集繊維除去後。単位kg)
金属捕集繊維の金属捕集能(1gの金属捕集繊維が捕集可能な金の重量。単位mg/g)=(A − B)/金属捕集繊維質量(単位g)
【0019】
(繊維直径評価)
乾燥状態の金属捕集繊維から任意の場所より合計30本の単繊維をサンプリングし、長さを約10 mmにカットした後に流動パラフィンとともに光学顕微鏡用スライドガラスとカバーガラスの間に挟むことでプレパラートを作成した。10 mmにカットした繊維のほぼ中央部を光学顕微鏡で直径を計測し、30本の平均値を繊維直径とした。
【0020】
以下、実施例をもって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
高分子(A)としてポリアリルアミン(日東紡社製:20%水溶液)を、高分子(B)としてポリビニルアルコール(アルドリッチ製。重合度3000−3500、ケン化度98−99mol%)を用いた。高分子(A)および高分子(B)を、溶媒(ジメチルスルフォキシドDMSOと水の混合溶液。DMSOと水の重量混合比は6:4)に105℃で加熱攪拌により溶解させた。高分子(A)の溶媒に対する重量濃度は15%とし、高分子(B)は高分子(A)に対して重量濃度で6%となるように添加した。溶液は常圧・空気環境下・105℃で120分間攪拌した。攪拌完了後の溶液を、紡糸装置のドープタンク(90℃に保温)に投入し、30分間減圧脱泡した。脱泡完了後に溶液を、直径0.3mmの単孔ノズルから押出し、ノズル表面から80 mmの位置に設置した凝固浴で凝固・脱溶媒を行うとともに、回転するロールを用いて速度100 m/分で糸を引き取った。ノズルからの押出し量は、3g毎分とした。凝固浴にはマイナス20℃のエタノールを用いた。引き取った糸は、同じくマイナス20℃のエタノール中に振り落とし、そのまま18時間マイナス20℃のエタノール中に保管して脱溶媒を完了した。紡糸装置の外観を図1に示す。脱溶媒完了後に糸をエタノールから取り出し、常温で真空乾燥した。乾燥は、重量変化が無くなるまで行った。乾燥後、繊維を窒素雰囲気下で150℃で1時間保管し熱処理を施した。この繊維の金属捕集性能を評価し表1にまとめた。なお、金属捕集評価後の繊維を、pH3.0の塩酸水溶液に浸漬後、再び金属捕集評価を実施すると再び同じ金属捕集性能を示し、リユース性可能であることが確認できた。
【0021】
(比較例1)
ノズルを直径1mmの物を用い、回転ロールで引き取ることなくノズル表面から80 mmの位置に設置した凝固浴中のマイナス20℃のエタノールに自由落下で振り落とす以外には実施例と同じ方法で繊維を得た。この繊維の金属捕集性能を評価し表1にまとめた。
【0022】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によると、高性能かつ安価でしかもリユース性を示す金属捕集繊維が提供できるため、半導体工場やメッキ工場廃液からの金属捕集用フィルター、繊維染色工場廃液から金属や染料を除去する廃液フィルターなどの広範囲の用途に使用可能であり、産業界に寄与すること大である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の繊維を製造するに好ましい製造工程形態の模式図である。
【符号の説明】
【0025】
1:ドープタンク
2:ギアーポンプ
3:スピンヘッド
4:凝固浴(−20℃エタノール)
5:回転ロール(速度100m/min)
6:洗浄浴(−20℃エタノール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性基を側鎖に持つことを特徴とする高分子(A)と、親水性基を持つことを特徴とする高分子(B)が混合されてなる繊維状組成物からなり、直径が0.05μm〜100μmであることを特徴とする繊維。
【請求項2】
前記高分子(A)が、ポリアリルアミンであることを特徴とする請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
前記高分子(B)が、ポリビニルアルコールもしくはセルロースであることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2008−202156(P2008−202156A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37677(P2007−37677)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】