説明

金属材料の剪断方法及び剪断設備

【課題】ローリングカットシャーにより厚鋼板などの金属材料を小さい剪断荷重で効率的に剪断加工する。
【解決手段】上下刃による金属材料の剪断を複数回繰り返すことにより、金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、金属材料の1回目の剪断時に測定された材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)または式P(x)=Kt/tanθ(x)(但し、t:金属材料の板厚、K:金属材料の剪断抵抗、θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布)で計算された鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローリングカットシャーによる金属材料の剪断方法及び剪断設備に関するもので、特にローリングカットシャーの剪断荷重を低減するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、厚鋼板の製造技術分野では、例えば、ラインパイプ材用にAPI規格X120鋼の商用試作生産が開始されるなど、鋼材の高強度化が進んでいる。
厚鋼板の製造工程では、所定の厚さに圧延された鋼板の形状を矩形とすべく、幅方向両端部をローリングカット式サイドシャー(ローリングカットシャー)で剪断後、長手方向両端部をダウンカット式クロップシャーで切り落としているが、鋼材の高強度化に伴い、剪断作業への負荷は増大する傾向にあり、シャーの剪断能力の向上が要望されている。
【0003】
図17にローリングカットシャーの構造を模式的に示す。このシャーは、被剪断材eが通過できるハウジング3の内側に、円弧状の刃先を持つ上刃1と直線状の刃先を持つ下刃2が配置され、下刃2はハウジング側に固定されている。一方、上刃1は、長手方向の前部(材料入側)を2つのリンク5a,5bからなるクランク機構6で、また後部(材料出側)を2つのリンク7a,7bからなるクランク機構8で、それぞれハウジング3に吊持されている。前記リンク5a,7aは、各一端部がハウジング3に設けられた駆動装置の回転軸(図示せず)に支持固定されており、この支持固定部を支点50,70として旋回駆動する。したがって、リンク5a,7aとこれを支持する回転軸はクランク軸を構成し、リンク5a,7aはそのクランク腕に相当する。また、リンク5a,リンク7aの各他端部は、下部側のリンク5b,リンク7bの各上端に回動可能に枢着51,71されている。また、下部側のリンク5b,リンク7bの各下端は、上刃1に回動可能に枢着52,72されている。クランク機構6,8を構成するリンクの長さは、リンク5a>リンク7a、リンク5b<リンク7bとなっている。このローリングカットシャーは、クランク軸のクランク腕に相当するリンク5a,リンク7aが駆動装置(図示せず)により図中矢印方向に回転(旋回)するが、前後部のクランク機構6,8を構成するリンクが上記のような長さであるため、上刃1が転動(ローリング)するように押し下げられ、下刃2との間で被剪断材eを設備の材料出側方向から材料入側に向けて剪断する。
【0004】
ローリングカットシャーによる被剪断材(厚鋼板)の剪断手順を図18(A)〜(H)(図18−1〜4)に示す。まず、図18(A)に示すように、剪断前は上刃1は上方に待機しており、上下刃間のクリアランスは被剪断材eの通板を妨げないように確保されている(=最大板厚+α)。図18(B)に示すように、被剪断材eをシャー前後に配置されたピンチロール(図示せず)によって所定位置まで前進、停止させる。次いで、図18(C)〜(F)に示すように、クランク機構6,8を作動させ(リンク5a,リンク7aをクランク腕とするクランク軸を回転させる)、上刃1を転動(ローリング)させるように押し下げて設備の材料出側方向から材料入側に向けて被剪断材eを剪断する。図18(G)に示すように、クランク機構6,8のリンク5a,リンク7aが1回転し終えることにより上刃1は元の待機位置に復帰し、1回の剪断動作が完了する。次いで、図18(H)に示すように、再びピンチロールによって次回剪断のための所定位置まで被剪断材eを前進させるとともに、剪断後の屑となるエッジ部を専用のナイフで剪断する(図示せず)。以下、被剪断材全長の剪断が完了するまで、図18(B)〜(H)を繰り返す。
【0005】
ローリングカットにおける剪断荷重P(N)は、一般には下記(i)式で求めることができる。
P=Kt/tanθ …(i)
θ=tan−1(t/L) …(ii)
但し t:被剪断材の板厚(mm)
K:被剪断材の剪断抵抗(=α・σTS)(MPa)
σTS:被剪断材の引張り強度(MPa)
θ:相対レーキ角(被剪断材と上刃とのなす角度)(deg)
L:剪断長(mm)
ここで、相対レーキ角θとは、図19に示すように、被剪断材e(金属材料)の剪断方向において、上刃1の円弧状の刃先100が被剪断材下面と交わる点をpとした場合、円弧状の刃先100の点pにおける接線fと、被剪断材長手方向と平行な直線とがなす角度を指す。
【0006】
ローリングカットシャーの剪断能力は、上刃1の被剪断材eへの押し付け力と上刃1の相対レーキ角θに依存するが、相対レーキ角θはクランク機構による上刃1の移動軌跡と刃形状により決まる。
一般にローリングカットシャーでは、長手方向で均一な剪断能力、剪断品質を保証するため、図18(F)に示すように、上刃1の最下点到達時の上下刃ラップ代が長手方向にほぼ0〜10mm近傍で一定となるように設計されている(下刃は図示せず)。この場合、一般に上刃(刃先)形状は、曲率半径R6〜12m程度の下側に凸の円弧形状であって、相対レーキ角θが上刃長手方向で2.0〜5.0deg程度に構成される。ここで、剪断品質とは、残留応力による被剪断材の力学的特性の変化、曲がりを指す。
【0007】
難剪断材料(例えば、硬くて厚い材料)を剪断する場合は、押し付け力を増大させるか、相対レーキ角θを大きくする必要がある。しかし、押し付け力の増大は、上刃1の駆動装置の増強やハウジング(門型フレーム)の補強が必要となり、大掛かりな設備工事となるため容易には実施できない。
一方、相対レーキ角θを大きくするには、上刃1の移動軌跡を決定しているクランク機構を改造する方法が考えられるが、これも大掛かりな設備工事となるため容易には実施できない。特許文献1には、ダウンカット方式におけるレーキ角の決定方法が記載されているが、これは、ダウンカット方式においては上下刃のなすレーキ角θが上刃形状に依ってのみ決定されることが前提となっており、本発明が対象とするようなローリングカット式の剪断設備への適用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−78342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明の目的は、ローリングカットシャーによる金属材料の剪断方法及び剪断設備において、特別な設備的負担を要することなく、厚鋼板などの金属材料を小さい剪断荷重で効率的に剪断加工することができ、難剪断材料も容易に剪断加工することができる剪断方法および設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、円弧状の刃先を有する上刃(下向きに凸状の円弧刃)を用い、被剪断材の送りと剪断を連続的に繰り返すローリングカットシャーによる剪断加工では、上刃の円弧状の刃先のうち、円弧極小点よりも材料入側方向では円弧極小点から離れるほど相対レーキ角θが増大し、剪断荷重が小さくなるという事実に着目し、送り量によって決定される被剪断材の長手方向位置を制御することにより、剪断を受け持つ上刃領域での相対レーキ角θを大きくすることができ、所望の剪断荷重で効率的な剪断加工を行うことができる、という着想を得た。
本発明はこのような着想の下になされたもので、以下を要旨とするものである。
【0011】
[1]ローリングカットシャーによる金属材料の剪断方法において、
上下刃による金属材料の剪断を複数回繰り返すことにより金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、
下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求め、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
金属材料の1回目の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御し、
前記1回目の剪断時に、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定し、2回目以降の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする金属材料の剪断方法。
【0012】
[2]ローリングカットシャーによる金属材料の剪断方法において、
上下刃による金属材料の剪断を複数回繰り返すことにより金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、
金属材料の1回目の剪断時に、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定し、2回目以降の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする金属材料の剪断方法。
【0013】
[3]ローリングカットシャーによる金属材料の剪断方法において、
上下刃による金属材料の剪断を複数回繰り返すことにより金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、
下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求め、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする金属材料の剪断方法。
【0014】
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの剪断方法において、材料位置の制御では、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paの80%以上となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする金属材料の剪断方法。
[5]上記[4]の剪断方法において、材料位置の制御では、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paとなるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする金属材料の剪断方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの剪断方法において、材料位置の制御では、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求め、この位置補正量ΔXmから目標材料位置Xmaを決定することを特徴とする金属材料の剪断方法。
【0015】
[7]ローリングカットシャーを備えた金属材料の剪断設備において、
金属材料の剪断時に上刃が受ける反力を検出し、この検出値から材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を求める剪断荷重測定手段(10)と、
下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求める演算手段(11)と、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)またはPSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求める演算手段(12A)と、
前記位置補正量ΔXmから金属材料の目標材料位置Xmaを決定し、材料送り装置を制御する制御手段(13)を有することを特徴とする金属材料の剪断設備。
【0016】
[8]ローリングカットシャーを備えた金属材料の剪断設備において、
金属材料の剪断時に上刃が受ける反力を検出し、この検出値から材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を求める剪断荷重測定手段(10)と、
前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求める演算手段(12B)と、
前記位置補正量ΔXmから金属材料の目標材料位置Xmaを決定し、材料送り装置を制御する制御手段(13)を有することを特徴とする金属材料の剪断設備。
【0017】
[9]ローリングカットシャーを備えた金属材料の剪断設備において、
下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求める演算手段(11)と、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求める演算手段(12C)と、
前記位置補正量ΔXmから金属材料の目標材料位置Xmaを決定し、材料送り装置を制御する制御手段(13)を有することを特徴とする金属材料の剪断設備。
【0018】
[10]上記[7]〜[9]のいずれかの剪断設備において、演算手段(12A)、(12B)または(12C)は、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paの80%以上となるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求めることを特徴とする金属材料の剪断設備。
[11]上記[10]の剪断設備において、演算手段(12A)、(12B)または(12C)は、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paとなるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求めることを特徴とする金属材料の剪断設備。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ローリングカットシャーによる金属材料の剪断加工において、特別な設備的負担を要することなく、金属材料を小さい剪断荷重で効率的に剪断することができる。このため、剪断時にハウジングや刃先に作用する反力が低下し、設備寿命と上刃寿命を延ばすことができるとともに、難剪断材料であっても容易に剪断加工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ローリングカットシャーによる1回の剪断での剪断初期において、材料剪断方向での相対レーキ角θ分布(x)を示すグラフ
【図2】ローリングカットシャーによる1回の剪断での剪断後期において、材料剪断方向での相対レーキ角θ分布(x)を示すグラフ
【図3】被剪断材料をローリングカットシャーで剪断する際に、測定手段により実測された材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)と、(1)式で計算された材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を示すグラフ
【図4】鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)の測定手段を構成する検出器(剪断時に上刃が受ける反力を検出する検出器)の一設置例であって、検出器として歪みゲージを用いた場合を示す説明図
【図5】図4の実施形態において、歪みゲージによる鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)の測定原理を示す説明図
【図6】図4の実施形態において、入側位置及び出側位置の歪みゲージの出力チャートの一例と、それから求められる鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を示すグラフ
【図7】鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)の測定手段を構成する検出器(剪断時に上刃が受ける反力を検出する検出器)の他の設置例であって、検出器としてロードセルを用いた場合を示す説明図
【図8】図7の実施形態において、ロードセルによる鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)の測定原理を示す説明図
【図9】図7の実施形態おけるロードセルの設置例を示す説明図
【図10】図7の実施形態において、入側位置及び出側位置のロードセルの出力チャートの一例と、それから求められる鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を示すグラフ
【図11】剪断時の鉛直方向剪断荷重Pの実測値に基づいて材料の位置制御を行う本発明法の実施に供される設備と制御フローを示す説明図
【図12】剪断時の鉛直方向剪断荷重Pの計算値に基づいて材料の位置制御を行う本発明法の実施に供される設備と制御フローを示す説明図
【図13】金属材料の1回目の剪断時には、従来法通りに標準材料位置Xmで剪断するとともに、2回目以降の剪断時には、1回目の剪断時に測定された鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき材料位置を制御した場合における、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布P(x)を示すグラフ
【図14】剪断時の鉛直方向剪断荷重Pの実測値と計算値に基づいて材料の位置制御を行う本発明法の実施に供される設備と制御フローを示す説明図
【図15】実施例において、厚鋼板の高強度材を剪断加工した際の1回目及び2回目の剪断時の鉛直方向剪断荷重分布P(x)を示すグラフ
【図16】実施例において、厚鋼板の低強度材を剪断加工した際の1回目及び2回目の剪断時の鉛直方向剪断荷重分布P(x)を示すグラフ
【図17】ローリングカットシャーの構造を模式的に示す説明図
【図18−1】ローリングカットシャーによる被剪断材の剪断手順を示す説明図
【図18−2】ローリングカットシャーによる被剪断材の剪断手順を示す説明図
【図18−3】ローリングカットシャーによる被剪断材の剪断手順を示す説明図
【図18−4】ローリングカットシャーによる被剪断材の剪断手順を示す説明図
【図19】相対レーキ角θの定義を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1と図2は、ローリングカットシャーによる被剪断材(金属材料)の1回の剪断での剪断初期と剪断後期において、材料剪断方向(上刃長手方向)での相対レーキ角θ分布(x)を示したものである。円弧状の刃先を有する上刃(下向きに凸状の円弧刃)を用いるローリングカットシャーによる剪断加工では、上刃1を転動(ローリング)させるように押し下げて設備の材料出側方向から材料入側に向けて剪断するため、ローリング過程の中で、上刃1の円弧極小点kよりも材料出側の上刃領域で剪断する場合(図1に示す剪断初期)に較べ、円弧極小点kよりも材料入側の上刃領域で剪断する場合(図2に示す剪断後期)の方が相対レーキ角θは大きくなる。
【0022】
被剪断材eの剪断前にあたる「送り」過程においては、上刃1は上方に待機しており、上下刃間のクリアランスは被剪断材eの通板を妨げないように確保されているため、ローリングカット式との呼称ではあるが、厳密には上刃1の鉛直方向の上下動を伴う。このため、上刃1の上下動を伴わない理想的なローリングカット(図示)に対し、上刃1の円弧状の刃先のうち、円弧極小点kよりも材料出側方向では、円弧極小点kから離れるほど相対レーキ角θが小さくなり、一方、円弧極小点kよりも材料入側方向では、円弧極小点kから離れるほど相対レーキ角θが大きくなる。ここで、円弧極小点とは、上刃が水平な状態で、円弧状の刃先の曲率中心からの鉛直線と刃先が交わる点のことである。また、上刃が水平な状態とは、上刃の上面が水平な状態を指す。
【0023】
図3に、ある被剪断材をローリングカットシャーで剪断する際に、測定手段により実測された材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)と、下記(1)式により計算された材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)の例を示す。
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
図3によれば、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布P(x)は、実測値PJI(x)と計算値PSU(x)とがよい一致を示しており、材料剪断方向xでの相対レーキ角分布θ(x)にしたがい、上刃1の円弧状の刃先のうち円弧極小点kよりも材料入側方向では、円弧極小点kから離れるほど鉛直方向剪断荷重Pは減少している。
【0024】
一般のローリングカットシャーは、被剪断材を剪断位置に順次送るための送り装置を有するとともに、材料位置の制御機構を有している。そこで本発明は、(i)被剪断材の長手方向位置を制御することにより、剪断を受け持つ上刃領域を選択する、(ii)その際、剪断時における材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布の実測値又は計算値、すなわち、鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)又は鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう(好ましくは目標剪断荷重Paの80%以上となるよう、特に好ましくは目標剪断荷重Paとなるよう)、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御する、という方法を採るものである。
【0025】
目標剪断荷重Paは、主に設備強度の面から設備に過剰な負担をかけない剪断荷重の上限値などを基準に設定される。したがって、本発明によれば、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう(好ましくは目標剪断荷重Paの80%以上となるよう、特に好ましくは目標剪断荷重Paとなるよう)、剪断時の材料位置が選択されることにより、設備に過剰な負担をかけない最大限の剪断荷重で効率的な剪断を行うことができる。そして、被剪断材が難剪断性のものであるほど、相対レーキ角θが大きい上刃領域で剪断が行われることになり、被剪断材の難剪断性の度合いに応じて最も効率的な剪断加工を行うことができる。
【0026】
以下、本発明の剪断方法及び設備の詳細を説明する。
本発明による剪断方法の1つは、剪断時における鉛直方向剪断荷重Pの実測値、すなわち材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう(好ましくは目標剪断荷重Paの80%以上となるよう、特に好ましくは目標剪断荷重Paとなるよう)、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御する方法である。すなわち、この剪断方法では、上下刃による金属材料(被剪断材)の剪断を複数回繰り返すことにより金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、金属材料の1回目の剪断時に、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定し、2回目以降の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御する。
【0027】
図4及び図7は、上記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)の測定手段を構成する検出器(剪断時に上刃1が受ける反力を検出する検出器)の設置例を示すものである。
図4は、検出器としてハウジング3の入側位置と出側位置に歪みゲージ20A,20Bを貼り付け、剪断時に上刃1が受ける反力を簡易的に検出できるようにしたものである。図5は、歪みゲージ20A,20Bによる鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)の測定原理を示す説明図である。上刃1と被剪断材eとの間に発生する鉛直方向剪断荷重Pは、最終的にはハウジング3の入側位置と出側位置の各部分でその反力を受け持つことになる。図に示すように、入側反力Pen及び出側反力Pdeと、鉛直方向剪断荷重Pの作用点から入側及び出側のハウジング部分までの距離Len、Ldeの間にはモーメントの釣り合い式が成り立つ。図6に、歪みゲージ20A(入側位置)と歪みゲージ20B(出側位置)の各出力チャートの一例と、それから求められる鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を示す。これによれば、剪断初期はLde<LenであるためPde>Penとなり、剪断中期はPde≒Pen、剪断後期はPde<Penとなる。そして、鉛直方向剪断荷重Pは、鉛直方向荷重の釣り合い式よりP=Pen+Pdeにより得られるので、Pen,Pdeに基づき図6に示すような鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)が得られる。
【0028】
また、図7は、検出器として入側位置及び出側位置のクランク機構6,8とハウジング3の間にロードセル21A,21Bを設けたものである。図8は、ロードセル21A,21Bによる鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)の測定原理を示す説明図である。この場合には、モーメント釣り合い及び鉛直方向荷重の釣り合い式(前出の図5の説明を参照)に基づき、入側及び出側のクランク機構6,8の支点部に作用する入側反力Pen及び出側反力Pdeを求めるものである。
図9は、図7のような実施形態におけるロードセル21A,21Bの設置例を示す説明図であり、クランク機構6,8の支点部となる各ハウジング部分には、クランク支持用ブロック22が設置され、これら各クランク支持用ブロック22に、リンク5a,7aの各一端部が支持固定される回転軸(図示せず)が配置され、リンク5a,7aの支点50,70が設けられる。各クランク支持用ブロック22は、ハウジング3に設けられた保持用の空間24内に上下スライド可能に保持され(図中の25は、クランク支持用ブロック22のスライド面)、その下面とハウジング部分との間にプリロード用スプリング23が設けられるとともに、上面とハウジング部分との間にロードセル21(21A,21B)が配置され、プリロード用スプリング23はクランク支持用ブロック22を上方に付勢し、ロードセル21に押しつけている。ここで、ロードセル21A,21Bでは、剪断荷重に基づく入側反力Pen及び出側反力Pdeとプリロード用スプリング23による押し付け力Ppre(プリロード荷重)の和が、入側反力Pen´と出側反力Pde´として検出される。したがって、入側反力Penと出側反力Pdeは、Pen=Pen´−Ppre、Pde=Pde´−Ppreで求められる。
【0029】
図10に、ロードセル21A(入側位置)とロードセル21B(出側位置)の各出力チャートの一例と、それから求められる鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を示す。これによれば、図6と同様、剪断初期はLde<LenであるためPde>Penとなり、剪断中期はPde≒Pen、剪断後期はPde<Penとなる。そして、鉛直方向剪断荷重Pは、鉛直方向荷重の釣り合い式よりP=Pen+Pdeにより得られるので、Pen,Pdeに基づき図10に示されるような鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)が得られる。
図4及び図7のいずれの場合においても、アンプを介して増幅させた信号について、入側と出側の出力値の和を演算することで、剪断時における上刃1と被剪断材eとの接触反力に応じた鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定することができる。
【0030】
図11は、剪断時の鉛直方向剪断荷重Pの実測値に基づいて材料の位置制御を行う方法の実施に供される設備と制御フローを示すものである。この設備は、被剪断材eの剪断時に上刃が受ける反力を検出し、この検出値から材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を求める剪断荷重測定段10と、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような、被剪断材eの標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求める演算手段12Bと、前記位置補正量ΔXmから被剪断材eの目標材料位置Xmaを決定し、材料送り装置14を制御する制御手段13を有する。
【0031】
前記剪断荷重測定段10では、例えば、図4や図7に示すような入側及び出側の検出器(歪みゲージ、ロードセルなど)の出力値の和を演算することで、剪断時における上刃1と被剪断材eとの接触反力に応じた鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定する。前記演算手段12Bでは、予め鉛直方向目標剪断荷重Paが設定されており、剪断荷重測定段10で測定された鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)中の最大剪断荷重PJImaxと目標剪断荷重Paを差分演算し、その差分に制御ゲインを乗じて被剪断材eの標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXm、すなわち鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような位置補正量ΔXmを求める。前記制御手段13は、標準材料位置Xmと前記位置補正量ΔXmを和演算して目標材料位置Xmaを決定し、被剪断材eが目標材料位置Xmaに送られるように材料送り装置14(モータ)を制御する。
【0032】
本発明による剪断方法の他の1つは、剪断時における鉛直方向剪断荷重Pの計算値、すなわち材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう(好ましくは目標剪断荷重Paの80%以上となるよう、特に好ましくは目標剪断荷重Paとなるよう)、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御する方法である。すなわち、この剪断方法では、上下刃による金属材料(被剪断材)の剪断を複数回繰り返すことにより金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求め、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御する。
【0033】
図12は、このような剪断時の鉛直方向剪断荷重Pの計算値に基づいて材料の位置制御を行う方法の実施に供される設備と制御フローを示すものである。この設備は、上記(1)式により、被剪断材eを1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求める演算手段11と、前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような、被剪断材eの標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求める演算手段12Cと、前記位置補正量ΔXmから被剪断材eの目標材料位置Xmaを決定し、材料送り装置14を制御する制御手段13を有する。
【0034】
前記演算手段11では、被剪断材eの板厚t、被剪断材eの剪断抵抗K、材料剪断方向xでの相対レーキ角分布θ(x)が与えられ、上記(1)式により、被剪断材eを1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)が求められる。前記演算手段12Cでは、予め鉛直方向目標剪断荷重Paが設定されており、演算手段11で計算された鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)中の最大剪断荷重PSUmaxと目標剪断荷重Paを差分演算し、その差分に制御ゲインを乗じて被剪断材eの標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXm、すなわち鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような位置補正量ΔXmを求める。前記制御手段13は、標準材料位置Xmと前記位置補正量ΔXmを和演算して目標材料位置Xmaを決定し、被剪断材eが目標材料位置Xmaに送られるように材料送り装置14(モータ)を制御する。
【0035】
さきに述べたように、目標剪断荷重Paは、主に設備強度の面から設備に過剰な負担をかけない剪断荷重の上限値などを基準に設定されるが、設備に過剰な負担をかけない最大限の剪断荷重Pで剪断を行うことが生産性の面から最も効率的であり、したがって、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paとなるよう上記位置補正量ΔXmを求め、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することが特に好ましい。
また、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paとならなくても、概ね鉛直方向目標剪断荷重Paの80%以上(好ましくは90%以上)であれば、生産性の面から一応効率的であると言えるので、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paの80%以上(好ましくは90%以上)となるよう、上記位置補正量ΔXmを求め、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御してもよい。
【0036】
本発明の剪断方法のなかで、剪断時における鉛直方向剪断荷重Pの実測値に基づいて材料位置を制御する方法は、複数回繰り返される剪断のうち2回目以降の剪断時に適用することができる。
図13に、被剪断材eの1回目の剪断時には、従来法通りに標準材料位置Xmで剪断するとともに、この1回目の剪断時に、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定し、2回目以降の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paとなるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御した場合における、鉛直方向剪断荷重分布P(x)の一例を示す。図中に示すように、被剪断材eを目標材料位置Xmaに位置制御することにより、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxを鉛直方向目標剪断荷重Paとすることができている(図中、計算値PSU(x)は参考として示したものである)。
【0037】
本発明において特に好ましい剪断方法は、剪断時における鉛直方向剪断荷重Pの実測値と計算値、すなわち、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)と鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を利用して、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう(好ましくは目標剪断荷重Paの80%以上となるよう、特に好ましくは目標剪断荷重Paとなるよう)、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御する方法である。すなわち、この剪断方法では、上下刃による金属材料(被剪断材)の剪断を複数回繰り返すことにより金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求め、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
金属材料の1回目の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御し、前記1回目の剪断時に、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定し、2回目以降の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御する。
【0038】
図14は、このような剪断時の鉛直方向剪断荷重Pの実測値と計算値に基づいて材料の位置制御を行う方法の実施に供される設備と制御フローを示すものである。この設備は、被剪断材eの剪断時に上刃が受ける反力を検出し、この検出値から材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を求める剪断荷重測定手段10と、上記(1)式により、被剪断材eを1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求める演算手段11と、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)又はPSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような、被剪断材eの標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求める演算手段12Aと、前記位置補正量ΔXmから被剪断材eの目標材料位置Xmaを決定し、材料送り装置14を制御する制御手段13を有する。
【0039】
図12の設備と同様、前記演算手段11では、被剪断材eの板厚t、被剪断材eの剪断抵抗K、材料剪断方向xでの相対レーキ角分布θ(x)が与えられ、上記(1)式により、被剪断材eを1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)が求められる。また、図11の設備と同様、前記剪断荷重測定段10では、例えば、図4や図7に示すような入側及び出側の検出器(歪みゲージ、ロードセルなど)の出力値の和を演算することで、剪断時における上刃1と被剪断材eとの接触反力に応じた鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定する。前記演算手段12Aでは、予め鉛直方向目標剪断荷重Paが設定されており、「剪断荷重測定段10で測定された鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)中の最大剪断荷重PJImax」又は「演算手段11で計算された鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)中の最大剪断荷重PSUmax」と目標剪断荷重Paを差分演算し、その差分に制御ゲインを乗じて被剪断材eの標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXm、すなわち鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような位置補正量ΔXmを求める。前記制御手段13は、標準材料位置Xmと前記位置補正量ΔXmを和演算して目標材料位置Xmaを決定し、被剪断材eが目標材料位置Xmaに送られるように材料送り装置14(モータ)を制御する。
【0040】
そして、この設備で行われる剪断方法では、1回目の剪断時には、演算手段11で計算された鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき演算手段12Aで位置補正量ΔXmが求められ、この位置補正量ΔXmに基づき制御手段13による位置制御がなされ、2回目以降の剪断時には、1回目の剪断において剪断荷重測定段10で測定された鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき演算手段12Aで位置補正量ΔXmが求められ、この位置補正量ΔXmに基づき制御手段13による位置制御がなされる。
【0041】
図14のような剪断方法及び設備は、1回目の剪断時には、鉛直方向剪断荷重Pの実測値に基づく位置制御ができないため、鉛直方向剪断荷重Pの計算値に基づく位置制御を行い、2回目以降の剪断時には、鉛直方向剪断荷重Pの実測値に基づくより高精度な位置制御(上刃損耗などのような設備的要因により剪断荷重が変化する場合があり、このような変化は鉛直方向剪断荷重Pの計算値には十分に反映できない)を行うことができる。すなわち、剪断時の鉛直方向剪断荷重Pの実測値に基づく位置制御と、剪断時の鉛直方向剪断荷重Pの計算値に基づく位置制御とが互いの不利を補いあうことで、より高精度な位置制御が可能となる。
【0042】
本発明を適用できる金属材料に特別な制限はないが、特に厚鋼板の剪断に好適である。
また、本発明が対象とするローリングカットシャーは、実施形態に示したようなクランク機構により上刃を吊持・駆動する方式のものに限定されるものではなく、上刃が同じような態様の動きをするものであれば、例えば、油圧シリンダ或いは油圧シリンダと他の機械要素を組み合わせた機構により上刃を吊持・駆動する方式、スキッドとローラ機構を組み合わせた機構により上刃を吊持・駆動する方式など、種々の方式のものを対象とすることができる。
本発明によれば、既存設備に対して大幅な設備改造を行うことなく、剪断能力を大きく向上させることができる。例えば、既存設備の剪断能力では剪断困難であった高強度材についても剪断可能となり、大きな設備改造を伴うことなく、ラインパイプ材用にAPI規格X120鋼などの高強度材の安定生産が達成できるようになる。さらに、比較的低強度の被剪断材において、既存設備の剪断能力に余力が生ずる場合には、1回当たりの剪断量を増加させることが可能となり、設備的な負荷を増大させることなく、剪断能率を向上させることができる。
【実施例】
【0043】
図14に示す設備を用い、剪断時の鉛直方向剪断荷重Pの測定手段を構成する検出器として、図4に示すように、ハウジング3の入側位置と出側位置に歪みゲージ20A,20Bを貼り付け、剪断時に上刃が受ける反力を簡易的に検出できるようにした。
本発明の好ましい実施形態である、剪断時における鉛直方向剪断荷重Pの実測値と計算値を利用した被剪断材の位置制御を行った。すなわち、(1)式により、被剪断材を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求め、被剪断材の1回目の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paとなるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御し、前記1回目の剪断時に、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定し、2回目以降の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paとなるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御した。
【0044】
図15に、厚鋼板の高強度材(高張力鋼板、板厚30mm、引張強さ780MPa)を剪断加工した際の1回目及び2回目の剪断時の鉛直方向剪断荷重分布P(x)を示すが、1回目の剪断から目標剪断荷重Paでの剪断が実施できたことが判る。
また、図16に、厚鋼板の低強度材(汎用鋼板、板厚30mm、引張強さ540MPa)を剪断加工した際の1回目及び2回目の剪断時の鉛直方向剪断荷重分布P(x)を示すが、高強度材の実施例と同様に、1回目の剪断から目標剪断荷重Paでの剪断が実施できたことが判る。
【符号の説明】
【0045】
1 上刃
2 下刃
3 ハウジング
5a,5b,7a,7b リンク
6,8 クランク機構
10 剪断荷重測定段
11 演算手段
12A,12B,12C 演算手段
13 制御手段
14 材料送り装置
20A,20B 歪みゲージ
21A,21B ロードセル
22 クランク支持用ブロック
23 プリロード用スプリング
24 空間
25 スライド面
51,52,71,72 枢着部
50,70 支点
100 刃先
e 被剪断材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローリングカットシャーによる金属材料の剪断方法において、
上下刃による金属材料の剪断を複数回繰り返すことにより金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、
下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求め、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
金属材料の1回目の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御し、
前記1回目の剪断時に、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定し、2回目以降の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする金属材料の剪断方法。
【請求項2】
ローリングカットシャーによる金属材料の剪断方法において、
上下刃による金属材料の剪断を複数回繰り返すことにより金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、
金属材料の1回目の剪断時に、材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を測定し、2回目以降の剪断時には、前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする金属材料の剪断方法。
【請求項3】
ローリングカットシャーによる金属材料の剪断方法において、
上下刃による金属材料の剪断を複数回繰り返すことにより金属材料をその長手方向で剪断加工する際に、
下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求め、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする金属材料の剪断方法。
【請求項4】
材料位置の制御では、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paの80%以上となるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属材料の剪断方法。
【請求項5】
材料位置の制御では、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paとなるよう、剪断時における材料送り方向での材料位置を制御することを特徴とする請求項4に記載の金属材料の剪断方法。
【請求項6】
材料位置の制御では、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求め、この位置補正量ΔXmから目標材料位置Xmaを決定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の金属材料の剪断方法。
【請求項7】
ローリングカットシャーを備えた金属材料の剪断設備において、
金属材料の剪断時に上刃が受ける反力を検出し、この検出値から材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を求める剪断荷重測定手段(10)と、
下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求める演算手段(11)と、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)またはPSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求める演算手段(12A)と、
前記位置補正量ΔXmから金属材料の目標材料位置Xmaを決定し、材料送り装置を制御する制御手段(13)を有することを特徴とする金属材料の剪断設備。
【請求項8】
ローリングカットシャーを備えた金属材料の剪断設備において、
金属材料の剪断時に上刃が受ける反力を検出し、この検出値から材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)を求める剪断荷重測定手段(10)と、
前記鉛直方向剪断荷重分布PJI(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求める演算手段(12B)と、
前記位置補正量ΔXmから金属材料の目標材料位置Xmaを決定し、材料送り装置を制御する制御手段(13)を有することを特徴とする金属材料の剪断設備。
【請求項9】
ローリングカットシャーを備えた金属材料の剪断設備において、
下記(1)式により、金属材料を1回剪断した時の材料剪断方向xでの鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)を求める演算手段(11)と、
P(x)=Kt/tanθ(x) …(1)
但し P:剪断荷重(N)
t:金属材料の板厚(mm)
K:金属材料の剪断抵抗(MPa)
θ(x):材料剪断方向xでの相対レーキ角分布(deg)
前記鉛直方向剪断荷重分布PSU(x)に基づき、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Pa以下となるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求める演算手段(12C)と、
前記位置補正量ΔXmから金属材料の目標材料位置Xmaを決定し、材料送り装置を制御する制御手段(13)を有することを特徴とする金属材料の剪断設備。
【請求項10】
演算手段(12A)、(12B)または(12C)は、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paの80%以上となるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求めることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の金属材料の剪断設備。
【請求項11】
演算手段(12A)、(12B)または(12C)は、鉛直方向最大剪断荷重Pmaxが鉛直方向目標剪断荷重Paとなるような、金属材料の標準材料位置Xmに対する位置補正量ΔXmを求めることを特徴とする請求項10に記載の金属材料の剪断設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18−1】
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【図18−2】
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【図18−3】
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【図18−4】
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【図19】
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