説明

金属材連続雰囲気熱処理方法

【課題】金属材への窒素、炭素の拡散速度を高め、金属材に対する窒素、炭素の熱吸収処理時間を短縮可能な金属材連続雰囲気熱処理方法を提供する。
【解決手段】ワイヤ11を加熱炉14に連続供給しながら、ワイヤ11を窒素ガスの雰囲気で加熱する。このとき、ワイヤ11を連続的に塑性変形させながら熱処理する。これにより、連続的にワイヤ11に歪みが導入され、熱処理時におけるその金属中での窒素、炭素の「みかけの拡散係数」が高まる。その結果、ワイヤ11への窒素の吸収速度を短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は金属材連続雰囲気熱処理方法、詳しくは例えば炉内の処理ガスとして窒素ガスを使用し、ステンレス鋼などの金属材に窒素などの処理成分を連続的に吸収させる金属材連続雰囲気熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野では、患者への肉体的・精神的な負担を小さくする治療方法(低侵襲治療)の研究が行なわれている。その中、外科治療用および外科的な検査用として、例えば血管に挿入されるステンレス鋼製のワイヤ(金属材)やパイプの細線化の要求が高い。
しかしながら、ステンレス鋼からなるワイヤやパイプは、細線化を進めるほど脆くなる。そこで、従来、ステンレス鋼に炭素を吸収(吸蔵)させ、ステンレス鋼製のワイヤやパイプを高強度化、高靱性化および高耐蝕性化する方法が開発されている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1は、ワイヤの連続熱処理炉を使用し、炉内雰囲気を浸炭源ガスとして熱処理することで、ステンレス鋼製のワイヤやパイプに炭素を吸収させるものである。
【特許文献1】国際公開第2005−003400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ステンレス製の線材への浸炭には長時間を要する点が問題で、特許文献1の連続熱処理炉を使用しても、場合によっては10時間以上、ステンレス鋼製のワイヤやパイプを炉内保持する必要があった。
【0005】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、金属製のワイヤやパイプなどを連続的に塑性変形しながら浸炭熱処理すれば、ワイヤやパイプに連続的に歪み(転位)が導入され、熱処理時における鋼中での炭素(窒素も同じ)の「みかけの拡散係数」が高まり、金属材の浸炭処理時間を大幅に短縮できることを知見し、この発明を完成させた。
【0006】
この発明は、金属材への窒素、炭素の拡散速度を高め、金属材に対する窒素、炭素の熱吸収処理時間を短縮することができる金属材連続雰囲気熱処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、金属材を加熱炉に連続供給しながら、この金属材を窒素ガス、アンモニアガス、浸炭ガスまたは二酸化炭素ガスの雰囲気で加熱しつつ連続的に塑性変形させ、前記金属材中に窒素または炭素を吸収させる金属材連続雰囲気熱処理方法である。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、金属材を加熱炉に連続供給しながら、金属材を窒素ガス、アンモニアガス、浸炭ガスまたは二酸化炭素ガスの雰囲気で加熱する。このとき、金属材を連続的に塑性変形させながらその熱処理を行う。これにより、連続的に金属材に歪みが導入され、熱処理時におけるその金属中での窒素、炭素の「みかけの拡散係数」が高まる。その結果、金属材への窒素、炭素の吸収速度が高まり、金属材の線材連続熱処理時間を短縮することができる。しかも、金属材への窒素、炭素の吸収量を増加させることも可能となる。
この金属材の塑性変形をさらに詳しく説明すれば、付与される応力は曲げ応力である。
【0009】
金属材の素材としては、例えばステンレス鋼、チタン合金、コバルト合金などを採用することができる。
金属材は、金属製の材料であればよい。その形状は、例えば線材、棒材(丸棒、角棒など)、板材、ブロック材などでもよい。
金属材の用途としては、例えばそれが線材の場合には、医療用ステンレス鋼または歯科用ステンレス鋼を素材とする各種の製品(歯列矯正器具用ワイヤ、ブラケットなど小型部品、ガイドワイヤ、ステント、骨プレートなど)を採用することができる。その他、高耐食性・高強度が要求される構造用ワイヤ(海水環境、化学プラント用ネット、ワイヤ、ばねなど)を採用することができる。
【0010】
金属材の直径は、金属材の用途によりそれぞれ異なる。
処理ガスは、窒素ガス(処理成分は窒素)、アンモニアガス(処理成分はアンモニア)、浸炭ガス(処理成分は炭素;具体的にはアセチレンガスなど)、二酸化炭素ガス(処理成分は二酸化炭素)を採用することができる。
【0011】
加熱炉の炉内温度としては、例えば600〜1250℃である。600℃未満では、ガス成分の吸収(拡散)が生じない。または相変態が生じない。1250℃を超えると、素材の結晶粒が粗大化し、優れた機械的特性が得られない。加熱炉の好ましい温度は、1000〜1200℃である。この範囲であれば、ガスの吸収(拡散)が活発で、ガス吸収量が多く、ガス吸収速度が高い。
【0012】
加熱炉の炉内圧力は、負圧、常圧、高圧の何れでもよい。
金属材の加熱炉への連続供給方法としては、例えば自動ペイオフ装置などを使用した供給方法を採用することができる。
金属材の炉内への供給速度は、1〜10m/分である。1m/分未満では、金属材が加熱炉内に長時間保持されるため、素材の結晶粒の粗大化を招く。10m/分を超えると、金属材が加熱炉内に短時間だけしか保持されず、十分なガス成分の吸収ができない。金属材の好ましい供給速度は、3〜8m/分である。この範囲であれば、金属材に良好なガス成分の吸収が行なえるとともに、生産性に優れるというさらに好適な効果が得られる。
【0013】
金属材の供給速度を変更することで、金属材に対する処理成分の吸収(吸蔵)深さを制御することもできる。
金属材を連続的に塑性変形させる方法としては、例えば金属材に外力を作用させ、これを連続的に繰り返し変形させる方法を採用することができる。具体的には、2本または3本以上の熱間溝ローラの間に、金属材をたすき掛けまたはつづら折り状に掛けることが考えられる。
ガス吸引炉内で移動中の金属材に作用する張力は、金属材の強度、加熱温度などに応じて異なる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記金属材の加熱温度は、その金属の融点の絶対温度で40〜90%である請求項1に記載の金属材連続雰囲気熱処理方法である。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、金属材の加熱温度をその金属(金属材の素材)の融点の絶対温度で40〜90%としたので、金属表面の改質から元素の固相吸収まで可能になる。
【0016】
金属材の加熱温度がその金属(素材)の融点の絶対温度で40%(融点×0.4の温度(℃))未満では、雰囲気ガスとの反応が起こらない。また、絶対温度で90%(融点×0.9の温度(℃))を超えれば、引張強さがゼロに近くなり断線しやすくなるため運転が困難になる。例えば、金属材としてSUS316(融点1370〜1400℃)製のものを使用した場合、その加熱温度は550〜1260℃である。また、金属材としてSUS304(融点1400〜1450℃)製のものを使用した場合、その加熱温度は560〜1300℃である。金属材の好ましい加熱温度は、金属材の融点の絶対温度で40〜90%である。この範囲であれば、金属材の外径を減少させずに曲げ応力を付与することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記金属材への連続的な塑性変形は、該金属材の繰り返し曲げにより行われる請求項1または請求項2に記載の金属材連続雰囲気熱処理方法である。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、金属材の繰り返し曲げにより金属材に対して連続的な塑性変形を行うので、金属材の連続的な塑性変形を簡単な設備で実施することができる。特に、金属材の加熱温度をその金属の融点の絶対温度で40〜90%としたときには、金属材を破断することなく、この連続的な塑性変形を小さな外力により確実に行うことができる。
金属材の繰り返し曲げの曲率半径、曲げ回数は任意である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、前記加熱炉には、それぞれの軸線が平行に離間し、かつそれぞれの外周側に、対峙されたもの同士の間で前記金属材がたすき掛けされる多数本の環状溝が形成されるとともに、互いに反対方向に回転される一対の耐熱ローラが収納され、前記金属材の熱処理時間は、前記金属材を前記一対の耐熱ローラの環状溝にたすき掛けした回数およびこれらの耐熱ローラの回転数によって調整する請求項1または請求項2に記載の金属材連続雰囲気熱処理方法である。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、加熱炉内において、互いに反対方向に回転する一対の耐熱ローラを2本使用し、金属材を一対の耐熱ローラの対峙した環状溝にたすき掛けする。これにより、金属材のローラ間移動時、金属材の内周部分とこれに対応する外周部分とが反転し、金属材の加熱ムラが抑制される。また、金属材には緊張力(外力)が作用し、加熱により金属が塑性変形する。塑性変形中の金属材を加熱することで、窒素、炭素の吸収効率が高められる。
【0021】
このとき、金属材の熱処理時間は、両耐熱ローラの環状溝間へのたすき掛けの回数によって調整される。すなわち、耐熱ローラには金属材の巻き付けガイドとなる環状溝が、ローラ軸線方向に所定間隔ごとに配設されている。したがって、耐熱ローラ間に金属材をたすき掛けし、この状態で両耐熱ローラを互いに反対回転させれば、金属材は両耐熱ローラの環状溝のうち、あらかじめ金属材が架け渡されたもののみの間を移動する。その後、金属材の熱処理された部分は自重により垂れ下がり、例えば加熱炉から排出される。すなわち、金属材は次の耐熱ローラの架け渡されていない環状溝まで移動することはない。また、金属材の熱処理時間は、両耐熱ローラの回転速度によっても調整することができる。
【0022】
耐熱ローラの素材には、熱処理時の炉内温度(例えば550〜1300℃)に耐え得る素材であれば任意である。例えば、SUS310などを採用することができる。
耐熱ローラの直径は10〜500mmである。10mm未満では、線材が耐熱ローラに巻かれるときの抵抗が大きくなり、断線しやすくなる。また、500mmを超えれば、曲げ応力が小さくなり、塑性変形の付与効果がなくなる。
ここで、「金属材を一対の耐熱ローラの環状溝にたすき掛けした回数」とは、両耐熱ローラの対峙する1本の環状溝間に金属材がX字形状に掛けられた状態をたすき掛け1回とする。そのため、片方の耐熱ローラのみに金属材を掛けた状態はたすき掛け1/2回となる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明によれば、金属材を加熱炉に連続供給しながら、金属材を窒素ガス、アンモニアガス、浸炭ガスまたは二酸化炭素ガスの雰囲気で加熱する。このとき、金属材を連続的に塑性変形させながら熱処理する。これにより、連続的に金属材に歪みが導入され、熱処理時におけるその金属中での窒素、炭素の「みかけの拡散係数」が高まる。その結果、金属材への窒素、炭素の吸収速度を短縮することができる。
【0024】
請求項2に記載の発明によれば、金属材の加熱温度をその金属の融点の絶対温度で40〜90%としたので、金属表面の改質から元素の固相吸収まで可能となる。
【0025】
請求項3に記載の発明によれば、金属材の連続的な繰り返し曲げにより金属材に対して連続的な塑性変形を行うので、金属材の連続的な塑性変形を簡単な設備で実施することができる。
【0026】
請求項4に記載の発明によれば、加熱炉内において、互いに反対方向に回転する一対の耐熱ローラ間で互いの環状溝に金属材をたすき掛けするので、金属材のローラ間移動時、金属材の内周部分とこれに対応する外周部分とが反転し、金属材の加熱ムラを抑制することができる。しかも、金属材には緊張力が作用し、加熱により金属が塑性変形するので、窒素、炭素の吸収効率を高めることができる。
このとき、金属材の熱処理時間は、両耐熱ローラの環状溝間へのたすき掛けの回数によって調整される。すなわち、金属材は両耐熱ローラの環状溝のうち、あらかじめ金属材が架け渡されたもののみの間を移動する。その結果、金属材の熱処理が完了した部分は自重により垂れ下がるのみとなる。よって、金属材は次の耐熱ローラの架け渡されていない環状溝まで移動することはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、この発明の実施例を説明する。ここでは、金属材としてステンレス鋼(SUS304)製のワイヤを採用し、処理ガスとして窒素ガスを採用したものを例とする。
【実施例1】
【0028】
図1において、10はこの発明の実施例1に係る金属材連続雰囲気熱処理方法で使用される線材連続熱処理装置である。この線材連続熱処理装置10は、ワイヤ11の送り方向(直線的)へ長い装置で、装置上流側の端部に配置されたワイヤ(金属材)11の繰り出し部12と、装置中流部に配置されたワイヤ11に窒素ガス中の窒素を吸収させる加熱炉14と、装置下流側に配置されたワイヤ11の巻き取り部15とを主に備えている。以下、これらの構成体を具体的に説明する。
ワイヤ11は、ステンレス鋼(SUS304)製で、直径0.5mmの線材である。ワイヤ11の繰り出し部12は、回転軸が垂直な繰り出しボビン13と、繰り出しボビン13の近傍に立設され、上端部が繰り出しボビン13側へ直角に屈曲したガイド支柱16とを有している。ガイド支柱16の上端部には、繰り出しボビン13からのワイヤ11を加熱炉14へ導くガイドプーリ17が、回転軸を垂直にして軸支されている。
【0029】
加熱炉14は、内壁に耐熱材が張設された矩形箱状の炉体18と、炉体18の内部空間の上流側および下流側に離間された一対の耐熱ローラ19と、両耐熱ローラ19の駆動源となる第1モータ20と、炉体18の内部空間に配設された上下一対のヒータ21とを有している。炉体18の上流側の壁板の上部には、ワイヤ11を炉内へ導入する短尺な導入管22が水平配置されている。一方、炉体18の下流側の壁板の上部には、内周壁に耐熱材が張設された長尺な導出管23が水平配置されている。
両耐熱ローラ19は、直径60cmで各軸線が装置幅方向へ伸びたローラである。両耐熱ローラ19の外周側(外周面)には、対峙されたもの同士の間でワイヤ11がたすき掛けされる多数本の環状溝24が、軸線方向へ所定ピッチで形成されている(図3および図4)。
【0030】
前記第1モータ20は、加熱炉14の下流に近設され、かつワイヤ11の送り方向に長い平面視して矩形状の載置台25の下流端上に固定されている。第1モータ20の出力軸には、駆動プーリ26が固定されている。また、両耐熱ローラ19の回転軸の先端部にも従動プーリ27がそれぞれ固定されている。3つのプーリ26,26,27には無端チェーン28が一連に架け渡されている。このとき、両従動プーリ27には、無端チェーン28の一部が交差状態で架け渡されている。そのため、第1モータ20の出力軸を回転させれば、無端チェーン28を介して、両耐熱ローラ19の従動プーリ27が互いに反対方向に回転する。
【0031】
導出管23のワイヤ11出口の近傍には、上端部にガイドプーリ29とダンサローラ30とが互いに離間して軸支された取り付け支柱31が、載置台25の上流部上に立設されている。載置台25の下流部上には、前記ワイヤ11の巻き取り部15が設けられている。
巻き取り部15は、回転軸が水平な巻き取りボビン32と、ダンサローラ30から導出されたワイヤ11を、巻き取りボビン32に均等に巻き付けるため、走行プーリ33を載置台25の幅方向へ往復走行させる往復走行ガイド機構35と、巻き取りボビン32および往復走行ガイド機構35の駆動源となる第2モータ36とを有している。往復走行ガイド機構35は、載置台25の幅方向へ長い取り付け台25a上に配設された一対のガイドロッド37に沿って、走行プーリ33が搭載されたスライダ38が往復摺動する。第2モータ36の出力軸には駆動プーリ39が固定されている。往復走行ガイド機構35の操作力の入力軸には、2連式の従動プーリ40がそれぞれ固定されている。
【0032】
巻き取りボビン32の回転軸には、別の従動プーリ41が固定されている。駆動プーリ39と2連式の先側の従動プーリ40には、第1無端ベルト42が架け渡されている。また、2連式の元側の従動プーリ39と別の従動プーリ41との間には、第2無端ベルト43が架け渡されている。したがって、第2モータ36の出力軸を回転させれば、第1無端ベルト42および第2無端ベルト43を介して、往復走行ガイド機構35の走行プーリ33が載置台25の幅方向へ往復走行しながら、巻き取りボビン32が回転してワイヤ11を巻き取る。
【0033】
次に、図1〜図4を参照して、この発明の実施例1に係る線材連続熱処理装置10を利用した金属材連続雰囲気熱処理方法を説明する。
第2モータ36によりその出力軸を回転させる。これにより、第1無端ベルト42および第2無端ベルト43を介して、往復走行ガイド機構35の走行プーリ33が載置台25の幅方向へ往復走行しながら、巻き取りボビン32が回転し、ワイヤ11が巻き取られる。これにより、繰り出しボビン13から導出されたワイヤ11は、順次、ガイドプーリ29を経て窒素ガス雰囲気で、炉内圧が1気圧の加熱炉14へ導入される。加熱炉14では、ワイヤ11が2本の耐熱ローラ19の多数のワイヤ溝(環状溝)24の間でたすき掛けされる。たすき掛けの回数10回である。すなわち、ワイヤ11が掛けられる両耐熱ローラ19のワイヤ溝24の本数は、10本(合計20本)ずつである。
【0034】
このとき、両耐熱ローラ19間では、ワイヤ11の融点(SUS304の融点:1400〜1450℃)に近い1200℃に加熱されたワイヤ11に5N/mmの張力が作用した状態で、曲率半径60mmで繰り返し曲げられる。ワイヤ11の曲げ回数の合計は20回である。これにより、連続的に塑性変形されながらワイヤ11が熱処理される。その際、ワイヤ11には連続的に歪み(転位)が導入され、熱処理時におけるステンレス鋼中での窒素の「みかけの拡散係数」が高まる。
その結果、ワイヤ11への窒素の吸収速度が高まり、ワイヤ11の連続熱処理時間を短縮することができる。また、ワイヤ11への窒素の吸収量を増加させることも可能となる。
【0035】
なお、ワイヤ11の熱処理時間は、ワイヤ11を両耐熱ローラ19のワイヤ溝24の間にたすき掛けする回数を変えることで調整可能である。すなわち、ワイヤ11は両耐熱ローラ19のワイヤ溝24のうち、あらかじめワイヤ11が架け渡されたもののみの間を移動する。その結果、ワイヤ11の熱処理が完了した部分は自重により垂れ下がるのみとなる。よって、ワイヤ11は次の耐熱ローラ19の架け渡されていないワイヤ溝24まで移動することはない。
【0036】
ここで実際に、直径0.5mm、SUS304製のワイヤについて、実施例1の線材連続熱処理装置10を使用して窒素吸収処理(1473K、1気圧、窒素雰囲気)を行った場合(実施例1)と、耐熱ローラ19間でのたすき掛けを伴わない従来法による窒素吸収処理(窒素吸収処理条件は同じ)で行った場合(比較例1)とについて、ワイヤ表層の窒素濃度を調査した結果を、図5のグラフを参照して報告する。
図5のグラフに示すように、窒素吸収処理時間が60分間のとき、ワイヤの表層における窒素濃度は、比較例1が0.5mass%(質量%)であったのに対して、実施例1は0.6mass%と、20%も窒素濃度が高まった。また、0.2%の耐力(降伏強度)は約1.1倍に高まった。このことから、窒素吸収に要する理論時間より短い処理時間で所定量の窒素吸収が可能であるとともに、十分な機械的性質を有する窒素ステンレス鋼の作製が可能であることがわかった。これを応用し、ワイヤ表面から内部へ窒素の高濃度な勾配を付与する(傾斜機能化)できることがわかった。なお、ワイヤの直径が小さくなれば指数関数的に窒素吸収に要する時間は短くなる。また、窒素吸収処理された伸線加工のワイヤは、真空焼鈍処理された伸線加工のワイヤと比べて、強度延性バランスに優れ、優れた力学的特性を示すものであった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施例1に係る金属材連続雰囲気熱処理方法で用いられる線材連続熱処理装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】この発明の実施例1に係る金属材連続雰囲気熱処理方法で用いられる線材連続熱処理装置の概略構成を示す平面図である。
【図3】この発明の実施例1に係る金属材連続雰囲気熱処理方法で用いられる線材連続熱処理装置に組み込まれた一対の耐熱ローラの拡大正面図である。
【図4】この発明の実施例1に係る金属材連続雰囲気熱処理方法で用いられる線材連続熱処理装置に組み込まれた一対の耐熱ローラの拡大平面図である。
【図5】この発明の実施例1に係る金属材連続雰囲気熱処理方法および従来法における金属材の窒素吸収処理時間と窒素濃度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
11 ワイヤ(金属材)、
14 加熱炉、
19 耐熱ローラ、
24 ワイヤ溝(環状溝)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材を加熱炉に連続供給しながら、この金属材を窒素ガス、アンモニアガス、浸炭ガスまたは二酸化炭素ガスの雰囲気で加熱しつつ連続的に塑性変形させ、前記金属材中に窒素または炭素を吸収させる金属材連続雰囲気熱処理方法。
【請求項2】
前記金属材の加熱温度は、その金属の融点の絶対温度で40〜90%である請求項1に記載の金属材連続雰囲気熱処理方法。
【請求項3】
前記金属材への連続的な塑性変形は、該金属材の繰り返し曲げにより行われる請求項1または請求項2に記載の金属材連続雰囲気熱処理方法。
【請求項4】
前記加熱炉には、それぞれの軸線が平行に離間し、かつそれぞれの外周側に、対峙されたもの同士の間で前記金属材がたすき掛けされる多数本の環状溝が形成されるとともに、互いに反対方向に回転される一対の耐熱ローラが収納され、
前記金属材の熱処理時間は、前記金属材を前記一対の耐熱ローラの環状溝にたすき掛けした回数およびこれらの耐熱ローラの回転数によって調整する請求項1または請求項2に記載の金属材連続雰囲気熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−149933(P2009−149933A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328015(P2007−328015)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(598122566)安田工業株式会社 (5)
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】