説明

金属板被覆用ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルム被覆金属板及びポリエステルフィルム被覆金属容器

【課題】
金属板との密着性および成形加工性に優れ、フレーバー性、耐衝撃性に優れた金属板被覆用ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルム被覆金属板、およびポリエステルフィルム被覆金属容器を提供することを目的とする。
【解決手段】
(I)層/(II)層の複合構成であり、(I)層がエチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合ポリエステルであり、(II)層がテレフタル酸、炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコールからなる共重合ポリエステルであり、少なくとも(I)層の共重合ポリエステルにワックス成分を0.01〜0.15重量%含有する複合構成のポリエステルフィルムとすることにより、上記目的を達成する。
なし。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は清涼飲料、ビール、缶詰等の金属容器の腐蝕防止等の目的で使用される金属板被覆用ポリエステルフィルム、該ポリエステルフィルムを金属板に被覆したポリエステルフィルム被覆金属板、及び該ポリエステルフィルム被覆金属板を成形してなるポリエステルフィルム被覆金属容器に関するものであり、特に2ピース缶の内面用に好適に用いられる金属板被覆用ポリエステルフィルムに関するものである。さらに詳細には、製缶性(例えば、絞り・しごき加工性)に優れた金属板被覆用ポリエステルフィルム、該ポリエステルフィルムを金属板に被覆したフレーバー性と耐衝撃性に優れたポリエステルフィルム被覆金属板、及び該ポリエステルフィルム被覆金属板を成形してなるポリエステルフィルム被覆金属容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属缶の缶内面及び缶外面は腐蝕防止を目的として、エポキシ系、フェノール系等の各種熱硬化性樹脂を溶剤に溶解又は分散させたものを塗布し、金属表面を被覆することが広く行われてきた。しかしながら、この熱硬化性樹脂を被覆する方法は塗料の乾燥に要する時間が長いため生産性が悪く、また多量の有機溶剤を使用するために人体や環境へ悪影響を及ぼす可能性があるなどの問題点があった。
【0003】
このような問題を解決するため、金属板に熱可塑性樹脂を溶融押出法で被覆する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、金属板に熱可塑性樹脂フィルムを被覆する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、飲料用缶には、金属板を円筒成形してなる金属円筒の上下開口部に蓋体を取り付けてなる、いわゆる3ピース缶の他に、金属板を絞り、または絞り・しごき成形して容器部を成形し、この容器部の上面開口部に蓋体を巻締め加工してなる、いわゆる2ピース缶がある。
【0005】
しかし、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルフィルムを2ピース缶に適用すると、絞り・しごき加工時の成形加工性および金属板に対するフィルムの密着性が不充分であり、フィルムが金属板から剥がれるという、いわゆるデラミネーション現象が起こったり、破れたりする場合がある。この傾向はフィルムが配向状態にある2軸延伸フィルムにおいて、より顕著に現れる。
【0006】
したがって、2ピース缶に適用するためには、金属板の成形に追随して成形されるという良好な成形性を有し、金属板に対する密着性が優れている必要がある。成形性が不充分であったり、金属板に対するフィルムの密着性が不充分な場合には、上記デラミネーション現象が起こったり、2ピース缶の容器部の作製時にフィルムが破れてしまったりするからである。
【0007】
このため、フィルム被覆金属板を2ピース缶に適用するためには、被覆後、ポリエステルフィルムの配向を除去するために、フィルムを構成するポリエステルの融点以上で加熱した後、急冷するというリメルト処理が行われている(例えば、特許文献3参照)。リメルト処理後のX線回折による配向度は10%以下で、実質的に無配向といえる。しかし、無配向フィルムは、一般に2軸延伸フィルムと比べて強度が低く、オリゴマーが析出し易くなったり、白化が起こり易くなるという欠点を有する。さらに、缶内面用フィルムには、打缶時の衝撃によりフィルムにピンホールやクラックが発生することにより金属が侵食されることがないように、耐衝撃性が必要であるが、無配向フィルムは耐衝撃性が低下し易くなる傾向がある。
【0008】
フィルムの耐衝撃性を改良する方策としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート及び/又はポリエチレンイソフタレートを主成分とするポリエステル層と、ポリエステルと熱可塑性エラストマーを配合した層からなる2軸延伸積層フィルムを用いる方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、上記公報に記載された方法ではポリエステルフィルムを金属板に被覆する際の密着性が十分ではなく、また、乳酸系飲料やスポーツドリンクなどいわゆるサプリメント系飲料のような含塩飲料用に適用する場合には、さらに高い耐衝撃性が必要であり、上記方策では耐衝撃性の改良効果が不充分であった。
【0009】
また、製缶時の金属とフィルムの密着性と白化性、耐衝撃性、フレーバー性を改良する他の方策として、ポリマー処方面での種々の方策が提案されている(例えば、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8参照)。しかし、これらの方法にしても、製缶時の加工変形率が大きい場合や、製缶速度が100缶/分以上といった高速で製缶した場合にフィルムの延展性、密着性が十分ではなく、缶外面でのフィルムの削れ(カジリ)や、缶内面のフィルムとポンチとの粘着(ストリップアウト)が発生するといった問題が残されていた。
【特許文献1】特開昭57−203545号公報
【特許文献2】特開平4−261826号公報
【特許文献3】特表平2−501638号公報
【特許文献4】特開平8−156182号公報
【特許文献5】特開平7−47650号公報
【特許文献6】特開平9−150492号公報
【特許文献7】特開2001−329056号公報
【特許文献8】特開2001−347621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記従来技術の問題点を解消することを目的とするものである。即ち、金属板との密着性および成形加工性に優れ、フレーバー性、耐衝撃性に優れた金属板被覆用ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルム被覆金属板、およびポリエステルフィルム被覆金属容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(I)層/(II)層の複合構成であり、(I)層がエチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合ポリエステルであり、(II)層がテレフタル酸、炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコールからなる共重合ポリエステルであり、少なくとも(I)層の共重合ポリエステルにワックス成分を0.01〜0.15重量%含有する複合構成のポリエステルフィルムにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
本発明は以下の通りである。
1. (I)層/(II)層の複合構成であり、(I)層がエチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合ポリエステルであり、(II)層がテレフタル酸、炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコールからなる共重合ポリエステルであり、少なくとも(I)層の共重合ポリエステルにワックス成分を0.01〜0.15重量%含有することを特徴とする金属板被覆用ポリエステルフィルム。
2. 前記1に記載のワックス成分が、パラフィン系ワックス、ポリエチレンワックス、エステル系ワックス、グリセリン脂肪酸エステル、高級脂肪酸モノアミドから選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする金属板被覆用ポリエステルフィルム。
3. 前記1又は2に記載の金属板被覆用ポリエステルフィルムが2軸延伸ポリエステルフィルムであることを特徴とする金属板被覆用ポリエステルフィルム。
4. 前記1〜3のいずれかに記載の金属板被覆用ポリエステルフィルムを、金属板の少なくとも片面に、上記(II)層側が金属板と相接するように被覆してなることを特徴とするポリエステルフィルム被覆金属板。
5. 前記4に記載のポリエステルフィルム被覆金属板を成形してなることを特徴とするポリエステルフィルム被覆金属容器。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属板被覆用ポリエステルフィルムは、該ポリエステルフィルムを金属板に被覆することによって製缶性(特に、過酷な条件下での製缶時の缶内面フィルムと加工ポンチの離型性と缶外面フィルムの耐キズつき性)とフレーバー性に優れたポリエステルフィルム被覆金属板が得られ、かつ上記ポリエステルフィルム被覆金属板を製缶することにより優れた耐衝撃性を有するポリエステルフィルム被覆金属缶が得られるため、清涼飲料、ビール、缶詰等の金属容器の腐蝕防止等の目的で使用される金属板被覆用ポリエステルフィルムとして、又、該ポリエステルフィルムを金属板に被覆したポリエステルフィルム被覆金属板として、或いは該ポリエステルフィルム被覆金属板を成形してなるポリエステルフィルム被覆金属容器として極めて有用であるといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、(I)層/(II)層の複合構成であり、(I)層がエチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合ポリエステルであり、(II)層がテレフタル酸、炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコールからなる共重合ポリエステルであり、少なくとも(I)層の共重合ポリエステルにワックス成分を0.01〜0.15重量%含有する金属板被覆用ポリエステルフィルムである。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムの(I)層に用いられる共重合ポリエステルは、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合ポリエステルである。該共重合ポリエステルの全酸成分残基に対するイソフタル酸残基の比率は3〜20モル%であることが好ましく、4〜10モル%であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムの(I)層を構成する共重合ポリエステルの融点は220〜250℃であることが製缶性(絞り・しごき加工においては、缶内面側の樹脂ではポンチの離型性の確保、缶外面側の樹脂ではカジリ(樹脂皮膜での縦方向のキズ)抑制)を確保する点から好ましい。さらに、製缶時の加工条件が過酷になった場合には、230〜245℃の範囲内にあることがより好ましい。上記融点の範囲に入るように共重合成分の種類および含有量を調整することが好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムの(I)層を構成する共重合ポリエステルは単一組成物であっても良いし、組成比の異なる2種類以上のポリエステル組成物のブレンドであっても良い。また、ポリブチレンテレフタレートに代表される他のポリエステル組成物を少量ブレンドすることもできる。上記した融点の調整と、本発明のポリエステルフィルムの熱安定性、成形性、およびフレーバー性を満足するために、(I)層全体の最終的な構成成分として、好ましくはエチレンテレフタレート成分およびエチレンイソフタレート成分の合計が80〜100モル%で、かつエチレンイソフタレート成分が3〜20モル%となるように、より好ましくはエチレンテレフタレート成分およびエチレンイソフタレート成分の合計が90〜100モル%、かつエチレンイソフタレート成分が4〜10モル%であるように組成および配合を調整することが重要である。ポリブチレンテレフタレートを少量ブレンドする場合には、ブチレンテレフタレート成分として20モル%以下となるように配合することが熱安定性および成形性の点で好ましい。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムにおける(I)層に用いられる共重合ポリエステルは、その目的を阻害しない範囲で他の共重合成分を含むことができる。
【0019】
使用できる他の共重合成分のうち、ジカルボン酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸が使用できる。使用できる上記のジカルボン酸およびそれらのエステル誘導体の量は20モル%以下が好ましく、さらには10モル%以下が好ましい。他の共重合成分のジカルボン酸及びそれらのエステル誘導体の使用量が20モル%を超えるとポリエステルの熱安定性が悪くなり好ましくない場合が多い。
【0020】
又、本発明のポリエステルフィルムの(I)層に用いられる共重合ポリエステルのグリコール成分として、エチレングリコール成分以外に使用できる他の共重合成分としては、プロパンジオール、ブタンジオ−ル、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物、ビスフェノールSのエチレンオキシド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が使用できる。このほか少量のアミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、カーボネート結合等を含有する化合物を含んでいてもよい。他の共重合成分のグリコール成分の量は20モル%以下が好ましく、さらには10モル%以下が好ましい。他のグリコール成分の使用量が20モル%を超えるとポリエステルの熱安定性が悪くなり好ましくない場合が多い。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムにおける(II)層に用いられる共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸、ジオール成分としてエチレングリコールから主として構成される共重合ポリエステルであり、好ましくは、全ジカルボン酸残基の85〜99モル%がテレフタル酸残基、1〜15モル%が炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸残基であり、ジオール残基の50モル%以上がエチレングリコール残基である共重合ポリエステルである。ここで、炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸の構造には特に限定はなく、分岐構造や環状構造を分子内に含むものや、分子鎖の一部に二重結合を含むものでもよい。長鎖脂肪族ジカルボン酸の例としては、エイコサン二酸、ドコサン二酸、ダイマー酸を挙げることができるが、これに限定されるものではない。ダイマー酸とはオレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素数10〜25の高級不飽和脂肪酸の2量化反応によって得られ、通常不飽和結合を分子内に有するが、水素添加によって不飽和度を下げたものも使用できる。水素添加をしたものの方が耐熱性や柔軟性が向上するので特に好ましい。また、2量化反応の過程で、直鎖分岐状構造、脂環構造、芳香核構造が生成されるが、これらの構造や量も特に限定はない。
【0022】
本発明のポリエステルフィルムの(II)層に使用される上記共重合ポリエステル中の炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸残基の量は、上記したように全酸成分残基の1〜15モル%であることが好ましく、1モル%未満では耐衝撃性の改良効果が不充分であり好ましくない場合が多い。また、15モル%を超えると共重合ポリエステルの溶融粘度の低下や、熱特性の低下が大きく、ポリエステルの製造時の生産性が低下したり、取扱い性が悪くなるので好ましくない場合が多い。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムの(II)層を構成する炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸共重合ポリエステルは単一組成物であっても良いし、組成比の異なる2種類以上のポリエステル組成物のブレンドであっても良い。また、他のポリエステル組成物を少量ブレンドすることもできる。
【0024】
上記(II)層のポリエステルの配合を決定する際、本発明の複合構成のポリエステルフィルムを回収した樹脂を配合し再利用することも出来る。(この再利用樹脂は、後述する実施例では「R」と表記する。)この場合、ポリエステルフィルムの回収樹脂からの共重合ポリエステル成分を加えた合計で各成分の配合比率を本発明の範囲に調整する必要がある。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムの成形性、密着性、耐衝撃性を満足するために、上記再利用樹脂を使用する場合を含めた(II)層全体の最終的な構成成分として、全酸成分残基のうち炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸残基含有量は1〜15モル%か好ましく、4〜12モル%がさらに好ましい。炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸残基の量が1モル%未満では、耐衝撃性改良効果が十分に発現されず、また、15モル%を超えた場合には、これ以上の耐衝撃性効果は期待できず、かえって前述したようなポリエステル製造時やフィルム製膜時の諸問題が顕著化するので好ましくない場合が多い。
【0026】
本発明のポリエステルフィルムの(II)層に使用される共重合ポリエステルには、その特性を阻害しない範囲で必要に応じて他の共重合成分を少量含むこともできる。使用できる他の共重合成分は、ジカルボン酸成分、グリコール成分とも、ポリエステルフィルムの(I)層に使用できるとして例示した化合物と同様である。又、それらの使用量についても(I)層の場合と同様で、ジカルボン酸成分、グリコール成分とも20モル%以下が好ましく、さらには10モル%以下が好ましい。それらの使用量が20モル%を超えるとポリエステルの熱安定性が悪くなり好ましくない場合が多い。
【0027】
本発明のポリエステルの製造方法については特に限定しない。即ち、エステル交換法または直接重合法のいずれの方法で製造されたものであっても使用できる。又、分子量を高めるために固相重合法で製造されたものであってもかまわない。さらに、缶に内容物を充填後に実施されるレトルト処理等でのポリエステルからのオリゴマー量を少なくし、内容物の味やフレーバーの低下を防ぐ保香性の点より、また、製缶ラインの汚染防止の点より、減圧下または不活性ガス雰囲気下での固相重合法で製造されたオリゴマー含有量が低いポリエステルを使用することは好ましい。
【0028】
ここで、例えばエチレンテレフタレート環状三量体をはじめとするオリゴマー環状三量体の含有量は0.7重量%以下であることが好ましい。
【0029】
本発明の(I)層/(II)層の複合構成のポリエステルフィルムの極限粘度は、該フィルムをオルトクロロフェノールに溶解し、25℃で測定して0.6〜1.2(dl/g)であることが好ましい。極限粘度が0.6(dl/g)未満の場合には、得られるフィルムの力学特性が低下するおそれがあり、また極限粘度が1.2(dl/g)を越えてもそれ以上の力学特性向上の効果は得られず、逆にポリエステルの製造時の生産性が低下するので経済的ではない場合が多い。
【0030】
本発明におけるポリエステルの製造の際には重合触媒としては酸化アンチモン、酸化ゲルマニウム、チタン化合物等が用いられる。その他に、重合触媒以外に本発明のポリエステル樹脂組成物を用いて溶融押出しフィルムを成形する際の静電密着性を付与するために、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム等のMg塩、酢酸カルシウム、塩化カルシウム等のCa塩、酢酸マンガン、塩化マンガン等のMn塩、塩化亜鉛、酢酸亜鉛等のZn塩、塩化コバルト、酢酸コバルト等のCo塩を各々の金属イオンの総量として300ppm以下、リン酸またはリン酸トリメチルエステル、リン酸トリエチルエステル等のリン酸エステル誘導体をリン原子として200ppm以下の範囲で添加することも可能である。上記重合触媒以外の金属イオンの総量が300ppm、またリン量が200ppmを越えると、得られるポリエステルの着色が顕著になるのみならず、ポリエステルの耐熱性及び耐加水分解性も低下することがあり、好ましくない場合が多い。
【0031】
このとき、添加する総リン量と総金属イオン量とのモル比が0.4〜1.0であるときに、耐熱性、耐加水分解性及び、静電密着性のバランスが最も優れたポリエステルが得られるので好ましい。ここで、添加量のモル比=(リン酸、リン酸アルキルエステル、またはその誘導体中のリンの総量(モル原子))/(Mgイオン、Caイオン、Mnイオン、Znイオン、Coイオンの総量(モル原子))である。上記モル比が0.4未満の場合には、得られるポリエステルの着色が顕著となり、耐熱性、耐加水分解性が低下することがある。1.0を超える場合には、十分な静電密着性が得られない場合が多い。
【0032】
また、本発明のポリエステルフィルムには、フィルム被覆金属板の滑り性を付与するために、適宜滑剤を用いることが好ましい。滑剤としては、不活性無機粒子や架橋高分子粒子等を用いることが好ましい。滑剤量は特に限定しないが、0.01〜1重量%の範囲であることが好ましい。当該フィルムが絞り加工の際に、ポンチやダイスとスムーズに離型させるために、0.01重量%以上の滑剤量が好ましいからである。一方、1重量%を超える量を含有しても、離型性の効果が変わらず、コスト的に不利になるだけである。又、滑剤と併用して後述するワックスを用いると、前記の滑剤の添加効果を最少量で得られるので特に好適である。
【0033】
滑剤として用いることのできる不活性無機粒子としては、シリカ、アルミナ、カオリンクレー、酸化チタン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、フッ化リチウム、硫酸バリウム、カーボンブラック等が例示できる。
【0034】
また、滑剤として用いることのできる架橋高分子粒子としては、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等のアクリル系単量体、スチレンやアルキル置換スチレン等のスチレン系単量体等と、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、エチレングリコールジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリメチルアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメチルアクリレート等の架橋性単量体との共重合体、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、フェノール系樹脂、シリコン含有系樹脂等が例示できる。
【0035】
前記滑剤が有機粒子または無機粒子系滑剤の場合、その平均粒径は、1〜3μmが好ましい。平均粒径が1μm未満ではポンチ離型性の改良効果が発現できない場合が多いからであり、逆に平均粒径が3μmを越えるとポンチ離型性の向上効果が飽和する一方、摩耗による滑剤の脱落が起こりやすくなり、金属板との被覆時にフィルム破断が起こる場合があるからである。
【0036】
前記滑剤は被覆後の製缶時にポンチと接触する(I)層のみに配合してもよいし、(I)層と(II)層の両方に配合してもよい。
【0037】
本発明のポリエステルフィルムには、前述したようにフィルムを金属板に被覆した後に配向を無くすためにリメルト処理をした後のフィルム被覆金属板に滑り性を付与し、絞り・しごき加工により金属容器を製造する際に、加工変形比率が大きくなったり、加工速度が速くなるなど、製造条件が厳しい場合でも良好な成形性(缶内面側の樹脂とポンチの離型性確保と、缶外面側のけずれの抑制)を得るために、少なくとも(I)層のポリエステル中にワックス成分を含有することが必要である。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムに含有するワックス成分としては、ポリエステルへの配合の作業性、フィルム製膜性の点からパラフィン系ワックス、カルナバワックス、ラノリンワックス等の天然ワックス、ポリエチレンワックス、エステル系ワックス、グリセリン脂肪酸エステル、高級脂肪酸モノアミド等の合成ワックスから選ばれた1種または2種以上のワックスを含有することが好ましく、特にポリエチレンワックスが好ましい。
【0039】
本発明のポリエステルフィルムに対するワックスの含有量としては、(I)層のポリエステルのみに含有される場合は0.01〜0.15重量%が好ましく、0.02〜0.1重量%がさらに好ましい。ワックス含有量が0.01重量%未満では、製缶性改良の効果が十分とはいえず、0.15重量%を超えると、それ以上の製缶性改良効果は期待できず、かえってポリエステルの熱安定性を損なう可能性があるからである。ワックスは(II)層のポリエステルに含有されても良いが、その場合は(I)層に含有される分と合計して0.15重量%以下であることが好ましい。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムにワックスを含有させる方法は特に限定されない。即ち、あらかじめポリエステルとワックスとを溶融混練して得たポリマーを用いてフィルムを作製する方法、ポリエステルとワックスとの混合物を用いて直接フィルムを作製する方法等を使用できる。
【0041】
本発明のポリエステルフィルムには、前記滑剤、ワックスの他、必要に応じて、非相溶の熱可塑性樹脂、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、結晶核剤などの添加剤を含有してもよい。特に熱安定性の向上のために酸化防止剤を0.01〜1重量%含有することは好ましい実施態様である。
【0042】
本発明の(I)層/(II)層の複合構成のポリエステルフィルムの作成方法は特に限定されないが、例えば、(I)層、(II)層それぞれの原料を別々の押出機を用いて溶融し、流路内でそれぞれの溶融樹脂を合流させ、Tダイより層状に冷却ロール上に押出して冷却固化し、積層樹脂の未延伸シートを得た後、延伸処理、熱処理を行って作成される。このとき、(I)層/(II)層の厚みの比率が後述する好適範囲内に入るように、それぞれの押出機から押し出される溶融樹脂量を調節するのが好ましい。
【0043】
本発明の(I)層/(II)層の複合構成のポリエステルフィルムは2軸延伸フィルムであるのが好ましい。ここで、2軸延伸法としては、遂次2軸延伸、同時2軸延伸があげられる。そして、逐次2軸延伸の場合は、一般的には縦方向に延伸した後、横方向に延伸する方法が採用されているが、逆の順序で延伸する方法で実施してもかまわない。また2軸延伸後、熱処理によりポリエステルの配向を固定することが好ましいが、2軸延伸後、熱処理工程を供する前に長手方向および/または幅方向に再延伸を行ってもよい。さらに、延伸工程またはその前後において、フィルムの片面または両面にコロナ放電処理や所定の塗布処理を施すことも何ら制限を受けない。
【0044】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは特に限定されないが、10〜50μmの範囲内であることが被覆効果(防錆性)および耐衝撃性、さらには経済性の点から好ましい。該厚みが10μm未満では、耐衝撃性が得られない場合があり、50μmを超えた場合は過剰品質であり、経済的に好ましくないことが多い。
【0045】
又、本発明の(I)層/(II)層の複合構成のポリエステルフィルムは、(I)層厚み/(II)層厚みの比率が1/0.5〜1/2の範囲内であることが耐衝撃性および製缶時の成形加工性を両立する点で好ましい。
【0046】
本発明の(I)層/(II)層の複合構成のポリエステルフィルムを金属板に被覆する方法は特に限定せず、例えば、ドライラミネート法、サーマルラミネート法などを採用することができる。具体的にはポリエステルフィルムの(II)層の融点以上に金属板を加熱し、その金属板の表面にポリエステルフィルムの(II)層を接触させ、かかる状態でニップロール間を通過させる。次いで、10〜40℃で急冷硬化させることにより被覆する。
【0047】
また、ポリエステルフィルムの被覆は金属板の片面だけに行っても、両面に行ってもよい。両面被覆の場合は同時に被覆しても遂次で被覆してもよい。
【0048】
本発明では使用する金属板として、ティンフリースチール等の表面処理鋼板あるいはアルミニウム板又はアルミニウム合金板あるいは表面処理を施したアルミニウム板又はアルミニウム合金板が使用できる。
【0049】
本発明において、用いるポリエステルフィルムを2軸延伸ポリエステルフィルムとし、かつポリエステルフィルム被覆金属板を2ピース缶に適用する場合には、被覆の後にポリエステルの分子配向を除去するために、フィルムを構成するポリエステルの融点以上で加熱するリメルト(再溶融)処理を行うことが好ましい。更に、リメルト直後には冷水や圧縮空気等の使用による強制冷却を実施することが好ましい。リメルト後、大気中への放冷等による徐冷却ではポリエステルが冷却固化する過程で結晶化が起こり、その後の製缶プロセスにおいて絞り・しごき加工を受ける際、ポリエステルがその加工による変形に追随せず、結果として製缶できなくなるからである。
【0050】
前記リメルト処理後のX線観察による分子配向度は10%以下で、実質的に無配向と言えるものである。つまり、ポリエステルが配向状態にある2軸延伸フィルムでは、塑性変形したり、延びにくいため、容器部を形成するための絞り成形工程を行いにくくなり、ひどい場合には、絞り・しごき成形時に金属板から剥がれるというデラミネーション現象が起こったり、破れたり、削れたりする。一方、実質的に無配向であれば、被覆している金属板の変形に追随できるので、デラミネーションや破れ等を生じることなく、2ピース缶のように、金属の塑性変形を伴う成形を行うことができる。
【0051】
本発明のポリエステルフィルム被覆金属容器は、本発明のポリエステルフィルム被覆金属板を、適宜成形してなる金属容器であり、その容器の形状、金属容器を成形する方法は、特に限定しない。具体的には、天地蓋を巻き締めて内容物を充填する、いわゆる3ピース缶は勿論、金属板を絞り成形して容器部を形成する2ピース缶などに適用できる。
【0052】
本発明のポリエステルフィルム被覆金属容器において、ポリエステルフィルムは金属容器の内壁面側になるように成形してもよいし、外壁面側になるように成形してもよい。ポリエステルフィルムを外壁面に用いる場合には、あらかじめフィルムの金属と接合される面に隠蔽性を付与するために顔料や着色材を含有した樹脂塗膜を塗布してもよい。
【0053】
尚、絞り・しごき成形を行う場合、必要に応じて、ポンチ・ダイスが接触するフィルム表面に、潤滑剤を塗布してもよい。
【0054】
本発明のポリエステルフィルム被覆金属容器には、必要に応じて印刷等を施してもよく、また製缶工程・印刷工程等の後、再度リメルト処理を行ってもかまわない。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明の内容および効果を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定するものではない。
【0056】
以下に本発明における各種評価方法を示す。
【0057】
(1)極限粘度(IV)
ポリエステルA−1〜A−4、B−1、B−2、及び実施例1〜6、比較例1〜7で得られたフィルムを、オルトクロロフェノールに溶解して25℃で測定した値(dl/g)である。
【0058】
(2)ポリエステルの熱特性
実施例1〜6、比較例1〜7の(I)層に使用するポリエステル組成物を300℃で5分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷して得たサンプル10mgを用い、窒素気流中、示差走査型熱量計(DSC)を用いて10℃/分の昇温速度で発熱・吸熱曲線(DSC曲線)を測定したときの、融解に伴う吸熱ピークの頂点温度を融点Tm(℃)とした。
【0059】
(3)ポリエステルの組成
実施例1〜6、比較例1〜7に使用するポリエステル原料を15重量%のトリフルオロ酢酸を含む重クロロホルムに溶解し、1H−NMRを測定した。フィルムの場合は、表層から所望の厚みまでの樹脂層を削り取った試料を同様に溶解して1H−NMRを測定した。長鎖ジカルボン酸成分の比率は、8ppm付近のテレフタル酸、イソフタル酸成分の各成分由来のピークの積算強度と、2.3ppm付近の長鎖ジカルボン酸成分の末端カルボニル基に隣接するメチレン基(−CH−)由来のピークの積算強度をもとに算出した。長鎖ジカルボン酸成分の平均炭素数は2.0〜0.7ppm付近のピーク全体の積算強度と、2.3ppm付近の末端カルボニル基に隣接するメチレン基のピークの積算強度の比率をもとに算出した。このとき、1.8ppm付近にブタンジオール成分由来のピークの一方が含まれる場合は、4.2ppm付近のもう一方のブタンジオール成分由来のピークの積算強度を全体の積算強度から差し引いて算出した。
【0060】
(4)ポリエステル中のエチレンテレフタレート環状3量体の含有量
実施例1〜6、比較例1〜7に使用するポリエステル原料をヘキサフルオロイソプロピルアルコール/クロロホルム=2/3(V/V;容量比)に溶解し、メタノールでポリエステルを沈殿させ、沈殿物を濾別する。濾液を蒸発乾固し、この蒸発乾固物をジメチルホルムアミドに溶解する。得られた溶液を液体クロマトグラフィー法で展開し、エチレンテレフタレート環状3量体の含有量を定量した。
【0061】
(5)缶内面樹脂と加工ポンチの離型性
実施例1〜6、比較例1〜7で得られたリメルトアルミ板を絞り加工によってカップに成形した後、100缶/分の速度で再絞り・しごき加工によって300缶連続製缶し、成形缶上部に起る座屈程度を目視観察した。評価基準は以下のとおり設定し、○を実用性ありと評価した。
○:缶開口部の座屈未発生
△:缶開口部円周の約1/3に座屈発生
×:缶開口部円周の1/3以上に座屈発生
【0062】
(6)缶外面の耐カジリ性(缶外面樹脂における縦方向のキズ)
実施例1〜6、比較例1〜7で得られたリメルトアルミ板を絞り加工によりカップに成形した後、100缶/分の速度で再絞り・しごき加工によって300缶連続製缶し、成形した缶体胴壁部外面樹脂のキズ発生程度を目視観察した。評価基準は以下のとおり設定し、○を実用性ありと評価した。
○:キズ未発生
△:外面の約1/3にキズ発生
×:外面の1/3以上に激しいキズ発生
【0063】
(7)フレーバー性
密閉型のガラス容器に充填したd−リモネン中に、5cm角の、実施例1〜6、比較例1〜7で得られたフィルム被覆金属板を浸漬させた後、40℃の恒温室で10日間静置し、d−リモネンを吸着させる。表面に付着しているd−リモネンをキムワイプで拭き取り重量W を測定した。重量W 測定後のフィルム被覆金属板を60℃で24時間真空乾燥させた後、重量W を測定した。フィルム被覆金属板から剥離したフィルムの重量W を測定した。d−リモネン吸着量を次式により求め重量%で表示した。d−リモネン吸着量が3%以下のものを実用性ありと評価した。
d−リモネン吸着量(重量%)=(W −W )/W ×100
【0064】
(8)耐衝撃性
実施例1〜6、比較例1〜7で得られたリメルトアルミ板を製缶して得た缶を280℃で40秒加熱後水中急冷した缶の胴壁中央部より7cm角のサンプルを切り出した。このサンプルの缶外面に相当する面に先端径10mmφの重り(600g)を高さ10cmから落下させて衝撃を付与する。ついで7%の希塩酸を満たしたガラス容器上にサンプルを置き(サンプルの凸部が浸漬する状態で置き)、3日後に凸部の腐蝕状態を目視観察した。評価基準は以下のとおり設定し、○を実用性ありと評価した。
○:凸部の腐蝕未発生
×:凸部の腐蝕発生
【0065】
次に、実施例および比較例に用いたポリエステルの種類と内容について説明する。
【0066】
(1)A−1:ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート(エチレンイソフタレートの繰り返し単位8モル%(PET−I(8))、(IV=0.76)
投入口、温度計、圧力計及び精留塔付留出管、撹拌翼を備えた反応装置にテレフタル酸92重量部、イソフタル酸8重量部、エチレングリコール82重量部(エチレングリコール/全酸成分のモル比=2.2)、酸成分に対して酸化ゲルマニウムをGe元素として0.05モル%、酢酸マグネシウムをMg元素として0.05モル%、そして、平均粒径1.3μmの無定形シリカ粒子0.23重量部を仕込み、撹拌しながら窒素を導入し系内の圧力を0.3MPaに保ち、温度230℃〜250℃で生成する水を系外に留去しながらエステル化反応を行った。反応終了後、250℃にて、リン酸トリメチルをP量として0.04モル%加え、昇温しながら徐々に減圧し、275℃、1.0hPa以下の真空下で重縮合反応を行いポリエステル(PET−I(8))を得た。得られたポリエステルの極限粘度は0.76(dl/g)、エチレンテレフタレート環状3量体は0.5重量%であった。
【0067】
(2)A−2:ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート(エチレンイソフタレートの繰り返し単位10モル%(PET−I(10))、(IV=0.74)
投入口、温度計、圧力計及び精留塔付留出管、撹拌翼を備えた反応装置にテレフタル酸90重量部、イソフタル酸10重量部、エチレングリコール82重量部(エチレングリコール/全酸成分のモル比=2.2)、酸成分に対して酸化ゲルマニウムをGe元素として0.05モル%、酢酸マグネシウムをMg元素として0.05モル%を仕込み、撹拌しながら窒素を導入し系内の圧力を0.3MPaに保ち、温度230℃〜250℃で生成する水を系外に留去しながらエステル化反応を行った。反応終了後、250℃にて、リン酸トリメチルをP量として0.04モル%加え、昇温しながら徐々に減圧し、275℃、1.0hPa以下の真空下で重縮合反応を行いポリエステル(PET−I(10))を得た。得られたポリエステルの極限粘度は0.74(dl/g)、エチレンテレフタレート環状3量体は0.4重量%であった。
【0068】
(3)A−3:ポリエチレンテレフタレート(PET)(IV=0.75)
投入口、温度計、圧力計及び精留塔付留出管、撹拌翼を備えた反応装置にテレフタル酸100重量部に対して、エチレングリコール82重量部(エチレングリコール/テレフタル酸のモル比=2.2)、酸成分に対して酸化ゲルマニウムをGe元素として0.05モル%、酢酸マグネシウムをMg元素として0.05モル%、そして、平均粒径1.3μmの無定形シリカ粒子0.23重量部を仕込み、撹拌しながら窒素を導入し系内の圧力を0.3MPaに保ち、温度230℃〜250℃で生成する水を系外に留去しながらエステル化反応を行った。反応終了後、250℃にて、リン酸トリメチルをP量として0.04モル%加え、昇温しながら徐々に減圧し、275℃、1.0hPa以下の真空下で重縮合反応を行いポリエステル(PET)を得た。得られたポリエステルの極限粘度は0.75(dl/g)、エチレンテレフタレート環状3量体は0.4重量%であった。
【0069】
(4)A−4:ポリブチレンテレフタレート(PBT)(IV=1.00)
投入口、温度計、圧力計及び精留塔付留出管、撹拌翼を備えた反応装置に、テレフタル酸100重量部に対して、1,4−ブタンジオール86重量部(1,4−ブタンジオール/テレフタル酸のモル比=1.6)、テトラノルマルブチルチタネート0.05重量部、ブチルヒドロキシスズオキシド0.025重量部を仕込み、190℃〜230℃で生成する水を系外に留出しながらエステル化反応を行った。反応終了後、テトラノルマルブチルチタネート0.05重量部、およびリン酸0.025重量部を添加し250℃、減圧下(1.0hPa以下)で重縮合反応を行い、得られたポリエステル(PBT、極限粘度1.00(dl/g))を用いた。
【0070】
(5)B−1:テレフタル酸/ダイマー酸(90/10)とエチレングリコールとの共重合ポリエステル
投入口、温度計、圧力計及び精留塔付留出管、撹拌翼を備えた反応装置にテレフタル酸72.5重量部、ダイマー酸27.5重量部、エチレングリコール66重量部(エチレングリコール/全酸成分のモル比=2.2)、酸成分に対して酸化ゲルマニウムをGe元素として0.05モル%、酢酸マグネシウムをMg元素として0.05モル%を仕込み、撹拌しながら窒素を導入し系内の圧力を0.3MPaに保ち、温度230℃〜250℃で生成する水を系外に留去しながらエステル化反応を行った。反応終了後、250℃にて、リン酸トリメチルをP量として0.04モル%、および酸化防止剤(商品名;イルガノックス1330)を0.05重量%加え、昇温しながら徐々に減圧し、275℃、1.0hPa以下の真空下で重縮合反応を行いダイマー酸共重合ポリエステル(B−1)を得た。得られたポリエステルの極限粘度は0.80(dl/g)、エチレンテレフタレート環状3量体は0.4重量%であった。
【0071】
(6)B−2:テレフタル酸/ダイマー酸(90/10)とエチレングリコール/1,4−ブタンジオール(30/70)との共重合ポリエステル
投入口、温度計、圧力計及び精留塔付留出管、撹拌翼を備えた反応装置にテレフタル酸72.5重量部、ダイマー酸27.5重量部、エチレングリコール28重量部、1,4−ブタンジオール57重量部、酸成分に対して酸化ゲルマニウムをGe元素として0.05モル%、酢酸マグネシウムをMg元素として0.05モル%を仕込み、撹拌しながら窒素を導入し系内の圧力を0.3MPaに保ち、温度230℃〜250℃で生成する水を系外に留去しながらエステル化反応を行った。反応終了後、250℃にて、リン酸トリメチルをP量として0.04モル%、および酸化防止剤(商品名;イルガノックス1330)を0.05重量%加え、昇温しながら徐々に減圧し、275℃、1.0hPa以下の真空下で重縮合反応を行いダイマー酸共重合ポリエステル(B−2)を得た。得られたポリエステルの極限粘度は0.80(dl/g)であった。
【0072】
(7)B−3:テレフタル酸/ダイマー酸(70/30)とエチレングリコールとの共重合ポリエステル
投入口、温度計、圧力計及び精留塔付留出管、撹拌翼を備えた反応装置にテレフタル酸56.5重量部、ダイマー酸82.5重量部、エチレングリコール66重量部、酸成分に対して酸化ゲルマニウムをGe元素として0.05モル%、酢酸マグネシウムをMg元素として0.05モル%を仕込み、撹拌しながら窒素を導入し系内の圧力を0.3MPaに保ち、温度230℃〜250℃で生成する水を系外に留去しながらエステル化反応を行った。反応終了後、250℃にて、リン酸トリメチルをP量として0.04モル%、および酸化防止剤(商品名;イルガノックス1330)を0.05重量%加え、昇温しながら徐々に減圧し、275℃、1.0hPa以下の真空下で重縮合反応を行いダイマー酸共重合ポリエステル(B−3)を得た。このポリエステルは、室温でも粘着性が激しく取扱い性に問題があった。
【0073】
(8)C−1:ワックス1重量%含有ポリエステル
ポリエステルA−3を99重量部に対して、ポリエチレンワックス(三井化学株式会社製:ハイワックス)1重量部を2軸押出機にて溶融混練して、ワックス1重量%含有ポリエステル(C−1)を得た。
【0074】
[実施例1]
(I)層の原料としてA−1/C−1=95/5(重量%)を、(II)層の原料としてB−1=100(重量%)を、それぞれ100℃で24時間乾燥し、別々の単軸押出機を用いて270℃で溶融させた後、流路内で合流させ、Tダイより層状に冷却ロール上に押出し、積層樹脂の未延伸シートを得た。該未延伸シートを予熱温度80℃、延伸温度100℃で縦方向に3.5倍延伸し、さらにテンターで予熱温度80℃、延伸温度100℃で横方向に4.0倍延伸した後、180℃で8秒間熱処理して厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0075】
これら25μmと16μmの2種類のフィルムを、250℃に加熱した3004系アルミニウム合金板(厚み0.26mm)の両面に、2種類のフィルムのそれぞれの(II)層側が接するようにニップロール間で圧着し、さらに275℃に加熱した後、水中急冷してフィルム被覆金属板を得た。
【0076】
こうして得られたフィルム被覆金属板に成形用潤滑剤を塗布した後、加熱して板温70℃とし、25μmフィルム側が内面、16μmフィルム側が外面となるように絞り加工を実施した。次いで、得られたカップの温度を40℃にして金型温度80℃で再絞り・しごき加工を実施し、350mlサイズのシームレス缶を得た。
【0077】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本実施例のフィルム被覆金属板は製缶性とフレーバー性に優れ、かつ本実施例の金属缶は耐衝撃性に優れていた。
【0078】
[実施例2]
(I)層の原料としてA−2/A−3/C−1=50/45/5(重量%)を、(II)層の原料としてB−1/A−3=80/20(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成し、さらに実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0079】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を得た。
【0080】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本実施例のフィルム被覆金属板は製缶性とフレーバー性に優れ、かつ本実施例の金属缶は耐衝撃性に優れていた。
【0081】
[実施例3]
(I)層の原料としてA−2/A−3/C−1=80/15/5(重量%)を、(II)層の原料としてB−1/A−3=80/20(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成し、さらに実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0082】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を得た。
【0083】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本実施例のフィルム被覆金属板は製缶性とフレーバー性に優れ、かつ本実施例の金属缶は耐衝撃性に優れていた。
【0084】
[実施例4]
(I)層の原料としてA−2/A−3/C−1=50/45/5(重量%)を、(II)層の原料としてB−1/A−3=40/60(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成し、さらに実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0085】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を得た。
【0086】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本実施例のフィルム被覆金属板は製缶性とフレーバー性に優れ、かつ本実施例の金属缶は耐衝撃性に優れていた。
【0087】
[実施例5]
(I)層の原料としてA−1/C−1=95/5(重量%)を、(II)層の原料としてB−1/A−1/R−1(実施例1で得られたポリエステルフィルムを再溶融して得た樹脂ペレット)=70/10/20(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成し、さらに実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0088】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を得た。
【0089】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本実施例のフィルム被覆金属板は製缶性とフレーバー性に優れ、かつ本実施例の金属缶は耐衝撃性に優れていた。
【0090】
[実施例6]
(I)層の原料としてA−2/A−3/A−4/C−1=65/10/20/5(重量%)を、(II)層の原料としてB−1/A−2/A−3/A−4=80/13/3/4(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成し、さらに実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0091】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を得た。
【0092】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本実施例のフィルム被覆金属板は製缶性とフレーバー性に優れ、かつ本実施例の金属缶は耐衝撃性に優れていた。
【0093】
[比較例1]
(I)層の原料としてA−3/C−1=95/5(重量%)を、(II)層の原料としてB−1/A−3=80/20(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成し、さらに実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0094】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を作製したが、フィルム被覆金属板を製缶した際、缶内面フィルムと加工ポンチとの離型性が悪く、缶底の一部に変形がおこり、さらに缶外面フィルムの一部にキズが発生したため、製缶速度を40缶/分に落としてシームレス缶を得た。
【0095】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本比較例のフィルム被覆金属板のフレーバー性は良好であり、金属缶の耐衝撃性も良好であったが、フィルム被覆金属板の製缶性に劣るため、実用上問題である。
【0096】
[比較例2]
(I)層の原料としてA−3/A−4/C−1=35/60/5(重量%)を、(II)層の原料としてB−1/A−3=80/20(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成した。該未延伸シートを予熱温度60℃、延伸温度90℃で縦方向に3.5倍延伸し、さらにテンターで予熱温度60℃、延伸温度90℃で横方向に4.0倍延伸した後、160℃で8秒間熱処理して厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0097】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を作製したが、フィルム被覆金属板を製缶した際、缶内面フィルムと加工ポンチとの離型性が悪く、缶底の一部に変形がおこり、さらに缶外面フィルムの一部にキズが発生したため、製缶速度を40缶/分に落としてシームレス缶を得た。
【0098】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本比較例のフィルム被覆金属板のフレーバー性は良好であり、金属缶の耐衝撃性も良好であったが、フィルム被覆金属板の製缶性に劣るため、実用上問題である。
【0099】
[比較例3]
(I)層の原料としてA−1/C−1=95/5(重量%)を、(II)層の原料としてB−2/A−3=80/20(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成し、さらに実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0100】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を得た。
【0101】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本比較例のフィルム被覆金属板は製缶性とフレーバー性に優れていたものの、得られた金属缶の耐衝撃性に劣るため好ましい方法ではない。
【0102】
[比較例4]
(I)層の原料としてA−1/C−1=95/5(重量%)を用いて、これを100℃で24時間乾燥し、単軸押出機を用いて270℃で溶融させた後、Tダイより層状に冷却ロール上に押出し、(I)層のみの単層の未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを用いて実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。
【0103】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を得た。
【0104】
ポリエステル(I)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、単層ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本比較例のフィルム被覆金属板は製缶性とフレーバー性に優れていたが、得られた金属缶の耐衝撃性に劣るため好ましい方法ではない。
【0105】
[比較例5]
(II)層の原料としてB−1/A−1=80/20(重量%)を用いて、これを100℃で24時間乾燥し、単軸押出機を用いて270℃で溶融させた後、Tダイより層状に冷却ロール上に押出し、(II)層のみの単層の未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを用いて実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。
【0106】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を作製したが、フィルム被覆金属板を製缶した際、缶内面フィルムと加工ポンチとの離型性が悪く、缶底の一部に変形がおこり、さらに缶外面フィルムの一部にキズが発生したため、製缶速度を40缶/分に落としてシームレス缶を得た。
【0107】
ポリエステル(II)層の組成、単層ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本比較例の金属缶は耐衝撃性には問題はないものの、フィルム被覆金属板のフレーバー性および製缶性に劣るため、実用上問題である。
【0108】
[比較例6]
(I)層の原料としてA−1=100(重量%)を、(II)層の原料としてB−1=100(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成し、さらに実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0109】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を得たが、得られた缶の一部に傷および変形が確認された。
【0110】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本比較例のフィルム被覆金属板はフレーバー性に優れ、得られた金属缶の耐衝撃性も優れていたが、フィルム被覆金属板の製缶性に劣るため好ましい方法ではない。
【0111】
[比較例7]
(I)層の原料としてA−1/C−1=95/5(重量%)を、(II)層の原料としてA−3=100(重量%)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により積層樹脂の未延伸シートを作成し、さらに実施例1と同様に延伸工程および熱処理工程を経て厚みが25μmと16μmの2種類のポリエステルフィルム(200mのロール状フィルム)を得た。これらのフィルムの各層厚みの比率は(I)層/(II)層=1/1であった。
【0112】
これらのフィルムを用いて実施例1と同様にフィルム被覆金属板および、350mlサイズのシームレス缶を得た。
【0113】
ポリエステル(I)層、(II)層の組成、ポリエステル(I)層の融点、ポリエステルフィルムの極限粘度を表1に、フィルム被覆金属板の製缶性(缶内面フィルムとポンチの離型性と缶外面フィルムのキズ発生程度)、フレーバー性、フィルム被覆金属板を製缶して得られる金属缶の耐衝撃性を表2に示す。本比較例のフィルム被覆金属板は製缶性とフレーバー性に優れていたが、得られた金属缶の耐衝撃性に劣るため好ましい方法ではない。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の金属板被覆用ポリエステルフィルムは、該ポリエステルフィルムを被覆することによって製缶性(特に、過酷な条件下での製缶時の缶内面フィルムと加工ポンチの離型性と缶外面フィルムの耐キズつき性)とフレーバー性に優れたポリエステルフィルム被覆金属板が得られ、かつ上記ポリエステルフィルム被覆金属板を製缶することにより優れた耐衝撃性を有するポリエステルフィルム被覆金属缶が得られるため、清涼飲料、ビール、缶詰等の金属容器の腐蝕防止等の目的で使用される金属板被覆用ポリエステルフィルムとして、又、該ポリエステルフィルムを金属板に被覆したポリエステルフィルム被覆金属板として、或いは該ポリエステルフィルム被覆金属板を成形してなるポリエステルフィルム被覆金属容器として極めて有用であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)層/(II)層の複合構成であり、(I)層がエチレンテレフタレートとエチレンイソフタレートとの共重合ポリエステルであり、(II)層がテレフタル酸、炭素数20以上の長鎖脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコールからなる共重合ポリエステルであり、少なくとも(I)層の共重合ポリエステルにワックス成分を0.01〜0.15重量%含有することを特徴とする金属板被覆用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
請求項1に記載のワックス成分が、パラフィン系ワックス、ポリエチレンワックス、エステル系ワックス、グリセリン脂肪酸エステル、高級脂肪酸モノアミドから選ばれた1種または2種以上であることを特徴とする金属板被覆用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属板被覆用ポリエステルフィルムが2軸延伸ポリエステルフィルムであることを特徴とする金属板被覆用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の金属板被覆用ポリエステルフィルムを、金属板の少なくとも片面に、上記(II)層側が金属板と相接するように被覆してなることを特徴とするポリエステルフィルム被覆金属板。
【請求項5】
請求項4に記載のポリエステルフィルム被覆金属板を成形してなることを特徴とするポリエステルフィルム被覆金属容器。