説明

金属板製道具箱

【課題】頑丈でしかも曲げ製造が容易なスチール製道具箱を提供する。
【手段】道具箱は本体1と蓋2とを有しており、本体1と蓋2との開口部には、端面板13,28と内角部16,31と内周板15,30とを有する角筒部21,36が形成されている。角筒部21,36の内角部16,31には多数のスリット23が飛び飛びに形成されている。角筒部21,36の存在によって本体1及び蓋2は高い強度が確保され、かつ、スリット23の存在により、内角部16,31の曲げ加工を軽い力で行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、スチール板のような金属板を材料として製造された道具箱(工具箱)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道具箱は、プラスチック製のものとスチール製(金属板製)のものとに大別され、このうちスチール製のものは頑丈でしかも変形しにくいという利点がある。この金属板製の道具箱は本体と蓋とを必須の要素としており、一般に、蓋は蝶番で本体に開閉自在に取り付けられている。蓋は、1つの場合と2つが観音開きになっている場合とがある。
【0003】
大型のスチール製道具箱の一例が特許文献1に記載されている。すなわちこの特許文献1では、本体は、その周囲を構成する4枚の囲い板(壁板)の上端部は内側に突出した角筒部になっており、このため高い強度が確保されている。他方、蓋は本体に被さるようにトレー状になっている。
【0004】
特許文献2の道具箱は手提げ式のような持ち運び自在なものを対象にしていると推測され、本体の開口縁と蓋の開口縁とに外向きに突出したフランジを曲げ形成して、閉蓋状態で両者のフランジが重なるように設定している。より正確に述べると、特許文献2では、蓋におけるフランジの外周には囲い壁が形成されており、このため、蓋のフランジは本体のフランジに外側から被さっている(図7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平03−79281号のマイクロフィルム
【特許文献2】実開平05−39880号のCD−ROM
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のように本体と蓋とのフランジを形成しただけでは、補強機能が高くないため重量物を収納する道具箱の場合は変形し易くなるおそれがあるが、特許文献1のように本体の開口縁に角筒部を形成すると、上記したように高い強度を確保できる利点がある。また、本体の上端を構成する角筒部はある程度の幅の平坦面を有しているため、閉蓋状態で本体と蓋とは面当たりしており、このため、閉蓋状態での蓋の支持安定性も高い。
【0007】
しかし、本体の角筒部を加工するのに大きな外力を要する問題や、加工精度を高くできないおそれがある問題が懸念される。つまり、曲げ加工するに際して強い押圧力を要するため、材料を強い力でしっかりと押さえておらねばならず、すると、加圧力が大きいプレス機が必要になる問題が生じたり、押さえが不完全になって加工精度が悪くなったりするおそれがある。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の道具箱は、上向きに開口した金属板製の本体と、前記本体を上から塞ぐ金属板製の蓋とを備えており、前記本体は、外周板の上端に水平状の端面板が外角部を介して内側に向けて折り曲げ形成された構成である一方、前記蓋は、外周板の下端に外角部を介して端面板が内側に向けて折り曲げ形成された構成であり、閉蓋状態において前記本体の端面板と蓋の端面板とが面当たりしている、という基本構成になっている。
【0010】
そして、請求項1の発明では、前記本体の端面板と蓋の端面板とのうち少なくともいずれか一方の端面板の先端縁に内角部を介して内周板が繋がっており、前記内角部に、当該内角部の曲げ強度を弱くするための抜き穴が飛び飛びの状態で多数形成されている。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1において、前記端面板と内周板とは略直角の姿勢で交叉していると共に、前記内周板の先端には前記外周板に向いて突出した中板が中角部を介して繋がっており、このため、前記外周板と端面板と内周板と中板とで角筒部が構成されており、更に、前記内角部に、前記抜き穴として、それら内角部及び中角部の長手方向に長く延びるスリットが飛び飛びに形成されている。
【発明の効果】
【0012】
本願発明によると、本体又は蓋の開口部に端面板と内周板とを曲げ形成したことにより、本体又は蓋は高い強度を確保することができ、また、閉蓋状態で本体と蓋とは端面板が面当たりしているため、閉蓋状態での安定性も高い。
【0013】
そして、本体又は蓋の開口部に内周板を設けるにおいて、内角部に多数の抜き穴を飛び飛びに設けているため、内角部の曲げ加工に要する力は従来に比べ格段に小さくて良い。このため内周板の曲げ加工を従来よりも軽い力で確実に行えると共に、スプリングバックや残留応力も防止できるため、加工精度も向上できる。また、外周板と端面板とが繋がった外角部に抜き穴を形成するのではなく、端面板と内周板とが繋がった内角部に抜き穴を形成したものであるため、強度が過度に低くなることも防止できる。更に、抜き穴の群が模様のような効果を発揮することで美感にも優れていると言える。
【0014】
内周板は端面板と重なるように折り返すことも可能であるが、請求項2のように内周板を端面板と直交させて角筒部を構成すると、断面係数が格段に大きくなるため高い強度を確保できて好適である。また、抜き穴としては例えば丸穴や正方形とすることも可能であるが、請求項2のように抜き穴として細長いスリットを形成すると、少ない個数で所望の弱化効果を得ることができるため、板材を間欠移動させながら1つのパンチで穴空け加工する場合に作業能率を向上できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態の外観図で、(A)は閉蓋状態の斜視図、(B)は開蓋状態の斜視図である。
【図2】開蓋状態での破断斜視図である。
【図3】(A)は蓋の展開図、(B)は本体の展開図である。
【図4】図1(A)の IV-IV視断面図である。
【図5】第2実施形態の斜視図である。
【図6】第3実施形態の分離斜視図である。
【図7】第3実施形態の分離破断斜視図である。
【図8】第4〜6実施形態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
(1).第1実施形態
まず、第1実施形態を説明する。道具箱は平面視長方形であり、上向きに開口した本体1と、閉蓋状態で蓋2に向けて開口した浅い箱状の蓋2とを有する。蓋2は、1つの長辺部を中心にして回動するようにヒンジ3で本体1の長辺部に連結されている。また、蓋2には上向きに開口した凹所4が形成されており、この凹所4に把手5を回動自在に連結している。把手5の回動軸心は平面視で蓋2の長手中心線と重なっている。
【0018】
本体1のうちヒンジ3と反対側の外壁面には閉止用のレバー6を設けており、他方、蓋2のうちヒンジ3と反対側の外壁面にはレバー6が引っ掛かるフック7を設けている。本体1及び蓋2の各コーナー部には、三面に重なる金属製の補強カバー(コーナー金具)8がかしめ固定されている。
【0019】
本体1は1枚のスチール板で製造されており、図2に示すように、平面視長方形の底板10と、底板10の外周縁に底角部11を介して繋がった4枚の外周板12とを有しており、各外周板12の上端には水平姿勢で内向きの端面板13が外角部14を介して一体に繋がっており、各端面板13の先端縁には、鉛直姿勢で下向きの内周板15が内角部16を介して一体に繋がっており、更に、各内周板15の下端縁には、外周板12に向けて延びる水平姿勢の中板17が中角部18を介して一体に繋がっている。
【0020】
また、中板17の先端には、外周板12に重なる補助片19が補助角部21を介して一体に繋がっており、補助片19は外周板12にスポット溶接で固定されている。このように外周板12の上端に端面板13と内周板15と中板17とが一体に繋がっていることにより、各外周板12の上端(本体1の開口縁)に角筒部21が形成されており、このため本体1は頑丈な構造になっている。角筒部21は上下に長い形状になっている(底板10まで延長することも可能である。)。なお、補助片19を設ける場合、下向きに突出させることも可能である。
【0021】
この場合、本体1の長辺方向に延びる角筒部21は本体1の長手方向の全長にわたって延びており、短辺方向に延びる角筒部21は、長辺の角筒部21の幅寸法だけ短くなっているが、逆の関係にしても良い。また、角筒部21の端部を平面視で45度にカットして、隣り合った角筒部21の端面を突き合わせることも可能である。
【0022】
隣り合った角筒部21は互いに溶接で固定されている。また、隣り合った外周板12も溶接で固定されている。図2に一点鎖線で示すように、隣り合った外周板12のうちいずれか一方にフラップ22を曲げ形成して、フラップ22を他方の外周板12にスポット溶接してもよい。本実施形態のように各コーナー部に三面から覆う補強カバー8を固定すると、外周板12や角筒部21に内側から力が掛かっても隣り合った外周板12が離反することはないため、高い堅牢性を確保できる。
【0023】
本体1の内角部16には、当該内角部16の長手方向に長いスリット23が一定ピッチで多数形成されている。各スリット16の長さL1と隣り合ったスリット16の間の間隔L2とは任意に設定できるが、内角部16の曲げ強度を弱くする機能を確保するためには、L1はL2の数倍あるのが好ましい。
【0024】
蓋2は天板25を有しており、天板25の四周には外周板26が天角部27を介して一体に繋がっており、外周板26の下端(先端)には端面板28が外角部29を介して一体に繋がっており、端面板28には内周板30が内角部31を介して一体に繋がっており、内周板30の先端には中板32が中角部33を介して一体に繋がっている。また、中板32の先端には、外周板29に重なる補助片34が補助角部35を介して一体に繋がっており、補助片34は外周板29にスポット溶接されている。
【0025】
従って、蓋2の開口部にも角筒部36が形成されている。蓋2においても、長辺方向に長く延びる角筒部36は全長にわたる長さであり、短片方向に延びる角筒部36は長手方向の角筒部36に当接するように両端がカットされている。そして、蓋2においても内角部31に多数のスリット23を形成している。スリット23の長さ及びピッチは本体1の場合と同様である。蓋2は浅いので、隣り合った角筒部36を溶接で固定しなくても、補強カバー8による固定のみでも足りる(もとより、隣り合った角筒部36を溶接することは可能である。)。
【0026】
蓋2を構成する天板25には凹所4に対応した穴38が空いており、この穴38の箇所に凹所4を有するケース39が溶接で固着されている。ケース39には予め把手5が取り付けられており、把手5付きのケース39を天板25の内面に溶接している。
【0027】
本体1と蓋2はそれぞれ平面視矩形のスチール板を素材として製造される。すなわち、図3に示すようにスチール板を展開状態に打ち抜き、次いで、順次曲げ加工を施し、それから溶接や補強カバー8のかしめ付けが行われる。曲げ加工は、本体1を例に取ると、補助角部20→中角部18→内角部16→外角部14→底角部11の順番で行われる。各外周板12について補助角部20,中角部18,内角部16,外角部14を曲げ加工してから、先に短片部の底角部11を曲げ加工し、次いで、長辺部の底角部11を曲げ加工する。それから溶接や保護カバー8のかしめ付けを行う。
【0028】
そして、内角部16には多数のスリット23が形成されているため、内角部16を軽い力で曲げ加工することができ、しかも、内角部16はシャープな折り目線を有する状態に形成される。また、内角部16にスリット23の群が存在することにより、当該内角部16の箇所のスプリングバックを無くすことができるため、角筒部21を正確な寸法に仕上げることができる。蓋2も同様である。中角部18,33や補助角部20,35にスリット23を形成することも可能である。
【0029】
(2).他の実施形態・その他
本願発明は複数の蓋を備えた道具箱にも適用できる。その一例の外観を第2実施形態として図5で示している。本体1は平面視長方形であり、2つの蓋2は本体1の長辺部にヒンジ3で連結されている。本実施形態では、把手5は本体1に取り付けている。図では省略しているが、本体1及び蓋2の内角部16,31にはスリットを形成している。
【0030】
図6,7に第3実施形態として示すように、本願発明はトレー40,41を有する道具箱にも適用できる。この実施形態では上段トレー40と下段トレー41との2段のトレーを有しており、両トレー40,41の上端縁には外向きに張り出した角筒状のフランジ42が一体に形成されている。
【0031】
他方、本体1における内周板15には、上段トレー40のフランジ42が載る上段部43と、下段トレー41のフランジ42が載る下段部44とを曲げ形成している。上下の段部43,44はそれぞれ内周板15に角部43a,43b,44a,44bを曲げ形成することで構成されているが、本実施形態では、これらの角部43a,43b,44a,44bにもスリット23を形成しているが、スリットのない状態で曲げることも可能である。なお、トレーは1段のみでもよいし、3段以上あってもよい。
【0032】
図8では第4〜6実施形態を示している。これらは本体1で例示しており、(A)に示す第4実施形態では、内周板15を折り返して端面板13の下面に密着させている。また、(B)に示す第5実施形態では、内周板15を傾斜姿勢にしてその先端を外周板12に当接させている。更に(C)に示す第6実施形態では、中板17を傾斜姿勢にしてその先端を外周板12に当接させている。これらの例から理解できるように、本体1及び蓋をその開口部に筒部がない形態としたり、三角形や台形の筒部とすることも可能である。
【0033】
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば、大きさや縦横の寸法、深さ(高さ)などは任意に設定できる。蓋と本体との深さを同じ程度にしたり、逆に、蓋をトレー状(箱状)とせずに中空の板状とするといったことも可能である。蓋の内角部のみにスリットのような抜き穴を形成することも可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 本体
2 蓋
3 ヒンジ
10 本体の底板
12,26 外周板
13,28 端面板
14,29 外角部
15,30 内周板
16,31 内角部
17,32 中板
18,33 中角部
19,34 補助片
21,36 角筒部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上向きに開口した金属板製の本体と、前記本体を上から塞ぐ金属板製の蓋とを備えており、前記本体は、外周板の上端に水平状の端面板が外角部を介して内側に向けて折り曲げ形成された構成である一方、前記蓋は、外周板の下端に外角部を介して端面板が内側に向けて折り曲げ形成された構成であり、閉蓋状態において前記本体の端面板と蓋の端面板とが面当たりしている、という構成であって、
前記本体の端面板と蓋の端面板とのうち少なくともいずれか一方の端面板の先端縁に内角部を介して内周板が繋がっており、前記内角部に、当該内角部の曲げ強度を弱くするための抜き穴が飛び飛びの状態で多数形成されている、
金属板製道具箱。
【請求項2】
前記端面板と内周板とは略直角の姿勢で交叉していると共に、前記内周板の先端には前記外周板に向いて突出した中板が中角部を介して繋がっており、このため、前記外周板と端面板と内周板と中板とで角筒部が構成されており、更に、前記内角部に、前記抜き穴としてスリットの群が飛び飛びに多数形成されている、
請求項1に記載した金属板製道具箱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−245589(P2011−245589A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120892(P2010−120892)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(504279511)コージ産業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】