説明

金属水素化物微粒子、その製造方法、金属水素化物微粒子を含有する分散液及び金属質材料

大気中でも酸化されにくく保存安定性に優れた、金属質材料を形成するのに最適な、平均粒子径が50nm以下の銅、ニッケル又はパラジウムの水素化物微粒子及びその製造方法を提供する。また、さらには、保存安定性に優れた、銅、ニッケル又はパラジウムの水素化物微粒子を含有する分散液及びそれを塗布、焼成して得られる金属質材料を提供する。本発明により、得られる銅、ニッケル又はパラジウムの水素化物微粒子及びその分散液は、その様々な用途に応じて適用でき、例えば、分散液を利用したプリント配線等の形成・修復、半導体パッケージ内の層間配線、プリント配線板と電子部品の接合等の用途に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、大気中でも酸化されにくく保存安定性に優れた、金属質材料を形成するのに最適な、銅、ニッケル又はパラジウムの水素化物微粒子及びその製造方法に関する。また、さらには、保存安定性に優れた、銅、ニッケル又はパラジウムの水素化物微粒子を含有する分散液及びそれを塗布、焼成して得られる金属質材料に関する。
【背景技術】
近年、銅等の金属微粒子を液中に分散させた分散液からなるインクを使用して、パターンを形成して加熱処理することにより、金属微粒子同士を相互に焼結させて、導電体を形成する様々な方法が検討されている。例えば、特開2002−324966号公報に開示されているように、プリント配線等の回路パターンの形成及び修復等をインクジェット印刷法で形成する方法や、特開2002−126869号公報に開示されているように、従来のハンダ付け方法に代わる、金属間を接合する方法や、特開2002−334618号公報に開示されているように、電子材料分野におけるメッキ膜と代替可能な、導電性金属膜を形成する方法等が挙げられる。
上述の方法は、従来より公知の金属粒子の表面融解現象という性質を利用している(「ジャーナルオブゾルゲルサイエンスアンドテクノロジー(J.Sol−Gel Science and Technology)」,(オランダ)、クルーワーアカデミックパブリッシャーズ(Kluwer Academic Publishers),2001年、第22巻、p.151−166)。一般に、金属粒子の表面融解現象は、粒子表面にある原子の異常格子振動によって起こり、粒子径が小さく、表面原子比率が高ければ高いほど表面融解温度が低下することが知られている。例えば、銅の場合、バルク体の融点は1083℃であるが、直径10nm程度の微粒子の場合、およそ150℃から表面融解が生じることが知られている。この表面融解現象は金属粒子の粒子径に依存しているため粒子同士が完全固着しない限り、一個一個の金属微粒子が所定の粒子径を有していれば、会合状態であっても起こる現象である。
しかし、一般に、金属は、貴金属を除いて酸化されやすく、粒子径が100nm以下の微粒子になると、表面積が大きくなることから表面酸化の影響が顕著になり、導電体を形成する際にも金属微粒子の表面が酸化されるために導電性が得られにくくなることがあるという問題を有している。
【発明の開示】
本発明は、平均粒子径が50nm以下である、銅、ニッケル又はパラジウム(以下、本金属という)の水素化物微粒子(以下、本水素化物微粒子という)を提供する。
また、本発明は、本金属の水溶性化合物(以下、本水溶性金属化合物という)に水を添加して、本金属のイオン(以下、本金属イオンという)を含有する水溶液を得る工程;前記水溶液に酸を加え、pH3以下に調整する工程;前記pH3以下に調整された水溶液に、アミノ基、アミド基、スルファニル基(−SH)、スルフィド型のスルファンジイル基(−S−)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基及びエーテル型のオキシ基からなる群より選ばれる1以上の基を有する炭素数4〜100の有機化合物(以下、単に本保護剤という)、及び非水溶性の有機性液体を添加する工程;次いで、撹拌しながら還元剤を加えて水溶液中の本金属イオンを還元して、平均粒子径50nm以下の本水素化物微粒子を生成させる工程;を経る本水素化物微粒子の製造方法を提供する。
また、本発明は、得られた本水素化物微粒子が、その表面を、本保護剤により被覆された状態で非水溶性の有機性液体中に分散している分散液、及び、その分散液を被塗布物に塗布した後、焼成して得られる金属質材料も提供することを目的とする。
発明を実施するための形態
本水素化物微粒子は、本金属の原子と水素原子が結合した状態で存在する。このため、本水素化物微粒子は、空気雰囲気中において、本金属自体の微粒子に比べて酸化されにくく安定であり、保存性に優れているので好ましい。本水素化物微粒子としては、銅又はニッケルの水素化物微粒子が、電気抵抗値の低い金属質材料が得られることから特に好ましい。
本水素化物微粒子は、温度60〜100℃において本金属と水素に分解する性質を有する。このため、本水素化物微粒子を被塗布物に塗布して焼成する際、本金属自体の微粒子とは異なり、微粒子表面に金属酸化物皮膜が形成されることがほとんどない。したがって、表面溶融現象の性質により、本金属微粒子同士が溶融、結合して、すみやかに、金属質材料を形成することができるので好ましい。焼成温度は、温度150〜600℃が好ましい。
本水素化物微粒子は、平均粒子径50nm以下である。これにより、微細な配線の形成が可能となるので好ましい。本水素化物微粒子の粒子径は小さいほど、表面溶融温度が低下するため表面融着が起こりやすくなり、また、緻密な金属質材料が形成できることから導電性の向上が期待できるため好ましい。本水素化物微粒子は平均粒子径5〜30nmであることが特に好ましい。
本発明では、本水素化物微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して測定される。本発明では、微粒子の粒子径とは、観察される1次粒子の粒子直径のことをいい、また、平均粒子径とは、観測された微粒子のうち、無作為に抽出した100個の微粒子の平均値をとったもので定義する。
本水素化物微粒子は湿式還元法により製造することが好ましい。原料である本水溶性金属化合物を水に溶解して本金属イオンを含有する水溶液を作成し、酸を加えてpH3以下に調整した後、本保護剤及び非水溶性の有機性液体を加えて、その後、撹拌しながら、還元剤を加えて本金属イオンを還元して、本水素化物微粒子を生成させることができる。
この本水素化物微粒子を生成させる際、本金属イオンを含有する水溶液からなる水層と本保護剤及び非水溶性の有機性液体からなる油層を撹拌することにより、水分と油分の懸濁液が形成される。この懸濁液の水分中において、本金属イオンが酸性下で還元剤により還元され、徐々に本水素化物微粒子が成長して平均粒子径50nm以下の微粒子が得られる。この得られた本水素化物微粒子はすぐに、油分中に溶け込んでいる本保護剤により表面を覆われ、油分中に取り込まれて安定化すると考えられる。なお、上記還元反応の温度は5〜60℃が好ましく、10〜40℃が特に好ましい。反応温度が60℃超であると、得られた本水素化物微粒子が分解するおそれがあるため好ましくない。
本水素化物微粒子が生成した後、この懸濁液を放置すると、水層と油層の2層に分離する。この油層を回収することにより、非水溶性の有機性液体中に分散された本水素化物微粒子の分散液として得られる。この分散液は、そのままか又はその他の添加物を適宜加えることにより金属質材料を形成するためのインク(以下、単にインクという)として使用できる。この得られた分散液又はインクは、本水素化物微粒子が非水溶性の有機性液体中に分散しているため、従来より問題となっている大気中での保存による金属の酸化を防止することができるので好ましい。また、本水素化物微粒子を含有する分散液は、本水素化物微粒子が本保護剤により表面が被覆されているため本水素化物微粒子同士が凝集しにくく安定して分散しているので好ましい。
また、本水溶性金属化合物としては、本金属の硫酸塩化合物、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物又はヨウ化物等が挙げられる。本水溶性金属化合物は、濃度0.1〜30質量%の水溶液とすることが好ましい。本水溶性金属化合物の水溶液が濃度0.1質量%未満であると、大量の水が必要であり、また、得られる本水素化物微粒子の生産効率のよくないことから好ましくなく、濃度30質量%超であると、得られる本水素化物微粒子の凝集安定性が低下するため好ましくない。
また、pH調整するための酸としては、クエン酸、マレイン酸、マロン酸、酢酸、プロピオン酸、硫酸、硝酸、塩酸等が好ましく、また、本金属イオンと安定な錯体を形成して本金属イオンへの水和水の吸着を防止することから、クエン酸、マレイン酸、マロン酸が特に好ましい。このpH3以下とすることにより、水溶液中の本金属イオンが、その後添加される還元剤の作用により本水素化物微粒子として得られやすくなるので好ましい。pH3超であると、本水素化物微粒子が得られず、本金属微粒子となるおそれがあるため好ましくない。本本水素化物微粒子を短時間で生成させることができることから、pHは1〜2が特に好ましい。
本発明では、還元剤は、本金属イオンに対して、1.5〜10倍の当量数を添加することが好ましい。還元剤の添加量が金属イオンに対して、1.5倍当量数未満であると、還元作用が不十分となり好ましくなく、10倍当量数超であると、得られる本水素化物微粒子の凝集安定性が低下するため好ましくない。還元剤としては、大きな還元作用があることから金属水素化物が好ましく、例えば、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化リチウム、水素化カリウム、水素化カルシウムが挙げられる。金属水素化物は、水素化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムが特に好ましい。
また、本発明では、還元剤を加える前に、本金属イオンを含有する水溶液に本保護剤を加えることが好ましい。この本保護剤を加えることにより本水素化物微粒子が得られた後、本水素化物微粒子の表面を配位するように被覆するので好ましい。これにより、分散液又はインク中の本水素化物微粒子が、酸化されにくくなり、また、本水素化物微粒子同士の凝集を防止する効果があるので好ましい。
本保護剤は、炭素数4〜100である。炭素数が4未満であると、得られる本水素化物微粒子の分散液中での凝集安定性が充分でなくなるおそれのあることから好ましくない。また、炭素数100超であると、焼成により金属質材料を得る際、インク堆積中に炭素が残存して体積抵抗率が増加しやすくなることから好ましくない。また、本保護剤は、飽和、不飽和のいずれのものでもよく、鎖状のものが好ましく、直鎖状のものが特に好ましい。また、本保護剤は、炭素数4〜20であるものが好ましく、これにより、熱的な安定性があり、蒸気圧も適度であり、ハンドリング性も良いことから好ましい。本保護剤は炭素数8〜18であるものが特に好ましい。
また、本保護剤は、分子内においてアミノ基、アミド基、スルファニル基(−SH)、スルフィド型のスルファンジイル基(−S−)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基及びエーテル型のオキシ基からなる群より選ばれる1以上を有する。これらの基は分子内に多ければ多いほど、本水素化物微粒子に、より強く配位して被覆することができるので好ましい。また、これらの基は、分子内のいずれの位置でもかまわないが、末端にあるものが特に好ましい。
また、本保護剤は、通常の保管環境の温度範囲で本水素化物微粒子から脱離せず、また、焼成を行う際には、速やかに金属微粒子表面から脱離することが必要であることから、沸点60〜300℃のものが好ましく、100〜250℃のものが特に好ましい。
本保護剤としては、アミノ基又はアミド基を含む有機化合物としては、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン、ステアリルアミド、オレイルアミド等が挙げられる。スルファニル基、スルフィド型のスルファンジイル基を含む有機化合物としては、デカンチオール、ドデカンチオール、トリメチルベンジルメルカプタン、ブチルベンジルメルカプタン、ヘキシルサルファイド等が挙げられる。ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エーテル型のオキシ基を含む有機化合物としては、ドデカンジオール、ヘキサデカンジオール、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドデカンジオン、ジベンゾイルメタン、エチレングリコールモノデシルエーテル、ジエチレングリコールモノデシルエーテル、トリエチレングリコールモノデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノデシルエーテル、エチレングリコールモノドデシルエーテル、ジエチレングリコールモノドデシルエーテル、トリエチレングリコールモノドデシルエーテル、テトラエチレングリコールモノドデシルエーテル、エチレングリコールモノセチルエーテル、ジエチレングリコールモノセチルエーテル等が挙げられる。なかでも、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン又はベンジルアミン等のアミノ基を有する化合物が本金属イオンを水層から油層へ効率よく回収できることから特に好ましく、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン又はヘキサデシルアミンが最も好ましい。
本保護剤は、使用されるインクの用途により適宜選択されるが、本水素化物微粒子100質量部に対して5〜300質量部添加することが好ましい。
本発明では、非水溶性の有機性液体(以下、単に有機性液体という)は、分散液中での溶媒としての機能を有するため、本水素化物微粒子の表面を被覆する本保護剤と親和性のよい極性の少ないものが好ましい。さらには、有機性液体は、金属質材料を形成する際にも、塗布後、加熱することにより、比較的速やかに蒸発し、熱分解を起こさないような熱的安定性を有するものが好ましい。有機性液体としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、デセン、ドデセン、テトラデセン、シクロヘキサン、シクロオクタン、ジペンテン、テルペン、テルピネオール、キシレン、トルエン、エチルベンゼン及びメシチレンからなる群より選ばれる1以上のものを使用できる。有機性液体は、使用されるインクの用途により適宜選択されるが、本水素化物微粒子100質量部に対して20〜270質量部添加することが好ましい。
本発明において、分散液を使用してインクを作成する場合、その用途により適宜変わるため、一概にはいえないが、本水素化物微粒子の濃度は、インクに対して5〜60質量%が好ましく、10〜50質量%が特に好ましい。本水素化物微粒子が濃度5質量%未満であると、焼成後のインク堆積硬化物の厚さが十分に得られにくく、得られた金属質材料の導電性が低下することがあるので好ましくない。また、濃度60質量%超であると、インクの粘度、表面張力等のインク特性が悪化し、インクとして使用することが困難になるので好ましくない。インクには、その用途に応じて適宜、添加剤、有機バインダ等を添加することができる。
本発明では、金属質材料を形成するためのインクを塗布する方法としては、従来より公知の様々な方法で行うことができる。塗布方法としては、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ロールコータ、エアナイフコータ、ブレードコータ、バーコータ、グラビアコータ、ダイコータ、スプレーコータ、スライドコータ等の方法が挙げられる。なかでも、インクジェット印刷による方法が特に好ましい。インクジェットプリンタで印刷する場合は、インク吐出孔は20μm程度であり、インク液滴径は、吐出後空間飛翔時に変化し、被着体に着弾した後、被着体上で広がることが好ましい。吐出直後のインクの径は、吐出孔径程度であるが、被着体着弾後には、付着したインクの直径は5〜100μm程度まで広がる。したがって、インク中の微粒子は、インク粘性等に影響を与えない限り凝集していてもよく、その場合の凝集径としては2μm以下が好ましい。
本発明において、インクを塗布した後、金属質材料を得るための焼成方法としては、温風加熱、熱輻射等の方法が挙げられる。加熱温度及び処理時間は実際に求められる重要特性に基づいて適宜決定できる。
本発明の金属質材料は、焼成後において、体積抵抗率が100μΩcm以下であることが好ましい。体積抵抗率が100μΩcm超であると、電子部品の導電電極としての使用が困難となる場合が生じることがあるので好ましくない。
【実施例】
以下に本発明の実施例(例1〜6、例10及び例11)及び比較例(例7〜9及び例12)を示す。なお、本実施例で得られた、本水素化物微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(日立製作所製、型式:H−9000)又は走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、型式:S−900)により測定した。X線回折は、リガク機器社製のRINT2500により測定した。
[例1]
ガラス容器内において、塩化銅(II)二水和物5gを蒸留水150gで溶解して銅イオンを含有する水溶液を得た。このとき、得られた水溶液のpHは3.4であった。これに、40%クエン酸水溶液90g(%は質量%を意味する)を加え、しばらく撹拌したところ、得られた水溶液のpHは1.7となった。この水溶液に、ドデシルアミン5g及びシクロヘキサン10gを混合した溶液を加えて激しく撹拌しながら、3%水素化ホウ素ナトリウム水溶液150gをゆっくり滴下した。滴下終了後、1時間静置して、水層と油層に分離させた後、油層のみを回収して、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。このインクを1日放置させたところ、インクは黒色のままであった。このインク中の微粒子を回収してX線回折で同定を行ったところ、水素化銅であることが確認された。また、このインクを乾燥して得られた微粒子粉末について、微粒子の大きさを測定すると、平均粒子径はおよそ10nmであることが確認された。インク中の水素化銅微粒子の濃度は20%であった。この1日放置後のインクをインクジェットプリンタで吐出し、乾燥させた後、形成されたインク堆積物を、窒素雰囲気中で、500℃で1時間熱処理したところ、厚さ4μmの膜が形成された。この膜の体積抵抗率を測定したころ、15μΩcmであった。また、この膜をX線回折で同定を行ったところ、金属銅であることが確認された。以下、金属の同定はX線回折による。
[例2]
例1において、ドデシルアミンの代わりにドデカンチオールを使用し、シクロヘキサンの代わりにトルエンを使用した以外は、同様にして操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は水素化銅であり、平均粒子径はおよそ10nmであることが確認された。また、例1と同様にして膜を形成させたところ、膜の体積抵抗率は、18μΩcmであり、金属銅であることが確認された。
[例3]
例1において、ドデシルアミンの代わりに、アミノ基、アミド基及びエーテル型のオキシ基を有する、市販されている3%の高分子分散剤(BykCemie社製、商品名:Anti−Terra−U、炭素数は60〜70程度)を使用し、シクロヘキサンの代わりにテトラデカンを使用した以外は、同様にして操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は水素化銅であり、平均粒子径はおよそ10nmであることが確認された。また、例1と同様にして膜を形成させたところ、膜の体積抵抗率は、20μΩcmであり、金属銅であることが確認された。
[例4]
例1において、クエン酸水溶液の代わりに40%マレイン酸水溶液54gを使用した以外は、同様にして操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は水素化銅であり、平均粒径はおよそ12nmであることが確認された。インク中の水素化銅微粒子の濃度は14%であった。また、例1と同様にして膜を形成させたところ、膜の体積抵抗率は、15μΩcmであり、金属銅であることが確認された。
[例5]
例1において、クエン酸水溶液の代わりに40%マロン酸水溶液47gを使用した以外は、同様にして操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は水素化銅であり、平均粒径はおよそ11nmであることが確認された。インク中の水素化銅微粒子の濃度は11%であった。また、例1と同様にして膜を形成させたところ、膜の体積抵抗率は、15μΩcmであり、金属銅であることが確認された。
[例6]
例1において、クエン酸水溶液の代わりに35%塩酸水溶液21gを使用した以外は、同様にして操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は水素化銅であり、平均粒径はおよそ11nmであることが確認された。インク中の水素化銅微粒子の濃度は14%であった。また、例1と同様にして膜を形成させたところ、膜の体積抵抗率は、15μΩcmであり、金属銅であることが確認された。
[例7]
例1において、クエン酸水溶液を添加しないこと以外は、同様にして操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。得られたインクを1日放置したところ、インクは黄色に変色していた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は亜酸化銅(CuO)であり、平均粒子径はおよそ10nmであることが確認された。また、例1と同様にして膜を形成させたところ、膜の体積抵抗率は、電気が流れず測定できなかった。また、この膜をX線回折装置で同定を行ったところ、亜酸化銅(CuO)であることがわかった。
[例8]
例2において、クエン酸水溶液を添加しないこと以外は、同様にして操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。得られたインクを1日放置したところ、インクは黄色に変色していた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は亜酸化銅(CuO)であり、平均粒子径はおよそ10nmであることが確認された。また、例1と同様にして膜を形成させたところ、膜の体積抵抗率は、電気が流れず測定できなかった。また、この膜をX線回折装置で同定を行ったところ、亜酸化銅(CuO)であることがわかった。
[例9]
例3において、クエン酸水溶液を添加しないこと以外は、同様にして操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。得られたインクを1日放置したところ、インクは黄色に変色していた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は亜酸化銅(CuO)であり、平均粒子径はおよそ10nmであることが確認された。また、例1と同様にして膜を形成させたところ、膜の体積抵抗率は、電気が流れず測定できなかった。また、この膜をX線回折装置で同定を行ったところ、亜酸化銅(CuO)であることがわかった。
[例10]
例1において、40%クエン酸水溶液の使用量を75gに変えて、銅イオンを含有する水溶液を作成したところ、得られた水溶液のpHは2.6であった。また、水素化ホウ素ナトリウム水溶液の滴下終了後、3時間静置して水層と油層に分離させた以外は、例1と同様に操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は水素化銅であり、平均粒子径はおよそ10nmであることが確認された。また、例1と同様にして膜を形成させたところ、膜の体積抵抗率は、15μΩcmであり、金属銅であることが確認された。
[例11]
ガラス容器内において、塩化ニッケル(II)六水和物5gを蒸留水150gで溶解してニッケルイオンを含有する水溶液を得た。このとき、得られた水溶液のpHは3.6であった。これに、40%クエン酸水溶液90gを加え、しばらく撹拌したところ、得られた水溶液のpHは1.9となった。この水溶液に、例3と同じ高分子分散剤5g及びジペンテン10gを混合した溶液を加えて激しく撹拌しながら、3%水素化ホウ素ナトリウム水溶液150gをゆっくり滴下した。滴下終了後、1時間静置して、水層と油層に分離させた後、油層のみを回収して、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。このインクを1日放置させたところ、インクは黒色のままであった。このインク中の微粒子を回収してX線回折で同定を行ったところ、水素化ニッケルと微量の酸化ニッケル(NiO)が生成していることが確認された。また、このインクを乾燥して得られた微粒子粉末について、微粒子の大きさを測定すると、平均粒子径はおよそ15nmであることが確認された。インク中の水素化ニッケル微粒子及び微量の酸化ニッケル微粒子の濃度は12%であった。この1日放置後のインクをインクジェットプリンタで吐出し、乾燥させた後、形成されたインク堆積物を、窒素雰囲気中で、500℃で1時間熱処理したところ、厚さ2.5μmの膜が形成された。この膜の体積抵抗率を測定したころ、80μΩcmであった。また、この膜をX線回折で同定を行ったところ、金属ニッケルと微量の酸化ニッケル(NiO)であることが確認された。
[例12]
例11において、クエン酸水溶液を添加しないこと以外は、同様にして操作を行ったところ、微粒子の分散した黒色のインクが得られた。得られたインクを1日放置したところ、インクは黒褐色に変色していた。例1と同様にして測定を行ったところ、得られたインク中の微粒子は酸化ニッケル(NiO)であり、平均粒子径はおよそ10nmであることが確認された。
また、例11と同様にして膜を形成したところ、膜の体積抵抗率は、電気が流れず測定できなかった。また、この膜をX線回折装置で同定を行ったところ、酸化ニッケル(NiO)であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
本発明により得られる本水素化物微粒子及びその分散液は、その様々な用途に応じて適用でき、例えば、分散液を利用したプリント配線等の形成・修復、半導体パッケージ内の層間配線、プリント配線板と電子部品の接合等の用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が50nm以下である銅、ニッケル又はパラジウムの水素化物微粒子。
【請求項2】
銅、ニッケル又はパラジウムの金属の水溶性化合物に水を添加して、銅、ニッケル又はパラジウムの金属のイオンを含有する水溶液を得る工程;前記水溶液に酸を加え、pH3以下に調整する工程;前記pH3以下に調整された水溶液に、アミノ基、アミド基、スルファニル基(−SH)、スルフィド型のスルファンジイル基(−S−)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基及びエーテル型のオキシ基からなる群より選ばれる1以上の基を有する炭素数4〜100の有機化合物、及び非水溶性の有機性液体を添加する工程;次いで、撹拌しながら還元剤を加えて水溶液中の銅、ニッケル又はパラジウムの金属のイオンを還元して、平均粒子径50nm以下の銅、ニッケル又はパラジウムの水素化物微粒子を生成させる工程;を経る銅、ニッケル又はパラジウムの水素化物微粒子の製造方法。
【請求項3】
平均粒子径が50nm以下である銅、ニッケル又はパラジウムの水素化物微粒子が、その表面を、アミノ基、アミド基、スルファニル基(−SH)、スルフィド型のスルファンジイル基(−S−)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基及びエーテル型のオキシ基からなる群より選ばれる1以上の基を有する炭素数4〜100の有機化合物により被覆された状態で非水溶性の有機性液体中に分散している分散液。
【請求項4】
請求項3に記載の分散液を被塗布物に塗布した後、焼成して得られる金属質材料。

【国際公開番号】WO2004/110925
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506963(P2005−506963)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008370
【国際出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】