説明

金属汚染物質測定方法及び装置

【課題】基板の汚染又は試験液の汚染状況を簡易な装置構成で測定することができる、金属汚染物質測定方法及び装置を提供する。
【解決手段】基板2と、基板2の一方の面に、測定対象となる試験液が接触するように収容される試験液収容部3と、基板2の他方の面に、金属不純物濃度が試験液よりも低い液体が接触するように収容される測定液収容部4と、測定液収容部4中に収容されている測定液の金属不純物濃度を測定する測定手段5と、試験液収容部3に収容されている試験液、測定液収容部4に収容されている測定液をそれぞれ攪拌する攪拌手段6,7と、からなる金属汚染物質測定装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板と接触する試験液又は基板自体の金属汚染を簡易に測定することができる金属汚染物質測定方法及び装置に関し、特に、基板への金属の拡散現象を利用した金属汚染物質測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業分野で製造される電子部品には、シリコンウェーハや、FPD、LCD製造に用いられるガラス基板等の基板が用いられるが、これらを用いた製造過程では各種試験液が接触して、シリコンウェーハやガラス基板等がこれらの試験液に含まれる金属不純物等から汚染を受ける。
【0003】
このとき、薬液が接触することによる金属汚染の度合いを把握するために、従来は、SEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置),XPS(X線光電子分光),TRXRF(全反射蛍光X線),TEM(透過電子顕微鏡),AES(オージェ電子分光装置),SIMS(二次イオン質量分析装置)等の多様な表面分析方法が知られている。
【0004】
例えば、半導体基板内部のCuを検出するために500度15分間加熱して表面に移動していきたCuをTRX−RF分析器で基板表面を測定したり、また、ウェーハ表面に2%HFを滴下してCuを回収してAASで分析したり(例えば、特許文献1参照)、同様に、基板表面の酸化膜にHFを滴下し、HFで金属を回収して金属濃度をIPC−MSで測定する方法(例えば、特許文献2参照。)、ウェーハ表面を及び裏面を別個同時に薬液に接触させ、ウェーハ表面の汚染物質を抽出することができるもの(例えば、特許文献3参照)、ゲート酸化膜の厚さを10nm以下とし、酸素非存在下にて1000度以上の温度で加熱し、ゲート酸化膜の変質度合いを酸化膜耐圧評価法で測定し、Fe,Ni,Cuのいずれの金属に対しても高感度に評価することができる方法(例えば、特許文献4)が知られている。
【特許文献1】特開平09−64133号公報
【特許文献2】特開2000−332072号公報
【特許文献3】特開2001−66232号公報
【特許文献4】特開2005−86160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した技術は基板表面に存在する金属を測定する方法であり、基板内部の汚染状況を把握するものであっても、特許文献1に記載のように500℃以上の高温条件で処理して金属不純物を基板表面に移動させてから金属汚染を測定するものであった。
【0006】
ここでシリコン基板の金属汚染を知るための測定方法としては、上記特許文献に挙げられているものも含め、TRXRF、IPC−MS等や、SEM−EDX、XPS,TEM、AES等の表面分析方法が知られているが、これらの測定装置は非常に高価で、表面から数nmという非常に薄い表面部分しか測定することができない。さらに、基板内部を測定する場合は、イオン銃照射装置などエッチングを行なう装置が必要でありごく限られた施設でしか測定できないのが現状である。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、基板の汚染の有無を簡易な装置構成で測定することができる、金属汚染物質測定方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の金属汚染物質測定方法は、基板の一方の面に測定対象となる試験液を接触させ、他方の面に金属不純物濃度が試験液よりも低い液体からなる測定液を接触させて所定時間放置する液体接触工程と、液体接触工程により得られた測定液の金属不純物濃度を測定する測定工程と、を有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の金属汚染物質測定装置は、基板と、基板の一方の面に、測定対象となる試験液が接触するように収容される試験液収容部と、基板の他方の面に、金属不純物濃度が試験液よりも低い液体からなる測定液が接触するように収容される測定液収容部と、測定液収容部中に収容されている測定液の金属不純物濃度を測定する測定手段と、からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属汚染物質測定方法及び装置によれば、基板の両面を、測定対象の試験液と基板から浸透した金属濃度を測定するための測定液とで挟み込むだけという簡易な構成で、かつ、液体中の金属濃度を測定することができる安価な測定手段を用いることでガラス基板の金属汚染又は試験液の金属汚染を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の金属汚染物質測定装置の一実施形態を示した図である。本発明の金属汚染物質測定装置1は、基板2と、収容される試験液を基板2と接触させる試験液収容部3と、収容される測定液を基板2と接触させる測定液収容部4、測定液収容部4に収容されている測定液中の金属濃度を測定する金属濃度測定手段5と、試験液収容部3,測定液収容部4に収容されている液体をそれぞれ攪拌する攪拌手段6,7と、から構成されるものである。
【0013】
基板2は、シリコン、ガラス、ガリウム砒素、ゲルマニウムシリコン、ヒ化ガリウム、インジウム燐、リン化ガリウム、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、シリサイド、炭化ケイ素、SiOC、3−5族、2−6族などの電子回路をその基板上に形成させるために用いられる材質からなるものである。例えば、シリコンからなる基板としては電子部品製造に通常用いられる純度の高いシリコン基板が挙げられる。また、ガラスからなる基板としては昇温によりガラス転移現象を示す非晶質固体からなる基板であればよく、そのガラスの種類としては、具体的には、ケイ酸塩ガラス、アクリルガラス等が挙げられ、石英ガラス等のケイ酸塩ガラスであることが好ましい。
【0014】
この基板2の形状は、板状のものであれば特に限定されるものではなく、基板2の両面に接触させる試験液、測定液との接触が確実に行なわれるものであれば良い。また、基板2の厚さは、一方の面から他方の面へ金属不純物が移動するのを感知するのに用いるものであるから、例えば、1mm以下というような薄いものであることが好ましく、基板2の強度等も勘案すると0.1〜0.5mmの範囲であることがより好ましい。
【0015】
また、この基板2を加熱するように加熱手段を設けても良く、基板2を加熱するようにすれば、基板2の一方の面から他方の面へ金属不純物が拡散する速度が速くなり、それだけ金属汚染の測定を早期に行なうことができる点で好ましい。このとき加熱する温度は、30℃以上であることが好ましく50〜100℃であることが特に好ましい。
【0016】
試験液収容部3は、試験液が収容されているものであり、ここで収容される試験液は金属不純物が含有されている又は金属不純物が含有されている可能性のあるものである。この試験液収容部3は、基板2の一方の面に収容している試験液を接触させるようにすることができるものであればよい。このとき試験液収容部3は、開放系で試験液を収容するものでもよいし、密閉系で試験液を収容するものでもよい。
【0017】
測定液収容部4は、金属不純物濃度が試験液収容部3に収容された試験液よりも低い液体からなる測定液を収容することができるものであり、ここで収容される測定液としては純水又は酸溶液であることが好ましい。この純水又は酸溶液中の金属不純物濃度を測定して基板2の金属汚染の有無を判定するものであるため、金属不純物濃度はより低い方が良く、測定感度を向上し、金属汚染の測定を早期に行なうことができる点で、金属不純物濃度が1ppb以下であることが特に好ましい。特に、純水としては、その電気抵抗率が15.0MΩ・cm以上であることが好ましく、18.0MΩ・cm以上の超純水であることが特に好ましい。
【0018】
測定液収容部4に収容される溶液のpHは特に限定されるものではないが、試験液収容部3に収容される試験液のpHよりも低い値であることが好ましい。このような状態にすることで、試験液と接触している基板2の表面に付着する金属の濃度が、測定液と接触している基板2の表面に付着する金属の濃度より高くなりやすく、基板表面の濃度勾配によりより多くの金属が付着した、試験液と接触している基板2の表面から金属付着濃度が低い測定液表面と接した基板2の表面へと拡散が起こりやすくなる。
【0019】
また、酸溶液を用いる場合には、塩酸、硫酸、硝酸等の強酸、炭酸等の弱酸を用いた溶液、特に水溶液が好ましく挙げられる。ただし、シリコンやガラスはフッ酸により溶解される場合が多く、そのような場合、フッ酸を用いることはできない。酸溶液を用いた場合には、測定液収容部4にまで浸入してきた金属が容易に溶解するため、金属抽出が行いやすくそのままICP−MS(イオン誘導プラズマ質量分析装置)などの分析装置に前処理することなく導入することができる。
【0020】
金属濃度測定手段5は、測定液収容部4に収容されている測定液中の金属不純物濃度を測定するものであり、例えば、ICP−MS、AA(原子吸光分析装置)、各種金属濃度測定パックテスト、簡易水質検査器具等が挙げられる。
【0021】
ここで、測定する金属不純物は、その種類は特に問わないが、銅、ニッケル、鉄、コバルト、マンガン、クロム、バナジウム、チタン、カルシウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、リチウム等であることが好ましく、基板2を拡散するものであるため原子半径が1.17Å以下のものであることが好ましい。
【0022】
攪拌手段6,7は、それぞれ、試験液収容部3に収容される試験液、測定液収容部4に収容される測定液、を攪拌してそれぞれの液体中に溶解している物質を液体中で均一な濃度となるように機能するものである。
【0023】
そして、この金属汚染物質測定装置1を用いて、金属汚染を測定するにあたっては、まず、試験液収容部3に試験液を収容するようにして、基板2の一方の面に試験液を接触させると共に、測定液収容部4に測定液を収容するようにして、基板2の他方の面に測定液を接触させ、この基板2の両面が液体と接している接触状態を維持することができるようにすればよい。
【0024】
そして、この接触状態を維持したまま、基板2に対して試験液中の金属不純物が拡散し、純水側まで金属不純物が溶出してくるような所定時間以上に放置するだけで、金属汚染についての測定をすることができる。このとき、放置する所定時間は、基板2の種類により異なるが、1週間以上であることが好ましく、基板2を加熱した場合にはこの時間を短縮することができる。
【0025】
例えば、後で説明する実施例では測定期間を8週間としたが、測定期間を1週間としても金属の透過は起こることが確認できている。そして、基板をより薄くすることと、基板温度を上昇させることで測定液への金属溶出までの放置時間を短縮できると考えると、例えば、基板の厚さを0.1mm、基板の加熱温度を100℃にした場合は基板の移動距離が0.5mmから0.1mmに短縮されるので放置時間は1/5で済み、さらに常温(約25℃)から100℃への温度上昇で移動速度は5倍に上昇するため、放置時間を5.8時間程度にまで短縮することができると考えられる。
【0026】
また、この測定では、基板2における拡散現象が生じて基板2が汚染されていることがわかり、その基板の種類によって、放置した時間と純水中の金属不純物濃度との関係について検量線を作成しておけば、その金属の種類ごとに基板の汚染度合いを判定することもできる。
【0027】
このような間接的な基板の金属汚染濃度の測定の他、これと同時に基板2を金属汚染物質測定装置1から取り外して、基板2の試験液との接触面の表面や、その内部の金属濃度を測定することにより、より正確に基板の汚染度合いを判定することができる。このとき基板2の表面及び内部の金属を測定する装置としては、SEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置),XPS(X線光電子分光),TRXRF(全反射蛍光X線),TEM(透過電子顕微鏡),AES(オージェ電子分光装置),SIMS(二次イオン質量分析装置)等の公知の表面分析手段を挙げることができる。
【0028】
また、上記の説明では、金属汚染物質測定装置によって基板2の金属汚染について測定することを記載したが、これを試験液が経時的に金属に汚染されるような場合にも適用することができる。
【0029】
図1の金属汚染物質測定装置において、試験液収容部3は開放系で構成したが、ここで試験液収容部3には金属汚染される可能性のある密閉系の容器により構成されているものであってもよく、例えば、原子力発電所等における原子炉等が挙げられる。原子炉は、放射性物質の影響から装置は厳重に管理され、容易に内部を開放することができないようになっている。
【0030】
このような原子炉の装置内部に循環する冷却水は、絶えずその原子炉を構成する材料や核燃料と接触しており、これらを構成する金属が冷却水中に溶解して汚染することがあり、このような場合に、その内部の冷却水の汚染の有無を、本発明の金属汚染物質測定装置を適用することにより判定することができる。また、ここでは原子炉を例に示したが、これに限定されずに基板2の片面に経時的に金属汚染されるような試験液が収容されているものであれば適用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0032】
(実施例1)
図1に示した金属汚染物質測定装置を用いた。
基板としては、大きさ25mm×25mm、厚さ0.5mmの石英ガラス基板(宝化成機器株式会社製)を用い、試験液収容部に10ppmの銅、鉄、コバルト、マンガン、クロム、バナジウム、チタン、カルシウム、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、ニッケル各種金属を含む水酸化ナトリウムでpHを10.5に調整したアルカリ溶液を、測定液収容部に銅含有量が1ppb以下で電気抵抗率が18.2MΩ・cmの純水をそれぞれ収容し、石英ガラス基板の両面に試験液及び測定液と接触するように液体接触状態として、常温で8週間放置した。
【0033】
放置後のアルカリ溶液、純水の金属含有量をICP−MS(パーキンエルマー社製、商品名:DRC−II)で測定し、その結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
この結果から、常温において、石英ガラス基板を金属不純物が拡散現象により透過し、石英ガラス基板自体が汚染されていることが確認できた。また、アルカリ溶液に含まれる銅原子が石英ガラス基板を透過し、純水に進入してきたことが確認できた。
【0036】
(実施例2)
実施例1に加え、さらに石英ガラス基板の表面(アルカリ溶液側と純水側の両面)をSEM−EDX装置(日本電子データム製、商品名:JSM T330)で分析し、その結果を表2に示した。なお、ここではSiの濃度に対する比率として金属濃度を表した。
【0037】
【表2】

【0038】
このように、表面分析を加えることで、より確実に石英ガラス基板の金属汚染が進行していることが確認でき、また石英ガラス基板の汚染度合いを測定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の金属汚染物質測定装置の一実施形態を示した図である。
【符号の説明】
【0040】
1…金属汚染物質測定装置、2…石英ガラス基板、3…試験液収容部、4…測定液収容部、5…金属濃度測定手段、6,7…攪拌手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面に測定対象となる試験液を接触させ、他方の面に金属不純物濃度が前記試験液よりも低い液体からなる測定液を接触させて所定時間放置する液体接触工程と、
前記液体接触工程により得られた前記測定液の金属不純物濃度を測定する測定工程と、を有することを特徴とする金属汚染物質測定方法。
【請求項2】
前記基板がシリコン、ケイ酸塩ガラス、石英ガラス、シリサイド、炭化ケイ素、SiOC、ガリウム砒素、ゲルマニウムシリコンからなることを特徴とする請求項1記載の金属汚染物質測定方法。
【請求項3】
前記基板を30℃以上に加熱することを特徴とする請求項1又は2記載の金属汚染物質測定方法。
【請求項4】
前記基板の前記試験液との接触面の表面及び内部に存在する金属不純物濃度を測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の金属汚染物質測定方法。
【請求項5】
基板と、
前記基板の一方の面に、測定対象となる試験液が接触するように収容される試験液収容部と、
前記基板の他方の面に、金属不純物濃度が試験液よりも低い液体からなる測定液が接触するように収容される測定液収容部と、
前記測定液収容部中に収容されている測定液の金属不純物濃度を測定する測定手段と、
からなることを特徴とする金属汚染物質測定装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−139148(P2009−139148A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313955(P2007−313955)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月15日 日本イオン交換学会主催の第4回イオン交換国際会議(ICIE’07)においてスライドおよびポスターをもって発表
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【出願人】(596005001)
【Fターム(参考)】