説明

金属溶解炉及び金属溶解炉における溶湯生成方法

【課題】溶解はバーナーによる直火により行い、溶湯の保温は電気などのヒーターによって行うことで効率のよい溶湯生成を可能としながらも二酸化炭素の排出削減を可能とし、さらに、ヒーターの長寿命化を可能とする。
【解決手段】被溶解金属(インゴット)400が投入されるとともに溶湯を保温状態で保持する坩堝110の外壁との間に保温室160が形成されるように坩堝110を収納する坩堝収納筐体130と、坩堝収納筐体130の内壁に設けられて坩堝110の内部の溶湯を所定温度に保持するためのヒーター180とを有する溶湯保温装置100と、坩堝収納筐体130の上端部に着脱可能であって坩堝収納筐体130の上端部に装着された状態においては坩堝110の上端開口部112との間に燃焼室250を形成する燃焼装置筐体210と、坩堝110に投入された被溶解金属400を直火で溶解するためのバーナー220とを有する燃焼装置200とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶解炉及び金属溶解炉における溶湯生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止の観点から二酸化炭素の排出削減を促進する技術は様々な分野で提案されている。金属を溶解して溶湯を製造する金属溶解炉においても、ガスなどの化石燃料の使用を極力抑えるために、電気エネルギーを併用するいわゆるハイブリッド型の金属溶解炉が存在する(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に開示されている金属溶解炉(第1従来技術という。)は、いわゆる連続式溶解炉であり、被溶解金属をガスバーナーで溶解する燃焼室と、燃焼室で溶解された溶湯を電気ヒーターなどにより所定温度に保持する保温室と、保温室によって保温された溶湯を汲み出す汲み出し作業室とを有し、溶解から汲み出しまでの各工程を連続的に行うものであり、大量生産に適した金属溶解炉である。
【0004】
また、非特許文献1に開示されている金属溶解炉(第2従来技術という。)は、「坩堝」を用いたいわゆる坩堝式溶解炉である。坩堝式溶解炉は、連続式溶解炉とは異なり、坩堝の中に被溶解金属を入れて、坩堝を加熱することによって溶湯を生成するものであり、連続式溶解炉のような大量生産向きではないが、不純物除去装置などによる不純物除去作業を適切に行うことができ、高品質、多品種、少量生産に適した金属溶解炉であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4198224号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】東京ファーネス工業株式会社、製品案内、アルミ合金溶解保持炉CH−HP型、最新省エネ環境対応型ハイブリッド方式ルツボ炉シリーズ [平成21年9月24日検索]、インターネット<URL:http://tfkk.kipc.or.jp>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第1従来技術は、溶解は熱効率の高いガスバーナーを用い、溶湯の保温には電気ヒーターを用いているため、ガスバーナーだけを用いて溶解と保温とを行う金属溶解炉に比べれば二酸化炭素の排出量を削減することは可能である。また、第2従来技術は、ガスバーナーと電気ヒーターとを選択的に使用可能なハイブリッド型の坩堝式溶解炉であるため、第1従来技術と同様、ガスバーナーだけを用いて溶解と保温とを行う金属溶解炉に比べれば二酸化炭素の排出量を削減することができる。
【0008】
しかしながら、第1従来技術は、連続式溶解炉であるため、溶湯が汲み出し作業室に入るまでの各工程が流れ作業的に連続的に行われるため、溶解の工程で発生した水素ガスなどの不純物を含んだ溶湯がそのまま汲み出し作業室に流入して行くこととなる。仮に、汲み出し作業工程の前段階において不純物除去工程を設けたとしても、流れ作業であるため、不純物の除去が適切になされない場合も多く、不純物を適切に除去することは難しいとされている。このため、第1従来技術は、不純物を可能な限り除去することが要求される高品質な溶湯の生成には不向きであり、また、多品種、少量生産向きではない。
【0009】
一方、第2従来技術は、坩堝式溶解炉であるため、高品質、多品種、少量生産に適した金属溶解炉であるが、第2従来技術は、坩堝を収納している坩堝収納筐体と坩堝との間に形成されている保温室と燃焼室とを兼ねる空間部でガスバーナーを燃焼動作させて坩堝を加熱し、それによって、坩堝内の被溶解金属を溶解するいわゆる間接加熱によって溶解を行うものである。このため、溶解の際の熱効率が悪く生産性が低いという問題がある。
【0010】
また、第1従来技術においては、保温室と燃焼室が同じであるので、ガスバーナーの燃焼時における熱や燃焼ガスが電気ヒーターに直接加わることとなる。このため、電気ヒーターは常に熱や燃焼ガスに晒された状態となるため、電気ヒーターを劣化させて寿命を低下させるといった問題がある。
【0011】
そこで本発明は、バーナーとヒーターとによるハイブリッド型の熱源を用い、溶解はガスなどのバーナーによる直火により行い、溶湯の保温は電気などのヒーターによって行うことで効率のよい溶湯生成を可能としながらも二酸化炭素の排出削減を可能とし、さらに、ヒーターがバーナーの燃焼時における熱や燃焼ガスに晒されないようにすることによって、ヒーターの長寿命化を可能とする金属溶解炉及び溶湯生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[1]本発明の金属溶解炉は、被溶解金属が投入されるとともに前記被溶解金属が溶解された溶湯を保温した状態で保持する坩堝を有する金属溶解炉であって、前記坩堝の外壁との間に保温室が形成されるように前記坩堝を収納する坩堝収納筐体と、前記坩堝収納筐体の内壁に設けられて前記坩堝の内部の溶湯を所定温度に保持するためのヒーターとを有する溶湯保温装置と、前記坩堝収納筐体の上端部に着脱可能であって前記坩堝収納筐体の上端部に装着された状態においては前記坩堝の開口部との間に燃焼室を形成する燃焼装置筐体と、前記坩堝に投入された被溶解金属を直火で溶解するためのバーナーとを有する燃焼装置とを有することを特徴とする。
【0013】
このように本発明の金属溶解炉は、坩堝内の溶湯を保温するためのヒーターを有する溶湯保温装置と、坩堝に投入された被溶解金属(例えばアルミニウム)を直火で溶解するためのバーナーとを有する燃焼装置とがそれぞれ別の構成要素として用意されている金属溶解炉である。本発明の金属溶解炉によれば、被溶解金属の溶解を行う際は、燃焼装置の燃焼装置筐体を溶湯保温装置の坩堝収納筐体に装着して、バーナーによる直火により被溶解金属の溶解を行い、溶解によって生成された溶湯の保温はヒーターによって行うことができるため、効率のよい溶湯生成を可能としながらも二酸化炭素の排出削減が可能となる。
【0014】
なお、燃焼装置筐体を溶湯保温装置の坩堝収納筐体に装着する際の表記としては、「燃焼装の燃焼装置筐体を溶湯保温装置の坩堝収納筐体に装着する」というように表記すべきであるが、以下では、「燃焼装置筐体」及び「坩堝収納筐体」を省略して、例えば、「燃焼装置を溶湯保温装置に装着する」というように表記する。また、燃焼装置筐体を溶湯保温装置の坩堝収納筐体から取り外す際の表記も同様に、「燃焼装置を溶湯保温装置から取り外す」というように表記する。
【0015】
また、本発明の金属溶解炉は、燃焼室と保温室とが同じではなく、それぞれが独立した空間であるので、ヒーターがバーナーの燃焼熱や燃焼ガスに晒されることがなく、燃焼熱や燃焼ガスによるヒーターの劣化を防止することができ、ヒーターの長寿命化が可能となるといった効果も得られる。
【0016】
また、燃焼装置が溶湯保温装置に着脱自在であることから、溶解させる工程が終了したあとは、燃焼装置を溶湯保温装置から取り外すことが可能である。このため、溶湯保温装置を複数台用意しておけば、取り外した燃焼装置を他の溶湯保温装置に装着して被溶解金属を溶解することもできる。例えば、2台の溶湯保温装置と1台の燃焼装置を用意しておくことにより、溶湯生成の終了した溶湯保温装置においては、不純物除去作業及び溶湯の汲み出し作業などを行い、その間に他の溶湯保温装置においては、被溶解金属の溶解を行うというように、溶解と溶湯の汲み出し作業とを2台の溶湯保温装置において交互に行うことによって、連続溶解炉的な使い方が可能となる。なお、溶湯保温装置は2台でなく、3台以上用意することも可能である。
【0017】
[2]本発明の金属溶解炉においては、前記坩堝収納筐体は、当該坩堝収納筐体の上端部に前記保温室の開口部を覆う蓋体を有することが好ましい。
【0018】
このような蓋体を設けることにより、保温室の保温能力を高めることができ、ヒーターの負荷を小さくすることができる。また、この蓋体は、バーナーの燃焼熱や燃焼ガスが保温室に流入するのを防止する役目も有しているため、ヒーターが燃焼熱や燃焼ガスに晒されることがなく、それによって、ヒーターの長寿命化が可能となる。
【0019】
[3]本発明の金属溶解炉においては、前記蓋体と前記燃焼装置筐体との間に耐熱性シール材を設けることが好ましい。
【0020】
このような耐熱性シール材を蓋体と坩堝収納筐体との間に設けることにより、バーナーの燃焼熱や燃焼ガスが保温室に流入するのを防止する効果をより高めることができる。また、耐熱性シール材は、バーナーの燃焼熱が外部に逃げるのを防止する役目も有しているので、被溶解金属を溶解する際の熱効率を高める効果も得られる。
【0021】
[4]本発明の金属溶解炉においては、前記ヒーターは、電気ヒーターであることが好ましい。
【0022】
ヒーターを電気ヒーターとすることにより、溶湯の保温を長時間行う場合であっても、電気ヒーターが二酸化炭素の直接の排出源とはならないため、二酸化炭素の排出削減に大きく寄与できる。
【0023】
[5]本発明の金属溶解炉においては、前記燃焼装置が前記坩堝収納筐体から取り外された状態で前記坩堝内に浸漬可能となる不純物除去装置をさらに有することが好ましい。
【0024】
このような不純物除去装置を設けることにより、坩堝内の溶湯に含まれる水素ガスなどの不純物を除去することができ、溶湯を高品質なものとすることができる。なお、不純物除去処理は、溶解が終了したあとに燃焼装置を溶湯保温装置から取り外した状態として行うため、坩堝内の溶湯に含まれる不純物除去作業を適切に行うことができ、また、要求される品質基準に達するまで不純物除去処理を繰り返し行うこともできる。これにより、溶湯中の不純物を確実に除去することができる。
【0025】
[6]本発明の金属溶解炉においては、前記不純物除去装置は、先端部に回転体を有し、当該回転体が前記溶湯の中で回転しながらマイクロバブル化した不活性ガスを発生する回転式の脱ガス装置であることが好ましい。
【0026】
この不純物除去装置は、回転体が回転しながらマイクロバブル化した不活性ガスを溶湯中に発生させて、不純物をマイクロバブルに付着させて浮上させるものである。このような不純物除去装置を用いることにより、水素ガスなどの不純物を効率的に除去することができるため、高品質な溶湯を生成することができる。
【0027】
[7]本発明の金属溶解炉における溶湯製造方法は、被溶解金属が投入されるとともに前記被溶解金属が溶解された溶湯を保温した状態で保持する坩堝の外壁との間に保温室が形成されるように前記坩堝を収納する坩堝収納筐体及び前記坩堝収納筐体の内壁に設けられて前記坩堝の内部の溶湯を所定温度に保持するためのヒーターとを有する溶湯保温装置と、前記坩堝収納筐体の上端部に着脱可能であって前記坩堝収納筐体の上端部に装着された状態においては前記坩堝の開口部との間に燃焼室を形成する燃焼装置筐体及び前記坩堝に投入された被溶解金属を直火で溶解するためのバーナーを有する燃焼装置とを有する金属溶解炉における溶湯生成方法であって、前記被溶解金属を前記坩堝に投入する被溶解金属投入工程と、前記燃焼装置を前記溶湯保温装置に装着して、前記バーナーによって直火で前記被溶解金属を溶解させる溶解工程と、前記坩堝の内部における溶湯を前記ヒーターによって所定温度に保温した状態で保持する溶湯保温工程とを有することを特徴とする。
【0028】
このように本発明の金属溶解炉における溶湯生成方法は、坩堝内の溶湯を保温するためのヒーターを有する溶湯保温装置と、坩堝に投入された被溶解金属を直火で溶解するためのバーナーとを有する燃焼装置とがそれぞれ別の構成要素として用意されている金属溶解炉を用いて溶湯生成を行うものである。このような金属溶解炉を用いて溶湯生成を行う際は、被溶解金属投入工程と、燃焼装置を溶湯保温装置に装着して被溶解金属を溶解させる溶解工程と、坩堝内における溶湯を保温した状態で保持する溶湯保温工程とをこの順序で行う。このような工程を行うによって、効率のよい溶湯生成を可能としながらも二酸化炭素の排出削減を可能とする。
【0029】
また、溶解させる工程が終了したあとは、燃焼装置を溶湯保温装置から取り外すことが可能である。このため、前記[1]で述べたように、溶湯保温装置を複数台用意しておけば、溶湯生成の終了した溶湯保温装置から溶湯の汲み出しを行っている間に、取り外した燃焼装置を他の溶湯保温装置に装着して当該溶湯保温装置において被溶解金属を溶解するといった使い方も可能となる。
【0030】
また、本発明の金属溶解炉における溶湯生成方法においても、金属溶解炉は前記[2]〜[4]に記載の特徴を有することが好ましい。
【0031】
[8]本発明の金属溶解炉における溶湯製造方法においては、前記燃焼装置が前記坩堝収納筐体から取り外された状態で前記溶湯に含まれる不純物を除去する不純物除去工程をさらに有することが好ましい。
【0032】
このような不純物除去工程を設けることにより、溶湯内に含まれる水素ガスなどの不純物を除去することができ、溶湯を高品質なものとすることができる。なお、不純物除去工程は、溶解が終了したあとに燃焼装置を溶湯保温装置から取り外した状態として行うため、坩堝内の溶湯に含まれる不純物除去作業を適切に行うことができ、また、要求される品質基準に達するまで不純物除去処理を繰り返し行うこともできる。
【0033】
なお、不純物除去工程において用いる不純物除去装置は、先端部に回転体を有し、当該回転体が回転しながらマイクロバブル化した不活性ガスを発生する回転式の脱ガス装置であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態に係る金属溶解炉10の構成を示す斜視図である。
【図2】図1における溶湯保温装置100及び燃焼装置200のA−A矢視断面図である。
【図3】回転脱ガス装置300の使用例を模式的に示す図である。
【図4】実施形態に係る金属溶解炉10における溶湯生成方法の一例を示す図である。
【図5】実施形態に係る金属溶解炉10における溶湯生成方法の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0036】
図1は、実施形態に係る金属溶解炉10の構成を示す斜視図である。実施形態に係る金属溶解炉10は、溶湯保温装置100と、燃焼装置200と、溶湯に含まれる不純物を除去するための不純物除去装置としての回転脱ガス装置300とを有している。
図2は、図1における溶湯保温装置100及び燃焼装置200のA−A矢視断面図である。図1及び図2により実施形態に係る金属溶解炉10の構成を詳細に説明する。溶湯保温装置100は、坩堝110と、坩堝110を収納する坩堝収納筐体130とを有している。
【0037】
坩堝収納筐体130は、耐熱性部材でなる耐熱壁140と断熱性部材でなる断熱壁150とによる2重壁構造を有し、内側に耐熱壁140が設けられ、耐熱壁140の外側に断熱壁150が設けられた構成となっている。耐熱壁140の内壁面141と坩堝110との間には空間部160が形成される。なお、当該空間部160は保温室としての機能を有するので、以下では、保温室160という。また、耐熱壁140の内壁面141における底面中央部には坩堝110を載置するための坩堝載置台170が設けられている。
【0038】
また、耐熱壁140の内壁面141における側面には、当該内壁面141の側面を一周するように帯状のヒーター(電気ヒーターとする。)180が設けられている。この電気ヒーター180は、坩堝110内の溶湯を鋳造に適した温度に保持するためのものであるため、坩堝110全体を均等に加熱できるように内壁面141の側面における上下方向に所定間隔を置いて複数本設けられている。実施形態に係る金属溶解炉においては3本の電気ヒーター180が設けられている。
【0039】
電気ヒーター180は、輻射熱により坩堝110内の溶湯を保温するものであるため、坩堝110と電気ヒーター180とが接触しない程度に、限りなく坩堝110に接近した状態で設けられることが熱効率という点で好ましい。ただし、坩堝110の交換時などにおいて、坩堝110を坩堝収納筐体130から取り出す際に坩堝110が電気ヒーター180に接触しない程度の間隔を設けることも必要である。
【0040】
また、電気ヒーター180は、電気ヒーター制御部(図示せず。)によって制御される。すなわち、電気ヒーター制御部は、坩堝110内の溶湯の温度を検知する温度センサー(図示せず。)からの温度情報に基づいて溶湯の温度が所定温度となるように電気ヒーター180を制御する。
【0041】
また、坩堝収納筐体130の上端部には、保温室160の開口部を覆うための蓋体190が、坩堝110の開口部112側の端部(開口端部という。)113の外周を取り囲むように設けられている。この蓋体190は、保温室160と当該保温室160の外部との間の空気の流通を制限する機能を有する。このような蓋体190を設けることによって、保温室160の保温効果を高めることができるとともに、燃焼装置200のバーナー220が作動している際に、バーナー220の燃焼熱及び燃焼ガスが保温室160に流入するのを防止することができる。
【0042】
燃焼装置200は、燃焼装置筐体210と、燃焼装置筐体210の上端部に設けられたバーナー220とを有し、燃焼装置200は、溶湯保温装置100に対して着脱自在となっている。
【0043】
燃焼装置筐体210は、坩堝収納筐体130と同様、耐熱性部材でなる耐熱壁230と断熱性部材でなる断熱壁240とによる2重壁構造を有している。そして、燃焼装置200が溶湯保温装置100に装着された状態(図1及び図2の状態)となると、耐熱壁230と坩堝110の開口部112と間には空間部250が形成される。なお、当該空間部250は燃焼室としての機能を有するため、以下では燃焼室250という。
【0044】
バーナー220は、坩堝110内に入れられたインゴット400を直火で溶解するものであり、化石燃料として例えばLPG(液化プロパンガス)を燃料供給パイプ221から取り込むとともに燃焼に必要な空気を空気取り込み口222から取り込んでノズル223から火炎224を発射する。なお、実施形態に係る金属溶解炉において用いるバーナー220は、空気取り込み口222から取り込まれる空気を排気ガスで予熱する熱交換型のバーナーであるとする。このため、空気取り込み口222から入った空気は、排気ガスによって暖められるので、燃焼効率がよく、空気取り込み口222及び排気口225を小さくすることができる。また、バーナー220には、燃焼状態を制御するための燃焼制御装置(図示せず。)が設けられている。この燃焼制御装置は、最適な燃焼状態となるように空気の量と燃焼の量とを調整するものである。
【0045】
また、燃焼装置筐体210と坩堝収納筐体130との間には断熱材でなる耐熱性シール材260が設けられる。この耐熱性シール材260は、燃焼装置200を溶湯保温装置100に装着した状態としたときに、耐熱性シール材260が坩堝収納筐体130に設けられている蓋体190に密着する。このような耐熱性シール材260を設けることによって、燃焼装置200の燃焼室250をほぼ密閉状態とすることができる。これにより、バーナー220の燃焼熱を外部に逃さないようにすることができるので、インゴット400を溶解する際の熱効率を高めることができる。また、バーナー220の燃焼熱及び燃焼ガスが保温室160に流入するのを防止する効果をより高めることができる。
【0046】
このような構成の燃焼装置200は、前述したように、溶湯保温装置100に対して着脱自在となっている。すなわち、アルミニウムなどの被溶解金属(インゴットという。)400の溶解を行う際は、燃焼装置200を溶湯保温装置100に装着して、バーナー220を作動させることによってインゴット400の溶解を行う。また、インゴット400が溶解されて溶湯となったあとは、燃焼装置200を溶湯保温装置100から取り外す。燃焼装置200が溶湯保温装置100から取り外されると、回転脱ガス装置300によって坩堝110内の溶湯の不純物除去を行ったり、溶湯の組み出しを行ったりすることができる。
【0047】
回転脱ガス装置300は、インゴット400が溶解されて溶湯の状態となった際に、坩堝110内の溶湯に含まれる水素ガスなどの不純物の除去を行うものであり、回転軸310と、回転軸の先端部に設けられた円盤状の回転体320とを有する構成となっている。
【0048】
このように構成された回転脱ガス装置300は、例えば、水平方向(矢印x−x’方向)及び上下方向(矢印y−y’方向)に移動可能に設置されており、必要に応じて、坩堝110内の溶湯に浸漬できるようになっている。例えば、溶解工程が終了して燃焼装置200を溶湯保温装置100から取り外した後に、回転脱ガス装置300を溶湯保温装置100の上方に位置させた状態で矢印y’方向に下降させることによって、回転体320を坩堝110の溶湯内に浸漬させことができる。そして、回転体320を溶湯の中に浸漬させた状態で回転体320を回転させて、回転体320からマイクロバブル化したアルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスを溶湯中に発生させることができるようになっている。
【0049】
図3は、回転脱ガス装置300の使用例を模式的に示す図である。回転脱ガス装置300を使用する際は、図3に示すように、燃焼装置200を溶湯保温装置100から取り外した状態とする。そして、燃焼装置200を溶湯保温装置100から取り外した状態で、回転脱ガス装置300を溶湯保温装置100の上方に位置させて回転体320を矢印y’方向に下降させて回転体320を坩堝110の溶湯内に浸漬させる。なお、図3においては、回転脱ガス装置300のうちの回転軸310の一部と回転体320のみが示されている。
【0050】
図3に示すように、回転体320を溶湯500に浸漬させた状態としたら、回転体320を回転させながらマイクロバブル化した不活性ガス(アルゴンガスとする。)を発生させる。これにより、溶湯500内にアルゴンガスのマイクロバブル(図3において黒い点で表す。)が多数発生して、マイクロバブルが不純物を付着して浮上してくる。浮上してきた不純物を汲み取ることによって、不純物の除去された溶湯を生成することができる。
【0051】
図3に示すような回転脱ガス装置300による不純物除去作業は、燃焼装置200が取り外された状態で行われるため、不純物除去作業を適切に行うことができ、かつ、要求される品質基準に達するまで繰り返し不純物除去作業を行うことも可能であるため、高品質な溶湯を生成することができる。
【0052】
図4は、実施形態に係る金属溶解炉10における溶湯生成方法の一例を示す図である。図4(a)はインゴット投入工程であり、インゴット投入工程においては、図4(a)に示すように、燃焼装置200を溶湯保温装置100から取り外した状態で、坩堝110内に所定本数のインゴット400を投入する。
【0053】
図4(b)はインゴット溶解工程であり、インゴット溶解工程においては、図4(b)に示すように、燃焼装置200を溶湯保温装置100に装着する。燃焼装置200を溶湯保温装置100に装着すると、耐熱性シール材260が坩堝収納筐体130に設けられた蓋体190と密着状態となる。このように燃焼装置200を溶湯保温装置100に装着した後、バーナー220を作動させて、ノズル223から発射される火炎224による直火でインゴット400を溶解させる。また、この段階では、溶湯保温装置100に設けられている電気ヒーター180はすでに作動しているものとする。
【0054】
このように、実施形態に係る金属溶解炉10は、バーナー220からの火炎224による直火でインゴット400を溶解させるものであり、かつ、燃焼装置200の燃焼室250が耐熱性シール材260によってほぼ密閉状態となっているため、インゴット400を溶解するための熱効率を高くすることができる。このため、インゴット400を短時間で溶解することができ、それによって、燃料消費量も大幅に削減することができる。また、インゴット400を短時間で溶解することができることから排気ガスの量も大幅に削減することができ、二酸化炭素の排出量も削減することができる。
【0055】
また、実施形態に係る金属溶解炉10は、溶湯保温装置100の保温室160には蓋体190が設けられ、かつ、耐熱性シール材260が坩堝収納筐体130の蓋体190に密着した状態となるので、燃焼装置200の燃焼室250と溶湯保温装置100の保温室160とは分離され、熱や空気の流通が制限された状態となる。
【0056】
このため、インゴット400の溶解を行っている際、バーナー220による燃焼熱や燃焼ガスが保温室160に流入するのを確実に防止することができる。これにより、溶湯保温装置100に設けられている電気ヒーター180がバーナー220の燃焼熱や燃焼ガスに晒されることがなく、電気ヒーター180の劣化を防止することができ、電気ヒーター180の長寿命化が可能となる。
【0057】
そして、インゴット400が溶解されて溶湯となったら、燃焼装置200を取り外して、図4(c)に示す不純物除去工程を行う。不純物除去工程においては、図4(c)に示すように、回転脱ガス装置300の回転体320を坩堝110内の溶湯500に浸漬させて、回転体320を回転させながらマイクロバブル化したアルゴンガスを発生させることによって溶湯500に含まれている水素ガスなどの不純物を浮上させて除去する。このようにして不純物が除去されることにより、坩堝110内の溶湯は高品質なものとなる。このような不純物除去工程における不純物除去作業を行う際、要求される品質基準に達するまで繰り返し不純物除去作業を行うことも可能である。
【0058】
図5は、実施形態に係る金属溶解炉10における溶湯生成方法の他の例を示す図である。図5に示す溶湯生成方法は、2台の溶湯保温装置(第1溶湯保温装置100A及び第2溶湯保温装置100Bとする。)と1台の燃焼装置200とを用いて溶湯の生成を行うものである。図5において、第1溶湯保温装置100Aにおいては、図4(a)〜(c)で説明した手順によって、不純物の除去された高品質な溶湯が生成されているものとする。なお、溶湯の生成が終了した溶湯保温装置100Aは、電気ヒーター180によって、坩堝110内の溶湯500は所定温度に保持されており、溶湯の汲み出し作業を行うことができる状態となっている。
【0059】
このように、一方の溶湯保温装置(第1溶湯保温装置100A)において溶湯の生成が終了したら、第1溶湯保温装置100Aから取り外した燃焼装置200を第2溶湯保温装置100Bに装着して、第2溶湯保温装置100Bにおいて溶湯の生成を行う。第2溶湯保温装置100Bにおける溶湯の生成手順も、図4(a)のインゴット投入工程、図4(b)のインゴット溶解工程、図4(c)の不純物除去工程の順で行うことができる。なお、図5(b)は図4(b)のインゴット溶解工程の状態である。
【0060】
第2溶湯保温装置100Bにおいて溶湯の生成を行っている間に、第1溶湯保温装置100Aにおいては、溶湯の汲み出し作業を行う。なお、溶湯の汲み出し作業は、坩堝110に入っている溶湯すべてを汲み出すのではなく、坩堝110に入っている溶湯の全体量のうちの1/3程度を残すのが一般的である。
【0061】
そして、第2溶湯保温装置100Bにおいて溶湯の生成が終了すると、すなわち、第2溶湯保温装置100Bにおいて図4(a)〜図4(c)の各工程が終了すると、今度は、燃焼装置200を第2溶湯保温装置100Bから取り外して、取り外した燃焼装置200を第1溶湯保温装置100Aに装着する。そして、第1溶湯保温装置100Aにおいて溶湯の生成を行う。第1溶湯保温装置100Aにおいて溶湯の生成を行っている間に、第2溶湯保温装置100Aにおいては、溶湯の汲み出し作業を行う。このような操作を必要な量の溶湯が生成されるまで順次繰り返す。
【0062】
図5に示すように、2つの溶湯保温装置(第1溶湯保温装置100A及び第2溶湯保温装置100B)を用いて、溶湯生成と溶湯の汲み出し作業とを交互に行うことで、坩堝式溶解炉においても連続溶解炉と同様に連続的な溶湯生成と溶湯の汲み出し作業とを行うことが可能となり、連続溶解炉と遜色のない高い生産性を得ることができる。しかも、実施形態に係る金属溶解炉10においては、燃焼装置200を取り外した状態で不純物除去作業を行うので、不純物除去作業を適切に行うことができ、かつ、要求される品質基準に達するまで繰り返し行うことも可能であるため、高品質な溶湯を生成することができる。
【0063】
なお、実施形態に係る金属溶解炉10は、溶湯保温装置100と燃焼装置200とがそれぞれ独立した構成要素となっているため、図5に示すような2台の溶湯保温装置100A,100Bを用いた溶湯生成を行う場合であっても、化石燃料(LPG)を用いる燃焼装置200は1つ用意すればよい。このため、1台の燃焼装置200と2台の溶湯保温装置100A,100Bを用いて連続的に溶湯生成を行うような場合、燃焼装置200の余熱も利用できるので、化石燃料を使用する燃焼装置を内蔵した坩堝式溶解炉を2台用いて図5と同量の溶湯を生成する場合に比べて、化石燃料の使用量の削減も可能となる。
【0064】
また、実施形態に係る金属溶解炉10においては、溶湯保温装置100は、熱源としては、保温用の電気ヒーター180だけを設ければよく、バーナーなどの燃焼装置や排気装置が不要であるので、溶湯保温装置を安価に製造することができる。
【0065】
なお、図5においては、2台の溶湯保温装置を用いて溶解と汲み出しとを交互に行うようにしたが、溶湯保温装置を3つ以上用いることも可能であり、溶湯保温装置を3つ以上とすることにより、溶湯生成をより効率的に行うことができる。
【0066】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で例えば下記(1)〜(3)に示すような変形実施も可能となる。
【0067】
(1)上記実施形態においては、バーナー220はLPGを燃料とするバーナーを例示したが、LPGに限られるものではなく、他の化石燃料を用いるバーナーであってもよい。また、バーナー220は、燃焼に必要な空気を排気ガスで予熱するバーナーを用いた場合を例示したが、必ずしもこのようなバーナーである必要はない。
【0068】
(2)上記実施形態においては、溶湯保温装置100に用いる電気ヒーター180は、坩堝収納筐体130における耐熱壁140の内壁面141を一周するような帯状の電気ヒーター180を用いた場合を例示したが、電気ヒーター180は帯状であることに限られるものではなく、例えば、耐熱壁140の底面を含めた内壁面全体を覆うような電気ヒーターであってもよい。
【0069】
(3)上記実施形態においては、溶湯保温装置100の坩堝収納筐体130及び燃焼装置200の燃焼装置筐体210の構成は、耐熱性部材でなる耐熱壁と断熱性部材でなる断熱壁とによる2重壁構造としたが、必ずしもこのような構造とすることに限られるものではなく、耐熱性及び断熱性が確保可能で、かつ、安全性及び耐久性が確保可能であれば、他の構造を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
10・・・金属溶解炉、100・・・溶湯保温装置、110・・・坩堝、112・・・開口部、130・・・坩堝収納筐体、140・・・耐熱壁、150…断熱壁、160…保温室、180・・・ヒーター(電気ヒーター)、190・・・蓋体、200・・・燃焼装置、210・・・燃焼装置筐体、220・・・バーナー、250・・・燃焼室、260・・・耐熱性シール材、300・・・不純物除去装置(回転脱ガス装置)、320・・・回転体、400・・・被溶解金属(インゴット)、500・・・溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶解金属が投入されるとともに前記被溶解金属が溶解された溶湯を保温した状態で保持する坩堝を有する金属溶解炉であって、
前記坩堝の外壁との間に保温室が形成されるように前記坩堝を収納する坩堝収納筐体と、前記坩堝収納筐体の内壁に設けられて前記坩堝の内部の溶湯を所定温度に保持するためのヒーターとを有する溶湯保温装置と、
前記坩堝収納筐体の上端部に着脱可能であって前記坩堝収納筐体の上端部に装着された状態においては前記坩堝の開口部との間に燃焼室を形成する燃焼装置筐体と、前記坩堝に投入された被溶解金属を直火で溶解するためのバーナーとを有する燃焼装置と、
を有することを特徴とする金属溶解炉。
【請求項2】
請求項1に記載の金属溶解炉において、
前記坩堝収納筐体は、当該坩堝収納筐体の上端部に前記保温室の開口部を覆う蓋体を有することを特徴とする金属溶解炉。
【請求項3】
請求項2に記載の金属溶解炉において、
前記蓋体と前記燃焼装置筐体との間に耐熱性シール材を設けることを特徴とする金属溶解炉。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の金属溶解炉において、
前記ヒーターは、電気ヒーターであることを特徴とする金属溶解炉。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属溶解炉において、
前記燃焼装置が前記坩堝収納筐体から取り外された状態で前記坩堝内に浸漬可能となる不純物除去装置をさらに有することを特徴とする金属溶解炉。
【請求項6】
請求項5に記載の金属溶解炉において、
前記不純物除去装置は、先端部に回転体を有し、当該回転体が前記溶湯の中で回転しながらマイクロバブル化した不活性ガスを発生する回転式の脱ガス装置であることを特徴とする金属溶解炉。
【請求項7】
被溶解金属が投入されるとともに前記被溶解金属が溶解された溶湯を保温した状態で保持する坩堝の外壁との間に保温室が形成されるように前記坩堝を収納する坩堝収納筐体及び前記坩堝収納筐体の内壁に設けられて前記坩堝の内部の溶湯を所定温度に保持するためのヒーターとを有する溶湯保温装置と、前記坩堝収納筐体の上端部に着脱可能であって前記坩堝収納筐体の上端部に装着された状態においては前記坩堝の開口部との間に燃焼室を形成する燃焼装置筐体及び前記坩堝に投入された被溶解金属を直火で溶解するためのバーナーを有する燃焼装置とを有する金属溶解炉における溶湯生成方法であって、
前記被溶解金属を前記坩堝に投入する被溶解金属投入工程と、
前記燃焼装置を前記溶湯保温装置に装着して、前記バーナーによって直火で前記被溶解金属を溶解させる溶解工程と、
前記坩堝の内部における溶湯を前記ヒーターによって所定温度に保温した状態で保持する溶湯保温工程と、
を有することを特徴とする金属溶解炉における溶湯生成方法。
【請求項8】
請求項7に記載の金属溶解炉における溶湯生成方法において、
前記燃焼装置が前記坩堝収納筐体から取り外された状態で前記溶湯に含まれる不純物を除去する不純物除去工程をさらに有することを特徴とする金属溶解炉における溶湯生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−117640(P2011−117640A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274013(P2009−274013)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成21年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(508066522)有限会社ファインフォーミング (3)
【Fターム(参考)】