説明

金属用化学溶解制御剤、金属用化学溶解処理液および金属用化学溶解処理方法

【課題】鉄、銅系合金材料、および部品に対して、優れた化学溶解処理効果を示し、良好な光沢性、平滑性を付与する金属用化学溶解処理液。特に銅または銅合金のエッチングを行う際のサイドエッチを抑制し、微細パターン化に対応する。
【解決手段】重量パーセントで、鉱酸または有機酸0.01〜30と第二鉄イオン、第二銅イオンを含む塩0.01〜20を含有する水溶液を基本成分とする混合溶液に、スルホニウム化合物0.001〜10を主成分とし、必要に応じてアルコール類および/またはエーテル類の1種以上0.001〜10、界面活性剤の1種以上0.001〜10を添加してなる金属用化学溶解処理液。銅または銅合金のエッチング剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、特に鉄 銅 鉄系合金 銅合金の材料およびそれらの加工品の製造工程に適用できる酸洗、化学研磨、ケミカルミーリング(化学切削)、化学エッチングの金属用化学溶解処理液および金属用の化学溶解処理方法に関する。銅合金は一般に導電性に優れており、電子部品としてエレクトロニクス機器のプリント配線基板など電子工業の各種用途に広く使用されている。
【0002】
鉄−ニッケル系合金は、例えば代表的な磁性合金としてパーマロイが知られている。これらの合金は磁気特性及び耐食性が良好であるので、電子材料として、例えば時計、カメラ、トランスコア、磁気シールドなどの軟質磁性材料、半導体リードフレーム、ハウメチックシール、リードスイット、ICハウメチックシールなどの封着材料、バイメタル、テレビシャドーマスク用ブラケット、メカニカルシールなどの低膨張材料に使用されている。
【0003】
これらの電子材料は、バリ及び切断面の状態により適宣、バフ研磨、バレル研磨などによる機械研磨仕上げや化学的研磨による電解研磨を施している。しかしながら、これらの研磨処理方法は、非研磨材料の形状が複雑な部品や、小型部品、薄い箔などに対しては適用が難しく、実施できたとしても局部的な光沢ムラを生じ、量産性に欠け、多大な労力と時間を要し、経済性に劣るなどの種々の難点がある。このような部品に関しては、湿式研磨または金属溶解の化学研磨、エッチングなどの化学溶解処理方法が適用されている。
【背景技術】
【0004】
化学溶解処理とは、酸、アルカリ、または塩類を用いた浴に一定温度において金属または合金を浸漬処理し、金属表面を溶解させて光沢のある平滑面を得ることである。この方法の特徴は、処理操作が簡易であることであり、機械的または電気的作業が不必要で、被溶解処理材料又は部品をただ化学薬品の溶液中に短時間浸すだけで複雑な形状を有する小型部品または薄い箔に対しても光沢性を付与し、しかも平滑な表面が得られることにある。
【0005】
従って、これら金属の化学溶解処理液は合金成分である鉄、銅、ニッケル、コバルト等のいずれも化学溶解処理液中に溶解するようなものでなければならず、かつ均一な溶解性による平滑面を与えるようなものではなければならないものであり、特許文献1に、過酸化水素と硫酸、塩酸、リン酸、フッ酸、硝酸、スルファミン酸及びそれらの酸性塩類の鉱酸を基本成分として、アミノフェノール、アミノ安息香酸などの芳香族アミン化合物を添加してなる金属の化学的溶解処理液が提案されている。
【0006】
しかしながら、過酸化水素と鉱酸を主成分とする金属の化学溶解処理液は、幅広い金属に対して、優れた溶解性を示し、平滑な表面を与えることができるが、良好な光沢性を付与することができない。また、有機酸である酢酸などを含有する金属用化学溶解処理液は、鉄−ニッケル系合金、鉄−ニッケル−コバルト系合金についてはエッチング効果が主体となり、良好な光沢性は得られない。
【0007】
塩酸と硝酸の系または硝酸と硝酸鉄の系を基本成分とする金属用化学溶解処理液は、NOxガスの抑制のために酸濃度を低くしてNOxガスの発生を少なくして抑制する方法が取られているが、酸濃度を低くしすぎると、化学溶解量が小さく、良好な光沢性を付与させるために、浸漬時間が長くなる。この長時間研磨作業の工程で、素材の側面部を含めた部分的過溶解などの問題を生じるため、従来から、サイドエッチ又はアンダーカットを抑制した金属用化学溶解処理液であるエッチング剤が検討されている。例えば特許文献2には、塩化第二鉄あるいは塩化第二銅とモノアルキル硫酸類を含有する水溶液が提案されている。
【0008】
塩酸の系または塩酸を基本成分とする金属用化学溶解処理液は、酸濃度を低くしすぎると、化学溶解量が小さく、良好な光沢性を付与するために、浸漬時間が長くなり研磨作業の工程に、過エッチングによる素材の部分的過溶解などの問題を生じる。また、金属表面の孔食抑制作用および光沢作用などを有する特定の有機化合物を必要以上に添加すると、鉄−ニッケル系合金、鉄−ニッケル−コバルト系合金、銅または銅合金の被加工部品に対する光沢性の付与及び平滑化ができない状態になる場合があり、工業上実用的な鉄系合金および銅系合金を化学的に溶解処理する化学研磨、化学エッチングの金属用化学溶解抑制剤、その金属用化学溶解処理液および化学溶解処理方法は提供されていないのが現状である。
【0009】
なお、本発明のスルホニウム化合物をエッチング添加剤とする先行文献としては、特許文献3 特許文献4が例示される、特に特許文献3によれば、下記化1に類似のスルホニウム化合物を化学研磨液に適用する記載があるが、この先行文献の中でスルホニウム化合物は必須のものではなく、本発明のようにスルホニウム化合物単独で金属溶解処理における効果を開示した先行文献はない。
【0010】
これとは別に、腐食液を利用した化学エッチングは、被加工材の表面に耐酸性の樹脂フィルムで所望のパターンを形成し、露出した金属部分を溶解除去することによって行われるが、腐食反応が被加工材の表面に対して垂直方向にだけでなく、水平方向にも進むため、露出した金属部分より余計に除去されることになる。この現象をサイドエッチまたはアンダーカットと呼んでいるが、微細加工に対応するためには、これを最小限に止めなければならない。すなわち、水平方向への腐食作用を抑制し、垂直方向へ選択的に腐食を進行させるようにすることが必要である。特に 銅および銅合金に対して、溶解抑制剤によってサイドエッチを抑制して微細化に対応する方法は従来から試みられているが、サイドエッチの抑制の点からは十分とは言えない。
【0011】
【特許文献1】特許公報平成2年第42903号
【特許文献2】公開特許公報昭和63年−255381号
【特許文献3】公開特許公報平成8年−225966号
【特許文献4】公表特許公報2004-536220号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、これら従来の金属用化学溶解処理液および金属用化学溶解処理方法の現状に鑑み、金属、特に鉄 銅 鉄系合金 銅系合金の材料及び部品に対して均一な光沢性を付与し、かつ金属表面を平滑化することができ、良好な金属表面が得られる金属用化学溶解抑制剤を含む金属用化学溶解処理液および金属用化学溶解処理方法を提供するものである。さらに化学溶解処理時に有害ガスあるいは有害廃液を発生、または生成し難い金属用化学溶解処理液および金属用化学溶解処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、酸化性金属イオン源を酸化剤とするエッチング剤に、特定のスルホニウム化合物を特定量添加することによって、金属表面に均一な光沢性と平滑化を付与し、かつ金属パターンのサイドエッチまたはアンダーカットが抑制されることを見出し、本発明を完成した。本発明の目的は、サイドエッチを抑制し、電子工業におけるプリント配線基板などの微細パターン化に対応することができるエッチング用組成物およびその方法である金属用化学溶解抑制剤を含む金属用化学溶解処理液および金属用化学溶解処理方法を提供することである。
【0014】
すなわち、本発明に係わる金属用化学溶解処理液は、化1で表わされる金属用化学溶解抑制剤であるスルホニウム化合物から選ばれた1種以上の化合物を、鉱酸および/または有機酸、第二鉄イオン、第二銅イオンから選ばれた金属イオンの塩を含む1種以上の各成分に含有せしめてなる。
【0015】
【化1】



【0016】
(ただし、R1は水素,メトキシカルボニル基,アセチル基,ベンジルオキシカルボニル基のいずれかを、R2は水素,ハロゲン、C1〜C4のアルキル基のいずれかを、R3,R4はそれぞれ独立してC1〜C4のアルキル基,C1〜C4のアルキル基で置換されていてもよいベンジル基,α−ナフチルメチル基のいずれかを示す。Xは、SbF6、PF6、AsF6、BF4、ハロゲン、C1〜C4のアルキル硫酸、R6SO3、R7-COO、R8O-SO3 (ただし、R6、R7、R8はそれぞれ1つ以上のハロゲンで置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基またはC6〜C10のアリール基のいずれかを示す。)を示す。)
【0017】
そして具体的には、化1で表わされる金属用化学抑制剤であるスルホニウム化合物から選ばれた1種以上の化合物0.001〜10重量パーセントを、鉱酸および/または有機酸0.01〜30重量パーセント、第二鉄イオン、第二銅イオンから選ばれた金属イオンを含む塩の1種以上、具体例としては塩化第二鉄、塩化第二銅から選ばれた金属塩化物などの塩を0.01〜20重量パーセント からなる成分を含有せしめてなる金属用化学溶解処理液およびこの金属用化学溶解処理液を用いる金属用化学溶解処理方法である。以下、本発明の金属用化学溶解処理液を構成する各成分の具体例について記述する。
【0018】
本発明の金属の化学研磨液および化学研磨方法において酸は、金属を溶解せしめるための基本成分であり、ここでいう鉱酸とは、塩酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸が、また、有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、安息香酸、フタル酸、ケイ皮酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、スルファミド酸、β−クロロプロピオン酸、ニコチン酸、アスコルビン酸、ヒドロキシルピバリン酸およびレブリン酸から選ばれる一種以上の酸が例示される。塩酸、硝酸など、水溶液として存在する酸は遊離酸として重量計算をするが、鉱酸、有機酸の総量は、組成物中に0.01〜30重量パーセントであり、好ましくは、0.1〜20重量パーセント、更に好ましくは1.0〜10重量パーセントである。使用する酸の酸性度によるが、酸の濃度が低すぎると研磨速度が極端に減少し、安定したエッチング速度が得られなくなる。また高すぎると金属溶解作用が激しく、平滑でかつ光沢のある金属面が得られない。また特に、銅ではサイドエッチを大きくするためプリント配線基板の微細化パターンには対応しにくい。
【0019】
第二鉄イオン、第二銅イオンから選ばれた金属イオンの塩の濃度は、金属イオン濃度で0.01〜20重量パーセントであり、好ましくは1〜15重量パーセントで、より好ましくは5〜10重量パーセントである。前記濃度が低すぎるとエッチング速度が低下する。一方、高すぎると溶解しにくくなり、エッチング速度が不安定になる。また、塩化第二銅を用いる場合、塩化第二銅の濃度は、0.02〜43重量パーセントであり、好ましくは2〜32重量パーセントで、更に好ましくは10〜22重量パーセントである。酸化剤である過酸化水素を配合する場合、その配合量は、金属用化学溶解処理液の総量に対して、0.1〜50重量パーセントとすることが好ましく、0.2〜25重量パーセントとすることがより好ましく、0.3〜15重量パーセントとすることが特に好ましい。配合量が 0.1重量パーセント未満では、金属の酸化が不充分であり、50重量パーセントを超えると、研磨面に荒れが生じる傾向がある。
【0020】
化1で示される金属用化学溶解抑制剤としてのスルホニウム化合物の総量は、組成物中に 0.001〜10重量パーセントであり、好ましくは0.01〜5重量パーセント、更に好ましくは0.1〜1重量パーセントである。本発明のスルホニウム化合物の例としては、p−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムクロライド、p−アセトキシフェニルジメチルスルホニウムクロライド、p−メトキシカルボニルオキシフェニルジメチルスルホニウムクロライド、ベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムクロライド、ベンジル−4−メトキシカルボニルオキシフェニルメチルスルホニウムクロライド、ベンジル−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)メチルスルホニウムクロライド、ベンジル−4−メトキシフェニルメチルスルホニウムクロライド、p−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムメチルサルフェート、p−メトキシフェニルジメチルスルホニウムメチルサルフェート、p−アセトキシフェニルジメチルスルホニウムメチルサルフェート、p−メトキシカルボニルオキシフェニルジメチルスルホニウムメチルサルフェート、p−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムテトラフルオロボレート、p−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムエタンスルホナート、4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、2−メチルベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、ベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、4−メチルベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、4−ヒドロキシフェニルメチル−1−ナフチルメチルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、4−メトキシカルボニルオキシフェニルジメチルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、ベンジル−4−メトキシカルボニルオキシフェニルメチルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、4−アセトキシフェニルベンジルメチルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、4−アセトキシフェニルメチル−4−メチルベンジルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、4−アセトキシフェニルジメチルスルホニウム トリフルオロメタンスルホナート、ベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスファート、4−アセトキシフェニル−ベンジルメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモナート、α-ナフチルメチル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスファートなどが挙げられる。これらは1種類単独で、もしくは2種類以上組み合わせて用いることができる。なお、化1のスルホニウム化合物は、所定量以上添加しても格別の有効性が見出せず、価格的に不利となるので好ましくない。
【0021】
さらに、金属にぬれ性を付与し、均一な溶解促進をさせるために、これら混合液系にカチオン系、ノニオン系、両性活性剤から選ばれた界面活性剤の1種以上を添加することや、アルコール類および/またはエーテル類の1種または2種以上を含有せしめることも好ましい。なお、本発明はスルホニウム化合物の添加を要件とするため、アニオン系活性剤の添加はスルホニウムの電荷が中和され、失活するので好ましくない。
【0022】
界面活性剤を配合する場合、その量は化学研磨液の総量に対して、0.001〜10重量パーセントが好ましく、更に好ましくは0.05〜5重量パーセントである。0.001重量パーセント未満では界面活性剤成分およびアルコール類および/またはエーテル類との併用効果が得にくく、所望の効果を発揮し難い。10重量パーセントを超えると効果の向上度合いが少なく、経済的ではないばかりか、金属に付着、残存するという問題を生じることになる。
【0023】
アルコール類および/またはエーテル類を配合する場合、組成物中の好ましい濃度範囲は金属用化学溶解処理液の総量に対して、0.001〜10重量パーセントであり、更に好ましくは0.1〜5重量パーセントである。0.01重量パーセント未満では金属用化学溶解抑制剤であるスルホニウム化合物との併用効果が乏しく、所望の効果を得難い。また10.0重量パーセントより多いと、経済的ではない。
【0024】
界面活性剤を例示すると、カチオン系界面活性剤としてはオクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドテシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウムクロライドなどの、アルキルトリメチルアンモニウムクロライドや、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの4級アンモニウムクロライド、アルキルアミン塩酸塩、アルキルイソキノリニウムブロマイドなどが挙げられる。
【0025】
また、ノニオン系界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンステアリルアミンなどの、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル型、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェノール型、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレ−ト、ポリオキシエチレンオレエートなどのポリオキシエチレン脂肪酸エステル型、ソルビタンモノラウレートソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレートなどのソルビタンエステル型、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー型、グリセロールモノステアレート型やパーフルオロアルキル化合物などが挙げられる。
【0026】
両性系界面活性剤の例としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド、ラウリルヒドロキシスルホベタインなどのベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。
【0027】
アルコール類および/またはエーテル類について例示する。アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどの一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの二価アルコールなどが挙げられる。またアルコールはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリビニルアルコールから選ばれた水溶性高分子化合物であってもよく、これらの1種または2種以上である。なお、ポリエチレングリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールおよび平均分子量6000(n=130)までのポリエチレングリコールが例示される。なお、これ以上の分子量では、本発明の金属用化学溶解処理液と混和しなくなるので、適用できない。
【0028】
エーテル類としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのジエチレングリコールモノアルキルエーテル類、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなどのジプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。
【0029】
本発明の金属用化学溶解処理方法は、金属用化学溶解処理液中に被加工材を常温〜100℃の温度範囲において15秒〜5分間浸漬し、その後水洗することにより、鉄−ニッケル系合金、銅、銅系合金の金属表面を均一な光沢性のある平滑面に仕上げるものである。なお、上記組成の金属用化学溶解処理液に公知の光沢化添加剤である金属用化学溶解抑制剤、例えば芳香族ジメチルアミノ化合物、ニトロ化合物、アセチレン化合物、アルキルピリジン化合物、脂肪族または芳香族有機硫黄化合物、脂肪族有機酸等を適量併用することも可能である。
【0030】
本発明の金属用化学溶解処理液には、同じく液の安定性を高め、ムラのない金属溶解またはエッチングを行い、金属溶解またはエッチング後の表面形状を更に均一にするために、さらにジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの溶剤、さらに公知の防錆剤であるベンゾトリアゾール、トリルトリアゾールなどのアゾール類化合物など、必要に応じて種々の添加剤を配合してもよい。
【0031】
本発明の金属用化学溶解処理剤の使用方法に特に限定はないが、例えば金属溶解またはエッチング対象物を本発明の金属用化学溶解処理剤中に浸漬して、銅または銅合金をエッチングする場合は、エッチングの均一性を高めるため、前記金属用化学溶解処理剤を噴流させてもよい。また、スプレーにより銅または銅合金をエッチングすることも可能である。なお、銅をエッチングするときの金属用化学溶解処理剤の温度は30〜50℃が好ましい。
【0032】
本発明の有効成分の作用は定かではないが、本発明の有効成分である化1で表わされる金属用化学溶解抑制剤であるスルホニウム化合物は、酸素の位置で金属表面に化学吸着されるかまたはスルホニウムと金属との物理吸着によって、これらが局部的な酸腐食を抑制する結果、酸の溶解作用と相まって、金属表面の均一溶解と光沢性の向上に優れた効果を示すものと推考される。特に化1においてR1=Hであるスルホニウム化合物は、金属とフェノラート型の塩を形成することで、金属表面を安定化させるものとも推考される。
【0033】
本発明の有効成分の一つであるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリビニルアルコールといった水溶性の高分子アルコール/エーテルは、金属用化学溶解処理液の粘度を高め、かつ金属溶解速度の促進効果を有し、金属用化学溶解抑制剤であるスルホニウム化合物との相乗作用によって金属の選択的溶解を抑制し、しかも溶出金属の拡散をも抑制すると推定される。このため、金属表面の平滑化ならびに光沢性の向上に優れた効果を示し、処理金属の表面は、著しく改善される。また、同時に一般の金属の酸による溶解時に見られる薄黒色の不溶性物質、いわゆるスマットを溶解除去するので、金属表面の均一溶解をさらに促進し、光沢性の向上に効果がある。
【0034】
上記の水溶性高分子化合物は重合度により、固体あるいは液体であり、例えばポリエチレングリコールは分子量600以上のものは常温で固体であるが、本発明においては、これら重合度のいずれのものを使用しても効果に大きな変化はない。また、重合度の異なるものを混合して使用したとしても金属の溶解処理効果は、ほとんど差異を生じない。界面活性剤、アルコール類及びエーテル類は、スルホニウム化合物の分散と吸着の手助けを行うもので、金属の均一な侵食にも寄与するものと推定している。
【実施例】
【0035】
以下実施例を挙げて本発明の有効性を証明するが、これに限定されるものではない。
実施例1
鉄−ニッケル系合金の代表例として42アロイの試験片50mm×30mm×1.0mmをアセトンで脱脂し乾燥して使用する。これらの試験片を常法によりアルカリ脱脂後、表1に記載する本発明の各種組成の化学溶解処理液番号1〜10(残部は水である)を50℃に加熱して、試験片を60秒間浸漬した後、水洗、乾燥させ、各試料の溶解量を試料片面の減厚にて測定し、また、その表面光沢性を目視判定した。評価基準は、◎印:金属光沢優、○印:金属光沢良好、△印:光沢なし、×印:光沢性なく黒っぽいと表示判定した。その評価結果を表2に記載する。以下の実施例で化合物Aとはp−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムメチルサルフェート、化合物Bとはp−メトキシカルボニルオキシフェニルジメチルスルホニウムクロライド、化合物Cとはp−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムクロライド、化合物Dとはベンジル−4−ヒドロキシフェニルメチルスルホニウムヘキサフルオロホスファートであり、いずれも本発明の金属用化学溶解抑制剤である。また、PEGとは、ポリエチレングリコールの600番である。

【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
実施例2
銅板50mm×25mm×1.0mmを試験片として使用する。これらの試験片を常法によりアルカリ脱脂後、表3に記載する本発明の各種組成の化学溶解処理液番号1〜15(残部は水である)を50℃に加熱して、スプレー圧0.15Mpaの条件で、試験片を60秒間スプレーした後、水洗、乾燥させ、各試料の溶解量を試料片面の減厚にて測定し、また、その表面光沢性を目視判定した。評価基準は、◎印:金属光沢優、○印:金属光沢良好、△印:光沢なし、×印:光沢性なく黒っぽいと表示判定した。以上の評価結果は、一括して表4に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
比較例
比較例として、本発明の有効構成成分であるスルホニウム化合物に代えて公知の添加剤であるチオ尿素を使用するか、無添加で建浴し、実施例に準じ42アロイおよび銅板を使用して同条件で処理した。その配合を表5、7に記載する。また、実施例に準じて評価した。その評価結果を表6、8に記載する。
【0042】
【表5】

【0043】
【表6】

【0044】
【表7】

【0045】
【表8】

【0046】
なお、表1、3、5、7記載のエマルゲン108(ポリオキシエチレンラウリルエ−テル)は花王株式会社製、カチオンBB(ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド)は日本油脂株式会社製の界面活性剤である。
【0047】
以上のように本実施例によれば、本発明に従う金属用化学溶解処理液を用いて金属溶解またはエッチングを行った結果と、従来の金属用化学溶解処理液または本発明の金属用化学溶解抑制剤を用いない比較例とを比較すれば、本発明の金属用化学溶解抑制剤によって金属の光沢性および平滑性は良好であり、金属溶解量またはエッチング速度を低下させることなく、維持した状態になることがわかる。これによりプリント配線基板などの溶解処理におけるサイドエッチ量がはるかに小さくさせることができる。鉄系合金、銅および銅合金の薄板や箔に適応できることは無論である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る金属用化学溶解抑制剤であるスルホニウム化合物を使用した金属用化学溶解処理液は、比較例の従来の金属用化学溶解処理液に比べて、格段に優れた金属の化学溶解処理効果を示し、鉄−ニッケル−クロム系合金、鉄−ニッケル系合金、鉄−ニッケル−コバルト系合金材料、および部品に対して良好な光沢性、平滑性を付与することができる。
【0049】
また、本発明の金属用化学溶解処理液で銅および銅合金をエッチングすることにより、サイドエッチの少ないエッチング加工が可能であり、ブリント配線基板などの精密電子部品の微細化に対応することができる。また、本発明の金属用化学溶解処理液は、プリント配線板の配線の形成以外に、ガラス基板上の配線、プラスチック基板表面の配線、半導体表面の配線などの各種配線の形成にも適用できる。また、有害なガスの発生も抑制する化学研磨液および化学研磨方法を提供することができ、工業上非常に有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1で表わされるスルホニウム化合物から選ばれた1種以上の化合物からなる金属用化学溶解制御剤。
【化1】

(ただし、R1は水素,メトキシカルボニル基,アセチル基,ベンジルオキシカルボニル基のいずれかを、R2は水素,ハロゲン、C1〜C4のアルキル基のいずれかを、R3,R4はそれぞれ独立してC1〜C4のアルキル基,C1〜C4のアルキル基で置換されていてもよいベンジル基,α−ナフチルメチル基のいずれかを示す。Xは、SbF6、PF6、AsF6、BF4、ハロゲン、C1〜C4のアルキル硫酸、R6SO3、R7-COO、R8O-SO3 (ただし、R6、R7、R8はそれぞれ1つ以上のハロゲンで置換されていてもよいC1〜C4のアルキル基またはC6〜C10のアリール基のいずれかを示す。)を示す。)
【請求項2】
鉱酸および/または有機酸、請求項1の化1で表わされるスルホニウム化合物から選ばれた1種以上の化合物、第二鉄イオン、第二銅イオンから選ばれたイオンを含む塩の1種以上、の各成分を含有せしめてなる金属用化学溶解処理液。
【請求項3】
鉱酸および/または有機酸0.01〜30重量パーセント、請求項1の化1で表わされるスルホニウム化合物から選ばれた1種以上の化合物を0.001〜10重量パーセント、第二鉄イオン、第二銅イオンから選ばれた金属イオンを含む塩の1種以上を0.01〜20重量パーセント からなる成分を含有せしめてなる金属用化学溶解処理液。
【請求項4】
請求項3記載の金属用化学溶解処理液にカチオン系界面活性剤、両性系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤から選ばれた界面活性剤の1種以上を0.001〜10重量パーセント含有せしめてなる金属用化学溶解処理液。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載の金属用化学溶解処理液に、アルコール類および/またはエーテル類の1種または2種以上を、金属用化学溶解処理液全量の0.001〜10重量パーセントになるように含有せしめてなる金属用化学溶解処理液。
【請求項6】
請求項2〜5記載の金属用化学溶解処理液に過酸化水素を含有せしめてなる金属用化学溶解処理液。
【請求項7】
請求項2〜6記載の金属用化学溶解処理液を使用する化学研磨液。
【請求項8】
鉄 銅 ニッケル 鉄系合金 銅系合金のいずれかに請求項7記載の化学研磨液を適用してなる当該金属の化学研磨方法。
【請求項9】
請求項2〜6記載の金属用化学溶解処理液を主成分とするエッチング液。
【請求項10】
請求項2〜6記載の金属用化学溶解処理液を主成分とする銅用エッチング液。
【請求項11】
請求項2〜6記載の金属用化学溶解処理液を使用するプリント基板のエッチング方法。


【公開番号】特開2008−144228(P2008−144228A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332537(P2006−332537)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000176268)三新化学工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】