説明

金属用表面処理剤

【課題】アルミニウムダイキャスト部材の表面に、従来使用されていた毒性の強い6価クロムを含むことなしに、高い一次防錆性と塗装密着性を兼ね備えた表面処理皮膜を形成し得る表面処理剤を提供する。
【解決手段】(a)Zr、Ti、Hfから選ばれる1種以上の金属のフッ素系化合物を金属イオンとして1〜5000質量ppm、(b)3価Crイオンを1〜5000質量ppm、(c)Fe、Co、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Al、Sn、Ce、Mo、W、Nb、Y、及びLaから選ばれる1種以上の金属イオンを1〜5000質量ppm、及び(d)分子内に少なくとも1個のアミジノ基を有する化合物を1〜10000質量ppm含み、pHが2.5〜6の水性液である金属用表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、アルミニウム系合金、アルミダイキャスト部材などの金属表面に、従来使用されていた有毒な6価クロムを含むことなしに、高い一次防錆性と塗装密着性を兼ね備えた表面処理皮膜を形成する金属用表面処理剤、及び金属表面の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは軽量性、塑性加工性、耐食性に優れ、かつ電気・熱伝導性が良好であるなど、金属として優れた特性を有している。また、このアルミニウムに銅、マグネシウム、亜鉛、珪素、リチウム、ニッケル、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウムなどを加え合金化すれば、固溶体硬化、加工硬化、時効硬化などによって、常温並びに高温において機械的性質が著しく向上し、また耐食性、耐摩耗性、低熱膨張係数などの特性も付加されることが知られている。したがって、このような性質を有するアルミニウム又はアルミニウム合金は、生活に最も近い家庭用品や飲料用缶、家具、インテリアをはじめ、航空・宇宙、自動車、電気・電子製品、車両、船舶、土木・建築など、多くの分野において幅広く用いられている。
このようなアルミニウムやアルミニウム合金などのアルミニウム系材料の加工方法の1つとしてダイキャスト法が知られており、現在、各種成形品を製造するのに広く使用されている。
このダイキャスト法は、金属製金型内に溶湯を圧入プランジャーにより高速(20〜60m/秒程度)、高圧(30〜200MPa程度)で射出、充填し、急速に凝固させる鋳造方式であって、最小肉厚1mm程度の薄肉鋳物の製造が可能で、寸法精度や鋳肌がよく、かつ高い生産性を有するなどの長所を有している。
このようなダイキャスト法においては、特に流動性、金型内への充填性に優れ、かつ金型に溶着しないことが要求されることから、アルミニウム系材料として、Al−Si系を基本とする、Al−Si系合金、Al−Si−Mg系合金、Al−Si−Cu系合金、Al−Si−Cu−Mg系合金などが用いられる。
【0003】
前記のダイキャスト法などで加工されたアルミニウム部材は、合金元素として添加された金属元素の偏析が必ず存在し、異種金属の電気化学的電位差により腐食が進行しやすいために、一次防錆処理や塗装下地処理としては、従来6価クロメートによる処理が多用されていた。しかしながら、前記6価クロメートは毒性が強く、発がん性のおそれがあるため、近年6価クロメートを使用しない防錆処理剤や塗装下地処理剤が用いられるようになってきた。例えば、3価のクロムイオンと共に、キレート剤とコバルトイオンなどを含む処理剤(例えば特許文献1参照)、あるいは3価のクロムイオンに重金属イオンを添加してなる処理剤(例えば特許文献2参照)が開示されている。
これらの特許文献における処理剤の主成分は3価のクロムイオンであり、皮膜を構成する主成分も3価のクロムを含む酸化クロムであって、対象素材も亜鉛めっきであり、高度の耐食性が要求されるアルミニウムダイキャスト部材には適用しにくい。
これまで、アルミニウムダイキャスト部材の表面に、6価クロムを含まずに高い耐食性(6価クロメート処理に匹敵する耐食性)皮膜を形成する表面処理方法は見出されていないのが実状である。
【0004】
【特許文献1】特開2003−268562号公報
【特許文献2】特開2003−313675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況下、アルミニウムやアルミニウム系合金、アルミニウムダイキャスト部材の表面に、従来使用されていた有毒な6価のクロムを含むことなしに、高い一次防錆性と塗装密着性とを兼ね備えた表面処理皮膜を形成する表面処理方法および表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決し得るアルミニウムダイキャスト部材の表面処理方法について、鋭意研究を重ねた結果、被処理アルミニウムダイキャスト部材に対して、Zr、Ti、Hfから選ばれる1種以上の金属イオン、3価Crイオン、他の特定の金属イオン及びアミジノ基含有化合物を含む、特定pHの表面処理剤を施すことにより、6価クロムを含む皮膜に匹敵する一次防錆性と、塗装密着性を有する表面処理皮膜を形成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)(a)Zr、Ti、Hfから選ばれる1種以上の金属のフッ素系化合物を金属イオンとして1〜5000質量ppm、(b)3価Crイオンを1〜5000質量ppm、(c)Fe、Co、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Al、Sn、Ce、Mo、W、Nb、Y、及びLaから選ばれる1種以上の金属イオンを1〜5000質量ppm、及び(d)分子内に少なくとも1個のアミジノ基を有する化合物を1〜1000質量ppm含み、pHが2.5〜6の水性液である金属用表面処理剤;
(2)更に、(e)Ce、Al、Zr、Ti、Y、Nbから選ばれる金属の酸化物のゾルを固形分として1〜10000質量ppm含む、上記(1)の金属用表面処理剤;
(3)更に、(f)1分子中に含まれるアルコキシル基の少なくとも一部を加水分解してなるビス(トリアルコキシシリル)アルカンを0.1〜50000質量ppm含む、上記(1)又は(2)の金属用表面処理剤;
(4)更に、(g)アミノ基を含有するシランカップリング剤を1〜5000質量ppm含む、上記(1)〜(3)のいずれかの金属用表面処理剤;
(5)上記(1)〜(4)のいずれかの金属用表面処理剤の浴に、金属を25〜60℃、1〜300秒間浸漬処理した後、水洗し、乾燥する、金属表面の表面処理方法;
(6)被処理金属の表面を酸洗して後、水洗し、その後、上記(5)の処理を行う金属表面の表面処理方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アルミニウムダイキャスト部材の表面に、特定の表面処理皮膜を形成することにより、従来使用されていた毒性の強い6価クロメートを用いなくとも、高い一次防錆性と塗装密着性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の表面処理剤は、(a)Zr、Ti、Hfから選ばれる1種以上の金属のフッ素系化合物を金属イオンとして1〜5000質量ppm、(b)3価Crイオンを1〜5000質量ppm、(c)Fe、Co、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Al、Sn、Ce、Mo、W、Nb、Y、及びLaから選ばれる1種以上の金属イオンを1〜5000質量ppm、及び(d)分子内に少なくとも1個のアミジノ基を有する化合物を1〜1000質量ppm含み、pHが2.5〜6である金属用表面処理剤である。
【0009】
本発明の表面処理剤は、(a)Zr、Ti、Hfから選ばれる1種以上の金属のフッ素系化合物を含有する。これら金属のイオンは、水溶液中で被処理金属がエッチングしてカソードサイトでpH上昇が生じた時に水酸化物や酸化物で被処理金属表面に析出して緻密な皮膜を形成し、防錆効果を発現する。すなわち、これら金属の析出皮膜は、本発明の表面処理剤によって被処理金属表面に形成される防錆皮膜の主成分となる。また、これらの金属の水溶性を高めるためという点からこれら金属はフッ素系化合物として添加される。
Zrイオン源化合物としては、例えばジルコニウムフッ化水素酸、フルオロジルコニウム酸のリチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム塩などが挙げられる。
Tiイオン源化合物としては、例えばチタンフッ化水素酸、チタンフッ化アンモニウムなどが挙げられ、Hfイオン源化合物としては、例えばハフニウムフッ化水素酸、フルエロハフニウム酸のリチウム、ナトリウム、アンモニウム塩などが挙げられる。
Zr、Ti、Hfから選ばれる1種以上の金属のフッ素系化合物の金属イオンの含有量は、防錆性、経済性のバランスなどの面から、1〜5000質量ppm、好ましくは10〜3000質量ppm、より好ましくは15〜2000質量ppmの範囲で選定される。
【0010】
本発明の表面処理剤は、(b)3価Crイオンを含有する。3価Crイオンは、表面処理の際、(a)Zr、Ti、Hfの1種以上とともに被処理金属素地表面に析出するか、あるいはZrやTiなどの酸化物皮膜中に複合酸化物などのかたちで取り込まれることで防錆効果を発現する。
3価Crイオン源化合物としては、例えば硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸などの無機酸塩、酢酸、ギ酸などの有機酸塩などが挙げられる。さらに、6価Crイオンをホルムアルデヒド、亜リン酸、次亜硫酸ナトリウムなどで還元したものを使用することができる。
3価Crイオンの含有量は、前記Zrイオン等の場合と同様の理由から、0.1〜5000質量ppm、好ましくは1〜3000質量ppm、より好ましくは5〜1500質量ppmの範囲で選定される。
【0011】
本発明の表面処理剤は、(c)Fe、Co、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Al、Sn、Ce、Mo、W、Nb、Y、及びLaから選ばれる1種以上の金属イオンを含有する。これら金属のイオンは、皮膜中に取り込まれて皮膜構成元素のひとつとして皮膜を化学的に安定化する作用があり、また、被処理金属素地表面と反応あるいは吸着して、防錆性の向上に寄与する。
(c)成分の金属イオン源化合物としては、pH2.5〜6の範囲において、水溶性を有する化合物であればよく、特に制限されず、例えば硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ハロゲン化物などの無機酸塩、有機酸塩、オキソ酸、オキソ酸塩、錯塩などを挙げることができる。
(c)成分の金属イオンは、防錆性をさらに向上させるために加えられるものであり、その効果及び経済性などの点から、Co、Al、Zn、Mn、Mo、W及びCeのイオンが好ましく、特にCoイオンが好ましい。また、この(c)成分の金属イオンの含有量は、防錆性の向上効果、沈殿物生成の防止及び経済性の面などから、1〜5000質量ppm、好ましくは1〜3000質量ppm、より好ましくは10〜1000質量ppmの範囲で選定される。
【0012】
本発明の表面処理剤は、(d)分子内に少なくとも1個のアミジノ基を有する化合物を含有する。アミジノ基含有化合物は、防錆性の向上に寄与する。
(d)成分である、分子内に少なくとも1個のアミジノ基を有する化合物としては、下記式
【0013】
【化1】

【0014】
で表されるアミジノ基を分子内に1個以上有する化合物であればよく、特に制限されず、例えばアセトアミジン、ニトログアニジン、グアニルチオ尿素、グアニン、ポリヘキサメチレンジグアニジンの酢酸塩、o−トリルジグアニド、ジグアニド、グアニル尿素、グアニル酸、グアニン、グアノシン、グアナジン、グアナミン、アラノシアミン、ジシアンジアミド、あるいはアミジン系の化合物などを挙げることができる。
これらのアミジノ基含有化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(d)アミジノ基含有化合物の含有量は、防錆性、経済性のバランスなどの面から、1〜1000質量ppm、好ましくは5〜700質量ppm、より好ましくは、10〜400質量ppmの範囲で選定される。
【0015】
また、本発明の表面処理剤においては、pHは、2.5〜6の範囲にあることを要す。このpHが2.5以上であれば、被処理アルミニウムダイキャスト部材に対する過度の侵食を抑えることができ、一方6以下であれば表面処理剤中に沈殿が生じるのを抑制することができる。該pHは、好ましくは3.0〜5.5、より好ましくは3.5〜5.0である。
【0016】
本発明の表面処理剤は、上記成分の他に、以下の成分を更に含有することで、一次防錆性や塗装密着性をさらに向上させることができる。
【0017】
本発明の表面処理剤は、更に、(e)Ce、Al、Zr、Ti、Y、Nbから選ばれる金属の酸化物のゾルを含有することができる。
(e)成分の金属酸化物ゾルとしては、ジルコニアゾル、アルミナゾル、酸化チタンゾル、セリアゾル、イットリアゾル、酸化ニオブゾルなどが挙げられる。
これら金属酸化物ゾルはnmオーダーの微粒子であるために腐食環境で金属イオンを徐々に放出して、腐食部位に到達することで腐食の進行を遅らせる効果を有する。
(e)金属酸化物ゾルの含有量は、防錆性の向上効果及び経済性のバランスなどの面から、1〜10000質量ppm、好ましくは5〜5000質量ppm、より好ましくは、10〜3000質量ppmの範囲で選定される。
【0018】
本発明の表面処理剤は、更に、(f)1分子中に含まれるアルコキシル基の少なくとも一部を加水分解してなるビス(トリアルコキシシリル)アルカンを含有することができる。
ビス(トリアルコキシシリル)アルカンは、一般式(I)
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、R1〜R6は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルコキシル基、Aはメチレン基又はエチレン基を示す。)
で表される化合物を好ましく用いることができる。
前記一般式(I)において、R1〜R6で表される炭素数1〜4のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、各種ブトキシ基を挙げることができる。
このビス(トリアルコキシシリル)アルカンとしては、例えばビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリ−n−プロポキシシリル)メタン、ビス(トリイソプロポキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリ−n−プロポキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリイソプロポキシシリル)エタンなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
1分子中に含まれるアルコキシル基の少なくとも一部を加水分解してなるビス(トリアルコキシシリル)アルカンは、例えば酢酸、硝酸、塩酸、硫酸などの酸の存在下に、0〜60℃程度でビス(トリアルコキシシリル)アルカンの加水分解処理を行うことにより得られる。この加水分解によって、架橋化したシランカップリング剤が皮膜中に存在することにより、透水性やイオン透過性を抑え、その結果耐食性の向上した表面処理皮膜が得られる。
1分子中に含まれるアルコキシル基の少なくとも一部を加水分解してなるビス(トリアルコキシシリル)アルカンの含有量は、0.1〜50000質量ppm、好ましくは1〜10000質量ppm、より好ましくは、5〜5000質量ppmの範囲で選定される。
【0021】
本発明の表面処理剤は、更に、(g)アミノ基を含有するシランカップリング剤を含有することができる。
(g)成分のアミノ基含有シランカップリング剤としては、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンなどが挙げられる。
アミノ基含有シランカップリング剤は、特に塗装密着性を向上させることで塗装後耐食性を向上させる作用がある。
(g)アミノ基含有シランカップリング剤の含有量は、防錆性維持などの面から、1〜5000質量ppm、好ましくは5〜3000質量ppm、より好ましくは、10〜1000質量ppmの範囲で選定される。
【0022】
これら(e)〜(g)の成分の1種以上を更に含有する表面処理剤も、pHが2.5〜6であることを要する。
その際、必要に応じて用いられるpH調整剤としては、例えば硝酸、硫酸、リン酸、塩酸、フッ化水素酸などの無機酸、酢酸、ギ酸などの有機酸が挙げられる。
【0023】
本発明の表面処理方法における表面処理は、以下のようにして行うことができる。
アルミニウム系合金、アルミニウムダイキャスト部材の表面に、本発明の表面処理剤を用いて、浸漬法、スプレー法、ロールコート法、などの手段により、皮膜形成処理を行う。この際、処理温度は5〜60℃の範囲が好ましく、処理時間は1〜300秒間程度である。処理温度及び処理時間が上記範囲にあれば、所望の皮膜が良好に形成されると共に、経済的にも有利である。該処理温度は、より好ましくは10〜50℃であり、処理時間は5〜180秒間が好ましい。
なお、被処理金属の表面を酸洗して後、水洗し、その後、上記の表面処理を行うことによって、アルミ合金やアルミダイキャスト表面の不純物元素の偏析物を取り除くことができ、表面に均一で緻密な表面処理皮膜を形成できる。さらには、偏析物等の異種金属に起因する表面の電位差をなくして耐食性そのものを向上させることができる。
【0024】
このようにして得られた、アルミニウム系合金、アルミニウムダイキャスト部材の表面処理物は、乾燥せずにそのまま電着塗装をすることができるが、次のように乾燥処理をしてから塗装することもできる。
乾燥処理は、温度20〜200℃、時間5秒〜30分間の条件を採用することが、皮膜の乾燥を効果的に行い得る点から好ましい。より好ましくは、温度50〜120℃、時間1〜30分間である。
このようにして形成された本発明の表面処理皮膜において、主要構成成分であるZrやTiの析出量は通常1〜300mg/m2程度、好ましくは5〜200mg/m2である。(皮膜中のZrやTiの量は蛍光X線分光分析法によって定量することができる。)
本発明の表面処理方法によれば、アルミニウムダイキャスト部材の表面に、従来使用されていた毒性の強い6価クロムを含むことなしに、高い一次防錆性と塗装密着性を兼ね備えた表面処理皮膜を形成することができる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた表面処理アルミニウムダイキャスト板(評価板)について、以下に示す方法に従って性能評価を行った。
(1)一次防錆性
評価板について、そのまま塩水噴霧試験(SST)を行い、120時間後の発錆面積率を目視測定し、下記の判定基準で評価した。
5:発錆面積率2%以下
4:発錆面積率2%超5%以下
3:発錆面積率5%超30%以下
2:発錆面積率30%超60%以下
1:発錆面積率60%超
(2)塗装後SST
下記の方法により、評価板に塗装を行い、塗装板を作製した。
この塗装板にカッターナイフでクロスカットを入れて塩水噴霧試験(SST)を行い、1000時間後のカット部のふくれ幅を測定し、下記の判定基準で評価した。
5:ふくれ幅2mm以下
4:ふくれ幅2mm超4mm以下
3:ふくれ幅4mm超6mm以下
2:ふくれ幅6mm超8mm以下
1:ふくれ幅8mm超
<塗装板の作製>
実施例1〜9と実施例13の評価板に、乾燥膜厚が約20μとなるように、主として船外機用として使用されるウレタン変性エポキシ系溶剤系塗料をスプレー塗装し、120℃、20分間焼付け乾燥した。実施例10は、プライマーとしてパワーバインド(日本ペイント製)を塗り、170℃で20分焼付けし膜厚が25μとなるようにした後、上塗りとしてスーパーラック(日本ペイント製)を塗り、160℃×20分で焼付けし膜厚が20μとなるようにした。実施例11はカチオン電着塗料パワーニクス(日本ペイント製)を塗装し170℃で30分焼付けし膜厚が20μとなるようにした。実施例12は、粉体塗料パウダックス(日本ペイント製)を塗り180℃×20分焼付けし膜厚が60μとなるようにした。
【0026】
実施例1
市販のアルミニウムダイキャスト板[日本テストパネル社製「ADC−12」]をアルカリクリーナー[日本ペイント社製「サーフクリーナー53」]にて、50℃で2分間脱脂処理したのち、水洗した。
次に、Zrイオンとして100質量ppm、Cr3+イオンとして120質量ppm、Coイオンとして50質量ppm、Alイオンとして150質量ppm、及びジグアニドを50質量ppm含有する表面処理剤(液外観異常なし)中に、45℃、2分間浸漬処理したのち湯洗し、その後風乾して、表面処理アルミニウムダイキャスト板(評価板)を作製した。この評価板の性能評価結果を第1表に示す。
【0027】
実施例2〜12及び比較例1〜3
第1表に示す表面処理剤を用い、実施例1と同様にして、市販のアルミニウムダイキャスト板の表面処理を行い、各表面処理アルミニウムダイキャスト板(評価板)を作製した。
各評価板の性能評価結果を、第1表に示す。
比較例1は表面処理剤のpHが本発明の範囲外であるために、処理液自体に白濁沈殿が起こり表面処理不能であった。
比較例2はCr3+濃度が低すぎるために耐食性が不良であった。
比較例3は表面処理剤のpHが低過ぎるために耐食性が不良であった。
【0028】
実施例13
実施例1に記載の処理方法で処理する前に、被処理金属を市販の酸洗処理剤[日本ペイント製「NPコンディショナー950」]によって50℃で60秒間酸洗した後、水洗した。
この評価板の性能評価結果を第1表に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
[注]
<アミジノ化合物>
A:アセトアミジン
B:ニトログアニジン
C:グアニルチオ尿素
D:グアニン
E:グアニル酸
F:ポリヘキサメチレンジグアニジンの酢酸塩
G:o−トリルジグアニド
H:ジグアニド
I:グアニル尿素
J:グアナジン
<酸化物ゾル>
A;チタニアゾル
B;セリアゾル
C;アルミナゾル
D;イットリアゾル
E;ジルコニアゾル
F;酸化ニオブゾル
G;シリカゾル
<アミノシラン>
A;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン
B;γ−アミノプロピルトリメトキシシラン
C;N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン
D;N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン
【0031】
参考例1
実施例1と同様にして、脱脂処理アルミニウムダイキャスト板を得た。このアルミニウムダイキャスト板に対し、6価クロメート処理剤[日本ペイント社製「アルサーフ1000」]を用いてクロム付着量が25mg/m2となるように、40℃にて30秒間表面処理を行い、表面処理アルミニウムダイキャスト板(評価板)を作製した。
この評価板の性能評価を行ったところ、一次防錆性は4であり、塗装後SSTは4であった。
前記実施例で得られた表面処理アルミニウムダイキャスト板は、いずれも、この6価クロメート処理アルミニウムダイキャスト板に匹敵する性能を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の表面処理方法によれば、アルミニウムダイキャスト部材の表面に、従来使用されていた毒性の強い6価クロムを含むことなしに、高い一次防錆性と塗装密着性を兼ね備えた表面処理皮膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)Zr、Ti、Hfから選ばれる1種以上の金属のフッ素系化合物を金属イオンとして1〜50000質量ppm、(b)3価Crイオンを0.1〜50000質量ppm、(c)Fe、Co、Zn、Mn、Mg、Ca、Sr、Al、Sn、Ce、Mo、W、Nb、Y、及びLaから選ばれる1種以上の金属イオンを1〜5000質量ppm、及び(d)分子内に少なくとも1個のアミジノ基を有する化合物を1〜5000質量ppm含み、pHが2.5〜6の水性液である金属用表面処理剤。
【請求項2】
更に、(e)Ce、Al、Zr、Ti、Y、Nbから選ばれる金属の酸化物のゾルを固形分として1〜10000質量ppm含む、請求項1に記載の金属用表面処理剤。
【請求項3】
更に、(f)1分子中に含まれるアルコキシル基の少なくとも一部を加水分解してなるビス(トリアルコキシシリル)アルカンを0.1〜50000質量ppm含む、請求項1又は2に記載の金属用表面処理剤。
【請求項4】
更に、(g)アミノ基を含有するシランカップリング剤を1〜5000質量ppm含む、請求項1〜3のいずれかに記載の金属用表面処理剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の金属用表面処理剤の浴に、金属を25〜60℃、1〜300秒間浸漬処理した後、水洗し、乾燥する、金属表面の表面処理方法。
【請求項6】
被処理金属の表面を酸洗して後、水洗し、その後、請求項5に記載の処理を行う金属表面の表面処理方法。

【公開番号】特開2007−239016(P2007−239016A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62564(P2006−62564)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】