説明

金属空気電池及び金属空気電池の製造方法

【課題】さらなる小型化及び軽量化並びに低コスト化を実現できる金属空気電池が求められている。
【解決手段】正極層、負極層、並びに正極層及び負極層の間に配置された電解質層を備えた金属空気電池であって、電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対する正極層の電解質層に対向する側の面の面積の割合が20%〜95%である、金属空気電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池及び金属空気電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話等の機器の普及、進歩に伴い、その電源である電池の高容量化、軽量化等が望まれている。このような中で、金属空気電池は、空気極において、大気中の酸素を正極活物質として利用して、当該酸素の酸化還元反応が行われ、一方、負極において、負極を構成する金属の酸化還元反応が行われることで、充電又は放電が可能であるため、エネルギー密度が高く、現在汎用されているリチウムイオン二次電池に優る高容量二次電池として注目されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研)、「新しい構造の高性能リチウム空気電池を開発」、[online]、2009年2月24日報道発表、[平成23年8月19日検索]、インターネット<http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090224/pr20090224.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来の電池に比べて、金属空気電池はエネルギー密度が高いことから小型化及び軽量化にも有利であるが、依然として、さらなる小型化及び軽量化並びに低コスト化を実現できる金属空気電池が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者等は、金属空気電池の小型化及び軽量化並びに低コスト化について鋭意研究した結果、正極層の電解質層に対向する側の面の面積が、電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対して小さくしても所定の範囲内であれば、電池としての出力を所定の範囲で維持しながら、電池形状の小型化及び軽量化並びに低コスト化を実現できる正極構造を見出した。
【0006】
本発明は、正極層、負極層、並びに正極層及び負極層の間に配置された電解質層を備えた金属空気電池であって、電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対する正極層の電解質層に対向する側の面の面積の割合が20%〜95%である、金属空気電池である。
【0007】
本発明はまた、正極層、負極層、並びに前記正極層及び負極層の間に配置された電解質層を備えた金属空気電池の製造方法であって、
電解質層の正極層側の面の面積に対する正極層の電解質層側の面の面積の比率と前記正極層及び電解質層を備えた金属空気電池の出力との関係を調べる工程、並びに
前記比率と前記金属空気電池の出力との関係に基づいて、電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対する前記正極層の前記電解質層に対向する側の面の面積の割合が20%〜95%の範囲であって、正極層の電解質層側の面の面積が電解質層の正極層側の面の面積と同じになるように構成したときの金属空気電池の出力を基準として出力が70%以上となる範囲で前記正極層の面積を決定する工程、
を含む、金属空気電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来よりも、電池出力当たりの正極体積または正極重量を減らした小型の金属空気電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の金属空気電池における、正極層及び電解質層の一実施形態の構成を説明する断面模式図である。
【図2】従来の金属空気電池における、正極層及び電解質層の一実施形態の構成を説明する断面模式図である。
【図3】本発明の金属空気電池における、正極層、電解質層、負極層、酸素透過膜、及び外装材の一実施形態の構成を説明する断面模式図である。
【図4】本発明の金属空気電池における、正極層、電解質層、負極層、酸素透過膜、及び外装材の一実施形態の構成を説明する断面模式図である。
【図5】F型電気化学セルの断面模式図である。
【図6】金属空気電池における、電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対する正極層の電解質層に対向する側の面の面積の割合と電流値との関係を示すグラフである。
【図7】金属空気電池における、電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対する正極層の電解質層に対向する側の面の面積の割合と放電電気量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る金属空気電池は、正極層、負極層、並びに正極層及び負極層の間に配置された電解質層を備えており、図1に示すように、正極層1の電解質層に対向する側の面の面積が、電解質層2の正極層に対向する側の面の面積よりも小さい構成を有している。
【0011】
従来、金属空気電池においては、小型化及び低コスト化という観点で正極の形状について具体的な検討があまりなされておらず、図2に示すように、正極層の電解質層に対向する側の面の面積は、隣接する電解質層の正極層に対向する側の面の面積と実質的に同じにして構成されていた。これに対して、驚くべきことに、金属空気電池の出力は、正極層の電解質層に対向する側の面の面積を小さくしても、所定の範囲内であれば、出力があまり低下せずに維持される傾向を示すことが分かった。これにより、金属空気電池としての出力を所定の範囲に維持しつつ、電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対する正極層の電解質層に対向する側の面の面積の割合(以下、「正極層の面積割合」という)を小さくすることができる。
【0012】
理論に束縛されるものではないが、正極層の面積割合を所定の範囲で小さくしても、金属空気電池としての特性が低下しないことの理由の一つとして、金属空気電池特有の動作原理が考えられる。金属空気電池は、通常のリチウムイオン電池と異なり、リチウムイオンを利用するだけでなく、大気中の酸素を正極活物質として利用する電池である。この金属空気電池において、正極層の面積割合を100%(正極層の面積が電解質層の面積と同じ場合)よりも小さくすると、正極層が短くなった分、正極層の両側面部分の少なくとも一方に空間が形成され、形成された空間を酸素が通過できる経路として、正極層に酸素が供給される量が増加し、これにより、電池としての出力が所定の範囲で維持されると考えられる。つまり、正極層の面積割合を所定の範囲で小さくしても電池出力を所定の範囲で維持できる理由として、正極層への酸素の供給経路が増加し、正極の効率が向上するためと考えられる。
【0013】
さらに具体的な例を挙げて説明する。図3は、本発明の金属空気電池における、正極層、電解質層、負極層、酸素透過膜、及び外装材の一実施形態の構成を説明する断面模式図である。図3に示されるように、通常、金属空気電池は外装材5で覆われるが、正極層の面積が電解質層の面積と同じ場合(正極層の面積割合が100%の場合)、正極層の電解質層に隣接する面とは反対側の空気に接触する面からしか正極層に酸素が供給されないが、図3に示すように、正極層1の電解質層2に対向する側の面の面積が、電解質層2の正極層1に対向する側の面の面積よりも小さい場合、正極層1の両側面部の少なくとも一方に空間11が形成されるので、正極層1の側面からも酸素が供給されやすくなり、酸素の供給量が増加し、正極の効率が向上すると考えられる。なお、空間11は、酸素が通過できる経路として機能すればよく、酸素透過膜等で充填されていてもよく、あるいは、酸素を供給できる経路を確保すれば、空間11をより小さくしてもよく、この場合、外装材を正極層の側面に近づけるようにして電池形状をより小型にすることもできる。
【0014】
正極層の面積割合の上限は95%以下であり、好ましくは85%以下であり、より好ましくは70%、さらにより好ましくは60%以下である。また、正極層の面積割合の下限は20%以上であり、好ましくは30%以下であり、より好ましくは40%以上である。正極層の面積割合を小さくしていっても、正極層の面積割合が約20%以上の範囲、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上の範囲で、電池としての出力があまり低下せずに維持される傾向を示す。
【0015】
本発明に係る金属空気電池の出力は、正極層の面積割合を100%として構成したときの従来構造の金属空気電池の出力を基準として、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の出力を得ることができる。
【0016】
本発明に係る金属空気電池においては、上述のように、金属空気電池の出力を所定範囲で維持しつつ、正極層の面積割合を小さくすることができる。つまり、金属空気電池の出力当たりの正極層の面積を小さくすることができる。正極層の面積割合を100%として構成した場合の従来構造の金属空気電池の出力当たりの正極層の面積を基準としたとき、本発明に係る金属空気電池においては、電池の出力当たりの正極層の面積を、好ましくは約60%以下、より好ましくは約50%以下、より好ましくは約40%以下、さらにより好ましくは約30%以下にすることができる。
【0017】
また、正極層の面積割合が上記の範囲にあるとき、正極層の面積を小さくすることができることから、小型化及び軽量化に加えて、正極の材料コストを低減すること、及び金属空気電池全体の設計の自由度を大きくすることが可能となる。さらに、正極層が電解質層よりも小さいので、正極層と負極層との間の短絡を防止することも行いやすくなる。
【0018】
本発明に係る金属空気電池に含まれる正極層は、電解質層に隣接した任意の位置に配置され得る。例えば、正極層は、外装材に設けた酸素供給孔等からの酸素供給経路に近い位置に配置され得る。この場合、正極層への酸素の供給を効率よく行うことができる。あるいは、正極層は、電解質層の正極層に対向する側の面の中央部に配置されることが好ましい。この場合、正極層の両側面から酸素を効率的に供給しやすくすることができる。
【0019】
正極層の形状は、任意の形状であることができるが、電解質層の正極層に対向する側の面の形状と相似形状であることが好ましく、例えば円盤状、円柱状、または角柱状にすることができる。
【0020】
正極層は導電材を含むことができる。導電材としては、例えばカーボンが挙げられ、カーボンとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、メソポーラスカーボン等のカーボンブラック、活性炭、カーボン炭素繊維等が挙げられ、比表面積の大きいカーボン材料が好ましく用いられる。
【0021】
正極層はバインダーを含むことができる。バインダーとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
【0022】
正極層は酸化還元触媒を含んでもよく、酸化還元触媒としては、二酸化マンガン、酸化コバルト、酸化セリウム等の金属酸化物、Pt、Pd等の貴金属、Co等の遷移金属、コバルトフタロシアニン等の金属フタロシアニン等が挙げられる。
【0023】
本発明に係る金属空気電池の正極層と負極層との間には電解質層が含まれる。電解質層は、正極層及び負極層の間で金属イオンの伝導を行うものであり、負極層の金属種に応じたイオン伝導性を示す材料であれば、液体電解質、固体電解質、ゲル状電解質、ポリマー電解質、またはそれらの組み合わせを使用することができる。液体電解質の場合には、イオン液体が好ましく、さらに好ましくは酸素ラジカル耐性が高い溶媒及びリチウム塩を混合したイオン液体を用いることができ、例えばN−メチル−N−プロピルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルフォニルアミドと、リチウムビストリフルオロメタンスルフォニルアミドとを混合したるイオン液体等が挙げられる。
【0024】
本発明に係る金属空気電池の正極層と負極層との間にはセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布等の高分子不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂等の微多孔フィルム、またはこれらの組み合わせを使用することができる。電解質として液体電解質を用いた場合、セパレータに電解液を含浸させて電解質層としてもよい。
【0025】
本発明に係る金属空気電池に含まれる負極層は、負極活物質を含有する層である。負極活物質としては、金属または合金材料を用いることができ、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム等の第13族元素、亜鉛、鉄等の遷移金属、またはこれらの金属を含有する合金材料が挙げられる。
【0026】
また、負極活物質として、リチウム元素を含む合金、酸化物、窒化物、または硫化物を用いることができる。リチウム元素を有する合金としては、例えばリチウムアルミニウム合金、リチウムスズ合金、リチウム鉛合金、リチウムケイ素合金等を挙げることができる。リチウム元素を有する金属酸化物としては、例えばリチウムチタン酸化物等を挙げることができる。また、リチウム元素を含有する金属窒化物としては、例えばリチウムコバルト窒化物、リチウム鉄窒化物、リチウムマンガン窒化物等を挙げることができる。
【0027】
負極層は、導電性材料及び/またはバインダーをさらに含有してもよい。例えば、負極活物質が箔状である場合は、負極活物質のみを含有する負極層とすることができ、負極活物質が粉末状である場合は、負極活物質及びバインダーを有する負極層とすることができる。なお、導電性材料及びバインダーについては、上述の正極層に用いられ得る材料と同様のものを用いることができる。
【0028】
負極層の面積については、負極層に含まれるリチウムが溶解して正極層に移動してリチウム酸化物を生成するため、正極層で使用され得るリチウム量を確保できる最小限の面積にすることができる。
【0029】
本発明に係る金属空気電池に用いられ得る外装材としては、金属空気電池の外装材として通常用いられる材料を使用することができ、例えば図3の5Aに示すようなポリエーテル系の樹脂を用いることができ、また図4の5Bに示すようなラミネートパックを用いることもできる。本発明においては、外装材と正極層の側面との間に、図3及び図4に示すような空間11を形成することが好ましく、この場合、正極層の側面へ空気の供給経路を形成することができ、電池の性能をより向上することができる。本発明においては、図3及び図4に示すように、正極層の電解質層に隣接する面とは反対側の面に酸素透過膜4を配置することができる。ラミネートパックを外装材として用いたときは、ラミネートパックが変形することによって空間が小さくなりやすいが、酸素透過膜4を配置した場合、図4に示すように、酸素透過膜4及び電解質層2に挟まれた個所に、空間11を確保しやすくなる。
【0030】
外装材には、酸素を供給するための孔12が、任意の位置に設けられ得る。例えば、正極層の空気との接触面に向かって設けることができる。
【0031】
外装材としては、特に限定されないが、金属缶、樹脂、ラミネートパック等、金属空気電池に通常用いられる材料を用いることができる。
【0032】
上述のように、正極層上であって電解質層と反対側の空気との接触部側に、酸素透過膜を配置することができる。酸素透過膜としては、空気中の酸素を透過させ、かつ水分の進入を防止できる撥水性の多孔質膜等を用いることができ、例えば、ポリエステルやポリフェニレンサルファイド等からなる多孔質膜を用いることができる。
【0033】
正極層に隣接して正極集電体を配置することができる。正極集電体は、通常、正極層上であって、電解質層と反対側の空気との接触部側に配置され得るが、正極層と電解質層との間にも配置してもよい。正極集電体としては、カーボンペーパー、金属メッシュ等の多孔質構造、網目状構造、繊維、不織布等、従来から集電体として用いられる材料であれば特に限定されず用いることができ、例えば、SUS、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン等から形成した金属メッシュを用いることができる。正極集電体として、酸素供給孔を有する金属箔を用いることもできる。
【0034】
負極層に隣接して負極集電体を配置することができる。負極集電体としては、多孔質構造の導電性基板、無孔の金属箔等、従来から負極集電体として用いられる材料であれば特に限定されず用いることができ、例えば、銅、SUS、ニッケル等から形成した金属箔を用いることができる。
【0035】
本発明の金属空気電池の形状は、酸素取り込み孔を有する形状であれば特に限定されず、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、または扁平型等、所望の形状をとることができる。
【0036】
本発明の金属空気電池は、二次電池として使用することができるものであるが、一次電池として使用してもよい。
【0037】
本発明はまた、正極層、負極層、並びに正極層及び負極層の間に配置された電解質層を備えた金属空気電池の製造方法であって、
電解質層の正極層側の面の面積に対する正極層の電解質層側の面の面積の比率と前記正極層及び電解質層を備えた金属空気電池の出力との関係を調べる工程、並びに
前記比率と前記金属空気電池の出力との関係に基づいて、電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対する前記正極層の前記電解質層に対向する側の面の面積の割合が20%〜95%の範囲であって、正極層の電解質層側の面の面積が電解質層の正極層側の面の面積と同じになるように構成したときの金属空気電池の出力を基準として出力が70%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上となる範囲で前記正極層の面積を決定する工程、を含む、金属空気電池の製造方法を対象とする。
【0038】
電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対する前記正極層の前記電解質層に対向する側の面の面積の割合(以下、「正極層の面積割合」という)を100%から小さくしていっても、概して電池の出力が急激には低下せず、正極層の面積割合が所定の範囲内であれば、所定の範囲の出力を維持できる傾向があることが分かった。正極層の面積割合とその面積割合の正極層を有する金属空気電池の出力との関係に基づいて、電池の所望の出力を得ることができる小型化した正極面積を決定することができる。
【0039】
正極層の面積割合の上限は95%以下であり、好ましくは85%以下であり、より好ましくは70%、さらにより好ましくは60%以下である。また、正極層の面積割合の下限は20%以上であり、好ましくは30%以下であり、より好ましくは40%以上である。正極層の面積割合を100%(正極層の面積を電解質層の面積と同じ)とした従来の金属空気電池の出力を基準とした場合、正極層の面積割合を小さくしていっても、正極層の面積割合が約20%以上の範囲、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上の範囲で、電池としての出力があまり低下せずに維持される傾向を示す。上記範囲において、金属空気電池の出力を所定範囲で維持しつつ、正極層の面積を小さくすることができる。
【0040】
本発明に係る製造方法により得られた金属空気電池の出力は、正極層の面積割合を100%として構成したときの従来構造の金属空気電池の出力を基準として、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上得ることができる。
【0041】
本発明に係る製造方法により得られた金属空気電池においては、上述のように、金属空気電池の出力を所定範囲で維持しつつ、正極層の面積割合を小さくすることができる。つまり、金属空気電池の出力当たりの正極層の面積を小さくすることができる。正極層の面積割合を100%として構成した場合の従来構造の金属空気電池の出力当たりの正極層の面積を基準としたとき、本発明に係る製造方法により得られた金属空気電池においては、電池の出力当たりの正極層の面積を、好ましくは約60%以下、より好ましくは約50%以下、より好ましくは約40%以下、さらにより好ましくは約30%以下にすることができる。
【0042】
本製造方法により、正極形状の設計基準を明確にして正極を小型化できるので、所望の電池出力を得つつ、金属空気電池の小型化及び軽量化並びに低コスト化を図ることが可能になる。
【0043】
また、正極層の面積割合が上記の範囲にあるとき、正極層の面積を小さくすることができることから、正極と負極との間の短絡を防止すること、並びに金属空気電池全体の設計の自由度を大きくすること、も可能となる。
【0044】
本発明の金属空気電池に含まれる正極層、電解質層、及び負極層の形成は、従来行われている任意の方法で行うことができる。例えば、カーボン粒子及びバインダーを含む正極層を形成する場合、所定量のカーボン粒子及びバインダーに適量のエタノール等の溶媒を加えて混合し、得られた混合物をロールプレスで所定の厚みに圧延して、乾燥及び切断し、所望によりメッシュ状の集電体で挟んで圧着し、次いで加熱真空乾燥して、集電体に接合された正極層を得ることができる。別法として、所定量のカーボン粒子及びバインダーに適量のエタノール等の溶媒を加えて混合してスラリーを得て、スラリーを基材上に塗工及び乾燥を行って正極層を得ることもできる。所望により得られた正極層をプレス成形してもよい。正極層の基材上への塗工プロセスとしては、ドクターブレード法、グラビヤ転写法等が挙げられる。用いられる基材は、特に制限されるものではなく、集電体として用いる集電板、フィルム状の柔軟性を有する基材、硬質基材等を用いることができ、例えばSUS箔、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、テフロン(登録商標)等の基材を用いることができる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
90質量%のカーボンブラック(ECP600JD、KetjenBlack International製)、10質量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダー(ダイキン製)、及び溶媒として適量のエタノールを混合して、混合物を得た。次いで、得られた混合物をロールプレスにて圧延し、乾燥及び切断した。SUS304製100メッシュ(ニラコ社製)を集電体として用いて、切断した混合物を前記集電体で挟み、10kNで10秒、圧着し、次いで加熱真空乾燥を行い、メッシュ状の集電体を圧着した直径12.0mm、厚み150μmの正極層を形成した。
【0046】
N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルフォニルアミド(PP13TFSA、関東化学製)に、リチウムビストリフルオロメタンスルフォニルアミド(LiTFSA、キシダ化学製)を0.32mol/kgの濃度になるように、Ar雰囲気下で混合し、溶解させて、電解液を調製した。
【0047】
セパレータとして、直径18.0mm、厚み200μmのポリプロピレン製不織布(JH1004N)を用意した。
【0048】
負極層として、直径15.0mm、厚み200μmの金属リチウム箔(本城金属製)を用意し、SUS304製(北斗電工社製)の集電体に貼り付けた。
【0049】
密閉容器として、図5に示す北斗電工社製のF型セル10を用いた。F型セル10に、負極集電体7、負極層3、及びポリプロピレン製セパレータを組み付け、調製した電解液をポリプロピレン製セパレータに注入して電解質層2を形成し、次いで正極層1及び正極集電体6を組み付けて、評価用セルを作製した。なお、それぞれの円盤状の層が同軸になるように組み付けた。正極層の面積割合は44.4%であった。
【0050】
次いで、F型セル10をガス置換コック付のガラスデシケーター(500ml仕様)に入れて、ガラスデシケーター中の雰囲気を純酸素雰囲気に置換した。
【0051】
(実施例2)
直径10.0mmの正極層を形成して評価用セルを作成した以外は、実施例1と同様にした。正極層の面積割合は31.0%であった。
【0052】
(実施例3)
直径8.0mmの正極層を形成して、評価用セルを作成した以外は、実施例1と同様にした。正極層の面積割合は20.0%であった。
【0053】
(比較例1)
直径18.0mmの正極層を形成して、評価用セルを作成した以外は、実施例1と同様にした。正極層の面積割合は100.0%であった。
【0054】
(比較例2)
直径6.0mmの正極層を形成して、評価用セルを作成した以外は、実施例1と同様にした。正極層の面積割合は11.0%であった。
【0055】
実施例1〜3及び比較例1〜2で作成した金属空気電池について、電流電圧(I−V)特性を、次の条件にて評価した。マルチチャンネルポテンショスタット/ガルバノスタットVMP3(Bio−Logic製)充放電I−V測定装置を用いて、ガラスデシケーターに入れた金属空気電池を、試験開始前に60℃の高温槽にて3時間静置した。次いで、60℃、純酸素、1気圧の条件下で、電流印加時間/レスト時間を30分/0.1秒として、電圧が大きく低下する前の電圧値である2.5Vのときの電流値を測定した。
【0056】
図6に、正極層の面積割合を横軸にとり、縦軸に2.5Vのときの電流値をプロットした結果を示す。正極層の面積割合が100%とした比較例1の金属空気電池に対して、正極層の面積割合を小さくしても、正極層の面積割合が20%以上の範囲で、比較例1の金属空気電池の電流値(出力)を基準として、70%以上の電流値(出力)が得られた。また、正極層の面積割合を小さくしても正極層の面積割合が40%程度までは、ほとんど電流値(出力)に変化はみられず、正極層の面積割合を小さくした本発明の金属空気電池が、従来構造の金属空気電池に対してほぼ同じ電流値(出力)を維持できることが示された。電流値(出力)当たりの正極層の面積率を、比較例1の金属空気電池によって得られた電流値(出力)当たりの正極層の面積を基準として算出すると、実施例1〜3において、それぞれ54%、44%、29%であり、電流値(出力)当たりの正極層の面積を小さくできていることが分かった。表1にそれぞれの結果を示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1〜2及び比較例1で作成した金属空気電池について、正極層の面積基準で0.02mA/cm2の電流密度で、セル電圧が2Vになったときの放電容量を測定した。
【0059】
図7に、正極層の面積割合を横軸にとり、縦軸に測定した放電容量をプロットした結果を示す。正極層の面積割合が100%である比較例1の金属空気電池に対して、正極層の面積割合を小さくするにつれて、放電容量は増加傾向を示した。
【0060】
上記結果から、正極層の面積割合を小さくした本発明の金属空気電池が、従来構造の金属空気電池に対して、得られる電流値を維持しつつ、放電容量も損なわないことが見出された。
【符号の説明】
【0061】
1 正極層
2 電解質層
3 負極層
4 酸素透過膜
5A ポリエーテル系樹脂の外装材
5B ラミネートパックの外装材
6 正極集電体
7 負極集電体
8 ガス溜め部
9 密閉容器
10 F型電気化学セル
11 空間
12 酸素供給孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、負極層、並びに前記正極層及び負極層の間に配置された電解質層を備えた金属空気電池であって、前記電解質層の前記正極層に対向する側の面の面積に対する前記正極層の前記電解質層に対向する側の面の面積の割合が20%〜95%である、金属空気電池。
【請求項2】
前記電解質層の前記正極層に対向する側の面の面積に対する前記正極層の前記電解質層に対向する側の面の面積の割合が30%〜95%である、請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項3】
前記電解質層の前記正極層に対向する側の面の面積に対する前記正極層の前記電解質層に対向する側の面の面積の割合が40%〜95%である、請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項4】
前記電解質層が、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルフォニルアミドとリチウムビストリフルオロメタンスルフォニルアミドとを混合した電解液を含む、請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項5】
前記正極層がカーボンを含む、請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項6】
正極層、負極層、並びに前記正極層及び負極層の間に配置された電解質層を備えた金属空気電池の製造方法であって、
電解質層の正極層側の面の面積に対する正極層の電解質層側の面の面積の比率と前記正極層及び電解質層を備えた金属空気電池の出力との関係を調べる工程、並びに
前記比率と前記金属空気電池の出力との関係に基づいて、電解質層の正極層に対向する側の面の面積に対する前記正極層の前記電解質層に対向する側の面の面積の割合が20%〜95%の範囲であって、正極層の電解質層側の面の面積が電解質層の正極層側の面の面積と同じになるように構成したときの金属空気電池の出力を基準として出力が70%以上となる範囲で前記正極層の面積を決定する工程、
を含む、金属空気電池の製造方法。
【請求項7】
前記電解質層の前記正極層に対向する側の面の面積に対する前記正極層の前記電解質層に対向する側の面の面積の割合が30%〜95%の範囲である、請求項6に記載の金属空気電池の製造方法。
【請求項8】
前記電解質層の前記正極層に対向する側の面の面積に対する前記正極層の前記電解質層に対向する側の面の面積の割合が40%〜95%である、請求項6に記載の金属空気電池の製造方法。
【請求項9】
前記出力が90%以上である、請求項6に記載の金属空気電池の製造方法。
【請求項10】
前記出力が95%以上である、請求項6に記載の金属空気電池の製造方法。
【請求項11】
前記電解質層が、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム・ビストリフルオロメタンスルフォニルアミドとリチウムビストリフルオロメタンスルフォニルアミドとを混合した電解液を含む、請求項6に記載の金属空気電池の製造方法。
【請求項12】
前記正極層がカーボンを含む、請求項6に記載の金属空気電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−58407(P2013−58407A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196476(P2011−196476)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】