説明

金属管の曲げ加工装置および曲管部を備えた金属管の製造方法

【課題】金属管の圧縮曲げ加工における圧縮駆動力の増大を招くことなく減肉量を一層低減する。
【解決手段】加工対象である金属管の一部を環状に加熱する加熱手段と、加熱手段に向け金属管を推進させる推進手段と、金属管を把持すると共に支軸を中心として回動可能なクランプアームを含み、クランプアームによって加熱手段による金属管の加熱部の前方部分を把持すると共にこの把持点を推進手段による金属管の推進に伴い支軸を中心として旋回させ、これにより金属管に曲げモーメントを加える案内手段と、推進手段による金属管の推進方向とは反対方向への力である引戻力を、支軸を支点としてクランプアームを介し金属管に加えることにより金属管に圧縮力を作用させる圧縮手段とを備える金属管の曲げ加工装置で、前記引戻力の印加点と支軸との距離がクランプアームによる金属管の把持点と支軸との距離より大きくなるように圧縮手段を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管の曲げ加工装置および曲管部を備えた金属管の製造方法に係り、特に、金属管の減肉(肉厚の減少)を防ぎつつ曲げ加工を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
石油やガス・各種液体などの流体を搬送するパイプとしてプラントや工場、発電所などの産業施設において、あるいは橋梁やスタジアム屋根など土木建築物の骨組構造材として金属管が今日広く用いられている。これらの金属管は、規格化され予め所定形状になされた管(直管や異形管(エルボ、ベンド等))が使用される一方で、施工対象に応じて直線状の管を曲げ加工した管(以下、曲げ管と云う)も、様々な曲率・管路形状への要求に柔軟に対応できることから広範に使用されている。
【0003】
一方、曲げ管を製造する場合、素材となる直管を単純に曲げただけでは、曲管部分の外周側の管厚(肉厚)が薄くなり、当該管に対する所要の強度・仕様を満たさなくなるおそれがある。そこで、直管を単純に曲げる(例えば下記特許文献1参照)だけでなく、管軸方向へ圧縮力を加えつつ曲げ加工を行うことでこのような肉厚の減少(減肉)を防ぐいわゆる圧縮曲げに関する種々の提案がなされている(例えば下記特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特公昭54−28156号公報
【特許文献2】特公平2−47287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、石油やガス・化学・発電など各種プラントの配管においては、プラント全体のコンパクト化とコストダウンを図るために出来るだけ管径(外径)を抑え、流速を速くして高圧輸送を行う傾向にある。このため、高い管内圧力に耐え得る高強度材料を使用すると共に、曲げ加工後においても管厚を素管の肉厚と同等に維持する(減肉をゼロに近づける)要請が高まっている。
【0006】
一方、曲げ管の曲率半径は、施工の容易性から、規格化された市販のエルボ等と同寸法が要求されることが少なくない。ところが、これらエルボの曲率半径は一般に小さく、曲率半径が小さくなるほど曲げ加工時の管外周の減肉量は増大することから、曲げ管の減肉をゼロに近づける要請に応えることは現実には容易ではない。また、曲げ管の素材となる直管の製造技術の進歩に伴い、製造公差の最小値に近い値で直管の製造が行われるようになってきており、曲げ加工時に少しでも減肉が生じれば、当該管に必要な肉厚を確保できなくなるおそれが生じている。
【0007】
他方、減肉を防ぐため上記圧縮曲げを採用し、このとき管軸方向へ加える圧縮力を増大させれば減肉を抑えることが可能である。しかしながら、当該圧縮力を増大させるには、圧縮駆動部の出力増大やこれを支持する機構、更には曲げ加工装置全体の大型化を招き、単純に圧縮力を大きくするだけでは上記要請に十分に応えることが難しいのが現状である。一例を挙げれば、12B/sch80(肉厚17.4mm)の鋼管を1.5DR(曲げ半径:478mm)の小径曲げで曲げ加工を行う場合、通常の圧縮力をかける曲げ加工では、鋼管の推進力は約60トンで減肉率は12.5%となるが、減肉率を0%にするためには、約180トン(約3倍)もの推進力が必要となる。
【0008】
したがって、本発明の目的は、金属管の圧縮曲げ加工における圧縮駆動力の増大を招くことなく、減肉量をより一層低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係る金属管の曲げ加工装置は、曲げ加工対象である金属管の一部を環状に加熱する加熱手段と、当該加熱手段に向け前記金属管を管軸方向へ推進させる推進手段と、前記金属管を把持すると共に支軸を中心として回動可能なクランプアームを含み、このクランプアームによって前記加熱手段による金属管の加熱部の前方部分を把持すると共にこの把持点を前記推進手段による金属管の推進に伴い前記支軸を中心として旋回させ、これにより前記金属管に曲げモーメントを加える案内手段と、前記推進手段による金属管の推進方向とは反対方向への力である引戻力を、前記支軸を支点として前記クランプアームを介し前記金属管に加えることにより当該金属管に圧縮力を作用させる圧縮手段とを備える金属管の曲げ加工装置であって、前記引戻力の印加点と前記支軸との距離が前記クランプアームによる金属管の把持点と前記支軸との距離より大きくなるように前記圧縮手段を配置したものである。
【0010】
本発明の曲げ加工装置では、上記加熱手段により金属管の一部を環状に加熱しつつ金属管を推進させ、同時に、案内手段によって加熱手段を通過した金属管が弧を描いて湾曲するように案内する。具体的には、金属管の推進方向を「前方」とした場合に(本出願では、金属管の推進方向に向かって先方を「前」、その逆である後方を「後」として説明する)、加熱部の前方部分をクランプアームによって把持する。このクランプアームは、支軸を中心として回動可能に設置してあり、上記推進手段による金属管の推進に伴って回動し、これに伴い前記把持部分は当該支軸を中心に旋回することとなって金属管の前記加熱部に曲げモーメントが加わり、これにより金属管を連続的に塑性変形させて円弧を描くように金属管を曲げることが出来る。
【0011】
一方、上記曲げモーメントに加えて管軸方向へ圧縮力を加えることにより、管外周側の減肉(肉厚の減少)を防ぐ。この圧縮力は、管の推進方向とは反対方向への力である引戻力を、上記支軸を支点としてクランプアームを介して金属管に加えることにより生じさせるが、本発明では当該引戻力を印加する位置から支軸までの距離が、クランプアームによる金属管の把持点と支軸との距離より大きくなるようにする。これにより、従来に較べて小さな引戻力で大きな圧縮力を金属管に生じさせ、曲げ加工時の減肉量を小さくすることが出来る。
【0012】
上記「引戻力を印加する位置から支軸までの距離がクランプアームによる金属管の把持点と支軸との距離より大きくなるようにする」には、例えば、支軸側から見て加熱手段による金属管の加熱部(すなわち、加工前の初期状態におけるクランプアームによる金属管の把持点)より外側に前記圧縮手段を配するようにすれば良い。
【0013】
圧縮手段の具体的な構成としては、例えば、クランプアームに固定され当該クランプアームと共に回動するピニオンと、当該ピニオンと噛み合うラックと、クランプアーム及びピニオンの回動に伴う前記ラックの従動を制動し、これにより上記圧縮力を生じさせる制動手段とを含むようにすれば良い。
【0014】
なお、本発明において圧縮手段の構成は、上記のようなピニオンとラックによる機構に限られず、例えばワイヤやギア、シリンダその他、様々な駆動・伝達機構を採用することが可能である。推進手段についても、金属管を進行させることが出来る機構であればその構造は特に問わない。
【0015】
さらに上記本発明の曲げ加工装置では、金属管の後部を把持して当該金属管に推進力を伝達する後部クランプ手段を有しかつ前記加熱手段に向け進行可能な移動ベースをさらに備え、前記推進手段は、一端部が前記移動ベースに係合しかつ他端部が前記支軸に係合すると共に短縮又は伸長することによって前記移動ベースを介して金属管を推進させる推進駆動手段を含み、前記圧縮手段は、一端部が前記移動ベースに係合しかつ他端部が前記支軸に係合すると共に短縮又は伸長することによって前記金属管に圧縮力を加える圧縮駆動手段を含むようにしても良い。
【0016】
かかる装置構造では、上記後部クランプ手段によって金属管の後部を把持し、この後部クランプ手段が設置された移動ベースを上記推進駆動手段により進行させることで金属管を推進させる。推進駆動手段は、一端部が移動ベースに、他端部が前記支軸にそれぞれ係合して短縮する(例えば移動ベースと支軸との間の距離を縮める(移動ベース又は支軸を引き寄せる))か、或いは伸長する(例えば移動ベースを後方から押す出すことにより前方へ進行させる)ことにより、移動ベースと支軸を相対的に近づけ、これにより支軸に対して移動ベースを相対的に進行させ金属管を推進させる。
【0017】
また、上記圧縮駆動手段も同様に、一端部が移動ベースに、他端部が前記支軸にそれぞれ係合して短縮する(例えば移動ベースと支軸との間の距離を縮める(移動ベース又は支軸を引き寄せる))か、或いは伸長する(例えば移動ベースを後方から押す出すことにより前方へ進行させる)ことにより、上記引戻力を発生させ金属管に圧縮力を生じさせる。
【0018】
さらに、移動ベースを有するこのような装置構造において、前述のように支軸側から見てクランプアームによる金属管の把持点より外側に圧縮手段(圧縮駆動手段)を配するようにすれば、加工対象である金属管を挟んで金属管を推進させる推進手段と、圧縮力を加える圧縮手段とが移動ベースを介して相互に連結され、シーソーのように釣り合い状態に配置されるから、金属管を推進させる推進力の反力と、減肉を防ぐ圧縮力の反力が相殺され、これら反力の支持をすべて装置外部に依存する装置構造と比較して、当該支持構造が簡便なもので済み、装置全体を小型化することが可能となる。なお、この点については、図1A〜図2に基づいて後に更に詳しく説明する。
【0019】
また、本発明に係る曲管部を備えた金属管の製造方法は、金属管の一部を環状に加熱すると共に、当該加熱部に曲げモーメントと管軸方向への圧縮力とを加えて当該金属管の少なくとも一部を湾曲状態に塑性変形させる、曲管部を備えた金属管の製造方法であって、金属管の加熱部近傍位置を把持すると共にこの把持点から一定距離隔てた支軸を中心として回動可能なクランプアームによって当該金属管を把持すると共に、当該金属管を管軸方向へ推進させることにより前記クランプアームによる把持点を旋回させ金属管の少なくとも一部が弧を描いて湾曲するように案内する一方、前記クランプアームによる金属管の把持点と前記支軸との距離より前記支軸から大きな距離を隔てた位置において、金属管の推進方向とは反対方向への引戻力を前記支軸を支点として前記クランプアームを介して金属管に加えることにより金属管に圧縮力を付与する。
【0020】
このような本発明に係る製造方法によっても、前記本発明に係る曲げ加工装置と同様に、従来に較べて小さな力(引戻力)で大きな圧縮力を金属管に生じさせ、曲げ加工時の減肉を抑制することが出来る。
【0021】
本発明の製造方法においても、上記方法の具体的態様として、支軸側から見て加熱手段による金属管の加熱部(すなわち、加工前の初期状態におけるクランプアームによる金属管の把持点)より外側において引戻力を加えるようにすることが出来る。
【0022】
また上記方法では、金属管の後部を把持しかつ金属管の加熱位置に向け進行可能な移動ベースにより金属管の後部を把持しつつ、一端部が当該移動ベースに係合すると共に他端部が前記支軸に係合して短縮又は伸長する駆動手段により金属管を推進させると同時に、一端部が前記移動ベースに係合すると共に他端部が前記支軸に係合して短縮又は伸長する駆動手段によって金属管に圧縮力を加えるようにしても良い。
【0023】
本発明において、加工対象となる金属管の材料および寸法(外径・内径・肉厚寸法)は、特に限定されない。例えば、本発明は、鉄を主体とした材料からなる管(例えば鋼管やステンレス管、特殊鋼管など)を加工対象とすることが出来るが、他の金属材料を主体とする管や他の金属合金を材料とする管であっても良い。さらに、本発明において曲げ加工する部分(曲管部)は、当該管全長の一部であっても良いし、全体であっても構わない。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、金属管の圧縮曲げ加工における圧縮駆動力の増大を招くことなく、減肉量をより一層低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態および実施例を図面に基づいて説明するが、まず実施形態に係る装置の原理を述べ、その後に実施例として更に具体化した装置の構成例を説明する。尚、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【0026】
〔装置原理〕
図1Aから図1Bは本発明の実施形態に係る装置構造を示す概念図であり、図2は当該装置の動作を示すものである。図1に示すように本実施形態の装置は、曲げ加工対象である金属管1を環状に加熱する加熱コイル11およびこの加熱コイル11に電流を供給する電源部12と、加熱コイル11の前方位置において金属管1を把持するクランプ部22を有すると共に当該コイル11から一定距離R1だけ離れた位置に設置された支軸Aを中心として回動可能に設けたクランプアーム21と、金属管1の後部を把持するクランプ部52を有すると共に加熱コイル11に向け進行可能に設けた移動ベース(以下、単にベースと云う)51と、このベース51を支軸Aに向かって進行させる推進駆動部(推進駆動手段)31と、金属管1に圧縮力を加える圧縮駆動部41と、クランプアーム21に連結されてこれと一緒に支軸Aを中心に回転する案内輪42とを備えている。
【0027】
支軸Aは動かないように(例えば建物構造体や床に)固定してあり、上記推進駆動部31は当該支軸Aとベース51とに係合してベース51を支軸A側に引き寄せることによりベース51を進行させ、これによりベース51に固定(把持)した金属管1が加熱コイル11に向かって前方へ推進されることとなる。また、金属管1の前端部はクランプ部22によってクランプアーム21に固定(把持)してあるから、金属管1の進行に伴いクランプアーム21が回転し、金属管1の把持点は支軸Aを中心として旋回する。このようにクランプアーム21によって金属管1が案内され、加熱コイル11による金属管1の加熱部分が連続的に塑性変形して湾曲し、支軸Aとクランプアーム21による把持点(クランプ部22)との距離R1を半径とする円弧形状に金属管1が曲げられる(図1B参照)。
【0028】
またこのとき同時に、圧縮駆動部41によって金属管1に対して圧縮力が加えられる。具体的には、圧縮駆動部41は、一端がベース51に、他端が案内輪42の外周(点B)にそれぞれ係合し、両者51,Bを引き寄せこれらの間を縮めるように駆動される。案内輪42は、上記金属管1の推進によるクランプアーム21の回転に伴って回転し、圧縮駆動部41と案内輪42との連結部材45(例えばチェーンやワイヤ、ラック、ロッドなど/具体的構成は後に述べる)を巻き取りあるいは前方(金属管1の推進方向)へ推進させるが、圧縮駆動部41はこの巻取りないし推進に抗する力(引戻力又は制動力)を発生する。この引戻力が案内輪42およびクランプアーム21を介して金属管1に管軸方向への圧縮力となって作用し、管外周部分の減肉を抑制する。
【0029】
また上記装置構造では、引戻力を発生させる圧縮駆動部41を支軸A側から見て金属管1より外側に配置してあり、支点となる支軸Aから引戻力の印加点(力点)Bまでの距離R2が、支軸Aから圧縮力の作用点であるクランプアーム21による金属管1の把持点(クランプ部22)までの距離R1より大きい。したがって支軸Aを支点とした梃子の原理により、小さな引戻力によっても大きな圧縮力を金属管1に加えることが出来る。さらに本装置構造の特徴として、次のようなことが云える。
【0030】
〔装置動作〕
推進駆動部31ならびに圧縮駆動部41を駆動し曲げ加工を開始すると、上述のようにベース51は支軸A側に向け前進するが、この前進速度をV1とする。またこのベース51の進行により加熱コイル11によって加熱された点(加熱点)Pも前進し、クランプアーム21が回転することにより当該加熱点Pは支軸Aを中心として旋回する(図1B参照)。なお、加熱コイル11は移動せず、当該加熱コイル11によって加熱された管部分(加熱点)は曲げ変形直後に例えば水や圧縮空気等の冷却剤によって急冷され塑性加工が順次連続的に行われる。図2は、加工開始から時間t1が経過したときの装置各点(支軸A、加熱点P、引戻力の印加点B、及びベースX0)の管軸方向に沿った変位を示す図である。この図に示すように、ベース51は初期位置X0からV1・t1だけ支軸Aに向け移動する。
【0031】
またこのベース51の進行に伴って前進する加熱点Pの速度をvとすると、当該前進速度vは金属管1の圧縮率がβのとき次式のとおりとなり、この前進速度vが加工速度となる。
【0032】
v=V1・(1−β) …(式1)
【0033】
またこのとき同時に、案内輪42に対する圧縮駆動部41の係合点(引戻力の印加点)Bも前進し、この前進速度V2は圧縮駆動部によって次式のとおりに制御される。
【0034】
2=V1・(1−β)・R2/R1 …(式2)
【0035】
上記式1及び式2から下記式3が導かれ、クランプアーム21の旋回に係る上記各点A、P及びBの変位がバランスする。なお、図1Bおよび図2において、各点X1、P及びBの変位後(t=t1)の点をそれぞれX1、P1及びB1で示している。支軸Aは固定されており変位は無い。また、B‐B1及びP‐P1は実際には円弧状となるが、図2では直線で示している。
【0036】
2/v=R2/R1 …(式3)
【0037】
上記動作において、推進駆動部31により点A(支軸)に反力をとってもたらされる張力F1によりベース51が速度V1で前進駆動され(図1A参照)、これに伴い、金属管1の後部に張力F1と同一の推力F1がかかり、圧縮駆動部41によりベース51に反力をとってもたらされる張力F2により、案内輪42の外周(クランプアーム21の先端部)に引戻力(制動力)F2がかかる。上記推力F1は、引戻力F2との静的釣合いに加え、金属管1の曲げ変形抵抗力fbや、金属管1の圧縮変形抵抗力fp、更には当該加工装置を構成する各部要素の移動に伴う動摩擦力fμが負荷として含まれる金属管の速度V1での前進動作との動的釣合いにも関与する。また、これら負荷のうち圧縮変形抵抗力fpは、圧縮力Fpと動的に釣り合っている。
【0038】
ここで、上記曲げ変形抵抗力fbや圧縮変形抵抗力fpは、加工目的上必須の力である。また、加工動作を乱す要因となり難い力であると云える。なぜなら、金属管1に対して同軸的に作用しており、かつ、変形抵抗力は温度によってほぼ一義的に定まる安定した値となるからである。これに対して、装置要素の移動に伴う上記動摩擦力fμは、金属管1に対して異軸的に作用するうえに、曲げ加工のような低速度動作の下では乾燥摩擦ないし境界摩擦が支配的となって不規則な振幅での常時変動を伴うことから加工動作を乱しやすい。ところが、本装置構造では、上記の異軸的な力が金属管1を挟んでシーソーのような形態で作用することから多分に打ち消される(完全に打ち消されないとしても相当量低減される)ところとなって加工動作への外乱が緩和される利点がある。
【0039】
さらに本装置構造は、上記のように金属管1を挟んでシーソーのような形態で推進駆動部31と圧縮駆動部41とを配置し、ベース51とクランプアーム21によって金属管1を挟むように推進力と圧縮力とを作用させる、謂わば“閉じた構造”であり、支軸Aを固定しておく以外の固定点(基礎)が不要であり、装置全体を小型に出来る点でも有利である。以下、本発明のさらに具体的な装置構成例について説明する。
【0040】
〔実施例1〕
図3Aから図3Bは、本発明の第一の実施例に係る曲げ加工装置を示すものである。これらの図に示すようにこの曲げ加工装置は、加工対象である金属管1を加熱する加熱コイル11と、これに高周波電流を供給する電源部12と、金属管1の先端部を把持して回転するクランプアーム21と、金属管1の後部を把持して加熱コイル11に向け進行するベース51と、ベース51を進行させる推進駆動部31と、金属管1に対して圧縮力を加える圧縮駆動部41と、支軸Aに固定されると共に支軸Aに向け進行可能にベース51を支持する台座10とを備える。
【0041】
クランプアーム21は、加熱コイル11による金属管1の加熱部の直近前方位置を把持する前部クランプ部22を備え、支軸Aを中心として回動可能に設けてある。加熱コイル11はこの例では、電源部12から高周波電流を供給することにより金属管1を誘導加熱を行うものとしたが、誘導加熱コイルに限らず、例えばガスバーナーのような他の加熱手段を使用することも可能である。
【0042】
ベース51は、金属管1の後部を把持する後部クランプ部52を備え、加熱コイル11および支軸Aに向け直線状に(真っ直ぐに)進行できるように、支軸Aに固定された台座10に設置する。このベース51(したがってこれに把持された金属管1)は、推進駆動部31により加熱コイル11および支軸Aに向け推進される。推進駆動部31は、台座10に固定したシリンダ(例えば油圧シリンダ)32により構成することができ、当該シリンダ32が備えるピストンロッド33をベース51の後端部に接続することによりベース51に対して推進力を与える。
【0043】
なお、この例では2本のシリンダ32によりベース51を推進することとしたが、1本あるいは3本以上当該シリンダを備えても良い。また上記前部クランプ部22および後部クランプ部52としては、例えばコレット型チャックを用いることが出来るが、金属管1を把持可能な機構であれば、他の如何なるチャック乃至クランプ機構を採用しても構わない。
【0044】
一方、圧縮駆動部41は、ベース51に固定したシリンダ(例えば油圧シリンダ)43により構成することができ、当該シリンダ43が備えるピストンロッド44の先端にラック45を設け、このラック45と噛み合う歯を案内輪42の外周に設ける。案内輪42は、このようにラック45と噛み合う歯をその外周に備えたピニオンにより構成し、上記クランプアーム21と共に支軸Aを中心として回転するようにクランプアーム21に固定する。したがって、金属管1が推進されると、クランプアーム21が回転し、これと一緒に案内輪42が回転してラック45が前方へ(金属管1と同一方向へ)進行することとなるが(図3B参照)、圧縮駆動部41を構成する上記シリンダ43により当該ラック45の進行とは逆方向に引戻力を当該ラック45に働かせる。これにより、ピニオン(案内輪)42、クランプアーム21並びに前部クランプ部22を介して金属管1に対し管軸方向へ圧縮力を加えることが出来る。
【0045】
本実施例では本発明に基づいて、金属管1(加工前の金属管部分)を挟んで支軸Aの反対側に上記圧縮駆動部41を配置することで、支軸Aから圧縮駆動部41(引戻力の印加点であるラック45とピニオン42の噛合い部)までの距離R2が、支軸Aから金属管1の把持部(前部クランプ部22)までの距離(あるいは、支軸Aと加熱コイル11による加熱部の距離)R1より大きくなるようにしており、小さな引戻力で金属管1に対して圧縮力を効率良く加えて曲げ加工時の減肉を抑制することが出来る。
【0046】
〔実施例2〕
図4は、本発明の第二の実施例に係る曲げ加工装置を示すものである。同図に示すようにこの曲げ加工装置は、前記第一実施例と同様に、金属管1を加熱する加熱コイル11、電源部12、クランプアーム21、ベース51、推進駆動部31(推進用シリンダ32およびピストンロッド33)、圧縮駆動部41(圧縮用シリンダ43、ピストンロッド44およびラック45)、案内輪(ピニオン)42、支軸A、ならびに台座10を備えるが、前記第一実施例と異なり、推進駆動部31のシリンダ32をベース51に固定すると共に、推進駆動部31のピストンロッド33の先端部を支軸Aに固定し、推進用シリンダ32内にピストンロッド33を引き込むことによりベース51を支軸Aに引き寄せ進行させるようにしたものである。
【0047】
また、金属管1の推進方向に対して金属管1を挟んで一方の側に支軸Aと推進駆動部31を配し、他方の側に圧縮駆動部41を配することにより、前記第一実施例と同様に、支軸Aから圧縮駆動部41(引戻力の印加点であるラック45とピニオン42の噛合い部)までの距離R2が、支軸Aから金属管1の把持部(前部クランプ部22)までの距離R1より大きくなるようにしてある。なお、他の構成は前記第一実施例と同様であるから、図面において同一の符号を付して重複した説明を省略する(第三実施例でも同様)。
【0048】
〔実施例3〕
図5は、本発明の第三の実施例に係る曲げ加工装置を示すものである。同図に示すようにこの曲げ加工装置は、前記第一実施例と同様に、加熱コイル11、電源部12、クランプアーム21、ベース51、推進駆動部31(推進用シリンダ32およびピストンロッド33)、圧縮駆動部41(圧縮用シリンダ43、ピストンロッド44およびラック45)、案内輪(ピニオン)42、支軸A、ならびに台座10を備えるが、前記第一実施例と異なり、加熱コイル11による金属管1の加熱部(あるいは初期状態(加工開始時)におけるクランプアーム21による金属管1の把持点)を基準とした場合に、支軸Aと同じ側に圧縮駆動部41を配した。
【0049】
この圧縮駆動部41は、前記第一実施例と同様に、圧縮用シリンダ43と、先端にラック45を備えたピストンロッド44とを有するが、圧縮用シリンダ43は台座10や支軸Aに固定せず、固定アンカー46を介して例えば床に固定してある。ラック45は、クランプアーム21と共に支軸Aを中心として回転するピニオン(案内輪)42と噛み合い、金属管1(ベース51)の推進に伴って後方へ後退するが、圧縮用シリンダ43はこれと逆方向(前方)への力(引戻力/制動力)を発生させ、これによりラック45、ピニオン42およびクランプアーム21を介して金属管1に対し管軸方向に圧縮力を加える。
【0050】
なお、この実施例においても、支軸Aから圧縮駆動部41(引戻力の印加点であるラック45とピニオン42の噛合い部)までの距離R2が、支軸Aから金属管1の把持部(前部クランプ部22)までの距離(あるいは、支軸Aと加熱コイル11による加熱部の距離)R1より大きくなるようにしてある。
【0051】
以上、本発明の実施の形態および実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。
【0052】
例えば、前記実施例では、金属管に圧縮力を加える機構(圧縮駆動部、案内輪)としてラックとピニオンを使用したが、チェーンとスプロケット、あるいは、ワイヤと巻取りドラム、あるいは他の動力伝達機構を使用することも可能である。また、金属管を把持するクランプ手段は、金属管に加える曲げモーメントに耐え、管軸方向への軸方向力(管長手方向の推力)に対してスリップを生じないものであれば、上記以外の様々な機構であっても良い。さらに、他の推進駆動部やクランプアーム、移動ベース等についても、図面に示した例のほか各種の機構・構造のものを用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1A】本発明の実施形態に係る装置構造(加工開始前の初期状態)を示す概念図である。
【図1B】本発明の実施形態に係る装置構造(加工中の状態)を示す概念図である。
【図2】前記装置構造における動作(加工開始から時間t1を経過した状態)を説明する概念図である。
【図3A】本発明の第一実施例に係る曲げ加工装置(加工開始前の初期状態)を示す図である。
【図3B】前記第一実施例に係る曲げ加工装置(加工中の状態)を示す図である。
【図4】本発明の第二の実施例に係る曲げ加工装置を示す図である。
【図5】本発明の第三の実施例に係る曲げ加工装置を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
A 支軸
1 金属管(曲げ加工対象物)
10 台座
11 加熱コイル
12 電源部
21 クランプアーム
22 前部クランプ部
31 推進駆動部
32 推進用シリンダ
33,44 ピストンロッド
41 圧縮駆動部
42 案内輪(ピニオン)
43 圧縮用シリンダ
45 ラック
46 固定アンカー
51 移動ベース
52 後部クランプ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ加工対象である金属管の一部を環状に加熱する加熱手段と、
当該加熱手段に向け前記金属管を管軸方向へ推進させる推進手段と、
前記金属管を把持すると共に支軸を中心として回動可能なクランプアームを含み、このクランプアームによって前記加熱手段による金属管の加熱部の前方部分を把持すると共にこの把持点を前記推進手段による金属管の推進に伴い前記支軸を中心として旋回させ、これにより前記金属管に曲げモーメントを加える案内手段と、
前記推進手段による金属管の推進方向とは反対方向への力である引戻力を、前記支軸を支点として前記クランプアームを介し前記金属管に加えることにより当該金属管に圧縮力を作用させる圧縮手段と
を備える金属管の曲げ加工装置であって、
前記引戻力の印加点と前記支軸との距離が前記クランプアームによる金属管の把持点と前記支軸との距離より大きくなるように前記圧縮手段を配置した
ことを特徴とする金属管の曲げ加工装置。
【請求項2】
前記支軸側から見て前記加熱手段による金属管の加熱部より外側に前記圧縮手段を配した
ことを特徴とする請求項1に記載の金属管の曲げ加工装置。
【請求項3】
前記圧縮手段が、
前記クランプアームに固定され当該クランプアームと共に回動するピニオンと、
当該ピニオンと噛み合うラックと、
前記クランプアーム及びピニオンの回動に伴う前記ラックの従動を制動し、これにより前記圧縮力を生じさせる制動手段と
を含む請求項1又は2に記載の金属管の曲げ加工装置。
【請求項4】
前記金属管の後部を把持して当該金属管に推進力を伝達する後部クランプ手段を有しかつ前記加熱手段に向け進行可能な移動ベースをさらに備え、
前記推進手段は、一端部が前記移動ベースに係合しかつ他端部が前記支軸に係合すると共に短縮又は伸長することによって前記移動ベースを介して前記金属管を推進させる推進駆動手段を含み、
前記圧縮手段は、一端部が前記移動ベースに係合しかつ他端部が前記支軸に係合すると共に短縮又は伸長することによって前記金属管に圧縮力を加える圧縮駆動手段を含む
請求項1から3のいずれか一項に記載の金属管の曲げ加工装置。
【請求項5】
金属管の一部を環状に加熱すると共に、当該加熱部に曲げモーメントと管軸方向への圧縮力とを加えて当該金属管の少なくとも一部を湾曲状態に塑性変形させる、曲管部を備えた金属管の製造方法であって、
前記金属管の加熱部近傍位置を把持すると共にこの把持点から一定距離隔てた支軸を中心として回動可能なクランプアームによって当該金属管を把持すると共に、
当該金属管を管軸方向へ推進させることにより前記クランプアームによる把持点を旋回させ前記金属管の少なくとも一部が弧を描いて湾曲するように案内する一方、
前記クランプアームによる金属管の把持点と前記支軸との距離より前記支軸から大きな距離を隔てた位置において、前記金属管の推進方向とは反対方向への引戻力を前記支軸を支点として前記クランプアームを介して前記金属管に加えることにより前記金属管に圧縮力を付与する
ことを特徴とする曲管部を備えた金属管の製造方法。
【請求項6】
前記支軸側から見て前記加熱手段による金属管の加熱部より外側において前記引戻力を加える
請求項5に記載の曲管部を備えた金属管の製造方法。
【請求項7】
前記金属管の後部を把持しかつ前記金属管の加熱位置に向け進行可能な移動ベースにより前記金属管の後部を把持しつつ、一端部が当該移動ベースに係合すると共に他端部が前記支軸に係合して短縮又は伸長する駆動手段により前記金属管を推進させると同時に、
一端部が前記移動ベースに係合すると共に他端部が前記支軸に係合して短縮又は伸長する駆動手段によって前記金属管に圧縮力を加える
請求項5または6に記載の曲管部を備えた金属管の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−12062(P2009−12062A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179001(P2007−179001)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【出願人】(000208695)第一高周波工業株式会社 (90)
【Fターム(参考)】