説明

金属表面処理液、および金属表面処理方法

【課題】本発明は、金属材料表面に優れた耐食性、塗料密着性を付与し、かつ、高い電着塗装付き廻り性をも付与する表面処理液、および表面処理方法を提供することを目的とする。特に、自動車車体やこの部品に適用した際に、乾燥することなく、リン酸塩と同等以上の高い電着塗装付き廻り性を付与し、かつ、適切な耐食性および塗料密着性も有し、さらには、工業化し操業した場合にスラッジなどの産業廃棄物を抑制し、簡便に制御でき、経済的にも安価な金属構造物用表面処理液および表面処理方法を提供するものである。
【解決手段】少なくとも1種の水溶性テルル化合物(A)と、水溶性チタン化合物および水溶性ジルコニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)とを含有する金属表面処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、特に金属構造物の表面に優れた耐食性と塗料密着性を付与するための新規な金属表面処理用の表面処理剤、表面処理液ならびに表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属用の耐食性、塗料密着性付与を目的に、化成処理は古くから使われてきている。化成処理は表面処理に分類され、金属素材の溶解(エッチング)を少なからず伴うものである。最も一般的なものとして、リン酸塩処理が挙げられる。リン酸塩処理とは、酸性のリン酸水溶液をベースとするものである。リン酸塩処理において、例えば、金属材料として最も一般的な鋼材を処理した場合、リン酸処理液と鋼材が接すると金属表面がエッチング(腐食現象)される。この際に、リン酸が消費されて、結果として固液界面のpH上昇が生じる。これにより、不溶性のリン酸塩が表面に析出する。また、処理液に亜鉛やマンガンなどを共存させることにより、リン酸亜鉛、リン酸マンガンなどの結晶性の塩を析出させることができる。これらのリン酸塩皮膜は、塗装下地処理として好適であり、塗料密着性の向上や塗膜下腐食を抑制し、耐食性を大幅に向上させるなどの優れた効果を発揮する。
【0003】
リン酸塩処理自体は実用化されてから既に100年近く経過しており、その間に数々の改良発明が考案されている。しかしながら、鋼材をエッチングするために、化成反応の副生成物として、溶出した鉄が生じてしまう。この鉄はリン酸鉄として系内に沈殿させ、定期的に系外へ排出される。なお、一般的に沈殿物は、スラッジと呼ばれている。現状、このスラッジは産業廃棄物として投棄されるか、または、タイルなどの原料の一部としてリユースされている。しかしながら、近年の地球環境保全の観点からは、産業廃棄物の低減は大きな課題となっており、このために、廃棄物が生じない化成処理液や処理方法が望まれている。
【0004】
次いで代表的な化成処理として、クロメート化成処理が挙げられる。クロム酸クロメート化成処理の実用化の歴史も深く、現在も航空機材料、建築材料、自動車部品などの表面処理に広く使用されている。このクロメート化成処理液は、6価クロムからなるクロム酸を主成分として含有するので、金属材料表面上に6価クロムを一部含有する化成皮膜を形成する。クロメート化成皮膜は優れた耐食性と塗料密着性を有するものの、有害な6価クロムを含有しているので、環境上の問題から6価クロムを全く含有しない化成処理液、化成皮膜が強く望まれている。
【0005】
一方、自動車に代表される輸送用の金属構造物は、防食性能を付与するために電着塗装が施される。この場合、金属構造物の化成処理後に乾燥することなく電着塗装を行うことが、世界的に一般的な塗装方法となっている。電着塗装は、電解処理により塗料を析出させているために、比較的、塗料膜厚が均一になりやすい。このため、構造物の塗装に適している。しかしながら、自動車車体や部品のような特に複雑な構造物の場合には、構造上電気が流れにくい箇所が生じる。このため、袋構造物などでは、外面と内面の塗料膜厚に差異が生じる。一般的に、電着塗装付き廻り性と呼ばれており、この電着塗装付き廻り性が良好なものが望まれている。
【0006】
電着塗装付き廻り性の改善に関しては、幾多の発明が考案されている。
例えば、特許文献1には、基体樹脂としてアルキルフェノールおよびポリカプロラクトンで変性したアミン付加エポキシ樹脂(I)、硬化成分としてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(II)を含有するカチオン電着塗装組成物を用いて、袋構造を有する被塗物の電着塗装時における、塗膜の単位膜厚当たりの分極抵抗値(a)が125〜150kΩ・cm/μmであり、かつ単位電気量当たりの塗料析出量(b)が28〜50mg/Cの条件にて、付き廻り性における内板/外板の膜厚(c)が、内板膜厚が10μmで外板膜厚が10〜12μmで内板膜厚と外板膜厚の比が10/10〜12である塗膜を得る電着塗膜形成方法と、この方法に使用するカチオン電着塗装組成物および該方法で塗装された塗装物品が示されている。
【0007】
特許文献2には、カチオン電着塗装における付き廻り性を高めるために、カチオン電着塗料を使用して、電着塗装時の塗料特性を以下のパラメーター:
(a)塗料の電気電導度が0.16S/m以上、
(b)塗膜の電気電導度が1.0×10−7S/m以下、
(c)析出無効電気量が320クーロン/m以下、および
(d)電気化学当量が1.0×10−4kg/クーロン以上、
に調整して電着塗装を行う方法が示されている。
【0008】
上記のように自動車車体に代表される複雑構造物では、電着塗装の付き廻り性は重要な課題である。しかしながら、この解決手段として従来は、塗料の改良や電着条件の改善といった塗装側からのアプローチしかなされていない。一般的に、リン酸塩処理は比較的高い電着付き廻り性を有しているが、代替技術を実用化するにあたっては、これと同等以上の電着付き廻り性を付与することが重要な課題であり、より好ましくは下地処理である化成皮膜側から付き廻り性を改善することが望まれる。
【0009】
リン酸塩処理以外で、かつ6価クロムを含有しない化成処理液、表面処理方法として、非常に多くの発明が提案されているが、実際に工業化できている技術は、それほど多くはなく、それらについて以下に記述する。
【0010】
クロムを全く含有しないノンクロメートタイプの化成処理液の代表的な発明としては、特許文献3に開示の処理液が挙げられる。この化成処理液は、ジルコニウムまたはチタンあるいはこれらの混合物と、リン酸およびフッ化物とを含有し、かつpHが約1.5〜4.0の酸性の水性コーティング溶液である。この化成処理液を用いて金属表面を処理すると、金属表面上にジルコニウムまたはチタンの酸化物を主成分とする化成皮膜が形成される。このノンクロメートタイプの化成処理液は、6価クロムを含有しないという利点を有しており、ビールなどの飲料缶に使用されるアルミニウムD&I缶の表面処理等に実際に広く用いられている。これは、一般的にジルコニウム系またはチタン系と呼ばれるノンクロム化成処理液の範疇に入る古典的な技術である。
【0011】
特許文献4に開示の処理方法は、アルミニウム、マグネシウムおよびその合金の表面に、チタン塩またはジルコニウム塩の1種または2種以上とイミダゾール誘導体の1種または2種以上と、硝酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム等の酸化剤を含有する水溶液を用いて表面処理するものである。酸化剤は、チタンやジルコニウムの析出を促進するものである。この処理方法は、ジルコニウム系あるいはチタン系と呼ばれるノンクロム化成処理液の改良技術の範疇にある。
【0012】
ノンクロメートタイプ処理液としては、さらに以下の提案が挙げられる。
特許文献5には、バナジウム化合物と、チタニウム塩、ジルコニウム塩および亜鉛塩の群から選定された少なくとも1種の化合物を含む水溶液よりなる化成処理液が開示されている。この処理液は、上記のジルコニウムおよびチタン系のノンクロム化成処理液にバナジウムを複合させたものである。
【0013】
特許文献6には、金属アセチルアセトネートと水溶性無機チタン化合物および水溶性無機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する酸性の金属表面処理液が開示されている。この処理液は、バナジルアセテート、ジルコニウムアセテート、亜鉛アセテートなどを用いるものである。この処理液は、ジルコニウムおよびチタン系のノンクロム化成処理液に金属アセテートを複合させたものである。
【0014】
特許文献7には、0.01〜50g/Lの過マンガン酸またはその塩と、0.01〜20g/Lの水溶性チタン化合物および水溶性ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有し、かつ1.0〜7.0のpHを有する軽金属または軽合金材料用表面処理液が提案されている。この処理液は、マンガン−チタン系またはマンガン−ジルコニウム系と呼ばれるノンクロム化成処理液の範疇にある。
【0015】
特許文献8には、ヘキサシアノ酸イオンと、Ti、V、Mn、Fe、Co、Zr、MoおよびWからなる群から選ばれる1種類以上の金属イオンを含有する、アルミニウムおよびアルミニウム合金用の高耐食性クロムフリー化成皮膜処理剤が開示されている。コバルト以外は上記提案で挙げられた元素である。
【0016】
特許文献9には、金属表面への表面処理により生成された皮膜が、複数の金属元素を含み、少なくとも一つの金属元素が複数の価数を有する、クロムフリー金属表面処理組成物が提案されている。実際には、金属元素として、Mg、Al、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sr、Nb、Y、Zr、Mo、In、Sn、TaおよびWのうちの少なくとも2種類以上を用いる金属表面処理組成物である。この処理組成物は、ジルコニウム系、チタン系、バナジウム系、タングステン系、モリブデン系、マンガン系のノンクロム化成処理液を拡大したものと考えられる。
【0017】
また、特許文献10には、(1)Hf(IV)、Ti(IV)およびZr(IV)から選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む化合物A、(2)上記化合物Aに含まれる金属の合計モル濃度の少なくとも5倍モル濃度のフッ素を組成物中に存在させるのに十分な量のフッ素含有化合物、(3)アルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属イオンB、(4)Al、Zn、Mg、MnおよびCuから選ばれる少なくとも1種の金属イオンC、(5)硝酸イオン、を含有するアルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウムまたはマグネシウム合金用の表面処理用組成物が提案されている。この処理液も広義に捉えれば、ジルコニウム系、チタン系のノンクロム化成処理液の延長線上にある。
【0018】
さらに、特許文献11には、水溶性ジルコニウム化合物および/または水溶性チタン化合物(1)と有機ホスホン酸化合物(2)とからなるノンクロム金属表面処理剤で被処理物を処理する工程(A)、ならびに、工程(A)を行った被処理物をタンニン(3)の水溶液で処理する工程(B)からなるノンクロム金属表面処理方法であって、水溶性ジルコニウム化合物および/または水溶性チタン化合物(1)の含有量は、ジルコニウムおよび/またはチタンの量として質量基準で40〜1000ppmであり、有機ホスホン酸化合物(2)の含有量は、質量基準で20〜500ppmであり、ノンクロム金属表面処理剤は、pHが1.6〜4.0であり、水溶液中のタンニン(3)の含有量は、質量基準で400〜10000ppmであることを特徴とするノンクロム金属表面処理方法が提案されている。この処理液も広義に捉えれば、ジルコニウム系、チタン系のノンクロム化成処理液の延長線上にある。
【0019】
特許文献12には、水溶性ジルコニウム化合物および/または水溶性チタン化合物(1)と有機ホスホン酸化合物(2)とからなるノンクロム金属表面処理剤で被処理物を処理する工程(A)、ならびに、工程(A)を行った被処理物をタンニン(3)の水溶液で処理する工程(B)からなるノンクロム金属表面処理方法であって、有機ホスホン酸化合物(2)は、ホスホン基を構成するリン原子が炭素原子と結合したものであり、水溶性ジルコニウム化合物および/または水溶性チタン化合物(1)の含有量は、ジルコニウムおよび/またはチタンの量として質量基準で20〜800ppmであり、有機ホスホン酸化合物(2)の含有量は、質量基準で10〜500ppmであり、タンニン(3)の水溶液は、タンニン濃度が質量基準で300〜8000ppmであり、ノンクロム金属表面処理剤は、pHが1.6〜4.0であり、熱可塑性ポリエステル系樹脂被覆金属板の製造に用いられることを特徴とするノンクロム金属表面処理方法が提案されている。この処理液も広義に捉えれば、先と同様にジルコニウム系、チタン系のノンクロム化成処理液の延長線上にある。
【0020】
特許文献13には、水性酸性液状組成物が、(A)Ti、V、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、PdおよびWからなる群から選択される少なくとも一種、(B)有機酸および/または無機酸および/またはこれらの塩からなる群から選択される少なくとも一種、ならびに、(C)任意成分としてフッ素を含有するものであり、水性液状組成物が3価クロム、Ti、V、Mn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、W、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Al、Fe、Ni、Co、Si、Sr、In、Ag、Zn、Cu、Sc、有機酸、無機酸、有機酸塩、無機酸塩、アミノ酸、アミノ酸塩、フッ素、アミン類、アルコール類、水溶性ポリマー、界面活性剤、シランカップリング剤、カーボンパウダー、染料、顔料、有機コロイドおよび無機コロイドからなる群から選択される少なくとも一種を含有する処理液が挙げられている。この処理液も、先と同様にジルコニウム系、チタン系のノンクロム化成処理液の延長線上にある。
【0021】
特許文献14には、化成処理液によって被処理物を処理し、化成皮膜を形成する塗装前処理方法であって、化成処理液は、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、ならびに、アミノ基含有シランカップリング剤、その加水分解物およびその重合物からなる群より選ばれる少なくとも一種からなる塗装前処理方法が提案されている。この処理液も、先と同様にジルコニウム系、チタン系のノンクロム化成処理液の延長線上にあり、これに既知の技術であるシランカップリング剤を加えたものである。
【0022】
特許文献15には、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、ならびに、密着性および耐食性付与剤からなる化成処理液であって、上記密着性および耐食性付与剤は、亜鉛、マンガン、および、コバルトイオンからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属イオン(A)1〜5000ppm(金属イオン濃度)、アルカリ土類金属イオン(B)1〜5000ppm(金属イオン濃度)、周期律表第三属金属イオン(C)1〜1000ppm(金属イオン濃度)、銅イオン(D)0.5〜100ppm(金属イオン濃度)、および、ケイ素含有化合物(E)1〜5000ppm(ケイ素成分として)からなる群より選ばれる少なくとも一種である化成処理液が提案考案されている。この処理液も、先と同様にジルコニウム系、チタン系のノンクロム化成処理液の延長線上にあるが、密着性付与剤として亜鉛イオン等やアルカリ土類金属イオン、周期律表第3属金属イオン(好ましくはアルミと記載)、銅イオン等、ケイ素含有化合物などを添加している。
【0023】
特許文献16には、ジルコニウム、チタンおよびハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、密着性付与剤、ならびに、化成反応促進剤からなり、上記密着性付与剤は亜鉛などの金属イオン、ケイ素含有化合物、アミノ基を有し、少なくとも構成単位として−(−CH−CHNH−)−または−(−CH−CHCHNH−)−を有する水溶性樹脂、エポキシ化合物、ならびに、シランカップリング剤の群から選ばれる少なくとも一種であり、上記化成反応促進剤は亜硝酸イオン、ニトロ基含有化合物、有機酸等の群から選ばれる少なくとも一種であり、その配合量は1〜5000ppmである化成処理液が提案されている。この処理液も、先と同様にジルコニウム系、チタン系のノンクロム化成処理液の延長線上にあるが、有機物を配合しており、以下に示す樹脂−金属系のノンクロム化成処理液に近い。
【0024】
一方、アルミニウム含有金属材料などに、耐食性および塗料密着性の付与を目的とする化成処理液や化成処理方法において、水溶性樹脂を用いるものが、例えば、特許文献17〜特許文献23などに開示されている。これら従来例の化成処理液や化成処理方法は、金属表面を多価フェノール化合物の誘導体を含む溶液で処理するものである。これらは、樹脂系または樹脂―金属複合系のノンクロム化成処理液と呼ばれる範疇にある。
【0025】
特許文献24には、ジルコニウム化合物、フッ素イオン、水溶性樹脂およびアルミニウム塩を含み、ジルコニウム化合物の濃度がジルコニウムイオン換算で100〜100000ppm、フッ素イオン濃度が125〜125000ppm、水溶性樹脂の不揮発分濃度が100〜100000ppm、アルミニウム塩の濃度がアルミニウムイオン換算で10〜10000ppmであるアルミニウム用ノンクロム防錆処理液が提案されている。これも前述の樹脂系とジルコニウム系を組み合わせたノンクロム化成処理液である。
【0026】
一方、完全なノンクロムではないが、有害な6価クロムを含有しない3価クロムを用いる化成処理液が提案されている。特許文献25には、リンを含有する酸基を有する酸イオン(A)と3価クロムイオン、および3価クロムを有する化合物イオンから選ばれる少なくとも1種のイオン(B)とフッ化物、錯フッ化物から選ばれる少なくとも1種のフッ素化合物(C)を含有する、アルミニウムおよびアルミニウム合金用6価クロムフリーの化成表面処理液が提案されている。この処理液は、3価クロム系と呼ばれる範疇に属す。
【0027】
特許文献26には、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材を酸性水溶液を用いて10〜70℃で5秒間〜5分間処理した後に用いる化成処理液であって、酸性水溶液は、(a)Fe、Ni、Co、MoおよびCeから選ばれる金属の塩ならびに金属酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を酸性水溶液の0.01〜5質量%、ならびに、(b)無機酸を含有するpH2以下の酸性水溶液であり、化成処理液は、(c)Zrおよび/またはTiを化成処理液の0.001〜1質量%、(d)3価クロムイオンまたはその塩を化成処理液の0.1〜1000ppm、ならびに、(e)フッ化物を含有する、化成処理液が提案されている。この処理液は、特許文献25に近似し、3価クロム系に属す。
【0028】
特許文献27には、(A)3価のクロムイオン、(B)Mo、W、Ti、Zr、Mn、Tc、Fe、Ru、Co、アルカリ土類金属、Ni、Pd、Pt、Sc、Y、V、Nb、Ta、Cu、AgおよびAuからなる群のうち少なくとも1種、(C)塩素、フッ素、硫酸イオン、および硝酸イオンからなる群のうちの1種以上、および(D)リンの酸素酸、酸素酸塩、無水物、およびリン化合物からなる群の1種以上を含有する液体組成物により防錆被膜を形成する金属の着色防錆被膜形成方法が提案されている。この発明も基本的に特許文献25に近似し、3価クロム系に属す。
【0029】
特許文献28には、金属表面を少なくとも1つの3価クロムキレート錯体の溶液で処理して6価クロムを含有しない化成皮膜を生成する方法において、溶液中でキレート錯体の3価クロムは5ないし100g/lの濃度で存在し、3価クロムキレート錯体は、3価クロム−フルオロ錯体におけるフッ化物置換速度に比べて速い配位子置換速度を有する溶液を用いることが提案されている。この溶液は、3価クロム系に属す。
【0030】
また、亜鉛ダイキャストには同様の技術が使われている場合も多い。特許文献29には、亜鉛または亜鉛合金上の、無6価クロムかつ含3価クロムの実質的にコヒーレントな転化層であって、ケイ酸塩、セリウム、アルミニウムおよびホウ酸塩等の、さらなる成分の不存在下で、DIN 50021 SSまたはASTMB 117-73に従う塩スプレーテストにおいて、DIN 50961 Chapter 10に従う最初の侵食まで、約100ないし1000時間の腐食保護を提供することと、澄んで、透明でかつ基本的に無色であるとともに、多色の光沢を呈することと、約100ないし1000nmの層厚を有することと、硬質でかつ接着性が良好であるとともに拭くことに対して耐性を有する転化層という亜鉛上の3価クロムの皮膜に関する提案がされている。これは、3価クロム系に属す。
【0031】
また、同一出願人が係わる特許文献30には、水溶性3価クロム化合物(A)、水溶性Tiおよび/またはジルコニウム化合物(B)、水溶性硝酸化合物(C)、水溶性アルミニウム化合物(D)およびフッ素化合物(E)を含み、pH=2.3〜5.0に調整された水性酸性化成処理液を、金属材料表面に1〜60秒接触させ、水洗・乾燥して、0.02〜1mmol/m2のCrおよび0.02〜1mmol/m2のTiおよび/またはZrを含み、厚さ1〜100nmの化成皮膜を形成することが提案されている。これも、3価クロム系に属す。
【0032】
さらに、特許文献31には、金属の表面に保護皮膜を形成させる方法において、(I)表面を水性酸性液状組成物の層で被覆する工程であって、組成物が水と、(A)陰イオン成分の各々が、(i)少なくとも4個のフッ素原子と、(ii)チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1個の元素と、任意成分として、(iii)1個以上の酸素原子とからなる陰イオン成分と、(B)コバルト、マグネシウム、マンガン、亜鉛、ニッケル、スズ、ジルコニウム、鉄、アルミニウムおよび銅からなる群から選ばれる陽イオン成分と、(C)組成物のpHを約0.5ないし約5.0の範囲内に保つに十分な量の遊離酸と、任意成分として、(D)直接乾燥によって有機薄層を形成する組成物を含み、成分(B)の陽イオン数が成分(A)の陰イオン数の1/3以上となる液状組成物である工程と、(II)水性酸性液状組成物層を中間濯ぎを行わないで、そのまま乾燥する工程とからなる金属表面処理方法が開示されている。これは塗布型の表面処理方法であり、素材を溶解させて皮膜を形成させる化成反応型とは技術を異にする。
【0033】
同様に、特許文献32には、亜鉛系またはアルミニウム系めっき鋼板の表面に、(a)エポキシ基含有樹脂(A)と、第1級アミン化合物および/または第2級アミン化合物(B)と、一部または全部が活性水素を有するヒドラジン誘導体からなる活性水素含有化合物(C)とを反応させて得られた変性エポキシ樹脂を水に分散させた水性エポキシ樹脂分散液と、(b)ウレタン樹脂の水分散体と、(c)シランカップリング剤と、(d)リン酸および/またはヘキサフルオロ金属酸とを含有する表面処理組成物を塗布し、乾燥することにより形成された皮膜厚が0.01〜5μmの表面処理皮膜を有する発明が挙げられているが、これも塗布型の表面処理に大別される。
【0034】
従来の表面処理に関する提案を総括すると、(1)ジルコニウム系またはチタン系およびこの派生技術、(2)バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト含有系、(3)タンニン酸や水溶性樹脂を含有する有機系、(4)ジルコニウムと樹脂を組み合わせた有機・無機複合系、(5)3価クロム系、(6)塗布型系に大別される。
【0035】
これらのうち(5)3価クロム系は、形成される皮膜中に3価のクロムを有することになる。この皮膜が高温に曝された場合には、3価クロムが人体に有害な6価クロムへ酸化される。このため、環境保全の観点から考えると、不適切な技術と云える。また、(6)塗布型系は、シート材やコイル材など構造が単純な場合には使用できるが、自動車に代表される複雑構造物には、液溜りが生じて、均一な皮膜を形成することができない。
【0036】
(1)ジルコニウム系は、塗装下地用途やアルミニウム素材の表面が均一な冷間圧延材など、また、耐食性の要求が厳しくない用途などでは、充分な性能を発揮し、実際に工業化されている場合もある。例えば、特許文献33に記載の、リン酸、フルオロジルコニウム酸、硝酸を主成分とする処理液は、アルミニウムD&I缶の表面処理用として実用化され、25年以上経過した現在も使用されている。しかしながら、自動車に代表される輸送車両用の金属構造物は、形状が複雑であること、構成素材が冷延鋼板や亜鉛めっき鋼板など複合していること、次いで行われる電着塗装に対して充分な付き廻り性を有していなければならないこと、また、化成処理工程での廃棄物が少ないことなど、その要求は多岐にわたり、ハイレベルであることから、これらを完全にクリアーするには至っていない。
【0037】
(2)バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト含有系は、ジルコニウム系の発展系として実用化されているが、画期的に耐食性が向上するものではなく、また、上記と同様に自動車に代表される輸送用車両の電着塗装付き廻り性は良好ではない。
【0038】
(3)タンニン酸や水溶性樹脂を含有する有機系、(4)ジルコニウムと樹脂とを組み合わせた有機・無機複合系を用いても、(1)ジルコニウム系に比較すれば耐食性が向上する場合もあるが、自動車に代表される輸送用の金属構造物として電着塗装の付き廻り性までを考慮すると不完全なものである。
【0039】
また、近年の技術として、特許文献34には、ジルコニウムイオンおよび/またはチタンイオンと、密着性付与剤と、カチオン電着塗装時の防錆皮膜中の成分の溶出を抑制する安定化剤とを含有する、カチオン電着塗装前処理用の金属表面処理組成物を用いて、複数の曲部を有する金属基材に付き廻り性に優れた防錆皮膜を形成させる金属表面処理方法において、(A)ケイ素含有化合物、(B)密着付与金属イオン、および(C)密着性付与樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含有する密着性付与剤を用いることが提案されている。(A)ケイ素含有化合物は、シリカ、ケイフッ化物、水溶性ケイ酸塩化合物、ケイ酸エステル類、アルキルシリケート類、およびシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一種であり、(B)密着付与金属イオンは、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、銅、鉄、マンガン、ニッケル、コバルト、および銀からなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンであり、(C)密着性付与樹脂は、ポリアミン化合物、ブロック化イソシアネート化合物、およびメラミン樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である。本発明者らが、特許文献34に記載の実施例を追試しても、従来のリン酸塩皮膜に比べると必ずしも充分な結果が得られなかった。
【0040】
特許文献35には、ジルコニウムイオンおよび/またはチタンイオンと、(A)ケイ素含有化合物、(B)密着性付与金属イオン、および(C)密着性付与樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の密着性付与剤を含有する金属表面処理組成物を、金属基材に接触させる表面処理工程と、表面処理工程を経た金属基材を加熱処理する後処理工程とを含み、後処理工程が、(1)金属基材を、大気圧または加圧条件下で、60℃以上190℃以下の温度で、30秒間以上乾燥処理する工程、および(2)金属基材を、大気圧または加圧条件下で、60℃以上120℃以下の温水中で、2秒以上600秒以上加熱処理する工程からなる群から選ばれる少なくとも一種である、カチオン電着塗装の付き廻り性を向上させるための表面処理方法が開示されている。しかしながら、この発明の実施に際しては、温風乾燥炉または温水工程が必要となり、工業的にはコスト増や工程増となり好ましくなく、実用性に乏しい。
【0041】
特許文献36には、ジルコニウムイオンおよび/またはチタンイオンと、(A)ケイ素含有化合物、(B)密着性付与金属イオン、および(C)密着性付与樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の密着性付与剤とを含有する表面処理用組成物を用いて、金属基材を表面処理して防錆皮膜を形成させる金属基材の表面処理工程と、後処理工程とからなる金属表面処理方法であって、後処理工程が、工程(a)、工程(b)、工程(c)、工程(d)、工程(e)、工程(f)、および工程(g)からなる群から選択される少なくとも一種であるカチオン電着塗装の付き廻り性を向上させる金属表面処理方法が開示されている。(a)表面処理工程を経た金属基材の全部または一部を、pH9以上のアルカリ水溶液に接触処理する工程;(b)表面処理工程を経た金属基材の全部または一部を、多価アニオン水溶液に接触処理する工程;(c)表面処理工程を経た金属基材の全部または一部を、多価アニオン水溶液に接触処理した後、さらに水洗処理する工程;(d)表面処理工程を経た金属基材の全部又は一部を、酸化剤に接触処理する工程;(e)表面処理工程を経た金属基材の全部または一部を、酸化剤に接触処理した後、さらに水洗処理する工程;(f)表面処理工程を経た金属基材の全部または一部を、フッ素安定化剤に接触処理する工程;および(g)表面処理工程を経た金属基材の全部または一部を、フッ素安定化剤に接触処理した後、さらに水洗処理する工程が提案されている。しかしながら、いずれも、化成処理の後に、後処理工程を有することになり、工業的にはコスト増や工程増となり好ましくなく、実用性に乏しい。
【0042】
【特許文献1】特開2004−083824号公報
【特許文献2】特開2004−269942号公報
【特許文献3】特開昭52−131937号公報
【特許文献4】特開昭57−41376号公報
【特許文献5】特開昭56−136978号公報
【特許文献6】特開2000−199077号公報
【特許文献7】特開平11−36082号公報
【特許文献8】特開2004−232047号公報
【特許文献9】特開2001−247977号公報
【特許文献10】国際公開WO03/074761A1公報
【特許文献11】特開2003−313679号公報
【特許文献12】特開2003−313681号公報
【特許文献13】特開2003−171778号公報
【特許文献14】特開2004−218070号公報
【特許文献15】特開2004−218073号公報
【特許文献16】特開2004−218075号公報
【特許文献17】特開昭61−91369号公報
【特許文献18】特開平1−172406号公報
【特許文献19】特開平1−177379号公報
【特許文献20】特開平1−177380号公報
【特許文献21】特開平2−608号公報
【特許文献22】特開平2−609号公報
【特許文献23】特許第2771110号明細書
【特許文献24】特開2001−303267号公報
【特許文献25】特許第3333611号明細書
【特許文献26】特開2000−332575号公報
【特許文献27】特開2004−010937号公報
【特許文献28】特開2004−3019号公報
【特許文献29】特許3597542号明細書
【特許文献30】特許3784400号明細書
【特許文献31】特開平5−195244号公報
【特許文献32】特開2004−238716号公報
【特許文献33】特開52−131937号公報
【特許文献34】特開2008−88551公報
【特許文献35】特開2008−88552公報
【特許文献36】特開2008−88553公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0043】
以上のように、従来のノンクロメートタイプの表面処理液を、自動車に代表される輸送車両用金属構造物に適用して形成される化成皮膜には、耐食性、塗料密着性をはじめとする多岐の課題が残っている。特に、自動車金属構造物に対して要求される電着塗装付き廻り性を高いレベルで、安価で簡単な工程で付与する表面処理液(化成処理液)、表面処理方法(塗装下地処理)は提案されておらず、電着塗装付き廻り性の改善は重要課題となっている。
【0044】
本発明は、従来技術の有する上記問題点を解決するためのものであり、具体的には金属材料表面に優れた耐食性、塗料密着性を付与し、かつ、高い電着塗装付き廻り性をも付与する表面処理液、および表面処理方法を提供するものである。特に、自動車車体やこの部品に適用した際に、乾燥することなく、リン酸塩と同等以上の高い電着塗装付き廻り性を付与し、かつ、適切な耐食性および塗料密着性も有し、さらには、工業化し操業した場合にスラッジなどの産業廃棄物を抑制し、簡便に制御でき、経済的にも安価な金属構造物用表面処理液および表面処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0045】
本発明者らは、従来技術の抱える上記問題点を解決するための手段について鋭意検討した。その結果、水溶性テルル化合物と、水溶性チタン化合物および/または水溶性ジルコニウム化合物とを含有する表面処理液を用いることにより、上記課題が解決できることを見出した。
より具体的には、この表面処理液を金属構造物に接触させ、金属構造物上に特定の皮膜を形成させることにより、金属構造物に優れた電着塗装付き廻り性を付与し、且つ、優れた耐食性および塗料密着性を付与できる表面処理方法を見出し、本発明を完成するに至った。この方法では、使用する組成物や処理条件を適宜調整することで、連続的に操業した際、スラッジなどの発生が大幅に抑制される。
特に、本発明においては、水溶性テルル化合物から選ばれる少なくとも1種のテルル化合物から、テルルを表面に析出付着させることによって、電着塗装の付き廻り性が大幅に改善されることを全く新たに見出した。これにより電着塗装の付き廻り性を、下地皮膜から制御できることになった。更に、チタン化合物およびジルコニウム化合物の2種から選ばれる化合物を同時に表面に同時析出付着させ、複合皮膜を形成することにより、高い耐食性、塗料密着性を付与できることを見出した。
【0046】
つまり、本発明者は上記課題を解決することを目的に鋭意検討し、その解決手段を見出した。すなわち、本発明は次に示す(1)〜(17)である。
【0047】
(1) 少なくとも1種の水溶性テルル化合物(A)と、水溶性チタン化合物および水溶性ジルコニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)とを含有する金属表面処理液。
(2) さらに、少なくとも1種の水溶性硝酸塩化合物(C)と、少なくとも1種の水溶性アルミニウム化合物(D)と、少なくとも1種の水溶性亜鉛化合物(E)と、少なくとも1種のフッ素化合物(F)とを含有する、(1)に記載の金属表面処理液。
(3) 前記水溶性テルル化合物(A)のテルルとしての含有量(CA)が、0.05〜10mmol/Lであり、
前記化合物(B)のチタンおよび/またはジルコニウムとしての総含有量(CB)が、0.1〜10mmol/Lであり、
前記水溶性硝酸塩化合物(C)の硝酸根としての含有量(CC)が、1〜300mmol/Lであり、
前記水溶性アルミニウム化合物(D)のアルミニウムとしての含有量(CD)が、0.2〜200mmol/Lであり、
前記水溶性亜鉛化合物(E)の亜鉛としての含有量(CE)が、0.1〜100mmol/Lであり、
前記フッ素化合物(F)のフッ素としての含有量(CF)が以下の式(1)および式(2)を満足するものであり、
式(1):CF(最小値)=CA×10+CB×4+CD×2
式(2):CF(最大値)=CA×40+CB×7+CD×4
且つ、処理液のpHが2.5〜5.0である、(2)に記載の金属表面処理液。
(4) さらに、カチオン性水溶性樹脂(G)を含有する、(1)〜(3)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(5) さらに、シラン化合物(H)を含有する、(1)〜(4)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(6) さらに、金属キレート剤(I)を含有する、(1)〜(5)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(7) 前記水溶性テルル化合物(A)が、テルル酸、テルル酸カリウム、テルル酸ナトリウム、亜テルル酸、亜テルル酸カリウム、亜テルル酸ナトリウム、および2酸化テルルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)〜(6)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(8) 前記化合物(B)が、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、フルオロチタン酸、フルオロチタン錯塩、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、フルオロジルコニウム酸、およびフルオロジルコニウム錯塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(1)〜(7)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(9) 前記水溶性硝酸塩化合物(C)が、硝酸チタン、硝酸ジルコニウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸亜鉛、硝酸ストロンチウム、硝酸マンガンおよび硝酸銅からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(2)〜(8)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(10) 前記水溶性アルミニウム化合物(D)が、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、およびフッ化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(2)〜(9)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(11) 前記水溶性亜鉛化合物(E)が、硝酸亜鉛、および硫酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(2)〜(10)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(12) 前記フッ素化合物(F)が、フッ化水素酸酸、フッ化アンモニウム、フルオロチタン酸、フルオロチタン錯塩、フルオロジルコニウム酸、フルオロジルコニウム錯塩、フッ化アルミニウム、およびフッ化スズからなる群から選ばれる少なくとも1種である、(2)〜(11)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(13) 前記カチオン性水溶性樹脂(G)が、アミノ基含有の水溶性オリゴマー、および水溶性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記樹脂(G)の含有量が0.001〜1mmol/Lである、(4)〜(12)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(14) 前記シラン化合物(H)が、シランカップリング剤、およびコロイダルシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記化合物(H)の含有量が0.02〜20mmol/Lである、(5)〜(13)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(15) 前記キレート剤(I)が、しゅう酸、酒石酸、くえん酸、りんご酸、有機フォスフォン酸、ニトリロトリ酢酸、およびエチレンジアミン四酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記キレート剤(I)の含有量が0.001〜10mmol/Lである、(6)〜(14)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(16) 被処理金属が、冷延鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、亜鉛板、亜鉛合金板、亜鉛めっき鋼板、または合金化亜鉛めっき鋼板からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属材料で構成された輸送用車両またはその部品であり、前記被処理金属から溶出する金属イオンを含有する、(1)〜(15)のいずれか1つに記載の金属表面処理液。
(17) (1)〜(16)のいずれか1つに記載の金属表面処理液を用いて、金属を表面処理し、前記金属表面上に、付着量がテルルとして0.02〜2.0mmol/m2、並びに、チタン若しくはジルコニウムまたはその合計として0.02〜2.0mmol/m2、膜厚に換算した場合は2.0〜200nmの化成皮膜を形成し、水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、金属表面を電着塗装に供することを特徴とする金属の表面処理方法。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、金属材料表面に優れた耐食性、塗料密着性を付与し、かつ、高い電着塗装付き廻り性をも付与する表面処理液、および表面処理方法を提供することができる。特に、自動車車体やこの部品に適用した際に、乾燥することなく、リン酸塩と同等以上の高い電着塗装付き廻り性を付与し、かつ、適切な耐食性および塗料密着性も有し、さらには、工業化し操業した場合にスラッジなどの産業廃棄物を抑制し、簡便に制御でき、経済的にも安価な金属構造物用表面処理液および表面処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明は、金属構造物の表面に優れた耐食性と塗膜密着性を付与するための、新規な金属表面処理用の表面処理液(化成処理液)ならびに表面処理方法に関する。
まず、本発明で使用される表面処理液について説明する。
本発明に係る金属表面処理液は、少なくとも1種の水溶性テルル化合物(A)と、水溶性チタン化合物および水溶性ジルコニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)とを含有し、好ましくはさらに、少なくとも1種の水溶性硝酸塩化合物(C)と、少なくとも1種水溶性アルミニウム化合物(D)と、少なくとも1種の水溶性亜鉛化合物(E)と、少なくとも1種以上のフッ素化合物(F)とを含有する。
以下に、金属表面処理液中に含有される各成分について説明する。
【0050】
<水溶性テルル化合物(A)>
本発明で使用される水溶性テルル化合物(A)は、処理液の必須の成分であり、電着塗装の付き廻り性を大きく左右する。
水溶性テルル化合物としては、テルル原子を含み、水に対して溶解する化合物であれば特に限定されない。例えば、テルル酸、テルル酸カリウム、テルル酸ナトリウム、亜テルル酸、亜テルル酸カリウム、亜テルル酸ナトリウム、および2酸化テルルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を使用できる。なかでも、テルル酸、亜テルル酸がより好ましい。
本発明の処理液中における水溶性テルル化合物(A)の含有量(CA)は、テルルとして、つまり金属テルル換算で、0.05〜10mmol/Lの範囲が好ましく、0.1〜1.0mmol/Lの範囲がより好ましい。0.05mmol/L未満では濃度が薄く、テルル付着量が充分でない場合がある。また、10mmol/Lを超えると処理液中の濃度が高く、コストがかさみ経済的に好ましくない。10mmol/L以下の場合であれば、後述する水溶性チタン化合物および/または水溶性ジルコニウム化合物(B)の共析がより良好に進行し、皮膜中に十分な量のチタンやジルコニウムが含まれるようになり、耐食性がより向上する。
【0051】
<水溶性チタン化合物および/または水溶性ジルコニウム化合物>
本発明で使用される水溶性チタン化合物および水溶性ジルコニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)は、処理液の必須の成分であり、これは耐食性能を大きく左右する。
化合物(B)としては、例えば、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、フルオロチタン酸、フルオロチタン錯塩、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、フルオロジルコニウム酸、フルオロジルコニウム錯塩から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。なかでも、より好ましくは、硝酸チタン、フルオロチタン酸、フルオロチタン酸塩、硝酸ジルコニウム、フルオロジルコニウム酸およびフルオロジルコニウム酸塩である。
本発明の処理液中における化合物(B)の総含有量(CB)は、チタンあるいはジルコニウムまたはその合計として、つまりそれぞれの化合物の金属チタン換算または金属ジルコニウム換算の合計で、0.1〜10mmol/Lの範囲が好ましく、0.5〜5.0mmol/Lの範囲がより好ましい。0.1mmol/L未満では濃度が薄く、ジルコニウムあるいはチタンの付着が充分でない場合があり、優れた耐食性能が十分には発現されないことがある。また、10mmol/Lを超えると、処理液中での濃度が高く、コストがかさみ経済的に好ましくない。
【0052】
<水溶性硝酸塩化合物(C)>
本発明の処理液は、水溶性硝酸塩化合物(C)を含有していてもよい。水溶性硝酸塩化合物(C)は、形成される皮膜の均一性を左右するため最終的な耐食性能に影響を与える。硝酸は処理中に処理液と素材界面に存在し、過度なエッチングを抑制し、皮膜を均一にしているものと考えられる。
水溶性硝酸塩化合物としては、例えば、硝酸チタン、硝酸ジルコニウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸亜鉛、硝酸ストロンチウム、硝酸マンガン、硝酸銅から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。なかでも、より好ましくは、硝酸チタン、硝酸ジルコニウム、硝酸アルミニウムおよび硝酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
本発明の処理液中における水溶性硝酸塩化合物(C)の含有量(CC)は、硝酸塩の硝酸根として、1.0〜300mmol/Lの範囲が好ましく、20〜200mmol/Lの範囲がより好ましい。1.0mmol/L未満では、充分な効果が発揮されず、最終的な耐食性能が不十分な場合がある。また、300mmol/Lを超えても特に性能上は問題ないが、続く水洗水中の硝酸根濃度が高くなり、最終的な廃水処理の窒素量が増え、富栄養化の原因につながる可能性があり好ましくない。
【0053】
<水溶性アルミニウム(D)>
本発明の処理液は、水溶性アルミニウム(D)を含有していてもよい。水溶性アルミニウム(D)は、過度のエッチングを抑制し皮膜を効率よく、均一に付着させる効果がある。
水溶性アルミニウム化合物としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、フッ化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
本発明の処理液中における水溶性アルミニウム(D)の含有量(CD)は、アルミニウムとして、つまり金属アルミニウム換算で、0.2〜200mmol/Lの範囲が好ましく、1.0〜20mmol/Lの範囲がより好ましい。0.2mmol/L未満では、充分な効果が発揮されず、化成皮膜が均一にまた効率的に付着しない場合があり、処理時間が長くなってしまうなどの不具合が生じる可能性がある。また、200mmol/Lを超えても特に性能上は問題ないが、表面処理液中の濃度が高くコストがかさみ経済的に好ましくない。
【0054】
<水溶性亜鉛化合物(E)>
本発明の処理液は、水溶性亜鉛化合物(E)を含有していてもよい。水溶性亜鉛化合物(E)は、形成する皮膜の均一連続性を上げる効果がある。
水溶性亜鉛化合物としては、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
本発明の処理液中における水溶性亜鉛化合物(E)の含有量(CE)は、亜鉛として、つまり金属亜鉛換算で、0.1〜100mmol/Lの範囲が好ましく、5.0〜50mmol/Lの範囲がより好ましい。0.1mmol/L未満では、充分な効果が発揮されず、化成皮膜の均一連続性が充分でない場合があり、結果として耐食性能が充分でない可能性がある。また、100mmol/Lを超えた場合には、化成皮膜の生成を阻害する場合がある。
【0055】
<フッ素化合物(F)>
本発明の処理液は、フッ素化合物(F)を含有していてもよい。フッ素化合物は、素材のエッチングに左右するものであるが、今般、耐食性能にも大きな影響を与えることを見出した。また、このフッ素の量を適切に規定することにより、連続的に操業した際にスラッジの発生を抑制することを見出した。過去の発明などにおいて、一部、フッ素化合物を含有することが言及されているが、それは、エッチング作用に力点を置くものであり、耐食性の向上や処理液安定性にまで言及したものは極めて少ない。
フッ素化合物としては、例えば、フッ化水素酸酸、フッ化アンモニウム、フルオロチタン酸、フルオロチタン錯塩、フルオロジルコニウム酸、フルオロジルコニウム錯塩、フッ化アルミニウム、フッ化スズから選ばれる少なくとも1種の化合物を使用することが好ましい。この中で、フッ化水素酸酸およびフッ化アンモニウムは重要であり、これらにより含有量の最終的な調整を行うことが好ましい。
【0056】
本発明の処理液中におけるフッ素化合物(F)の含有量(CF)は、フッ素としての含有量、すなわちトータルフッ素(総フッ素量)は以下の式含有濃度範囲にあることが好ましい。すなわち、フッ素化合物(F)の含有量(CF)は、水溶性テルル化合物(A)、水溶性チタン化合物および水溶性ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)、水溶性アルミニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物(D)との濃度と密接な関係があり、これらの含有量から導き出される下記式(1)および式(2)で示される範囲にあることが好ましい。
式(1):CF(最小値)=CA×10+CB×4+CD×2
式(2):CF(最大値)=CA×40+CB×7+CD×4
CF(最小値)が式に示される濃度未満では、エッチング能力が劣り、部分的な表面エッチング(比較的活性な表面部分のみをエッチングするのであろう)を起こす場合があり、結果として皮膜の均一性が悪くなり、形成される皮膜の耐食性が充分でないことがある。また、処理液の安定性が比較的低く、化成処理の連続操業時にスラッジの発生が多くなる場合がある。また、CF(最大値)を超えるとエッチング力が強くなり、皮膜の析出効率が悪くなる場合がある。
また、より好ましいCF(最適最小値)およびCF(最適最大値)は、下記式(3)および式(4)の範囲である。
式(3):CF(最適最小値)=CA×15+CB×5.5+CD×2
式(4):CF(最適最大値)=CA×30+CB×6.5+CD×4
【0057】
<pH>
本発明の処理液のpHは、特に制限されないが、電着塗装付き廻り性などの点から、適切な範囲があることが好ましい。
具体的には、処理液のpHは、2.5〜5.0の範囲であることが好ましく、3.0〜4.5の範囲がより好ましい。本発明の表面処理液のpHは、化成処理に使用される前ばかりでなく、化成処理を連続的に操業している際にも、上記範囲に制御されることが好ましい。pHが2.5未満では、エッチング力が強くなり、皮膜の析出効率が悪くなる場合がある。また、pHが5.0を超えると、連続操業時にスラッジの発生が多くなる場合がある。
また、化合物(B)が水溶性チタン化合物である場合は、やや低めのpH領域であるpH3.0〜3.6がより好ましい。化合物(B)が水溶性ジルコニウム化合物である場合は、やや高めのpH領域であるpH3.4〜4.0がより好ましい。
なお、pHの調整に使用される化合物は、特に限定されないが、化合物(C)に属す硝酸や化合物(F)に属すフッ化水素酸酸、または、炭酸水素アンモニウムやアンモニア水などにて調整することが好ましい。
【0058】
<カチオン性水溶性樹脂(G)>
本発明の処理液は、さらにカチオン性水溶性樹脂(G)を含有していてもよい。カチオン性水溶性樹脂(G)は、必須成分と同時に析出して皮膜を形成し塗料密着性を向上させる効果がある。例えば、化成処理皮膜の上に塗布する電着塗装用塗料が密着性の悪いものの場合などにより有効である。
カチオン性水溶性樹脂(G)としては、アミノ基含有の水溶性オリゴマーおよび水溶性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。具体的には、ポリビニル系、ポリビニルフェノール系、フェノールホルマリン縮合物系などのアミノ基含有オリゴマー(分子量2000〜10000)またはアミノ基含有ポリマー(10000〜30000)が好ましい。化成反応を阻害しないためには、分子量が低めのオリゴマータイプの方が好ましい。
本発明の処理液中におけるカチオン性水溶性樹脂(G)の含有量は、0.001〜1mmol/Lの範囲が好ましい。この範囲は分子量により異なるため、より具体的には、質量%(ppm)にて記載すれば、2〜100000ppmの範囲が好ましく、10〜400ppmの範囲がより好ましい。含有量が少なすぎると、塗料密着性の改善効果が小さい。また、その含有量が多すぎると経済的に好ましくなく、さらに化成反応を阻害する場合があり好ましくない。
【0059】
<シラン化合物(H)>
本発明の処理液は、さらにシラン化合物(H)を含有していてもよい。シラン化合物は、必須成分と同時に析出して皮膜を形成し、耐食性や塗料密着性を向上させる効果があり、例えば、電着塗装の塗料が安価で密着性の悪いものの場合などには、シランカップリング剤を使用することが好ましい。
シラン化合物(H)としては、例えば、シランカップリング剤やコロイダルシリカを用いることができる。具体的には、アミノ基を含有したアミノシランカップリング剤や、エポキシ基を含有したエポキシシランカップリング剤などが使用できる。また、耐食性を向上させるには、コロイダルシリカも好ましい。なお、この2種類を併用することもある。
本発明の処理液中におけるシラン化合物(H)の含有量は、0.02〜20mmol/Lの範囲が好ましく、0.1〜0.6mmol/Lの範囲がより好ましい。含有量が少なすぎると、塗料密着性の改善効果が小さい。また、含有量が多すぎると、経済的に好ましくなく、さらに化成反応を阻害する場合があり好ましくない。
【0060】
<金属キレート剤(I)>
本発明の処理液は、さらに金属キレート剤(I)を含有していてもよい。金属キレート剤(I)は、基本的には必須成分と同時に析出して皮膜を形成せずに、表面処理液の安定性を高める効果がある。
前工程(脱脂)などからの化成工程への持ち込みが多い場合(水洗工程や水量が不足がちなラインなど)には、pHが上昇傾向にあり処理液の安定性が損なわれる場合がある。このような場合にキレート剤は安定性を向上させる効果がある。
金属キレート剤(I)としては、例えば、シュウ酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、有機フォスフォン酸、NTA(ニトリロトリ酢酸)およびEDTA(エチレンジアミン四酢酸)から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
本発明の処理液中における金属キレート剤(I)の含有量は、0.001〜10mmol/Lの範囲が好ましく、0.1〜0.6mmol/Lの範囲がより好ましい。含有量が少なすぎると、安定性の改善効果が小さい。また、含有量が多すぎると、経済的に好ましくなく、さらに化成反応を阻害する場合があり好ましくない。
【0061】
なお、上述した化合物(A)〜(F)については、同一の化合物をそれぞれ使用することができる。例えば、硝酸亜鉛は、化合物(C)としても、化合物(E)としても使用することができ、水溶液中に硝酸亜鉛を添加することにより、硝酸根および亜鉛を同時に付与することができる。その他としては、硝酸アルミニウムも、化合物(C)および化合物(E)として作用する。
また、フルオロジルコニウム酸やフルオロチタン酸は、化合物(B)および化合物(F)として作用する。
【0062】
本発明の金属表面処理液としては、上述のように、テルル金属元素(含有量:0.05〜10mmol/L)と、チタン金属元素および/またはジルコニウム金属元素(総含有量:0.1〜10mmol/L)、硝酸根(硝酸イオン)(含有量:1.0〜300mmol/L)、アルミニウム金属元素(含有量:0.2〜200mmol/L)、亜鉛金属元素(含有量:0.1〜100mmol/L)、フッ素イオン(含有量:式(1)および式(2)を満たす範囲)を含む処理液であることが好ましい。
【0063】
<表面処理液の調製>
本発明の表面処理液は、構成成分である各化合物を溶媒の水に任意の順序で添加し、攪拌混合して調製される。好ましくは、(F)、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)の順序で混合する。もしくは、混合にしたがって、pHが上昇するような順序がより好ましい。
本発明の表面処理液の外観は透明であり、表面処理後の処理液中もスラッジなどの発生はほとんど見受けられない。具体的には、本発明の表面処理液は、所定温度の条件下で、24時間静置後も外観は透明であることが好ましい。
【0064】
<被処理金属>
本発明の表面処理液を接触させ、表面処理する金属材料は、特に限定されないが、実用されている冷延鋼板、アルミニウム板およびアルミニウム合金板、亜鉛板および亜鉛合金板、亜鉛めっき鋼板および合金化亜鉛めっき鋼板からなる金属材料の少なくとも1種で構成されている輸送用車両またはその部品が好適である。
【0065】
金属材料のなかでも、袋構造部を有する金属構造物が好ましい。袋構造部を有する金属構造物とは、自動車車体に代表される複雑な形状の金属材料であって、カチオン電着塗装を施しても電流が流れ難く電着塗膜が形成され難い部分(袋構造部)を有する金属構造物を意味する。袋構造部を有する金属構造物を例示すると、自動車車体、自動車部品、建築材料、建設機械部品、運搬機械部品、スチール家具などが挙げられる。
【0066】
<表面処理方法>
本発明の表面処理は、上記処理液を金属部材や金属構造物に接触させて行う。その際に、接触させる金属の表面は清浄でなければならない。油や汚れ、または金属粉(磨耗や成形などにより生じる)などを除去しなければならない。清浄する方法としては、特に制限されないが、工業的に一般的なアルカリ洗浄などを用いることができる。次いで、水洗しアルカリ成分などをすすいだ金属の表面に本発明の表面処理液を接触させる。
金属部材や金属構造物に本発明の処理液を接触させる方法は、特に限定されず、通常の化成処理法において適用される方法であってよく、例えば、スプレー処理法、浸漬処理法、流しかけ処理法、電解処理法が挙げられる。
中でも浸漬処理法が好ましい。比較的容易に、金属材料の表面の全面に、テルルや、チタンおよび/またはジルコニウムを含む皮膜を形成することができるからである。
【0067】
表面処理(化成反応)を行う温度は、特に限定されないが、30〜60℃が好ましい。また、反応時間は金属の材質、処理液の濃度、処理温度にもよるが、一般的には、2〜600秒の範囲である。自動車車体に代表される複雑構造物の場合には、袋構造内部の液置換が必要なため、一般的に30〜120秒間、浸漬接触させる。液置換が可能であれば、スプレーなどの表面処理方法でも問題ない。
【0068】
表面処理をした後は、水洗することが好ましい。また、脱イオン水で水洗することが好ましい。水洗した後、さらに脱イオン水で水洗することが好ましい。水洗の方法は特に限定されず、浸漬法、スプレー法などの従来公知の方法を適用することができる。水洗の後は、乾燥させてもよいし、乾燥しなくてもよい。
【0069】
本発明の処理液が、表面処理の連続操業中に、金属から溶出する金属イオンを含有しても何ら問題とならない。
例えば、冷延鋼板からなる金属構造物を表面処理した場合には、処理液中に鉄イオンが徐々に増加するが、成分である各化合物の含有量が上記範囲に制御されていれば、スラッジなどの問題は生じない。通常の自動車車体の場合には、自動車車体の移送により表面処理液のナチュラルな持ち出しがあり、これにより自動車車体からの溶出金属イオン濃度は、比較的低い濃度の100質量ppm未満で定常に達するが、積極的にこれら溶出金属イオンを遠心分離装置、各種膜によるフィルタリングなどで系より除去することが好ましい。
亜鉛めっき鋼板やアルミニウムからなる金属構造物を表面処理した場合には、溶出する金属イオンが本発明の必須成分に成り得るため、本発明の処理液はより有効に活用できる。表面処理された金属構造物は、水洗され、次いで脱イオン水洗され、その後に乾燥させることなく電着塗装に供される。
【0070】
<化成被膜>
本発明の処理方法において、金属部材や金属構造物の表面の化成皮膜付着量が、金属テルル換算で0.02〜2.0mmol/m2(より好ましくは、0.05〜0.5mmol/m2)および、チタンあるいはジルコニウムもしくはこの合計として0.02〜2.0mmol/m2(より好ましくは0.1〜1.0mmol/m2)であることが好ましく、膜厚に換算した場合は、2.0〜200nmの皮膜を形成させることが好ましい。テルルの付着量が0.02mmol/m2未満では、付き廻り性改善の効果が充分でない場合がある。また、テルルの付着量が2mmol/m2を超えても特に問題ないが、これらは高価であるために経済的に好ましくない。
なお、上述した金属の付着量の好ましい範囲は、適用する材料により異なる。冷延鋼板においては、高めの付着量が必要である。次いで、合金化亜鉛めっき鋼板、アルミニウム材料にしたがって、低めの付着量においても充分な性能を発揮する。なお、テルルは、基本的には、金属、酸化物、水酸化物で存在しているものと考えられる。金属構の材質によって若干性質が異なるが、テルルは、基本的に半導体として金属の表面に存在し、電着塗装時の水素ガス発生を適切に制御し、かつ、皮膜と析出する塗料との密着性がよく、結果として析出する電着塗膜成分の抵抗を高め、付き廻り性を高めているものと考えられる。このため、テルルは皮膜の最表面にあることが好ましい。
【0071】
チタンあるいはジルコニウムもしくはこの合計量が0.02mmol/m2未満では、付着量が少なく耐食性能が充分でない場合がある。また、2mmol/m2を超えて付着している場合、耐食性能は特に問題ないが、処理コストが高くなり、経済的に好ましくない。
膜厚に換算すると皮膜は2〜200nmの範囲となり、20〜100nmの範囲がより好ましい。なお、チタンおよび/またはジルコニウムも、基本的には、酸化物、水酸化物で存在しているものと考えられる。チタンおよび/またはジルコニウムは、基本的にバリアー性が高く、耐酸性や耐アルカリ性に強いため、高い耐食性を発揮する要因と考えられる。
【0072】
<電着塗装>
上述した化成皮膜を有する金属部材や金属構造物の表面を、カチオン電着塗装することができる。本発明においては、このようなカチオン電着塗装の際に良好な塗装の付き廻り性を示す。
カチオン電着塗装としては、従来公知の方法を適用できる。
例えば、塗料として、アミン付加エポキシ樹脂と、硬化成分としてブロック化ポリイソシアネート硬化剤とを含有するカチオン電着塗料組成物を用い、この中に本発明の皮膜付き金属材料を浸漬する。なお、浸漬前に本発明の皮膜付き金属材料を乾燥してもよいし、乾燥せずに塗料に浸漬してもよい。
【0073】
そして、塗料の温度を、例えば26〜30℃程度に保持し、所望により塗料をスターラーで撹拌した状態で、例えば整流器を用いて得られた皮膜付きの金属部材や金属構造物に電圧を印加する。電解条件は、使用される塗料などにより適宜選択され、従来の一般的な条件であってよい。例えば、初めに30秒かけて0Vから200Vまで直線的に電圧を陰極方向に印加し、その後200Vで150秒間保持する。
このようにして皮膜付きの金属部材や金属構造物の表面を塗装した後、水洗し、その後塗膜を焼き付ける。例えば、170℃で20分間焼き付けて、塗膜を形成させる。
【0074】
得られた塗装金属材料の塗膜は、平均厚さで1〜50μmの厚さであることが好ましく、5〜40μmであることがより好ましく、7〜25μmであることがさらに好ましい。また、最も薄い箇所の厚さが7μm以上であることが好ましい。最低膜厚が薄いと腐食防止効果が充分に発揮されない。さらに、最も厚い箇所の厚さは40μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。最高膜厚が厚いと、塗膜表面のラフネスが増加し、外観上問題になると共に、経済的にも不利である。
【0075】
ここで塗膜の厚さは、電磁式膜厚計または渦電流式膜厚計を用いて測定する。塗膜が磁性体の金属材料(鉄、鉄系合金など)の表面の上に形成される場合は、電磁式膜厚計を用いて測定する。また、塗膜が非磁性体の金属材料(アルミニウム、アルミ系合金など)の表面の上に形成される場合は、渦電流式膜厚計を用いて測定する。
これらによって塗膜の任意の箇所を数箇所測定して、平均厚さを求める。
【実施例】
【0076】
以下、本発明に関わる金属表面処理液およびその処理方法に関して実施例および比較例を示し、その新規性、進歩性、有用性を説明する。
まず、金属板、金属板の前処理方法(清浄化)、表面処理方法および電着塗装方法について説明する。次に、各金属板の各種試験方法および評価方法を説明する。次いで、表面処理液の組成を後述する。なお、各種試験方法(評価方法)の結果を表1〜3にまとめて示した。
【0077】
<金属板>
金属材料素材は、冷延鋼板[70×150×0.8mm;株式会社パルテック製のSPCC(JIS 3141)]、合金化溶融亜鉛めっき鋼板[70×150×0.8mm;株式会社パルテック製のSGCC F06 MO(JIS G3302)]およびアルミニウム合金板[70×150×1.0mm;株式会社パルテック製のA5052P(JIS 4000)]の3種を用いた。以下、冷延鋼板をSPC、合金化溶融亜鉛めっき鋼板をGA、アルミニウム合金板をALと略する。
【0078】
<清浄化方法>
各金属板の表面を、脱脂剤[日本パーカライジング株式会社製のファインクリーナーE2001(A剤13g/L、B剤7g/L)]を使用し、40℃に加温し、120秒間スプレーすることにより脱脂した。その後、30秒間スプレー水洗し、表面処理液を用い表面処理し化成皮膜を形成した。なお、下記ボックスを処理する場合は、上記脱脂剤を用いたが、浸漬処理とし、時間を180秒とした。水洗も浸漬とし、時間を60秒とし、よく揺動させて行った。
【0079】
<表面処理方法>
後述する組成の表面処理液を調製し、pHなどの安定度合いや沈殿などの発生を確認するために所定の温度で1時間攪拌後、放置し、表面処理液の外観を観察した(初期外観と称する)。その後、下記表面処理方法(1)〜(3)のいずれかにより各金属板または下記ボックスの表面処理を行った。表面処理後、各金属板を水道水にて流水洗し(常温、30秒)、さらに、脱イオン水洗した(常温、30秒)。
表面処理方法(1)
処理温度: 45℃
処理時間: 90秒
接触方法: 浸漬
表面処理方法(2)
処理温度: 35℃
処理時間: 120秒
接触方法: 浸漬
表面処理方法(3)
処理温度: 50℃
処理時間: 45秒
接触方法: 浸漬
【0080】
<電着塗装方法>
上記の流水洗し、脱イオン水洗した、乾燥をしていない化成皮膜を形成した金属板に、電着塗料[関西ペイント株式会社製、GT-10HT]を用い、180秒間定電圧陰極電解して、塗膜を析出させた後、水洗し、170℃で20分間加熱焼き付けして電着塗装を行い、塗膜を形成した。電圧の制御により塗膜の膜厚を20μmに調整した。
【0081】
<付着量>
表面処理後の処理金属板上における各金属の付着量を、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、システム3270E)にて定量した。金属板は表面処理後に水洗し、脱イオン水洗し、これを冷風乾燥して付着量測定に供した。
【0082】
<化成皮膜の膜厚>
表面処理後の処理金属板の化成皮膜の膜厚は、表面分析装置(株式会社島津製作所製 ESCA-850M・スパッタリング速度:80nm/分)にて定量した。化成皮膜をアルゴンスパッタリングし、素地のメタルが70原子%となるまでを時間を皮膜と定義した。そのスパッタリング時間より換算して膜厚を得た。なお、処理金属板は上記の付着量測定に用いたものを用いた。
【0083】
<電着塗膜の膜厚>
電着塗装後の金属塗装板の塗膜の膜厚は、市販の電磁誘導型膜厚計((株)ケット科学研究所製・LZ−200)により測定した。
【0084】
<塗料密着性>
電着塗装した金属塗装板に碁盤目のカットを入れ、沸騰水に1時間浸漬後、水をワイピングし、テープ剥離を行った。剥離後の碁盤目の状態を観察した。升目は100個であり、剥離しなかった数を測定した。したがって、100が最も優れ、0が最も劣ることになる。
【0085】
<耐食性>
電着塗装した金属塗装板にクロスカットを施し、塩水噴霧試験(JIS−Z2371)を実施し、1000時間後のクロスカット部の片側膨れ幅を評価した。一般に、冷延鋼板では、3mm以下が良好、2mm以下が極めて良好なレベルで、合金化亜鉛めっき鋼板では、1.2mm以下が良好なレベルで、アルミニウム合金板では0.5mm以下が良好なレベルとなる。
【0086】
<電着塗装付き廻り性試験方法>
同種の金属板12〜15を4枚用意し、その内の金属板12〜14の3枚に直径8mmの穴10を開けた。穴10の位置は金属板の短辺方向では中央で、長辺方向では下端から50mmとした。4枚の金属板12〜15を、図1に示すように、それぞれ20mmのクリアランスを取って組み付けた。4枚の金属板12〜15は、それぞれ平行に配置される。4枚の金属板12〜15の全ての長辺に接するように2枚の塩化ビニル板(21、22)の各々を粘着テープで接着し、さらに一方の短辺の全てに接するように一枚の塩化ビニル板(23)を粘着テープで接着した。このようにして、4枚ボックス1を組み立てた。
この組み立てたボックスを上記表面処理方法(1)〜(3)のいずれかにより表面処理し、乾燥なしで電着塗装を行った。その際、4枚ボックス1と対極2とを、図2および図3に示すように配置した。すなわち、対極2に近い側に穴10を形成した金属板12がくるように4枚ボックスを配置した。なお、図2は金属板の短辺方向の中心における断面図を示しており、図3は斜視図である。対極は片面を絶縁テープでシールしたステンレス鋼板(SUS304)70×150×0.55mmを用いた。電着塗料の液面は金属板12〜15と対極が90mm浸漬される位置に制御した。電着塗料の温度を28℃に保持し、スターラーにて撹拌した状態で電着塗装を行った。4枚の金属板12〜15の全てを短絡させた上(図2)で、対極を陽極として整流器にて陰極電解法により塗膜を電解析出させた。電解条件は30秒かけて0〜230Vまで直線的に電圧を陰極方向に印加し、その後150秒間230Vを保持した。電解後それぞれの金属板12〜15を水洗し、170℃で20分間焼き付け、塗膜を形成させた。対極に一番近い金属板12の対極側をA面、対極に一番遠い金属板15の対極側をG面とし、A面とG面の塗膜厚を測定し、A/Gの比率を電着塗装の付き廻り性の指標とした。一般に比率は2.5以下が好ましいレベル、2.0以下は優れたレベルと判断される。
なお、A面、G面に形成された塗膜の膜厚を、電磁式膜厚計(金属板がSPCまたはGAの場合)または渦電流式膜厚計(金属板がAlの場合)を用いて測定した。A面、G面上の塗膜厚は無作為に選んだ10箇所の測定結果の平均とした。
【0087】
<スラッジ発生試験>
表面処理の工業化の操業性を評価する目的で、スラッジ発生試験を実施した。先ず、表面処理液の初期外観をチェックした。その後、その表面処理液1Lを用い、上記金属板を10分間、連続表面処理した。化成皮膜および表面処理により液ロス(持ち出し)による各成分は、適宜、初期の値を保つように補給した。そして、表面処理後の表面処理液を40℃にて48時間静置し、その後の表面処理液の状態(濁りなど)と沈降物(スラッジ)を目視にて判定した。スラッジの発生がないことが好ましい。
【0088】
(実施例1)
下記組成の表面処理液1を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製した前述のボックスの表面処理を行い、化成皮膜を形成した。表面処理液1の調製は、水に下記成分(A)〜(F)を全量の八割分の水に対して(F)、(A)、(B)、(D)、(E)の順で添加し、最後に水でメスアップし、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度に加温してpH調整を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。
表面処理液1
(A):テルル酸: 0.2mmol/L
(B):フルオロジルコニウム酸: 1.1mmol/L
(C):(D)による硝酸根: 55.5mmol/L
(D):硝酸アルミニウム: 18.5mmol/L
(E):硫酸亜鉛: 7.7mmol/L
(F):フッ化水素酸と(B)とのトータルフッ素: 65mmol/L
(G)(H)(I):なし
pH:4.0 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は43.4mmol/L、CF(最大値)は89.7mmol/Lと計算される。
なお、化合物(A)の含有量は、テルルとしての含有量を表す。化合物(B)はチタンおよびジルコニウムまたはこの合計としての含有量を表す。化合物(C)の含有量は、硝酸根としての含有量を表す。化合物(D)の含有量は、アルミニウムとしての含有量を表す。化合物(E)の含有量は、亜鉛としての含有量を表す。化合物(F)の含有量は、フッ素としての含有量を表す。以下の実施例の記載も同様である。
【0089】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で、下記組成の表面処理液2を調製し、表面処理方法(3)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液2
(A):亜テルル酸カリウム: 0.2mmol/L
(B):フルオロジルコニウム酸: 1.1mmol/L
(C):硝酸マグネシウムと(D)と(E)による硝酸根: 150mmol/L
(D):硝酸アルミニウム: 5.6mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 46.2mmol/L
(F):フッ化水素酸と(B)とのトータルフッ素: 28mmol/L
(G)(H)(I):なし
pH:2.5 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は17.6mmol/L、CF(最大値)は38.1mmol/Lと計算される。
【0090】
(実施例3)
実施例1と同様の手順で、下記組成の表面処理液3を調製し、表面処理方法(2)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液3
(A):亜テルル酸ナトリウム: 0.2mmol/L
(B):硝酸ジルコニウム: 3.3mmol/L
(C):(B)と(E)による硝酸根: 28.6 mmol/L
(D):硫酸アルミニウム: 9.3mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 7.7mmol/L
(F):フッ化水素酸のトータルフッ素: 60mmol/L
(G)(H)(I):なし
pH:3.5 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は33.8mmol/L、CF(最大値)は68.3mmol/Lと計算される。
【0091】
(実施例4)
実施例1と同様の手順で、下記組成の表面処理液4を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液4
(A):二酸化テルル: 0.1mmol/L
(B):フルオロジルコニウム酸: 0.5mmol/L
(C):硝酸マグネシウム: 20.6mmol/Lによる硝酸根:41.2mmol/L
(D):硫酸アルミニウム: 2.8mmol/L
(E):硫酸亜鉛: 46.2mmol/L
(F):フッ化アンモニウムと(B)とのトータルフッ素:17mmol/L
(G)(H)(I):なし
pH:3.0 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は8.6mmol/L、CF(最大値)は18.7mmol/Lと計算される。
【0092】
(実施例5)
実施例1と同様の手順で、下記組成の表面処理液5を調製し、表面処理方法(2)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液5
(A):テルル酸: 1.0mmol/L
(B):フルオロチタン酸: 0.5mmol/L
(C):硝酸マグネシウムと(E)による硝酸根: 30 mmol/L
(D):硫酸アルミニウム: 9.3mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 7.7mmol/L
(F):フッ化水素酸と(B)とのトータルフッ素: 68mmol/L
(G)(H)(I):なし
pH:3.0 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は30.6mmol/L、CF(最大値)は80.7mmol/Lと計算される。
【0093】
(実施例6)
実施例1と同様の手順で、下記組成の表面処理液6を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液6
(A):亜テルル酸: 0.2mmol/L
(B):硫酸チタン: 1.9mmol/L
(C):(D)と(E)による硝酸根: 95mmol/L
(D):硝酸アルミニウム: 11.1mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 30.8mmol/L
(F):フッ化水素酸のトータルフッ素: 38mmol/L
(G)(H)(I):なし
pH:2.5 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は31.8mmol/L、CF(最大値)は65.7mmol/Lと計算される。
【0094】
(実施例7)
下記組成の表面処理液7を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。調製は水に下記成分(A)〜(G)を全量の八割分の水に対して、(F)、(A)、(B)、(D)、(E)、(G)の順で添加し、最後に水でメスアップし、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度に加温してpH調整を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液7
(A):テルル酸: 0.2mmol/L
(B):フルオロジルコニウム酸: 1.1mmol/L
(C):(D)と(E)による硝酸根: 95mmol/L
(D):硝酸アルミニウム: 11.1mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 30.8mmol/L
(F):フッ化水素酸と(B)とのトータルフッ素: 44mmol/L
(G):ポリビニルフェノールアミノ化物(平均分子量10000): 0.02mmol/l
(H)(I):なし
pH:3.5 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は28.6mmol/L、CF(最大値)は60.1mmol/Lと計算される。
【0095】
(実施例8)
下記組成の表面処理液8を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。調製は水に下記成分(A)〜(F)、(H)を全量の八割分の水に対して(F)、(A)、(B)、(D)、(E)、(H)の順で添加し、最後に水でメスアップし、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度に加温してpH調整を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液8
(A):テルル酸: 1.0mmol/L
(B):フルオロジルコニウム酸: 3.3mmol/L
(C):(D)と(E)による硝酸根: 95mmol/L
(D):硝酸アルミニウム: 11.1mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 30.8mmol/L
(F):フッ化水素酸と(B)とのトータルフッ素: 75mmol/L
(G):なし
(H):アミノプロピルトリエトキシシラン(分子量264.5): 0.4mmol/L
(I):なし
pH:4.0 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は45.4mmol/L、CF(最大値)は107.5mmol/Lと計算される。
【0096】
(実施例9)
下記組成の表面処理液9を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。調製は水に下記成分(A)〜(F)、(I)を全量の八割分の水に対して(F)、(I)、(A)、(B)、(D)、(E)の順で添加し、最後に水でメスアップし、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度に加温してpH調整を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液9
(A):亜テルル酸: 1.0mmol/L
(B):フルオロジルコニウム酸: 3.3mmol/L
(C):(D)と(E)による硝酸根: 95mmol/L
(D):硝酸アルミニウム: 11.1mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 30.8mmol/L
(F):フッ化水素酸と(B)とのトータルフッ素: 75mmol/L
(G)(H):なし
(I):1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸: 1mmol/L
pH:3.0 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は45.4mmol/L、CF(最大値)は107.5mmol/Lと計算される。
【0097】
(実施例10)
下記組成の表面処理液10を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。調製は水に下記成分(A)〜(G)、(I)を全量の八割分の水に対して(F)、(I)、(A)、(B)、(D)、(E)、(G)の順で添加し、最後に水でメスアップし、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度に加温してpH調整を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液10
(A):テルル酸: 1mmol/L
(B):フルオロジルコニウム酸: 1.1mmol/L
(C):(D)と(E)による硝酸根: 67.1mmol/L
(D):硝酸アルミニウム: 1.9mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 30.8mmol/L
(F):フッ化アンモニウムと(B)とのトータルフッ素: 35mmol/L
(G):ポリビニルフェノールアミノ化物(平均分子量10000): 0.01mmol/l
(H)なし
(I):酒石酸: 0.3mmol/L
pH:4.5 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は18.2mmol/L、CF(最大値)は55.3mmol/Lと計算される。
【0098】
(実施例11)
下記組成の表面処理液11を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。調製は水に下記成分(A)〜(H)を全量の八割分の水に対して(F)、(A)、(B)、(D)、(E)、(G)、(H)の順で添加し、最後に水でメスアップし、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度に加温してpH調整を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液11
(A):二酸化テルル: 0.1mmol/L
(B):フルオロチタン酸: 4.2mmol/L
(C):(D)と(E)による硝酸根: 95mmol/L
(D):硝酸アルミニウム: 11.1mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 30.8mmol/L
(F):フッ化水素酸と(B)とのトータルフッ素: 61mmol/L
(G):ポリビニルフェノールアミノ化物(平均分子量10000): 0.01mmol/l
(H):コロイダルシリカ(分子量60): 16mmol/L
(I):なし
pH:2.5 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は40mmol/L、CF(最大値)は77.8mmol/Lと計算される。
【0099】
(実施例12)
下記組成の表面処理液12を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。調製は水に下記成分(A)〜(F)、(H)、(I)を全量の八割分の水に対して(F)、(I)、(A)、(B)、(D)、(E)、(H)の順で添加し、最後に水でメスアップし、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度に加温してpH調整を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液12
(A):テルル酸: 1mmol/L
(B):フルオロジルコニウム酸: 1.7mmol/L
(C):(D)と(E)による硝酸根: 95mmol/L
(D):硝酸アルミニウム: 11.1mmol/L
(E):硝酸亜鉛: 30.8mmol/L
(F):フッ化水素酸と(B)とのトータルフッ素: 71mmol/L
(G):なし
(H):コロイダルシリカ(分子量60): 4mmol/L
およびアミノシランカップリング剤(東京化成工業製A0876):0.5mmol/L
(I):リンゴ酸: 0.8mmol/L
pH:3.0 アンモニア水にて調整
CF(最小値)は39mmol/L、CF(最大値)は96.3mmol/Lと計算される。
【0100】
(比較例1)
下記組成の表面処理液13を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。調製は水に下記成分(B)〜(F)を全量の八割分の水に対して(F)、(B)、(D)、(E)の順で添加し、最後に水でメスアップし、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度に加温してpH調整を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液13
(A):なし
(B):フルオロジルコニウム酸: 5mmol/L
(C):(D)による硝酸根: 20mmol/L
(D):硝酸マグネシウム: 20mmol/L
(E):硫酸亜鉛: 0.4mmol/L
(F):フルオロチタン酸(トータルフッ素): 32mmol/L
(G):なし
pH:3.6 アンモニア水にて調整
【0101】
(比較例2)
下記組成の表面処理液14を調製し、表面処理方法(1)にて、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスの表面処理を行った。調製は水に下記成分(B)〜(F)を全量の八割分の水に対して(B)、(E)の順で添加し、最後に水でメスアップし、常温で20分間攪拌した。次いで、所定温度に加温してpH調整を行った。表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。その後、上記記載の評価を実施した。
表面処理液14
(A):なし
(B):フルオロチタン酸: 1.0mmol/L
(C):(E)による硝酸根: 0.4mmol/L
(D):なし
(E):硝酸亜鉛: 0.4mmol/L
(F):(B)によるトータルフッ素: 1mmol/L
(G):なし
pH:2.3 硝酸にて調整
【0102】
(比較例3)
市販のノンクロメート化成剤である登録商標アロジン404の2%水溶液(特開昭52−131937号公報に該当)を用い、40℃で30秒間、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスにスプレーして表面処理し、化成皮膜を形成した。次いで、表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0103】
(比較例4)
ヘキサシアノ酸鉄2g/Lとフルオロチタン酸1g/Lと硝酸コバルト1g/Lとからなる表面処理液15(特許文献8に該当)を調製し、これに40℃で60秒間、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスをそれぞれ浸漬し、表面処理を行い、化成皮膜を形成した。次いで、表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0104】
(比較例5)
(1)硫酸チタンを1mmol/L、(2)硫酸チタンの6倍モルに当たるフッ化水素酸、(3)硝酸カルシウムを0.2mmol/L、(4)硝酸アルミニウムを0.2mmol/L、(5)硝酸イオン(上記により添加)を含有する表面処理液(特許文献10に該当)を調製し、pH3.8に調整した後に、40℃で60秒間、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスを、それぞれ浸漬して表面処理を行い、化成皮膜を形成した。次いで、表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0105】
(比較例6)
ジルコニウム1000質量ppm(フルオロジルコニウム酸にて添加)、亜鉛1000質量ppm(硝酸亜鉛にて添加)、マグネシウム500質量ppm(硝酸マグネシウムとして添加)、チタン100質量ppm(フルオロチタン酸として添加)、インジウム3質量ppm(硝酸インジウムにて添加)、ニトログアニジン800質量ppmをこの順序で水に添加して常温で攪拌混合して表面処理液を調製し、pH4.5にアンモニア水にて調整した。この処理液に、40℃で60秒間、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスを、それぞれ浸漬し、表面処理して化成皮膜を形成した(特許文献15の実施例14相当)。次いで、表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0106】
(比較例7)
ジルコニウム200質量ppm(フルオロジルコニウム酸にて添加)、亜鉛500質量pppm(硝酸亜鉛にて添加)、シリカ200質量ppm(スノーテックスNとして添加)、過硫酸アンモニウム200質量ppmをこの順序で水に添加して常温で攪拌混合して表面処理液を調製し、pH4.0にアンモニア水にて調整した。この処理液に、40℃で60秒間、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスを、それぞれ浸漬し、表面処理して化成皮膜を形成した(特許文献15の実施例3相当)。次いで、表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0107】
(比較例8)
ジルコニウム500質量ppm(フルオロジルコニウム酸にて添加)、マグネシウム1000質量ppm(硝酸マグネシウムとして添加)、カルシウム500質量ppm(硝酸カルシウムとして添加)、塩素酸ナトリウム100質量ppmをこの順序で水に添加して常温で攪拌混合して表面処理液を調製し、pH4.5にアンモニア水にて調整した。この処理液に、25℃で60秒間、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスを、それぞれ浸漬し、表面処理して化成皮膜を形成した(特許文献15の実施例10相当)。次いで、表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0108】
(比較例9)
リン酸亜鉛系化成剤である登録商標パルボンドL3020の5%水溶液を用い、35℃で120秒間、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスを、それぞれ浸漬し、表面処理して化成皮膜を形成した。次いで、表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0109】
(比較例10)
ジルコニウムとして40%ジルコン酸を金属元素換算で500質量ppm、密着性付与剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン[信越化学工業株式会社製、「KBE903」]を有効成分濃度で200質量ppm、安定化剤としてHIDA(ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)を200質量ppmとなるように添加し、水酸化ナトリウムでpH4に調整し、表面処理液を得た。なお、上記KBE903としては、5質量部のKBE903を滴下漏斗から脱イオン水45質量部とエタノール50質量部との混合溶媒中(溶媒温度:25℃)に60分間かけて均一に滴下し、これを窒素雰囲気下、25℃で24時間反応させ、その後、反応溶液を減圧することによりエタノールを蒸発させた、有効成分5%のKBE903の加水分解重縮合物(以下、「KBE903重縮合物A」という。)を用いた。得られた表面処理液のORP(酸化還元電位)は308mV、アミノシランおよび/または上記アミノシランの加水分解重縮合物に含まれるケイ素元素の合計含有量に対する、ジルコニウム元素の含有量の比(Zr/Si比)は20であった。表面処理は、表面処理液に40℃で60秒間、3種の金属板、および、3種の金属板をそれぞれ用いて作製したボックスを、それぞれ浸漬し、表面処理して化成皮膜を形成した。次いで、表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。(特許文献36に準拠)
【0110】
(比較例11)
密着性付与剤としてN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン[信越化学工業株式会社製、「KBM603」]を有効成分濃度で200質量ppm、安定化剤としてアスパラギン酸を100質量ppm用い、ジルコニウムを金属元素換算で250質量ppm用いた点以外は、比較例10に記載の方法に従って、表面処理液の調製を行った。なお、上記KBM603としては、KBE903の代わりにKBM603を使用したこと以外は比較例11と同様の方法で、予め加水分解重縮合させたKBM603の加水分解重縮合物(以下、「KBM603重縮合物」という)を用いた。表面処理液のORPは356mV、Zr/Si比は10であった。表面処理は、比較例10記載の条件と同様の条件で化成皮膜を形成した。次いで、表面処理後の金属板およびボックスを水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、上記方法と条件で電着塗装を行い、塗膜を形成した。(特許文献36に準拠)
【0111】
(比較例12)
清浄化のみ(脱脂のみ)を行い、表面処理を行わずに電着塗装を行い、塗膜を形成した。
【0112】
実施例1〜12および比較例1〜12の表面処理皮膜の試験・評価結果を、表1から表3に示す。表1が冷延鋼板、表2が合金化亜鉛めっき鋼板、表3がアルミニウム合金板に対する結果である。
なお、表1〜表3中、「(A)付着量」は、皮膜中のテルル(Te)の付着量(mmol/m2)を表す。また、表1〜表3中、「(B)付着量」は、皮膜中のチタンおよび/またはジルコニウムの付着量(mmol/m2)を表す。「化成皮膜厚」は、得られた皮膜の膜厚を表す。
また、「塗装性能」は、上記電着方法により、塗膜の膜厚を20μmに調整した金属板を用いて評価した結果である。
「化成皮膜特性」は、上記ボックスを化成処理した後の金属板を用いて評価した結果である。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
【表3】

【0116】
表1〜3において、いずれの金属板においても、従来技術では、リン酸塩を用いた場合を除き、電着塗装の付き廻り性が不充分であることがわかった。また、スラッジ発生試験を実施すると沈降物が発生するものも多く、工業化した場合の操業性(生産性)に問題を有していた。
これに対して、本発明の表面処理液および表面処理方法(実施例1〜12)では、優れた電着塗装付き廻り性を付与でき、併せて耐食性、塗料密着性にも優れ、かつ、操業性にも優れていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】電着塗装の付き廻り性試験(4枚ボックス試験)に使用するボックスの見取り図である。
【図2】電着塗装付き廻り性の評価方法を示す説明図である。
【図3】電着塗装付き廻り性の評価方法を示す別の説明図である。
【符号の説明】
【0118】
1 ボックス
2 対極
10 穴
12 試験板No.1(外側:A面)
13 試験板No.2
14 試験板No.3
15 試験板No.4(内側:G面)
21 側面仕切板(塩化ビニル板)
22 側面仕切板(塩化ビニル板)
23 底面仕切板(塩化ビニル板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の水溶性テルル化合物(A)と、水溶性チタン化合物および水溶性ジルコニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(B)とを含有する金属表面処理液。
【請求項2】
さらに、少なくとも1種の水溶性硝酸塩化合物(C)と、少なくとも1種の水溶性アルミニウム化合物(D)と、少なくとも1種の水溶性亜鉛化合物(E)と、少なくとも1種のフッ素化合物(F)とを含有する、請求項1に記載の金属表面処理液。
【請求項3】
前記水溶性テルル化合物(A)のテルルとしての含有量(CA)が、0.05〜10mmol/Lであり、
前記化合物(B)のチタンおよび/またはジルコニウムとしての総含有量(CB)が、0.1〜10mmol/Lであり、
前記水溶性硝酸塩化合物(C)の硝酸根としての含有量(CC)が、1〜300mmol/Lであり、
前記水溶性アルミニウム化合物(D)のアルミニウムとしての含有量(CD)が、0.2〜200mmol/Lであり、
前記水溶性亜鉛化合物(E)の亜鉛としての含有量(CE)が、0.1〜100mmol/Lであり、
前記フッ素化合物(F)のフッ素としての含有量(CF)が以下の式(1)および式(2)を満足するものであり、
式(1):CF(最小値)=CA×10+CB×4+CD×2
式(2):CF(最大値)=CA×40+CB×7+CD×4
且つ、処理液のpHが2.5〜5.0である、請求項2に記載の金属表面処理液。
【請求項4】
さらに、カチオン性水溶性樹脂(G)を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項5】
さらに、シラン化合物(H)を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項6】
さらに、金属キレート剤(I)を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項7】
前記水溶性テルル化合物(A)が、テルル酸、テルル酸カリウム、テルル酸ナトリウム、亜テルル酸、亜テルル酸カリウム、亜テルル酸ナトリウム、および2酸化テルルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項8】
前記化合物(B)が、硫酸チタン、オキシ硫酸チタン、硫酸チタンアンモニウム、硝酸チタン、オキシ硝酸チタン、硝酸チタンアンモニウム、フルオロチタン酸、フルオロチタン錯塩、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムアンモニウム、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、フルオロジルコニウム酸、およびフルオロジルコニウム錯塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項9】
前記水溶性硝酸塩化合物(C)が、硝酸チタン、硝酸ジルコニウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸亜鉛、硝酸ストロンチウム、硝酸マンガンおよび硝酸銅からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜8のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項10】
前記水溶性アルミニウム化合物(D)が、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、およびフッ化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜9のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項11】
前記水溶性亜鉛化合物(E)が、硝酸亜鉛、および硫酸亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜10のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項12】
前記フッ素化合物(F)が、フッ化水素酸酸、フッ化アンモニウム、フルオロチタン酸、フルオロチタン錯塩、フルオロジルコニウム酸、フルオロジルコニウム錯塩、フッ化アルミニウム、およびフッ化スズからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2〜11のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項13】
前記カチオン性水溶性樹脂(G)が、アミノ基含有の水溶性オリゴマー、および水溶性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記樹脂(G)の含有量が0.001〜1mmol/Lである、請求項4〜12のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項14】
前記シラン化合物(H)が、シランカップリング剤、およびコロイダルシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記化合物(H)の含有量が0.02〜20mmol/Lである、請求項5〜13のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項15】
前記キレート剤(I)が、しゅう酸、酒石酸、くえん酸、りんご酸、有機フォスフォン酸、ニトリロトリ酢酸、およびエチレンジアミン四酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記キレート剤(I)の含有量が0.001〜10mmol/Lである、請求項6〜14のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項16】
被処理金属が、冷延鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、亜鉛板、亜鉛合金板、亜鉛めっき鋼板、および合金化亜鉛めっき鋼板からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属材料で構成された輸送用車両またはその部品であり、前記被処理金属から溶出する金属イオンを含有する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の金属表面処理液。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の金属表面処理液を用いて、金属を表面処理し、金属表面上に、付着量がテルルとして0.02〜2.0mmol/m2、並びに、チタン若しくはジルコニウムまたはその合計として0.02〜2.0mmol/m2、膜厚に換算した場合は2.0〜200nmの化成皮膜を形成し、水洗し、脱イオン水洗し、乾燥することなく、金属表面を電着塗装に供することを特徴とする金属の表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−90407(P2010−90407A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258835(P2008−258835)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】