説明

金属超微粉の精製方法

【課題】金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉中の未反応ハロゲン化物を極限濃度まで短時間に効率よく除去すると共に、前記金属超微粉を水中に分散した場合においても金属超微粉粒子の凝集発生を防止して分散性に優れた金属超微粉水スラリーを得ることが可能な金属超微粉の精製方法を提供する。
【解決手段】
金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉を、グルタミン酸水溶液を用いて洗浄し、前記金属超微粉中の残留ハロゲン化物を除去する。
ここで、前記グルタミン酸水溶液の濃度は、0.01〜0.15mass%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電ペーストフィラや積層セラミックコンデンサの内部電極用として好適な金属超微粉の精製方法、特に、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉中の残留ハロゲン化物を除去することにより行う金属超微粉の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサの内部電極に用いられる金属超微粉としては、平均粒子径が0.1〜1.0μm程度で粒子形状がほぼ球形の純度の高い金属粉が用いられ、これに有機樹脂等のバインダを加えて、ペースト化して使用されるのが一般的である。そして、このペースト化された金属超微粉は内部電極層を形成するために、スクリーン印刷等によりセラミックグリーンシート上に薄層に塗布される。このペーストが塗布されたセラミックグリーンシートを数百にも積層して積層体を形成する。この積層体は、脱脂工程、焼結工程、焼成工程を経て積層セラミックコンデンサを形成する。ここで、前記平均粒子径は個数基準分布の体面積平均径(d3)により表される。
【0003】
最近の積層セラミックコンデンサは小型で大容量化を図ることが求められており、それを達成させるために、内部電極層が形成されたセラミックグリーンシートの積層数を数百から1000層にまで増加させる必要がある。この技術を完成させるために、内部電極層の厚みは、従来は3μm程度であったものを1.5μm以下に薄くする必要がある。
【0004】
そのため、内部電極層の材料である金属超微粉の粒度分布は出来る限り小さくすることが望まれ、金属超微粉の平均粒子径としては0.05〜0.2μmと細かくすることが要求される。さらに、金属超微粉の粒度分布のうち、存在確率がppbからppmレベルで含まれる粗大粒子数の低減も要求され、そのため、湿式分級処理が導入されるようなった。
【0005】
金属超微粉に、塊状物等の凝集体や粗大粒子が存在すると、それらがセラミックグリーンシート層を突き抜けてしまい電極が短絡した不良品となり、また、たとえ突き抜けが起こらない場合でも、電極間距離が短くなることで、部分的な電流集中が発生し、積層セラミックコンデンサの寿命劣化の原因となる。
【0006】
金属超微粉の平均粒子径を細かくするという要求に対しては、平均粒子径の小さな金属超微粉を製造する方法として、従来から金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元する方法が知られている。しかし、この金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元することで得られる金属超微粉中の残留ハロゲン化物が金属超微粉の耐錆性を阻害するほか、例えば金属超微粉をペースト化して使用する場合マイグレーションを引き起こす等の問題があり、その除去が必要であった。
【0007】
一方、金属超微粉中の残留ハロゲン化物を除去する方法としては、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られた金属超微粉に対してキレート剤水溶液を用いて洗浄し残留ハロゲン化物を除去する技術が特許文献1(特許第3131075号公報)に開示されている。この技術は金属超微粉中の未反応ハロゲン化物を極限濃度まで短時間に効率よく除去でき、金属の酸化、溶出を最小限に抑制できる特徴を有する。上記技術では、キレート剤として酒石酸、クエン酸、EDTAが開示されている。
【0008】
また、特許文献2(特開平11−189813号公報)には、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉を60〜80℃に加熱した有機酸水溶液を用い、固液比(体積比)1:5〜1:1の範囲で洗浄し残留ハロゲン化物を除去する金属超微粉の洗浄方法が開示されている。ここでは有機酸として、酢酸、ぎ酸、乳酸が開示されている。
【0009】
図2に、上記従来技術の金属超微粉の製造工程を示す。金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られた金属超微粉(21)にキレート剤水溶液または有機酸水溶液(22)を添加したのち、攪拌、洗浄工程(23)で残留ハロゲン化物を除去する。洗浄後、ろ過工程(24)において吸引ろ過等により精製粉と水溶性キレートを含むろ液(25)の分離を非酸化性雰囲気で行う。ろ過された精製粉は乾燥工程(26)で、非酸化性雰囲気中で乾燥して精製金属超微粉(27)を得る。
【特許文献1】特許第3131075号公報
【特許文献2】特開平11−189813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
最近の顧客要求から、金属超微粉中の粗大粒子数の低減を図る湿式分級が実施されるようになってきた。湿式分級を実施する場合には、前記攪拌、洗浄工程(23)終了後の金属超微粉水スラリーが原料となる。湿式分級では金属超微粉水スラリー (金属超微粉水分散体)の金属超微粉粒子が単分散している必要がある。
【0011】
上記特許文献1及び2に記載の従来技術に係るキレート剤水溶液または有機酸水溶液(22)の添加による洗浄工程(23)では、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られた金属超微粉(21)に含まれている塊状の凝集体を一次粒子にまで完全分離ができないこと、および水中に分散したのちの一次粒子の凝集発生を抑制できない。つまり、水溶液中での金属超微粉粒子の分散性が劣化している。平均粒子径が0.05〜0.2μmの金属超微粉は凝集性が非常に高く、水中では容易に凝集体を形成し、その分散性の確保は難しい。特に平均粒子径が0.2μm以下の金属超微粉の洗浄となると、従来のキレート剤や有機酸では分散性が十分に確保できない。そのため、上記従来技術で平均粒子径が0.1μm程度の金属超微粉の洗浄を実施した後の金属超微粉水スラリーを用いた湿式分級プロセスでは、金属超微粉の分散性が劣化しているため、凝集体が、例えばノズルを閉塞させる等の問題が発生して工業的に安定した操業ができず、製品収率も低下してしまうという問題を生ずる。
【0012】
このように、上記特許文献1及び2に記載の従来技術は、金属超微粉中の未反応ハロゲン化物を極限濃度まで短時間に効率よく除去することはできるが、洗浄後に分散性の優れた金属超微粉水スラリーを得ることができない。
【0013】
そこで、本発明は、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉中の未反応ハロゲン化物を極限濃度まで短時間に効率よく除去すると共に、前記金属超微粉を水中に分散した場合においても金属超微粉粒子の凝集発生を防止して分散性に優れた金属超微粉水スラリーを得ることが可能な金属超微粉の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記特許文献1及び2に記載の従来技術に係るキレート剤水溶液または有機酸水溶液の添加による洗浄工程では金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られた金属超微粉に含まれている塊状の凝集体を一次粒子にまで完全分離ができないこと、および水中に分散したのちの一次粒子の凝集発生を抑制できず、水溶液中での金属超微粉粒子の分散性が劣化するという原因について鋭意検討を行った。
【0015】
ここでは、前記金属ハロゲン化物として、ハロゲン化ニッケルを用いた場合について検討を行った。
【0016】
水に可溶である残留ハロゲン化物を含む金属超微粉が洗浄工程で水中に存在する場合、ハロゲン化物は溶解して金属イオンとハロゲンイオンに解離する。つまり、ニッケルイオンとハロゲンイオンが生成することになる。ここで、前記ハロゲンとしては、例えば、化学便覧、MSDSなどの物理的性質の項目でそのハロゲン化物の溶解度が「水に可溶」又は「水に易溶」とあるものが使用でき、特に塩素が好適に使用できる。
【0017】
ハロゲン化ニッケルの蒸気を気相還元して得たニッケル超微粉の表面状態は酸化皮膜が存在する部分と金属ニッケルが存在する部分がある。水分散媒中の前記ニッケル超微粉の表面には生成メカニズムの違いから、以下に示す2種類の親水性OH基が存在すると考えられる。
(1)水分子が吸着したあと、プロトン(H)を放出して、OH基となる場合
(2)固体金属ニッケル粒子表面で、イオン化されたニッケルイオンと水分子が化合して、ニッケル水酸化物が生成されてOH基となる場合
このニッケル水酸化物は水分子を配位子として含む組成となっており、オール化による架橋反応で成長する。このニッケル水酸化物中の親水性OH基の効果および配位子の水分子によって、水との親和性が向上する。従って、水酸化物やOH基の存在は水溶媒に対しては良好に作用すると考えられる。
【0018】
しかし、過剰のニッケルイオンが存在するとニッケル水酸化物も過剰に生成され、pH=7付近においても溶解度積以上の値となってニッケル粒子表面でニッケル水酸化物の沈殿が生じる。この沈殿物が粒子間におよぶことで凝集体が生成され、その結果、ニッケル超微粉水スラリーの分散性は劣化することになる。本発明者の知見では、金属ハロゲン化物の残留分を除去して得られた金属水スラリー、ここではニッケル粉末水分散体のpHは7.0〜10となっている。
【0019】
洗浄工程におけるニッケル超微粉水スラリー中に存在する過剰のニッケルイオンは、残留ハロゲン化ニッケルの溶解と、キレート剤または有機酸によって固体金属ニッケル粒子表面から溶解により生成されると考えられる。従って残留ハロゲン化ニッケルの溶解促進のために添加される有機酸の酸強度が高い、つまり有機酸の解離定数が大きいものは、固体金属ニッケル粒子表面からのニッケル溶出も促進させ、その結果、過剰のニッケルイオンを生成し、ニッケル超微粉水スラリーの分散性を劣化させることがわかった。
【0020】
さらに、最近の積層セラミックコンデンサ用の内部電極材料として要求される平均粒子径が0.05〜0.2μmの金属超微粉は、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得られた金属超微粉の段階ですでに緻密な塊状凝集体を形成しており、金属超微粉水スラリーとした場合の分散性を劣化させる。
【0021】
なお、以上の検討は、金属ハロゲン化物として、ハロゲン化ニッケルを用いた場合に限られず、ハロゲン化鉄或いはハロゲン化コバルトを用いた場合においても同様であった。
【0022】
そこで、本発明者らは、上記特許文献1及び2に記載の従来技術に係るキレート剤水溶液または有機酸水溶液に代わる物質を種々検討した。その中で、グルタミン酸を用いた場合に、前記キレート剤および有機酸を用いた場合に比べて、洗浄後の金属超微粉水スラリーに優れた分散性効果を発揮させることができることを新たに発見した。さらに、グルタミン酸は、未反応ハロゲン化物を極限濃度まで短時間に効率よく除去できることも確認された。
【0023】
また、グルタミン酸はハロゲン化物の溶解促進に寄与する。これは、グルタミン酸の解離定数(Ka=6.6×10−3)は、上記特許文献2に記載されている有機酸である酒石酸(Ka=1.5×10−3)、クエン酸(Ka=1.3×10−3)、酢酸(Ka=2.8×10−5)、ギ酸(Ka=2.8×10−4)、乳酸(Ka=2.2×10−4)よりも大きく、酸としての能力が高いことに起因する。
【0024】
また、前記特許文献1に記載のEDTA等のキレート剤は、その遊離酸は水に溶解しないため適用できず、また、アルカリ塩の形では水に可溶であるが、不純物(Na,Ca,などのアルカリ土類金属)の影響考慮すると使用できない。そのため前記特許文献1に記載のでキレート剤は適用できない。
【0025】
また、グルタミン酸は、凝集を形成している一次粒子表面を溶解させることで、粒子間の接触間距離を広げ、さらにニッケル粒子表面に吸着することで再凝集を防止することがわかった。
【0026】
さらに、グルタミン酸はニッケル、鉄、コバルトの各金属イオンとの安定度定数が高く、各金属イオンを錯体として補足するため、溶解したこれらの金属イオンと水分子との化合を防止し、金属水酸化物の生成を防止する働きが大きいことがわかった。このように、酸強度がある程度高く、金属イオンとの安定度定数が高い、グルタミン酸の効果により、上記従来技術では得られなかった分散性が優れる金属超微粉水スラリーが得られることがわかった。
【0027】
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、以下のような特徴を有する。
[1]ハロゲン化ニッケル、ハロゲン化鉄、ハロゲン化コバルトの中から選ばれる金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉の精製方法であって、
前記金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉を、グルタミン酸水溶液を用いて洗浄し、前記金属超微粉中の残留ハロゲン化物を除去することを特徴とする金属超微粉の精製方法。
[2]上記[1]において、グルタミン酸水溶液の濃度が、0.01〜0.15mass%であることを特徴とする金属超微粉の精製方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉中の未反応ハロゲン化物を極限濃度まで短時間に効率よく除去すると共に、前記金属超微粉を水中に分散した場合においても金属超微粉粒子の凝集発生を防止して分散性に優れた金属超微粉水スラリーを得ることが可能な金属超微粉の精製方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0030】
図1は、本発明の金属超微粉の精製方法に係る工程の一例を示すフロー図である。本発明に係る金属超微粉の精製方法は、ハロゲン化ニッケル、ハロゲン化鉄、ハロゲン化コバルトの中から選ばれる金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉を、グルタミン酸水溶液を用いて洗浄し、前記金属超微粉中の残留ハロゲン化物を除去するものである。
【0031】
ここで、前記金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉の平均粒子径としては、どのような粒子径のものであっても本発明の効果を奏するものであるが、前記金属超微粉の平均粒子径が0.2μm以下の場合が、金属超微粉粒子の凝集発生を防止して分散性を向上させるという効果に着目した場合、より好適に用いられる。なお、前記金属超微粉の取り扱い上等の理由により、あえて前記平均粒子径に下限を設けるとすれば、前記金属超微粉の平均粒子径が0.05〜0.2μmの範囲の場合に好適に適用される。また、前記金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉は、その粒子形状がほぼ球形で金属純度の高い粒子を形成する。
【0032】
また、前記グルタミン酸水溶液の濃度としては、0.01〜0.15mass%とすることが好ましい。0.01mass%未満であると、実用上はそれほど問題とならないがハロゲン化物の除去が不十分となる場合があり、0.15mass%を超えると酸過剰と予想される原因で分散性が劣化する傾向がみられるからである。
【0033】
本発明においては、金属ハロゲン化物として、ハロゲン化ニッケル、ハロゲン化鉄、ハロゲン化コバルトの中から選ばれるとしているが、例えば、ハロゲン化銅を用いた場合は、気相還元により生成される銅ハロゲン化物が水に不溶であるため本発明は適用できない。
【0034】
以下、図1のフローに従って説明する。
【0035】
まず、ハロゲン化ニッケル、ハロゲン化鉄、ハロゲン化コバルトの中から選ばれる金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た未処理(未精製)の金属超微粉11にグルタミン酸水溶液12を添加する。ここで、グルタミン酸自体は粉末状の薬品であり、予め水溶液にしたものを添加してもよいが、前記金属超微粉11と水との混合物中にグルタミン酸の粉末をそのまま添加してもよい。
【0036】
次に、前記金属超微粉11とグルタミン酸水溶液12との攪拌、洗浄を行う(攪拌、洗浄工程13)。ここでの攪拌、洗浄方法としては、超音波又は機械的攪拌を用い、洗浄時間は約10分、洗浄回数は1〜2回で十分である。各回の洗浄では、溶出ハロゲンイオンとグルタミン酸と金属イオンの錯イオンとが含まれる洗浄液をろ過して除去する。前記ろ過では、吸引ろ過、加圧ろ過等が利用できる。2回を超えて洗浄してもかまわないが、経済性と残留ハロゲン量の関係からその効果は少ない。
【0037】
なお、この攪拌、洗浄工程13での処理は非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。水中での金属超微粉の酸化防止(酸素の還元反応防止)により、Ni,Fe,Coの洗浄時の溶出損失を低減することができるからである。前記非酸化性雰囲気としては、例えば、Ar、He,N等の不活性ガス雰囲気とすることにより行うことができる。
【0038】
次に、前記攪拌、洗浄工程13終了後のろ過後の金属超微粉(ろ過ケーキ)に純水を添加し、混合攪拌することで金属超微粉水スラリー14を生成する。前記グルタミン酸水溶液を使用することで、グルタミン酸の働きにより分散性が優れる金属超微粉水スラリー14を得ることができる。
【0039】
次に、前記金属超微粉水スラリー14中の粗大粒子数低減のため、湿式分級工程15を実施する。
【0040】
次に、前記湿式分級工程15終了後、ろ過工程16において、吸引ろ過または加圧ろ過等により精製した金属超微粉とろ液(水)17との分離を行う。
【0041】
次に、前記ろ過工程16においてろ過された後の金属超微粉は、乾燥工程18において非酸化性雰囲気中で乾燥され、精製金属超微粉19が生成される。なお、前記精製金属超微粉19は、非酸化性ガスまたは真空中に保存される。ここで、前記非酸化性雰囲気としては、攪拌、洗浄工程13と同様に、Ar、He,N等の不活性ガス雰囲気とすることにより行うことができる。
【0042】
以上の方法により精製された金属超微粉、具体的には、ニッケル超微粉、鉄超微粉、コバルト超微粉は、グルタミン酸の働きにより、前記金属超微粉中の未反応ハロゲン化物を極限濃度まで短時間に効率よく除去でき、さらに、溶出した金属イオンによる水酸化物の生成を防止することができることで、分散性が優れた金属超微粉水スラリーを得ることができる。また、分散性の向上により、湿式分級工程での分散処理工程が短縮できることでエネルギー省力化が図れることになる。湿式分級工程での製品収率も増加するため、不良品による産業廃棄物の減少となる。さらに、グルタミン酸が生化学的分解性に優れているため地球環境問題の点からも極めて使用価値が高い。
【実施例】
【0043】
図1に示すフローに従って、塩化ニッケルの蒸気を気相水素還元して得たニッケル超微粉(平均粒子径0.1μm)の精製を実施した。
【0044】
本発明に係る実施例として、前記未精製のニッケル超微粉200gに対し、濃度が0.1mass%のグルタミン酸水溶液200mlを添加し、機械的攪拌機を用い、洗浄時間10分、洗浄回数2回で攪拌、洗浄を行った。攪拌、洗浄後に吸引ろ過を実施し、洗浄液を分離した後、純水を添加してニッケル超微粉水スラリーを作製した。この作製したニッケル超微粉水スラリーの一部は化学分析用に吸引ろ過、真空乾燥を実施して精製ニッケル超微粉を得た。
【0045】
また、比較例として、従来技術の酒石酸および酢酸を用いて同様の洗浄を行った。
【0046】
上記実施例及び比較例のニッケル超微粉水スラリーの分散性評価および残留塩素量を測定した結果をまとめて表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
上記表1中の分散性評価の方法を以下に記す。
【0049】
洗浄後に得られたニッケル超微粉の水スラリーをレーザー光散乱回折法粒度分析計(日機装(株)社製マイクロトラックHRA 9320-X100型)により測定した。適量のニッケル超微粉水スラリーを循環装置内に所定の吸光度になるまで注入し、超音波を3分間印加したのち粒度分布を測定した。上記表1中の数値は体積基準の累積積算粒度(JIS R 1629に準拠)で90%(D90)に相当する粒子径を表示した。レーザー粒度分析計は金属粒子の分散状態を評価するのに広く用いられている。
【0050】
下記に示す基準で粒度分布のD90を用いて分散性を評価した。D90が小さいほど分散性が優れていることになる。
[分散性の評価基準]
D90:5μm以上・・・ ××
D90:3μm以上5μm未満・・・ ×
D90:2μm以上3μm未満・・・ △
D90:2μm未満・・・・・・ ○
上記表1から明らかなように、実施例1〜6のグルタミン酸を用いた洗浄から得られた金属超微粉水スラリーの分散性が従来技術に係る比較例1〜3よりも優れていることがわかる。
【0051】
グルタミン酸水溶液の濃度については、0.15mass%を超える(実施例6)とD90の値が大きくなる傾向がみられた。これは分散性が劣化する方向である。また、グルタミン酸水溶液の濃度が0.01mass%未満(実施例5)では、残留塩素量が0.01mass%未満ではあるが、他の例の残留塩素量である0.001mass%に比べてやや増加した値となっている。さらにD90の値が実施例1〜4(グルタミン酸水溶液濃度0.125mass%)の場合に比べてやや増加した値となっているのは、図1における金属超微粉(21)の段階で存在する緻密な塊状凝集体の一次粒子表面を溶解させ、粒子間の接触間距離を広げ、さらにニッケル粒子表面に吸着することで再凝集を防止するために必要なグルタミン酸量が不足したためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る金属超微粉の精製方法に係る工程の一例を示すフロー図である。
【図2】従来技術に係る金属超微粉の製造工程の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0053】
11 金属超微粉
12 グルタミン酸水溶液
13 攪拌、洗浄工程
14 金属超微粉水スラリー
15 湿式分級工程
16 ろ過工程
17 ろ液
18 乾燥工程
19 精製金属超微粉(乾燥粉)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化ニッケル、ハロゲン化鉄、ハロゲン化コバルトの中から選ばれる金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉の精製方法であって、
前記金属ハロゲン化物の蒸気を気相還元して得た金属超微粉を、グルタミン酸水溶液を用いて洗浄し、前記金属超微粉中の残留ハロゲン化物を除去することを特徴とする金属超微粉の精製方法。
【請求項2】
グルタミン酸水溶液の濃度が、0.01〜0.15mass%であることを特徴とする請求項1に記載の金属超微粉の精製方法。

【図1】
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【図2】
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