説明

金属部材の表面処理方法

【課題】局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜を形成する化成処理剤が用いられる場合であっても、低電圧印加領域における被塗装物部分の電着塗装性を向上させることができる金属部材の表面処理方法を提供する。
【解決手段】化成皮膜形成処理工程の前工程において、車体Wの表面に電子放出関連物質(電子放出物質)としてのTiO2微粒子を吸着させ、そのTiO2微粒子を吸着した車体Wの表面に対して少なくとも化成皮膜形成処理を行い、最終的な化成皮膜全体のバンドギャップを、化成処理剤32のみを用いて形成される場合の化成皮膜のバンドギャップよりも小さくする。これにより、電着塗装工程における電圧印加時に、化成皮膜21表面に向けて供給できる電子(自由電子)の数を増加させ、陰極での還元反応を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗装工程の前工程として用いられる金属部材の表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の塗装工程においては、一般的に、被塗装物(金属部材)に対するカチオン電着塗装の前に、被塗装物に対して化成処理が行われる。このような化成処理においては、化成処理剤として、リン酸亜鉛を主成分としたリン酸亜鉛処理剤が多く用いられており、リン酸亜鉛処理剤を用いて被塗装物に対して化成処理を行えば、カチオン電着塗装工程において、良好な電着塗装性(塗膜膜厚特性)を得ることができる。しかし、リン酸亜鉛処理剤は、そのリン酸イオンが富栄養化をもたらし、また、化成処理に伴って、廃棄すべきスラッジを生成するという問題点を有している。このため、このような問題点を解決すべく、特許文献1に示すように、ジルコニウム、チタン、及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、並びに水溶性樹脂からなる化成処理剤が提案されている。
【特許文献1】特開2004−218074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、ジルコニウム等(ジルコニウム化合物等)を主成分とした化成処理剤を用いて被塗装物に対して化成処理を行った場合には、リン酸亜鉛処理剤を用いる場合に比べて、局所的な低抵抗部の数が少なくて通電しにくい化成皮膜(ZrO2等)が被塗装物面上に形成される。このため、電着塗装工程における特有の現象として、陽極とそれに近い被塗装物の部分(車体では外板部)との間に高い電圧が印加される一方で、陽極とそれから遠い被塗装物部分(車体では内板部)との間に低い電圧が印加されることになると、その低電圧領域に属する陽極から遠い被塗装物部分においては塗膜析出量が少なくなる。結果、ジルコニウム等(ジルコニウム化合物等)を主成分とした化成処理剤を用いた場合には、リン酸亜鉛処理剤を用いる場合に比べて、低電圧印加領域である陽極から遠い被塗装物部分(車体では内板部)において、塗膜析出量が低下することになる(図3参照)。
【0004】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜を形成する化成処理剤が用いられる場合であっても、低電圧印加領域における被塗装物部分の電着塗装性を向上させることができる金属部材の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)においては、
電着塗装工程前に、化成処理剤を用いて、金属部材の表面に化成皮膜形成処理を行う金属部材の表面処理方法において、
前記化成皮膜形成処理の前工程として、前記金属部材の表面に、電子放出に関連する電子放出関連物質を付着させ、
その上で、前記電子放出関連物質を付着した金属部材の表面に対して少なくとも前記化成皮膜形成処理を行うことにより、最終的な化成皮膜全体のエネルギバンドギャップを、前記化成処理剤のみを用いて形成される場合の化成皮膜のエネルギバンドギャップよりも小さくする構成としてある。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2以下の記載の通りとなる。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明によれば、局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜を形成する化成処理剤が用いられる場合であっても、化成皮膜形成処理の前工程において、金属部材の表面に電子放出関連物質を付着させ、その電子放出関連物質を付着した金属部材の表面に対して少なくとも化成皮膜形成処理を行うことにより、最終的な化成皮膜全体のエネルギバンドギャップを、化成処理剤のみを用いて形成される場合の化成皮膜のエネルギバンドギャップよりも小さくすることから、電着塗装における電圧印加時に、化成皮膜表面に向けて供給できる電子(自由電子)の数を増加させることができ、上記化成皮膜において、局所的な通電部を増加させること(H2Oの還元反応促進)ができる。このため、局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜を形成する化成処理剤が用いられる場合であっても、塗膜の析出が促進され、低電圧印加領域における被塗装物(金属部材)部分の電着塗装性を向上させることができる。
また、化成皮膜形成処理の前工程において、金属部材の表面に電子放出関連物質を付着させることにより、化成皮膜形成処理工程において、電子放出関連物質を化成処理剤に含めて用いる場合に比べて、その化成皮膜形成処理の工程管理(浴安定性、皮膜の析出速度等)を容易にすることができる。
【0007】
請求項2に係る発明によれば、電子放出関連物質として、化成処理剤のみを用いて形成される場合の化成皮膜のエネルギバンドギャップよりも小さいエネルギバンドギャップとされる電子放出物質を用い、最終的な化成皮膜を、化成処理剤のみを用いて形成される化成皮膜内に該電子放出物質を含有されたものとすることから、電着塗装における電圧印加時に、化成皮膜内の電子放出物質に基づき、化成皮膜表面に向けて供給できる自由電子数を増加させることができ、上記化成皮膜において、局所的な通電部を増加させることができる。このため、局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜を形成する化成処理剤が用いられる場合であっても、塗膜の析出が促進され、低電圧印加領域における被塗装物部分の電着塗装性を向上させることができる。
【0008】
請求項3に係る発明によれば、電子放出物質として、金属微粒子、n型半導体微粒子、真性半導体微粒子、導電性有機物微粒子、及び絶縁体微粒子の少なくとも一種を用いることから、化成処理剤のみを用いて形成される場合の化成皮膜のエネルギバンドギャップよりも小さいエネルギバンドギャップを有するこれらの少なくとも一種を利用するとにより、具体的に自由電子数の増加を図って、化成皮膜において、局所的な通電部を増加させることができる(塗膜析出のための水酸イオンの生成促進)。
【0009】
請求項4に係る発明によれば、電子放出物質が、所定のエネルギバンドギャップを超えるエネルギの付与により電子を励起する酸化チタンであることから、化成皮膜の機能の点からは、何等新たな問題を発生させない一方で、その酸化チタンの性質(化成皮膜よりも小さい(低い)エネルギバンドギャップ)を利用して、自由電子数の増加を図り、具体的に、化成皮膜において、局所的な通電部を増加させることができる(塗膜析出のための水酸イオンの生成促進)。
【0010】
請求項5に係る発明によれば、化成処理剤として、主成分がZr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する化合物であって、化成皮膜がZr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する酸化物に形成されるものを用いることから、このような化成処理剤を用いることにより、局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜が形成されることになるが、このような化成処理剤を用いる場合であっても、電着塗装における電圧印加時に、化成皮膜表面に向けて供給できる電子(自由電子)の数を増加させることができ、上記化成皮膜において、局所的な通電部を増加させること(H2Oの還元反応促進)ができる。このため、低電圧印加領域である被塗装物部分において、塗膜析出量が低下することを抑制できる。
しかも同時に、化成皮膜の性質に基づき、富栄養化の防止、化成処理に伴うスラッジの生成防止、耐食性の確保を図ることができる。
【0011】
請求項6に係る発明によれば、電子放出物質として、所定のエネルギバンドギャップを超えるエネルギの付与により励起電子を発生する酸化チタンを用い、化成処理剤として、主成分がZr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する化合物であって、化成皮膜がZr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する酸化物に形成されるものを用い、被塗装物(金属部材)の表面に前記酸化チタンを付着させるに際して、金属部材を、酸化チタン微粒子が10〜500ppmの濃度をもって分散する処理液中に浸漬することから、酸化チタンに基づき低電圧印加領域における被塗装物部分の電着塗装性を向上させつつ、その酸化チタン微粒子の含有に基づき耐食性が許容限度以下になることを確実に防止できる。
【0012】
請求項7に係る発明によれば、処理液中で酸化チタン微粒子を分散状態にするに際して、保護コロイドを用いることから、水溶液中において酸化チタン微粒子を的確に分散状態にできる。
【0013】
請求項8に係る発明によれば、電着塗装工程前に、化成処理剤のみを用いて形成される化成皮膜に電子放出関連物質をドーピングして、最終的な化成皮膜自体を、余剰電子を有するn型半導体として形成することから、電着塗装における電圧印加時に、化成皮膜表面に向けて供給できる自由電子の数を増加させることができ、化成皮膜において、局所的な通電部を増加させること(H2Oの還元反応促進)ができる。このため、この場合においても、塗膜の析出が促進され、低電圧印加領域における被塗装物部分の電着塗装性を向上させることができる。
【0014】
請求項9に係る発明によれば、化成処理剤のみを用いて形成される化成皮膜に電子放出関連物質をドーピングするに際して、該電子放出関連物質として、化成皮膜の価電子数よりも多い物質を用いると共に、化成皮膜形成処理後において、化成処理剤のみを用いて形成される化成皮膜と該化成皮膜内の電子放出関連物質とに対して加熱処理を施すことから、電着塗装工程前に、化成皮膜自体をn型半導体に的確に形成でき、前記請求項8と同等の作用効果を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施形態に係る製造工程を示す工程図。
【図2】電着塗装工程を説明する説明図。
【図3】ZrO2皮膜及びリン酸亜鉛皮膜の塗膜膜厚特性を示す特性図。
【図4】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部を概念的に説明する説明図。
【図5】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部での塗膜の析出を概念的に説明する説明図。
【図6】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部での初期の塗膜析出を概念的に示す平面図。
【図7】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部での中期の塗膜析出を概念的に示す平面図。
【図8】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部での末期の塗膜析出を概念的に示す正面図。
【図9】ZrO2皮膜における各低抵抗部を概念的に説明する説明図。
【図10】ZrO2皮膜における各低抵抗部での塗膜の析出を概念的に説明する説明図。
【図11】ZrO2皮膜における各低抵抗部での初期の塗膜析出を概念的に示す平面図。
【図12】ZrO2皮膜における各低抵抗部での中期の塗膜析出を概念的に示す平面図。
【図13】ZrO2皮膜における各低抵抗部での末期の塗膜析出を概念的に示す正面図。
【図14】TiO2微粒子を含有させたZrO2皮膜、ZrO2皮膜及びリン酸亜鉛皮膜の塗膜膜厚特性を示す特性図。
【図15】ZrO2のエネルギバンドギャップ及びTiO2微粒子のエネルギバンドギャップを説明する説明図。
【図16】TiO2微粒子を含有させたZrO2皮膜の下での塗膜の析出を概念的に説明する説明図。
【図17】吸着工程における処理液中のTiO2微粒子(TiO2コロイド)濃度が、塗膜膜厚(電着特性)及び耐食性に及ぼす影響を示す図。
【図18】耐食性の観点からのTiO2コロイド濃度(ppm)の上限を求めることを説明する説明図。
【図19】第2実施形態に係るn型ZnOを含有させたZrO2皮膜、ZrO2皮膜及びリン酸亜鉛皮膜の塗膜膜厚特性を示す特性図。
【図20】n型ZnOを含有させたZrO2皮膜の下での塗膜の析出を概念的に説明する説明図。
【図21】ZrO2皮膜、n型ZnOを含有させたZrO2皮膜についての電圧非印加時の電流密度分布を示す図。
【図22】ZrO2皮膜についての電圧(1V)印加時の電流密度分布を示す図。
【図23】n型ZnOを共析させたZrO2皮膜についての電圧(1V)印加時の電流密度分布を示す図。
【図24】n型ZnOを含有させたZrO2皮膜について、その皮膜中におけるn型ZnO(半導体成分)の含有割合が、塗膜膜厚(電着特性)及び耐食性に及ぼす影響を示す図。
【図25】耐食性の観点からのn型ZnOの添加量(wt%)の上限を求めることを説明する説明図。
【図26】第3実施形態に係る製造工程を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、金属部材として車体(被塗装物)を例にとり、図面に基づいて説明する。
自動車等の車体Wの塗装においては、図1,図2に示すように、最終工程として、電着塗装工程が行われる。この電着塗装工程は、車体Wに対してカチオン電着塗装(下塗り塗装)を行う工程であり、この電着塗装工程においては、槽T内のカチオン電着塗料31中に車体Wを浸漬(例えば180秒)させ、槽Tを陽極、車体Wを陰極として、その両者T,W間に電圧を印加することにより、車体W面上に塗膜(図1では図示略)が析出される。
【0017】
前記車体Wの塗装においては、図1に示すように、前記電着塗装工程の前工程として、化成皮膜形成処理工程(以下、化成工程という)が行われる。化成皮膜を形成して、塗膜の電着塗装性、密着性、耐食性等を高めるためである。このため、化成工程においては、化成処理剤32が満たされた化成処理槽33が備えられ、その化成処理剤32中に車体Wは浸漬される。
【0018】
上記化成処理剤32としては、主成分として、Zr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する化合物を含み、副成分として、フッ素(エッチング剤)、水溶性樹脂を含むものが用いられる。化成処理剤中への車体Wの浸漬により、車体W上に、主成分として、Zr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する酸化物が含まれる化成皮膜21を形成して、前述の耐食性等を確保するだけでなく、富栄養化の防止、さらには化成処理に伴って廃棄すべきスラッジの生成の抑制を図るためである。すなわち、耐食性、塗膜密着性等が優れている化成皮膜として、従来からリン酸亜鉛系処理剤を用いたリン酸亜鉛皮膜があることは知られているが、そのリン酸亜鉛皮膜を形成するリン酸亜鉛系処理剤を用いた場合には、そのリン酸イオンに基づき富栄養化をもたらされると共に、化成処理に伴って廃棄すべきスラッジが生成される等の問題が発生する。このため、そのような問題点がない上記化成処理剤32が用いられているのである。
【0019】
本実施形態においては、上記化成処理剤32の中でも、ジルコニウム化合物であるH2ZrF6を主成分とするものが用いられ、その化成処理剤32中に車体Wを180秒浸漬することにより、その車体W上に酸化ジルコニウム(以下、ZrO2を用いる)を主成分とした化成皮膜(以下、ZrO2皮膜という)21が形成される。
このZrO2皮膜21の生成について具体的に説明すれば、化成処理剤中においては、副成分としてHF、主成分としてH2ZrF6が含まれ、それらは、(化1)(化2)に示すように、化学平衡の状態にある。
【化1】

【化2】

【0020】
このような状態の化成処理剤32中に車体Wを浸漬すると、(化3)に示すアノード反応が生じ、Fe(車体)のイオン化に伴い電子が放出される。この電子の放出に基づき、(化4)に示すカソード反応が生じ、化成処理剤中のHFの濃度は低下する。このため、前述の(化2)は、(化5)に示すように、化成処理剤中のHFを生成する方向に反応が進み、これに伴い、ZrO2が生成され、それがZrO2皮膜を形成する。
【化3】

【化4】

【化5】

【0021】
しかし、一方で、上記ZrO2皮膜等の化成皮膜21が用いられた場合には、その性質(非結晶性連続皮膜を形成すること)に基づき、その化成皮膜21は、局所的な低抵抗部(体積抵抗率1000(Ω・cm)未満の部分)の数がリン酸亜鉛系処理剤を用いる場合に比べて少ないものとなり、電着塗装における電圧印加時に、化成皮膜21表面(界面)に向けて供給できる電子(自由電子)の数が少ないものとなる(化成皮膜において、局所的な通電部が少なくなる)。このため、塗膜析出量が低下することになる。
【0022】
これについて、ZrO2皮膜21を例にとり、具体的に説明する。電着塗装工程においては、その特性上、図2に示すように、陽極(図2においては槽T)とそれに近い車体Wの外板部との間に高い電圧が印加され、陽極とそれから遠い車体Wの内板部との間に低い電圧が印加されることになり、陽極に近い車体Wの外板部から塗膜が析出を開始することになる。この析出する塗膜は絶縁性を有しており、この塗膜の析出が進行して析出塗膜が増加するに伴い、塗膜の電気抵抗が大きくなる。このため、塗膜が析出した部位での塗膜の析出が低下し、それに代わって、未析出部位への塗膜の析出が始まる。このような電着塗装の下において、ZrO2皮膜(後述のTiO2微粒子等が含有されていないもの)が車体(例えば冷延鋼板)に形成されていると、図3に示すように、リン酸亜鉛皮膜が形成されている場合に比べて、低電圧印加領域(0〜70V付近)では塗膜膜厚が薄くなりすぎ、高電圧印加領域(70V以上)では塗膜膜厚が厚くなりすぎる特性を示す。このため、高電圧印加領域に属する陽極に近い車体Wの外板部においては、塗膜の膜厚が、リン酸亜鉛皮膜の場合の塗装膜厚よりもかなり厚くなり、低電圧印加領域に属する陽極から遠い車体Wの内板部においては、塗膜の膜厚がリン酸亜鉛皮膜の場合の塗装膜厚よりもかなり薄くなり、ZrO2皮膜21をそのまま使用した場合には、その塗膜の付き回り性は、リン酸亜鉛皮膜の場合よりも劣ることになる。
【0023】
本件発明者は、上記問題となる現象について、研究、検討した結果、次のような結論を得た。
(1)リン酸亜鉛皮膜の場合には、図4に示すように、リン酸亜鉛系処理剤で鋼板S表面(車体W表面)を処理すると、尖った形状が隣り合うようにして並ぶ結晶性リン酸亜鉛皮膜1が形成されることになり、多数の低抵抗部(隣り合う尖った形状の境目空間下部(体積抵抗率1000(Ω・cm)未満の部分)2が形成される。このため、電子が各低抵抗部2に移動し、鋼板S表面で電気分解が起きて水酸イオンが生じ、その水酸イオンにより塗料に水溶性を与えている酸が中和され、それに基づき、図5に示すように、塗膜Fが鋼板S表面に析出・沈着される。この結果、低電圧領域に属する陽極から遠い車体部分であっても、鋼板S表面上に塗膜Fが形成されることが促進される。
これに対して、ZrO2皮膜21の場合には、図9に示すように、化成処理剤で鋼板Sを化成処理すると、ZrO2皮膜として、フラットな非結晶性連続膜が形成されることになり、そのZrO2皮膜21には、局所的な低抵抗部22(体積抵抗率1000(Ω・cm)未満の部分)が形成されるものの、その数はリン酸亜鉛被膜に比べて極めて少ない。このため、このZrO2皮膜では通電し難く、低電圧領域に属する陽極から遠い車体W部分における塗膜析出量は少ない。
【0024】
(2)ZrO2皮膜21における数少ない局所的な各低抵抗部22の抵抗が、リン酸亜鉛皮膜1における低抵抗部2の抵抗よりも高くなっている。このため、このZrO2皮膜21においては、ある程度以上の電圧が印加されない限り通電せず、低電圧領域に属する陽極から遠い被塗装物部分では、図10に示すように(比較として図5参照)、リン酸亜鉛皮膜1の場合に比べて、塗膜Fが析出し難い。
【0025】
(3)その一方、ZrO2皮膜21における最大抵抗部(皮膜の厚みが最も厚い部分(50nm程度):図9参照)23が、抵抗に関し、リン酸亜鉛皮膜1の最大抵抗部(尖った先端部分(1〜2μm程度):図4参照)3よりも小さい。このため、高電圧印加領域においては、ZrO2皮膜21の方が、リン酸亜鉛皮膜1よりも方々で塗膜Fが析出することになり、高電圧領域に属する陽極に近い車体Wの外板部においては、塗膜Fの膜厚が、リン酸亜鉛皮膜1の場合の塗装膜厚よりもかなり厚くなる。図6、図7、図11、図12は、上記内容を概念的に示したもので、図6、図7は、化成皮膜がリン酸亜鉛皮膜1である場合における高電圧領域の初期、中期現象を概念的に示し、図11、図12は、化成皮膜がZrO2皮膜21である場合における高電圧領域の初期、中期現象を概念的に示している。
【0026】
(4)また、リン酸亜鉛皮膜1の各低抵抗部2の大きさ(空間の大きさ)は小さい。このため、その各低抵抗部2で電気分解が起きて水酸イオンが生じ、その水酸イオンにより塗料に水溶性を与えている酸が中和され、塗膜Fが析出すると、図8に示すように、その塗膜Fにより各低抵抗部2(の空間)は容易に埋められる。
これに対して、ZrO2皮膜21における数少ない局所的な各低抵抗部22は、薄く且つリン酸亜鉛皮膜1の低抵抗部2よりも大きい(広い)。このため、その大きな低抵抗部22に電荷が集中し、水酸イオン、水酸イオンによる塗料に水溶性を与えている酸の中和過程を経て塗膜Fが析出するも、その大きな低抵抗部22は、図13に示すように、塗膜Fにより容易には埋まらない。このため、鋼板S上への塗膜の析出に基づき抵抗が大きくならず、陽極に近い車体Wの外板部においては、塗膜Fの析出し続け、その塗膜の膜厚は、リン酸亜鉛皮膜1の場合の塗装膜厚よりもかなり厚くなる。これに伴い、陽極から遠い車体Wの内板部には、もともと電子が移動しにくいことに加えて、上記観点からも移動しないことになり、そこでは、容易には、塗膜Fは析出しない。
【0027】
このような結論に基づき、図1に示すように、脱脂工程(脱脂槽37内の脱脂液38中に車体Wを、例えば180秒間、浸漬して、車体Wに付着した油分及び塵埃等を除去する工程)後であって前記化成工程前に、化成処理剤32のみを用いて形成される場合の化成皮膜21のエネルギバンドギャップ(以下、バンドギャップという)よりも小さいバンドギャップとされる電子放出物質34を車体Wに吸着(付着)させる吸着工程が行われる。この後の化成工程において、化成処理剤32によりZrO2皮膜等の化成皮膜21が形成されても、最終的な化成皮膜全体(電子放出物質34含有)のバンドギャップを、化成処理剤32のみを用いて形成される場合の化成皮膜21のバンドギャップよりも小さくすることにより、前述の問題点(塗膜の付き回り性低下)等を生じないようにするためである。具体的には、耐食性等の基本機能に関しては、大部分を占める化成皮膜21(電子放出物質34は極めて少ないこと)の性質に基づき確保し、陽極に近い車体Wの外板部での過剰な塗膜Fの析出に関しては、化成皮膜21内への電子放出物質34の含有に基づく化成皮膜成分の割合の相対的な減少により減らし、陽極から遠い車体Wの内板部における塗膜Fの析出に関しては、化成皮膜21内への電子放出物質34(小さいバンドギャップ)の含有に基づく、車体W上の化成皮膜21表面(界面)に向う自由電子の増加(通電部の増加)により促進し(電着塗装時における電圧印加時)、これにより、低電圧印加領域である陽極から遠い車体Wの内板部の電着塗装性を向上させようとしている。
【0028】
このため、吸着工程においては、車体W上に上記電子放出物質34を吸着させるべく、その電子放出物質34を分散した状態で含有する処理液35を満たす吸着処理槽36が備えられており、その処理液中に車体Wが浸漬される。
上記電子放出物質34としては、金属微粒子、n型半導体微粒子、真性半導体微粒子、導電性有機物微粒子、及び絶縁体微粒子の少なくとも一種が用いられることになっており、それらのいずれのバンドギャップも、化成皮膜21のバンドギャップ(ZrO2:約5〜8eV)よりも小さいものとなっている。具体的には、金属微粒子としては、Mg,Al,Ca,Co,Ni,Cu,Zn等(バンドギャップ:0eV)を用いることが好ましく、n型半導体微粒子としては、n型ZnO等(バンドギャップ:約2eV以下)を用いることが好ましい。また、導電性有機物微粒子としては、ポリアニリン、金属を有機物で保護した粒子等(バンドギャップ:ほぼ0eV)を用いることが好ましく、絶縁体微粒子としては、ZnO、TiO2等の酸化物(バンドギャップ:2〜3eV)を用いることが好ましい。また、これら微粒子の平均粒子径としては、100nm以下が好ましく、20〜50nmがより好ましい。
【0029】
本実施形態においては、上記電子放出物質34として、絶縁体微粒子としての酸化チタン(TiO2)微粒子が用いられる。これは、化成工程で形成される化成皮膜21内において、その前の吸着工程で車体Wに吸着されたTiO2微粒子を含有させた状態で用いても、化成皮膜の耐食性等の機能の点からは、何等新たな問題を発生しない一方で、電着塗装工程における電圧印加時に、ZrO2皮膜21のバンドギャップ(約5eV)よりも小さいバンドギャップとされるTiO2微粒子の性質(バンドギャップ:3.0〜3.2eV)に基づき、電子を積極的に励起させて自由電子の数を増加させ(化成皮膜において、局所的な通電部を増加させること)、塗膜析出のための水酸イオンの促進を図ることができるからである。このため、吸着工程における吸着処理槽36の処理液35は、pH6〜10、処理液35の温度10〜40℃とされ、その処理液35中には、TiO2微粒子が10〜500ppmの濃度(後述のTiO2コロイド濃度)をもって分散されている。このとき、処理液35中でTiO2微粒子の分散状態を維持すべく、保護コロイド(親水コロイド)が用いられており、その保護コロイドとして、本実施形態においては、ヒドロキシエチルメタクリレートが用いられている。この保護コロイドとTiO2微粒子との重量比は、保護コロイド:TiO2微粒子=1:9とされており、TiO2微粒子の分散のために保護コロイドが用いられていても(以下、保護コロイドが付着したTiO2微粒子をTiO2コロイドという)、その濃度(保護コロイドが付着したTiO2微粒子濃度(以下、TiO2コロイド濃度という)は、実質上、TiO2微粒子の濃度を示すことになる。
【0030】
また、この吸着工程において、車体Wが吸着処理槽36の処理液35中に10〜600秒の範囲(本実施形態においては30秒)で浸漬されるように設定されており、その浸漬により所定量のTiO2微粒子が車体Wに吸着されることになっている。この吸着には、TiO2微粒子と車体Wとの間で、共有結合が利用されており、この後工程である前記化成工程における化成処理槽33に浸漬する際に、TiO2微粒子が車体Wから脱離することはない。
【0031】
これにより、このような吸着工程を経て化成工程が行われると、最終的な化成皮膜として、TiO2微粒子を含有するZrO2皮膜21が車体W上に形成されることになり、その塗膜膜厚特性(電着特性)は、リン酸亜鉛皮膜1の塗装膜厚特性に近づくことになる。この結果、このような最終的なZrO2皮膜を形成することにより、富栄養化、スラッジ生成の問題を引き起こさないようにできることは勿論、耐食性及び電着塗装性をも満足させることができることになる。
【0032】
また、前述の問題(高電圧印加領域に属する陽極に近い被塗装物部分において、塗膜の膜厚が、リン酸亜鉛皮膜の場合の塗装膜厚よりもかなり厚くなり、低電圧印加領域に属する陽極から遠い被塗装物部分においては、塗膜の膜厚がリン酸亜鉛皮膜の場合の塗装膜厚よりもかなり薄くなること)に関し、ZrO2皮膜(金属微粒子、n型半導体微粒子、真性半導体微粒子、導電性有機物微粒子、及び絶縁体微粒子を含有せず)における各低抵抗部22の大きさを何らかの方法で小さくしてその各低抵抗部22に電荷が集中しないようにすることが考えられる。しかし、このように各抵抗部22の大きさを小さくした場合には、皮膜の厚みが厚くなって塗膜の析出開始電圧をさらに高くしなければ、塗膜は析出しなくなる。これに対して、ZrO2皮膜21の内部で、金属微粒子、n型半導体微粒子、真性半導体微粒子、導電性有機物微粒子、及び絶縁体微粒子の少なくとも一種が含有されているものにおいては、各抵抗部22は大きいものの、電圧印加時に電子の供給が増加(通電部が増加)することになり、大きな各低抵抗部22への電荷の集中を回避できる。このため、この観点からも、前記問題点を解消(ZrO2皮膜21の塗膜膜厚特性をリン酸亜鉛皮膜1の塗装膜厚特性に近づけること)できる。
【0033】
図14は、上記内容を裏付けるべく、化成被膜として、TiO2微粒子を含有させたZrO2被膜21を用いた場合における塗膜膜厚特性を示したものである。この場合、試験車体としては、吸着工程において、Tiコロイドを含有する処理液35中に浸漬され、その後、化成工程において、化成処理剤中に浸漬されたものが用いられた。具体的な試験条件は、下記に示す通りである。
(1)吸着工程
TiO2コロイド濃度(TiO2:保護コロイド=9:1(重量比)):50ppm
処理液のpH:9
処理液の温度:30℃
試験車体の浸漬時間:30秒
TiO2 の特性
体積抵抗率:20〜200(Ω・cm)
比表面積:30〜50(m2/g)
平均粒子径(1次粒子径):30〜50(nm)
(2)化成工程
化成処理剤の組成:ジルコニウム酸(H2ZrF6)、フッ酸(HF)、水溶性樹脂
化成処理剤のpH:4
試験車体の浸漬時間:180秒
化成処理剤温度(浴温度):30℃
【0034】
この図14の結果によれば、TiO2微粒子を含有させたZrO2皮膜21(開発皮膜)の塗膜膜厚特性(電着特性)は、リン酸亜鉛皮膜1の塗装膜厚特性に近づくことになった。これは、図15のバンドギャップの説明図、図16の概念図に示すように、最終的な化成被膜として、TiO2を含有させたZrO2被膜21を用いた場合には、電圧印加時に、TiO2微粒子において電子が励起されて、自由電子の数が増加(局所的な通電部が増加)し、塗膜(樹脂)Fが鋼板S表面に析出することが促進されたためと考えられる。この場合、自由電子数を増加させる印加電圧は、腐食における電圧(例えば1V程度)よりも大きくなるように設定することが好ましい。尚、図16中、符号Pは、酸により水溶性を与えられた塗料を示す。
【0035】
図17は、前記TiO2微粒子を含有させたZrO2皮膜21について、その皮膜中におけるTiO2微粒子の含有割合が、塗膜膜厚(電着特性)及び耐食性に及ぼす影響を示したものである。
図17によれば、吸着工程での処理液中のTiO2コロイド濃度(実質上のTiO2微粒子濃度(ppm))が高いものに浸漬するほど、塗膜膜厚が厚くなることを示し、耐食性に関しては、TiO2コロイド濃度(ppm)が一定値まで許容できるものの、その一定値を超えると、耐食性に問題が生じることになった。
この場合、吸着工程での各処理液35のいずれの場合も、吸着処理槽36への車体Wの浸漬時間は30秒、吸着処理槽内の液温(浴温)は30℃、pH9とした。またこの場合、耐食性に関しては、CCT(CCT1サイクル≒JISK5600−7−9サイクルAの3サイクル)60サイクル後の塗膜F膨れ率(%)を測定した。
【0036】
図18は、耐食性の観点からのTiO2コロイド濃度(ppm)の上限を求めた内容を示している。すなわち、図18に、図17から、TiO2コロイド濃度(ppm)とCCT60サイクル後の塗膜F膨れ率(%)との関係を示し、その関係から、塗膜膨れ率30(%)を耐食性の許容限界(基準値)として、TiO2コロイド濃度(ppm)の上限を求めている。この場合、塗膜膨れ率30(%)を耐食性の許容限界(基準値)としているが、これは、自動車ボディ外板の穴あき錆保証の主流が12年となっており、その保証については、塗膜F膨れ率30(%)未満であれば満足することが実績を通じて確認されていることが根拠となっている。ここで、CCT1サイクル≒JISK5600−7−9サイクルAの3サイクルである。
図18によれば、耐食性の許容限界における吸着工程における液中のTiO2コロイド濃度が、500ppmであることを示し、耐食性を確保するためには、TiO2コロイド濃度を500ppm以下にする必要があることを示した。その一方、下限値に関しては、必要塗膜膜厚確保の観点から、10ppm以上とする必要がある。
【0037】
図19〜図25は第2実施形態、図26は第3実施形態を示す。この各実施形態において、前記第1実施形態と同一構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
【0038】
図19〜図25に示す第2実施形態は、吸着工程で吸着させる電子放出物質として、n型半導体微粒子であるn型ZnOを用い、それを化成工程を経ることによりZrO2皮膜21内に含有させたもの(開発皮膜)を示している。この場合、ZrO2皮膜21内へのn型ZnOの含有量は、5.6質量%、そのn型ZnOとしては、下記のものを用いた。
組成:Ga−Doped ZnO
体積抵抗率:20〜100(Ω・cm)
比表面積:30〜50(m2/g)
平均粒子径(1次粒子径):20〜40(nm)
【0039】
この図19の結果によれば、n型ZnO(半導体微粒子)を含有させたZrO2皮膜の塗膜膜厚特性(電着特性)は、リン酸亜鉛皮膜1の塗装膜厚特性に近づくことになった。これは、図20の概念図に示すように、化成被膜として、n型ZnOを含有させたZrO2被膜21を用いた場合には、電圧印加時に、自由電子数が増加(局所的な通電部が増加)して、塗膜(樹脂)Fが鋼板S表面に析出することが促進されたためと考えられる。この場合、自由電子の数を増加させる印加電圧は、腐食における電圧(例えば1V程度)よりも大きくなるように設定することが好ましい。尚、図20中、符号Pは、酸により水溶性を与えられた塗料を示す。
【0040】
図21〜図23は、ZrO2皮膜21(n型ZnO含有せず)、上記n型ZnOを含有させたZrO2皮膜21について、走査振動電極法(SVET)を用いて皮膜表面の電流密度分布を測定した結果を示したものである。図21は、従来のZrO2皮膜、n型ZnOを含有させたZrO2皮膜についての電圧非印加時の電流密度分布を示す。この場合には、いずれについても、電流は検出されず、同じ状態となった。図22は、ZrO2皮膜についての電圧(1V)印加時の電流密度分布を示す。この場合にも、電流は検出されなかった。図23は、上記n型ZnOを含有させたZrO2皮膜21についての電圧(1V)印加時の電流密度分布を示す。この場合には、図23に示すように、電流が検出された。これにより、n型ZnOが自由電子の数の増加(局部的な通電部の増加)に貢献し、n型ZnOにより塗膜Fの析出が促進されることが確認された。
【0041】
図24は、前記n型ZnOを含有させたZrO2皮膜21について、その皮膜中におけるn型ZnO(半導体成分)の含有割合が、塗膜膜厚(電着特性)及び耐食性に及ぼす影響を示したものである。図24によれば、塗膜膜厚(電着特性)に関しては、n型ZnOの添加量(wt%)が増加するほど塗膜膜厚が厚くなることを示し、耐食性に関しては、n型ZnOの添加量(wt%)が一定値まで許容できるものの、その一定値を超えると、耐食性に問題が生じることになった。この場合、耐食性に関しては、CCT(CCT1サイクル≒JISK5600−7−9サイクルAの3サイクル)60サイクル後の塗膜F膨れ率(%)を測定した。
【0042】
図25は、耐食性の観点からのn型ZnOの添加量(wt%)の上限を求めた内容を示している。すなわち、図25に、図24から、n型ZnOの添加量(wt%)とCCT60サイクル後の塗膜F膨れ率(%)との関係を示し、その関係から、塗膜膨れ率30(%)を耐食性の許容限界(基準値)として、n型ZnOの添加量(wt%)の上限を求めている。この場合、塗膜膨れ率30(%)を耐食性の許容限界(基準値)としているが、これは、自動車ボディ外板の穴あき錆保証の主流が12年となっており、その保証については、塗膜F膨れ率30(%)未満であれば満足することが実績を通じて確認されていることが根拠となっている。ここで、CCT1サイクル≒JISK5600−7−9サイクルAの3サイクルである。図25によれば、耐食性の許容限界におけるn型ZnOの添加量が、8.2wt%であることを示し、耐食性を確保するためには、n型ZnOの添加量を8.2wt%以下にする必要があることを示した。
【0043】
図26に示す第3実施形態は、電着塗装工程前までに、吸着工程において吸着した電子放出関連物質を化成皮膜にドーピングして、化成皮膜自体をn型半導体に形成する内容を示している。このため、この第3実施形態においては、電子放出関連物質として、化成皮膜(Zr)よりも価電子数が多いものが用いられ、それが、吸着工程で車体Wに吸着される。そして、その車体Wは、化成工程を経た後であって電着塗装工程前に、加熱(アニール処理)され(加熱工程)、上記電子放出関連物質は化成皮膜にドーピングされる。具体的な製造条件は、下記に示す通りである。
製造条件
(i)電子放出関連物質:酸化物が半導体となる金属としてTi,Zn、酸素との置換でn型となるものとしてF,Cl等のハロゲン、Zrとの置換でn型となるものとしてP,As等の5族に属するもの
(ii)加熱(アニール処理)工程の条件:400〜800℃
これによっても、電着塗装工程の電圧印加時に、化成皮膜において、自由電子を増加させることができ、車体Wの内板部の電着塗装性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0044】
21 ZrO2皮膜
22 ZrO2皮膜の低抵抗部
32 化成処理剤
34 電子放出物質(電子放出関連物質)
S 鋼板
W 車体



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗装工程前に、化成処理剤を用いて、金属部材の表面に化成皮膜形成処理を行う金属部材の表面処理方法において、
前記化成皮膜形成処理の前工程として、前記金属部材の表面に、電子放出に関連する電子放出関連物質を付着させ、
その上で、前記電子放出関連物質を付着した金属部材の表面に対して少なくとも前記化成皮膜形成処理を行うことにより、最終的な化成皮膜全体のエネルギバンドギャップを、前記化成処理剤のみを用いて形成される場合の化成皮膜のエネルギバンドギャップよりも小さくする、
ことを特徴とする金属部材の表面処理方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記電子放出関連物質として、前記化成処理剤のみを用いて形成される場合の化成皮膜のエネルギバンドギャップよりも小さいエネルギバンドギャップとされる電子放出物質を用い、前記最終的な化成皮膜を、該化成処理剤のみを用いて形成される化成皮膜内に該電子放出物質を含有されたものとする、
ことを特徴とする金属部材の表面処理方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記電子放出物質として、金属微粒子、n型半導体微粒子、真性半導体微粒子、導電性有機物微粒子、及び絶縁体微粒子の少なくとも一種を用いる、
ことを特徴とする金属部材の表面処理方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記電子放出物質が、所定のエネルギバンドギャップを超えるエネルギの付与により電子を励起する酸化チタンである、
ことを特徴とする金属部材の表面処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、
前記化成処理剤として、主成分がZr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する化合物であって、化成皮膜がZr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する酸化物に形成されるものを用いる、
ことを特徴とする金属部材の表面処理方法。
【請求項6】
請求項2において、
前記電子放出物質として、所定のエネルギバンドギャップを超えるエネルギの付与により電子を励起する酸化チタンを用い、
前記化成処理剤として、主成分がZr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する化合物であって、化成皮膜がZr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を有する酸化物に形成されるものを用い、
前記金属部材の表面に前記酸化チタンを付着させるに際して、該金属部材を、酸化チタン微粒子が10〜500ppmの濃度をもって分散する処理液中に浸漬する、
ことを特徴とする金属部材の表面処理方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記処理液中で酸化チタン微粒子を分散状態にするに際して、保護コロイドを用いる、
ことを特徴とする金属部材の表面処理方法。
【請求項8】
請求項1において、
前記電着塗装工程前に、前記化成処理剤のみを用いて形成される化成皮膜に前記電子放出関連物質をドーピングして、前記最終的な化成皮膜自体を、余剰電子を有するn型半導体として形成する、
ことを特徴とする金属部材の表面処理方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記化成処理剤のみを用いて形成される化成皮膜に前記電子放出関連物質をドーピングするに際して、該電子放出関連物質として、化成皮膜の価電子数よりも多い物質を用いると共に、前記化成皮膜形成処理後において、該化成処理剤のみを用いて形成される化成皮膜と該化成皮膜内の前記電子放出関連物質とに対して加熱処理を施す、
ことを特徴とする金属部材の表面処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−52296(P2011−52296A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203999(P2009−203999)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】