説明

金属酸化物の還元方法,水素製造方法および水素貯蔵装置

【課題】従来よりもコストを低減できる金属酸化物の還元方法,水素製造方法および水素貯蔵装置を提供する。
【解決手段】還元工程〔例えばFe23+3H2→2Fe+3H2O〕によって生成される水蒸気(水)は、水分除去工程〔例えばCaO+H2O→Ca(OH)2〕によって除去される。こうして水蒸気(水)が除去されるので、還元反応が阻害されることなく進行する。したがって、水素の貯蔵や製造等を行うにあたって動力源や水を除去するための冷却器および加熱器などが不要になるので、従来よりもコストを低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物の還元方法,水素製造方法および水素貯蔵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、金属酸化物を還元ガスで還元することによって金属と水(水蒸気を含む。特に明示しない限り、本明細書において以下同じ。)とを生成する技術の一例が開示されている(例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2004−359536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば酸化鉄を水素(特に明示しない限り、本明細書では「水素ガス(H2)」を意味する。)で還元すると、鉄と水蒸気が生成される。このとき水素の全てが還元反応に寄与するとは限らず、未反応の水素が残存してしまう。残存した未反応の水素を再利用するためには、還元反応を阻害する水蒸気を除去する必要がある。具体的には、未反応の水素を循環させるためのブロワー等の動力源や、水蒸気を除去するために冷却器および加熱器等が別個に必要である。このように動力源や水蒸気を除去するための冷却器および加熱器が別個に必要な点でコストが嵩んでいた。
【0004】
また、還元反応で生成した水蒸気をすぐに除去しなければ、同じく還元反応で生成した鉄と再反応が起こって平衡状態になって還元反応が進行し難くなる。この状況の下で還元反応を強制的に進行させるには、純粋な水素を供給し続ければよい。ところが再反応が無い場合と同一重量の鉄を生成するには、当該再反応が無い場合に必要な水素量の約30倍が必要となる。このように過剰な水素が必要な点でコストが嵩んでいた。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、従来よりもコストを低減できる金属酸化物の還元方法,水素製造方法および水素貯蔵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)課題を解決するための手段(以下では単に「解決手段」と呼ぶ。)1は、金属酸化物の還元方法であって、還元ガス(例えば水素)と金属酸化物とを反応させて金属と水を生成する還元工程と、前記還元工程で生成した水(水蒸気を含む)を第一属元素の酸化物(一般式はM2O)または第二属元素の酸化物(一般式はMO)と反応させて除去する水分除去工程とを有することを要旨とする。
【0007】
第一属元素は、水素(H)を除いた第一属の元素を意味し、リチウム(Li),ナトリウム(Na),カリウム(K),ルビジウム(Rb),セシウム(Cs)などが該当する。第二属元素は、ベリリウム(Be),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba),ラジウム(Ra)などが該当する。
【0008】
解決手段1によれば、還元工程によって生成される水は、水分除去工程によって除去される。こうして水が除去されるので、還元反応が阻害されることなく進行する。したがって、水素の貯蔵や製造等を行うにあたって動力源や水を除去するための冷却器および加熱器などが不要になるので、従来よりもコストを低減することができる。
なお還元反応を円滑に進行させるため、還元工程と水分除去工程を同時並行させたり、反応前に金属酸化物と第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物とを予め混合しておくのが望ましい。
【0009】
(2)解決手段2は、解決手段1に記載した金属酸化物の還元方法であって、水と第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物との反応によって生じた水酸化物を反応時よりも高温で熱して脱水する脱水工程を有することを要旨とする。
【0010】
解決手段2によれば、水分除去工程によって水酸化物が生じるものの、水分除去工程の反応時よりも高温で熱すれば、水酸化物は脱水して元の第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物に戻る。このように高温で熱するだけで酸化物を再利用できるので、資源の有効利用を図れる。
【0011】
(3)解決手段3は、水素製造方法であって、解決手段1または2に記載した還元工程および水分除去工程と、前記還元工程によって還元された金属に水を反応させて水素を発生させる水素発生工程とを有することを要旨とする。
【0012】
解決手段3によれば、還元工程および水分除去工程によって水素を貯蔵することができ、当該貯蔵した水素を水素発生工程によって製造する(取り出す)ことができる。したがって、解決手段1と同様に、従来よりもコストを低減することができる。
【0013】
(4)解決手段4は、反応容器を有し、外部から供給される還元ガスに構成される水素を貯蔵する水素貯蔵装置であって、前記反応容器内に収容され、前記還元ガスとの還元反応によって金属と水とに分離するナノサイズ微粒子の金属酸化物と、前記反応容器内に収容され、前記還元ガスとの還元反応によって分離した水を化学反応により除去する第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物とを有することを要旨とする。
【0014】
解決手段4によれば、金属酸化物を還元ガスで還元すると金属とともに水が生成されるが、当該水は第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物と反応して水酸化物になる。こうして水が生成される都度に除去も行われるので、還元反応が阻害されることなく進行する。したがって、水素の貯蔵や製造等を行うにあたって動力源や水を除去するための冷却器および加熱器などが不要になるので、従来よりもコストを低減することができる。
【0015】
(5)解決手段5は、解決手段4に記載した水素貯蔵装置であって、水と第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物との反応によって生じた水酸化物を、反応時よりも高温で熱する加熱器を有することを要旨とする。
【0016】
解決手段5によれば、第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物と反応して生じた水酸化物は、加熱器によって当該反応時よりも高温で熱すれば脱水して元の第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物に戻る。このように高温で熱するだけで酸化物を再利用できるので、資源の有効利用を図れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水素の貯蔵や製造等を行うにあたって動力源や水を除去するための冷却器および加熱器などが不要になるので、従来よりもコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお本形態は、「第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物」として第二属元素の酸化物に含まれる酸化カルシウム(CaO)を適用し、「水素の供給対象」を燃料電池自動車とした例である。
【0019】
まず図1には、水素貯蔵装置に相当する水素製造ステーションの構成例を模式的にブロック図で表す。この水素製造ステーション10は、制御盤12、温度センサ16、反応容器28、ヒーター25,34、制御弁38、冷却器20,32、ブロア15、分離器22,36、貯水槽40、ポンプ24、圧力センサ35,39、流量センサ44、ディスペンサー42などを有する。
【0020】
反応容器28は、酸化鉄(具体的には三酸化二鉄;Fe23)および酸化カルシウム(CaO)を混合した状態で内部に予め収容しておき、還元反応,酸化反応,脱水等を行う。なお、上記酸化鉄の元となる鉄(Fe)には、比表面積を大きくして反応を促進させるとともに、貯蔵可能な水素量を多くするためにナノサイズ微粒子のものを用いる。
【0021】
制御盤12は水素製造ステーション10の全体を司り、還元工程,水分除去工程,脱水工程,水素発生工程等の制御を行う。具体的には、反応容器28内の温度や、電磁弁14,18,26,30の開閉、制御弁38の開口度などを個別に制御する。加熱器に相当するヒーター34は反応容器28を加熱する。温度センサ16は、反応容器28内の温度を計測して制御盤12に伝達する。冷却器20,32は、反応容器28から出た物質(具体的には水蒸気や水素)を冷やす。分離器22は水と水素とに分離し、分離した水を貯水槽40に送り、分離した水素をブロア15およびヒーター25を経て反応容器28に戻す。分離器36は水素と水とに分離し、水素を制御弁38に送り、水を貯水槽40に送る。分離器22で分離された水は、必要に応じて外部等から供給された水とともに、貯水槽40に貯められる。こうして貯水槽40に貯められた水は、酸化反応に用いる際にポンプ24で揚水されて反応容器28に送られる。
【0022】
制御弁38は、反応容器28から燃料電池自動車46に供給する水素の圧力や流量等を制御する。圧力センサ35は、反応容器28内の圧力を計測して制御盤12に伝達する。圧力センサ39と流量センサ44は、ディスペンサー42内に備えられている。圧力センサ39は、燃料電池自動車46に供給した水素の圧力を計測して制御盤12に伝達する。流量センサ44は、燃料電池自動車46に供給する水素の流量(すなわち単位時間当たりの供給量)を計測して制御盤12に伝達する。
【0023】
上述した各要素を繋ぐ配管の構成例を簡単に説明する。まず、供給源から供給される水素はヒーター25で熱せられた後、電磁弁26を経て反応容器28に送られるように配管する。反応容器28と貯水槽40との間は、反応容器28から貯水槽40に向かう第1系統と、貯水槽40から反応容器28に向かう第2系統とに分かれる。第1系統では、反応容器28で発生した水蒸気等が電磁弁18,冷却器20,分離器22を経て、貯水槽40に送られるように配管する。第2系統では、貯水槽40に貯まっている水がポンプ24で揚水され、電磁弁14を経て反応容器28に送られるように配管する。
【0024】
一方、反応容器28と燃料電池自動車46との間は、反応容器28で発生した水素等が順番に電磁弁30,冷却器32,圧力センサ35,分離器36,制御弁38およびディスペンサー42を経て燃料電池自動車46に供給されるように配管する。
【0025】
次に、供給源から供給される水素を水素製造ステーション10で貯蔵し、燃料電池自動車46に供給するまでの工程について図2〜図4を参照しながら説明する。ここで、図2では反応容器28に「(還元)」で表すように還元反応を行う工程であり、図4では反応容器28に「(酸化)」で表すように酸化反応を行う工程である。また図3は、還元反応における還元速度を表すグラフである。
【0026】
図2において、制御盤12は還元反応(還元工程および水分除去工程)を行うにあたって、電磁弁18,26を開け、かつ電磁弁14,30を閉めるように制御する。供給源から供給される水素は、図中太線で表すようにヒーター25から電磁弁26を経て反応容器28に送り込まれる。水素が送り込まれているときの反応容器28の内部は、低圧(例えば大気圧程度等)かつ反応温度(すなわち還元温度や酸化温度等)の雰囲気に調整されている。反応容器28内に収容されている酸化鉄および酸化カルシウムに対して、供給源から送り込まれてきた水素を接触させると、次に示す化1式に従って鉄(Fe)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)とに分離される。
【0027】
化1式の還元反応は、詳しくみれば化2式(還元工程)と化3式(水分除去工程)とがほぼ同時に進行しているものと考えられる。すなわち化2式は、酸化鉄と水素とが反応して、鉄と水蒸気(H2O)とに分離する反応である。化3式は、化2式で生成した水蒸気と酸化カルシウムとが反応して、水酸化カルシウムが生成される反応である。
【0028】
〔還元反応式〕
Fe23+3H2+3CaO→2Fe+3Ca(OH)2…(化1)
Fe23+3H2→2Fe+3H2O………………………(化2)
CaO+H2O→Ca(OH)2 ……………………………(化3)
【0029】
化1式の還元反応に従って鉄と水酸化カルシウムのみを生成できれば理想的であるが、実際には化2式の反応で生じた水蒸気が化3式の反応に用いられずに残る場合もある。この残留水蒸気が後述する化4式の酸化反応に用いられると、化1式の還元反応を阻害する。そこで残留水蒸気は、図中太線で表すように電磁弁18,冷却器20および分離器22を経て、再利用を可能とするべく水の状態で貯水槽40に貯める。
また、反応容器28から排出されるのは水蒸気だけでなく未反応の水素が混じる場合もある。そこで、未反応の水素を分離器22で分離してブロア15で送り出し、ヒーター25の前(すなわち供給源とヒーター25との間)に戻す。こうして戻した水素は再び化1式の還元反応に用いることができるので、無駄を少なく抑えることができる。
【0030】
ここで、化1式の還元反応による鉄の還元速度を図3に表す。図3では、縦軸を反応率とし、横軸を時間として、酸化カルシウムの添加量を変えて反応させた変化を表す。ただし、還元温度を400℃とし、水素は200[ml/min]で供給した例である。
図中、●印は酸化カルシウムを添加していない場合(0モル)の変化である。同じく、◆印は酸化カルシウムを0.5モル添加した場合の変化である。▲印は酸化カルシウムを1.0モル添加した場合の変化である。■印は酸化カルシウムを3.0モル添加した場合の変化である。×印は酸化カルシウムを4.0モル添加した場合の変化である。
【0031】
反応率は、1モルの酸化鉄(Fe23)が全て鉄(Fe)になったときを「1.0」と定義する。反応率が0.9に達するのに要する時間は、酸化カルシウムを添加していない場合(●印)で1100秒程度かかっている。これに対して、酸化カルシウムを0.5モル添加した場合(◆印)で550秒程度、1.0モル添加した場合(▲印)で450秒程度、3.0モル添加した場合(■印)で350秒程度、4.0モル添加した場合(×印)で750秒程度それぞれかかっている。酸化カルシウムを添加すれば、添加しない場合と比べて還元速度が2倍から3倍強に向上している点が明らかである。
【0032】
次に図4において、制御盤12は酸化反応を行わせるにあたって、電磁弁14,30を開け、かつ電磁弁18,26を閉めるように制御する。制御弁38は、始めに閉じておき、圧力センサ35で計測した圧力が所望の圧力(例えば10メガパスカル等)に達すると開け、その後は所望の圧力を維持するように弁開度を制御する。水素は、所望の圧力を超えた分が制御弁38やディスペンサー42等を経て燃料電池自動車46に供給される。供給時に流量センサ44で計測される水素の流量は、燃料電池自動車46のタンクが空のときに最大となり、満杯に近づくにつれて小さくなってゆく。
【0033】
貯水槽40に貯められている水は、図中太線で表すようにポンプ24で揚水されて反応容器28に送られる。水が送り込まれているとき、制御盤12は温度センサ16によって計測された温度に基づいて、酸化温度(例えば300℃程度)になるようにヒーター34の加熱量を制御する。還元された鉄と送り込まれてきた水とを接触させると、次に示す化4式の酸化反応に従って酸化鉄(四酸化三鉄;Fe34)と水素とに分かれる。なお、反応容器28内には上記化1式に従って鉄のほかに水酸化カルシウムも存在するが、この水酸化カルシウムは安定状態であるのでさらに水と反応することは無い。
【0034】
〔酸化反応式〕
3Fe+4H2O→4H2+Fe34………(化4)
【0035】
上記化4式は酸化反応であるが、水素を発生させる水素発生工程に相当する。制御弁38が閉じられているので、酸化反応式に従って発生した水素は反応容器28内に留まるとともに、水が反応容器28内で水蒸気になる。水が水蒸気化することで水素の圧力も高まる。こうして反応容器28内で高圧化された水素は、制御弁38の開閉制御によって反応容器28内の圧力が所望の圧力を超える分について、図中太線で表すように反応容器28からディスペンサー42を経て燃料電池自動車46に供給される。単位時間当たりの水素の供給量を増減するには、ヒーター34による加熱を行って酸化温度を変化させたり、反応容器28内に送り込む水の量を増減すればよい。
【0036】
これに対して、圧力センサ35で計測した圧力と圧力センサ39で計測した圧力との差圧が基準圧力値以下である場合、もしくは流量センサ44によって計測された流量が基準流量値を下回る場合には、既に燃料電池自動車46内のタンクがほぼ満杯等に至っていると推測できる。この場合には制御弁38を閉じるとともに、ヒーター34による加熱をやめて反応容器28内の温度を低下させるように制御する。反応容器28内の温度が下がれば、酸化反応による水素の発生量も減る。したがって、必要な時期に必要な容量の水素を製造して供給する制御が行える。
なお、反応容器28から排出される水素には水蒸気が混じることがあるため、当該水蒸気を冷却器32で冷やして水にし、分離器36で分離して貯水槽40に送る。こうして戻した水は鉄との反応に用いることができるので、無駄を少なく抑えることができる。
【0037】
上記化4式の酸化反応を終えると、反応容器28内には酸化鉄(Fe34)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)が存在する。このままでは、上記化3式の反応を行なわない。そこで、再び還元反応を行う前に酸化カルシウムに戻すための処理(脱水反応)を行う。具体的には、まず制御盤12は電磁弁18を開け、電磁弁14,26,30を閉めるように制御する。そして、制御盤12は温度センサ16によって計測された温度に基づいて、上記化3式の反応温度よりも高い脱水温度(例えば500℃程度)になるようにヒーター34の加熱量を制御する。この制御によって、次に示す化5式に従って酸化カルシウムになる。脱水反応によって生じた水蒸気は、図2の太線で表すように電磁弁18,冷却器20および分離器22を経て、再利用を可能とするべく水の状態で貯水槽40に貯める。
【0038】
〔処理反応式〕
Ca(OH)2 →CaO+H2O…(化5)
【0039】
上記の工程後、酸化鉄を水素により鉄にする還元反応(Fe34+4H2→3Fe+4H2O)を行う。そのとき生成する水蒸気は酸化カルシウムと反応して水酸化カルシウムとなる。よって上述した再び還元反応からの各工程を繰り返すことにより、水素の貯蔵と製造(供給)を繰り返し行うことができる。
【0040】
上述した実施の形態によれば、以下に表す各効果を得ることができる。
(1)化2式の還元工程によって生成される水蒸気(水)は、化3式の水分除去工程によって除去される。こうして水が除去されるので、還元反応が阻害されることなく進行する。したがって、水素の貯蔵や製造等を行うにあたって動力源や水を除去するための冷却器および加熱器などが不要になるので、従来よりもコストを低減することができる。
【0041】
(2)化3式の水分除去工程によって水酸化カルシウムが生じるものの、水分除去工程の反応時よりも高温で熱することにより、化5式の脱水工程によって水酸化カルシウムは脱水して元の酸化カルシウムに戻る。このように高温で熱するだけで酸化物を再利用できるので、資源の有効利用を図ることができる。
【0042】
(3)化4式の水素発生工程では、化1式の還元反応によって還元された鉄に水を反応させて水素を発生させた。化1式の還元反応(すなわち還元工程および水分除去工程)によって貯蔵することができた水素を水素発生工程によって製造する(取り出す)ことができる。したがって、動力源や水を除去するための冷却器および加熱器などが不要になるので、従来よりもコストを低減することができる。
【0043】
(4)反応容器28には、水素との還元反応によって鉄と水蒸気とに分離する酸化鉄(ナノサイズ微粒子の鉄を元にする)と、水素との還元反応によって分離した水を化学反応により除去する酸化カルシウムとを混合して収容した(図1を参照)。水蒸気が生成される都度に除去も行われるので、還元反応が阻害されることなく進行する。したがって、水素の貯蔵や製造等を行うにあたって動力源や冷却器および加熱器などが不要になるので、従来よりもコストを低減することができる。
【0044】
(5)水酸化カルシウムを、化3式の反応時よりも高温で熱するヒーター34を備えた(図1を参照)。ヒーター34によって当該反応時よりも高温で反応容器28内を熱すれば、水酸化カルシウムは脱水して元の酸化カルシウムに戻る。このように高温で熱するだけで酸化物を再利用できるので、資源の有効利用を図ることができる。
【0045】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することができる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0046】
(1)上述した実施の形態では、金属酸化物として酸化鉄(すなわち三酸化二鉄;Fe23)を用いた。この形態に代えて、他の酸化鉄(例えば四酸化三鉄;Fe34)を適用してもよく、酸化鉄以外の金属酸化物を適用してもよい。他の金属酸化物を構成する金属としては、例えば超微粒子の物質としてのアルファ鉄,ガンマ鉄,コバルト・マグネタイト鉄,インジウム・錫(ITO),亜鉛,タングステン,電解二マンガンなどが該当する。このような金属酸化物を用いた場合であっても、還元反応,酸化反応,脱水等を行わせることができるので、上述した実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0047】
(2)上述した実施の形態では、還元反応に添加する物質として第二属元素の酸化物たる酸化物カルシウム(CaO)を適用した。この形態に代えて、他の第二属元素の酸化物や、アルカリ金属の酸化物を同様に適用してもよい。第二属元素の酸化物は、例えば酸化ベリリウム(BeO),酸化マグネシウム(MgO),酸化ストロンチウム(SrO),酸化バリウム(BaO),酸化ラジウム(RaO)などが該当する。アルカリ金属の酸化物は、例えば酸化リチウム(Li2O),酸化ナトリウム(Na2O),酸化カリウム(K2O),酸化ルビジウム(Rb2O),酸化セシウム(Cs2O)などが該当する。ただし、添加する酸化物に応じて適切な反応温度(還元温度,脱水温度等)を設定する必要がある。例えば脱水温度は、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2・8H2O)を脱水して酸化ストロンチウムにするには600℃程度にする必要があり、水酸化バリウム(Sr(OH)2・8H2O)を脱水して酸化バリウムにするには1000℃程度にする必要がある。いずれの酸化物にせよ、図3に示すような還元速度は無添加の場合に比べて向上する。
なお、アルカリ金属の酸化物を用いた場合には、化3式の反応で水素が生じることから、この水素を化2式の反応に用いることも可能になる。
【0048】
(3)上述した実施の形態では、水素製造ステーション10として一つの反応容器28のみを備えた。この形態に代えて、貯蔵し製造(供給)する水素の容積に合わせて二以上の数の反応容器を備える構成としてもよい。例えば二つの反応容器を備えた場合には、一方の反応容器で還元反応を行わせ、他方の反応容器で酸化反応を行わせることにより、単位時間当たりに発生させる水素の量を向上させることができる。さらには、制御盤12から電磁弁を制御することによって、使用する反応容器の数を調整すれば、貯蔵し供給する水素の容積に見合う構成を弾力的に行うことが容易にできる。
【0049】
(4)上述した実施の形態では、製造した水素を供給する供給対象として、燃料電池自動車46(すなわち水素を使用して動力を発生する車両)を適用した。この形態に代えて、水素を供給可能な対象物であれば、任意に適用できる。例えば、燃料電池鉄道車両や燃料電池船舶などの輸送用機器、化学プラントなどのように水素を資源として用いるプラント、水素ボンベなどが該当する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】水素貯蔵装置(水素製造ステーション)の構成例を模式的に表す図である。
【図2】水素を還元する工程を説明する図である。
【図3】還元反応における還元速度を説明する図である。
【図4】水素を発生させて供給する工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0051】
10 水素供給ステーション(水素貯蔵装置)
12 制御盤(還元工程,水分除去工程,脱水工程,水素発生工程)
14,18,26,30 電磁弁
15 ブロア
16 温度センサ
20,32 冷却器
22,36 分離器
24 ポンプ
28 反応容器(還元工程,水分除去工程,脱水工程,水素発生工程)
25,34 ヒーター(加熱手段)
35,39 圧力センサ
38 圧力制御弁
40 貯水槽
42 ディスペンサー
44 流量センサ
46 燃料電池自動車(水素の供給対象)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元ガスと金属酸化物とを反応させて金属と水を生成する還元工程と、
前記還元工程で生成した水を第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物と反応させて除去する水分除去工程とを有する金属酸化物の還元方法。
【請求項2】
請求項1に記載した金属酸化物の還元方法であって、
水と第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物との反応によって生じた水酸化物を反応時よりも高温で熱して脱水する脱水工程を有する金属酸化物の還元方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した還元工程および水分除去工程と、
前記還元工程によって還元された金属に水を反応させて水素を発生させる水素発生工程とを有する水素製造方法。
【請求項4】
反応容器を有し、外部から供給される還元ガスに構成される水素を貯蔵する水素貯蔵装置であって、
前記反応容器内に収容され、前記還元ガスとの還元反応によって金属と水とに分離するナノサイズ微粒子の金属酸化物と、
前記反応容器内に収容され、前記還元ガスとの還元反応によって分離した水を化学反応により除去する第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物とを有する水素貯蔵装置。
【請求項5】
請求項4に記載した水素貯蔵装置であって、
水と第一属元素の酸化物または第二属元素の酸化物との反応によって生じた水酸化物を、反応時よりも高温で熱する加熱器を有する水素貯蔵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−179526(P2009−179526A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21299(P2008−21299)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【出願人】(503162276)
【Fターム(参考)】