金属酸化物超微粒子の製造方法
【課題】良好な結晶性を有する単分散状態の金属酸化物超微粒子を容易に得ることができるようにした。
【解決手段】界面活性剤3で包囲された金属酸化物超微粒子2を疎水性溶媒中に分散させたマイクロエマルジョン原溶液を作製し、前記疎水性溶媒を、400μS/cm以上の高導電率を有する高導電率溶媒9と置換して置換溶液10を作製し、その後、前記置換溶液10を静電噴霧させて微小液滴を発生させる。そしてこの後、キャリアガスにより微小液滴を下流側に搬送し、放射性同位体(例えば、241Am)等の両イオン発生体18を通過させ、その後加熱炉19内で微小液滴を分散させた状態で熱処理し、界面活性剤3を燃焼させて除去して金属酸化物超微粒子2を得る。
【解決手段】界面活性剤3で包囲された金属酸化物超微粒子2を疎水性溶媒中に分散させたマイクロエマルジョン原溶液を作製し、前記疎水性溶媒を、400μS/cm以上の高導電率を有する高導電率溶媒9と置換して置換溶液10を作製し、その後、前記置換溶液10を静電噴霧させて微小液滴を発生させる。そしてこの後、キャリアガスにより微小液滴を下流側に搬送し、放射性同位体(例えば、241Am)等の両イオン発生体18を通過させ、その後加熱炉19内で微小液滴を分散させた状態で熱処理し、界面活性剤3を燃焼させて除去して金属酸化物超微粒子2を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属酸化物超微粒子の製造方法に関し、より詳しくは、マイクロエマルジョン法により作製された金属酸化物超微粒子分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を得る金属酸化物超微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物材料、特にチタン酸バリウム(BaTiO3)等のペロブスカイト構造を有する複合酸化物材料は、積層セラミックコンデンサや強誘電体メモリ等、種々の電子部品への応用が考えられている。
【0003】
また、この種の金属酸化物は、ナノメートルレベル(例えば、10nm以下)の超微粒子になるとバンドギャップエネルギーが増加する量子サイズ効果を発現することが知られている。そして、近年では、このような量子サイズ効果を利用した電子デバイスの開発も注目されており、このため超微粒子でありながら分散性の高い金属酸化物粒子の開発・研究が盛んに行なわれている。
【0004】
金属酸化物粒子の製造技術としては、従来より、プラズマCVD法(plasma chemical vapor deposition)やレーザーアブレーション法等の気相法、水熱合成法やマイクロエマルジョン法等の液相法が知られている。
【0005】
例えば、気相法に関する技術文献としては、従来より、非特許文献1が知られている。
【0006】
この非特許文献1は、プラズマCVD法でチタン酸バリウムナノ粒子を合成する場合の酸素注入の効果に関するものであり、プラズマ尾炎部に酸素を直接注入することによって、Ba原子と酸素との間の反応を加速できることが報告されている。
【0007】
また、非特許文献1には、ペロブスカイトBaTiO3単相を得るための最適な酸素注入条件は、酸素注入位置におけるプラズマ尾炎部の温度が約1000Kであり、反応物に対するモル比(O2/(Ba+Ti))が4000であることが記載されている。そして、酸素注入しなかったときの平均粒径は15.4nmであったのに対し、上記酸素注入条件で酸素を注入することにより、平均粒径を10nm以下に超微粒化できることが報告されている。
【0008】
また、液相法に関する技術文献としては、例えば、非特許文献2が知られている。
【0009】
この非特許文献2は、チタン酸バリウム微粒子の粒径に及ぼす格子欠陥の役割について報告している。
【0010】
すなわち、液相法のうち、水熱合成法は、オートグレーブ中での高温・高圧下で、水を溶媒として原料粉を溶解させていることから、BaTiO3の結晶格子内に水酸基が容易に侵入し、その結果、誘電特性の低下を招くおそれがある。
【0011】
この非特許文献2では、水酸合成法により作製された平均粒径が89.62nmのBaTiO3微粒子に対し600℃を超える温度で熱処理を行なうことにより、結晶系が立方晶から正方晶に変化し、粒径の変化を伴うことなく、結晶格子から水酸基を除去できることが記載されている。
【0012】
一方、液相法のうち、マイクロエマルジョン法は、疎水性溶媒、界面活性剤、及び水を混合させて油中水滴(water in oil)型のマイクロエマルジョン溶液を作製し、このマイクロエマルジョン溶液中で原料を注入して加水分解反応を生じさせ、これにより超微粒子を得るようにしたものである。
【0013】
そして、例えば、特許文献1には、疎水性液体である分散媒、水および界面活性剤を含むマイクロエマルジョン中での原料の加水分解反応によって作製される金属酸化物超微粒子分散溶液であって、前記原料は複数の金属アルコキシドをアルコール中で混合して複合化した複合金属アルコキシド溶液からなり、前記マイクロエマルジョンに含まれる水量が、前記原料の加水分解に必要な水量の0.95倍以上3倍以下である金属酸化物超微粒子分散溶液が提案されている。
【0014】
この特許文献1では、マイクロエマルジョンに含まれる水量を原料の加水分解に必要な水量の0.95倍以上3倍以下に制限することにより、組成が均質で、粒子径及び形状が揃い且つ結晶化した金属酸化物超微粒子が高度に分散した金属酸化物超微粒子分散溶液を得ている。
【0015】
【特許文献1】特開2004−300013号公報
【非特許文献1】Keigo Suzuki et al.「Effect of oxygen injection on synthesizing barium titanate nanoparticles by plasma chemical vapor deposition」、Journal of Materials Science、2006年、No.41、p.5346 − 5358
【非特許文献2】Satoshi Wada et al.「Role of lattice defects in the size effect of barium titanate fine particles」、Journal of the ceramic society of Japan、1996年、No.104[5]、p.383 - 392
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、非特許文献1に記載されたプラズマCVD法等の気相法は、一般に、金属酸化物粒子を高温プロセスで作製するため、作製された金属酸化物粒子は、たとえ超微粒であっても粒子同士が容易に凝集してしまう。
【0017】
また、気相法では、例えば、BaTiO3微粒子を作製する場合、BaやTiは原子状態から冷却される際の均一核生成により微粒子を形成するが、気流中のBa原子やTi原子の濃度比を制御するのが難しい。すなわち、気相法では、BaTiO3微粒子を化学量論組成とするのが難しく、結晶性の高いBaTiO3超微粒子を得るのが困難である。
【0018】
また、非特許文献2では、水熱合成法で得られたBaTiO3を熱処理し、結晶格子に侵入した水酸基を除去することにより、結晶性を改善しようとしているが、BaTiO3粒子の平均粒径が89.62nmと大きく、10nm以下の超微粒子を対象としたものではない。
【0019】
これに対し特許文献1に記載されているマイクロエマルジョン法は、界面活性剤で包囲された水滴内での加水分解反応により超微粒子を生成しているため、粒度分布も比較的狭く、高純度の超微粒子材料を得ることができると考えられる。
【0020】
しかも、特許文献1は、マイクロエマルジョンに含まれる水量を精密に制御しているので、結晶性が良好で単分散している金属酸化物超微粒子の分散溶液を得ることが可能である。
【0021】
しかしながら、金属酸化物超微粒子を各種電子デバイスに応用するためには、分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を得なければならず、そのためには、金属酸化物超微粒子を包囲する界面活性剤を除去する必要がある。
【0022】
この場合、界面活性剤で包囲された状態で金属酸化物超微粒子を熱処理することにより、該界面活性剤を燃焼させて除去することが可能と考えられるが、単に熱処理をしたのみでは、界面活性剤が除去されても超微粒である金属酸化物粒子同士が凝集したり、或いは熱処理温度によっては粒成長するおそれがあり、このため10nm程度の超微粒子を単分散状態で確保するのは困難である。
【0023】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、高結晶性を有する単分散状態の金属酸化物超微粒子を容易に得ることができる金属酸化物超微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は、マイクロエマルジョン法で作製された金属酸化物超微粒子分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を得る方法として、静電噴霧法に着目した。そして、前記分散溶液中の疎水性溶媒を導電率の高い溶媒で置換し、静電噴霧することにより、分散溶液中の超微粒の金属酸化物粒子に対応した微小液滴を発生させることができ、この微小液滴を気流中で熱処理を行なうことにより、分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を効率良く回収できるという知見を得た。
【0025】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る金属酸化物超微粒子の製造方法は、疎水性を有する第1の溶媒中に、界面活性剤で包囲された金属酸化物超微粒子を分散させた第1の分散溶液を作製し、前記第1の溶媒を、静電噴霧により微小液滴の発生が可能な高導電率を有する第2の溶媒で置換した第2の分散溶液を作製し、次いで、前記第2の分散溶液を静電噴霧させて微小液滴を発生させ、その後、前記微小液滴を気流中で分散させた状態で熱処理し、前記界面活性剤を除去することを特徴としている。
【0026】
尚、本発明で、「超微粒子」とは平均粒径が10nm以下の粒子をいうものとする。
【0027】
また、金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記第2の溶媒が、導電率が400μS/cm以上であることを特徴としている。
【0028】
前記第2の溶媒は、高導電率を有する他、金属酸化物超微粒子を安定して分散させる必要があり、そのためには固体電解質を有機溶媒に溶解させるのが好ましい。
【0029】
すなわち、金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記第2の溶媒が、固体電解質を有機溶媒に溶解させていることを特徴としている。
【0030】
また、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記有機溶媒が、極性溶媒であることを特徴としている。
【0031】
さらに、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記固体電解質が、有機酸であることを特徴としている。
【0032】
さらに、本発明者が鋭意研究を重ねたところ、良好な結晶性を確保するためには熱処理の温度を900℃以上にするのが好ましいことが分かった。
【0033】
すなわち、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記熱処理の温度が、900℃以上であることを特徴としている。
【0034】
また、前記微小液滴は高度に帯電しているため、搬送路中で微小液滴が装置内壁に付着し、その結果、金属酸化物超微粒子の回収効率が低下するおそれがある。
【0035】
そこで、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記微小液滴は、両性イオンを発生する両性イオン発生体を通過し、その後熱処理されることを特徴としている。
【0036】
さらに、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記両性イオン発生体は、α線を放射する放射性同位体であることを特徴としている。
【0037】
また、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記第1の分散溶液は、前記界面活性剤と水とが前記第1の溶媒中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、金属アルコキシド溶液を加水分解反応させて生成することを特徴としている。
【0038】
また、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記金属酸化物超微粒子が、チタン酸バリウム超微粒子であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0039】
本発明の製造方法によれば、疎水性を有する第1の溶媒中に、界面活性剤で包囲されたチタン酸バリウム等の金属酸化物超微粒子を分散させた第1の分散溶液を作製し、前記第1の溶媒を、静電噴霧により微小液滴の発生が可能な高導電率を有する第2の溶媒で置換した第2の分散溶液を作製し、次いで、前記第2の分散溶液を静電噴霧させて微小液滴を発生させ、その後、前記微小液滴を気流中で分散させた状態で熱処理し、前記界面活性剤を除去するが、静電噴霧により発生した微小液滴は高度に帯電することから、該微小液滴同士は互いに反発し、これにより、気流中での粒子同士の衝突による凝集が起こらず、第1の分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を効率良く得ることができる。
【0040】
また、微小液滴を気流中で分散させた状態で熱処理するので、粒子同士が凝集したり粒成長することもなく、界面活性剤のみを効率良く除去することができる。
【0041】
また、第2の溶媒は、導電率が400μS/cm以上であり、固体電解質(好ましくは、有機酸)を有機溶媒(好ましくは、極性溶媒)に予め溶解させているので、金属酸化物超微粒子の分散性を損なうことなく、第1の溶媒を高導電率の第2の溶媒に置換することができ、静電噴霧で発生する液滴を微小にできる。
【0042】
また、前記熱処理の温度が900℃以上であるので、粒子が結晶化するための十分なエネルギーが付与され、金属酸化物超微粒子の高結晶性を確保することができる。
【0043】
さらに、微小液滴は、α線を放射する放射性同位体等の両性イオン発生体を通過し、その後熱処理されるので、高度に帯電した微小液滴は前記両性イオン発生体により電気的に中和されることとなる。したがって、搬送路中で微小液滴が装置内壁等に付着するのを抑制することができ、第1の分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を高効率で回収することが可能となる。
【0044】
また、前記第1の分散溶液は、前記界面活性剤と水とが前記第1の溶媒中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、金属アルコキシド溶液を加水分解反応させて生成するので、マイクロエマルジョン溶液内の微小水滴を反応場として加水分解反応を進行させることが可能となり、超微粒の金属酸化物を分散溶液中に分散浮遊させることが可能となる。このように分散溶液中の金属酸化物が超微粒であることから、界面活性剤が除去された金属酸化物も超微粒を維持した状態で回収することが可能となる。また、分散溶液中の金属酸化物超微粒子は予め化学量論組成に制御されていることから、極めて高い結晶性を有する単分散状態の金属酸化物超微粒子を第1の分散溶液から回収することが可能となる。
【0045】
すなわち、本発明によれば、高結晶性を有する単分散状態の金属酸化物超微粒子を高効率で得ることができ、積層セラミックコンデンサ、強誘電体メモリ、更には量子サイズ効果を利用した各種電子デバイスに応用できる金属酸化物超微粒子を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら詳説する。
【0047】
本発明に係る金属酸化物超微粒子の製造方法は、(1)マイクロエマルジョン法で金属酸化物超微粒子分散溶液(以下、「マイクロエマルジョン原溶液」又は単に「原溶液」という。)(第1の分散溶液)を作製し、(2)該原溶液中の疎水性溶媒を高導電率溶媒で置換してマイクロエマルジョン置換溶液(以下、単に「置換溶液」ともいう。)(第2の分散溶液)を作製し、(3)静電噴霧法を用いて前記置換溶液から微小液滴を発生させ、次いで、該微小液滴を熱処理して界面活性剤を燃焼させ、これにより高結晶性を有する単分散状態の金属酸化物超微粒子を得ている。
【0048】
以下、その製造方法を順次説明する。
【0049】
(1)マイクロエマルジョン原溶液の作製
図1は、マイクロエマルジョン原溶液の一実施の形態を模式的に示した正面図であって、この原溶液1は、金属酸化物超微粒子2が、界面活性剤3に包囲された形態で疎水性溶媒4中に分散浮遊しており、斯かる原溶液1が、容器5に収容されている。
【0050】
界面活性剤3は、図2に示すように、主界面活性剤6と副界面活性剤7とを有している。
【0051】
また、主界面活性剤6は、疎水性基6aと親水性基6bとを有し、疎水性基6aは疎水性溶媒4に吸着され、親水性基6bは金属酸化物超微粒子2に吸着されている。
【0052】
また、副界面活性剤7は、マイクロエマルジョン作製時において、主界面活性剤6の親水性基6bの内部に入って水との界面エネルギーを低下させ、かつ、親水性基6bの側鎖長による立体障害を和らげる効果があり、これにより水滴の安定化に寄与する。そして、金属酸化物超微粒子2が生成される際には、主界面活性剤6の親水性基6bと共に、金属酸化物超微粒子2を包囲する形態で金属酸化物超微粒子2に吸着され、金属酸化物超微粒子2を疎水性溶媒4中に安定して分散させるのに寄与する。
【0053】
次に、この原溶液1の製造方法を詳述する。
【0054】
まず、疎水性溶媒(第1の溶媒)4、界面活性剤3(主界面活性剤6及び副界面活性剤7)、及び水を容器5に入れて混合・撹拌すると、図3(a)に示すように、主界面活性剤6の疎水性基6aは疎水性溶媒4に吸着される一方、主界面活性剤6の親水性基6bは水に吸着され、さらに副界面活性剤7は主表面活性剤6の親水性基6bに入り込んで水との界面エネルギーが低下する。そしてその結果、水は超微小径の水滴8となって、界面活性剤3(主界面活性剤6及び副界面活性剤7)の内部に閉じ込められる。すなわち、水滴8は界面活性剤3に包囲されるような形態で、疎水性溶媒4中に分散し、これにより油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液が形成される。
【0055】
ここで、疎水性溶媒4としては、シクロへキサン、ヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、オクタンなどの無極性炭化水素、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル、ケロシンなどの石油系炭化水素等を使用することができる。
【0056】
また、主界面活性剤6としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンラウリルエーテル等の非イオン性界面活性剤、ジ−(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムやドデシル硫酸ナトリウム等のイオン性界面活性剤のいずれも使用することができるが、イオン性界面活性剤の場合には、膜成分に余分な成分が残存するので、非イオン性の界面活性剤を使用するのが好ましい。
【0057】
また、副界面活性剤7としては、化学式CmH2m+1OH(ただし、mは4〜10)で表される中鎖アルコール、例えば、1−オクタノール(C8H17OH)を使用することができる。すなわち、炭素数mは、主界面活性剤6の親水性基6bの側鎖長nの長さにも依存するが、炭素数mが4未満では、親水性が上がり過ぎるため、マイクロエマルジョン作製時に、水滴内に溶解してしまい、このため副界面活性剤7が主界面活性剤6と水との界面のみに存在しなくなるおそれがある。一方、炭素数mが10を超えると疎水性が大きくなり過ぎたり、立体障害が大きくなったりするおそれがあり、好ましくない。
【0058】
尚、界面活性剤3と水の混合比率は、最終生成物である金属酸化物超微粒子2の平均粒径が10nm以下(好ましくは、5nm以下)となるように、例えば、水/界面活性剤=0.005〜0.05となるように配合されて容器5に投入される。
【0059】
次に、金属酸化物超微粒子の原料となる金属アルコキシド溶液を用意する。例えば、金属酸化物が酸化チタンや酸化亜鉛の場合はチタンアルコキシド溶液や亜鉛アルコキシド溶液を用意する。
【0060】
また、金属酸化物が複合酸化物である場合は、複合酸化物を構成する金属の各アルコキシドをエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール中で混合して複合化し、複合金属アルコキシド溶液を作製する。
【0061】
尚、複合金属アルコキシドとしては、バリウムチタンイソプロポキシド、バリウムチタンメトキシド、バリウムチタンエトキシド、バリウムチタンプロポキシド、バリウムチタンブトキシド、ストロンチウムチタンメトキシド、ストロウチウムチタンエトキシド、マグネシウムチタンメトキシド、マグネシウムチタンエトキシド等、所望する金属酸化物に応じた複合金属アルコキシドを適宜使用することができる。
【0062】
次に、このようにして作製された金属アルコキシド溶液をマイクロエマルジョン溶液に滴下し、Ar雰囲気等の不活性雰囲気下、所定時間、撹拌混合する。そして、これにより金属アルコキシド溶液と水滴8との間で加水分解反応が生じる。
【0063】
例えば、金属アルコキシド溶液としてバリウムチタンイソプロポキシド溶液を使用した場合は、化学反応式(A)に示すような加水分解反応が生じ、水滴径に応じた超微小径のBaTiO3超微粒子2が生成される。
【0064】
BaTi(OCH(CH3)2)6+3H2O
→BaTiO3+6C3H7OH ・・・(A)
すなわち、界面活性剤3で包囲された水滴8を反応場として加水分解反応が進行し、これにより、図3(b)に示すように、水滴8が消費されて金属酸化物超微粒子2が生成され、界面活性剤3で包囲された金属酸化物超微粒子2の分散浮遊したマイクロエマルジョン原溶液1が作製される。
【0065】
(2)マイクロエマルジョン置換溶液の作製
後述する静電噴霧で発生する液滴径Ddと、導電率(電気伝導度)Kとの間には下記数式(1)で示す関係がある。
【0066】
【数1】
【0067】
ここで、Qは置換溶液の供給速度、εrは比誘電率、ε0は真空の誘電率、Kは導電率、G(εr)は比誘電率εrによって決まる定数である。
【0068】
数式(1)から明らかなように、前記液滴径Ddは、導電率Kが高くなるほど小さくなる。したがって、超微小径を保持したまま金属酸化物超微粒子2を回収するためには、一つの液滴中に一つの金属酸化物超微粒子2が入るような(one particle in one droplet) 微小な液滴径Ddでもって液滴を発生させる必要がある。そしてそのためには溶液(溶媒)の導電率Kを高くする必要がある。
【0069】
そこで、本実施の形態では、原溶液1の疎水性溶媒4を高導電率溶媒(第2の溶媒)で置換し、これにより静電噴霧での微小液滴の発生に適したマイクロエマルジョン置換溶液を得ている。
【0070】
前記高導電率溶媒は、具体的には、導電率Kが400μS/cm以上となるように調製される。これは、導電率Kが400μS/cm未満の場合は、原溶液1中の金属酸化物超微粒子2が10nm以下と超微粒であっても、静電噴霧される液滴径Ddが大きくなるため、液滴蒸発の際に粒子同士が凝集してしまい、このため所望粒径の超微粒子を得るのが困難になるおそれがあるからである。
【0071】
また、置換溶液は、溶媒置換後も金属酸化物超微粒子2が沈降することなく、安定した分散状態を保持する必要がある。
【0072】
そしてそのためには、高導電率溶媒は、有機溶媒として極性溶媒を使用し、この極性溶媒に固体電解質を溶解させて作製するのが好ましい。これは、極性溶媒は導電率が高く、かつ電解質を溶解しやすいためであり、これにより金属酸化物超微粒子2の分散性を損なうことなく、高導電率を得ることができるからである。
【0073】
そして、このような極性溶媒の例としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、ベンジルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジイソプロピルエーテル、アセトン、ジイソブチルケトン、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、酢酸、2−エチルヘキサン酸、2−ジメチルアミノエタノール、2−アミノエタノール、2−メチルアミノエタノール、2,2′−イミノジエタノール、2,2′,2″−ニトリルエタノール、2−エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、n−エチルジエタノールアミン、n−ブチルジエタノールアミン、2−ジ−n−ブチルアミノエタノール、シクロペンチルメチルエーテル等を挙げることができる。
【0074】
また、固体電解質は有機酸であるのが好ましい。これは、無機固体電解質、例えば、NaClの場合、NaやClがイオンとして金属酸化物中に不純物として混入してしまうおそれがあるのに対し、有機酸は炭素、酸素、水素で構成されるため、熱処理により燃焼してガスとなり、不純物として金属酸化物中に混入しないからである。
【0075】
このような有機酸の例としては、酢酸アンモニウム、酒石酸、マレイン酸、こはく酸、マロン酸、りんご酸、アジピン酸、酒石酸アンモニウム、マンニトール、エチレンジアミン四酢酸、トリメチロールプロパン、フタル酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等を挙げることができる。
【0076】
このように上述した極性溶媒及び有機酸の中から、導電率Kが400μS/cm以上となるような組み合わせを選択して調製することにより、所望の高導電率溶媒を得ることができる。
【0077】
尚、高導電率溶媒の適正なモル濃度(極性溶媒に対する有機酸の調合比率)は、使用する極性溶媒や有機酸によって異なる。すなわち、高導電率溶媒のモル濃度が小さくなると、導電率Kが400μS/cm未満となって所望の微小液滴を発生させることができなくなる。一方、高導電率溶媒のモル濃度が過剰となって飽和溶解度を超えてしまうと、有機酸が極性溶媒に完全には溶解しなくなり、このため静電噴霧に適した置換溶液を作製することができなくなる。したがって、高導電率溶媒は、導電率Kが400μS/cm以上でかつ飽和溶解度を超えないように、使用する極性溶媒や有機酸の物性に応じ、適正範囲に調合されて作製される。
【0078】
また、疎水性溶媒4の高導電率溶媒への置換は以下のようにして行なうことができる。すなわち、前記高導電率溶媒とマイクロエマルジョン原溶液1とを等量ずつ混合し、エバポレータで疎水性溶媒4を減圧蒸発させる。例えば、シクロヘキサンは揮発性が高いため、エバポレータで容易に蒸発させることができ、これにより溶媒置換され、所望のマイクロエマルジョン置換溶液を得ることができる。
【0079】
(3)静電噴霧及び熱処理
図4は、マイクロエマルジョン置換溶液から金属酸化物超微粒子2を回収するための製造工程を模式的に示した工程図である。
【0080】
図4(a)は、高導電率溶媒9で置換された置換溶液10が容器5に収容されている状態を示している。
【0081】
図4(b)は静電噴霧装置を模式的に示した図であって、該静電噴霧装置は、置換溶液10が充填されるシリンダ11と、シリンダ11に充填された置換溶液10を押し出すマイクロフィーダ12と、微小液滴を発生する微小液滴発生部13と、高電圧印加部14とを有している。
【0082】
また、微小液滴発生部13は、図5に示すように、シリンダ11に連結された針部15と、一端が接地された一対の対向電極16とを備え、キャリアガスにより微小液滴17が下流側に搬送可能となるように構成されている。
【0083】
そして、置換溶液10がシリンダ11に充填され、マイクロフィーダー12により一定流量の置換溶液10がシリンダ11から押し出され、針部15の先端に供給される。この際、置換溶液10には表面張力が作用するが、電圧印加部14により針部15に数kVの高電圧が印加されると、針部15の先端と対向電極16との間で高い静電場が形成される。そして、針部15への高電圧の印加により静電気的引力が増加し、前記表面張力を超えると、置換溶液10は円錐形に歪められ、液柱が分裂して微小液滴17を発生し、対向電極16側に吸引される。
【0084】
この微小液滴17は、静電気によって高度に帯電していることから、微小液滴17同士は互いに反発し合い、キャリアガスにより効率良く下流側に搬送される。
【0085】
尚、キャリアガスとしては、空気、酸素、窒素、二酸化炭素を使用することができるが、容易に電離するアルゴンガスは使用に適さない。
【0086】
さらに、微小液滴発生部13の下流側には、図4(c)に示すように両性イオン発生体18が配されている。すなわち、上述したように微小液滴17は高度に帯電しているため、搬送路中の装置内壁に微小液滴17が付着するおそれがある。
【0087】
そこで、本実施の形態では、搬送路中に両性イオン発生体18を配し、微小液滴17を該両性イオン発生体18に通過させることにより、帯電状態を電気的に中和させ、これにより微小液滴17が装置内壁等に付着することもなく、高効率で搬送することができる。
【0088】
そして、このような両性イオン発生体18としては、両性イオンを発生するものであれば特に限定されないが、α線を放射する対射性同位体、例えば、質量数が241の241Amを好んで使用することができる。
【0089】
次に、この微小液滴17は、図4(d)に示すように、加熱炉19に供給され、熱処理される。そして、金属酸化物超微粒子2を包囲している界面活性剤3が燃焼され、除去される。
【0090】
尚、この場合、熱処理温度は900℃以上に設定するのが好ましい。これは熱処理温度が900℃未満では、熱処理温度が低く、金属酸化物超微粒子2が結晶化するための十分なエネルギーが与えられなくなるおそれがあるからである。
【0091】
その後、図4(e)に示すように、加熱炉19を通過した金属酸化物超微粒子2を、任意の基板に堆積させることができる。この際、針部15に印加された電圧と逆バイアスの電圧を前記基板に印加することによって、金属酸化物超微粒子2を効率良く捕集ることが可能となる。
【0092】
このように本実施の形態によれば、界面活性剤3で包囲された金属酸化物超微粒子2を疎水性溶媒4中に分散させた原溶液1を作製し、疎水性溶媒4を、400μS/cm以上の高導電率を有する高導電率溶媒9と置換して置換溶液10を作製し、その後、前記置換溶液10を静電噴霧させて微小液滴17を発生させているので、静電噴霧により発生した微小液滴17は高度に帯電し、したがって微小液滴17同士は反発し合って凝集することはない。そしてこの後、キャリアガスにより微小液滴17を下流側に搬送し、加熱炉19内の気流中で微小液滴17を分散させた状態で熱処理し、界面活性剤3を燃焼させて除去しているので、気流中での粒子同士の衝突による凝集も起こらず、単分散状態の金属酸化物超微粒子2を得ることができる。
【0093】
また、微小液滴17を気流中で分散させた状態で熱処理するので、粒子同士が凝集したり粒成長することもなく、界面活性剤3のみを効率良く除去することができる。
【0094】
また、微小液滴17は、α線を放射する241Am等の両性イオン発生体を通過し、その後、熱処理されるので、高度に帯電した微小液滴17は電気的に中和されることとなり、これにより搬送路中で微小液滴17が装置内壁等に付着するのを回避することができ、高効率で単分散状態の金属酸化物超微粒子を得ることが可能となる。
【0095】
また、原溶液1はマイクロエマルジョン法で作製されることから、原溶液1中を分散浮遊している金属酸化物超微粒子は、予め化学量論組成に制御されており、したがって、極めて高い結晶性を有する単分散の金属酸化物超微粒子を得ることができる。
【0096】
このように本実施の形態によれば、高結晶性かつ単分散状態の金属酸化物超微粒子を高効率で得ることができ、積層セラミックコンデンサ、強誘電体メモリ、その他、金属酸化物粒子の量子サイズ効果を利用した各種電子デバイスに応用できる金属酸化物超微粒子を実現することができる。
【0097】
次に、チタン酸バリウム(BaTiO3)超微粒子を一例として、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明の金属酸化物超微粒子は、チタン酸バリウム超微粒子に限定されるものではなく、その他の各種金属酸化物超微粒子の製造方法にも同様に適用できるのはいうまでもない。
【実施例】
【0098】
〔試料の作製〕
(1)マイクロエマルジョン原溶液の作製
まず、疎水性溶媒としシクロヘキサン、主界面活性剤として、ポリオキシエチレンの重合度が10のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(以下、「NPE(10)」という。)、副界面活性剤として1−オクタノールを用い、Arガスでバブリングを行いながら、水:1−オクタノール:NPE(10):シクロヘキサン=0.2:9:7.5:150となるように、これらを混合、攪拌し、これにより油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液を作製した。
【0099】
次に、金属アルコキシド溶液としてバリウムチタンイソプロポキシド溶液を作製した。
【0100】
すなわち、Ar雰囲気のグローブボックス中でバリウムイソプロポキシド4gをイソプロピルアルコール160ml、ベンゼン40mlの混合溶媒に混合して溶解し、バリウムアルコキシド溶液とした後、これに等モルのチタンイソプロポキシド溶液を滴下して一晩混合し、淡黄色透明のバリウムチタンイソプロポキシド溶液を得た。
【0101】
次に、マイクロエマルジョン中の水量がバリウムチタンイソプロポキシドの加水分解に必要な水量の1.2倍となるようにマイクロピペットで分取し、チューブポンプを用いて上記マイクロエマルジョン溶液に滴下した。そして、そのまま1日、Ar雰囲気のグローブボックス中で攪拌混合を行い、マイクロエマルジョン原溶液を得た。
【0102】
得られた原溶液は、淡褐色透明であり、加水分解により生成したチタン酸バリウム超微粒子が高度に分散していることが確認された。また、該原溶液の一部を分取し、アセトンを加えて沈殿させ、遠心分離を行った後、有機溶媒で洗浄を行った試料の結晶相を粉末X線回折法により同定したところ、結晶化したチタン酸バリウムの単相であることが確認された。また、高分解能SEMにより、粒子形状の観察を行ったところ、8nm程度と非常に微細でしかも粒度分布の揃った超微粒子であることが確認された。
【0103】
(2)マイクロエマルジョン置換溶液の作製
〔発明を実施するための最良の形態〕で列挙した種々の有機溶媒と固体電解質(有機酸)を使用し、高導電率溶媒を試作したところ、4種類の組み合わせについて、表1に示すようなモル濃度範囲で導電率Kが400μS/cm以上の高導電率溶媒を得た。
【0104】
【表1】
【0105】
そして、これら4種類のうち、導電率Kが437μS/cmの高導電率溶媒、すなわち、有機溶媒にテトラヒドロフルフリルアルコール、固体電解質に酢酸アンモニウムを使用した試料1を使用し、試料1の溶液と前記原溶液とを等量ずつ混合し、エバポレータでシクロヘキサンを減圧蒸発させ、これにより置換溶液を作製した。
【0106】
(3)静電噴霧及び熱処理
上記(2)で作製した置換溶液をシリンダに充填し、マイクロフィーダーにより0.1mL/hの供給速度でシリンダから針部に置換溶液を供給した。そして、針部に2.8kVの電圧を印加して対向電極との間に静電場を形成し、針部先端から微小液滴を噴霧させた。また、流量が1.0SLM、圧力が8.98×104Pa(675torr)となるように制御された空気をキャリアガスとして、微小液滴を下流側に搬送し、放射性同位体である241Amの内部を通過させ、その後、管状型電気炉に微小液滴を案内した。そして、管状型電気炉では900℃の温度で微小液滴を熱処理し、これにより界面活性剤が燃焼され除去された実施例のBaTiO3超微粒子を得た。
【0107】
〔試料の観察〕
実施例試料を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; 以下、「TEM」という。)で観察した。
【0108】
図6は実施例試料のTEM像である。
【0109】
この図6から分かるように、得られた粒子は極めて高い分散性を有することが確認された。
【0110】
図7は、実施例試料の結晶格子を示すTEM像であり、BaTiO3超微粒子は10nm以下の粒径でも高い結晶性を示すことが分かった。また、粒子表面の輪郭が非常に明瞭に観察することができ、これにより界面活性剤が完全に燃焼・除去されていることが分かった。
【0111】
図8は、実施例試料の電子回折図形である。また、図8右上の挿図は、ペロブスカイト構造BaTiO3の参考回折パターンを示している。前記挿図の縦軸は強度(a.u.)、横軸は回折位置である。図中、(100)、(110)・・・はBaTiO3の面指数を示している。
【0112】
この電子回折図形に示されるデバイリングの位置は、BaTiO3の回折ピーク位置と一致する。したがって、この図8から、粒子が微小化してもペロブスカイト構造を維持していることが分かる。
【0113】
次に、比較例を作製し、実施例の優位性を確認した。
【比較例】
【0114】
〔比較例1〕
マイクロエマルジョン原溶液(溶媒:シクロヘキサン)を使用し、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧を行おうとしたが、安定した静電噴霧を行うことができなかった。これは、シクロヘキサンは揮発性が極めて高く、このためゲル状の固形物、すなわち界面活性剤で包囲されたBaTiO3超微粒子が針部の先端に残留し、液滴発生状態が不安定になったためと思われる。
【0115】
〔比較例2〕
シクロヘキサンを1−オクタノール溶媒で置換したマイクロエマルジョン置換溶液を作製した。尚、この1−オクタノールの導電率は7μS/cmであった。
【0116】
この置換溶液を使用し、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧し、熱処理して比較例2の試料を作製した。
【0117】
図9は比較例2の試料のTEM像である。
【0118】
この図9から明らかなように、比較例2の試料は、粒子径が100nm以上のものが多く、本発明で得ようとしているBaTiO3超微粒子を得ることはできなかった。
【0119】
また、図10は、比較例2の試料の拡大TEM像であり、図11は比較例2の試料の電子回折図形である。
【0120】
この図10から明らかなように、比較例2の試料は格子縞を観察することができなかった。
【0121】
また、図11の電子回折図形では、図5のような明確な回折パターンを得ることができず、ハローパターンが確認された。
【0122】
以上から比較例2の試料は、全く結晶化していないことが分かった。これは、溶媒である1−オクタノールの導電率Kが7μS/cmと低いため、針部から噴霧される液滴サイズも大きくなり、このため電気炉の熱が溶媒の燃焼や蒸発に費やされ、結晶化に十分なエネルギーが与えられなかったためと思われる。
【0123】
〔比較例3〕
キャリアガスとして空気に代えてアルゴンを使用した以外は、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧をしようとした。しかしながら、針部に高電圧を印加すると該針部と対向電極との間に放電が発生し、安定した静電噴霧を行なうことができなかった。これは、アルゴンが空気等に比べて電離しやすいためと思われる。
【0124】
〔比較例4〕
微小液滴を放射性同位体241Amに通過させなかった以外は、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧及び熱処理を行い、搬送粒子個数を粒子個数計測装置(凝縮核カウンター)で測定した。
【0125】
図12は、241Amを配さなかった比較例4と、241Amを配した実施例の搬送粒子個数を示している。
【0126】
図中、横軸が繰り返し回数、縦軸は搬送粒子個数(個/cc)である。
【0127】
この図12から明らかなように、241Amを配さなかった比較例4は、241Amを配した実施例に比べて搬送粒子個数が1/10程度に大幅に低下している。
【0128】
したがって、BaTiO3超微粒子を効率良く得るためには、微小液滴を241Am等の放射性同位体に通過させるのが好ましいことが分かった。
【0129】
〔比較例5〕
熱処理温度を700℃にした以外は、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧・熱処理を行い、比較例5の試料を得た。
【0130】
図13は、比較例5の試料の電子回折図形であり、また、図13右上の挿図は、ペロブスカイト構造BaTiO3の参考回折パターンを示している。前記挿図の縦軸は強度(a.u.)、横軸は回折位置である。図中、(100)、(110)・・・はBaTiO3の面指数を示している。
【0131】
この図13から明らかなように、比較例5の試料は、電子折図形のデバイリングが不明瞭であり、結晶性が低下していることが分かった。これは熱処理温度が低く、粒子の結晶化のために十分なエネルギーが与えられなかったためと思われる。
【0132】
〔比較例6〕
気相法の一種であるレーザーアブレーション法で比較例6の試料(BaTiO3粒子)を作製した。すなわち、BaTiO3をターゲットにしてパルスレーザ光を照射し、放出された原子を対向した基板上に堆積させ、比較例6の試料を作製した。尚、試料の作製条件は、レーザー強度:1GW/cm2、熱処理温度:900℃、圧力:400Pa(3torr)で行なった。
【0133】
図14は比較例6の試料のTEM像である。
【0134】
この図14から明らかなように所望の結晶性を有するBaTiO3超微粒子を得ることができないことが確認された。
【0135】
これは、レーザアブレーション法のような気相法ではBa原子とTi原子の組成制御が困難であるため、結晶性が低下したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の製造方法で使用されるマイクロエマルジョン原溶液の一実施の形態を模式的に示した正面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】マイクロエマルジョン原溶液の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【図4】本発明に係る金属酸化物超微粒子の製造方法の一実施の形態を模式的に示した要部工程図である。
【図5】微小液滴発生部の拡大模式図である。
【図6】実施例試料のTEM像である。
【図7】実施例試料の結晶格子を示すTEM像である。
【図8】実施例試料の電子回折図形である。
【図9】比較例2の試料のTEM像である。
【図10】比較例2の試料の拡大TEM像である。
【図11】比較例2の試料の電子回折図形である。
【図12】241Amを配さなかった比較例4と、241Amを配した実施例の搬送粒子個数を示す図である。
【図13】比較例5の試料の電子回折図形である。
【図14】比較例6の試料のTEM像である。
【符号の説明】
【0137】
1 マイクロエマルジョン原溶液(第1の分散溶液)
2 金属酸化物超微粒子
3 界面活性剤
4 疎水性溶媒(第1の溶媒)
9 高導電率溶媒(第2の溶媒)
10 マイクロエマルジョン置換溶液(第2の分散溶液)
17 微小液滴
18 両イオン発生体
【技術分野】
【0001】
本発明は金属酸化物超微粒子の製造方法に関し、より詳しくは、マイクロエマルジョン法により作製された金属酸化物超微粒子分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を得る金属酸化物超微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物材料、特にチタン酸バリウム(BaTiO3)等のペロブスカイト構造を有する複合酸化物材料は、積層セラミックコンデンサや強誘電体メモリ等、種々の電子部品への応用が考えられている。
【0003】
また、この種の金属酸化物は、ナノメートルレベル(例えば、10nm以下)の超微粒子になるとバンドギャップエネルギーが増加する量子サイズ効果を発現することが知られている。そして、近年では、このような量子サイズ効果を利用した電子デバイスの開発も注目されており、このため超微粒子でありながら分散性の高い金属酸化物粒子の開発・研究が盛んに行なわれている。
【0004】
金属酸化物粒子の製造技術としては、従来より、プラズマCVD法(plasma chemical vapor deposition)やレーザーアブレーション法等の気相法、水熱合成法やマイクロエマルジョン法等の液相法が知られている。
【0005】
例えば、気相法に関する技術文献としては、従来より、非特許文献1が知られている。
【0006】
この非特許文献1は、プラズマCVD法でチタン酸バリウムナノ粒子を合成する場合の酸素注入の効果に関するものであり、プラズマ尾炎部に酸素を直接注入することによって、Ba原子と酸素との間の反応を加速できることが報告されている。
【0007】
また、非特許文献1には、ペロブスカイトBaTiO3単相を得るための最適な酸素注入条件は、酸素注入位置におけるプラズマ尾炎部の温度が約1000Kであり、反応物に対するモル比(O2/(Ba+Ti))が4000であることが記載されている。そして、酸素注入しなかったときの平均粒径は15.4nmであったのに対し、上記酸素注入条件で酸素を注入することにより、平均粒径を10nm以下に超微粒化できることが報告されている。
【0008】
また、液相法に関する技術文献としては、例えば、非特許文献2が知られている。
【0009】
この非特許文献2は、チタン酸バリウム微粒子の粒径に及ぼす格子欠陥の役割について報告している。
【0010】
すなわち、液相法のうち、水熱合成法は、オートグレーブ中での高温・高圧下で、水を溶媒として原料粉を溶解させていることから、BaTiO3の結晶格子内に水酸基が容易に侵入し、その結果、誘電特性の低下を招くおそれがある。
【0011】
この非特許文献2では、水酸合成法により作製された平均粒径が89.62nmのBaTiO3微粒子に対し600℃を超える温度で熱処理を行なうことにより、結晶系が立方晶から正方晶に変化し、粒径の変化を伴うことなく、結晶格子から水酸基を除去できることが記載されている。
【0012】
一方、液相法のうち、マイクロエマルジョン法は、疎水性溶媒、界面活性剤、及び水を混合させて油中水滴(water in oil)型のマイクロエマルジョン溶液を作製し、このマイクロエマルジョン溶液中で原料を注入して加水分解反応を生じさせ、これにより超微粒子を得るようにしたものである。
【0013】
そして、例えば、特許文献1には、疎水性液体である分散媒、水および界面活性剤を含むマイクロエマルジョン中での原料の加水分解反応によって作製される金属酸化物超微粒子分散溶液であって、前記原料は複数の金属アルコキシドをアルコール中で混合して複合化した複合金属アルコキシド溶液からなり、前記マイクロエマルジョンに含まれる水量が、前記原料の加水分解に必要な水量の0.95倍以上3倍以下である金属酸化物超微粒子分散溶液が提案されている。
【0014】
この特許文献1では、マイクロエマルジョンに含まれる水量を原料の加水分解に必要な水量の0.95倍以上3倍以下に制限することにより、組成が均質で、粒子径及び形状が揃い且つ結晶化した金属酸化物超微粒子が高度に分散した金属酸化物超微粒子分散溶液を得ている。
【0015】
【特許文献1】特開2004−300013号公報
【非特許文献1】Keigo Suzuki et al.「Effect of oxygen injection on synthesizing barium titanate nanoparticles by plasma chemical vapor deposition」、Journal of Materials Science、2006年、No.41、p.5346 − 5358
【非特許文献2】Satoshi Wada et al.「Role of lattice defects in the size effect of barium titanate fine particles」、Journal of the ceramic society of Japan、1996年、No.104[5]、p.383 - 392
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、非特許文献1に記載されたプラズマCVD法等の気相法は、一般に、金属酸化物粒子を高温プロセスで作製するため、作製された金属酸化物粒子は、たとえ超微粒であっても粒子同士が容易に凝集してしまう。
【0017】
また、気相法では、例えば、BaTiO3微粒子を作製する場合、BaやTiは原子状態から冷却される際の均一核生成により微粒子を形成するが、気流中のBa原子やTi原子の濃度比を制御するのが難しい。すなわち、気相法では、BaTiO3微粒子を化学量論組成とするのが難しく、結晶性の高いBaTiO3超微粒子を得るのが困難である。
【0018】
また、非特許文献2では、水熱合成法で得られたBaTiO3を熱処理し、結晶格子に侵入した水酸基を除去することにより、結晶性を改善しようとしているが、BaTiO3粒子の平均粒径が89.62nmと大きく、10nm以下の超微粒子を対象としたものではない。
【0019】
これに対し特許文献1に記載されているマイクロエマルジョン法は、界面活性剤で包囲された水滴内での加水分解反応により超微粒子を生成しているため、粒度分布も比較的狭く、高純度の超微粒子材料を得ることができると考えられる。
【0020】
しかも、特許文献1は、マイクロエマルジョンに含まれる水量を精密に制御しているので、結晶性が良好で単分散している金属酸化物超微粒子の分散溶液を得ることが可能である。
【0021】
しかしながら、金属酸化物超微粒子を各種電子デバイスに応用するためには、分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を得なければならず、そのためには、金属酸化物超微粒子を包囲する界面活性剤を除去する必要がある。
【0022】
この場合、界面活性剤で包囲された状態で金属酸化物超微粒子を熱処理することにより、該界面活性剤を燃焼させて除去することが可能と考えられるが、単に熱処理をしたのみでは、界面活性剤が除去されても超微粒である金属酸化物粒子同士が凝集したり、或いは熱処理温度によっては粒成長するおそれがあり、このため10nm程度の超微粒子を単分散状態で確保するのは困難である。
【0023】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、高結晶性を有する単分散状態の金属酸化物超微粒子を容易に得ることができる金属酸化物超微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者は、マイクロエマルジョン法で作製された金属酸化物超微粒子分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を得る方法として、静電噴霧法に着目した。そして、前記分散溶液中の疎水性溶媒を導電率の高い溶媒で置換し、静電噴霧することにより、分散溶液中の超微粒の金属酸化物粒子に対応した微小液滴を発生させることができ、この微小液滴を気流中で熱処理を行なうことにより、分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を効率良く回収できるという知見を得た。
【0025】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る金属酸化物超微粒子の製造方法は、疎水性を有する第1の溶媒中に、界面活性剤で包囲された金属酸化物超微粒子を分散させた第1の分散溶液を作製し、前記第1の溶媒を、静電噴霧により微小液滴の発生が可能な高導電率を有する第2の溶媒で置換した第2の分散溶液を作製し、次いで、前記第2の分散溶液を静電噴霧させて微小液滴を発生させ、その後、前記微小液滴を気流中で分散させた状態で熱処理し、前記界面活性剤を除去することを特徴としている。
【0026】
尚、本発明で、「超微粒子」とは平均粒径が10nm以下の粒子をいうものとする。
【0027】
また、金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記第2の溶媒が、導電率が400μS/cm以上であることを特徴としている。
【0028】
前記第2の溶媒は、高導電率を有する他、金属酸化物超微粒子を安定して分散させる必要があり、そのためには固体電解質を有機溶媒に溶解させるのが好ましい。
【0029】
すなわち、金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記第2の溶媒が、固体電解質を有機溶媒に溶解させていることを特徴としている。
【0030】
また、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記有機溶媒が、極性溶媒であることを特徴としている。
【0031】
さらに、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記固体電解質が、有機酸であることを特徴としている。
【0032】
さらに、本発明者が鋭意研究を重ねたところ、良好な結晶性を確保するためには熱処理の温度を900℃以上にするのが好ましいことが分かった。
【0033】
すなわち、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記熱処理の温度が、900℃以上であることを特徴としている。
【0034】
また、前記微小液滴は高度に帯電しているため、搬送路中で微小液滴が装置内壁に付着し、その結果、金属酸化物超微粒子の回収効率が低下するおそれがある。
【0035】
そこで、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記微小液滴は、両性イオンを発生する両性イオン発生体を通過し、その後熱処理されることを特徴としている。
【0036】
さらに、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記両性イオン発生体は、α線を放射する放射性同位体であることを特徴としている。
【0037】
また、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記第1の分散溶液は、前記界面活性剤と水とが前記第1の溶媒中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、金属アルコキシド溶液を加水分解反応させて生成することを特徴としている。
【0038】
また、本発明の金属酸化物超微粒子の製造方法は、前記金属酸化物超微粒子が、チタン酸バリウム超微粒子であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0039】
本発明の製造方法によれば、疎水性を有する第1の溶媒中に、界面活性剤で包囲されたチタン酸バリウム等の金属酸化物超微粒子を分散させた第1の分散溶液を作製し、前記第1の溶媒を、静電噴霧により微小液滴の発生が可能な高導電率を有する第2の溶媒で置換した第2の分散溶液を作製し、次いで、前記第2の分散溶液を静電噴霧させて微小液滴を発生させ、その後、前記微小液滴を気流中で分散させた状態で熱処理し、前記界面活性剤を除去するが、静電噴霧により発生した微小液滴は高度に帯電することから、該微小液滴同士は互いに反発し、これにより、気流中での粒子同士の衝突による凝集が起こらず、第1の分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を効率良く得ることができる。
【0040】
また、微小液滴を気流中で分散させた状態で熱処理するので、粒子同士が凝集したり粒成長することもなく、界面活性剤のみを効率良く除去することができる。
【0041】
また、第2の溶媒は、導電率が400μS/cm以上であり、固体電解質(好ましくは、有機酸)を有機溶媒(好ましくは、極性溶媒)に予め溶解させているので、金属酸化物超微粒子の分散性を損なうことなく、第1の溶媒を高導電率の第2の溶媒に置換することができ、静電噴霧で発生する液滴を微小にできる。
【0042】
また、前記熱処理の温度が900℃以上であるので、粒子が結晶化するための十分なエネルギーが付与され、金属酸化物超微粒子の高結晶性を確保することができる。
【0043】
さらに、微小液滴は、α線を放射する放射性同位体等の両性イオン発生体を通過し、その後熱処理されるので、高度に帯電した微小液滴は前記両性イオン発生体により電気的に中和されることとなる。したがって、搬送路中で微小液滴が装置内壁等に付着するのを抑制することができ、第1の分散溶液から単分散状態の金属酸化物超微粒子を高効率で回収することが可能となる。
【0044】
また、前記第1の分散溶液は、前記界面活性剤と水とが前記第1の溶媒中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、金属アルコキシド溶液を加水分解反応させて生成するので、マイクロエマルジョン溶液内の微小水滴を反応場として加水分解反応を進行させることが可能となり、超微粒の金属酸化物を分散溶液中に分散浮遊させることが可能となる。このように分散溶液中の金属酸化物が超微粒であることから、界面活性剤が除去された金属酸化物も超微粒を維持した状態で回収することが可能となる。また、分散溶液中の金属酸化物超微粒子は予め化学量論組成に制御されていることから、極めて高い結晶性を有する単分散状態の金属酸化物超微粒子を第1の分散溶液から回収することが可能となる。
【0045】
すなわち、本発明によれば、高結晶性を有する単分散状態の金属酸化物超微粒子を高効率で得ることができ、積層セラミックコンデンサ、強誘電体メモリ、更には量子サイズ効果を利用した各種電子デバイスに応用できる金属酸化物超微粒子を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら詳説する。
【0047】
本発明に係る金属酸化物超微粒子の製造方法は、(1)マイクロエマルジョン法で金属酸化物超微粒子分散溶液(以下、「マイクロエマルジョン原溶液」又は単に「原溶液」という。)(第1の分散溶液)を作製し、(2)該原溶液中の疎水性溶媒を高導電率溶媒で置換してマイクロエマルジョン置換溶液(以下、単に「置換溶液」ともいう。)(第2の分散溶液)を作製し、(3)静電噴霧法を用いて前記置換溶液から微小液滴を発生させ、次いで、該微小液滴を熱処理して界面活性剤を燃焼させ、これにより高結晶性を有する単分散状態の金属酸化物超微粒子を得ている。
【0048】
以下、その製造方法を順次説明する。
【0049】
(1)マイクロエマルジョン原溶液の作製
図1は、マイクロエマルジョン原溶液の一実施の形態を模式的に示した正面図であって、この原溶液1は、金属酸化物超微粒子2が、界面活性剤3に包囲された形態で疎水性溶媒4中に分散浮遊しており、斯かる原溶液1が、容器5に収容されている。
【0050】
界面活性剤3は、図2に示すように、主界面活性剤6と副界面活性剤7とを有している。
【0051】
また、主界面活性剤6は、疎水性基6aと親水性基6bとを有し、疎水性基6aは疎水性溶媒4に吸着され、親水性基6bは金属酸化物超微粒子2に吸着されている。
【0052】
また、副界面活性剤7は、マイクロエマルジョン作製時において、主界面活性剤6の親水性基6bの内部に入って水との界面エネルギーを低下させ、かつ、親水性基6bの側鎖長による立体障害を和らげる効果があり、これにより水滴の安定化に寄与する。そして、金属酸化物超微粒子2が生成される際には、主界面活性剤6の親水性基6bと共に、金属酸化物超微粒子2を包囲する形態で金属酸化物超微粒子2に吸着され、金属酸化物超微粒子2を疎水性溶媒4中に安定して分散させるのに寄与する。
【0053】
次に、この原溶液1の製造方法を詳述する。
【0054】
まず、疎水性溶媒(第1の溶媒)4、界面活性剤3(主界面活性剤6及び副界面活性剤7)、及び水を容器5に入れて混合・撹拌すると、図3(a)に示すように、主界面活性剤6の疎水性基6aは疎水性溶媒4に吸着される一方、主界面活性剤6の親水性基6bは水に吸着され、さらに副界面活性剤7は主表面活性剤6の親水性基6bに入り込んで水との界面エネルギーが低下する。そしてその結果、水は超微小径の水滴8となって、界面活性剤3(主界面活性剤6及び副界面活性剤7)の内部に閉じ込められる。すなわち、水滴8は界面活性剤3に包囲されるような形態で、疎水性溶媒4中に分散し、これにより油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液が形成される。
【0055】
ここで、疎水性溶媒4としては、シクロへキサン、ヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、オクタンなどの無極性炭化水素、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテルなどのエーテル、ケロシンなどの石油系炭化水素等を使用することができる。
【0056】
また、主界面活性剤6としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンラウリルエーテル等の非イオン性界面活性剤、ジ−(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムやドデシル硫酸ナトリウム等のイオン性界面活性剤のいずれも使用することができるが、イオン性界面活性剤の場合には、膜成分に余分な成分が残存するので、非イオン性の界面活性剤を使用するのが好ましい。
【0057】
また、副界面活性剤7としては、化学式CmH2m+1OH(ただし、mは4〜10)で表される中鎖アルコール、例えば、1−オクタノール(C8H17OH)を使用することができる。すなわち、炭素数mは、主界面活性剤6の親水性基6bの側鎖長nの長さにも依存するが、炭素数mが4未満では、親水性が上がり過ぎるため、マイクロエマルジョン作製時に、水滴内に溶解してしまい、このため副界面活性剤7が主界面活性剤6と水との界面のみに存在しなくなるおそれがある。一方、炭素数mが10を超えると疎水性が大きくなり過ぎたり、立体障害が大きくなったりするおそれがあり、好ましくない。
【0058】
尚、界面活性剤3と水の混合比率は、最終生成物である金属酸化物超微粒子2の平均粒径が10nm以下(好ましくは、5nm以下)となるように、例えば、水/界面活性剤=0.005〜0.05となるように配合されて容器5に投入される。
【0059】
次に、金属酸化物超微粒子の原料となる金属アルコキシド溶液を用意する。例えば、金属酸化物が酸化チタンや酸化亜鉛の場合はチタンアルコキシド溶液や亜鉛アルコキシド溶液を用意する。
【0060】
また、金属酸化物が複合酸化物である場合は、複合酸化物を構成する金属の各アルコキシドをエタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール中で混合して複合化し、複合金属アルコキシド溶液を作製する。
【0061】
尚、複合金属アルコキシドとしては、バリウムチタンイソプロポキシド、バリウムチタンメトキシド、バリウムチタンエトキシド、バリウムチタンプロポキシド、バリウムチタンブトキシド、ストロンチウムチタンメトキシド、ストロウチウムチタンエトキシド、マグネシウムチタンメトキシド、マグネシウムチタンエトキシド等、所望する金属酸化物に応じた複合金属アルコキシドを適宜使用することができる。
【0062】
次に、このようにして作製された金属アルコキシド溶液をマイクロエマルジョン溶液に滴下し、Ar雰囲気等の不活性雰囲気下、所定時間、撹拌混合する。そして、これにより金属アルコキシド溶液と水滴8との間で加水分解反応が生じる。
【0063】
例えば、金属アルコキシド溶液としてバリウムチタンイソプロポキシド溶液を使用した場合は、化学反応式(A)に示すような加水分解反応が生じ、水滴径に応じた超微小径のBaTiO3超微粒子2が生成される。
【0064】
BaTi(OCH(CH3)2)6+3H2O
→BaTiO3+6C3H7OH ・・・(A)
すなわち、界面活性剤3で包囲された水滴8を反応場として加水分解反応が進行し、これにより、図3(b)に示すように、水滴8が消費されて金属酸化物超微粒子2が生成され、界面活性剤3で包囲された金属酸化物超微粒子2の分散浮遊したマイクロエマルジョン原溶液1が作製される。
【0065】
(2)マイクロエマルジョン置換溶液の作製
後述する静電噴霧で発生する液滴径Ddと、導電率(電気伝導度)Kとの間には下記数式(1)で示す関係がある。
【0066】
【数1】
【0067】
ここで、Qは置換溶液の供給速度、εrは比誘電率、ε0は真空の誘電率、Kは導電率、G(εr)は比誘電率εrによって決まる定数である。
【0068】
数式(1)から明らかなように、前記液滴径Ddは、導電率Kが高くなるほど小さくなる。したがって、超微小径を保持したまま金属酸化物超微粒子2を回収するためには、一つの液滴中に一つの金属酸化物超微粒子2が入るような(one particle in one droplet) 微小な液滴径Ddでもって液滴を発生させる必要がある。そしてそのためには溶液(溶媒)の導電率Kを高くする必要がある。
【0069】
そこで、本実施の形態では、原溶液1の疎水性溶媒4を高導電率溶媒(第2の溶媒)で置換し、これにより静電噴霧での微小液滴の発生に適したマイクロエマルジョン置換溶液を得ている。
【0070】
前記高導電率溶媒は、具体的には、導電率Kが400μS/cm以上となるように調製される。これは、導電率Kが400μS/cm未満の場合は、原溶液1中の金属酸化物超微粒子2が10nm以下と超微粒であっても、静電噴霧される液滴径Ddが大きくなるため、液滴蒸発の際に粒子同士が凝集してしまい、このため所望粒径の超微粒子を得るのが困難になるおそれがあるからである。
【0071】
また、置換溶液は、溶媒置換後も金属酸化物超微粒子2が沈降することなく、安定した分散状態を保持する必要がある。
【0072】
そしてそのためには、高導電率溶媒は、有機溶媒として極性溶媒を使用し、この極性溶媒に固体電解質を溶解させて作製するのが好ましい。これは、極性溶媒は導電率が高く、かつ電解質を溶解しやすいためであり、これにより金属酸化物超微粒子2の分散性を損なうことなく、高導電率を得ることができるからである。
【0073】
そして、このような極性溶媒の例としては、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、ベンジルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジイソプロピルエーテル、アセトン、ジイソブチルケトン、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、酢酸、2−エチルヘキサン酸、2−ジメチルアミノエタノール、2−アミノエタノール、2−メチルアミノエタノール、2,2′−イミノジエタノール、2,2′,2″−ニトリルエタノール、2−エチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、n−エチルジエタノールアミン、n−ブチルジエタノールアミン、2−ジ−n−ブチルアミノエタノール、シクロペンチルメチルエーテル等を挙げることができる。
【0074】
また、固体電解質は有機酸であるのが好ましい。これは、無機固体電解質、例えば、NaClの場合、NaやClがイオンとして金属酸化物中に不純物として混入してしまうおそれがあるのに対し、有機酸は炭素、酸素、水素で構成されるため、熱処理により燃焼してガスとなり、不純物として金属酸化物中に混入しないからである。
【0075】
このような有機酸の例としては、酢酸アンモニウム、酒石酸、マレイン酸、こはく酸、マロン酸、りんご酸、アジピン酸、酒石酸アンモニウム、マンニトール、エチレンジアミン四酢酸、トリメチロールプロパン、フタル酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等を挙げることができる。
【0076】
このように上述した極性溶媒及び有機酸の中から、導電率Kが400μS/cm以上となるような組み合わせを選択して調製することにより、所望の高導電率溶媒を得ることができる。
【0077】
尚、高導電率溶媒の適正なモル濃度(極性溶媒に対する有機酸の調合比率)は、使用する極性溶媒や有機酸によって異なる。すなわち、高導電率溶媒のモル濃度が小さくなると、導電率Kが400μS/cm未満となって所望の微小液滴を発生させることができなくなる。一方、高導電率溶媒のモル濃度が過剰となって飽和溶解度を超えてしまうと、有機酸が極性溶媒に完全には溶解しなくなり、このため静電噴霧に適した置換溶液を作製することができなくなる。したがって、高導電率溶媒は、導電率Kが400μS/cm以上でかつ飽和溶解度を超えないように、使用する極性溶媒や有機酸の物性に応じ、適正範囲に調合されて作製される。
【0078】
また、疎水性溶媒4の高導電率溶媒への置換は以下のようにして行なうことができる。すなわち、前記高導電率溶媒とマイクロエマルジョン原溶液1とを等量ずつ混合し、エバポレータで疎水性溶媒4を減圧蒸発させる。例えば、シクロヘキサンは揮発性が高いため、エバポレータで容易に蒸発させることができ、これにより溶媒置換され、所望のマイクロエマルジョン置換溶液を得ることができる。
【0079】
(3)静電噴霧及び熱処理
図4は、マイクロエマルジョン置換溶液から金属酸化物超微粒子2を回収するための製造工程を模式的に示した工程図である。
【0080】
図4(a)は、高導電率溶媒9で置換された置換溶液10が容器5に収容されている状態を示している。
【0081】
図4(b)は静電噴霧装置を模式的に示した図であって、該静電噴霧装置は、置換溶液10が充填されるシリンダ11と、シリンダ11に充填された置換溶液10を押し出すマイクロフィーダ12と、微小液滴を発生する微小液滴発生部13と、高電圧印加部14とを有している。
【0082】
また、微小液滴発生部13は、図5に示すように、シリンダ11に連結された針部15と、一端が接地された一対の対向電極16とを備え、キャリアガスにより微小液滴17が下流側に搬送可能となるように構成されている。
【0083】
そして、置換溶液10がシリンダ11に充填され、マイクロフィーダー12により一定流量の置換溶液10がシリンダ11から押し出され、針部15の先端に供給される。この際、置換溶液10には表面張力が作用するが、電圧印加部14により針部15に数kVの高電圧が印加されると、針部15の先端と対向電極16との間で高い静電場が形成される。そして、針部15への高電圧の印加により静電気的引力が増加し、前記表面張力を超えると、置換溶液10は円錐形に歪められ、液柱が分裂して微小液滴17を発生し、対向電極16側に吸引される。
【0084】
この微小液滴17は、静電気によって高度に帯電していることから、微小液滴17同士は互いに反発し合い、キャリアガスにより効率良く下流側に搬送される。
【0085】
尚、キャリアガスとしては、空気、酸素、窒素、二酸化炭素を使用することができるが、容易に電離するアルゴンガスは使用に適さない。
【0086】
さらに、微小液滴発生部13の下流側には、図4(c)に示すように両性イオン発生体18が配されている。すなわち、上述したように微小液滴17は高度に帯電しているため、搬送路中の装置内壁に微小液滴17が付着するおそれがある。
【0087】
そこで、本実施の形態では、搬送路中に両性イオン発生体18を配し、微小液滴17を該両性イオン発生体18に通過させることにより、帯電状態を電気的に中和させ、これにより微小液滴17が装置内壁等に付着することもなく、高効率で搬送することができる。
【0088】
そして、このような両性イオン発生体18としては、両性イオンを発生するものであれば特に限定されないが、α線を放射する対射性同位体、例えば、質量数が241の241Amを好んで使用することができる。
【0089】
次に、この微小液滴17は、図4(d)に示すように、加熱炉19に供給され、熱処理される。そして、金属酸化物超微粒子2を包囲している界面活性剤3が燃焼され、除去される。
【0090】
尚、この場合、熱処理温度は900℃以上に設定するのが好ましい。これは熱処理温度が900℃未満では、熱処理温度が低く、金属酸化物超微粒子2が結晶化するための十分なエネルギーが与えられなくなるおそれがあるからである。
【0091】
その後、図4(e)に示すように、加熱炉19を通過した金属酸化物超微粒子2を、任意の基板に堆積させることができる。この際、針部15に印加された電圧と逆バイアスの電圧を前記基板に印加することによって、金属酸化物超微粒子2を効率良く捕集ることが可能となる。
【0092】
このように本実施の形態によれば、界面活性剤3で包囲された金属酸化物超微粒子2を疎水性溶媒4中に分散させた原溶液1を作製し、疎水性溶媒4を、400μS/cm以上の高導電率を有する高導電率溶媒9と置換して置換溶液10を作製し、その後、前記置換溶液10を静電噴霧させて微小液滴17を発生させているので、静電噴霧により発生した微小液滴17は高度に帯電し、したがって微小液滴17同士は反発し合って凝集することはない。そしてこの後、キャリアガスにより微小液滴17を下流側に搬送し、加熱炉19内の気流中で微小液滴17を分散させた状態で熱処理し、界面活性剤3を燃焼させて除去しているので、気流中での粒子同士の衝突による凝集も起こらず、単分散状態の金属酸化物超微粒子2を得ることができる。
【0093】
また、微小液滴17を気流中で分散させた状態で熱処理するので、粒子同士が凝集したり粒成長することもなく、界面活性剤3のみを効率良く除去することができる。
【0094】
また、微小液滴17は、α線を放射する241Am等の両性イオン発生体を通過し、その後、熱処理されるので、高度に帯電した微小液滴17は電気的に中和されることとなり、これにより搬送路中で微小液滴17が装置内壁等に付着するのを回避することができ、高効率で単分散状態の金属酸化物超微粒子を得ることが可能となる。
【0095】
また、原溶液1はマイクロエマルジョン法で作製されることから、原溶液1中を分散浮遊している金属酸化物超微粒子は、予め化学量論組成に制御されており、したがって、極めて高い結晶性を有する単分散の金属酸化物超微粒子を得ることができる。
【0096】
このように本実施の形態によれば、高結晶性かつ単分散状態の金属酸化物超微粒子を高効率で得ることができ、積層セラミックコンデンサ、強誘電体メモリ、その他、金属酸化物粒子の量子サイズ効果を利用した各種電子デバイスに応用できる金属酸化物超微粒子を実現することができる。
【0097】
次に、チタン酸バリウム(BaTiO3)超微粒子を一例として、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明の金属酸化物超微粒子は、チタン酸バリウム超微粒子に限定されるものではなく、その他の各種金属酸化物超微粒子の製造方法にも同様に適用できるのはいうまでもない。
【実施例】
【0098】
〔試料の作製〕
(1)マイクロエマルジョン原溶液の作製
まず、疎水性溶媒としシクロヘキサン、主界面活性剤として、ポリオキシエチレンの重合度が10のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(以下、「NPE(10)」という。)、副界面活性剤として1−オクタノールを用い、Arガスでバブリングを行いながら、水:1−オクタノール:NPE(10):シクロヘキサン=0.2:9:7.5:150となるように、これらを混合、攪拌し、これにより油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液を作製した。
【0099】
次に、金属アルコキシド溶液としてバリウムチタンイソプロポキシド溶液を作製した。
【0100】
すなわち、Ar雰囲気のグローブボックス中でバリウムイソプロポキシド4gをイソプロピルアルコール160ml、ベンゼン40mlの混合溶媒に混合して溶解し、バリウムアルコキシド溶液とした後、これに等モルのチタンイソプロポキシド溶液を滴下して一晩混合し、淡黄色透明のバリウムチタンイソプロポキシド溶液を得た。
【0101】
次に、マイクロエマルジョン中の水量がバリウムチタンイソプロポキシドの加水分解に必要な水量の1.2倍となるようにマイクロピペットで分取し、チューブポンプを用いて上記マイクロエマルジョン溶液に滴下した。そして、そのまま1日、Ar雰囲気のグローブボックス中で攪拌混合を行い、マイクロエマルジョン原溶液を得た。
【0102】
得られた原溶液は、淡褐色透明であり、加水分解により生成したチタン酸バリウム超微粒子が高度に分散していることが確認された。また、該原溶液の一部を分取し、アセトンを加えて沈殿させ、遠心分離を行った後、有機溶媒で洗浄を行った試料の結晶相を粉末X線回折法により同定したところ、結晶化したチタン酸バリウムの単相であることが確認された。また、高分解能SEMにより、粒子形状の観察を行ったところ、8nm程度と非常に微細でしかも粒度分布の揃った超微粒子であることが確認された。
【0103】
(2)マイクロエマルジョン置換溶液の作製
〔発明を実施するための最良の形態〕で列挙した種々の有機溶媒と固体電解質(有機酸)を使用し、高導電率溶媒を試作したところ、4種類の組み合わせについて、表1に示すようなモル濃度範囲で導電率Kが400μS/cm以上の高導電率溶媒を得た。
【0104】
【表1】
【0105】
そして、これら4種類のうち、導電率Kが437μS/cmの高導電率溶媒、すなわち、有機溶媒にテトラヒドロフルフリルアルコール、固体電解質に酢酸アンモニウムを使用した試料1を使用し、試料1の溶液と前記原溶液とを等量ずつ混合し、エバポレータでシクロヘキサンを減圧蒸発させ、これにより置換溶液を作製した。
【0106】
(3)静電噴霧及び熱処理
上記(2)で作製した置換溶液をシリンダに充填し、マイクロフィーダーにより0.1mL/hの供給速度でシリンダから針部に置換溶液を供給した。そして、針部に2.8kVの電圧を印加して対向電極との間に静電場を形成し、針部先端から微小液滴を噴霧させた。また、流量が1.0SLM、圧力が8.98×104Pa(675torr)となるように制御された空気をキャリアガスとして、微小液滴を下流側に搬送し、放射性同位体である241Amの内部を通過させ、その後、管状型電気炉に微小液滴を案内した。そして、管状型電気炉では900℃の温度で微小液滴を熱処理し、これにより界面活性剤が燃焼され除去された実施例のBaTiO3超微粒子を得た。
【0107】
〔試料の観察〕
実施例試料を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; 以下、「TEM」という。)で観察した。
【0108】
図6は実施例試料のTEM像である。
【0109】
この図6から分かるように、得られた粒子は極めて高い分散性を有することが確認された。
【0110】
図7は、実施例試料の結晶格子を示すTEM像であり、BaTiO3超微粒子は10nm以下の粒径でも高い結晶性を示すことが分かった。また、粒子表面の輪郭が非常に明瞭に観察することができ、これにより界面活性剤が完全に燃焼・除去されていることが分かった。
【0111】
図8は、実施例試料の電子回折図形である。また、図8右上の挿図は、ペロブスカイト構造BaTiO3の参考回折パターンを示している。前記挿図の縦軸は強度(a.u.)、横軸は回折位置である。図中、(100)、(110)・・・はBaTiO3の面指数を示している。
【0112】
この電子回折図形に示されるデバイリングの位置は、BaTiO3の回折ピーク位置と一致する。したがって、この図8から、粒子が微小化してもペロブスカイト構造を維持していることが分かる。
【0113】
次に、比較例を作製し、実施例の優位性を確認した。
【比較例】
【0114】
〔比較例1〕
マイクロエマルジョン原溶液(溶媒:シクロヘキサン)を使用し、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧を行おうとしたが、安定した静電噴霧を行うことができなかった。これは、シクロヘキサンは揮発性が極めて高く、このためゲル状の固形物、すなわち界面活性剤で包囲されたBaTiO3超微粒子が針部の先端に残留し、液滴発生状態が不安定になったためと思われる。
【0115】
〔比較例2〕
シクロヘキサンを1−オクタノール溶媒で置換したマイクロエマルジョン置換溶液を作製した。尚、この1−オクタノールの導電率は7μS/cmであった。
【0116】
この置換溶液を使用し、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧し、熱処理して比較例2の試料を作製した。
【0117】
図9は比較例2の試料のTEM像である。
【0118】
この図9から明らかなように、比較例2の試料は、粒子径が100nm以上のものが多く、本発明で得ようとしているBaTiO3超微粒子を得ることはできなかった。
【0119】
また、図10は、比較例2の試料の拡大TEM像であり、図11は比較例2の試料の電子回折図形である。
【0120】
この図10から明らかなように、比較例2の試料は格子縞を観察することができなかった。
【0121】
また、図11の電子回折図形では、図5のような明確な回折パターンを得ることができず、ハローパターンが確認された。
【0122】
以上から比較例2の試料は、全く結晶化していないことが分かった。これは、溶媒である1−オクタノールの導電率Kが7μS/cmと低いため、針部から噴霧される液滴サイズも大きくなり、このため電気炉の熱が溶媒の燃焼や蒸発に費やされ、結晶化に十分なエネルギーが与えられなかったためと思われる。
【0123】
〔比較例3〕
キャリアガスとして空気に代えてアルゴンを使用した以外は、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧をしようとした。しかしながら、針部に高電圧を印加すると該針部と対向電極との間に放電が発生し、安定した静電噴霧を行なうことができなかった。これは、アルゴンが空気等に比べて電離しやすいためと思われる。
【0124】
〔比較例4〕
微小液滴を放射性同位体241Amに通過させなかった以外は、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧及び熱処理を行い、搬送粒子個数を粒子個数計測装置(凝縮核カウンター)で測定した。
【0125】
図12は、241Amを配さなかった比較例4と、241Amを配した実施例の搬送粒子個数を示している。
【0126】
図中、横軸が繰り返し回数、縦軸は搬送粒子個数(個/cc)である。
【0127】
この図12から明らかなように、241Amを配さなかった比較例4は、241Amを配した実施例に比べて搬送粒子個数が1/10程度に大幅に低下している。
【0128】
したがって、BaTiO3超微粒子を効率良く得るためには、微小液滴を241Am等の放射性同位体に通過させるのが好ましいことが分かった。
【0129】
〔比較例5〕
熱処理温度を700℃にした以外は、〔実施例〕と同様の方法・手順で静電噴霧・熱処理を行い、比較例5の試料を得た。
【0130】
図13は、比較例5の試料の電子回折図形であり、また、図13右上の挿図は、ペロブスカイト構造BaTiO3の参考回折パターンを示している。前記挿図の縦軸は強度(a.u.)、横軸は回折位置である。図中、(100)、(110)・・・はBaTiO3の面指数を示している。
【0131】
この図13から明らかなように、比較例5の試料は、電子折図形のデバイリングが不明瞭であり、結晶性が低下していることが分かった。これは熱処理温度が低く、粒子の結晶化のために十分なエネルギーが与えられなかったためと思われる。
【0132】
〔比較例6〕
気相法の一種であるレーザーアブレーション法で比較例6の試料(BaTiO3粒子)を作製した。すなわち、BaTiO3をターゲットにしてパルスレーザ光を照射し、放出された原子を対向した基板上に堆積させ、比較例6の試料を作製した。尚、試料の作製条件は、レーザー強度:1GW/cm2、熱処理温度:900℃、圧力:400Pa(3torr)で行なった。
【0133】
図14は比較例6の試料のTEM像である。
【0134】
この図14から明らかなように所望の結晶性を有するBaTiO3超微粒子を得ることができないことが確認された。
【0135】
これは、レーザアブレーション法のような気相法ではBa原子とTi原子の組成制御が困難であるため、結晶性が低下したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の製造方法で使用されるマイクロエマルジョン原溶液の一実施の形態を模式的に示した正面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】マイクロエマルジョン原溶液の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【図4】本発明に係る金属酸化物超微粒子の製造方法の一実施の形態を模式的に示した要部工程図である。
【図5】微小液滴発生部の拡大模式図である。
【図6】実施例試料のTEM像である。
【図7】実施例試料の結晶格子を示すTEM像である。
【図8】実施例試料の電子回折図形である。
【図9】比較例2の試料のTEM像である。
【図10】比較例2の試料の拡大TEM像である。
【図11】比較例2の試料の電子回折図形である。
【図12】241Amを配さなかった比較例4と、241Amを配した実施例の搬送粒子個数を示す図である。
【図13】比較例5の試料の電子回折図形である。
【図14】比較例6の試料のTEM像である。
【符号の説明】
【0137】
1 マイクロエマルジョン原溶液(第1の分散溶液)
2 金属酸化物超微粒子
3 界面活性剤
4 疎水性溶媒(第1の溶媒)
9 高導電率溶媒(第2の溶媒)
10 マイクロエマルジョン置換溶液(第2の分散溶液)
17 微小液滴
18 両イオン発生体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性を有する第1の溶媒中に、界面活性剤で包囲された金属酸化物超微粒子を分散させた第1の分散溶液を作製し、
前記第1の溶媒を、静電噴霧により微小液滴の発生が可能な高導電率を有する第2の溶媒で置換した第2の分散溶液を作製し、
次いで、前記第2の分散溶液を静電噴霧させて微小液滴を発生させ、
その後、前記微小液滴を気流中で分散させた状態で熱処理し、前記界面活性剤を除去することを特徴とする金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第2の溶媒は、導電率が400μS/cm以上であることを特徴とする請求項1記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の溶媒は、固体電解質を有機溶媒に溶解させていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒は、極性溶媒であることを特徴とする請求項3記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記固体電解質は、有機酸であることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理の温度は、900℃以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記微小液滴は、両性イオンを発生する両性イオン発生体を通過した後、熱処理されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記両性イオン発生体は、α線を放射する放射性同位体であることを特徴とする請求項7記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記第1の分散溶液は、前記界面活性剤と水とが前記第1の溶媒中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、金属アルコキシド溶液を加水分解反応させて生成することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物超微粒子は、チタン酸バリウム超微粒子であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項1】
疎水性を有する第1の溶媒中に、界面活性剤で包囲された金属酸化物超微粒子を分散させた第1の分散溶液を作製し、
前記第1の溶媒を、静電噴霧により微小液滴の発生が可能な高導電率を有する第2の溶媒で置換した第2の分散溶液を作製し、
次いで、前記第2の分散溶液を静電噴霧させて微小液滴を発生させ、
その後、前記微小液滴を気流中で分散させた状態で熱処理し、前記界面活性剤を除去することを特徴とする金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第2の溶媒は、導電率が400μS/cm以上であることを特徴とする請求項1記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の溶媒は、固体電解質を有機溶媒に溶解させていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒は、極性溶媒であることを特徴とする請求項3記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記固体電解質は、有機酸であることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理の温度は、900℃以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記微小液滴は、両性イオンを発生する両性イオン発生体を通過した後、熱処理されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項8】
前記両性イオン発生体は、α線を放射する放射性同位体であることを特徴とする請求項7記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項9】
前記第1の分散溶液は、前記界面活性剤と水とが前記第1の溶媒中に分散した油中水滴型のマイクロエマルジョン溶液中で、金属アルコキシド溶液を加水分解反応させて生成することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物超微粒子は、チタン酸バリウム超微粒子であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の金属酸化物超微粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−30821(P2010−30821A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193646(P2008−193646)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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