説明

金属鋳造材の連続鋳造方法および連続鋳造装置、ならびに金属鋳造材および金属加工材

【課題】 金属材の連続鋳造方法において、表面品質を低下させることなく、低コストで溶湯の凝着を容易に防止する。
【解決手段】 複数の回転モールド部材10,11を鋳造空間を囲んで対向配置し、これらの回転モールド部材10,11を鋳出し方向に駆動することによって金属鋳造材Sを製造する連続鋳造方法において、少なくとも1つの回転モールド部材10または11の溶湯接触面に、潤滑油を間欠的に噴霧塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属鋳造材の連続鋳造方法に関し、さらにこの連続鋳造方法を実施するための連続鋳造装置およびこの連続鋳造方法によって製造された金属鋳造材、ならびにこの金属鋳造材から製造された金属加工材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製線材の連続鋳造には、複数の回転モールド部材を鋳造空間を囲んで対向配置し、これらの回転モールド部材を鋳出し方向に駆動するとともに、溶湯を鋳造空間に供給することによって金属鋳造材を製造する連続鋳造装置が用いられる。例えば、プロペルチ型鋳造装置では、外周面に凹溝が設けられた鋳造輪と、この凹溝を閉じる無端ベルトとを組み合わせによる回転モールド部材が用いられる。
【0003】
これらの回転モールド部材においては、溶湯の凝着を防止するために、回転モールド部材の内面に潤滑油を塗布しながら鋳造したり、あるいは回転モールド部材の内面に潤滑層を設けるといった方策が採られている(特許文献1,2,3参照)。
【0004】
潤滑油を塗布する方法では、空気流により発生する負圧を利用した噴霧装置で潤滑油を噴霧塗布したり、潤滑油を含浸させた繊維布帛を回転モールド部材の内面に押し付けて塗布する方法が採られている。また、潤滑油として耐熱性の高い化学合成油やひまし油等の植物油が用いられている。
【0005】
また、回転モールド部材の内面に潤滑層を設ける方法としては、特許文献1において、アルコールにフッ化黒鉛粉末を分散させた液をモールド表面に塗布したり、金属メッキ層内にフッ化黒鉛を分散させることにより、フッ化黒鉛による潤滑層を形成することが提案されている。また、特許文献2ではアセチレンガスの不完全燃焼で発生するススを付着させた潤滑層が提案されている。また、特許文献3では、耐火性セラミックを溶射して潤滑層とすることが提案されている。
【特許文献1】特開昭59−18048号公報
【特許文献2】特開昭53−123333号公報
【特許文献1】特開昭59−174254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した潤滑油の塗布方法では微量塗布が困難であるため、薄い油膜を形成すれば十分に凝着防止効果を得られるにも拘わらず、過剰量の潤滑油が塗布されていた。そして、過剰量の潤滑油が鋳造材の表面品質を低下させるとともに、潤滑油コストが高いという問題点があった。
【0007】
一方、また、特許文献1に記載されたフッ化黒鉛による潤滑層を形成する方法では、潤滑層が高温で分解され長期間の効果持続が困難であり、潤滑油塗布よりもさらにコストが高いという問題点があった。また、特許文献2,3に記載されたスス皮膜による潤滑層やセラミック溶射による潤滑層もまた、潤滑層形成コストが高いという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した技術背景に鑑み、鋳造材表面品質を低下させることなく、低コストで溶湯の凝着を容易に防止できる金属材の連続鋳造方法の提供を目的とする。
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の金属材の連続鋳造方法は、下記〔1〕〜〔9〕に記載の構成を有する。
〔1〕 複数の回転モールド部材を鋳造空間を囲んで対向配置し、これらの回転モールド部材を鋳出し方向に駆動することによって金属鋳造材を製造する連続鋳造方法において、少なくとも1つの回転モールド部材の溶湯接触面に、潤滑油を間欠的に噴霧塗布することを特徴とする金属鋳造材の連続鋳造方法。
〔2〕 複数の回転モールド部材は、外周面に凹溝を有する鋳造ホイールとこの凹溝を閉じる連続ベルトである〔1〕に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
〔3〕 鋳造ホイールの凹溝に潤滑油を塗布する〔2〕に記載の金属材の連続鋳造方法。
〔4〕 連続ベルトに潤滑油を塗布する〔2〕または〔3〕に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
〔5〕 回転モールド部材の溶湯接触面の移動速度がV(mm/s)、1回の噴霧時間がt(s)、回転モールドの静止状態において1回の噴霧によって塗布される範囲の鋳出し方向における距離がLp(mm)のとき、1秒間の噴霧回数(T)をV/(Lp+V×t)〜3V/(Lp+V×t)回とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
〔6〕 潤滑油の噴霧をプランジャーポンプにより行う〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
〔7〕 1回の噴霧時間が0.001〜1sである〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
〔8〕 1回の噴霧量が0.001〜1mlである〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
〔9〕 潤滑油の総塗布量が5〜150ml/hである〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
【0010】
また、本発明の金属鋳造材の連続鋳造装置は下記〔10〕に記載の構成を有する。
〔10〕 鋳造空間を囲んで対向配置され、鋳出し方向に駆動される複数の回転モールド部材と、少なくとも一部の回転モールド部材に対して潤滑油を間欠的に噴霧する潤滑油噴霧手段とを備えることを特徴とする連続鋳造装置。
【0011】
また、本発明の金属材鋳造材は下記〔11〕に記載の構成を有する。
〔11〕 〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載された連続鋳造方法により製造されたことを特徴とする金属鋳造材。
【0012】
また、本発明の金属加工材は下記〔12〕〔13〕に記載の構成を有する。
〔12〕 〔11〕に記載された金属鋳造材に二次加工してなることを特徴とする金属加工材。
〔13〕 二次加工として、塑性加工、切削加工のうちの1種以上の加工を施された〔12〕に記載の金属加工材。
【発明の効果】
【0013】
〔1〕の発明にかかる金属鋳造材の連続鋳造方法によれば、回転モールド部材に適正量の潤滑油を塗布して凝着を防止できる。また、過剰な潤滑油による表面品質低下が防止されて、表面品質の優れた金属鋳造材を製造することができる。しかも、潤滑油噴霧のタイミングや塗布量の制御であるから低コストで実施できる。
【0014】
〔2〕の発明によれば、回転モールド部材として鋳造ホイールとこの凹溝を閉じる連続ベルトを用いる連続鋳造方法において、上記効果を奏することができる。
【0015】
〔3〕の発明によれば、鋳造ホイールの凹溝に対して上記効果を奏することができる。
【0016】
〔4〕の発明によれば、連続ベルトに対して上記効果を奏することができる。
【0017】
〔5〕の発明によれば、噴霧範囲が途切れることなく連続させることができる。
【0018】
〔6〕の発明によれば、潤滑油を微量かつ均一に塗布することができる。
【0019】
〔7〕の発明によれば、潤滑油を微量かつ均一に塗布することができる。
【0020】
〔8〕の発明によれば、潤滑油を微量かつ均一に塗布することができる。
【0021】
〔9〕の発明によれば、潤滑油の総塗布量が適正である。
【0022】
〔10〕の発明にかかる連続鋳造装置によれば、〔1〕〜〔9〕に記載された連続鋳造方法を実施して、表面品質の優れた金属鋳造材を製造できる。
【0023】
〔11〕にかかる金属鋳造材は、表面品質の優れた金属鋳造材である。
【0024】
〔12〕にかかる金属加工材によれば、〔11〕に記載された金属鋳造材から任意形状が得られる。
【0025】
〔13〕にかかる金属加工材によれば、〔11〕に記載された金属鋳造材から、塑性加工および/または切削加工によって任意形状が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の金属鋳造材の連続鋳造方法は、回転モールド部材の溶湯接触面に潤滑油を間欠的に噴霧塗布することにより、適正量の潤滑油を塗布するものである。
【0027】
以下に、具体的な連続鋳造方法およびこの方法を実施する連続鋳造装置を参照しつつ、本発明について詳述する。
【0028】
図1および図2に本発明の連続鋳造方法を実施する連続鋳造装置(1)を模式的に示す。
【0029】
連続鋳造装置(1)は、鋳造ホイール(10)と連続ベルト(11)とを備える。
【0030】
前記鋳造ホイール(10)は外周面に断面の凹溝(12)を有し、ホイール内部に設けられたノズル(13a)およびホイールの外側に配置されたノズル(13b)から冷却水を供給することによって冷却可能となされている。一方、連続ベルト(11)は、前記鋳造ホイール(10)と張力調整用ホイール(14)とに掛けられた環状の無端ベルトであり、鋳造ホイール(10)の凹溝(12)を閉じて鋳造空間(15)を形成している。また、前記連続ベルト(11)は、外側から冷却水を供給して冷却することも、外側に加熱器を配置して加熱することもできる。
【0031】
前記鋳造ホイール(10)の凹溝(12)には噴霧装置のノズル(16)から潤滑油が噴霧塗布される。また、連続ベルト(11)には噴射装置のノズル(17)から潤滑油が噴霧塗布される。これらにより、鋳造空間(15)の内面全域に潤滑油が噴霧塗布される。前記ノズル(16)(17)からの潤滑油の噴霧は所定サイクルで間欠的に行われる。
【0032】
図1において、(18)は連続ベルト(11)を鋳造ホイール(10)に密着させるためのピンチロールであり、(19)は鋳造空間(15)に溶湯(M)を供給するためのタンディッシュである。
【0033】
前記連続鋳造装置(1)において、タンディッシュ(19)から鋳造空間(15)に供給された溶湯(M)は鋳造ホイール(10)および連続ベルト(11)からの冷却を受けて、これらとの接触面から内部へと凝固しながら鋳造ホイール(10)および連続ベルト(11)の回転駆動に伴って連続的に鋳造材(S)に成形される。鋳造空間(15)の内面には潤滑油が塗布されているため、溶湯の凝着が防止されて鋳造材(S)の離型が円滑になされる。
【0034】
潤滑油の噴霧サイクルは、潤滑油が途切れないように、かつ過剰量とならないように、回転モールド部材の溶湯接触面の移動速度、1回の噴霧範囲、1回の噴霧時間等に基づいて、以下のように設定することが好ましい。
【0035】
図3Aに示すように、前記ノズル(16)(17)は、潤滑油を拡散角度θ(°)で円形に噴霧するものであり、回転モールド部材の溶湯接触面、即ち鋳造ホイール(10)の凹溝(12)および連続ベルト(11)からh(mm)の高さに設置されている。前記ノズル条件において、静止状態における噴霧範囲(P1)は直径2htanθ/2(mm)の円形となり、噴霧範囲(P1)の鋳出し方向における距離Lp(mm)は、直径と同じく2htanθ/2(mm)である。そして、凹溝(12)および連続ベルト(12)が移動速度V(mm/s)で移動し、1回の噴霧に要する時間がt(s)である場合、1回噴射される間に凹溝(12)および連続ベルト(12)はV×t(mm)移動する。この移動中も噴霧が続いているので、回転モールド部材の移動状態における噴射範囲(P2)は、長径をLp+V×t(mm)とする長円形となる。従って、移動状態における1回の噴霧範囲(P2)の鋳出し方向における距離はLp+V×t(mm)である(図3B)。
【0036】
以上より、ノズル(16)(17)から間欠的に潤滑油を噴霧するに際し、回転モールド部材の溶湯接触面の移動速度がV(mm/s)、1回の噴霧時間がt(s)、回転モールドの静止状態において1回の噴霧で塗布される範囲の鋳出し方向における距離がLp(mm)のとき、1秒間の噴霧回数(T)がV/(Lp+V×t)回であれば、図4Aに示すように噴霧範囲(P2)が途切れることなく連続する。噴霧回数(T)がV/(Lp+V×t)より少なくなると、鋳出し方向において未塗布部分が生じる。一方、図4Bに示すように、噴霧回数(T)を増大させるほど、噴霧範囲(P2)の重複部分(P3)が多くなり1/t回で連続噴霧となる。連続噴霧は塗布量が過剰となるため本発明では連続噴霧を除外し、過剰とならない範囲の噴霧回数の上限として3V/(Lp+V×t)回を推奨する。これらより、1秒間の噴霧回数(T)は、V/(Lp+V×t)〜3V/(Lp+V×t)が好ましい。また、図4Bのように、噴霧範囲(P2)を重複させることによって、幅方向における未塗布部分を少なくすることができるため、特に好ましい1秒間の噴霧回数(T)はV/(Lp+V×t)〜2V/(Lp+V×t)である。
【0037】
なお、図示例の静止状態の噴霧範囲(P1)は円形であり、間欠噴霧によって幅方向において未塗布部分が生じるため、噴霧回数(T)をV/(Lp+V×t)よりも多く設定し、重複部分(P3)が形成されることが好ましい。但し、噴霧形状は円形に限定されず、未塗布部分の形状や面積は噴霧形状に応じて変化する。このため、噴霧回数(T)は過剰な未塗布部分が生じないように、噴霧形状に応じて適宜設定すれば良い。
【0038】
潤滑油の噴霧は、微量かつ均一に塗布するために定量的に微量圧送可能な噴霧手段を用いることが好ましく、その一例としてプランジャーポンプによる噴霧装置を推奨できる。プランジャーポンプは容積型ポンプであって、微量の潤滑油を高圧かつ定量的に供給することができ、細かな流量調節も可能であるため、本発明における噴霧手段に適している。
【0039】
また、潤滑油の1回の噴霧時間は0.001〜1sが好ましい。0.001s未満では噴霧範囲が狭くなりすぎて間欠噴霧による微量均一塗布の効果が乏しい。一方、1sを超える噴霧時間は、ポンプ等の噴霧装置の動作面で現実的ではない。特に好ましい1回の噴霧時間は0.005〜0.1sである。
【0040】
潤滑油の1回の噴霧量は0.001〜1mlが好ましい。0.00ml未満ではポンプ等の噴霧装置の動作面で現実的ではない。一方、1mlを超えると、塗布量が過剰になる。特に好ましい1回の噴霧量は0.005〜0.1mlである。
【0041】
また、潤滑油の総塗布量は、5〜150ml/hが好ましい。5ml/h未満では十分に溶湯凝着防止効果が不足し、150ml/hを超えると過剰供給となって無駄となる。特に好ましい総塗布量は5〜100mlであり、さらに好ましくは5〜50mlである。なお、総塗布量の好適範囲は塗布面積によって異なる。
【0042】
本発明の連続鋳造方法において使用する潤滑油は限定されず、ひまし油等の周知の潤滑油を適宜使用できる。
【0043】
ところで、回転モールド部材に温度差を設けて凝固速度に差を付け、最終凝固部を中心から表面近くに寄せる鋳造方法(以下、「指向性凝固」あるいは「指向性凝固による連続鋳造方法」と称する)がある。前記連続鋳造装置(1)の場合、前記鋳造ホイール(10)を冷却する一方で連続ベルト(11)を加熱し、指向性凝固により鋳造材(S)を連続鋳造した場合、連続ベルト(11)との接触部近傍が最終凝固部となり偏析する。一般に最終凝固部では引け巣のような鋳造欠陥や熱間割れが発生しやすいが、表面近くに熱間割れのある鋳造材を圧延すると割れが伝播してさらに深くなる。このような場合、その後の加工前に連続ベルト(11)側の最終凝固部を切除しておくことにより、割れの伝播や拡大を防止することができる。また、表面に微細クラックや異物が存在する鋳造材についても、加工前に除去することにより、クラックの拡大や異物の持ち越しを防ぐことができる。指向性凝固による鋳造材では、最終凝固部が表面近くに存在するため容易に除去することができる。
【0044】
このような指向性凝固による連続鋳造においても、本発明の潤滑油の間欠噴霧塗布方法を実施することにより、連続ベルト(11)が冷却しすぎることがなく、かつ潤滑油が乾燥して固着しないため、最適な状態で連続鋳造を行うことができる。また、潤滑油の1回の噴霧量、1秒間の噴霧回数、1回の噴霧時間を制御することにより、容易に上記効果を奏することができる。
【0045】
なお、上記指向性凝固において、連続ベルトの加熱温度は〔鋳造金属の液相線温度×0.35〕〜〔液相線温度〕が好ましい。
【0046】
本発明の方法を適用する回転モールド部材は、鋳造ホイールと連続ベルトの組合せに限定されない。他の回転モールド部材として、回転軸線と平行に所定距離を隔てて対向配置された一対のロールを例示できる。また、本発明は、全ての回転モールドに対して潤滑油を間欠噴霧を行う連続鋳造方法のみならず、一部の回転モールド部材に対してのみ間欠噴霧を実施する場合も含んでいる。例えば、図示例の回転モールド部材において鋳造ホイール(10)の凹溝(12)または連続ベルト(11)のいずれか一方に間欠噴霧を実施する場合がこれに該当する。従って、一部の回転モールドに対して潤滑油を間欠噴霧し、他の回転モールド部材に対して潤滑油を連続噴霧する場合や他の回転モールド部材に潤滑層を形成する場合も、本発明に含まれる。
【0047】
また、本発明の方法は回転モールド部材に噴霧する潤滑油量を適正化するものであるから、既存の潤滑油噴霧手段の噴霧条件の変更や、既存の連続鋳造装置に間欠噴霧可能な潤滑油噴霧手段を追加することによって実施することができる。回転モールド部材やその制御装置等の変更といった大規模な装置変更が必要がなく、容易に実施することができる。
【0048】
本発明は、あらゆる金属の連続鋳造に適用できるが、アルミニウムまたはアルミニウム合金、銅または銅合金の連続鋳造に推奨でき、特にアルミニウムまたはアルミニウム合金の連続鋳造に推奨できる。アルミニウムまたはアルミニウム合金として、純Al系、Al−Cu系、Al−Si系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系の各合金を例示できる。特に純アルミニウム系以外の合金は表面に偏析層が形成されやすいため、前記指向性凝固による連続鋳造方法において、本発明の潤滑油の間欠噴霧塗布の適用による効果が大きい。
【0049】
本発明の金属鋳造材は、上述した連続鋳造方法によって製造されたものであり、回転モールド部材に適正量の潤滑油が塗布されるため、確実に凝着が防止される。しかも、過剰な潤滑油による表面品質低下が防止されて、表面品質の優れた金属鋳造材を連続鋳造することができる。また、具体的な作業は潤滑油噴霧のタイミングや塗布量の制御であるから、上述した特許文献1〜3に記載された各種潤滑層を形成するよりも低コストで実施できる。
【0050】
さらに、前記金属鋳造材に対し、塑性加工、切削加工のうちの1種以上の二次加工を施すことによって任意形状の金属加工材を得ることができる。塑性加工としては、圧延、押出、引き抜き、鍛造、曲げ、プレス等を例示できる。また圧延後に引き抜く等2種類以上の塑性加工を順次施すことも任意である。また、塑性加工後に切削加工することも任意である。製品形状も限定されない。これらの金属加工材は、鋳造時の焼き付きや過剰な潤滑油による品質欠陥の持ち越しがなく、品質が優れている。
【0051】
本発明の連続鋳造装置は、上述した複数の回転モールド部材および潤滑油噴霧手段を備えるものであれば良く、溶湯の供給手段、鋳造材の搬送手段等その他の構成は限定されず、周知の手段および構成を適宜用いるものとする。
【0052】
さらに、本発明の方法により連続鋳造した金属鋳造材に種々の工程を任意に追加することができる。例えば、連続鋳造装置の後段に1組または複数組の圧延ロールを有する圧延部を追加し、鋳造後に続いて圧延して所要形状に成形することができる。また、連続鋳造装置の後段に金属鋳造材の表層部を切除する切除部を追加することも任意である。一般に、金属鋳造材の表面には、微細クラック、偏析層、不均一な酸化膜等の欠陥が存在しているが、連続鋳造に続いて表層部切除を行うことによりこれらの欠陥を除去して金属鋳造材の品質を向上させることができる。また、前記切除部において、上述した指向性凝固により表面近くに形成された最終凝固部も除去することができる。さらに、連続鋳造装置の後段に、切除部および圧延部を配置しても良く、このような装置構成により、鋳造、表層部切除、圧延を連続して行うことができる。
【実施例】
【0053】
図1〜図3Bに示す連続鋳造装置(1)を用い、JIS A6061の連続鋳造試験を行った。
【0054】
前記連続鋳造装置(1)において、鋳造ホイール(10)として、直径1400mm、凹溝(12)内断面積(=鋳造空間(15)の断面積)が2200mm2のものを使用し、連続ベルト(11)として幅が100mmのものを用いた。そして、鋳造ホイール(10)の溶湯供給部の手前に滑油噴霧用ノズル(16)を配置するとともに、連続ベルト(11)の溶湯接触部の手前に潤滑油噴霧用ノズル(17)を配置した。また、これらのノズル(16)(17)は凹溝(12)および連続ベルト(11)に対して直角に配置し、凹溝(12)の底面および連続ベルト(11)の溶湯接触面からノズル(16)(17)先端までの距離(h)は各々50mmとした。これらのノズル(16)(17)は噴霧の拡散角度(θ)が45°に調節され、噴霧形状が円形となるように調節されている。また、潤滑油の供給には、図外のプランジャーポンプを用い、1回の噴霧量が0.005mlに調節されている。
【0055】
また、潤滑油としてひまし油を用いた。
【0056】
上述の連続鋳造装置(1)において、鋳造ホイール(10)を1rpmで駆動し、鋳造材(S)を連続鋳造した。
【0057】
上述の鋳造条件より、凹溝(12)および連続ベルト(11)の移動方向において、噴霧範囲が途切れることなく連続させるための1秒間の最低噴霧回数(T)を求める。
【0058】
鋳造ホイール(10)および連続ベルト(11)の移動速度Vは、V=1400×π/60=73.3(mm/s)である。
【0059】
静止状態における噴霧範囲(P1)は、直径(Lp)が2htanθ/2=2×50×tan(45°/2)=41.4mmの円となり、直径Lpが噴霧範囲(P1)の鋳出し方向における距離となる。
【0060】
移動状態における噴霧範囲(P2)の鋳出し方向における距離Lは、L=Lp+V×t=41.4+73.3×0.1=48.7(mm)である。
【0061】
従って、T=V/(Lp+V×t)=73.3/48.7=1.5s-1より、移動中に噴霧範囲(P2)を連続させるための最低噴霧回数(T)は1秒間に1.5回となる。
【0062】
上記鋳造条件において、1回の噴霧時間を0.1sに固定し、噴霧回数を変化させて鋳造試験を行い、鋳造時の凝着、鋳造材(S)の表面品質について評価した。評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
また、1回の噴霧時間を0.2sに固定し、噴霧回数を変化させて鋳造試験を行い、鋳造時の凝着、鋳造材(S)の表面品質について評価した。評価結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の金属鋳造材の連続鋳造方法は回転モールド部材に供給する潤滑油量を適正化するものであるから、種々の回転モールド部材を備える連続鋳造装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明にかかる連続鋳造方法を実施する連続鋳造装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3A】静止状態における噴霧範囲を示す図である。
【図3B】移動状態における噴霧範囲を示す図である。
【図4A】移動状態における間欠噴霧状態を示す図である。
【図4B】移動状態における他の間欠噴霧状態を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1…連続鋳造装置
10…鋳造ホイール(回転モールド部材)
11…連続ベルト(回転モールド部材)
12…凹溝
15…鋳造空間
16,17…ノズル(潤滑油噴霧手段)
M…溶湯
S…鋳造材(金属鋳造材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回転モールド部材を鋳造空間を囲んで対向配置し、これらの回転モールド部材を鋳出し方向に駆動することによって金属鋳造材を製造する連続鋳造方法において、少なくとも1つの回転モールド部材の溶湯接触面に、潤滑油を間欠的に噴霧塗布することを特徴とする金属鋳造材の連続鋳造方法。
【請求項2】
複数の回転モールド部材は、外周面に凹溝を有する鋳造ホイールとこの凹溝を閉じる連続ベルトである請求項1に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
【請求項3】
鋳造ホイールの凹溝に潤滑油を塗布する請求項2に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
【請求項4】
連続ベルトに潤滑油を塗布する請求項2または3に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
【請求項5】
回転モールド部材の溶湯接触面の移動速度がV(mm/s)、1回の噴霧時間がt(s)、回転モールドの静止状態において1回の噴霧によって塗布される範囲の鋳出し方向における距離がLp(mm)のとき、
1秒間の噴霧回数(T)をV/(Lp+V×t)〜3V/(Lp+V×t)回とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
【請求項6】
潤滑油の噴霧をプランジャーポンプにより行う請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
【請求項7】
1回の噴霧時間が0.001〜1sである請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
【請求項8】
1回の噴霧量が0.001〜1mlである請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
【請求項9】
潤滑油の総塗布量が5〜150ml/hである請求項1〜8のいずれか1項に記載の金属鋳造材の連続鋳造方法。
【請求項10】
鋳造空間を囲んで対向配置され、鋳出し方向に駆動される複数の回転モールド部材と、少なくとも一部の回転モールド部材に対して潤滑油を間欠的に噴霧する潤滑油噴霧手段とを備えることを特徴とする金属鋳造材の連続鋳造装置。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1項に記載された連続鋳造方法により製造されたことを特徴とする金属鋳造材。
【請求項12】
請求項11に記載された金属鋳造材に二次加工してなることを特徴とする金属加工材。
【請求項13】
二次加工として、塑性加工、切削加工のうちの1種以上の加工を施された請求項12に記載の金属加工材。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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