説明

針付きシリンジの製造方法

【課題】インサート成形によって針管とシリンジを一体に形成することができると共に針管の位置決めを正確に行うことができる針付きシリンジの製造方法の提供。
【解決手段】針付きシリンジの製造方法は、以下に示す工程を含む。針管3の基端部を支持部材で支持する工程。シリンジを形成する金型のキャビティ空間に針管3及び支持部材を設置する工程。針管3を一対のチャック部材23によって把持する工程。金型のキャビティ空間内に樹脂を注入し、シリンジを成形する工程。一対のチャック部材23に設けられた溝部23bは、針管3に接触すると共に溝部23bの開口から離れるにつれて互いに近づく方向に傾斜した2つの接触面23cを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサート成形によって針管にシリンジが形成される針付きシリンジの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、針付きシリンジは、先端部に生体に穿刺可能な針先を有する針管と、この針管の針先を突出させた状態で針管を保持する針ハブとから構成されている。また、針ハブにシリンジが接続されることで針付きシリンジを構成している。従来、針管は、針ハブの挿通孔に挿通された状態で接着剤を用いて針ハブに固定されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
近年、針ハブを無くして針管を直接薬剤が充填されるシリンジに固定した針付きシリンジが提案されている。この針付きシリンジにおいても、従来の針付きシリンジと同様に、接着剤を用いてシリンジに固定されている。
【0004】
しかしながら、接着剤を用いてシリンジと針管を固定する針付きシリンジでは、接着剤が必要となるだけでなく、シリンジを形成した後に接着工程が必要であった。そのため、接着剤の部品点数が増加するだけでなく、組み立てる際の工程数が増え、コストアップを招いていた。
【0005】
更に、シリンジ内には、薬剤が充填される場合もある。よって、針管とシリンジとを固定する接着剤がシリンジ内に充填される薬剤と接触(接液)する可能性があり、これが薬剤に悪影響を与える可能性がある、という問題を有していた。
【0006】
そのため、近年では、接着剤を用いない新たな固定方法として、インサート成形によって針管とシリンジを一体に形成する技術が求められている。なお、インサート成形によって針管とシリンジを一体に形成する場合、針管の位置がズレないようにするために、チャック部材を用いて針管を保持する必要がある。針管を保持する技術としては、例えば、特許文献2に開示された技術が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−116163号公報
【特許文献2】特開昭51−14789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、針管を把持するチャック部材における針管と接触する箇所は、略平面または針管の側面の曲率に対応した略曲面に形成されている。そのため、チャック部材と針管は面接触する。しかしながら、針管を製造する際に、針管の径には、若干の誤差が生じる。その結果、従来のチャック部材では、針管の径の誤差によって、針管とチャック部材との間に隙間が生じ、針管を金型に対して正しい位置に確実に保持することができなかった。
【0009】
また、特許文献2に記載された技術では、針管と接触する面に弾性材を被覆している。そのため、経年使用によって弾性材が劣化することにより、特許文献2に開示された技術は、耐久性に問題を有していた。
【0010】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、インサート成形によって針管とシリンジを一体に形成することができると共に針管の位置決めを正確に行うことができる針付きシリンジの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の針付きシリンジの製造方法は、以下(1)〜(4)に示す工程を含んでいる。
(1)針管の基端部を支持部材で支持する工程。
(2)シリンジを形成する金型のキャビティ空間に針管及び支持部材を設置する工程。
(3)針管を一対のチャック部材によって把持する工程。
(4)金型のキャビティ空間内に樹脂を注入し、シリンジを成形する工程。
そして、一対のチャック部材のうち少なくとも一方のチャック部材には、針管を支持する溝部が形成されている。
また、溝部は、針管に接触すると共に溝部の開口から離れるにつれて互いに近づく方向に傾斜した2つの接触面を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の針付きシリンジの製造方法によれば、針管を把持するチャック部材に溝部を設け、この溝部に針管と接触する2つの接触面を設けている。これにより、針管の径の誤差に対応することができ、針管の位置決めを正確に行うことができる。さらに、インサート成形によって接着剤を用いずに針管とシリンジを一体に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の針付きシリンジの実施の形態例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す針付きシリンジの要部を示す斜視図である。
【図3】図1に示す針付きシリンジにキャップを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図4】図3に示す針付きシリンジとキャップの断面図である。
【図5】本発明の針付きシリンジの製造方法を説明するもので、針管を支持部材に設置した状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の針付きシリンジの製造方法を説明するもので、金型を閉じる前の状態を示す断面図である。
【図7】図6に示す金型の要部を拡大して示す断面図である。
【図8】本発明のチャック部材の第1の実施の形態例にかかる要部を拡大して示す断面図である。
【図9】本発明の針付きシリンジの製造方法を説明するもので、金型を閉じた状態を示す断面図である。
【図10】図9に示す金型の要部を拡大して示す断面図である。
【図11】本発明の針付きシリンジの製造方法を説明するもので、チャック部材で針管を把持した状態を示す断面図である。
【図12】図11に示す金型の要部を拡大して示す断面図である。
【図13】本発明の針付きシリンジの製造方法を説明するもので、金型に樹脂を注入する状態を示す断面図である。
【図14】本発明のチャック部材の第2の実施の形態例にかかる要部を示す断面図である。
【図15】本発明のチャック部材の第3の実施の形態例にかかる要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の針付きシリンジの製造方法の実施の形態例について、図1〜図15を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.針付きシリンジの構成例
2.金型の構成例
3.針付きシリンジの製造方法
4.チャック部材の他の実施の形態例
【0015】
1.針付きシリンジの構成例
まず、図1〜図4を参照して本発明の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる針付きシリンジについて説明する。
図1は本例の針付きシリンジを示す斜視図、図2は本例の針付きシリンジの要部を示す斜視図である。図3は図1に示す針付きシリンジにキャップを取り付けた状態を示す斜視図、図4は図3に示す針付きシリンジ及びキャップの断面図である。
【0016】
針付きシリンジ1は、針先を皮膚の表面より穿刺し、生体に薬剤を注入するために用いる。図1に示すように、この針付きシリンジ1は、薬剤が充填されるシリンジ2と、このシリンジ2に固定される針管3と、キャップ4(図3及び図4参照)とを有している。
【0017】
[針管]
まず、針管3について説明する。
針管3は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で10〜33ゲージのサイズ(外径:φ3.5〜0.2mm)のものを使用し、好ましくは16〜33ゲージ(外径:φ1.7〜0.2mm)のものを使用する。この針管3の軸方向の一端には、針先3aを鋭角にするための刃面が形成されている。そして、針管3の軸方向の一側の針先3aが生体に穿刺される。
【0018】
針管3の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管3は、ストレート針だけでなく、少なくとも一部がテーパー状となっているテーパー針を用いることができる。テーパー針としては、針先3a端部に比べて基端部が太い径を有しており、その中間部分をテーパー構造とすればよい。また、針管3の断面形状は、円形だけでなく、三角形等の多角形であってもよい。
【0019】
更に、針管3における針先3a側の表面には、例えばシリコーン樹脂やフッ素系樹脂等からなるコーティング剤が施される。これにより、針管3を生体に穿刺した際に、皮膚と針管との摩擦を低減することができ、穿刺時に伴う痛みを軽減させることが可能となる。
【0020】
この針管3は、針先3aを外側に突出させた状態でシリンジ2に固定される。そして、針管3の軸方向の一側の針先3aは、後述するシリンジ2の固定部7の先端から突出する。
【0021】
[シリンジ]
次に、シリンジ2について説明する。
シリンジ2は、薬剤が充填される本体6と、固定部7を備えている。本体6は、略円筒形に形成されており、この本体6の軸方向の一側に固定部7が連続して形成され、軸方向の他端が開口している。また、プレフィルドシリンジの場合は、この本体6の筒孔6a(図2参照)に薬剤が充填され、本体6の軸方向の他側から押し子のガスケットが打栓される。また、本体6の軸方向の他端には、フランジ部6bが設けられている。更に、図4に示すように、本体6の筒孔6aには、固定部7に固定された針管3の軸方向の他端である基端部3bが連通する。
【0022】
なお、本例では、シリンジ2の本体6の形状を略円筒形に形成した例を説明したが、本体6の形状は、中空の四角柱状や六角柱状であってもよい。
【0023】
図2に示すように、固定部7は、本体6の軸方向の一側からその軸方向に沿って突出している。固定部7は、針管3の針先3aを突出させた状態で針管3とインサート成形によって一体に形成される。インサート成形によって針管3とシリンジ2の固定部7を一体に形成することで、接着剤を用いた接着工程を省くことができる。また、接着剤を用いないため、接着剤がシリンジ2内に充填した薬剤に接触して悪影響を与えるおそれがない。
【0024】
図4に示すように、針管3は、固定部7の軸心で、且つその軸方向に沿って配置される。また、固定部7は、本体6の軸方向の一端から連続する接続部8と、接続部から連続する密着部9を有している。
【0025】
図2に示すように、接続部8は、本体6の軸方向と直交する方向で断面とした形状が十字状に形成されている。また、接続部8における密着部9側の径は、密着部9の外径よりも小さくなっている。そのため、固定部7は、接続部8と密着部9との接続箇所がくびれたような形状となっている。なお、本例においては、接続部8は、本体6から離れるにつれて細くなるように形成されているが、同じ太さで連続しているものでもよい。
【0026】
また、図4に示すように、接続部8における本体6側の端部、すなわち接続部8の軸方向の他端部8bには、離間穴12が形成されている。離間穴12は、接続部8における他端部8bの軸心に設けられている。この離間穴12には、針管3の基端部3bが配置される。
【0027】
更に、離間穴12は、針管3の外周面から離間している。なお、離間穴12の内面から針管3の外周面までの距離は、例えば0.3mm〜3.0mmの範囲に設定される。他端部8bに針管3の外周から離間する離間穴12を設けることにより、インサート成形時に樹脂が針管3の基端部3bから針孔に侵入し、針孔を塞ぐことを防止することができる。なお、この離間穴12は、インサート成形時に針管3の基端部3bを支持する後述するコア型21の支持部32aによって形成される(図6参照)。
【0028】
なお、本例では、肉厚を薄くすると共に強度を確保するために接続部8の形状を十字状に形成した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、接続部8の形状は、略円柱状、四角柱状や六角柱状であってもよい。
【0029】
接続部8の軸方向の一端、すなわち固定部7の先端側には、密着部9が設けられている。密着部9は、略円柱状に形成されている。この密着部9の軸方向の一側から、針管3の針先3aが突出する。密着部9の軸方向の一側は、その肉厚を薄くするために、外周部と針管3の周囲を除いて開口している。しかしながら、この開口を設けなくても、目的は達成できるものである。また、密着部9の外周面は、後述するキャップ4の内周面と密着する。
【0030】
なお、密着部9の形状を略円柱状に形成した例を説明したが、密着部9の形状は、キャップ4の筒孔4aの形状に対応した形状であれば、四角柱状や六角柱状であってもよい。
【0031】
上述した構成を有するシリンジ2の材質としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂が挙げられる。その中でも、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)のような樹脂を用いることが好ましい。なお、シリンジ2の材質は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが好ましい。
【0032】
このシリンジ2に充填される薬剤としては、通常注射剤として使用される薬剤であれば何でもよく、例えば抗体等の蛋白質性医薬品、ホルモン等のペプチド性医薬品、核酸医薬品、細胞医薬品、血液製剤、各種感染症を予防するワクチン、抗がん剤、麻酔薬、麻薬、抗生物質、ステロイド剤、蛋白質分解酵素阻害剤、ヘパリン、ブドウ糖等の糖質注射液、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、ビタミン剤、脂肪乳剤、造影剤、覚せい剤等が挙げられる。
【0033】
[キャップ]
次に、キャップ4について説明する。
図3及び図4に示すように、キャップ4は、略円筒状に形成されており、軸方向の一端が開口し、軸方向の他端が閉じている。このキャップ4は、例えばゴムやエラストマー等の弾性部材から形成される。そして、図3に示すように、キャップ4は、針管3の針先3a及びシリンジ2の固定部7を覆うようにして、シリンジ2の軸方向の一側に取り付けられる。図4に示すように、キャップ4の筒孔4a内に針管3の針先3a側及び固定部7が挿入される。
【0034】
なお、キャップ4の筒孔4aの内径は、固定部7の密着部9の外径と略等しいか、若干小さく設定されている。そのため、キャップ4をシリンジ2に取り付けた際、固定部7における密着部9の外周面がキャップ4の内周面に密着する。これにより、固定部7の密着部9から先端側である針管3の針先3a側が、密着部9とキャップ4の内周面によって密閉される。その結果、針先3aに菌が付着することを防ぐことができる。
【0035】
また、キャップ4の内周面は、その弾性力によって固定部7における密着部9と接続部8との接続箇所、くびれ部を締め付ける。これにより、キャップ4の内周面と固定部7のくびれ部が係合し、搬送時にキャップ4がシリンジ2から外れることを防止することができる。
【0036】
2.金型の構成例
次に、上述したような構成を有する針付きシリンジ1の製造する際に用いられる金型の構成例について図5〜図8を参照して説明する。
図5は、針管3をコア型に設置した状態を示す斜視図である。図6は、金型を閉じる前の状態を示す断面図、図7は図6に示す金型の要部を拡大して示す断面図である。
【0037】
図6に示すように、金型20は、シリンジ2の筒孔6aを形成するコア型21と、キャビティ型22と、針管3を把持するチャック部材23とから構成される。なお、キャビティ型22は、第1のキャビティ型24と、第2のキャビティ型25と、第1のキャビティ型24及び第2のキャビティ型25の間に配置される一対の割り型26とを有する。
【0038】
図5に示すように、コア型21は、支持台31と、支持部材を示すコア部材32とを有している。支持台31には、シリンジ2のフランジ部6bを形成する凹部31aが設けられている。支持台31の凹部31aには、コア部材32が立設している。
【0039】
コア部材32は、略円柱状に形成されており、軸方向の一側、すなわちコア部材32における支持台31と反対側は、略円錐状に形成されている。コア部材32における円錐の頂点には、支持部32aが突出している。この支持部32aには、針管3の基端部3bが取り付けられる。また、支持部32aによってシリンジ2の離間穴12(図4参照)が形成される。
【0040】
図6に示すように、第1のキャビティ型24には、略円柱状の開口部24aが設けられている。この開口部24aには、コア型21のコア部材32が挿入する。そして、第1のキャビティ型24とコア部材32によって、シリンジ2の本体6が形成される。第1のキャビティ型24におけるコア型21と対向する面の反対側には、一対の割り型26が配置される。
【0041】
一対の割り型26は、第1のキャビティ型24と第2のキャビティ型25の間において、コア型21のコア部材32の軸方向と直交する方向に開閉可能に設けられている。この一対の割り型26は、シリンジ2における固定部7の接続部8を形成する。また、一対の割り型26における第1のキャビティ型24の反対側には、第2のキャビティ型25が設けられている。
【0042】
第2のキャビティ型25は、シリンジ2における固定部7の密着部9を形成する。図7に示すように、第2のキャビティ型25には、挿通孔35と、チャック部材23が摺動する2つのガイド孔34が設けられている。挿通孔35は、コア部材32に設置された針管3の軸方向に沿って形成されている。この挿通孔35には、コア部材32に設置された針管3が挿通する(図10参照)。2つのガイド孔34は、挿通孔35の軸心と直交するように設けられている。2つのガイド孔34には、それぞれチャック部材23が摺動可能に挿入される。
【0043】
図8は、本例にかかるチャック部材23の要部を拡大して示す断面図である。
図8に示すように、チャック部材23は、略円柱状の部材から形成されている。一対のチャック部材23が互いに対向する対向面23aには、チャック部材23の軸方向と直交し、かつ針管3の軸方向に沿って延在する溝部23bが形成されている。
【0044】
溝部23bは、接触面の一例を示す2つの傾斜面23cを有している。また、溝部23bは、チャック部材23の対向面23aから略V字状に窪んでいる。すなわち、溝部23bを形成する2つの傾斜面23cは、互いに交差する点Oから溝部23bの開口に向かうにつれて、広がるように傾斜している。このチャック部材23の略V字状の溝部23bに針管3の側面部が入り込む。また、針管3を把持する際、針管3を傷つけないために、溝部23bの角部に面取りを施すことが好ましい。
【0045】
また、図7に示すように、チャック部材23は、不図示の駆動部により第2のキャビティ型25のガイド孔34内を摺動する。チャック部材23を駆動させる駆動部としては、例えば、エアーやバネの他にモータやギア等のその他各種の駆動部を適用できる。
【0046】
特にエアーやバネ等からなる駆動部によれば、針管3の外径に応じて弾性変形または収縮することで、針管3の外径のバラツキを吸収することができる。これにより、針管3の外径のバラツキによって、針管3を把持する力が変化することを防ぐことができる。
【0047】
なお、モータやギア等によって機械的にチャック部材23を駆動させる場合、チャック部材23と駆動部との間に、針管3の径のバラツキを吸収するためにバネ等の弾性部材を介在させることが好ましい。これにより、エアーやバネ等からなる駆動部と同様に、針管3をほぼ一定の把持力で把持することが可能となる。
【0048】
本例では、チャック部材23を略円柱状に形成した例について説明したが、これに限定されるものではない。チャック部材23は、例えば四角柱や六角柱等その他各種の形状に形成してもよい。
【0049】
3.針付きシリンジの製造方法
次に、上述した構成を有する金型20を用いた針付きシリンジ1の製造方法について、図5〜図13を参照して説明する。
図9は、金型20を閉じた状態を示す断面図、図10は、図9に示す要部を拡大して示す断面図である。図11は、チャック部材で針管を把持した状態を示す断面図、図12は、図11の要部を拡大して示す断面図である。図13は、金型20に樹脂を注入する状態を断面して示す断面図である。
【0050】
まず、図5に示すように、針管3をコア型21のコア部材32に設置し、針管3の基端部3bを支持部32aで支持する。具体的には、コア部材32に設けた支持部32aに針管3の基端部3bを取り付ける。図13に示すように、針管3の基端部3bの周囲が支持部32aによって覆われるため、樹脂を注入した際に針孔から樹脂が侵入することを防ぐことができる。
【0051】
次に、図6及び図7に示すように、コア型21のコア部材32及び針管3を覆うように、キャビティ型22を被せる。すなわち、金型20のキャビティ空間37にコア部材32及び針管3を設置する。そして、図9に示すように、金型20を閉じる。すなわち、キャビティ型22をコア型21における支持台31側に移動させると共に、一対の割り型26を閉じる。これにより、金型20内にシリンジ2となるキャビティ空間37が形成される。
【0052】
このとき、図10に示すように、コア部材32に支持された針管3は、キャビティ型22の第2のキャビティ型25に設けた挿通孔35に挿通する。これにより、針管3を金型20に対して真っ直ぐにセットすることができる。
【0053】
次に、図11に示すように、不図示の駆動部を駆動させて第2のキャビティ型25に設けたチャック部材23を摺動させる。そして、図8及び図12に示すように、針管3は、一対のチャック部材23によって把持される。これにより、針管3が成型時に変形したり、シリンジ2と針管3の相対的な位置がずれたりすることを防止できる。
【0054】
上述したように、チャック部材23の対向面23aには、略V字状の溝部23bが設けられている。このチャック部材23の溝部23bに針管3の側面部が入り込む。そして、針管3の側面部には、2つのチャック部材23の2つの溝部23bを形成する4つの傾斜面23cが線接触する。
【0055】
このように、針管3を2つのチャック部材23によって4カ所で支持することで、略V字状の溝部23bを設けていない従来のチャック部材と比較して、針管3を把持する力を分散させることができる。これにより、チャック部材23から針管3へのダメージを軽減することができる。
【0056】
また、溝部23bは、略V字状に形成されており、溝部23bを形成する2つの傾斜面23cが、溝部23bの開口から離れるにつれて互いに近づくように傾斜している。さらに、一対のチャック部材23の対向面23aは、接触せずに、2つの対向面23aの間には隙間が形成される。そのため、2つの傾斜面23cによって針管3を交差する点O側に呼び込むことができる。その結果、針管3の径の誤差をチャック部材23の溝部23bによって吸収することができ、針管3の位置決めを正確に行うことができる。
【0057】
一対のチャック部材23よる針管3を把持する力は、金型20のキャビティに樹脂を注入した際に針管3がコア部材32から樹脂圧によって抜けない力で、かつ針管3が損傷しない程度の力に設定される。把持する力は、例えば、0.1kgf以上、10kgf以下である。
【0058】
なお、一対のチャック部材23によって針管3を把持する位置は、針管3がシリンジ2の固定部7から露出する位置から、針管3の針先3aに形成された刃面にかからない位置であればどこでもよい。
【0059】
次に、図13に示すように、シリンジ2のフランジ部6bに相当する位置から、金型20のキャビティ空間37内に樹脂を流し込み、インサート成形を行う。このとき、チャック部材23は、シリンジ2を形成する位置、すなわちキャビティ空間37内に配置されていない。そのため、キャビティ空間37内に充填される樹脂の流れがチャック部材23によって乱されることがない。その結果、形成されたシリンジ2にウエルドライン等の成型不良が発生することを防止することができ、良好なシリンジ2を製造することができる。
【0060】
また、コア型21とキャビティ型22の合わせ目、及びキャビティ型22における第1のキャビティ型24、一対の割り型26及び第2のキャビティ型25の合わせ目は、シリンジ2における固定部7の接続部8上に位置している。そのため、キャップ4の内面と密着する密着部9には、金型20の分割線、いわゆるパーティングラインが形成されない。
【0061】
よって、密着部9にバリが発生することを防止することができ、キャップ4を被せた際に、バリによって密着部9とキャップ4の内面との間に隙間が生じることがない。これにより、密着部9から先端側に配置される針管3の針先3aの気密性を維持することができ、針管3の針先3aを無菌状態で保護することも可能となる。
【0062】
次に、樹脂が冷却されチャック部材23によって把持していなくても針管3が動かない程度に樹脂が固まると、不図示の駆動部を駆動させてチャック部材23による針管3の把持動作を解除する。そして、キャビティ型22をコア型21から離反させて金型20を開く。これにより、針管3の周囲にシリンジ2が形成され、針付きシリンジ1の製造が完了する。
【0063】
このように、インサート成形によって針管3とシリンジ2を一体に製造することができるため、接着剤を用いた接着工程を省くことができ、製造工程の簡略化を図ることが可能である。よって、シリンジ2を製造する際のコストダウンを図ることができる。
【0064】
4.チャック部材の他の実施の形態例
次に、図14及び図15を参照して、チャック部材の他の実施の形態例について説明する。
図14は、チャック部材の第2の実施の形態例を示す断面図、図15は、チャック部材の第3の実施の形態例を示す断面図である。
【0065】
[第2の実施の形態例]
図14に示す第2の実施の形態例にかかるチャック部材43は、一対のチャック部材43のうち片側のチャック部材43のみに、溝部43bを形成している。この第2の実施の形態例にかかるチャック部材43では、針管3を3カ所で支持する。
【0066】
その他の構成は、上述した第1の実施の形態例にかかるチャック部材23と同様であるため、それらの説明は省略する。このような構成を有するチャック部材43によっても、上述した第1の実施の形態例にかかるチャック部材23と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0067】
[第3の実施の形態例]
図15に示す第4の実施の形態例にかかるチャック部材53が第1の実施の形態例に係るチャック部材23と異なるところは、溝部の形状である。そのため、ここでは、溝部について説明し、チャック部材23と共通する部分には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0068】
図15に示すように、チャック部材53における一対のチャック部材53が互いに対向する対向面53aには、溝部53bが形成されている。この溝部53bは、対向面53aから略台形状に窪んでいる。溝部53bは、開口と対向する底面53dと、底面53dから開口にかけて傾斜した接触面の他の例を示す2つの傾斜面53cとから形成される。
【0069】
2つの傾斜面53cは、開口から底面53dに近づくにつれて互いに近づくように傾斜している。針管3を把持する際に、2つの傾斜面53cが針管3の側面部に接触する。
【0070】
その他の構成は、上述した第1の実施の形態例にかかるチャック部材23と同様であるため、それらの説明は省略する。このような構成を有するチャック部材53によっても、上述した第1の実施の形態例にかかるチャック部材23と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0071】
なお、この第3の実施の形態例にかかるチャック部材53においても、第2の実施の形態例にかかるチャック部材43と同様に、一対のチャック部材53のうち片側のチャック部材53のみに溝部53bを形成してもよい。
【0072】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0073】
1…針付きシリンジ、 2…シリンジ、 3…針管、 3a…針先、 3b…基端部、 4…キャップ、 4a…筒孔、 6…本体、 6a…筒孔、 7…固定部、 8…接続部、 8b…他端部、 9…密着部、 12…離間穴、 20…金型、 21…コア型、 22…キャビティ型、 23,43,53…チャック部材、 23a…対向面、 23b,43b,53b…溝部、 23c,53c…傾斜面(接触面)、 53d…底面 24…第1のキャビティ型、 25…第2のキャビティ型、 26…割り型、 31…支持台、 31a…凹部、 32…コア部材(支持部材)、 32a…支持部、 34…ガイド孔、 35…挿通孔、 37…キャビティ空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針管の基端部を支持部材で支持する工程と、
シリンジを形成する金型のキャビティ空間に前記針管及び前記支持部材を設置する工程と、
前記針管を一対のチャック部材によって把持する工程と、
前記金型のキャビティ空間内に樹脂を注入し、シリンジを成形する工程と、を含み、
前記一対のチャック部材のうち少なくとも一方のチャック部材には、前記針管を支持する溝部が形成されており、
前記溝部は、前記針管に接触すると共に前記溝部の開口から離れるにつれて互いに近づく方向に傾斜した2つの接触面を有する
針付きシリンジの製造方法。
【請求項2】
前記溝部は、略V字状に形成されている
請求項1に記載の針付きシリンジの製造方法。
【請求項3】
前記一対のチャック部材が前記針管を把持する位置は、前記針管がシリンジから露出する位置から前記針管の針先に形成された刃面にかからない位置の間である
請求項1または2のいずれかに記載の針付きシリンジの製造方法。
【請求項4】
前記一対のチャック部材は、前記キャビティ空間外に設けられる
請求項1〜3のいずれかに記載の針付きシリンジの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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