説明

釣り用リールのクラッチ復帰装置

【課題】 モータによりクラッチオン状態に復帰させる釣り用リールのクラッチ復帰装置において、復帰動作を確実に行えるようにする。
【解決手段】 第1クラッチ戻し機構11は、スプール回転用のモータ4の逆転によりクラッチオン状態に復帰させる機構であって、少なくともモータの逆転に連動して回転する押圧部材を有する押圧機構、及びクラッチ切換機構によりクラッチ機構がクラッチオン状態からクラッチオフ状態に切り換えられると第1位置から第2位置に移動し、移動後の第2位置で押圧部材による押圧が可能になりかつモータを正転させると押圧部材91が連動機構の移動方向と異なる方向から接触可能になり、その状態でモータを逆転させると押圧部材により押圧されて押圧部材が接触不能な第1位置に移動するとともにクラッチ切換機構を介してクラッチ機構をクラッチオン状態にする連動機構を有している。モータは、クラッチ復帰動作時に逆転前に正転するようにリール制御部により制御される。これにより、クラッチ復帰動作時に押圧部材の回転位相が位置決めされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ復帰装置、特に、釣り用リールに用いられるクラッチ機構をクラッチオフ状態からクラッチオン状態に戻す釣り用リールのクラッチ復帰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
釣り用リールには、スプールとハンドル及びモータとの間で回転を伝達する回転伝達機構の途中にクラッチ機構が設けられている。クラッチ機構は、クラッチ操作部材によりクラッチオン(連結)状態とクラッチオフ(遮断)状態とに切り換えられる。また、ハンドルの糸巻取方向の回転に連動してクラッチオフ状態からクラッチオン状態に切り換えるクラッチ復帰装置が設けられているものも知られている。さらに、電動リールでは、モータの逆転に連動してクラッチオフ状態からクラッチオン状態に復帰させるクラッチ復帰装置も知られている(特許文献1参照)。モータによりクラック機構をクラッチオン状態に復帰させる従来のクラッチ復帰装置は、クラッチ操作部材の操作に連動して第1位置と第2位置とに移動する連動機構と、モータの出力軸にワンウェイクラッチを介して装着された押圧部材とを有している。押圧部材は、モータが逆転するとそれに連動して回転し、連動機構を押圧して連動機構を第1位置に移動させ、クラッチ機構をクラッチオン状態にさせる。
【特許文献1】特開平11−341939号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来の構成では、モータの停止位置に応じて押圧部材の停止時の回転位相が変化する。押圧部材の停止時回転位相が変化すると、押圧部材と連動機構との距離が変動する。とくに、押圧部材が連動機構の押圧位置に近接した位置で停止していると、モータの起動時に押圧部材が連動機構を押圧することになるため、慣性力を加味した十分な力で連動機構を押圧することができず、クラッチオンへの復帰動作が不安定になるおそれがある。
【0004】
本発明の課題は、モータによりクラッチオン状態に復帰させる釣り用リールのクラッチ復帰装置において、復帰動作を確実に行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1に係る釣り用リールのクラッチ復帰装置は、釣り用リールに用いられるクラッチ機構をクラッチオフ状態からクラッチオン状態に戻す釣り用リールのクラッチ復帰装置であって、モータと、クラッチ切換機構と、第1クラッチ戻し機構と、モータ制御手段とを備えている。モータは、釣り用リールに設けられている。クラッチ切換機構は、クラッチ機構をクラッチオフ状態とクラッチオン状態とに切り換える機構である。第1クラッチ戻し機構は、少なくともモータの第1方向の回転に連動して回転する押圧部材を有する押圧機構、及びクラッチ切換機構によりクラッチ機構がクラッチオン状態からクラッチオフ状態に切り換えられると第1位置から第2位置に移動し、移動後の第2位置で押圧部材による押圧が可能になりかつモータを第1方向と逆の第2方向に回転させると押圧部材が連動機構の移動方向と異なる方向から接触可能になり、その状態でモータを第1方向に回転させると押圧部材により押圧されて押圧部材が接触不能な第1位置に戻るとともにクラッチ切換機構を介してクラッチ機構をクラッチオン状態にする連動機構を有している。モータ制御手段は、クラッチオン状態にするためにモータを第1方向に回転させるとともに、第1方向への回転の前にモータを第2方向に回転させ押圧部材を連動機構に接触させて押圧部材の回転位相を位置決めする手段である。
【0006】
このクラッチ復帰装置では、クラッチ切換機構によりクラッチ機構がクラッチオン状態からクラッチオフ状態に切り換えられると、連動機構が第1位置から第2位置に移動して押圧部材が押圧可能な位置に配置される。クラッチ機構をクラッチオン状態に戻す際には、モータ制御手段によりいったんモータが第2方向に回転して押圧部材が連動機構に接触しその後第1方向に回転させて押圧部材が連動機構を押圧して連動機構を第1位置に戻す。これにより、クラッチ切換機構を介してクラッチ機構がクラッチオン状態に復帰する。ここでは、第2位置にある連動機構を押圧する前に押圧部材を押圧方向と逆の第2方向に回転させて、押圧部材を連動機構に押圧方向(連動機構の移動方向)と異なる方向から接触させて位置決めする。このため、押圧部材が連動機構の押圧位置から大きく離反した位置に配置され、モータを第1方向に回転させたときに慣性力が大きく勢いがついた状態で押圧部材が連動機構を押圧できるようになる。このため、押圧部材により連動機構を慣性力が加味された充分な力で押圧することができ、復帰動作を確実に行えるようになる。
【0007】
発明2に係る釣り用リールのクラッチ復帰装置は、発明1に記載の装置において、釣り用リールは、ハンドルを有するリール本体と、リール本体に回転自在に支持された糸巻用のスプールと、ハンドルの回転をスプールに伝達する回転伝達機構と、回転伝達機構の途中に設けられ、スプールが自由回転可能状態となるクラッチオフ状態と、糸巻取可能状態となるクラッチオン状態とに切り換え可能なクラッチ機構とを有する電動リールであり、モータの出力軸に回転不能に装着され押圧部材と並べて配置された爪車、及び爪車に対して接離しかつ爪車に向けて付勢される揺動爪を有し、モータの第1方向の回転を禁止可能な第1ワンウェイクラッチをさらに備え、押圧部材は、第1位置から第2位置への移動途中で揺動爪に接触して揺動爪を爪車から離反させモータの第1方向への回転を許可状態にし、モータは、第2方向に回転すると、回転伝達機構を経由してスプールを糸巻取方向に回転させる。
【0008】
この場合には、電動リールにおいて、クラッチ戻し専用のモータではなくスプール回転用のモータの糸繰り出し方向を利用してクラッチ機構をクラッチオン状態に復帰させることができるとともに、その復帰動作を確実に行えるようになる。
【0009】
発明3に係る釣り用リールのクラッチ復帰装置は、発明1または2に記載の装置において、押圧機構は、押圧部材とモータの出力軸との間に配置され、モータの第1方向の回転を押圧部材に伝達するローラ型の第2ワンウェイクラッチをさらに有する。この場合には、モータが第1方向に回転すると押圧部材が第1方向に連動して回転し、モータが第2方向に回転すると回転は伝達されないが僅かな摩擦により押圧部材が第2方向に回転し、連動機構に接触すると停止する。このため、押圧部材が連動機構に接触しても連動機構やモータにダメージを与えにくい。
【0010】
発明4に係る釣り用リールのクラッチ復帰装置は、発明1から3のいずれかに記載の装置において、釣り用リールは、スプールに巻き付けられる釣り糸の先端に装着される仕掛けの水深をスプールの回転に応じて算出する水深算出手段をさらに備え、モータ制御手段は、水深算出手段の算出結果に応じてモータを第1方向に回転させる。この場合には、水深算出手段により算出された水深に仕掛けが到達するとクラッチオン状態にして釣り糸の繰り出しを停止できるので、仕掛けを所望の棚位置に容易に配置できる。
【0011】
発明5に係る釣り用リールのクラッチ復帰装置は、発明4に記載の装置において、釣り用リールは、所定の水深を設定可能な水深設定手段をさらに備え、モータ制御手段は、水深算出手段が算出した水深と水深設定手段で設定した水深とに関連してモータを前記第1方向に回転させる。この場合には、予め棚位置に応じて水深を設定することにより、クラッチ機構をオフ状態にして釣り糸を繰り出した後は、何も操作を行うことなく仕掛けを棚位置に自動的に配置できる。
【0012】
発明6に係る釣り用リールのクラッチ復帰装置は、発明2から5のいずれかに記載の装置において、第1ワンウェイクラッチは、モータが第2方向に回転すると爪車をかわす位置まで揺動爪を逆転許可位置側に揺動させる揺動爪制御機構をさらに有する。この場合には、モータがスプールを巻き上げ駆動するためなどに第2方向に回転すると、揺動爪が爪車をかわす位置まで揺動するので、モータが第2方向に回転したときに逆転防止のための揺動爪が振動しなくなり静音化を図ることができる。
【0013】
発明7に係る釣り用リールのクラッチ復帰装置は、発明6に記載の装置において、揺動爪制御機構は、モータの出力軸に回転自在に摩擦係合し、外周に前記揺動爪を押圧する押圧部を有する回動部材と、回動部材の回動範囲を規制する回動規制部とを有する。この場合には、回動部材はモータの出力軸に摩擦係合しているので、モータが何れの方向に回転しても回動部材が回転し回動規制部で回転を規制されるとその位置で止まる。したがって、第2方向側の規制位置に至るまでで揺動爪を押圧部により押圧して爪車をかわす位置まで押圧できるとともに、逆転側の規制位置に至るまでに押圧を解除してモータの逆転を禁止することができる。
【0014】
発明8に係る釣り用リールのクラッチ復帰装置は、発明1から7のいずれかに記載の装置において、釣り用リールの前記リール本体は、間隔を隔てて配置され間にスプールが配置された第1及び第2側板と、両側板を連結する連結部とを有するフレームと、第1側板の外方を覆う第1カバーと、第2側板の外方を覆いかつ前記ハンドルが装着された第2カバーとを有し、クラッチ切換機構は、第2カバーと第2側板の間の空間に配置され、連動機構は、両側板を貫通して回動自在に装着された連結軸と、連結軸の第2側板側の突出端に回転不能に装着されクラッチ切換機構に先端が連結されてクラッチ切換機構の切換動作に連動して揺動する第1レバー部材と、連結軸の第1側板側の突出端に回転不能に装着された第2レバー部材と、揺動爪に接触する第1接触部と押圧機構が接触する第2接触部とを有し、第2レバー部材の先端に連結され揺動爪及び押圧部材に向けて進退する進退部材とを有する。
【0015】
この場合には、クラッチ切換機構が移動してクラッチ機構がクラッチオフ状態になりスプールが自由回転可能状態になると、第1レバー部材が揺動しその揺動が回動軸を介して第2レバー部材に伝達される。そして、進退部材が第2位置に配置される。進退部材が第2位置に配置されると第1接触部が揺動爪に接触して揺動爪を爪車から離反させモータが逆転可能になるとともに、第2接触部に押圧機構が接触可能になる。この状態でモータが逆転すると押圧機構が逆転して進退部材の第2接触部を押圧して第1位置に退入させ、第2レバー部材、回動軸、第1レバー部材を介してクラッチ切換機構を動作させてクラッチ機構をクラッチオン状態に切り換える。また、揺動爪に対する押圧が解除されてワンウェイクラッチによりモータの逆転が禁止される。ここでは、通常はモータの一端側に配置されるクラッチ切換機構と逆側の他端側に押圧機構が配置されていてもモータの逆転によりクラッチ機構を確実に切り換えできる。
【0016】
発明9に係る電動リールは、発明1から8のいずれかに記載のリールにおいて、ハンドルの糸巻取方向の回転に連動してクラッチ切換機構を介してクラッチ機構をクラッチオフ状態からクラッチオン状態に戻す第2クラッチ戻し機構をさらに備える。この場合には、ハンドルを糸巻取方向に回してもクラッチ機構をクラッチオン状態に復帰させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、第2位置にある連動機構を押圧する前に押圧部材を押圧方向と逆の第2方向に回転させて、押圧部材を連動機構に押圧方向(連動機構の移動方向)と異なる方向から接触させて連動機構の押圧位置から大きく離反した位置に配置するので、モータを第1方向に回転させたときに慣性力が大きく勢いがついた状態で押圧部材が連動機構を押圧できるようになる。このため、押圧部材により連動機構を強い力で押圧することができ、復帰動作を確実に行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
〔全体構成〕
本発明の一実施形態による電動リールは、図1に示すように、主にハンドル1が装着されたリール本体2と、リール本体2に回転自在に装着されたスプール3と、スプール3内に装着されたモータ4とを備えている。リール本体2の上部には、水深表示等を行うためのカウンタ5が装着されている。リール本体2の内部には、図2に示すように、ハンドル1の回転をスプール3に伝達するとともにモータ4の回転をスプール3に伝達する回転伝達機構6と、回転伝達機構6の途中に設けられたクラッチ機構7と、クラッチ機構7を切り換えるクラッチ切換機構8(図4)と、ハンドル1の糸繰り出し方向の逆転を禁止する第1ワンウェイクラッチ9と、モータ4の糸繰り出し方向の逆転を禁止する第2ワンウェイクラッチ10と、モータ4の逆転によりクラッチ機構7をクラッチオン状態に戻す第1クラッチ戻し機構11と、ハンドル1の糸巻取方向の回転によりクラッチ機構7をクラッチオン状態に戻す第2クラッチ戻し機構12(図4)とを備えている。
【0019】
〔リール本体の構成〕
リール本体2は、フレーム13と、フレーム13の両側方を覆う側カバー14、15とを有している。フレーム13は、アルミニウム合金ダイカストの一体成形された部材であり、左右1対の側板16、17と、側板16、17を複数箇所で連結する連結部材18とを有している。下部の連結部材18には、釣竿を装着するための竿装着脚19が装着されている。
【0020】
側カバー15は、側板17にボルトにより締結されている。側カバー15には、回転伝達機構6などを装着するための固定フレーム20がボルトにより締結されている。したがって側カバー15を側板17から外すと、固定フレーム20も回転伝達機構6の一部や側カバー15とともに側板17から外れる。
【0021】
側カバー14は、側板16にボルトにより締結されている。側カバー14には、外部に設けられた蓄電池等の電源と接続するための電源ケーブル用のコネクタ部14a(図1)が前部に斜めに突出して設けられている。
【0022】
側板16は、周縁部にリブを有する合成樹脂製の板状部材であり、中心部には、モータ4を装着するための膨出部27が外方に突出して形成されている。膨出部27には、モータ4の端部側を覆うためのカバー部材28が着脱自在に装着されている。
【0023】
〔スプールの構成〕
スプール3は、内部にモータ4を収納可能な筒状の糸巻胴部3aと、糸巻胴部3aの外周部に間隔を隔てて形成された左右1対のフランジ部3bとを有している。スプール3の一端はフランジ部3bから外方に延びており、その延びた端部の内周面に軸受25が配置されている。スプール3の他端には、ギア板3cが固定されている。ギア板3cは、図示しないレベルワインド機構にスプール3の回転を伝達するために設けられている。ギア板3cのスプール中心側部において、ギア板3cと固定フレーム20との間には転がり軸受26が装着されている。この2つの軸受25、26により、スプール3は、リール本体2に回転自在に支持されている。
【0024】
〔モータの構成〕
モータ4は、内部に界磁や電機子を有する直流モータであり、スプール3の糸巻き取り用、糸繰り出し用及び第1クラッチ戻し機構11の動作用の駆動体として機能する。モータ4は、基端が開口する有底筒状のケース部材31と、開口を塞ぐためにケース部材31の基端に固定されたキャップ部材32と、ケース部材31とキャップ部材32とに回転自在に装着された出力軸30とを有している。ケース部材31は、有底筒状の部材であり、底部で出力軸30を回転自在に支持している。
【0025】
出力軸30は、ケース部材31とキャップ部材32とに回転自在に装着されている。出力軸30の左端はキャップ部材32から突出しており、そこには、セレーション30aが形成され、機構装着軸75がたとえばセレーション結合により回転不能に固定されている。出力軸30の右端30bは、図3に示すようにケース部材31の先端から突出している。この突出した先端には、回転伝達機構6を構成する2段減速の遊星歯車機構40が装着されている。機構装着軸75は、図7に示すように、基端側に断面が円形に形成された大径の第1軸部75aと、互いに平行な面取り部75cが形成され第1軸部75aより小径の第2軸部75bと、断面が円形に形成され第2軸部75bより小径の第3軸部75dとを有している。
【0026】
〔カウンタの構成〕
カウンタ5は、釣り糸の先端に装着された仕掛けの水深を表示するとともに、モータ4を制御するために設けられている。カウンタ5には、仕掛けの水深や棚位置を水面からと底からとの2つの基準で表示するための液晶表示ディスプレイからなる水深表示部98と、水深表示部98の周囲に配置された複数のスイッチからなる操作キー部99とが設けられている。
【0027】
操作キー部99は、図11に示すように、水深表示部98の右側に上下に配置されたモータオンオフ用のパワースイッチPWと、釣り糸に関するモードを設定するための釣りモード設定スイッチLFと、左側に上下に並べて配置されたさそいスイッチIBと、糸長と水深との関係に関する設定を行う水深設定モードスイッチMDと、棚位置や底位置を設定するための位置設定スイッチMSとを有している。
【0028】
また、カウンタ5の内部には、図12に示すように、水深表示部98やモータ4を制御するためのマイクロコンピュータからなるリール制御部100が設けられている。リール制御部100には、操作キー部99と、側カバー15に揺動自在に装着されスプールの速度や釣り糸の張力を調整するための調整レバー101と、スプール3の回転数と回転方向とを、たとえば回転方向に並べて配置された2つのリードスイッチで検出するスプールセンサ102と、電動リールに接続される電源の電圧を検出する電源電圧センサ106と、各種の報知用のブザー103と、水深表示部98と、モータ4をパルス幅変調(PWM)したデューティ比で駆動するPWM駆動回路105と、他の入出力部とが接続されている。リール制御部100は、調整レバー101の操作量に応じてモータ4の速度やトルクを制御する。また、スプールセンサ102の出力により釣り糸の先端に取り付けられる仕掛けの水深を算出し、それを水深表示部98に表示する。さらに、操作キー部99の操作により底位置や棚位置が設定されると、算出された水深と設定された底位置や棚位置とが一致して仕掛けが棚位置や底位置に到達したときに、モータ4を逆転させて第1クラッチ戻し機構11を介してクラッチ切換機構8を動作させクラッチ機構7をクラッチオン状態に戻す。これにより、仕掛けがその位置に配置される。
【0029】
なお、モータ4の逆転によるクラッチ戻し動作のとき、図15に示すように、リール制御部100は、PWM駆動回路105を与えるデューティ比を第1デューティ比D1から第2デューティ比D2に徐々に上げていく。これによりモータ4に印加される電圧は第1電圧V1から第2電圧V2に徐々に上昇する。なお、ここで、第1電圧V1は、たとえば、2ボルトから6ボルト未満の範囲が好ましい。また、第2電圧V2は、モータ4の逆転により後述する押圧部材91が進退部材96を押圧可能な電圧であり6ボルトから12ボルトの範囲が好ましい。第1デューティ比D1は、電源電圧PVに応じて変化させる必要があるが、鉛電池を使用したときのように電源電圧PVが12ボルトの場合、15%から50%未満の範囲が好ましい。また、第2デューティ比D2は、50%から100%の範囲が好ましい。これにより、モータ4の逆転時に出力軸30に固定される機構装着軸75が空転しにくくなる。なお、リチウム電池を使用して電源電圧PVが15ボルトになった場合、デューティ比D1,D2は、電源電圧PVの上昇分を補正するように、たとえば12/15の値に補正する。これにより、リチウム電池やニッケル水素電池のように鉛電池より電源電圧が高い蓄電池を使用しても、逆転開始時にモータ4に印加される第1及び第2電圧V1,V2は変動しにくくなり、モータ4の逆転時に出力軸30に固定される機構装着軸75がさらに空転しにくくなる。
【0030】
〔回転伝達機構の構成〕
回転伝達機構6は、ハンドル1が回転不能に装着されたハンドル軸33と、ハンドル軸33に回転自在に装着されたメインギア34と、メインギア34に噛み合うピニオンギア35と、ハンドル軸33の周囲に配置されたドラグ機構36と、モータ4の回転を2段階で減速する遊星歯車機構40とを有している。
【0031】
ハンドル軸33は、固定フレーム20に軸受37とハンドル軸33の糸繰り出し方向の回転を禁止するローラクラッチ38とにより回転自在に支持されている。ハンドル軸33の先端にハンドル1が回転不能に装着され、その内側にドラグ機構36のスタードラグ39が螺合している。
【0032】
メインギア34には、ドラグ機構36を介してハンドル軸33の回転が伝達される。ピニオンギア35は、側カバー15に立設されたピニオンギア軸47に回転自在かつ軸方向移動自在に装着されている。ピニオンギア軸47は、モータ4の出力軸30と同芯に配置されている。ピニオンギア35の図2左端には、係合凹部35aが形成され、右端にはメインギア34に噛み合う歯部35bが形成されている。またその間には小径のくびれ部35cが形成されている。係合凹部35aは、遊星歯車機構40の後述する第2キャリア46の先端(図2右端)に形成された係合凸部46aに回転不能に係合する。クラッチ機構7は、この係合凹部35aと、係合凸部46aとにより構成されている。ピニオンギア35は、くびれ部35cに係合するクラッチ切換機構8によりピニオンギア軸47の軸方向に移動する。
【0033】
ドラグ機構36は、スプール3の糸繰り出し方向の回転を制動するものであり、スタードラグ39と、スタードラグ39によりメインギア34に対する押圧力(ドラグ力)が変化するドラグディスク48とを有する公知の機構である。
【0034】
遊星歯車機構40は、図3に示すように、モータ4の図3右側の出力軸30に固定された第1太陽ギア41と、第1太陽ギア41に噛み合う、たとえば円周上に等間隔で配置された3つの第1遊星ギア43と、第1遊星ギア43を回転自在に支持する第1キャリア45と、第1キャリア45に固定された第2太陽ギア42と、第2太陽ギア42に噛み合うたとえば円周上に等間隔で配置された3つの第2遊星ギア44と、第2遊星ギア44を回転自在に支持する第2キャリア46とを備えている。第1遊星ギア43及び第2遊星ギア44は、スプール3の内周面に形成された内歯ギア3dに噛み合っている。第1キャリア45及び第2キャリア46は筒状軸となっており、内部をモータ4の出力軸30が貫通している。第2太陽ギア42及び第2キャリア46は出力軸30に対して相対回転可能に設けられている。また、第2キャリア46は、ギア板3cに回転自在に装着されている。第2遊星ギア44と、第1キャリア45との間には、滑りやすい性質の合成樹脂製のワッシャ部材29が装着されている。このようなワッシャ部材29を装着すると、第1キャリア45の遊びが減少して遊星歯車機構40の騒音の低下を図ることができる。
【0035】
〔クラッチ機構の構成〕
クラッチ機構7は、スプール3を糸巻取可能状態と自由回転可能状態とに切換可能な機構である。クラッチ機構7は、図2に示すように、前述したようにピニオンギア35の係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aと構成されている。ピニオンギア35が、左方に移動して係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aと係合した状態がクラッチオン状態でなり、離反した状態がクラッチオフ状態である。クラッチオン状態では、スプール3は糸巻取可能状態になり、クラッチオン状態では、スプール3は自由回転可能状態になる。なお、クラッチオフ状態でモータ4を糸巻取方向に回すと遊星歯車機構40の摩擦抵抗が小さくなる。この結果、スプール3の自由回転速度が増加し、仕掛けを素早く棚位置に下ろすことができる。これが糸送り処理である。
【0036】
〔クラッチ切換機構の構成〕
クラッチ切換機構8は、クラッチ機構7のオンオフ状態を切り換えるものである。クラッチ切換機構8は、図4及び図5に示すように、側カバー15に揺動自在に装着されたクラッチ操作レバー50と、クラッチ操作レバー50の揺動によりピニオンギア軸47回りに回動するクラッチカム51と、クラッチカム51の回動によりピニオンギア軸47方向に移動するクラッチヨーク52とを有している。
【0037】
クラッチ操作レバー50は、図4及び図5に示すように、スプール3の後方かつ上方で側カバー15に揺動自在に装着されている。クラッチ操作レバー50は、図4に示すクラッチオン位置と図5に示すクラッチオフ位置との間で揺動自在である。
【0038】
クラッチカム51は、クラッチ操作レバー50の揺動によりピニオンギア軸47回りに回動する部材であり、回動によりクラッチヨーク52をスプール軸外方に移動させるものである。クラッチカム51は、ピニオンギア軸47回りに回動自在に装着された回動部55と、回動部55からクラッチ操作レバー50側に延びる第1突出部56aと、回動部55から前方に延びる第2突出部56bと、回動部55から後方に延びる第3突出部56cと、回動部55の側面に形成された傾斜カムからなる1対のカム突起57a,57bとを有している。このカム突起57a,57bに対向するクラッチヨーク52の両端には、カム突起57a,57bに乗り上げるカム受け(図示せず)が形成されている。
【0039】
回動部55は、リング状に形成されており、クラッチヨーク52と固定フレーム20との間に配置されている。回動部55は、固定フレーム20に回動自在に支持されている。
【0040】
第1突出部56aは、回動部55から上後方に延び、先端は二股に分かれてクラッチ操作レバー50に係合している。この第1突出部56aは、クラッチ操作レバー50の揺動に応じてクラッチカム51を回動させるために設けられている。
【0041】
第2突出部56bは、クラッチ切換機構8を第2クラッチ戻し機構12に連動させるために設けられている。第2突出部56bは、リールの前方に延びており、メインギア34と固定フレーム20との間に配置された第1ワンウェイクラッチ9のラチェットホイール62の外方側に延びている。第2突出部56bには、捩じりコイルばねからなる第1トグルばね65が係止されている。第1トグルばね65の他端は固定フレーム20に係止されている。この第1トグルばね65により、クラッチカム51は、図4に示すクラッチオン位置と、図5に示すクラッチオフ位置とに保持される。また、第2突出部56bには、揺動軸51aが装着されており、この揺動軸51aに第2クラッチ戻し機構12の係合部材61が揺動自在に装着されている。
【0042】
第3突出部56cは、クラッチ切換機構8を第1クラッチ戻し機構11に連動させるために設けられている。第3突出部56cは、リールの後下方に延びており、その先端に第1クラッチ戻し機構11が連結されている。
【0043】
カム突起57a,57bは、クラッチヨーク52をスプール軸方向外方に押圧するために設けられている。すなわち、クラッチカム51が図4に示すクラッチオン位置から図5に示すクラッチオフ位置に回動すると、カム突起57a,57bにクラッチヨーク52が乗り上げてスプール軸方向外方(図4,図5紙面手前方向)に移動する。
【0044】
クラッチヨーク52は、ピニオンギア軸47の外周側に配置されており、2本のガイド軸53によってピニオンギア軸47の軸心と平行に移動可能に支持されている。また、クラッチヨーク52はその中央部にピニオンギア35のくびれ部35cに係合する半円弧状の係合部52aを有している。また、クラッチヨーク52を支持するガイド軸53の外周でクラッチヨーク52と側カバー15との間にはコイルばね54が圧縮状態で配置されており、クラッチヨーク52はコイルばね54によって常に内方(側板17側)に付勢されている。
【0045】
このような構成では、通常状態ではピニオンギア35は内方のクラッチ係合位置に位置しており、その係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aとが係合してクラッチ機構7がクラッチオン状態となっている。一方、クラッチヨーク52によってピニオンギア35が外方に移動した場合は、係合凹部35aと係合凸部46aとの係合が外れ、クラッチオフ状態となる。
【0046】
〔第1ワンウェイクラッチの構成〕
第1ワンウェイクラッチ9は、ハンドル軸33の糸繰り出し方向の回転を禁止することにより、モータ4駆動時にハンドル1が回転するのを防止するために設けられている。第1ワンウェイクラッチ9は、ハンドル軸33に回転不能に装着されたラチェットホイール62と、ラチェットホイール62と、ラチェット爪71と、挟持部材72とを有している。
【0047】
ラチェットホイール62はメインギア34と固定フレーム20との間でハンドル軸33に回転不能に装着されている。ラチェットホイール62の外周側には鋸歯状のラチェット歯62aが形成されている。
【0048】
ラチェット爪71は側板17に回動自在に装着されている。また挟持部材72はラチェット爪71の先端に取り付けられ、ラチェットホイール62の外周面を挟持可能である。この挟持部材72とラチェットホイール62との摩擦によって、ラチェットホイール62の時計回り(糸巻取方向)の回転時にはラチェット爪71がラチェット歯62aと干渉しない位置まで離れられ、ラチェットホイール62の糸巻取方向の回転時にラチェット爪71が接触しなくなり静音化できる。一方、反時計回り(糸繰り出し方向)の回転時にはラチェット爪71がラチェット歯62aと干渉する位置まで引き込まれ、糸繰り出し方向の回転が禁止される。なお、この電動リールには、このような第1ワンウェイクラッチ9に加えて、ハンドル軸33の逆転を瞬時に禁止するローラクラッチ38が側カバー15とハンドル軸33との間に配置されている。
【0049】
〔第2ワンウェイクラッチの構成〕
第2ワンウェイクラッチ10は、ハンドル1の操作時にモータ4が逆転することにより遊星歯車機構40が動作するのを防止するために設けられている。第2ワンウェイクラッチ10は、図6及び図7に示すように、機構装着軸75の第2軸部75bに回転不能に装着された爪車81と、爪車81に対して接離する揺動爪82と、揺動爪82を爪車に向けて付勢する捩じりコイルばね83と、モータ4の糸巻取方向の正転時に揺動爪82を制御する爪制御機構84とを有している。
【0050】
爪車81は、中心に機構装着軸75の第2軸部75bに形成された面取り部75cに回転不能に係合する小判孔81bを有している。また、外周に径方向に突出して形成されたたとえば2つの突起部81aを有している。
【0051】
揺動爪82は、側板16の膨出部27に立設された揺動軸80に揺動自在に基端が装着されている。揺動爪82の先端には、図7奥側に突出する爪部82aが形成されている。爪部82aは、爪車81の突起部81aに接触して爪車81(出力軸30)の逆転を阻止するとともに、爪制御機構84の後述する静音カム85に接触して突起部81aをかわす位置まで揺動爪82を揺動させるために設けられている。
【0052】
揺動爪82は、第1クラッチ戻し機構11により、図8に示す突起部81aに接触可能な逆転禁止位置と、図9に示す逆転許可位置との間で揺動するとともに、図10に示すように、モータ4の正転時に爪車81の突起部81aをかわす位置まで僅かに逆転許可位置側に揺動する。
【0053】
爪制御機構84は、モータ4が正転すると爪車81の突起部81aをかわす位置まで揺動爪82を逆転許可位置側に揺動させるための機構である。爪制御機構84は、機構装着軸75の第1軸部75aに回転自在に装着され、外周に揺動爪82を逆転禁止位置側に押圧するための突出した押圧部85aを有する静音カム85と、静音カム85の回動範囲を規制する回動規制部86とを有している。静音カム85は、第1軸部75aに摩擦係合しており、機構装着軸75の回動に連動して同じ方向に回動するとともに、回動規制部86によって静音カム85の回動が規制されても機構装着軸75は回転できるようになっている。回動規制部86は、静音カム85に径方向に突出して一体形成された係止片86aと、カバー部材28に形成され係止片86aが係止される切欠き部86bとを有している。切欠き部86bは、カバー部材28の円弧状の側面を揺動範囲だけ円弧状に切り欠いて形成されている。静音カム85と爪車81との間には、ワッシャ87が装着されている。
【0054】
〔第1クラッチ戻し機構の構成〕
第1クラッチ戻し機構11は、モータ4の逆転によりクラッチ切換機構8を介してクラッチ機構7をクラッチオフ状態からクラッチオン状態に戻すものである。第1クラッチ戻し機構11は、図4〜図7に示すように、爪車81と並べて機構装着軸75に装着され少なくともモータ4の逆転に連動して回転する押圧機構88と、クラッチ切換機構8と連動して動作する連動機構89とを有している。
【0055】
押圧機構88は、爪車81と並べて機構装着軸75の第3軸部75dに配置され、モータ4の逆転に連動して回転するものである。押圧機構88は、第3軸部75dに装着されたローラクラッチ90と、ローラクラッチ90の外周側に回転不能に装着された押圧部材91とを有している。ローラクラッチ90は、外輪90aと、外輪90aに収納された複数のローラ90bとを有する外輪遊転型のワンウェイクラッチである。なお、内輪は機構装着軸75の第3軸部75dと一体化されている。ローラクラッチ90は、モータ4の逆転のみ押圧部材91に伝達するものである。ここで、押圧部材91にローラクラッチ90を装着したのは、クラッチオフ状態で連動機構89が押圧部材91に近接しモータ4を正転させる糸送りモードのとき、押圧部材91が連動機構89に接触しても問題が生じないようにするためである。押圧部材91は、モータ4が逆転するとその回転がローラクラッチ90を介して伝達されて回転する。押圧部材91は、ローラクラッチ90の外輪90aに回転不能に装着される筒状部91aと、筒状部91aの外周側に径方向に突出し周方向に間隔を隔てて形成された、たとえば3つの突起部91bとを有している。突起部91aは、連動機構89を押圧可能な突起である。
【0056】
連動機構89は、クラッチ切換機構8の動作に連動して動作し、クラッチ切換機構8によりクラッチ機構7がクラッチオフ状態に切り換えられると、揺動爪82に接触して揺動爪82を爪車81から離反させるとともに押圧機構88による押圧が可能な解放位置に移動する。これにより、モータ4が逆転許可状態になる。また、連動機構89は、その状態でモータ4が逆転すると押圧機構88により押圧されて押圧が不能な係止位置に移動する。係止位置に移動すると揺動爪82から離反して揺動爪82が爪車81に係止する。
【0057】
連動機構89は、側板16,17を貫通して側板16,17に回転自在に装着された一端が固定フレーム20の外方に配置される連結軸93と、連結軸93の両端に回転不能に装着された第1及び第2レバー部材94,95と、第2レバー部材95の先端に連結された進退部材96とを有している。
【0058】
連結軸93は、側板16,17に回転自在に装着され、一端が固定フレーム20の外方に突出し他端が側板16の外方に突出する軸部材である。連結軸93の突出した両端には、第1及び第2レバー部材94,95を回転不能に装着するための互いに平行な面取り部93a,93bが形成されている
第1レバー部材94は、基端が連結軸93の固定フレーム20側の面取り部93aに回転不能に装着された部材である。第1レバー部材94の先端は、クラッチ切換機構8を構成するクラッチカム51の第3突出部56cの先端に回動自在かつ所定距離移動自在に係止されている。これにより、クラッチカム51の回動が第1クラッチ戻し機構11に伝達されるとともに、第1クラッチ戻し機構11の戻し動作がクラッチカム51に伝達されクラッチ切換機構8を動作させることができる。
【0059】
第2レバー部材95は、基端が連結軸93の側板16側の面取り部93bに回転不能に装着された部材である。第2レバー部材95の先端は、進退部材96の基端に回動自在かつ所定距離移動自在に係止されている。これにより、クラッチ切換機構8の動作に連動して進退部材96が進退するとともに、進退部材96の後退動作により、クラッチ切換機構8がクラッチオフ方向に動作する。
【0060】
進退部材96は、膨出部27に形成された1対のガイド部27a,27bにより揺動爪82及び押圧部材88に向けて直線移動自在に案内されている。進退部材96は、基端に第2レバー部材95が回転自在かつ所定範囲移動自在に連結された板状部材である。進退部材96は、揺動爪82に分かって延びて揺動爪82の下面に接触可能な第1接触部96aと、第1接触部96aの根元から押圧部材91に向けて折り曲げられた第2接触部96bとを先端に有している。進退部材96は、第2接触部96bが押圧部材91による押圧が可能となりかつ第1接触部96aが揺動爪82を押圧して逆転許可位置に揺動させる図9に示す解放位置と、第1接触部96aが揺動爪82から離反しかつ押圧部材91による押圧が不能な図8に示す係止位置とに移動自在である。具体的には、クラッチ切換機構8がクラッチオフ位置からクラッチオン位置側に移動すると、第1及び第2レバー部材94,95が揺動して進退部材96は解放位置に進出し、モータ4の逆転により押圧部材91により押圧されると、係止位置に後退する。これにより、第2及び第1レバー部材95,94を介してクラッチカム51がクラッチオン方向に回動し、クラッチ操作レバー50がクラッチオン位置に戻るとともにクラッチ機構7がクラッチオン状態になる。
【0061】
〔第2クラッチ戻し機構の構成〕
第2クラッチ戻し機構12は、ハンドル1の糸巻取方向の回転に応じて、クラッチオフ位置に配置されたクラッチカム51をクラッチオン位置に戻してクラッチ機構7をクラッチオン状態に復帰させると共に、クラッチカム51によりクラッチ操作レバー50をクラッチオフ位置からクラッチオン位置に戻すものである。第2クラッチ戻し機構12は、前述した係合部材61と、ラチェット歯62aが外周に形成されたラチェットホイール62と、係合部材61を係合位置と非係合位置に向けて振り分けて付勢する第2トグルばね66とから構成されている。係合部材61は、前述したようにクラッチカム51の第2突出部56bに揺動自在に支持されており、その先端にラチェットホイール62のラチェット歯62aに係合する第1突起61aと、第1突起61aの図4左方に延びる第2突起61bとを有している。
【0062】
第1突起61aは、ラチェットホイール62の外方に向けて折り曲げられており、第2突起61bは、固定フレーム20側に逆側に折り曲げられている。固定フレーム20には、第2突起61bに係合する変形台形状のガイド突起20aが形成されている。ガイド突起20aは、第2突起61bに係合することで係合部材61の揺動方向を制御するために設けられている。
【0063】
係合部材61は係合位置に配置されると、ラチェットホイール62の外周より内周側に第1突起61aが位置してラチェット歯62aに係止し得る状態になり、非係合位置に配置されると、ラチェットホイール62の外周から若干離反した位置に第1突起61aが位置する。この係合部材61はラチェットホイール62の軸芯の前方かつ上方に配置されている。このため、ラチェットホイール62の後方に配置される従来例に比べてラチェットホイール62の後方側の空間が小さくて済む。係合部材61の第1突起61aはラチェット歯62aにより引っ張られて図5に示す係合位置から図4に示す非係合位置に回動する。
【0064】
なお、レベルワインド機構やキャスティングコントロール機構については、従来公知の電動リールと同様な構成のため説明を省略する。
【0065】
〔クラッチ切換動作〕
次に、電動リールのクラッチ切換動作について説明する。
【0066】
通常の状態では、クラッチヨーク52はコイルばね54によってピニオンギア軸方向内方に押されており、これによりピニオンギア35はクラッチオン位置に移動させられている。この状態では、ピニオンギア35の係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aとが噛み合ってクラッチオン状態となっている。
【0067】
仕掛けを投入する場合には、クラッチ操作レバー50を図5に示すクラッチオフ位置に揺動させる。クラッチ操作レバー50が、図4に示すクラッチオン位置から、図5に示すクラッチオフ位置に揺動すると、クラッチカム51が図4反時計回りに回動する。この結果、クラッチカム51のカム突起57a,57bにクラッチヨーク52が乗り上げ、クラッチヨーク52はピニオンギア軸方向外方に移動させられる。クラッチヨーク52はピニオンギア35のくびれ部35cに係合しているので、クラッチヨーク52が外方へ移動することによってピニオンギア35も同方向に移動させられる。この状態ではピニオンギア35の係合凹部35aと第2キャリア46の係合凸部46aとの噛み合いが外れ、クラッチオフ状態となる。このクラッチオフ状態では、スプール3は自由回転可能状態になる。この結果、仕掛けの重さにより釣糸がスプール3から繰り出される。
【0068】
そして、糸送りモードのときには、たとえば繰り出し量が所定量(たとえば、仕掛けの水深表示が6m)を超えたり、スプール3の回転速度が所定速度を超えると、モータ4が糸巻取方向に回転する。このクラッチオフ状態では第2キャリア46が回転するため、モータ4を正転させても遊星歯車機構40は減速動作しないが、遊星歯車機構40とスプール3との摩擦が減少し、スプール3が自由回転状態より高速で糸繰り出し方向に回転する。
【0069】
また、クラッチカム51がクラッチオフ位置に回動すると、第2クラッチ戻し機構12の係合部材61がガイド突起20aに案内されて時計方向に揺動し、死点を超えた時点で第2トグルばね66によりラチェットホイール62の内方に付勢される。この結果、係合部材61はラチェット歯62aに係止される係合位置に配置される。
【0070】
さらに、クラッチカム51がクラッチオフ位置に回動すると、第1クラッチ戻し機構11の連動機構89の進退部材96が、図8に示す係止位置から図9に示す解放位置に進出する。進退部材96が解放位置に進出すると、第2ワンウェイクラッチ10の揺動爪82に第1接触部96aが接触して揺動爪82を図8に示す逆転禁止位置から図9に示す逆転許可位置に揺動させる。この結果、モータ4が逆転可能状態になる。また進退部材96が解放位置に進出すると、押圧部材91の突起部91bが押圧可能な位置に第2接触部96bが配置される。
【0071】
仕掛けが所定の棚に配置されると、モータ4を逆転させるか、ハンドル1を糸巻取方向に回転させるか、又はクラッチ操作レバー50をクラッチオン位置に揺動させスプール3の糸繰り出しを停止する。自動棚停止モードのときには、モータ4の逆転によりスプール3の糸繰り出しが自動的に棚位置で停止する。
【0072】
モータ4を逆転させると、第1クラッチ戻し機構11によりクラッチオン状態に戻る。具体的には、モータ4を逆転させると、図9に示すように、押圧部材91が逆転(図9時計回りの回転)し、3つの突起部91bのいずれかが進退部材96の第2接触部96bを押圧して進退部材96を解放位置から係止位置に向けて後退させる。すると、第2レバー部材95、連結軸93を介して第1レバー部材94に連結されたクラッチカム51が図5時計回りに回動する。このとき、第1トグルばね65の死点を超えるとクラッチカム51がクラッチオン位置に戻り、これにより、進退部材96も係止位置に戻る。また、クラッチカム51が時計回りにクラッチオン位置に向けて回動すると、クラッチカム51のカム突起57a,57bに乗り上げていたクラッチヨーク52がカム突起57a,57bから下りて、コイルばね54の付勢力によりスプール軸方向内方に移動する。この結果、ピニオンギア35もスプール軸方向内方向に移動しクラッチオン位置に配置される。また、クラッチカム51が図5時計回りに回動すると、第1突起部56aに係止されたクラッチ操作レバー50もクラッチオン位置に揺動する。これにより、クラッチ操作レバー50を操作することなくクラッチ機構7をクラッチオフ状態からクラッチオン状態にすることができる。また、進退部材96が係止位置に戻ると、進退部材96による押圧が解除され、捩じりコイルばね83により付勢された揺動爪82は、逆転禁止位置に戻り、第1ワンウェイクラッチ9は逆転禁止状態になり、モータ4の逆転は禁止される。
【0073】
このモータ4の逆転時に、機構装着軸75にローラクラッチ90を介して装着された押圧部材91が進退部材96の第2接触部96bに衝突してそれを押圧する。このとき、押圧部材91に衝撃が作用し、それによるトルクが機構装着軸75と出力軸30との固定部分のセレーション30aに作用する。この部分は小径であるため、接線方向の力が大きくなり、電源電圧をそのままモータ4に印加するとその部分で空転するおそれがある。そこで、本実施形態では、モータ4を、前述したように図15に示した第1デューティ比D1から第2デューティ比D2に徐々に大きくなるデューティ比で制御し、進退部材96を押圧可能な電圧までモータ4に印加する電圧を徐々に上げている。この結果、逆転開始時に押圧部材91が進退部材96に衝突するときのトルクが小さくなり、押圧部材91が装着された機構装着軸75などの出力軸30に装着された駆動部品が空転しにくくなる。
【0074】
また、この実施形態では、逆転前に正転動作を入れる。逆転時に、押圧部材91の突起部91aのいずれかが進退部材96の近くに配置されていると、慣性力を加味した十分な力で進退部材96を押圧することができず、クラッチオンへの復帰動作が不安定になるおそれがある。そこで、本実施形態では、逆転前にモータ4を短時間正転動作させ、図9に示すように、3つの突起部91bのいずれかの押圧面と異なる背面91bを進退部材96の押圧位置(第2接触部96bの前面96c)と異なる位置(第2接触部96bの背面96d)に接触させて、逆転前の押圧部材91回転位相が一定となるように位置決めしている。これにより、進退部材96の第2接触部96bから大きく離反した位置に押圧部材91の突起部91bのいずれかが配置されるので、モータ4を逆転させたときに慣性力が大きく勢いがついた状態で押圧部材91が進退部材96を押圧できるようになる。このため、押圧部材91により連動機構89を慣性力が加味された充分な力で押圧することができ、復帰動作を確実に行えるようになる。なお、このモータ4の正転動作は例えば0.03〜0.1秒程度のきわめて短い時間であり、かつモータ4のトルクが一定になるようにデューティ比を、電源電圧が11ボルトの場合10〜30%の範囲で制御する。
【0075】
ハンドル1を糸巻取方向に回転させると、第2クラッチ戻し機構12によりクラッチオン状態に戻る。ハンドル1を糸巻取方向に回転させるとハンドル軸33が図5の時計回りに回転する。これにつれてハンドル軸33に回転不能に固定されたラチェットホイール62も時計回りに回転する。ラチェットホイール62が時計回りに回転すると、ラチェット歯62aに係合部材の第1突起61aが引っかかって係合部材61が引っ張られる。
【0076】
係合部材61が引っ張られると、係合部材61がガイド突起20aに案内されて反時計方向に揺動し、第2トグルばね66の死点を超えた時点で係合部材61がラチェットホイール62の外方に付勢される。そしてラチェットホイール62に係合しない非係合位置に向けて外方に係合部材61が揺動する。
【0077】
また、係合部材61が引っ張られると、係合部材61に連結されたクラッチカム51が図5時計回りに回動し、前述と同様にクラッチオン位置に戻る。これにより、ここでも、クラッチ操作レバー50を操作することなくクラッチ機構7をクラッチオフ状態からクラッチオン状態にすることができる。
【0078】
この第2クラッチ戻し機構12の係合部材61はハンドル軸33の上前方に配置されている。このハンドル軸33の上前方の位置は、カウンタ5を設ける場合には、空いたスペースとなっている。この空いたスペースに係合部材61を設けると、係合部材を従来のようにハンドル軸の後方かつ下方に配置する構成に比べてリール本体の膨らみを小さくすることができる。
【0079】
なお、第1及び第2クラッチ戻し機構11,12は、クラッチ操作レバー50をクラッチオフ位置からクラッチオン位置に操作しても、進退部材96が係止位置に戻るとともに係合部材61が非係合位置に戻ることは言うまでもない。
【0080】
クラッチオン状態で仕掛けに魚がかかると、ハンドル1又はモータ4の回転駆動によりスプール3を糸巻取方向に回転させ、釣り糸を巻き取る。
【0081】
手動巻取時には、ハンドル1の糸巻取方向の回転(図4時計回りの回転)はハンドル軸33、メインギア34、ピニオンギア35及び遊星歯車機構40を介して、スプール3に増速して伝達される。このとき、モータ4の逆転(図3右側から見て反時計回りの回転)が第2ワンウェイクラッチ10により禁止されている。このため、遊星歯車機構40の第1太陽ギア41が逆転しなくなり、糸巻取方向(図3右側から見て時計回りの回転)に回転する第2キャリア46から第2遊星ギア44、第1キャリア、第1遊星ギア43を介して内歯ギア3dに回転が伝達され、スプール3が糸巻取方向に増速駆動される。
【0082】
また、モータ駆動時は、正転(図3右側から見て時計回りの回転)するモータ4の回転は遊星歯車機構40を介してスプール3に伝達される。このとき、第1ワンウェイクラッチ9によりハンドル軸33の糸繰り出し方向の回転(図3右側から見て反時計回りの回転)が禁止されているので、第2キャリア46の逆転(図3右側から見て時計回りの回転)が禁止されている。このため、減速された第2太陽ギア42の回転が第2遊星ギア44を介して内歯ギア3dに伝達されスプール3が減速駆動される。
【0083】
また、図10に示すように、クラッチオン状態でモータ4が正転(図10の反時計回りの回転)すると、爪制御機構84の静音カム85が同方向に回転し、回動規制部86によって揺動爪82の爪部82aを押圧部85aが押圧する位置に止まる。このとき、静音カム85は機構装着軸75に摩擦係合しているだけであるので、モータ4はそのまま回転する。この結果、揺動爪82が押圧部85aにより押圧されて爪車81の突起部81aをかわす位置まで逆転許可位置側に揺動し、爪車81が揺動爪82に接触しなくなる。このため、モータ4が正転すると、第1ワンウェイクラッチ9の揺動爪82が爪車81への接触を繰り返すことによるクリック音は発生しなくなり静音化を図ることができる。
【0084】
モータ4が逆転すると、静音カム85も同方向に回転し、図8に示すように、回動規制部86により押圧部85aが爪部82aから外れる位置で停止し、揺動爪82は捩じりコイルばね83により付勢されて逆転禁止位置に戻る。
【0085】
また、糸送りモードのようにクラッチオフ状態でモータ4が正転すると、やはり、静音カム85が同方向に回転して静音化を図ることができる。このとき、押圧部材91は、モータ4の逆転のみを伝達するローラクラッチ90を介して機構装着軸75に装着されているので、機構装着軸75の回転は押圧部材91に伝達されない。このため、クラッチオフ状態で進退部材96が押圧部材91に接触可能に近接して配置されていても、押圧部材91が進退部材96を押圧することがなく、それによる不具合は生じない。
【0086】
〔リール制御部の動作〕
次に、リール制御部100によって行われる具体的な制御処理を、図13以降の制御フローチャートに従って説明する。
【0087】
電動リールに外部電源が接続されると、図13のステップS1において初期設定を行う。この初期設定ではスプール回転数の計数値をリセットしたり、各種の変数やフラグをリセットしたり、変速段を1速にしたりする。ステップS2では、電源電圧センサ106で検出された電源電圧PVを取り込む。ステップS3では、電源電圧PVが12ボルトより高いか否か、つまり、鉛蓄電池と異なる電源電圧が高い種類の蓄電池がリールに接続されたか否かを判断する。電源電圧PVが高い種類の電池(たとえば、リチウム電池やニッケル水素電池など)が接続された場合は、ステップS3からステップS4に移行してモータ逆転時のデューティ比D1,D2を検出された電源電圧PVに応じて補正する。具体的には、基本の第1及び第2デューティ比D1,D2に12を電源電圧PVで除算した値(12/PV)を乗算したものを新たな第1及び第2デューティ比D1,D2にする。これにより、電源電圧PVが変動しても逆転時にモータ4に印加される第1及び第2電圧V1,V2が変動しにくくなる。なお、この実施形態では、電源が接続される初期設定に続いて1回だけ電源電圧の判定を行っているが、電源接続後に複数回の判定を行ってもよい。
【0088】
次にステップS5では表示処理を行う。表示処理では、水深表示等の各種の表示処理を行う。ステップS6では、操作キー部99のいずれかのスイッチや調整レバー101が操作されたか否かを判断する。またステップS7ではスプール3が回転しているか否かを判断する。この判断は、スプールセンサ102の出力により判断する。ステップS8では、スプールセンサ102の出力により算出された水深LXが6m以上か否かを判断する。ステップS9ではその他の指令や入力がなされたか否かを判断する。
【0089】
操作キー部99や調整レバー101によるキー入力がなされた場合にはステップS6からステップS10に移行してキー入力処理を実行する。このキー入力処理では、パワースイッチSWが操作されると、モータ4の正転をオンオフする。また、調整レバー101が操作されると、その揺動確度に応じてモータ4の増減速又はモータ4のトルクの増減を行う。さらに釣りモード設定スイッチLFが操作されると、糸送りモードや棚停止モード等が設定される。
【0090】
スプール3の回転が検出された場合にはステップS7からステップS11に移行する。ステップS11では後述する各動作モード処理を実行する。水深LXが6m以上のときは、ステップS8からステップS12に移行する。ステップS12では、その水深LXでの仕掛けの停止時間が6秒以上か否かを判断する。6秒以上の場合は、仕掛けが棚停止していると考えられるので、ステップS13に移行してその水深LXを棚位置Mにセットする。その他の指令あるいは入力がなされた場合にはステップS9からステップS14に移行してその他の処理を実行する。
【0091】
ステップS11の各動作モード処理では、図14のステップS21でスプール3の回転方向が糸繰り出し方向か否かを判断する。この判断は、スプールセンサ102のいずれのリードスイッチが先にパルスを発したか否かにより判断する。スプール3の回転方向が糸繰り出し方向と判断するとステップS21からステップS22に移行する。ステップS22では、スプールセンサ102から出力されるパルスの計数値が減少する毎に計数値に基づきリール制御部100内に記憶された水深と計数値との関係を示すデータを読み出し水深LXを算出する。この水深がステップS2の表示処理で表示される。
【0092】
ステップS23では、糸送りモードか否かを判断する。ステップS24では、棚停止モードか否かを判断する。ステップS25では、他のモードか否かを判断する。他のモードではない場合には、各動作モード処理を終わりメインルーチンに戻る。
【0093】
糸送りモードのときには、ステップS23からステップS26に移行する。ステップS26では、水深LXが6m以上か否かを判断する。糸送りモードでは、最初からモータ4を正転させるのではなく、釣り糸が確実に繰り出されていると判断できる水深まで釣り糸の繰り出しを待つ。水深LXが6m以上の場合には、ステップS27に移行してモータ4を正転させる。これにより、前述したように遊星歯車機構40とスプール3との摩擦が小さくなり、スプール3がより高速で糸繰り出し方向に回転する。水深LXが6m未満のときはステップS27をスキップする。
【0094】
棚停止モードと判断するステップS24からステップS28に移行する。ステップS28では、得られた水深LXが棚位置Mの手前の値(M−α)に一致したか、つまり、仕掛けが棚のαm手前に到達したか否かを判断する。数値αは、制御の応答時間や停止時間等を考慮して決定された値であり、通常は、0.5〜1mの値である。棚位置Mは、前述した所定時間以上の停止による自動セットの他に、仕掛けが棚に到達したときに位置設定スイッチMSを押すことでセットされる。仕掛けが数値(M−α)に到達するとステップS28からステップS29に移行する。ステップS29では、仕掛けが棚にあることを報知するためにブザー103を鳴らす。ステップS30では、モータ4を所定時間正転させる。これにより、前述したように押圧部材の突起部91bの背面91cが進退部材96の第2接触部96bの裏面に接触して回転位相が位置決めされる。これにより、押圧部材91の突起部91bと進退部材96の第2接触部96bとが大きく離反し、モータ4を逆転させたときに慣性力が大きく勢いがついた状態で押圧部材91が進退部材96を押圧できるようになる。このため、押圧部材91により連動機構86を慣性力が加味された充分な力で押圧することができ、クラッチ復帰動作を確実に行えるようになる。
【0095】
ステップS31では、モータ4を所定時間逆転させる。このとき、図15に示すように第1デューティ比D1から第2デューティ比D2に徐々にデューティ比を上げて、モータ4に印加する電圧を徐々に上げていく。これにより、機構装着軸75に衝撃による過大なトルクが作用しにくくなり、モータ4の出力軸30に装着された機構装着軸75が空転しにくくなる。このモータ4の逆転により、前述した動作で第1クラッチ戻し機構11によりクラッチ切換機構8を介してクラッチ機構7をクラッチオン状態に戻す。これにより、スプールの糸繰り出し方向の回転が停止する。水深LXが棚位置Mに到達していない場合はステップS29〜S31をスキップする。他のモードと判断するとステップS25からステップS32に移行し、設定された他のモード処理を実行する。
【0096】
スプール3の回転が糸巻き取り方向と判断するとステップS21からステップS33に移行する。ステップS32では、スプールセンサ102の計数値が増加する毎にリール制御部100内に記憶されたデータを読み出し水深LXを算出する。この水深がステップS2の表示処理で表示される。ステップS34では、水深が船縁停止位置に一致したか否かを判断する。船縁停止位置まで巻き取っていない場合にはメインルーチンに戻る。船縁停止位置に到達するとステップS34からステップS35に移行する。ステップS35では、仕掛けが船縁にあることを報知するためにブザー103を鳴らす。ステップS36では、モータ4をオフする。これにより魚が釣れたときに取り込みやすい位置に魚が配置される。この船縁停止位置は、たとえば水深6m未満で所定時間以上スプール3が停止しているとセットされる。
【0097】
ここでは、モータ4の逆転でクラッチ復帰動作を行う前に、モータ4を正転させて押圧部材91を連動機構86の進退部材96に退入方向と異なる方向から接触させて位置決めする。このため、押圧部材91の突起部91bが進退部材96の第2接触部96bから大きく離反した位置に配置され、モータ4を逆転させたときに慣性力が大きく勢いがついた状態で押圧部材91が進退部材96を押圧できるようになる。このため、押圧部材91により連動機構86を慣性力が加味された充分な力で押圧することができ、クラッチ復帰動作を確実に行えるようになる。
【0098】
また、モータ4の逆転により連動機構89を動作させてクラッチオン状態に復帰する際にだけ、押圧機構88により連動機構89を押圧して押圧機構88を離反させているので、モータ4と連動機構89とを常時連動させる必要がなくなる。このため、クラッチ切換機構8を手動操作してクラッチ機構7をクラッチオフ状態からクラッチオン状態に切り換える際にはモータ4が回らなくなり、手動による復帰操作を行いやすくなる。
【0099】
また、モータ4が正転すると、爪制御機構84により揺動爪82が爪車81をかわす位置まで揺動するので、モータ4の正転時に逆転防止のための揺動爪82が振動しなくなり静音化を図ることができる。
【0100】
さらに、押圧機構88の押圧部材91と出力軸30との間にローラクラッチ90を介装して出力軸30の正転を押圧部材91に伝達しないようにしたので、糸送りモードのときに、押圧部材91が連動機構89に接触しても押圧しなくなり、糸送りモードを円滑に実施できる。
【0101】
さらにまた、モータ4の逆転によりクラッチ復帰操作時に、モータ4に印加する電圧を第1電圧V1から第2電圧V2に徐々に上昇させているので、回転起動時から切換動作開始時にかけて衝撃的なトルク荷重にならず、モータ4の出力軸30に固定された機構装着軸75に無理な力が作用しなくなり、機構装着軸75の空転を防止することができる
〔他の実施形態〕
(a)前記実施形態では、電動リールのスプール回転用のモータ4を逆転する前に正転させた。しかし、本発明は電動リールに限定されるものではなく、モータを駆動体として用いた手巻きのカウンターリールなど全ての釣り用リールのモータ駆動のクラッチ復帰装置に適用できる。
【0102】
(b)前記実施形態では、スプール3内にモータ4を配置したが、スプール3外にモータ4が配置される電動リールにも本発明を適用できる。この場合も前記実施形態と同様にモータの正転によりクラッチ復帰動作を確実に行える。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明の一実施形態による電動リールの斜視図。
【図2】その縦断面図。
【図3】モータ装着部分の断面拡大図。
【図4】クラッチオン時のハンドル側の側カバーを外した状態の側面図。
【図5】クラッチオフ時のハンドル側の側カバーを外した状態の側面図。
【図6】クラッチオン時のハンドルと逆側の側カバーを外した状態の側面図。
【図7】第1クラッチ戻し機構を中心とした分解斜視図。
【図8】クラッチオン時の第1ワンウェイクラッチ及び第1クラッチ戻し機構を中心とした側面拡大図。
【図9】クラッチオフ時の第1ワンウェイクラッチ及び第1クラッチ戻し機構を中心とした側面拡大図。
【図10】モータ正転時の第1ワンウェイクラッチ及び第1クラッチ戻し機構を中心とした側面拡大図。
【図11】カウンタの平面拡大図。
【図12】リールの制御系の構成を示すブロック図。
【図13】リール制御部のメインルーチンの制御フローチャート。
【図14】リール制御部の各動作モード処理の制御フローチャート。
【図15】モータ逆転時のデューティ比の変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0104】
3 スプール
4 モータ
7 クラッチ機構
8 クラッチ切換機構
9 第1ワンウェイクラッチ
10 第2ワンウェイクラッチ
11 第1クラッチ戻し機構
30 出力軸
81 爪車
82 揺動爪
84 爪制御機構
88 押圧機構
89 連動機構
91 押圧部材
98 水深表示部
100 リール制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り用リールに用いられるクラッチ機構をクラッチオフ状態からクラッチオン状態に戻す釣り用リールのクラッチ復帰装置であって、
前記釣り用リールに設けられたモータと、
前記クラッチ機構を前記クラッチオフ状態と前記クラッチオン状態とに切り換えるクラッチ切換機構と、
少なくとも前記モータの第1方向の回転に連動して回転する押圧部材を有する押圧機構、及び前記クラッチ切換機構により前記クラッチ機構が前記クラッチオン状態からクラッチオフ状態に切り換えられると第1位置から第2位置に移動し、移動後の前記第2位置で前記押圧部材による押圧が可能になりかつ前記モータを前記第1方向と逆の第2方向に回転させると前記押圧部材が移動方向と異なる方向から接触可能になり、その状態で前記モータを前記第1方向に回転させると前記押圧部材により押圧されて前記押圧部材が接触不能な前記第1位置に戻るとともに前記クラッチ切換機構を介して前記クラッチ機構を前記クラッチオン状態にする連動機構を有する第1クラッチ戻し機構と、
前記クラッチオン状態にするために前記モータを前記第1方向に回転させるとともに、前記第1方向への回転の前に前記モータを前記第2方向に回転させ前記押圧部材を前記連動機構に接触させて前記押圧部材の回転位相を位置決めするモータ制御手段と、
を備えた釣り用リールのクラッチ復帰装置。
【請求項2】
前記釣り用リールは、ハンドルを有するリール本体と、前記リール本体に回転自在に支持された糸巻用のスプールと、前記ハンドルの回転を前記スプールに伝達する回転伝達機構と、前記回転伝達機構の途中に設けられ、前記スプールが自由回転可能状態となるクラッチオフ状態と、糸巻取可能状態となるクラッチオン状態とに切り換え可能なクラッチ機構とを有する電動リールであり、
前記モータの出力軸に回転不能に装着され前記押圧部材と並べて配置された爪車、及び前記爪車に対して接離しかつ前記爪車に向けて付勢される揺動爪を有し、前記モータの前記第1方向の回転を禁止可能な第1ワンウェイクラッチをさらに備え、
前記押圧部材は、前記第1位置から第2位置への移動途中で前記揺動爪に接触して前記揺動爪を前記爪車から離反させ前記モータの第1方向への回転を許可状態にし、
前記モータは、前記第2方向に回転すると、前記回転伝達機構を経由して前記スプールを糸巻取方向に回転させる、請求項1に記載の釣り用リールのクラッチ復帰装置。
【請求項3】
前記押圧機構は、前記押圧部材と前記モータの出力軸との間に配置され、前記モータの前記第1方向の回転を前記押圧部材に伝達するローラ型の第2ワンウェイクラッチをさらに有する、請求項1又は2に記載の釣り用リールのクラッチ復帰装置。
【請求項4】
前記釣り用リールは、前記スプールに巻き付けられる釣り糸の先端に装着される仕掛けの水深を前記スプールの回転に応じて算出する水深算出手段をさらに備え、
前記モータ制御手段は、前記水深算出手段の算出結果に応じて前記モータを前記第1方向に回転させる、請求項1から3のいずれか1項に記載の釣り用リールのクラッチ復帰装置。
【請求項5】
前記釣り用リールは、所定の水深を設定可能な水深設定手段をさらに備え、
前記モータ制御手段は、前記水深算出手段が算出した水深と前記水深設定手段で設定した水深とに関連して前記モータを前記第1方向に回転させる、請求項4に記載の釣り用リールのクラッチ復帰装置。
【請求項6】
前記第1ワンウェイクラッチは、前記モータが前記第2方向に回転すると前記爪車をかわす位置まで前記揺動爪を前記逆転許可位置側に揺動させる揺動爪制御機構をさらに有する、請求項2から5のいずれか1項に記載の釣り用リールのクラッチ復帰装置。
【請求項7】
前記揺動爪制御機構は、
前記モータの出力軸に回転自在に摩擦係合し、外周に前記揺動爪を押圧する押圧部を有する回動部材と、
前記回動部材の回動範囲を規制する回動規制部とを有する、請求項6に記載の釣り用リールのクラッチ復帰装置。
【請求項8】
前記釣り用リールの前記リール本体は、間隔を隔てて配置され間に前記スプールが配置された第1及び第2側板と、前記両側板を連結する連結部とを有するフレームと、前記第1側板の外方を覆う第1カバーと、前記第2側板の外方を覆いかつ前記ハンドルが装着された第2カバーとを有し、
前記クラッチ切換機構は、前記第2カバーと前記第2側板の間の空間に配置され、
前記連動機構は、
前記両側板を貫通して回動自在に装着された連結軸と、
前記連結軸の第2側板側の突出端に回転不能に装着され前記クラッチ切換機構に先端が連結されて前記クラッチ切換機構の切換動作に連動して揺動する第1レバー部材と、
前記連結軸の前記第1側板側の突出端に回転不能に装着された第2レバー部材と、
前記揺動爪に接触する第1接触部と前記押圧機構が接触する第2接触部とを有し、前記第2レバー部材の先端に連結され前記揺動爪及び前記押圧部材に向けて進退する進退部材とを有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の釣り用リールのクラッチ復帰装置。
【請求項9】
前記ハンドルの糸巻取方向の回転に連動して前記クラッチ切換機構を介して前記クラッチ機構をクラッチオフ状態からクラッチオン状態に戻す第2クラッチ戻し機構をさらに備える、請求項1から8のいずれか1項に記載の釣り用リールのクラッチ復帰装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−34140(P2006−34140A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216335(P2004−216335)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】