説明

釣餌としての環形動物を保存するための処理方法及び釣餌の製造方法並びに釣餌

【課題】釣餌用環形動物の生身の性質を保持したまま、長期間保存するための処理方法、保存方法、及び環形動物を利用した釣餌の製造方法並びに釣餌を提供する。
【解決手段】本発明の釣餌用環形動物を保存するための処理方法、及び環形動物を利用した釣餌の製造方法は、アルコール及び糖類を環形動物に浸透させることにより行う。アルコール及び糖類の環形動物への浸透は、含水エチルアルコールと糖蜜とを含有する溶液に環形動物を1〜3時間浸漬することが好ましい。含水エチルアルコールと糖蜜とを含有する溶液に浸漬させた環形動物は、浸漬した溶液から取り出し、浸透に供した溶液及び環形動物から生じた体液の液切りを行う。液切りを行われた環形動物は、−10℃以下で凍結され保存される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣餌として利用される環形動物を、生身の性質を保持したまま、長期間流通保存できる処理方法及び環形動物を利用した釣餌の製造方法並びに釣餌に関する。
【背景技術】
【0002】
魚釣には様々な手法があり、その一つとして環形動物等を釣餌として用いた餌釣がある。この餌釣に用いられている環形動物等の釣餌用動物は、主に国内に生息するゴカイ類、イソメ類等であるが、近年では、消費量の増加や収穫量の減少等の理由により、国外からの輸入を行う場合が多い。また、従来からのゴカイ類、イソメ類等に加えて、体長が数十cmあるオニイソメ等の大型で長尺の環形動物が釣餌用動物として利用されることもあるが、これらの大型で長尺の環形動物は国内での入手が難しく、主に国外からの輸入に頼ることが多い。そして、これら釣餌用動物の輸送期間は、上記のように国外からの輸入することが多くなってきたために、従来より長期にわたることが多くなってきている。また、日本国内で養殖される環形動物、及び収穫される環形動物の保存期間も長期にわたることが多くなってきている。
【0003】
一方、釣餌用の環形動物は、生きていて活気がある状態であることが要求されているため、釣餌用環形動物は、活きた状態で航空便及びトラック便で輸送され、中間の卸売り業者は、海水を循環した水槽で活きたまま保管し、釣餌の販売店では、海水を循環した水槽で保管し、水槽内で販売されている。しかし、輸送中は、釣餌用動物の管理がおざなりになりやすく、放置されがちとなる結果、釣餌用動物が弱ってしまいがちになりやすいという問題がある。実際、釣餌用動物として、国内産のみならず中国産、韓国産、ヨーロッパ産等のものが流通しているが、主に流通している釣餌用環形動物は、1週間から10日前後しか保存ができず、しかも保存期間が長くなるにつれ歩留まりが悪くなるという問題がある。釣餌用環形動物を輸入する際には、30時間を超える輸送の場合、酸欠等により歩留まりが急激に悪化し、また、国内で収穫等された釣餌用環形動物も、天候、季節及び潮の干満により収穫できない時期には、生きたままの長期間の保存が要求され、長期保存による歩留まりが悪化する。
【0004】
そこで、従来より、釣餌用動物の保管及び運搬方法として様々な方法及び運搬道具が開発され、実用されている。例えば、釣餌用環形動物の保管及び運搬方法として、釣餌用環形動物を一匹毎に、筒状の梱包材に折り畳むことなく、収納して保管及び運搬することも行われている(例えば、特許文献1参照)。更に、釣餌用動物を梱包するにあたり、無機系多孔質素材を充填した容器で飼育し、環形動物の営巣性を利用して、環形動物の外表を無機系多孔質素材で被覆して固めることにより筒状部材を形成させる釣餌用梱包材も開発されているが(例えば、特許文献2参照)、保存する設備と技術を要するものとなっている。
【0005】
釣餌用環形動物を塩漬けにした商品も販売されているが、保存性を高めるために、環形動物を塩漬けにし、環形動物の水分を脱水していることから、本来の活きた環形動物の性質、状態を損ない、使用に際しては、活きた環形動物の餌に比較して、品質が大きく劣る商品となっている。また、釣餌用環形動物をそのまま冷凍保存したものもあるが、水分凍結により環形動物の生体構成等から水分の分離が生じ、解凍して使用をする際、環形動物の体液によるドリップが生じ、環形動物に必要な弾力がなく、釣餌として使用に耐えられない状態となっている。そこで、釣餌として利用される環形動物を、生身の性質を保持したまま、長期間においても流通保存できる手段が望まれている。
【0006】
更に、生身の性質を保持したまま、長期間においても流通保存することができる環形動物を利用した釣餌を製造する方法の開発も望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開平11−137147号公報
【特許文献2】特開2002−272339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記に示したように、釣餌として利用される環形動物の輸送期間が長期化し、釣餌用環形動物の保管及び運搬が難しくなっており、更に、天候、季節及び潮の干満により収穫できない時期には生きたままの長期間の保存が要求され、保存する設備と技術を要し、高額な物流費用を要するものとなっている。また、環形動物の保存期間の長期化により、環形動物の釣餌に必要な活気の維持が難しくなってきており、環形動物が弱り、死んでしまった場合には、商品価値を失い、甚大な損失を生じるという問題があった。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、環形動物を生きたまま長期間保管することが困難なものとなっていることから、死滅しても環形動物の生身の性質を保持したまま、長期間保存するための処理方法及び環形動物を利用した釣餌の製造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の通りである。
〔1〕アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる浸透工程を備えることを特徴とする釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
〔2〕上記アルコール及び上記糖類を上記環形動物に浸透させる場合において、該アルコール及び該糖類を含有した溶液への該環形動物の浸漬時間が1〜3時間である浸透工程と、該浸透工程を経た該環形動物について、該環形動物に付着していた水、該環形動物から染み出た該環形動物の体液、及び該環形動物に付着した浸透に供した該溶液を該環形動物から液切りする液切り工程と、からなる上記〔1〕に記載の釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
〔3〕上記アルコールは、水を溶媒とする含水アルコールであり、該アルコールの濃度は、50〜85容量%の含水アルコールであって、浸透させる上記環形動物を100重量部とした場合に、該含水アルコールが10〜30重量部であり、上記糖類が10〜30重量部である上記〔1〕又は〔2〕に記載の釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
〔4〕上記アルコールがエチルアルコールである上記〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載の釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
〔5〕上記糖類が糖蜜及び蜂蜜の少なくとも一方である上記〔1〕乃至〔4〕のいずれかに記載の釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
〔6〕上記〔1〕乃至〔5〕のいずれかに記載の処理方法により得られた環形動物を−10℃以下で凍結することを特徴とする釣餌用環形動物の保存方法。
〔7〕アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる浸透工程を備えることを特徴とする釣餌の製造方法。
〔8〕上記アルコール及び上記糖類を上記環形動物に浸透させる場合において、該アルコール及び該糖類を含有した溶液への該環形動物の浸漬時間が1〜3時間である浸透工程と、該浸透工程を経た該環形動物について、該環形動物に付着していた水、該環形動物から染み出た該環形動物の体液、及び該環形動物に付着した浸透に供した該溶液を該環形動物から液切りする液切り工程と、該液切り工程を経た該環形動物を凍結する凍結工程と、からなる上記〔7〕に記載の釣餌の製造方法。
〔9〕上記アルコールは、水を溶媒とする含水アルコールであり、該アルコールの濃度は、50〜85容量%の含水アルコールであって、浸透させる上記環形動物を100重量部とした場合に、該含水アルコールが10〜30重量部であり、上記糖類が10〜30重量部である上記〔7〕又は〔8〕に記載の釣餌の製造方法。
〔10〕上記アルコールがエチルアルコールである上記〔7〕乃至〔9〕のいずれかに記載の釣餌の製造方法。
〔11〕上記糖類が糖蜜及び蜂蜜の少なくとも一方である上記〔7〕乃至〔10〕のいずれかに記載の釣餌の製造方法。
〔12〕上記〔7〕乃至〔11〕のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とする釣餌。
【発明の効果】
【0011】
本発明の釣餌用環形動物を保存するための処理をした環形動物、及び本発明の釣餌の製造方法により製造された釣餌は、アルコール及び糖類を含有した溶液に浸漬することにより、品質、硬度、及び弾力等を生餌の状態に近く、環形動物の生身の性質を保持したまま、長期間においても流通保存することができる。更に、溶液の配合を変えることにより、環形動物、及び釣餌の硬度や弾力を調整することもできる。
また、本発明の保存するための処理をした環形動物、及び本発明の釣餌の製造方法により製造された釣餌は、−10℃以下で凍結保存することができ、凍結された状態で保管、輸送、流通に供せられ、凍結した状態で店頭で販売することができる。
本発明の保存するための処理をした環形動物、及び本発明の釣餌の製造方法により製造された釣餌は、凍結保存に供せられていても、アルコール及び糖類を含有した溶液への浸漬処理により、浸透圧による環形動物の体液脱水と環形動物体内へのアルコール、及び糖類の浸透により、強固な固化は生じず、使用に際して、解凍の必要がなく、すぐに釣餌として使用することができる。また、上記環形動物、及び釣餌は既に死んだ状態にあることから、暴れて動くことがなく、容易に釣餌として釣針に刺すことができる。更に、環形動物をアルコールに浸透させていることから、釣餌用環形動物が有する特有の生臭い臭いが薄れており、環形動物を釣餌として使用することに臆している人にも使用をしてもらうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、以下に詳細に説明する。
〔1〕釣餌用環形動物を保存するための処理方法、及び保存方法
本発明の釣餌用環形動物を保存するための処理方法は、アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる浸透工程を備えることを特徴とする。
【0013】
上記環形動物は、特に限定されず、ミミズ類、ゴカイ類、イソメ類等が挙げられる。釣餌に使用される環形動物であれば、いずれも使用できるが、好ましくは、海水域に生息する環形動物である。
【0014】
上記アルコールは、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等が挙げられるが、好ましくはエチルアルコールである。これらのアルコールは、一種類又は、二種類以上混合して使用することができる。
【0015】
上記アルコールの濃度も特に限定されないが、好ましくは、20〜95容量%のアルコールであり、より好ましくは、50〜85容量%のアルコールである。上記アルコールの溶媒としては、水が好ましい。
【0016】
上記糖類は、特に限定されず、例えば、蔗糖、ブドウ糖、果糖、麦芽等が挙げられる。これらの糖類は、一種類又は、二種類以上混合して使用することができる。
【0017】
上記糖類の濃度も特に限定されない。また、水溶液とすることにも特に限定はされないが、粘状液状態の飽和液での水溶液であることが好ましい。
【0018】
上記アルコールと上記糖類を環形動物に浸透させる方法は、特に限定されない。環形動物を、(1)まず、アルコールに浸漬した後、糖類に浸漬することもできるが、好ましくは、(2)環形動物をアルコール、及び糖類を含有した溶液に浸漬する。また、(3)環形動物を水に浸漬した後、アルコール、及び糖類を含有した上記溶液に浸漬してもよい。
【0019】
環形動物を浸漬するアルコール及び糖類並びに水の重量は、特に限定されない。好ましくは、上記(1)の場合は、浸透させる環形動物を100重量部とした場合に、アルコールが10〜50重量部であり、糖類が10〜50重量部であることが好ましい。上記(2)の場合は、浸透させる環形動物を100重量部とした場合に、アルコールが10〜50重量部であり、糖類が10〜50重量部であることが好ましい。上記(3)の場合は、浸透させる環形動物を100重量部とした場合に、水が50〜200重量部、アルコールが10〜50重量部であり、糖類が10〜50重量部であることが好ましい。
【0020】
アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる場合、環形動物に水が付着していても構わない。また、環形動物は、既に死滅している状態でも構わないが、好ましくは、環形動物が生きたまま、アルコール及び糖類に浸漬することが好ましい。
【0021】
アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる時間は特に限定されない。好ましくは、上記(1)の場合は、アルコールに30〜60分浸漬後、糖類に30〜60分浸漬する。上記(2)の場合は、アルコール及び糖類を含有した溶液に1〜3時間浸漬する。上記(3)の場合は、真水に5〜10分浸漬後、アルコール及び糖類を含有した溶液に1〜3時間浸漬する。糖類及びアルコールを含有した溶液に浸漬することにより、浸透圧の差により、環形動物の体液は脱水され、アルコールと糖類を環形動物の体内に浸透させることにより、環形動物の硬度、及び弾力性を維持し、生体と同様の状態にするものである。
【0022】
アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる場合の温度も特に限定されないが、浸透させる溶液等の温度は、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下であり、通常用いる溶液の温度は、−10℃以上、好ましくは−5℃以上であり、より好ましくは0℃以上である。
【0023】
上記環形動物を上記アルコール、上記糖類、又は上記糖類及びアルコールを含有した溶液に浸漬後、浸漬した溶液から環形動物を取り出して、浸透させた溶液、環形動物に付着していた水、及び溶液との浸透圧により環形動物から染み出た体液の液切りを行う。液切りの方法は、特に限定されないが、好ましくは、環形動物をザル等に取り出し、ザル等を振って、十分液切りを行う。
【0024】
本発明の保存方法は、上記環形動物に上記アルコール及び上記糖類を浸透させ、十分液切りされた環形動物を、−10℃以下で凍結することにより行なう。より好ましくは−20℃以下で凍結することにより行なう。通常の凍結温度は、−200℃以上である。
【0025】
〔2〕環形動物を利用した釣餌の製造方法、及び該製造方法により製造された釣餌
本発明の釣餌の製造方法は、アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる浸透工程を備えることを特徴とする。
【0026】
上記釣餌の製造方法で使用する環形動物に浸透させるアルコール、糖類及び溶液の条件は、上記〔1〕の釣餌用環形動物を保存をするための処理方法と同じである。また、上記溶液等を浸透させる浸漬時間、浸透液の温度、浸透させる方法、及び液切りの方法等の条件も〔1〕の釣餌用環形動物を保存をするため処理方法と同じである。
【0027】
以上のように、上記アルコール及び上記糖類を環形動物に浸透させ、十分液切りした後、凍結し、釣餌を製造する。この凍結する温度は−10℃以下であり、より好ましくは−20℃以下である。通常の凍結温度は、−200℃以上である。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
本実施例は、アルコールと糖類とを含む水溶液に、環形動物を浸漬させる時間を変えて試験をしたものである。
【0029】
保存のための処理する環形動物、及び釣餌を製造するための環形動物として、インドネシア産オニイソメを用いた。
環形動物に浸透させるアルコールとして、70容量%の含水エチルアルコールを用いた。また、糖類として、サトウキビから通常の方法により得られた糖蜜を、粘状液状態のまま用いた。
上記環形動物100重量部に対して、70容量%の含水エチルアルコールと上記サトウキビの糖蜜とをそれぞれ20重量部を混合した水溶液に、海水が付着した生きた環形動物を、5℃の環境下で浸漬した。
【0030】
上記水溶液に環形動物を浸漬する時間としては、(1−1)1時間、(1−2)2時間、(1−3)3時間の各々を行った。
【0031】
上記環形動物は、上記水溶液に浸漬後、ザル等に取り出し、ザル等を振ることにより浸透させた水溶液及び環形動物から染み出た体液等を十分液切りした後、−20℃で凍結し、−20℃の冷凍庫で48時間保存を行った。
【0032】
そして、凍結前(液切り後、以下同様)の環形動物、及び48時間保存後の環形動物について以下の評価を行った。なお、48時間保存後の環形動物の評価は、30℃の環境下にて5〜10分自然解凍後(以下、単に解凍後という)に行った。評価項目は、環形動物の色、弾力性、臭い、膨張度、及び歩留まりについて調べた。
各評価項目についての評価は、同一の評価者が後記の評価基準に基づいて評価した。
各評価の評価方法については、色は目視で評価。臭いは嗅覚で評価。弾力性及び膨張度は目視及び指での触感で評価した。
各評価項目の評価基準は、以下の通りである。
色の評価は、生体と同じ赤色を1とし、濃い赤色への変色を2、茶色への変色を3、こげ茶色への変色を4、黒茶色を5として、5段階評価した。
臭いの評価は、無臭を1とし、僅かにアルコール臭を感じるものを2、若干アルコール臭を感じるものを3、アルコール臭を感じるものを4、アルコール臭を強く感じるもの5として、5段階評価した。
弾力性は、生体と同じ硬度、弾力を有すものを1とし、僅かに弾力が乏しくなったものを2、若干弾力が乏しくなったものを3、弾力性が乏しくなったものを4、針に刺せないほど弾力がないものを5として、5段階評価した。
膨張度は、生体より膨張したものを1とし、やや膨張したものを2、生体と同じものを3、やや脱水されているものを4、脱水され萎びているものを5として、5段階評価した。
また、歩留まりは、処理する前の環形動物の重量を100重量%とした場合における凍結前の環形動物の重量%である(すなわち、処理前の環形動物の重量をW1とし、凍結前の環形動物の重量をW2とした場合に、歩留まり=(W2/W1)×100(重量%)である)。その結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
この結果から、環形動物をアルコールと糖類とを含有する水溶液に浸漬した場合、いずれの浸漬時間においても、よい評価が得られた。アルコールと糖類とを含有する水溶液に浸漬する時間は、(1−1)よりも(1−2)、更に(1−3)が良い評価を示している。アルコールと糖類とを含有する水溶液に浸漬する時間は、2〜3時間が効果的であり、3時間がより効果的であった。
【0035】
実施例2
本実施例は、環形動物をアルコールと糖類とを含む水溶液に浸漬させる前に、真水に浸漬させる試験であり、真水での浸漬時間を変えて試験をしたものである。
【0036】
上記環形動物を上記アルコールと糖類とを含む水溶液に浸漬させる前に、真水に浸漬した。真水に浸漬する時間としては、(2−1)5分、(2−2)10分の各々を行い、比較例として、(2−3)真水に浸漬しない試験も行った。それ以外は、実施例1と同条件である。
【0037】
そして、実施例1の場合と同様に、凍結前、及び自然解凍後(以下、単に解凍後という)の環形動物について、色、弾力性、臭い、及び膨張度について評価を行った。歩留まりは、凍結前と解凍後も調べた。解凍後の歩留まりは、処理する前の環形動物の重量を100重量%とした場合における解凍後の環形動物の重量%である(すなわち、処理前の環形動物の重量をW1とし、解凍後の環形動物の重量をW3とした場合に、歩留まり=(W3/W1)×100(重量%)である)。その結果を表2に示す。尚、評価内容、評価方法、及び評価基準も実施例1と同様である。
【0038】
【表2】

【0039】
この結果によれば、環形動物をアルコールと糖類とを含む水溶液に浸漬させる前に、真水に浸漬した場合、弾力性、臭い、及び膨張度に関しては、実施例1の真水に浸漬しない場合と同様に高い評価であった。さらに、真水に浸漬した場合、歩留まりが高い結果が得られた。なお、真水に浸漬した環形動物の赤い色が、茶色に変化したが、十分釣餌として使用できるものであり、実用上問題はない。
【0040】
実施例3
本実施例は、環形動物を、まずアルコールに浸漬させ、アルコールを充分液切りした後、糖類に浸漬させる試験であり、本実施例はアルコールへの浸漬時間、及び糖類への浸漬時間を変えて試験をしたものである。
【0041】
環形動物に浸透させる糖類として、通常の方法により得られた蜂蜜を、粘状液状態のまま用いた。また、環形動物に浸透させるアルコールとしては、実施例1と同様に70容量%の含水エチルアルコールを用いた。
【0042】
海水が付着した生きた環形動物を、70容量%の含水エチルアルコールに浸漬後、ザル等に取り出し、ザル等を振ることにより、十分液切りを行い、その後、蜂蜜に浸漬させた。更に、蜂蜜に浸漬させた後、十分液切りを行い、−20℃で凍結させ、−20℃の冷凍庫で24時間保存した。また、環形動物のアルコール、及び糖類への浸漬は、30℃の環境下で浸漬した。それ以外は、実施例1と同条件である。
【0043】
環形動物を浸漬する条件として、以下の条件で試験を行った。尚、浸漬に用いた70%容量の含水アルコール及び糖類の重量は、環形動物を100重量部として、それぞれ20重量部を用いた。
(3−1)70%含水アルコールに30分浸漬後、蜂蜜に30分浸漬。
(3−2)70%含水アルコールに30分浸漬後、蜂蜜に60分浸漬。
(3−3)70%含水アルコールに60分浸漬後、蜂蜜に30分浸漬。
(3−4)70%含水アルコールに60分浸漬後、蜂蜜に60分浸漬。
【0044】
そして、24時間保存後、30℃の環境下で5〜10分自然解凍した環形動物について、色、弾力性、及び臭いについての各評価項目の評価を行った。その結果を表3に示す。尚、各評価項目の評価内容、評価方法、及び評価基準は、実施例1と同様である。
【0045】
【表3】

【0046】
この結果によれば、環形動物を、まずアルコールに浸漬後、糖類に浸漬する場合であっても、環形動物の色、弾力性及び膨張度の各評価は、良い結果が得られ、効果的であった。
【0047】
以上より、環形動物にアルコール及び糖類を浸透させることにより、環形動物の色及び弾力性などの品質を生餌の状態に近い品質のまま保持することができた。さらに、アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる場合に、環形動物をアルコール及び糖類を含有する溶液に浸漬させても、アルコールと糖類を別々に浸漬させても良い結果が得られ、効果的であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる浸透工程を備えることを特徴とする釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
【請求項2】
上記アルコール及び上記糖類を上記環形動物に浸透させる場合において、該アルコール及び該糖類を含有した溶液への該環形動物の浸漬時間が1〜3時間である浸透工程と、
該浸透工程を経た該環形動物について、該環形動物に付着していた水、該環形動物から染み出た該環形動物の体液、及び該環形動物に付着した浸透に供した該溶液を該環形動物から液切りする液切り工程と、
からなる請求項1に記載の釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
【請求項3】
上記アルコールは、水を溶媒とする含水アルコールであり、
該アルコールの濃度は、50〜85容量%の含水アルコールであって、
浸透させる上記環形動物を100重量部とした場合に、
該含水アルコールが10〜30重量部であり、上記糖類が10〜30重量部である請求項1又は2に記載の釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
【請求項4】
上記アルコールがエチルアルコールである請求項1乃至3のいずれかに記載の釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
【請求項5】
上記糖類が糖蜜及び蜂蜜の少なくとも一方である請求項1乃至4のいずれかに記載の釣餌用環形動物を保存するための処理方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の処理方法により得られた環形動物を−10℃以下で凍結することを特徴とする釣餌用環形動物の保存方法。
【請求項7】
アルコール及び糖類を環形動物に浸透させる浸透工程を備えることを特徴とする釣餌の製造方法。
【請求項8】
上記アルコール及び上記糖類を上記環形動物に浸透させる場合において、該アルコール及び該糖類を含有した溶液への該環形動物の浸漬時間が1〜3時間である浸透工程と、
該浸透工程を経た該環形動物について、該環形動物に付着していた水、該環形動物から染み出た該環形動物の体液、及び該環形動物に付着した浸透に供した該溶液を該環形動物から液切りする液切り工程と、
該液切り工程を経た該環形動物を凍結する凍結工程と、
からなる請求項7に記載の釣餌の製造方法。
【請求項9】
上記アルコールは、水を溶媒とする含水アルコールであり、
該アルコールの濃度は、50〜85容量%の含水アルコールであって、
浸透させる上記環形動物を100重量部とした場合に、
該含水アルコールが10〜30重量部であり、上記糖類が10〜30重量部である請求項7又は8に記載の釣餌の製造方法。
【請求項10】
上記アルコールがエチルアルコールである請求項7乃至9のいずれかに記載の釣餌の製造方法。
【請求項11】
上記糖類が糖蜜及び蜂蜜の少なくとも一方である請求項7乃至10のいずれかに記載の釣餌の製造方法。
【請求項12】
請求項7乃至11のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とする釣餌。