説明

鉄化合物含有内服液剤組成物

【課題】鉄由来の錆味をマスキングし、服用性良好な鉄化合物含有内服液剤組成物を提供すること。
【解決手段】三価の鉄イオンおよびスクラロースを含有することを特徴とする内服液剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄化合物を含有する内服液剤組成物に関する。さらに詳しくは、スクラロースを配合して鉄由来の錆味を抑え、良好な服用性を確保した鉄化合物含有内服液剤組成物に関し、医薬、食品の分野に応用できるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から鉄やカルシウム、マグネシウムの金属味をマスキングする目的で酸味剤や甘味剤が配合されてきたが、鉄化合物を配合して内服液剤を調製した場合、経時的に鉄由来の錆味が増し、服用性が悪化するという問題があった。
【0003】
この鉄由来の錆味を改善する技術として、鉄(II)−糖(スクレート、フルクテート)−カルボキシレート複合体を形成させる方法(特許文献1参照)などが開示されているが、鉄由来の錆味をマスキングするには充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−72843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、鉄化合物含有内服液剤組成物に関し、鉄由来の錆味をマスキングして、良好な服用性を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鉄化合物含有内服液剤において、鉄由来の金属味をマスキングするために糖類の配合を試みてきたが、かかる液剤に関し、経時的に増強する鉄由来の錆味が、液剤中に存在する二価の鉄イオンに起因するものであることを見出した。すなわち、二価の鉄化合物を配合した場合にはそれによって生じる二価の鉄イオンの存在によって、また、三価の鉄化合物を配合した場合には三価の鉄イオンが還元されて二価の鉄イオンとなることにより、単なる金属味とは異なる鉄由来の錆味が生じることを見出した。
【0007】
本発明者が、かかる知見に基づき完成するに至った本発明は、三価の鉄イオンおよびスクラロースを含有することを特徴とする内服液剤組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、経時的に増大する鉄由来の不快な錆味が軽減され、服用性良好な鉄化合物含有内服液剤を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における三価の鉄イオンとは、三価の鉄化合物を水溶液中に溶解させたときに生じる鉄イオン、または、二価の鉄化合物を水溶液中に溶解させて生じた二価の鉄イオンを酸化させたときに生じる鉄イオンである。配合する鉄化合物としては、三価の鉄化合物が好ましく、例えば、クエン酸第二鉄アンモニウム、硫酸第二鉄、塩化第二鉄などが挙げられる。これらは単独で配合してもよく、また、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0010】
また、二価の鉄化合物を配合させたときには溶液をエアレーションするなどして二価の鉄イオンを三価の鉄イオンに酸化させればよい。
【0011】
鉄の含量は、栄養摂取量の面から鉄化合物中の鉄イオンに換算して、1日当たり0.5〜60mgが好ましい。
【0012】
本発明のスクラロースとは、ショ糖のハロゲン化によって得られる4,1,6−トリクロロガラクトスクロースのことであり、ショ糖由来の甘味料であるにも拘わらず、その甘味度はショ糖の600倍であり、他の高甘味度甘味料(例えば、アスパルテーム、サッカリン、ステビア抽出物など)に比べ、ショ糖の甘味質によく似た甘味質パターンを示し、特に、苦味、後味が少なくまろやかである。
【0013】
スクラロースの含有量は、当該内服液剤組成物中、0.001〜1重量%が好ましく、鉄イオン1重量部に対しては通常0.001〜2000重量部であり、服用性を向上させるという観点からは、0.01〜200重量部が好ましい。
【0014】
本発明の内服液剤組成物において、糖アルコールを配合することにより、鉄由来の収斂味などをマスキングしてさらに服用性を向上させることができる。
【0015】
糖アルコールとしては、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトールなどが挙げられる。これらは、単独で配合してもよく、また、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0016】
糖アルコールの配合量は、糖アルコールには緩下作用があるので、1回服用量は1〜40gで最大無作用量以下に設定する必要がある。
【0017】
本発明にかかる内服液剤組成物のpHは、好ましくは2.5〜7.0であり、より好ましくは3.0〜5.5である。pH2.5未満の酸性域では酸味が強すぎて服用性の点で好ましくなく、pHが7.0を超える塩基性域では、液剤中の鉄イオンが水酸化鉄となって沈殿するので好ましくないからである。
【0018】
したがって、本発明の内服液剤組成物のpHを上記範囲に保つために、必要に応じてpH調剤が配合される。このようなpH調剤としては、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、乳酸、コハク酸などの有機酸およびそれらの塩類、塩酸などの無機酸、水酸化ナトリウムなどの無機塩基などが挙げられる。
【0019】
本発明の内服液剤組成物において、多量の還元糖を配合すると三価の鉄イオンが還元されて二価の鉄イオンとなり、鉄由来の錆味を生じるので好ましくないが、三価の鉄イオンの還元に実質的に影響を及ぼさない程度の還元糖の配合は差し支えない。
【0020】
本発明の内服液剤組成物にはその他の成分として、ビタミン類、他のミネラル類、アミノ酸およびその塩類、生薬、生薬抽出物、ローヤルゼリー、カフェイン、γ−オリザノール、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0021】
さらに必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、甘味料などの公知の添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0022】
本発明にかかる内服液剤組成物は、常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではないが、通常、各成分を規定量以下の精製水に混合し、規定量に容量調整し、必要に応じてろ過、滅菌処理することにより得られる。
【0023】
本発明の内服液剤組成物は、例えばシロップ剤、ドリンク剤などの医薬品や医薬部外の内服液剤、健康飲料などの各種飲料に適用することができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例、比較例および試験例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0025】
〔実施例1〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.12g
スクラロース 0.20g
クエン酸 0.10g
水酸化ナトリウム 適 量
上記成分を精製水に溶解させてpHを4.5に調整し、全量を200mLとしてガラス瓶に充填した。
【0026】
〔実施例2〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.12g
スクラロース 0.04g
キシリトール 20.00g
クエン酸 0.40g
水酸化ナトリウム 適 量
上記成分を精製水に溶解させてpHを3.5に調整し、全量を200mLとしてガラス瓶に充填した。
【0027】
〔実施例3〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.12g
スクラロース 0.02g
クエン酸 1.40g
水酸化ナトリウム 適 量
上記成分を精製水に溶解させてpHを3.0に調整し、全量を200mLとしてガラス瓶に充填した。
【0028】
〔実施例4〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.12g
スクラロース 0.40g
マルチトール 20.00g
リンゴ酸 0.10g
水酸化ナトリウム 適 量
上記成分を精製水に溶解させてpHを5.0に調整し、全量を200mLとしてガラス瓶に充填した。
【0029】
〔実施例5〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.12g
スクラロース 0.10g
キシリトール 10.00g
リン酸 0.20g
水酸化ナトリウム 適 量
上記成分を精製水に溶解させてpHを7.0に調整し、全量を200mLとしてガラス瓶に充填した。
【0030】
〔比較例1〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.12g
ブドウ糖 20.00g
クエン酸 0.20g
水酸化ナトリウム 適 量
上記成分を精製水に溶解させてpHを4.5に調整し、全量を200mLとしてガラス瓶に充填した。
【0031】
〔比較例2〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.12g
白糖 20.00g
クエン酸 0.20g
水酸化ナトリウム 適 量
上記成分を精製水に溶解させてpHを3.5に調整し、全量を200mLとしてガラス瓶に充填した。
【0032】
〔試験例〕
実施例1〜5および比較例1、2で調製した7種の液剤を65℃で1週間保存した後、風味試験を実施した。評価方法は以下の通りである。
【0033】
28〜41歳までの男性8人をパネラーとして、風味の評価はサンプル10mLを服用してもらい、鉄由来の錆味について評価してもらった。一つのサンプル液を評価した後は、温湯で口中をすすぎ、30分以上経過してから次のサンプル液の評価を行った。
【0034】
鉄の錆味がしない 1点
鉄の錆味がほとんどしない 2点
鉄の錆味がややする 3点
鉄の錆味がする 4点
鉄の錆味がやや強い 5点
鉄の錆味がかなり強い 6点
【0035】
【表1】

【0036】
〔実施例6〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.10g
硝酸チアミン 0.02g
リン酸リボフラビンナトリウム 0.02g
塩酸ピリドキシン 0.02g
アミノエチルスルホン酸 4.00g
スクラロース 0.20g
エリスリトール 4.00g
クエン酸 2.00g
クエン酸ナトリウム 適 量
安息香酸ナトリウム 0.06g
プラムレモン系フレーバー 微 量
上記成分を精製水に溶解させて全量を100mLとし、pHを3.0に調した。調製液をろ紙で濾過し、滅菌装置を用いて濾液を95℃で1分間加熱滅菌した後、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液剤を得た。
【0037】
〔実施例7〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.08g
グルコン酸カルシウム 0.80g
アスパラギン酸マグネシウム 0.40g
硝酸チアミン 0.02g
リン酸リボフラビンナトリウム 0.02g
塩酸ピリドキシン 0.02g
ニコチン酸アミド 0.08g
塩化カルニチン 0.08g
無水カフェイン 0.10g
アミノエチルスルホン酸 2.00g
ヨクイニン流エキス 2.40g
スクラロース 0.10g
ソルビトール 5.00g
エリスリトール 5.00g
安息香酸ナトリウム 0.06g
ソルビン酸カリウム 0.06g
クエン酸 1.00g
クエン酸ナトリウム 適 量
アップル系フレーバー 微 量
上記成分を精製水に溶解させて全量を200mLとし、実施例6に準拠して内服液剤を得た(pH3.5)。
【0038】
〔実施例8〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.20g
グルコン酸亜鉛 0.20g
グルコン酸銅 0.05g
グルコン酸カルシウム 1.00g
アスパラギン酸マグネシウム 0.50g
リボフラビン 0.01g
塩酸ピリドキシン 0.10g
アミノエチルスルホン酸 1.00g
コンドロイチン硫酸ナトリウム 1.00g
スクラロース 0.04g
キシリトール 7.00g
ステビア抽出物 0.016g
リンゴ酸 0.40g
クエン酸 1.00g
クエン酸ナトリウム 適 量
安息香酸 0.06g
ヨーグルトフルーツ系フレーバー 微 量
上記成分を精製水に溶解させて全量を200mLとし、実施例6に準拠して内服液剤を得た(pH4.0)。
【0039】
〔実施例9〕
クエン酸第二鉄アンモニウム 0.10g
リボフラビン 0.04g
塩酸ピリドキシン 0.04g
シアノコバラミン 120μg
パンテノール 0.06g
ニコチン酸アミド 0.08g
酢酸トコフェロール 0.20g
γ−オリザノール 0.02g
アミノエチルスルホン酸 2.00g
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.02g
スクラロース 0.12g
キシリトール 6.00g
エリスリトール 6.00g
クエン酸 0.40g
リンゴ酸ナトリウム 適 量
安息香酸 0.06g
ヨーグルトフルーツ系フレーバー 微 量
上記成分を精製水に溶解させて全量を200mLとし、実施例6に準拠して内服液剤を得た(pH4.5)。
【0040】
上記実施例6〜9の内服液剤は鉄由来の錆味が充分にマスキングされ、服用性のよいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価の鉄イオンおよび0.001重量%〜0.20W/V%のスクラロースを含有し、三価の鉄イオンを還元する物質を含有していないことを特徴とする内服液剤組成物。
【請求項2】
三価の鉄イオンおよび0.01W/V%〜0.20W/V%のスクラロースを含有し、三価の鉄イオンを還元する物質を含有していないことを特徴とする内服液剤組成物。
【請求項3】
さらに糖アルコールを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の内服液剤組成物。
【請求項4】
pHが2.5〜7.0である請求項1〜3のいずれか1項に記載の内服液剤組成物。
【請求項5】
三価の鉄イオンを含有する内服液剤組成物に対して、0.001重量%〜0.20W/V%のスクラロースを配合し、三価の鉄イオンを還元する物質を配合しないことを特徴とする、内服液剤組成物の鉄由来の錆味の発生を抑制する方法。

【公開番号】特開2010−132708(P2010−132708A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49124(P2010−49124)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【分割の表示】特願平11−42007の分割
【原出願日】平成11年2月19日(1999.2.19)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】