説明

鉄含有排水の処理方法

【課題】 工場や鉱山などから排出される鉄を含む排水、特に鉄がコロイド状態ないし懸濁状態などとして存在している「赤い水」から、鉄を水酸化物として迅速に沈降させ、効率よく且つ完全に鉄を分離除去する方法を提供する。
【解決手段】 排水中に含まれる鉄を固液分離する際に、排水1m当たり亜硫酸ナトリウム(NaSO)を5〜50g添加した後、空気を吹き込んで酸化中和処理を行い、ノニオン系凝集剤などの通常の凝集剤を加えて排水中の鉄を固液分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中に含まれる鉄を効率良く固液分離する鉄含有排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場などから排出される排水や、鉱山から排出される坑水には重金属が含まれているため、中和処理やイオン交換樹脂処理などの方法により、含有されている重金属を除去する必要がある。特に鉄は多くの排水や坑水に含まれており、効率的に除去しなければならない元素の一つである。例えば、操業中あるいは終掘後の鉱山から排出される坑水中には一般的に鉄が含まれているため、これを除去することは環境の保護及び生活環境の安全性の観点から極めて重要である。
【0003】
近年、排水や坑水中に含まれる鉄による「赤い水」が、自然環境に障害を与えるとして問題になっている。特にpHが中性付近の坑水中には、一般的に鉄化合物がコロイド状や懸濁状などの状態で存在していることが多い。このような状態の鉄化合物は非常に微細であるため、長期間静置しても沈降することがない。そのため、イオン形態の鉄が存在しなくても、このような沈殿しない鉄化合物が「赤い水」の原因となっている。
【0004】
従来から、排水中に含まれる鉄などの一般的な除去方法として、凝集処理法、酸化法、ろ過法、鉄バクテリア法、イオン交換法があり、これらの方法を併用した処理も実施されている。例えば、特開2000−117270号公報や特開2005−262207号公報などには、これらの方法を利用した排水の処理方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、上記した従来の方法によっても、鉄を含む排水から満足すべき効率で鉄を固液分離することは難しかった。特に排水の「赤い水」に懸濁している鉄化合物は、その殆どが水酸化物などであって、しかも非常に細か状態であり、場合によってはコロイド状態で存在していることもあるため、このような微細な鉄化合物は、凝集剤を加えても大きなフロックに成長せず、従って長期間放置しても分離除去することが難しかった。このような事情から、排水に含まれる鉄を、迅速に且つ効率よく分離除去する方法の提供が望まれている。
【特許文献1】特開2000−117270号公報
【特許文献2】特開2005−262207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記した従来の事情に鑑み、鉄を含む排水や坑水(以下、単に排水と称する)から、効率よく且つ完全に鉄を分離除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明が提供する鉄含有排水の処理方法は、排水中に含まれる鉄を固液分離する際に、排水1m当たり亜硫酸ナトリウムを5〜50g添加した後、酸化中和処理を行い、凝集剤を加えて排水中の鉄を固液分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、排水中に含まれる鉄がコロイド状態ないし懸濁状態などとして存在している場合であっても、排水中の鉄を大きなフロックに凝集させ、沈降速度を高めて迅速な固液分離を可能とすると共に、鉄を効率よくしかも完全に固液分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明方法においては、通常のごとく排水に凝集剤を添加する前に、排水に亜硫酸ナトリウム(NaSO)を添加する。その後、通常の固液分離と同様に、酸化中和処理と凝集剤の添加によって、亜硫酸ナトリウムを添加しない場合に比べて、鉄殿物の沈降速度が速くなり、しかも鉄濃度がより低い処理排水を得ることができる。
【0010】
尚、亜硫酸ナトリウムの添加により鉄殿物の沈降速度が速くなる理由は、次のように考えられる。即ち、亜硫酸ナトリウムの添加により、鉄の表面は溶解度の低い亜硫酸塩となり、この亜硫酸塩は引き続き行われる酸化中和処理により徐々に硫酸塩となる。鉄の硫酸塩は溶解度が大きいため、表面の鉄の一部は一旦溶解することになるが、すぐに中和されて水酸化物に変化する。この亜硫酸塩の酸化は徐々に進むため、鉄の水酸化物は比較的ゆっくりと生成して粒子が大きくなりやすく、また隣接する鉄化合物と密着した状態で水酸化物が成長する。その結果、元来の鉄の水酸化物に比べ大きな粒子が生成し、沈降しやすくなるものと考えられる。
【0011】
排水に添加する亜硫酸ナトリウムの添加量は、排水1m当たり5〜50gの範囲であればよい。排水1m当たりの添加量が5g未満では鉄の水酸化物を効率よく沈降させることができず、また50gを超えて添加しても添加量の増加に見合う効果が得られないことから好ましくない。更に、排水1m当たりの添加量を25〜50gとすれば、排水中の鉄濃度の低減に有効であるため好ましい。
【0012】
亜硫酸ナトリウム添加後の酸化中和処理は、従来から知られている一般的な方法を用いることができ、例えば、撹拌した排水中に、ボールフィルターなどを用いて空気を吹き込む方法がある。また、凝集剤としては、従来から鉄などの金属の凝集に使用されているものでよく、例えば、ノニオン系凝集剤やポリアルミニウムクロライド(Poly Aluminium Chloride)などを用いることができる。
【実施例】
【0013】
[実施例1]
鉄を1.7mg/l含む坑水原水1リットルに対し、凝集効果があると思われる試薬としてNaSO、FeSO、FeClのいずれか1種を、それぞれ5g/mあるいは50g/m添加した。次に、撹拌機を用いて200rpmで撹拌しながら、ダイヤフラム式ポンプを用いてボールフィルターにより空気を10分間吹き込んだ。
【0014】
その後、ノニオン系凝集剤(商品名:スミフロックFN−20H)を0.5g/m及びポリアルミニウムクロライド(PAC)を20g/m添加し、6時間静置した。また、従来例として、上記試薬を添加しない坑水原水についても、上記と同様にして試験した。
【0015】
上記本発明例及び従来例による各試料について、凝集物が沈降した後の上澄み液を採取し、ICP発光分析法にて鉄の分析を行った。得られた結果を下記表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
上記表1から分るように、他の薬剤に比べてNaSOの添加が最も有効であり、特にNaSOを50g/m添加した場合に沈降6時間後の上澄み液のFe濃度は0.09mg/lと最も低い値を示した。この結果から、鉄化合物が微細な粒子状で存在し、凝集剤のみでは固液分離が困難である坑水に対して、凝集剤添加前にNaSOを添加することによって、鉄を効率よく固液分離できることが分る。
【0018】
[実施例2]
坑水原水1リットルに対し、NaSOを10、25、50g/m添加した後、撹拌機を用いて200rpmで撹拌しながら、ダイヤフラム式ポンプを用いてボールフィルターにより空気を10分間吹き込んだ。次に、ノニオン系凝集剤(商品名:スミフロックFN−20H)を0.5g/m及びポリアルミニウムクロライド(PAC)を20g/m添加し、6時間静置した。また、比較のために、ノニオン系凝集剤及びポリアルミニウムクロライド(PAC)を添加しなかった以外は上記と同様にして試験を行った。
【0019】
凝集物が沈降した後の上澄み液を採取し、ICP発光分析法にて鉄の分析を行った。得られた結果を図1に示す。NaSOを25〜50g/m添加した場合、凝集剤の添加量に関わらず、上澄み液のFe濃度は比較的低い値を示したことから、坑水中のFe濃度が数ppmの場合、NaSOの添加量は排水1mに対して25〜50gとすることが鉄の低減に有効であることが分る。
【0020】
[実施例3]
塩化第二鉄を用いて鉄濃度が約2mg/lの液を作製し、通常の坑水原水と同程度のpHとなるように消石灰によりpH7に調整した。この疑似液1リットルに対しNaSOを25g/m添加し、200rpmで撹拌しながら、ダイヤフラム式ポンプを用いてボールフィルターにより空気を10分間吹き込んだ。
【0021】
その後、ノニオン系凝集剤(商品名:スミフロックFN−20H)を0.5g/m及びポリアルミニウムクロライド(PAC)を20g/m添加し、6時間静置した。また、従来例として、NaSOを添加しなかった以外は上記と同様にして試験を行った。
【0022】
上記本発明例及び従来例による各試料について、凝集物が沈降した後の上澄み液を採取し、ICP発光分析法にて鉄の分析を行った。また、沈降した殿物の粒度分布をマイクロトラックにより測定した。得られた結果を下記表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
凝集剤のみの場合よりもNaSOを添加した方が、鉄澱物の固液分離に有効であることが分る。また、鉄殿物のマイクロトラックで測定した平均粒径は、NaSO無添加有が14.6μmであるのに対し、NaSOを添加した場合は20.5μmであることから、NaSOを添加した方が粒子が大きくなり、固液分離に有効であることが分る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】NaSO添加量と上澄み液のFe濃度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水中に含まれる鉄を固液分離する方法において、排水1m当たり亜硫酸ナトリウムを5〜50g添加した後、酸化中和処理を行い、凝集剤を加えて排水中の鉄を固液分離することを特徴とする排水の処理方法。
【請求項2】
前記亜硫酸ナトリウム添加後の排水に、空気を吹き込んで酸化中和処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の排水の処理方法。



【図1】
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【公開番号】特開2008−62147(P2008−62147A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240966(P2006−240966)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】