説明

鉄筋のスポット溶接に用いる溶接電流の設定方法

【課題】1回通電による鉄筋のスポット溶接方法において目標とする特性を備えた溶接部を得るための溶接電流を簡単かつ確実に設定可能な溶接電流の設定方法を提案すること。
【解決手段】1回通電によるスポット溶接に用いる溶接電流の設定方法では、まず、溶接電流の値を所定の値に定め(ST2)、当該溶接電流を主筋とせん断補強筋の溶接部に流した場合に得られる、サイクル数に対する溶接部の溶接強度と、当該溶接部における主筋の機械的性質を測定する(ST3)。溶接強度が鉄筋母材の規格降伏点強度以上となる第1サイクル数帯域B1を求め(ST4)、第1サイクル数帯域B1内で、主筋の機械的性質がJIS規格を満足する状態に保持される第2サイクル数帯域B2を求め(ST5)、溶接電流のサイクル数を第2サイクル数帯域の値Naに設定する(ST6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート製の住宅用基礎梁に用いられるシングル配筋ユニットを工場生産する場合において、異形棒鋼からなる上下の主筋と、異形棒鋼からなるせん断補強筋の端部とを1回通電によるスポット溶接によって接合する場合に用いる溶接電流の設定方法に関する。さらに詳しくは、主筋の機械的性質を保持しつつ、溶接部の溶接強度を鉄筋母材の規格降伏点強度以上にできる溶接電流の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅建築に用いられる鉄筋コンクリート製の基礎梁では、異形棒鋼からなる上下一対の梁主筋に一定の間隔であばら筋(せん断補強筋)を溶接した構成のシングル配筋ユニットが用いられている。このようなシングル配筋ユニットのスポット溶接では、主筋の機械的性質(降伏点、引張強さ、伸び、曲げ性)を規格基準値(JIS G 3112)を満足する状態に保持しつつ、スポット溶接箇所の溶接強度を、鉄筋母材の規格降伏点強度以上にすることが提案されている。
【0003】
このようなスポット溶接方法は特許文献1、2に開示されている。これらの文献に開示のスポット溶接方法では、予熱通電、本溶接通電および焼き戻し通電の3回通電、あるいは、予熱通電を省略して本溶接通電および焼き戻し通電からなる2回通電を行っている。
このような鉄筋(異形棒鋼)のスポット溶接方法では、溶接部の強度を高めるために急熱急冷によって焼き入れ状態になった溶接部に焼き戻しの処理を施すことによって所望の靭性を確保するようにしている。
【0004】
一方、特許文献3においては1回通電によるスポット溶接方法が提案されている。ここに開示の1回通電によるスポット溶接方法では、溶接対象の主筋とあばら筋の溶接部に所定値の溶接電流を印加する溶接工程と、急熱状態の溶接部が急冷して焼入れ状態にならないように、当該溶接部に対して入熱制御を行うことにより当該溶接部を徐冷する徐冷工程とを備えている。溶接工程の後に焼き入れのための急冷による鉄筋の溶接部の組織変化を待たずに、入熱制御を行うことにより急熱状態の溶接部を徐冷している。急熱状態の溶接部を入熱制御により徐冷することにより、得られた溶接部に所望の強度および靭性を確保できる。急冷(焼き入れ)、焼き戻しの制御が不要となり、生産管理が容易になるので、焼き戻し時間が不要であり、スポット溶接作業の生産性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3658337号公報
【特許文献2】特許第4454575号公報
【特許文献3】特開2009−202164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、従来におけるシングル配筋ユニットのスポット溶接においては、事前に各種の条件の下で溶接を行うことにより、主筋の機械的性質(JIS G 3112)を保持しつつ、溶接強度を鉄筋母材の規格降伏点以上にするための溶接条件を設定している。溶接条件の設定は、工場の設備、例えば溶接機の能力など多数の要素を考慮する必要がある。このため、溶接部の強度が規格降伏点以上であり、しかも必要とされる引張強度および靱性を備えたシングル配筋ユニットを歩留まりよく製造することが困難である。
【0007】
本発明の課題は、1回通電による鉄筋のスポット溶接方法において目標とする特性を備えた溶接部を得るための溶接電流を簡単に設定並びに運用することのできる溶接電流の設定方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明による、
鉄筋コンクリート製の住宅用基礎梁における上下の主筋とせん断補強筋の両端部とを、
1回通電によるスポット溶接によって接合する場合に用いる溶接電流の値および通電時間
を表すサイクル数を設定するための溶接電流設定方法は、
前記溶接電流の値を所定の値に定め、
当該溶接電流を前記主筋と前記せん断補強筋の溶接部に流した場合に得られる、前記サイクル数に対する前記溶接部の溶接強度、および、当該溶接部における前記主筋の伸びと引張強さを測定し、
前記溶接強度が前記せん断補強筋の規格降伏点強度以上となるサイクル数の帯域を第1サイクル数帯域として求め、
前記第1サイクル数帯域内において、前記主筋の機械的性質(降伏点、引張強さ、伸び、曲げ性)が鉄筋コンクリート用棒鋼に関するJIS規格(JIS G 3112)を満足するサイクル数の帯域を第2サイクル数帯域として求め、
前記溶接電流のサイクル数を前記第2サイクル数帯域内の値に設定することを特徴としている。
【0009】
溶接電流のサイクル数を増加していくと、最初は、これに伴って溶接部の溶接強度(せん断強度)が増加していく。サイクル数が或る値に達すると溶接部の溶接強度がピークに達し、これ以後はサイクル数を増加しても溶接強度は増加せずに逆に減少し始める。さらにサイクル数を増加すると急激に溶接強度が低下する。このような溶接電流のサイクル数に対する溶接強度の変化特性は、溶接対象の異形棒鋼の径の組み合わせが変わった場合においても同様である。本発明の方法では、かかる変化特性に着目し、溶接電流のサイクル数に基づき最も適した溶接電流条件を設定している。したがって、従来のように多様な要素を考慮して溶接電流条件を設定する場合に比べて、極めて簡単に溶接電流を設定できる。
【0010】
ここで、溶接機などの誤差を考慮して、溶接電流のサイクル数を、上記のように定められた第2サイクル数帯域の中央値に設定しておけばよい。このようにすれば、溶接時における溶接電流のサイクル数が増減しても、その値が第2サイクル数帯域内のサイクル数に保持されるので、目標とする特性を満たすスポット溶接部を備えたシングル配筋ユニットを歩留まり良く生産することができる。
【0011】
一般的には、主筋の直径はD13、D16、D19およびD22のうちのいずれか一つとされ、せん断補強筋の直径はD10またはD13とされる。また、一般的に使用される溶接機の溶接電流の値は8000A〜17000A程度である。この場合、本発明の方法によれば、溶接電流のサイクル数は30〜80までの範囲内の値に設定される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】住宅用の鉄筋コンクリート製の布基礎を示す横断面図である。
【図2】図1の布基礎に用いられるシングル配筋ユニットを示す説明図である。
【図3】溶接電流の設定方法の手順を示す概略フローチャートである。
【図4】(a)は溶接電流のサイクル数に対する溶接強度の変化を示すグラフであり、(b)は引張強度の許容範囲を示すグラフであり、(c)は伸び量の許容範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して本発明による1回通電によるスポット溶接に用いる溶接電流の設定方法を説明する。
【0014】
まず、図1には一般的な住宅用の鉄筋コンクリート製の布基礎を示してある。公知のように布基礎1は一定厚さおよび一定幅のフーチング部2と、この上面中央から垂直に起立している一定幅および一定高さの立ち上がり部3を備えており、これらの中に、本発明の方法によって設定された溶接電流による1回通電によるスポット溶接によって工場生産されたベース筋ユニット4およびシングル配筋ユニット5が配置されている。
【0015】
図2に示すように、立ち上がり部3に配置されているシングル配筋ユニット5は異形棒鋼から構成されており、梁主筋としての上端筋6および下端筋7と、これらの間に一定のピッチで架け渡されているせん断補強筋としてのあばら筋8と、上端筋6、下端筋7の中間に配置された腹筋9を備えている。これらの鉄筋の交差部分が、1回通電によるスポット溶接によって形成された溶接部10となっている。
【0016】
図3および図4を参照して1回通電によるスポット溶接に用いる溶接電流の設定方法を説明する。例えば、主筋6、7は、JIS G 3112に規定されているSD345、SD295Aであり、せん断補強筋8、腹筋9はSD295Aである。また、主筋6、7の径は、D13、D16、D19およびD22のうちのいずれか一つであり、せん断補強筋8の径は、D10およびD13のいずれかである。
【0017】
まず、鉄筋径の組み合わせを設定する(図3の工程ST1)。例えば、主筋6、7の径をD19とし、せん断補強筋8の径をD10とする。次に、溶接電流の値を所定の値に定める(図3の工程ST2)。溶接機の溶接電流の値は例えば8000A〜17000A程度であり、例えば12500Aに定める。溶接機によって主筋とせん断補強筋の溶接部を押圧して溶接電流を流してスポット溶接を行う。溶接電流のサイクル数を例えば30から
80に向けて段階的に増加して繰り返しスポット溶接を行う。そして、サイクル数に対する溶接部の溶接強度、および、当該溶接部における主筋の伸びと引張強度を測定する(図3の工程ST3)。
【0018】
ここで、サイクル数に対する溶接部の溶接強度(せん断強度)は、図4(a)に示す特性曲線Aで示すように変化する。すなわち、溶接電流のサイクル数を増加していくと、最初は、これに伴って溶接部の溶接強度が増加していく。サイクル数Nが或る値になると溶接部の溶接強度Sがピークに達し、これ以後はサイクル数Nを増加しても溶接強度Sは増加せずに逆に減少し始める。さらにサイクル数Nを増加すると急激に溶接強度Sが低下する。このような溶接電流のサイクル数Nに対する溶接強度Sの変化特性は、溶接対象の異形棒鋼の径の組み合わせが変わった場合においても同様である。
【0019】
得られた測定結果に基づき、溶接強度Sが鉄筋母材の規格降伏点強度以上となるサイクル数の帯域を第1サイクル数帯域B1として求める(図3の工程ST4、図4)。次に、第1サイクル数帯域B1内において、主筋の機械的性質(降伏点、引張強さ、伸び、曲げ性)が、鉄筋コンクリート用棒鋼のJIS規格値(JIS G 3112)を満足する状態に保持されるサイクル数の帯域を第2サイクル数帯域B2として求める(図3の工程ST5、図4)。なお、図4においては、引張強さ、伸び量についてのみ許容範囲を表示してあるが、これら以外のJIS規格による主筋の機械的性質(降伏点、曲げ性)についても、許容範囲をそれぞれ求め、これらに基づき第2サイクル数帯域B2を求める。最後に、第2サイクル数帯域B2の中から溶接電流のサイクル数Naを設定する。例えば、溶接電流のサイクル数Naを第2サイクル数帯域B2の中央値に設定する(図3の工程ST6)。
【0020】
本発明者等の実験によれば、主筋の径がD19、せん断補強筋の径がD10の場合には、溶接電流の値を12500Aにすると、そのサイクル数を60〜70の範囲内の値、特に、65に設定すれば、1回通電によるスポット溶接によって所期の特性が得られることが確認された。また、主筋とせん断補強筋の各径の組み合わせについて、溶接電流の値と第2サイクル数帯域を予め測定して一覧表として纏めておけば、当該一覧表に基づき、簡単に溶接電流を設定することができる。
【0021】
以上説明したように、本発明の方法によれば、シングル配筋ユニットの主筋とせん断補強筋における1回通電によるスポット溶接に用いる溶接電流を簡単に設定することができる。また、目標とする特性を満たすスポット溶接部を備えたシングル配筋ユニットを歩留まり良く生産することができる。
【符号の説明】
【0022】
1 布基礎
2 フーチング部
3 立ち上がり部
4 ベース筋ユニット
5 シングル配筋ユニット
6 上端筋
7 下端筋
8 あばら筋
9 腹筋
10 溶接部
B1 第1サイクル数帯域
B2 第2サイクル数帯域
N、Na サイクル数
S 溶接強度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート製の住宅用基礎梁における上下の主筋とせん断補強筋の両端部とを、1回通電によるスポット溶接によって接合する場合に用いる溶接電流の値および通電時間を表すサイクル数を設定するための溶接電流設定方法であって、
前記溶接電流の値を所定の値に定め、
当該溶接電流を前記主筋と前記せん断補強筋の溶接部に流した場合に得られる、前記サイクル数に対する前記溶接部の溶接強度、および、当該溶接部における前記主筋の伸びと引張強度を測定し、
前記溶接強度が前記せん断補強筋の規格降伏点強度以上となるサイクル数の帯域を第1サイクル数帯域として求め、
前記第1サイクル数帯域内において、前記主筋の機械的性質が鉄筋コンクリート用棒鋼のJIS規格値(JIS G 3112)を満足する状態に保持されているサイクル数の帯域を第2サイクル数帯域として求め、
前記溶接電流のサイクル数を前記第2サイクル数帯域の値に設定することを特徴とする鉄筋のスポット溶接に用いる溶接電流の設定方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記溶接電流のサイクル数を、前記第2サイクル数帯域の中央値に設定することを特徴とする鉄筋のスポット溶接に用いる溶接電流の設定方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記主筋の直径をD13、D16、D19およびD22のうちのいずれか一つとし、
前記せん断補強筋の直径をD10またはD13とし、
前記溶接電流の電流値を、8000A〜17000Aまでの範囲内の値とした場合に、
前記サイクル数を30〜80までの範囲内の値に設定することを特徴とする鉄筋のスポット溶接に用いる溶接電流の設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−240116(P2012−240116A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116248(P2011−116248)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(507415255)株式会社ビー・アール・エス (3)
【Fターム(参考)】