説明

鉄筋の配筋用金具と配筋構造

【課題】溶接作業などを必要とせずに、帯鉄筋を配筋する。
【解決手段】配筋用金具1は、鋼板で構成する。その折り曲げ部に稜線11を備えている。この稜線11には稜線11の方向に直交する方向に切り欠き12を刻設してある。切り欠き12の幅wは、配筋予定の隅部を有する鉄筋2の直径の2倍以上である。この切り欠き12の深さdは、前記の鉄筋の隅部21を配筋用金具1の稜線の裏側11aへ露出させることができ、かつ隅部の内側にピン3を挿入できるだけの深さdを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋の配筋用金具と配筋構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートの柱部材では、柱の軸方向鉄筋を、一定間隔で配置した帯鉄筋で囲み、軸方向鉄筋の座屈やコンクリートの横方向のひずみを防ぎせん断力を平均化するように配慮している。
コンクリート柱の補強に際しても、帯鉄筋やそれに相当する補強部材の取り付けが必要となるが、そのような帯鉄筋などの設置として従来は次のような構成が知られている。
<1> 主筋の周囲にスパイラル筋を巻き付けて補強する方法。
<2> 分割した鉄筋を柱の周囲に取り付け、溶接して閉合して補強する方法。
<3> 帯鉄筋の取り付けではないが、鉄筋を内蔵したプレキャスト板を巻き立てて補強する方法。
<4> 分割した鋼板で柱の周囲を取り囲み、溶接して閉合して補強する方法。
<5> 分割した鋼板を接着剤で取り付けて補強する方法。
<6> 繊維シートを接着剤で取り付けて補強する方法など。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2926120号公報。
【特許文献2】特許第2926122号公報。
【特許文献3】特開2000−352111号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記したような従来の補強方法にあっては、次のような問題点がある。
<1> スパイラル筋を巻き付ける方法は、高強度鉄筋を使用する必要があり、材料費が高価なものである。
<2> 分割した鉄筋で柱を取り囲む方法は、鉄筋の溶接作業、あるいは特殊な構成の機械式の継手での閉塞作業が必要であり、施工費、材料費とも高価であるという問題がある。
<3> その他の方法は、鉄筋の巻き立て以上に施工費、材料費が高価な方法である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の鉄筋の配筋用金具は、鋼板よりなり、この鋼板は、その折り曲げ部に稜線を備え、この稜線には稜線の方向に直交する方向に切り欠きを刻設してあり、この切り欠きの幅は、配筋予定の隅部を有する鉄筋の直径の2倍以上であり、この切り欠きの深さは、前記の鉄筋の隅部を配筋用金具の稜線の裏側へ露出させることができ、かつ隅部の内側にピンを挿入できるだけの深さを備えた配筋用金具である。
上記の配筋用金具には、稜線に、稜線から外側へ向けて突設した位置決め片が取り付けてある。
また本発明の鉄筋の配筋構造は、前記の配筋用金具と、隅部を有する複数本の鉄筋とにより構成し、前記の配筋用金具の切り欠き内に、鉄筋の隅部を挿入し、かつ稜線の裏側において、鉄筋の隅部の内側にピンを挿入して構成した配筋構造である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の鉄筋の配筋用金具と配筋構造は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1>溶接作業を必要とせずに柱の周囲に、柱を包囲する状態で配筋をすることができるから、熟練工が不要であり、品質の信頼性も高い。
<2>特別の継手や高強度鉄筋を使用せずに、配筋用金具に鉄筋の隅部を挿入するだけの簡単な作業で柱を包囲する状態で配筋をすることができるから、経済的であり、工期を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の配筋用金具に鉄筋を取り付けた状態の説明図。
【図2】鉄筋の形状の実施例の説明図。
【図3】鉄筋の形状の他の実施例の説明図。
【図4】鉄筋の形状の他の実施例の説明図。
【図5】鉄筋の配筋用金具の説明図。
【図6】配筋用金具の他の実施例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
まず本発明の配筋構造に使用する配筋用金具について説明する。
【0010】
<1>前提条件。
本発明の配筋用金具1は、たとえば既成のコンクリート製の柱Aの耐震補強のために、その周囲を取り囲む状態で、帯鉄筋2を水平に、あるいは角度を付して巻き付ける場合に使用するものである。
ただし、既成柱Aの補強についての実施例は、本発明のイメージを分かりやすく説明するためのものであって、その他の各種の用途に使用することができる。
【0011】
<2>配筋用金具。
本発明の配筋用金具1は、鋼板を折り曲げた形状の部材である。
この配筋用金具1は、後述するような、隅部を備えた鉄筋の隅部21を挿入して柱Aの周りに固定するための金具である。
【0012】
<2−1>稜線11。
この配筋用金具1を構成する鋼板は、平板ではなく、その一部に折り曲げ部を、山脈の稜線11の状態で備えている。
一本の稜線11を備えた形状としては、図5の実施例のように、断面がV字状、L字状の金具を利用することができる。
あるいは図6の実施例のように、断面がU字状、半円状のような、円弧状、弧状の金具を利用することができる。
あるいは断面が角柱のような、中空の矩形の金具も利用できる。
あるいは断面が中空の円柱状パイプを利用することもできる。
このように、1本の稜線11を備えた金具であれば、広く利用することができる。
この稜線11の谷折り側を、説明の便宜上、稜線の裏側11aと称する。
【0013】
<2−2>切り欠き。
この配筋用金具1には、その稜線11の方向に直交する方向に、所定の幅wと深さdを備えた切り欠き12が刻設してある。
この切り欠き12の幅wは、配筋する予定の隅部を有する鉄筋2の直径の2倍程度の幅を備えている。
この切り欠き12内に2本の鉄筋の隅部21を挿入できる必要があるから、その幅wは、2本の鉄筋2の直径の2倍以上であることが必要である。
またこの切り欠き12の深さdは、前記の鉄筋の隅部21を配筋用金具1の稜線の裏側11aへ露出させることができ、かつ稜線の裏側11aへ露出した隅部の内側、すなわち曲線状の隅部の内側にピン3を挿入できるだけの深さdを備えた配筋用金具1である。
この切り欠き12は1本に限らず、図の例のように複数本の切り欠き12を形成することができる。

【0014】
<2−3>ピン。
ピン3とは、鉄筋の隅部21を配筋用金具1に固定するために、その隅部21の内側へ挿入する棒状体である。
このピン3は、単なる鋼製の円柱体、あるいは円柱体の上部に直径の大きい頭部を形成した部材、あるいは円錐柱を使用することができる。
円錐柱や、水平断面を扇状に形成した場合には、クサビとして利用することができる。
【0015】
<2−4>位置決め片。
上記の配筋用金具1には、稜線11の部分に、稜線11から外側へ向けて突設した位置決め片13を取り付ける。
この位置決め片13は、たとえばアングルピースのようなL字状の金具である。
この位置決め片13は、その1片が補強対象のたとえば柱Aの表面に接することによって、配筋用金具1の位置がずれない程度の目的に使用する。
したがってこの位置決め片13で、配筋用金具1を柱Aに固定することもできるが、固定せずに表面に接触させるだけでもその用途を達成できる。
【0016】
<3>鉄筋。
本発明の対象とする鉄筋2は、柱Aの主筋の周囲に位置する帯鉄筋2であるが、完全な矩形に加工したものではなく、矩形を複数に分割した形状を呈する。
その場合に、隣り合う鉄筋2には重ね代が必要であるから、本発明の配筋の対象とする鉄筋2は、両端部や複数個所に直角方向に折り曲げた曲線状の隅部21を形成してある。
本来、矩形である鉄筋2を複数本に分割した形状の例を、図2,3、4に示すが、このような形状に限らず、隅部21を形成した鉄筋2なら本発明の配筋用金具1を使用して配筋の対象として扱うことができる。

【0017】
<4>配筋構造。
本発明の配筋構造は、前記の配筋用金具1と、隅部21を有する複数本の鉄筋2とにより構成する。
柱Aの周囲に配筋する場合には、柱Aの角に配筋用金具1の稜線11を突き合わせて配置する。したがって、稜線の裏側11aは、外向きに開放状態となる。
その前、あるいはその後に、場合によっては鉄筋2を多少押し広げながら、柱Aの周囲に配置し、その隅部21を、配筋用金具1の切り欠き12内に挿入する。
すると、鉄筋の隅部21が稜線の裏側11aに露出する。
そこで、稜線の裏側11aと、鉄筋の隅部21の曲線部分の内側との間の空間にピン3を挿入する。
柱Aの4角において、上記の作業を行うことによって、柱Aの周囲に、柱Aの表面と多少の間隔をあけて、鉄筋2を配置することができる。
配筋用金具1の切り欠き12の間隔は、目的とする帯鉄筋2の要求される強度に応じた間隔を与えてあるので、複数段の配筋が可能である。
ただしこの状態のままでは、柱Aの角と配筋用金具1の稜線11とは、凸状のV字とV字の鋭角部を突き合わせた状態であるから、位置関係は不安定である。
しかし配筋用金具1の稜線11の外側には位置決め片13が突設しているので、配筋用金具1の位置のずれを阻止することができる。
位置決め片13を接着剤やボルトで柱Aに固定することもできる。
こうして本発明の配筋構造が完成する。

【0018】
<5>その他の作業。
上記の配筋が、柱Aの補強のためであれば、配筋後の周囲にコンクリートやモルタルを吹き付け、あるいは打設する。
その場合に、配筋用金具1を被覆する状態でコンクリートやモルタルを吹き付け、あるいは打設して硬化させる。
なお、上記の実施例は既成の高架橋柱や橋脚、建築物の柱などの耐震補強の場合の説明であるが、新築の柱の帯鉄筋の配置などにも、本発明の配筋用金具1や配筋構造を利用することができる。
【符号の説明】
【0019】
1:配筋用金具
11:稜線
12:切り欠き
13:位置決め片
2:鉄筋
21:鉄筋の隅部
3:ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板によって構成し、
この鋼板は、その折り曲げ部に稜線を備え、
この稜線には稜線の方向に直交する方向に切り欠きを刻設してあり、
この切り欠きの幅は、配筋予定の隅部を有する鉄筋の直径の2倍以上であり、
この切り欠きの深さは、前記の鉄筋の隅部を配筋用金具の稜線の裏側へ露出させることができ、かつ隅部の内側にピンを挿入できるだけの深さを備えた配筋用金具。
【請求項2】
請求項1記載の配筋用金具であって、
稜線に、稜線から外側へ向けて突設した位置決め片が取り付けてある、
配筋用金具。
【請求項3】
請求項1記載の配筋用金具と、
隅部を有する複数本の鉄筋とにより構成し、
前記の配筋用金具の切り欠き内に、鉄筋の隅部を挿入し、
かつ稜線の裏側において、鉄筋の隅部の内側にピンを挿入して構成した、
配筋構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−52500(P2011−52500A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204687(P2009−204687)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【Fターム(参考)】