説明

鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法

【課題】鉄筋コンクリート構造物が解体しにくい最大の理由が鉄筋コンリートが粘りのある鉄筋と堅いコンクリートとの組み合わせた複合部材であること、さらに、鉄筋は一般的には表面近くに配筋されていることに着目し、鉄筋コンクリート構造物のリニューアル工事など、小規模で、建物に居住者などが残留しているような工事において、低騒音で、しかも簡単な小規模な設備で簡単に鉄筋を剥離し、コンクリート構造物を解体できる鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法を得る。
【解決手段】引張冶具3をローラー支持、または先端が回転可能な車輪等を有する脚部で支持し、鉄筋コンクリート中に埋設された鉄筋2の一部を露出させて前記引張冶具3に固定し、この引張冶具3で鉄筋2を配筋方向と鉛直の方向に引っ張りながら、これに追随させて引張冶具3を配筋方向にローラー6等で移動させ、コンクリート中から鉄筋2を連続的に剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物のリニューアル工事などでは、例えば、壁の部分などの鉄筋コンクリート構造部分を解体することがあるが、かかる鉄筋コンクリート構造物の部分的な解体方法として、従来、ブレーカー工法、ダイヤモンドカッター工法、ダイヤモンドワイヤーソー工法などがある。
【0003】
一般に多く採用されている例えばブレーカー工法は、コンクリートをブレーカーで破砕して鉄筋を露出させた後、鉄筋を切断するもので、大きな騒音・振動や粉塵などが発生する。
【0004】
このため、居住者の一部が残留している建物などでは、ブレーカー工法などによる建物のリニューアル工事は作業時間帯などで制約を受けることになる。また、工事場所が例えば病院などの場合は、昼夜を問わず騒音を避ける必要があるが、前記ブレーカー工法などではこれに対処しきれない。
【0005】
そこで、比較的騒音の小さい工法も開発され、例えば、鉄筋に通電・加熱してコンクリートを脆弱化し、鉄筋を剥離する方法もある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭63−14963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特開昭63−14963号公報に記載の方法は、コンクリートを脆弱化することで軽微な引張力で鉄筋を剥離でき、低騒音化を図ることができるが、鉄筋加熱のため多数の鉄筋露出個所を設ける必要があり、機械装置が大型化し、準備に多大な労力と時間および費用を要する。このため、小規模なリニューアル工事には低騒音であっても前記のような大型の工事機械の採用は非常に困難である。
【0007】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、鉄筋コンクリート構造物が解体しにくい最大の理由が鉄筋コンリートが粘りのある鉄筋と堅いコンクリートとの組み合わせた複合部材であること、さらに、鉄筋は一般的には表面近くに配筋されていることに着目し、鉄筋コンクリート構造物のリニューアル工事など、小規模で、建物に居住者などが残留しているような工事において、低騒音で、しかも簡単な小規模な設備で簡単に鉄筋を剥離し、コンクリート構造物を解体できる鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、引張冶具をローラー等の転動手段で支持し、鉄筋コンクリート中に埋設された鉄筋の一部を露出させて前記引張冶具に固定し、この引張冶具で鉄筋を配筋方向と鉛直の方向に引っ張りながら、これに追随させて引張冶具を配筋方向にローラー等の転動手段で移動させ、コンクリート中から鉄筋を連続的に剥離することを要旨とするものである。
【0009】
請求項1記載の本発明によれば、露出させた部分の鉄筋を引張冶具に固定して、鉄筋を配筋方向と鉛直の方向に引っ張れば、この引張力によってローラー等の転動手段を介して引張冶具が配筋方向に移動する。これにより、鉄筋はその上の被りコンクリートを剥離破壊しながらコンクリート中から剥離される。
【0010】
請求項2記載の発明は、引張冶具は油圧ジャッキで構成することを要旨とするものである。
【0011】
請求項2記載の本発明によれば、ローラー等の転動手段で移動自在に支持した油圧ジャッキをセットし、油圧ジャッキのロッドの先端に鉄筋の一部を固定し、ロッドを引上げるだけの簡単な設備と操作で、鉄筋をコンクリート中から簡単に剥離できる。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように本発明の鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法は、鉄筋コンクリート構造物が解体しにくい最大の理由が鉄筋コンリートが粘りのある鉄筋と堅いコンクリートとの組み合わせた複合部材であること、さらに、鉄筋は一般的には表面近くに配筋されていることに着目し、鉄筋コンクリート構造物のリニューアル工事など、小規模で、建物に居住者などが残留しているような工事において、鉄筋コンクリート構造ものからまず主な鉄筋を剥がし取れれば無筋化したコンクリートはどのような方法であっても容易に解体できるから、鉄筋の剥離方法として低騒音で、しかも簡単な小規模な設備で簡単に鉄筋を剥離できるものであり、強いてはコンクリート構造物を容易に解体できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面について本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明のコンクリート構造部材の鉄筋剥離方法の実施形態を示す第1工程の説明図、図2は同上第2工程の説明図、図3は同上第3工程の説明図で、本発明方法は、鉄筋コンクリート構造の建物などの鉄筋コンクリート壁など、鉄筋コンクリート構造部材1を部分的に解体する場合に実施される。
【0014】
本発明では、鉄筋コンクリート構造部材1を解体する方法として、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋2は構造物の表面近くに配置されていることに着目し、鉄筋コンクリート構造部材1から鉄筋2のみを剥離するものである。
【0015】
そのための方法として、まず、表面近くのコンクリート(被りコンクリート)1aのみを除去して、鉄筋2の一部(端部)を露出させる。
【0016】
一方、鉄筋2の引張冶具3として、油圧ジャッキなどを利用し、ロッドを鉄筋2に溶接可能なものとして鋼棒4などで構成する。鉄筋の引張には約10tf程度の荷重が必要であるが、10tf程度の油圧ジッャキは非常に軽微で、これを支持する手段もネジ棒の足程度のもので足り、装置を簡便・軽微なものにできる。
【0017】
かかる引張冶具3を転動手段である支持フレーム5で支承する。この支持フレーム5は、間にローラー6等の滑活部材を配設した上部支持フレーム5aと下部支持フレーム5bとで構成し、上部支持フレーム5aおよびローラー6は、下部支持フレーム5bに対して、平行にスライド自在に組み合わさる。
【0018】
そして、引張冶具3は上部支持フレーム5aの上に載置され、支持フレーム5のスライド方向に対して鉛直の方向に引張冶具3の鋼棒4が移動する。
【0019】
露出させた鉄筋2を鉄筋コンクリート構造部材1から除去するには、コンクリート構造部材1の上に支持フレーム5を配設し、鉄筋2の配筋方向に対して鉛直の方向に引張冶具3をセットする。
【0020】
露出させた鉄筋2の端部に引張冶具3の鋼棒4を溶接などで接続し、油圧ジャッキを作動させれば、鉄筋2の配筋方向に対して鉛直方向に引張力が作用する。その結果、鉄筋2がコンクリート構造部材1の面外方向に変形する。
【0021】
すなわち、鉄筋2がコンクリートから剥がし取られて鉛直方向に引っ張られる。このとき、鉄筋2の面外変形にともない、周囲の被りコンクリート1aが剥離破壊する。一般に鉄筋コンクリート構造部材1の鉄筋2の被りコンクリート1aの被り厚さは数センチであることから、非常に小さな荷重で被りコンクリート1aを剥離破壊させることができる。
【0022】
前記のような鉄筋2の鉛直方向への抜出し・被りコンクリート1aの剥離によって、引張冶具3に配筋方向への水平方向の力が作用し、図2に示すように引張冶具3が上部支持フレーム5aとローラー6とともに配筋方向に自動的に移動する。
【0023】
よって、鉄筋2を抜出しながら同時に引張冶具3が支持フレーム5を介して水平にスライドするから、図3に示すように中断することなく鉄筋コンクリート構造部材1の中から連続的に鉄筋2を剥離できる。
【0024】
以上のようにして鉄筋2を剥離したならば、鉄筋2が除去されたコンクリートは油圧よる拡張や圧砕、支圧破壊などの方法によって低騒音で解体できる。
【0025】
なお、引張冶具を支持する転動手段は前記ローラー6に限定されるものではなく、図示は省略するが、先端に車輪を設けた脚部で構成することも可能であり、脚部の上に引張冶具を載置する。この場合、脚部はコンクリートの剥離範囲の外に位置させる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法の第1工程を示す説明図である。
【図2】本発明の鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法の第2工程を示す説明図である。
【図3】本発明の鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法の第3工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 鉄筋コンクリート構造部材 1a 被りコンクリート
2 鉄筋 3 引張冶具
4 鋼棒 5 支持フレーム
5a 上部支持フレーム 5b 下部支持フレーム
6 ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張冶具をローラー等の転動手段で支持し、鉄筋コンクリート中に埋設された鉄筋の一部を露出させて前記引張冶具に固定し、この引張冶具で鉄筋を配筋方向と鉛直の方向に引っ張りながら、これに追随させて引張冶具を配筋方向にローラー等の転動手段で移動させ、コンクリート中から鉄筋を連続的に剥離することを特徴とする鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法。
【請求項2】
引張冶具は油圧ジャッキで構成する請求項1記載の鉄筋コンクリート構造部材の鉄筋剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−132052(P2007−132052A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325045(P2005−325045)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】