説明

鉄筋腐食の予測方法および鉄筋腐食のモニタリングシステム

【課題】原位置にセンサを常設し、任意の期間や間隔でモニタリングを行って収集した情報を用いることにより、精度の高い予測を行える鉄筋腐食の予測方法および鉄筋腐食のモニタリングシステムを提供すること。
【解決手段】部材2内に埋設された鉄筋4を複数の鉄筋要素27に区分し、コンクリート6に、照合電極および対極7、コンクリート抵抗計9、コンクリート温度計11が格納されたセンサボックス5を埋設する。コンピュータ19は、腐食モニタ17、切替装置15を制御し、センサボックス5内のセンサ類を用いて、電気化学的性質等を測定する。そして、電気化学的性質や部材2の周辺環境に関するデータを用いて、鉄筋4の腐食の有無、鉄筋4の位置での部材2の塩化物イオン含有量が所定量に達するまでの時間、鉄筋位置に部材の中性化が達するまでの時間、鉄筋2の腐食量が所定量に達するまでの時間を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋腐食の予測方法および鉄筋腐食のモニタリングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物内部の鉄筋の腐食を予測する手段としては、鋼線を埋め込み、その電気抵抗を測定することで、腐食状況を直接把握する方法がある。また、自然電位や分極抵抗等、腐食速度を左右する要因を測定して、腐食速度を間接的に予測する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−107025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、腐食速度を決定付けるいくつかの項目を、単独または複数の機能を持つセンサを使って個別に、断片的に測定しているため、得られる情報が偏っている。また、腐食速度の予測方法についても、技術的に確立していないため、精度の高い予測は困難であった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、原位置にセンサを常設し、任意の期間や間隔でモニタリングを行って収集した情報を用いることにより、精度の高い予測を行える鉄筋腐食の予測方法および鉄筋腐食のモニタリングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するための第1の発明は、鉄筋が埋設された部材に設置したセンサを用いて、所定の時間間隔で電気化学的性質を測定する工程(a)と、前記電気化学的性質および前記部材の周辺環境に関するデータを用いて、前記鉄筋の腐食の有無と、前記鉄筋位置での前記部材の塩化物イオン含有量が所定量に達するまでの時間及び前記鉄筋位置に前記部材の中性化が達するまでの時間を予測する工程(b)と、前記電気化学的性質を用いて、前記鉄筋の腐食量が所定量に達するまでの時間を予測する工程(c)とを具備することを特徴とする鉄筋腐食の予測方法である。
【0007】
センサは、部材の表面または鉄筋の近傍に設置される。センサは、少なくとも、照合電極および対極を含むものとする。さらに、コンクリート抵抗計、コンクリート温度計等を設けてもよい。これらのセンサは、例えば、センサボックス内に格納される。工程(a)で測定する電気化学的性質とは、自然電位、コンクリート抵抗、分極抵抗、分極曲線等である。部材の周辺環境に関するデータとは、部材表面に撒かれる塩分量、部材のW/C、鉄筋のかぶり厚、雰囲気温度、雰囲気湿度等である。
【0008】
工程(c)における所定量は適宜設定される。工程(c)では、例えば、鉄筋の腐食量が部材にひび割れが生じる限界腐食量に達するまでの時間や、鉄筋の断面欠損が指定の割合に達するまでの時間等を予測する。
【0009】
部材の周辺には、必要に応じて、直方体や円柱形のダミー試験体が設置される。ダミー試験体を設置した場合、例えば、工程(c)で、ダミー試験体に埋設された鉄筋の腐食電流量を測定し、この腐食電流量を用いて予測精度を高める。また、工程(b)で、ダミー試験体の塩化物イオン含有量と中性化深さとを測定し、塩化物イオン含有量と中性化深さとを用いて予測精度を高める。さらに、工程(c)で、ダミー試験体に埋設された鉄筋の腐食量および腐食電流量を測定し、腐食量および腐食電流量を用いて予測精度を高める。
【0010】
工程(b)、工程(c)では、従来から提案されている各種の式やモデルを用いて予測を行う。工程(c)では、例えば、電気化学的性質を用いて算出された、鉄筋から生じる腐食電流量と、鉄筋近傍への酸素の供給速度によって決定される限界電流量とのうち小さい方を用いて予測を行うことができる。
【0011】
第2の発明は、鉄筋が埋設された部材に設置したセンサを用いて、所定の間隔で電気化学的性質を測定する装置と、前記電気化学的性質および前記部材の周辺環境に関するデータを用いて、前記鉄筋の腐食の有無と、前記鉄筋位置での前記部材の塩化物イオン含有量が所定量に達するまでの時間及び前記鉄筋位置に前記部材の中性化が達するまでの時間を予測する手段と、前記電気化学的性質を用いて、前記鉄筋の腐食量が所定量に達するまでの時間を予測する手段とを具備することを特徴とする鉄筋腐食のモニタリングシステムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原位置にセンサを常設し、任意の期間や間隔でモニタリングを行って収集した情報を用いることにより、精度の高い予測を行える鉄筋腐食の予測方法および鉄筋腐食のモニタリングシステムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。構造物の耐久性を内部の鉄筋の腐食量から考えた場合、(1)鉄筋が腐食する環境に至るまでの期間(潜伏期)、(2)鉄筋が腐食をはじめ、腐食ひび割れが起こるまでの期間(進展期)、(3)さらに腐食が進み、耐力上問題となるまでの期間(加速期)に分けられる。第1の実施の形態では、モニタリングシステムを用いて、現在、鉄筋が腐食しているかどうかの判断、潜伏期の終わりまでの時間の予測、進展期の終わりまでの時間の予測等を行う。
【0014】
図1は、鉄筋腐食のモニタリングシステムAの概要図である。図1に示すように、モニタリングシステムAは、センサボックス5、切替装置15、温度計23、湿度計25、腐食モニタ17、コンピュータ19等からなる。
【0015】
部材2は、鉄筋4とコンクリート6からなる鉄筋コンクリート部材であり、センサボックス5は、部材2を構築する際に、鉄筋4の近傍に設置され、コンクリート6に埋設される。センサボックス5内には、照合電極および対極7、コンクリート抵抗計9、コンクリート温度計11が、測定面が鉄筋4と対向するように配置される。
【0016】
照合電極および対極7は、鉄筋4を作用極として、自然電位、分極曲線と分極抵抗を測定する。コンクリート抵抗計9は、コンクリート抵抗を測定する。コンクリート温度計11(熱電対)は、コンクリート6の内部温度を測定する。温度計23および湿度計25は、部材周辺35の雰囲気温度・湿度を測定する。照合電極および対極7、コンクリート抵抗計9、コンクリート温度計11は、センサボックス5内に格納できる大きさのものとする。センサボックス5は、コンクリート6の機能を損なうことのない材質および大きさとする。
【0017】
照合電極および対極7、コンクリート抵抗計9、コンクリート温度計11は、ケーブル13bで、切替装置15に接続される。温度計23および湿度計25は、ケーブル21で、切替装置15に接続される。切替装置15は、ケーブル13で腐食モニタ17に接続され、腐食モニタ17は、ケーブル13でコンピュータ19に接続される。温度計23、湿度計25、切替装置15、腐食モニタ17、コンピュータ19は、計測ボックス8に格納するのが望ましい。
【0018】
図2は、モニタリングシステムを設置した構造物1の断面図である。図2に示すように、センサボックス5の設置位置3は、構造物1の部材2の複数箇所に設けられる。計測ボックス8は、例えば、構造物1内に配置される。また、構造物1付近には、必要に応じて、複数のダミー試験体14、複数の円柱試験体16が配置される。計測ボックス8、ダミー試験体14、円柱試験体16は、センサボックス5設置位置3に近く、かつ、できるだけアクセスのしやすい場所に設置される。
【0019】
図3は、ダミー試験体14の断面図である。図3に示すように、ダミー試験体14は、例えば、鉄筋41を埋設したコンクリート45を直方体に成形し、部材2の表面に相当するコンクリート表面39を除く各面にエポキシ樹脂塗装37を施したものとする。ダミー試験体14には照合電極および対極7が埋設される。
【0020】
ダミー試験体14の一部の鉄筋41には、腐食電流の測定を行うための処理が施される。すなわち、図3に示すように、エポキシ樹脂等の絶縁体49で鉄筋41を複数に分割し、複数に分割した鉄筋41に、それぞれリード線(図示せず)を取付ける。円柱試験体16の一部にも、腐食電流の測定を行うために、同様の処理を施した鉄筋が埋設される。ダミー試験体14、円柱試験体16の仕様の詳細については、後述する。
【0021】
構造物1にモニタリングシステムAを設置する際、図1に示すように、構造物1に設置された複数のセンサボックス5内の照合電極および対極7、コンクリート抵抗計9、コンクリート温度計11は、それぞれ、ケーブル13b、ケーブル13c、ケーブル13d…等で切替装置15に接続される。また、ダミー試験体14に埋設された照合電極および対極7は、ケーブル13aで切替装置15に接続される。さらに、ダミー試験体14、円柱試験体16の鉄筋に腐食電流量を測定するために取付けたリード線(図示せず)も、切替装置15に接続される。
【0022】
図1に示すモニタリングシステムAでは、コンピュータ19を用いて腐食モニタ17、切替装置15を制御することにより、構造物1に埋設されたセンサボックス5内のセンサ類、ダミー試験体14に埋設された照合電極および対極7(図3)、ダミー試験体14や円柱試験体16の鉄筋に取付けたリード線(図示せず)、温度計23および湿度計25を用いて、任意の期間、任意の間隔・回数で、各種データを収集する。
【0023】
図4は、鉄筋4の腐食速度に関わる要因を示す図である。図4に示すように、鉄筋4の腐食速度は、部材2への酸素・水分の供給条件、コンクリート6の調合、鉄筋4のかぶり厚さ、部材周辺35の温度・湿度等の材料・環境条件により左右される。モニタリングシステムAによる鉄筋4の腐食状態の予測では、これらの条件により決定される酸素供給量、コンクリート抵抗、分極曲線・抵抗、中性化深さ、塩化物イオン量等のデータが用いられる。
【0024】
図5は、モニタリングシステムAでの予測に用いられる実測値と、得られる予測値とを示す図である。図5に示すように、モニタリングシステムAでは、構造物1について、実測値として、自然電位55、コンクリート抵抗57、構造物1の表面に撒かれる塩分量59、W/Cおよびかぶり厚61、雰囲気湿度63、雰囲気温度65、分極抵抗67を取得する。
【0025】
自然電位55、分極抵抗67は、照合電極および対極7(図1)で測定される。コンクリート抵抗57は、コンクリート抵抗計9(図1)で測定される。構造物1の表面に撒かれる塩分量59は、塩分の散布時に取得される。W/Cおよびかぶり厚61には、設計値を用いる。雰囲気湿度63、雰囲気温度65は、湿度計25、温度計23(図1)で測定される。
【0026】
モニタリングシステムAでは、自然電位55、コンクリート抵抗57の値に基づいて、構造物1の鉄筋4の腐食状態を評価する。腐食状態の評価には、分極抵抗67を併用してもよい。評価基準には、従来のものを用いることができる。
【0027】
鉄筋4の腐食が潜伏期51である場合、構造物1の表面に撒かれる塩分量59、W/Cおよびかぶり厚61、雰囲気湿度63、雰囲気温度65に基づいて、鉄筋4の位置での塩分量が限界塩分量(1.2kg/m)に達するまでの時間tと鉄筋4の位置まで中性化が達するまでの時間tとを予測する。
【0028】
限界塩分量は、鉄筋4に腐食が生じるとされる塩化物イオン量であるため、時間tは、鉄筋4の腐食の潜伏期51が終わるまでの時間、すなわち、進展期53に入るまでの時間となる。時間tは、経験式や実験式に基づいて簡便な方法で予測してもよいし、コンピュータシミュレーションによる解析などにより詳細に検討して予測してもよい。時間tの予測には、例えば式(1)が用いられる。
【0029】
(x,t)=C[1−erf{x/2(D・t)1/2}]+C(x,0)……(1)
【0030】
ここで、C(x,t)は深さx(cm)・時刻t(年)における塩化物イオン濃度(kg/m)、C(x,0)は初期含有塩化物イオン濃度(kg/m)、Cは表面塩化物イオン濃度(kg/m)、Dは塩化物イオンの見掛けの拡散係数(cm2/年)、erfは誤差関数である。
【0031】
式(1)の中で、Cは、撒かれる塩分量59と従来の予測式から算出される。また、Dは、W/Cおよびかぶり厚61、雰囲気湿度63、従来のモデルから算出されるほか、簡便なものとして式(2)を用いてもよい。
【0032】
logD={4.5(W/C)+0.14(W/C)−8.47}+log(3.15×10)……(2)
【0033】
鉄筋4付近まで中性化が達すると、鉄筋4の腐食が開始するとされるため、鉄筋4の位置に中性化が達するまでの時間tを求めることにより、鉄筋4の腐食の潜伏期51が終わるまでの時間、すなわち、進展期53に入るまでの時間を予測できる。鉄筋4の位置まで中性化が達するまでの時間tは、A・t1/2則に基づいた進行予測式から算出する(Aは中性化速度係数)。中性化の進行速度は、従来の数種類の式から総合的に求めるのが望ましい。
【0034】
鉄筋4の腐食が進展期53である場合、分極抵抗67を用いて、鉄筋4の腐食量が限界腐食量Wcrに達するまでの時間tを予測する。限界腐食量は、鉄筋4の腐食によって部材2にひび割れが生じる腐食量であるため、時間tは、進展期53が終わるまでの時間、すなわち、加速期に入るまでの時間となる。
【0035】
限界腐食量Wcrに達するまでの時間tは、年間の腐食量Wと限界腐食量Wcrとから算出できる。年間の腐食量W(μm/年)は、腐食電流量Icorr=K/Rp(ここで、Kは0.026V、Rpは分極抵抗67)として、W=11.6×Icorrで求められる。また、限界腐食量Wcr(μm)は式(3)で求められる。
【0036】
cr=1.27{−1.84φ(φ−8.66)+145α−1.194+3810D−0.835+10.6X−72.3}=13.5X−2.7……(3)
【0037】
ただし、φはクリープ係数(通常は0.4)、αは体積膨張率(通常は3.2)、Dは腐食角度(通常は360°)、Xはmin(かぶりc/鉄筋径d、鉄筋純間隔ctc/2/鉄筋径d/1.75)である。
【0038】
図5には示していないが、鉄筋4の腐食が加速期に入った後、所定の腐食量に達するまでの時間tの予測を行う場合もある。所定の腐食量は、予測の目的に応じて適宜決定する。時間tは、進展期53と同様の方法で、年間の腐食量Wと所定の腐食量とから算出できる。
【0039】
次に、ダミー試験体14について説明する。ダミー試験体14は、図5に示すような、実構造物1についての予測値(時間t、時間t、時間t、時間t)の予測精度を向上させるために設置するものである。
【0040】
図3に示すようなダミー試験体14のコンクリート45の基本の物性や鉄筋41のかぶり厚さは、モニタリング対象となる構造物1のコンクリート6(図1)の物性や鉄筋4(図1)のかぶり厚さと同一とする。しかし、ダミー試験体14のコンクリート45の基本の物性や鉄筋41のかぶり厚さを構造物1と同じ条件とした場合、鉄筋41の腐食の進展が緩やかで潜伏期51が長くなると考えられる。このことは、進展期53での腐食速度を予測するためのデータを得にくいことを意味する。
【0041】
そのため、構造物1と同一条件とした場合に腐食速度が遅いことが予想される場合には、構造物1よりも鉄筋を腐食させやすい条件のダミー試験体14(コンクリート45に塩分を混入したダミー試験体14や、かぶり厚さを小さくしたダミー試験体14)を追加し、これらのダミー試験体14からも予測に必要なデータを取得するのが望ましい。
【0042】
ダミー試験体14では、図3に示すように、コンクリート表面39と所定の鉄筋41との間にスリット47を設けてもよい。スリット47は、ひび割れを模擬したものであり、例えば、幅0.2mm程度とする。これは、図5には示されていない加速期、即ち構造物1にひび割れが生じた後の腐食速度の予測精度を高めるための処理である。
【0043】
図5に示すように、ダミー試験体14については、実測値として、自然電位69、分極抵抗71等と、腐食電流量73とを取得する。自然電位69、分極抵抗71は、照合電極および対極7(図3)で測定される。腐食電流量73は、鉄筋41に取り付けたリード線(図示せず)で測定される。
【0044】
ダミー試験体14について自然電位69、分極抵抗71等を測定することにより、実際の構造物1が潜伏期51にある期間に、腐食モニタ17(図1)等の計測機器が正常に稼動しているかどうかを確認することができる。
【0045】
また、ダミー試験体14について腐食電流量73を測定することにより、実際の構造物1が進展期53にある期間に、鉄筋4の腐食量が限界腐食量Wcrに達するまでの時間tの予測精度を高めることができる。
【0046】
前述したように、構造物1の鉄筋4の腐食電流量Icorrの算出に用いるKの値は、当初は0.026Vと設定されている。しかし、この値は、コンクリートの物性や使用される環境によって異なることが予想される。そこで、ダミー試験体14の腐食電流量73を直接測定し、腐食電流量73と分極抵抗71の測定値からK値を補正する。また、塩分量とK値の関係を把握する。そして、これらをもとに構造物1の鉄筋4の腐食電流量Icorrを修正する。
【0047】
さらに、ダミー試験体14にスリット47を設けて分極抵抗を測定することにより、実際の構造物1が加速期にある期間に、所定の腐食量に達するまでの時間tの予測精度を高めることができる。
【0048】
かぶりコンクリートにひび割れが生じた場合、ひび割れ部分で局部的に腐食が進むマクロセル腐食が起きる可能性が高い。マクロセル腐食はコンクリート構造物の耐久性を大きく左右するため、予測にはこのマクロセル腐食も取り込む必要がある
【0049】
マクロセルによる腐食速度を予測するためには、スリット47部分から距離を変えて埋設した照合電極および対極7で分極抵抗を測定し、スリット47からの距離と分極抵抗71との関係を近似式で表現する。そして、構造物1のひび割れ近くの腐食電流量Icorrを算出する際に、ひび割れからの距離に応じた係数をIcorr=K/Rpに掛けて修正する。
【0050】
次に、円柱試験体16について説明する。円柱試験体16は、図5に示すような、実構造物1についての予測値(時間t、時間t、時間t)の予測精度を向上させるために設置するものである。
【0051】
円柱試験体16(φ100×200mm)のコンクリートの基本の物性や鉄筋のかぶり厚さは、モニタリング対象となる構造物1のコンクリート6(図1)の物性や鉄筋4(図1)のかぶり厚さと同一とする。
【0052】
図5に示すように、円柱試験体16については、実測値として、塩化物イオン濃度75、中性化深さ77、腐食量79、腐食電流量81を取得する。塩化物イオン濃度75、中性化深さ77は、所定の時期(例えば、円柱試験体16を設置してから1、2、5、10年後)に測定される。腐食電流量81は、鉄筋に取り付けたリード線(図示せず)で測定される。腐食量79は、ある程度腐食が進んだと判断した時期に鉄筋を取り出して測定される。
【0053】
円柱試験体16について塩化物イオン濃度75、中性化深さ77を測定することにより、実際の構造物1が潜伏期51にある期間に、塩化物イオンの拡散係数や中性化進行速度を修正し、鉄筋4の位置での塩分量が限界塩分量に達するまでの時間t1、鉄筋4の位置に中性化が達するまでの時間t3の予測精度を高めることができる。
【0054】
また、円柱試験体16について腐食量79、腐食電流量81を測定することにより、実際の構造物1が進展期53にある期間に、鉄筋4の腐食量が限界腐食量Wcrに達するまでの時間tの予測精度を高めることができる。すなわち、腐食電流量81から予想した腐食量と実際の腐食量79を比較し、必要であれば、式W=11.6×Icorrの係数11.6を修正する。
【0055】
このように、第1の実施の形態によれば、センサ類を小型化して部材2の鉄筋4の近傍のコンクリート6内に埋設することにより、任意の期間や間隔で、電気化学的性質、温度等のデータを原位置で取得することができる。これらのデータを用いた予測結果は極めて実現象に近く、精度の高い予測が期待できる。また、構造物1の近辺に、測定条件が同一、または異なるダミー試験体14や円柱試験体16を置き、これらの試験体の各種データを収集して用いることにより、腐食速度の予測精度を向上させることができる。さらに、日常的な測定を無人で行うことができるため、コストを大幅に低減することができる。
【0056】
なお、センサボックス5内に設置するセンサ類の組み合わせは、図1に示すものに限らない。センサ類は、センサボックス5に格納せず、プラスチック製の結束バンドなどを使って構造物1の鉄筋4に直接取り付けてもよい。
【0057】
図5に示す予測値を得るための計算は、コンピュータ19以外のコンピュータにデータを転送して行ってもよい。モニタリングシステムAでは、上述したような予測値がコンピュータ19等の表示手段に表示されるが、これらの予測値の他に、自然電位55やコンクリート抵抗57から評価した腐食状態の評価結果を色で表示したり、限界腐食量Wcrに対する腐食量の積算値の比率をバー形式で表示してもよい。
【0058】
また、第1の実施の形態では、進展期53以降の予測値として、進展期53の終わりまでの時間と、加速期において所定の腐食量に達するまでの時間を予測したが、算出する予測値はこれらに限らない。モニタリングシステムAでは、進展期や加速期における腐食量を適宜設定して、所定の腐食量に達するまでの時間を予測することができる。所定の腐食量は、腐食量W(μm)の他に、鉄筋の断面欠損の比率(%)等を用いて設定してもよい。
【0059】
さらに、図1では、部材2のコンクリート6内にセンサボックス5をあらかじめ埋設したが、部材2が新設でない場合には、センサボックス5は他の方法で設置される。図6は、他の方法でセンサボックス5を設置した部材の断面図である。図6の(a)図は、既設の部材81の断面図である。既設の部材81にセンサボックス5を設置する場合には、図6の(a)図に示すように、コンクリート6の表面にセンサボックス5を配置してもよい。
【0060】
図6の(b)図は、他の部材83の断面図である。既設の部材83にセンサボックス5を設置する場合、図6の(b)図に示すように、所定の部分のコンクリート6を撤去し、鉄筋4の近傍にセンサボックス5を配置した後、補修材85で埋め戻してもよい。
【0061】
次に、第2の実施の形態について説明する。図7は、鉄筋の腐食量の予測方法の概要図、図8は、鉄筋4を複数の鉄筋要素27に区分した状態を示す図である。第2の実施の形態では、図5に示す進展期53において、第1の実施の形態とは異なる方法で、鉄筋4の腐食量が限界腐食量Wcrに達するまでの時間tを予測する。
【0062】
図7に示す方法で鉄筋の腐食量を予測するには、まず、鉄筋を区分する(ステップ101)。ステップ101では、図3に示すように、部材2内の鉄筋4を複数の鉄筋要素27(i)、27(i+1)、27(i+2)…に区分する。図1に示すセンサボックス5は、鉄筋4に適宜設置される。
【0063】
次に、鉄筋4のカソード分極特性とアノード分極特性を求める(ステップ102)。図9は、分極特性を示す図である。ステップ102では、分極特性として、少なくとも、図9に示すようなアノード分極曲線29、カソード分極曲線31を求める。ステップ102では、他の分極特性として、分極抵抗を取得してもよい。図7に示すように、カソード分極特性は、部材2内のpHに影響される。また、アノード分極特性は、部材2内のpHや塩化物イオン量に影響される。
【0064】
次に、カソード分極特性とアノード分極特性から、腐食電流量ipolを求める(ステップ103)。ステップ103では、図9に示すアノード分極曲線29、カソード分極曲線31から、鉄筋4が生み出す腐食電流量ipolを求める。腐食電流量ipolを求める際、図7に示すように、コンクリート・水膜抵抗を考慮してもよい。
【0065】
ステップ102、ステップ103と並行して、鉄筋4から生じる限界電流量ilimを求める(ステップ105)。限界電流量ilimとは、図7に示す酸素濃度、すなわち、カソード鉄筋表面への酸素の供給速度によって決定される電流量である。
【0066】
図10は、部材2内の酸素濃度の分布状況を示す図である。図10に示すように、コンクリート6と水膜37近傍のコンクリート6側の酸素濃度をC(mol/mm)、水膜37側の酸素濃度をC(mol/mm)とする。このとき、それぞれの酸素の分圧は、理想気体の状態方程式を用いて求められる。酸素の水への溶解度Xは、Henryの法則で求めることができる。コンクリート6中の酸素が水膜37に溶け込む量Cは、状態方程式とHenryの法則から、式(4)となる。但し、Rは気体定数、Tは絶対温度(K)、kはヘンリー定数である。
【0067】
=CRT/k……(4)
【0068】
一方、コンクリート6と水膜37の前後での流束(mol/mms)は同一であるため、J=Jである。酸素のコンクリート6中の拡散係数をD(mm/s)、水膜37中の拡散係数をD(mm/s)とし、鉄筋4の表面の酸素は全てカソード反応に消費されると仮定すると、式(5)が成り立つ。
【0069】
=D(C−C)/Δx、J=D(C−0)/Δx……(5)
【0070】
式(4)、式(5)から、A=(D/Δx)・(Δx/D)として、式(6)が成り立つ。
【0071】
=A/{Ak/(RT+1)}・C……(6)
【0072】
式(5)、式(6)から、鉄筋4の表面への酸素の流束が求まる。電流量はカソード反応により消費される電子のモル数に等しいため、式(7)より、酸素拡散により発生する限界電流量ilimが決まる。
【0073】
=J・S・4・F……(7)
【0074】
なお、任意の鉄筋要素の全カソード電流Iを、対になるアノード鉄筋要素に分配するには、鉄筋要素27iが生じるカソード電流量をI、鉄筋要素27jとの間の全抵抗をRijとし、鉄筋要素27の数をnとすると、i、j間に分配される電流量Iijは式(8)とおくことができる。
【0075】
ij=I・(1/Rij)/Σ(1/Rik)、(k=1…n)……(8)
【0076】
ステップ103、ステップ105の後、最終的な腐食電流量を決定する(ステップ106)。ステップ106では、ステップ103で求めた腐食電流量ipolと、ステップ105で求めた限界電流量ilimとを比較し、小さい方を最終的な腐食電流量とする。
【0077】
次に、ステップ106で決定した最終的な腐食電流量を用いて、鉄筋4の腐食量を予測する(ステップ108)。実験により、図7に示す方法により決定された腐食電流密度は、測定された腐食電流密度と概ね近い値を示すことが確認されている。第2の実施の形態では、ステップ108で決定した腐食量と、式(3)で求めた限界腐食量Wcrとから、限界腐食量Wcrに達するまでの時間tを算出する。
【0078】
このように、第2の実施の形態においても、センサ類を小型化して部材2の鉄筋4の近傍のコンクリート6内に埋設することにより、任意の期間や間隔で、電気化学的性質、温度等のデータを原位置で取得し、精度の高い予測を行える。また、第1の実施の形態と同様にダミー試験体や円柱試験体の各種データを収集して用いることにより、腐食速度の予測精度を向上させることができる。さらに、日常的な測定を無人で行うことができるため、コストを大幅に低減することができる。
【0079】
なお、図2に示すステップ102からステップ108に示す各工程は、コンピュータ19以外のコンピュータにデータを転送して行ってもよい。また、第2の実施の形態の算出方法を用いた場合にも、算出する予測値は、進展期53の終わりまでの時間に限らない。進展期や加速期における腐食量を適宜設定して、図7に示す方法で腐食量を予測し、所定の腐食量に達するまでの時間を予測することができる。
【0080】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかる鉄筋腐食の予測方法および鉄筋腐食のモニタリングシステムの好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】鉄筋腐食のモニタリングシステムの概要図
【図2】モニタリングシステムを設置した構造物1の断面図
【図3】ダミー試験体14の断面図
【図4】鉄筋4の腐食速度に関わる要因を示す図
【図5】モニタリングシステムAでの予測に用いられる実測値と、得られる予測値とを示す図
【図6】他の方法でセンサボックス5を設置した部材の断面図
【図7】鉄筋の腐食量の予測方法の概要図
【図8】鉄筋4を複数の鉄筋要素27に区分した状態を示す図
【図9】分極特性を示す図
【図10】部材2内の酸素濃度の分布状況を示す図
【符号の説明】
【0082】
1………構造物
2………部材
3………センサボックス5の設置位置
4………鉄筋
5………センサボックス
6………コンクリート
7………照合電極および対極
8………計測ボックス
9………コンクリート抵抗計
11………コンクリート温度計
15………切替装置
17………腐食モニタ
19………コンピュータ
23………温度計
25………湿度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋が埋設された部材に設置したセンサを用いて、所定の時間間隔で電気化学的性質を測定する工程(a)と、
前記電気化学的性質および前記部材の周辺環境に関するデータを用いて、前記鉄筋の腐食の有無と、前記鉄筋位置での前記部材の塩化物イオン含有量が所定量に達するまでの時間及び前記鉄筋位置に前記部材の中性化が達するまでの時間を予測する工程(b)と、
前記電気化学的性質を用いて、前記鉄筋の腐食量が所定量に達するまでの時間を予測する工程(c)と、
を具備することを特徴とする鉄筋腐食の予測方法。
【請求項2】
前記部材の周辺にダミー試験体を設置し、前記工程(c)で、前記ダミー試験体に埋設された鉄筋の腐食電流量を測定し、前記腐食電流量を用いて予測精度を高めることを特徴とする請求項1記載の鉄筋腐食の予測方法。
【請求項3】
前記部材の周辺にダミー試験体を設置し、前記工程(b)で、前記ダミー試験体の塩化物イオン含有量と中性化深さとを測定し、前記塩化物イオン含有量と中性化深さとを用いて予測精度を高めることを特徴とする請求項1記載の鉄筋腐食の予測方法。
【請求項4】
前記部材の周辺にダミー試験体を設置し、前記工程(c)で、前記ダミー試験体に埋設された鉄筋の腐食量および腐食電流量を測定し、前記腐食量および腐食電流量を用いて予測精度を高めることを特徴とする請求項1記載の鉄筋腐食の予測方法。
【請求項5】
工程(c)で、前記電気化学的性質を用いて算出された、前記鉄筋から生じる腐食電流量と、前記鉄筋近傍への酸素の供給速度によって決定される限界電流量とのうち小さい方を用いて予測を行うことを特徴とする請求項1記載の鉄筋腐食の予測方法。
【請求項6】
前記センサが、前記部材の表面または前記鉄筋の近傍に設置されることを特徴とする請求項1記載の鉄筋腐食の予測方法。
【請求項7】
鉄筋が埋設された部材に設置したセンサを用いて、所定の間隔で電気化学的性質を測定する装置と、
前記電気化学的性質および前記部材の周辺環境に関するデータを用いて、前記鉄筋の腐食の有無と、前記鉄筋位置での前記部材の塩化物イオン含有量が所定量に達するまでの時間及び前記鉄筋位置に前記部材の中性化が達するまでの時間を予測する手段と、
前記電気化学的性質を用いて、前記鉄筋の腐食量が所定量に達するまでの時間を予測する手段と、
を具備することを特徴とする鉄筋腐食のモニタリングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−240481(P2007−240481A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67081(P2006−67081)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】