説明

鉄粉混合物、鉄粉混合物の使用方法、鉄粉混合物の製造方法

【課題】水中に鉄イオンを良好に供給して、藻場の再生を促進し、水質環境を改善することができる鉄粉混合物を提供する。
【解決手段】鉄粉混合物は、鉄粉と、酸化鉄と、炭素と、2価の鉄イオンとキレートを形成する有機酸と、を含有し、水中への鉄イオン供給用途である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄粉混合物、鉄粉混合物の使用方法、鉄粉混合物の製造方法に関する。より詳細には、海、河川、干潟などの水域に鉄粉混合物を浸漬させることにより、鉄イオンを水中に供給し、藻場の再生と河口や運河の堆積物の有害物質を無害化して水質を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、藻場が大規模に消滅する「磯焼け」と呼ばれる現象が発生し問題となっている。磯焼けに関する最近の研究では、河川から流入する鉄イオンの欠乏が主要因と考えられている。鉄イオンは、藻などの植物の生育に欠かせないものであり、2価の鉄イオンとして吸収されることが有効であることが知られている。また、有害な有機ハロゲン化合物が、地下水、河川及び海洋等の水域に浸入したり、底泥中にヘドロと呼ばれる汚染された泥が堆積するといった水質汚染の問題も深刻化している。
【0003】
そこで、鉄イオンを河川や海などの水域に供給することで藻場の消滅を防ぐ技術として、例えば、特許文献1記載のものがある。特許文献1には、鉄と炭を水溶性バインダーと共に混合して固めた塊を、非水溶性バインダーで固めた鉄イオン溶出体が記載されている。鉄と炭が接触することで鉄イオンが溶出することを利用し、鉄と炭の接触状態を維持するために水溶性バインダーを用いている。
【0004】
なお、特許文献2には、FeOとアスコルビン酸を用いたアルカリ土壌用植物用鉄供給剤が記載されている。しかしながら、特許文献2記載の技術は、アルカリ土壌中に用いられるものであるため、そもそも水中に鉄イオンを供給するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−268511号公報
【特許文献2】再公表WO2007/013219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1記載の技術では、鉄イオン溶出体を置いた場所から少し離れた場所では藻場再生の十分な効果が得られず、しかも長期に渡って効果が維持されないことがあった。この理由の一つとして、溶存酸素の存在する水中では溶出した鉄イオンは酸素によって酸化され3価となり2価の状態で維持できないことが考えられる。また他の理由として、2価の鉄イオンが安定して溶出されないことが考えられる。すなわち、水中あるいは塩素イオンが存在する海中において、溶出した鉄イオンは炭素表面で酸素が還元されることによって生成するOHイオンによって水酸化鉄を形成するため、鉄が継続して鉄イオンに溶出する反応が抑制される。
【0007】
また、特許文献1には、水中生物の増殖と活性により、ヘドロを浄化する働きがあることを発見したことが記載されているが、ヘドロ中の硫化物に2価の鉄イオンを直接作用させて分解するものではないため、水域の底質汚染を十分抑制することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、鉄粉と、酸化鉄と、炭素と、2価の鉄イオンとキレートを形成する有機酸と、を含有し、水中への鉄イオン供給用途であることを特徴とする鉄粉混合物が提供される。
【0009】
本発明の鉄粉混合物は、鉄粉と炭素とが接触することにより、電子の移動が生じ、鉄粉が局部アノード、炭素が局部カソードとして作用できる。これにより鉄粉の酸化反応が進行し、局部アノード側からの鉄の溶出が促進される。また、本発明では溶出した2価の鉄は有機酸とキレート反応し、安定して2価の鉄イオンの状態で維持できる。したがって鉄の溶出を抑制する水酸化鉄を形成しにくいことにより2価の鉄イオンとして安定して供給できるため、植物の生育に有効に作用できる。
【0010】
また、本発明の鉄粉混合物は、鉄粉と酸化鉄とが接触することにより、鉄粉が局部アノード、酸化鉄が局部カソードとして作用できる。そのため、鉄イオンの溶出を促進しつつ、酸化鉄の局部カソードでは、酸化鉄近傍の汚染物等に含まれる硫化水素及び有機ハロゲン化合物などが還元反応により分解されやすくなる。
【0011】
したがって、本発明の鉄粉混合物は、鉄粉、酸化鉄、炭素及び有機酸を一体に含むことにより、2価の鉄イオンを良好に供給して、藻場の再生を促進し、硫化水素などの硫化物及び有機ハロゲン化合物などを無害化できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水中に鉄イオンを良好に供給して、藻場の再生を促進し、水質環境を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の鉄粉混合物のX線回折の結果を示す図である。
【図2】本発明の有機酸による鉄イオン供給評価の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
[鉄粉混合物]
本発明の鉄粉混合物は、鉄粉と、酸化鉄と、炭素と、2価の鉄イオンとキレートを形成する有機酸と、を含有し、水中への鉄イオン供給用途であることを特徴とする。
【0016】
本発明の鉄イオン供給用途とは、鉄粉混合物に含まれる鉄粉から鉄イオンを水中に供給するために用いられることを意味する。したがって、鉄粉混合物の成分を限定するものではない。
【0017】
本発明の鉄粉は、粉末状または粒子である。
本発明の鉄粉の含有量は、鉄粉混合物の含有量の合計を100重量%とした場合、10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、80重量%以下が好ましい。
また、鉄粉と酸化鉄の鉄含有量の合計を100重量%とした場合、25重量%以上、より好ましくは50重量%以上、95重量%以下が好ましい。下限値以上とすることにより、安定して長期に鉄イオンを供給でき、また上限値以下とすることにより、藻の再生と水質改善のバランスが良好となる。また、鉄粉と酸化鉄の鉄含有量の合計を100重量%とした場合、鉄粉と酸化鉄の平均粒径100μm以下を、50重量%以上が含有することが好ましい。
【0018】
本発明の酸化鉄は、粉末状または粒子であって、完全に酸化されたものに限られず、一部に未酸化の部分を有していてもよい。また、酸化鉄としては、鉄粉の表面が酸化されたもの、または鉄粉の表面近傍に酸化物が生成したものを用いることができる。これにより、鉄粉と酸化鉄が近接し、鉄粉側の局部アノード、酸化鉄側の局部カソードでの反応が促進される。また、鉄の粉体または粒子の表面が酸化され、酸化鉄で覆われたものであってもよい。なお、覆われるとは、連続的なものに限られず、非連続的であってもよい。
【0019】
本発明の酸化鉄としては、FeO(酸化鉄(II))、Fe(酸化鉄(II),(III))、Fe(酸化鉄(III))、またはFeOOH(オキシ水酸化鉄)のうちの1種または2種以上であることが好ましい。これにより、酸化鉄がカソードとなり鉄粉の溶出を促進できる。また、酸化鉄に接した有機酸が酸化鉄と反応又は還元し、2価の鉄イオンに還元することも可能で、これらの反応で生成された2価の鉄イオンが硫化水素を分解する。
【0020】
また、鉄粉と酸化鉄からなる混合粉末の平均粒径は、400μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。これにより比表面積が増大し、各々の反応が促進される。比表面積(S)と粒子径(d)との関係は、一般に次の式(1)で示される。
S=6/(ρ・d) 式(1)
式(1)中、ρは密度で鉄の場合は約7.8g/cmであり、粒子径dは直径を示す。
【0021】
本発明の炭素としては、実用性の観点から、グラファイト、活性炭、天然炭または天然黒鉛等が好適に用いられる。また、本発明の炭素は、鉄粉混合物中に均一に分散させるため、粉体または粒子が好ましい。粉体または粒子の平均粒径は、400μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。これにより、比表面積が増大し鉄粉および酸化鉄との接触が得られ、鉄イオンの供給が促進できる。
【0022】
本発明の炭素の含有量は、鉄粉混合物の含有量の合計を100重量%とした場合、10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、80重量%以下が好ましい。下限値以上とすることで、藻の成長を促進でき、また上限値以下とすることにより、安定して鉄イオンを供給できる。
【0023】
本発明の有機酸としては、2価の鉄イオンとキレート(錯体)を作成するものが用いられる。一般に鉄が溶出すると周辺がカソード反応によりpHが上昇し、3価の水酸化鉄となる。本発明の有機酸を用いることで、このpH上昇に伴う3価の水酸化鉄になることを2価の鉄と有機酸がキレート反応することで抑制して、安定して鉄の溶出を促進できる。例えば、フルボ酸、グルタミン酸、エチレンジアミン四酢酸などのカルボキシル基をもつ酸、またはL−アスコルビン酸、イソ−アスコルビン酸(エリソルビン酸)、没食子酸、タンニンなどのカルボニル基及びヒドロキシル基をもち還元作用を有する酸が挙げられる。またさらに、有機酸の還元作用より、鉄粉の酸化が抑制でき、長期にわたって2価の鉄イオンを水中に供給できるようになる。
【0024】
本発明の有機酸の含有量は、鉄粉と酸化鉄の鉄含有量の合計を100重量%とした場合、1重量%以上、3重量%以上がより好ましく、55重量%以下、40重量%以下がより好ましい。下限値以上とすることで、鉄粉および酸化鉄の酸化を抑制でき安定して鉄イオンの供給ができ、上限値以下とすることで、藻の成長と水質改善のバランスが良好となる。
【0025】
[鉄粉混合物の使用方法]
本発明は上述した鉄粉混合物を、水中に浸漬する鉄粉混合物の使用方法を提供する。水とは、海水であるか淡水であるかを問わないが、例えば、海、沿岸、干潟、河川、湖沼などがより好ましい。これらの水域に鉄イオンが供給されて藻場が形成されるようになることにより、水質環境の改善に繋がる。また、本発明の鉄粉混合物は海流、潮流、河川の流れ等によって移動しないよう水底に固定してもよい。
【0026】
[鉄粉混合物の製造方法]
本発明の鉄粉混合物は、例えば、上述した鉄粉と、酸化鉄と、炭素と、2価の鉄イオンとキレートを形成する有機酸と、水を混合して、加圧成型し、その後乾燥して余分な水分を除去することにより製造される。混合方法は、特に限定されず、水の代わりに食塩水又は海水を使用してもよく、操作性、安全性、便宜性等を踏まえ、適宜調整できる。また、加圧圧力は、特に限定されず、鉄粉混合物が所望の形状に定形できればよい。
【0027】
本発明の効果について説明する。本発明の鉄粉混合物は、鉄粉と炭素とが接触することにより、電子の移動が生じ、鉄粉が局部アノード、炭素が局部カソードとして作用できる。これにより鉄粉の酸化反応が進行し、局部アノード側からの鉄の溶出が促進される。また、本発明では溶出した2価の鉄は有機酸とキレート反応し、酸化が抑制されて安定して2価の鉄イオンの状態で維持できる。このような2価の鉄イオンは、植物の生育に有効に作用できる。
【0028】
また、本発明の鉄粉混合物は、鉄粉と酸化鉄とが接触することにより、鉄粉が局部アノード、酸化鉄が局部カソードとして作用できる。かかるメカニズムの詳細は不明だが、酸化鉄の局部カソードでは、酸化鉄近傍の硫化水素及び有機ハロゲン化合物などが還元反応により分解されやすくなる。
【0029】
ここで、本発明の鉄粉混合物を水中に浸漬した場合、鉄側の局部アノード、炭素側の局部カソードでは、それぞれ下記式(2)、(3)に示すような反応が起きていると考えられている。
【0030】
Fe → Fe2++2e 式(2)
+ 2HO+4e → 4OH 式(3)
【0031】
また、本発明の鉄粉混合物によれば、安定して2価の鉄イオンが供給されるため、2価の鉄イオンがヘドロに含まれる硫化物と反応して固定化でき、硫化物による悪臭の発生を抑制できる。本発明によるこのような反応は、以下の式(4)、(5)に示される。
【0032】
S+Fe2+ → FeS(固体)+2H 式(4)
2H+2e → H 式(5)
【0033】
したがって、本発明の鉄粉混合物は、鉄粉、酸化鉄、炭素及び有機酸を一体に含むことにより、2価の鉄イオンを良好に供給して、藻場の再生を促進し、硫化水素などの硫化物及び有機ハロゲン化合物などを無害化できる。
【0034】
なお、本発明の鉄粉混合物の鉄粉混合物には本発明の効果を逸脱しない範囲において、バインダー材料やその他の物質を添加してもよい。
【0035】
本発明による鉄粉混合物、鉄粉混合物の使用方法、鉄粉混合物の製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、電解鉄を粉砕したものあるいは電解鉄を溶出後、水アトマイズ法で生成した鉄粉、またはミルスケールを鉄源としコークスを還元剤として用いた還元鉄等、鉄粉メーカーで製造したあらゆる鉄粉が使用できる。また、使い捨てカイロの未使用のもの、又は有効期限が切れて販売不可能なカイロを磁選して使用することも可能である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
市販の金属鉄92重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)40g、活性炭30gを混合し、その中に水25gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸5gを添加し混ぜ合わせたのち加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶出後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
また、得られた鉄粉混合物について、以下の「鉄イオン溶出量試験」、「藻の成長試験」、「硫化水素の分解試験」を行った。
【0038】
[鉄イオン溶出量試験]
鉄イオンの溶出量は次の方法で測定した。トリムイオン製の浄水器で製造した浄水に市販の人工海水の素で製造した人工海水をビーカーに250ミリリットルはり、実施例1で製造した鉄粉混合物を25g入れ、4日間放置後、鉄粉混合物を取り出し、溶出した鉄イオンの量をフレーム原子吸光法で分析した。その結果を表2に示す。
【0039】
[藻の成長試験]
トリムイオン製の浄水器で製造した浄水に市販の人工海水の素で製造した人工海水をビーカーに3リットルはり、実施例1で製造した鉄粉混合物を30g入れ、一日放置後、鉄粉混合物を取り出し、アオサを5mm角の正方形に切って、ビーカーに入れ2週間後に成長測定を行った。その結果を表2に示す。
アオサの成長がほとんど認められない : ×
アオサの各辺の成長が2倍以下の場合 : △
アオサの各片の成長が2倍から10倍未満: ○
アオサの各片の成長が10倍以上 : ◎
【0040】
[硫化水素の分解試験]
硫化水素の分解性能は次の方法で評価した。河口の含水軟弱土の脱臭強度によって評価した。具体的には河口から採取した軟弱土を採取し、その中に含まれる硫化水素量を市販の酸素硫化水素濃度計(新コスモ電機製XOS326)を用いて測定し、同じ軟弱土をコニカルビーカーに200g採取し、その中に実施例1の鉄粉混合物を100g入れ密封1週間後に、臭いをかぐと同時に一部のサンプルは同一機器で硫化水素濃度を測定した。その結果を表2に示す。
不快な臭いが感知された : △
不快な臭いがほとんど感知されない: ○
【0041】
(実施例2)
市販の金属鉄92重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)50g、活性炭25gを混合し、その中に水20gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでイソ−アスコルビン酸5gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表1に示す。
【0042】
(実施例3)
市販の金属鉄92重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)60g、活性炭25gを混合し、その中に水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところで没食子酸5gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0043】
(実施例4)
市販の金属鉄92重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)70g、活性炭15gを混合し、その中に水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでグルタミン酸5gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0044】
(実施例5)
市販の金属鉄92重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)65g、活性炭15gを混合し、その中にフルボ酸10%水溶液20gを添加し、10分間混ぜ合わせた。その後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0045】
(実施例6)
市販の金属鉄99重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)65g、活性炭15gを混合し、その中に3.5%食塩水18gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸2gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0046】
(実施例7)
市販の金属鉄99重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)65g、活性炭20gを混合し、その中に3.5%食塩水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸5gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0047】
(実施例8)
市販の金属鉄99重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)60g、活性炭23gを混合し、その中に3.5%食塩水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸7gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0048】
(実施例9)
市販の金属鉄99重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)60g、活性炭22gを混合し、その中に3.5%食塩水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸8gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0049】
(実施例10)
市販の金属鉄99重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)60g、活性炭15gを混合し、その中に3.5%食塩水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸15gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0050】
(実施例11)
市販の金属鉄99重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)55g、活性炭15gを混合し、その中に3.5%食塩水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸20gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0051】
(実施例12)
市販の金属鉄99重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)50g、活性炭15gを混合し、その中に3.5%食塩水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸25gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0052】
(実施例13)
市販の貼る用ホッカイロ80g(炭素成分約11%、添加材料を含む)に水5gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸15gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0053】
(実施例14)
市販のホッカイロで有効期限の切れたもの80g(炭素成分約11%、添加材料を含む)に水5gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところでL−アスコルビン酸15gを添加し混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、鉄粉混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0054】
(比較例1)
市販の金属鉄92重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)50g、活性炭15gを混合し、その中に水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところで加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0055】
(比較例2)
市販の金属鉄92重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)90gに水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところで加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0056】
(比較例3)
市販の金属鉄92重量%以上の還元鉄粉(平均粒径70〜80μm)60g、活性炭25gを混合し、その中に水10gを添加し、10分間混ぜ合わせた。発熱したところで加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0057】
(比較例4)
市販の特級試薬のヘマタイト75g、活性炭15gを混合し、その中に糊(バインダー)10gを混ぜ合わせた。その後、加圧容器に移し、加圧し、10分後器から取り出し3日間乾燥して、混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0058】
(比較例5)
アルコールで洗浄乾燥した切削鉄粉80g、活性炭10gを混合し、その中に糊(バインダー)10gを添加し、混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、120℃で乾燥して、混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0059】
(比較例6)
市販のホッカイロで使用済のもの80g(炭素成分約11%、添加材料を含む)にその中に糊(バインダー)10gを添加し、混ぜ合わせた後、加圧容器に移し、加圧し、120℃で乾燥して、混合物をえた。乾燥後、ガラスビード法により蛍光X線で全鉄分を分析した。また、金属鉄は臭化メタノールで溶解後、フレーム原子吸光法で分析した。これらの結果を表1に示す。
鉄イオン溶出量試験、藻の成長試験、硫化水素の分解試験は実施例1と同じ実験を行い、その結果を表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
なお、硫化水素の分解試験では、採取直後は8〜10ppmの硫化水素濃度でやや強い臭いがした。測定した実施例はいずれも分解能以下であり、臭度は実施例のいずれもやっと感知できる程度であった。しかし、比較例は数値の違いこそあれ0.5〜1.0ppmの硫化水素が検出され、不快な臭いがした。
【0063】
[X線回折]
図1は、上記実施例9で得られた鉄粉混合物のX線回折の結果を示す図である。図1より、金属鉄と、酸化鉄としてFeと、有機酸としてアスコルビン酸のピークがあることが分かった。なお、炭素と非晶質の酸化鉄は非晶質であるため明確な回折ピークは認められなかった。しかし、炭素については2θで20度〜40度に非晶質に特有なブロードなピークと帰属は不確実であるが25度に低結晶のピークが認められた。
【0064】
[有機酸による鉄イオン供給評価]
上記実施例1で得られた鉄粉混合物(i)と、上記実施例6で得られた鉄粉混合物(ii)と、比較例6で得られた鉄粉混合物(iii)と、を用い、それぞれについて鉄イオン濃度を時間毎で測定した。その結果を、図2に示す。
【0065】
図2より、有機酸を含有した鉄粉混合物(i)(ii)では、有機酸を用いていない鉄粉混合物(iii)にくらべ、鉄イオンの供給量が多いことが分かった。
なお、有機酸を入れた鉄粉混合物(i)(ii)は、溶出した鉄イオンが有機酸と錯イオンを形成するためか色のついた透明の水溶液であった。一方、有機酸を用いていない鉄粉混合物(iii)は、溶出した鉄イオンが少量であり、溶出した鉄が水酸化鉄として沈殿していることが確認された。このため、人工海水が不透明になった。
なお、比較例1で得られた鉄粉混合物を用いて同様の測定を行った場合も、上記(iii)と同様にして、鉄イオンがほとんど溶出せず、沈殿物が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉と、酸化鉄と、炭素と、2価の鉄イオンとキレートを形成する有機酸と、を含有し、水中への鉄イオン供給用途であることを特徴とする鉄粉混合物。
【請求項2】
請求項1記載の鉄粉混合物において、
前記鉄粉と前記酸化鉄の含有量の合計を100重量%とした場合、前記鉄粉の含有量が25重量%以上95重量%以下であることを特徴とする鉄粉混合物。
【請求項3】
請求項1記載の鉄粉混合物において、
前記鉄粉と前記酸化鉄の含有量の合計を100重量%とした場合、前記炭素の含有量が10重量%以上80重量%以下であることを特徴とする鉄粉混合物。
【請求項4】
請求項1記載の鉄粉混合物において、
前記鉄粉と前記酸化鉄の含有量の合計を100重量%とした場合、前記有機酸の含有量が1重量%以上55重量%以下であることを特徴とする鉄粉混合物。
【請求項5】
請求項1または2記載の鉄粉混合物において、
前記酸化鉄が、FeO、Fe、Fe、またはFeOOHのうちの1種または2種以上であることを特徴とする鉄粉混合物。
【請求項6】
請求項1または2記載の鉄粉混合物において、
前記鉄粉と前記酸化鉄からなる混合粉末の平均粒径が400μm以下であることを特徴とする鉄粉混合物。
【請求項7】
請求項1乃至6いずれかに記載された鉄粉混合物の製造方法であって、前記鉄粉と、前記酸化鉄と、前記炭素と、前記有機酸と、を混合して加圧成型することを特徴とする鉄粉混合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至6いずれかに記載された鉄粉混合物を水中に浸漬する鉄粉混合物の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−153353(P2011−153353A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15828(P2010−15828)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(391029392)中川特殊鋼株式会社 (9)
【出願人】(510025452)
【Fターム(参考)】