説明

鉄道車両のドア開閉装置

【課題】鉄道車両の乗務員が誤ってプラットホームの無い側のドアを開放する事故を確実に防止する。
【解決手段】室内左(右)スイッチ10を開操作したのち、室外左(右)スイッチ20を開操作しなくては、左側(右側)ドアDが開かないように構成する。左右の室外スイッチ20はそれぞれ、車両Tの外側面における乗務員の乗降口1から一定距離だけ離れた位置に設置する。乗務員はプラットホームへ一旦降りなくては、室外スイッチ20を操作できないことになるから、プラットホームの無い側の室外スイッチ20が操作されることがない。よってプラットホームの無い側のドアDが開かれる事故を確実に防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の乗客用ドアを開閉操作するための装置に関し、詳しくは、車両が駅に停車したときに、乗務員が誤ってプラットホームの無い側のドアを開放するという事故(ドア誤扱い事故)を確実に防止できる技術の提供を目的とする。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が駅プラットホームに停車したならば、乗務員がドア開閉装置を操作して乗客用ドアを開放する。車掌が乗務している場合は、車掌が車掌スイッチを操作してドアの開閉を行なう。しかし運転士のみが乗務するワンマン列車では、駅到着時に、運転士がドアの開閉操作を行なう。
【0003】
従来のワンマン列車は、運転台にドア開閉スイッチが設置され、運転士が運転席に着座したままでドアの開閉操作が可能となっている。このドア開閉スイッチの操作部は、レバー式スイッチ(トグル式スイッチ)、押しボタン式スイッチ等で構成され、列車進行方向に向かって左側のドア用スイッチと右側のドア用スイッチとが、それぞれ独立して操作できるよう左右に分離して配置される。ワンマン列車が駅に停車した際、運転士は、プラットホームが車両の左右どちら側に在るかを確認して、プラットホームが在る方のドア用スイッチを操作してドアを開く。
【0004】
前記従来のワンマン列車におけるドア開閉スイッチでは、運転士の不注意により、プラットホームの無い側のドアを開放する可能性がある。つまり、運転士が間違った側のドアスイッチを操作したならば、プラットホームの有無にかかわらず、スイッチ操作された側のドアは開放されてしまう。ワンマン列車の運転士は、列車の運転と共に、駅停車時には運賃の収受や乗客との対応などの業務をこなす必要があるため、車掌がドア扱いを行なう場合に比べると、注意力低下や意識迂回に基づくヒューマンエラーを生じやすいと推測される。しかも従来は、このような誤操作を防止する手段は特に備えられていない。
【0005】
そこで、上述したようなドア誤扱い事故を防止するための手段がいくつか提案されている。特許文献1には、駅側に設けた無線機から成る地上手段と、車両側に設けた無線機から成る車上手段との間でデータ通信を行ない、到着駅のプラットホームが列車の左右どちら側となるのかの情報をあらかじめ取得することにより、運転士が間違った側のドア開閉スイッチを操作したとしても、ドアが開放されないようにインターロックする技術が記載されている。あるいは、運転室に、運転台のドア開閉スイッチとは別に、左右のドアに対応する第2のドアスイッチを、運転士が立ち上がって操作する位置に設置し、運転台の第1のドアスイッチを操作したのち、第2のドアスイッチを操作しなくてはドアが開放されないようにする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−205640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前者の特許文献1に記載される技術は、地上手段を各駅に設置すると共に車上手段を各列車に配備する必要があり、実施には多大な費用が発生するという問題がある。また、当該技術におけるドア誤扱い事故の防止に対する信頼性は、使用する機器の信頼性に依存する。従って、地上手段及び車上手段を例えば無線機で構成した場合、機器の故障や電波障害などが発生したときには、安全に対する信頼性が著しく低下する。また、地上手段及び車上手段の正常動作を保証するため定期的な点検が必要となり、保守作業員の負担が増大するという問題もある。
【0008】
特許文献1の技術に比べると、後者の技術は、車両に第2のドアスイッチを増設するだけであり、駅側の改造が不要であるから、実施コストが少なくて済む。また原理的に、万一、機器に不具合(例えば第1ドアスイッチ又は第2ドアスイッチの不具合など)が生じたとしても、その場合はドアが開放されないだけであり、予定していない方のドアが誤って開くということは有り得ない。しかしながら運転士の注意力低下や意識迂回のため、運転台においてプラットホームの無い側の第1ドアスイッチを誤操作してから、続いて同じ側(プラットホームの無い側)の第2ドアスイッチを誤操作したときには、プラットホームの無い側のドアが誤って開放される事故を招くこととなる。かかるドア誤扱い事故は、発生頻度がきわめて低いものの、ヒューマンエラーを起因とするものであるため、発生の可能性を完全に排除するのは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記従来の問題点を解消するために創案したものであって、その特徴とするところは、鉄道車両の左右側面に設けられている乗客用ドアを開閉操作するための装置であって、車両室内に左側ドア用の室内左スイッチ及び右側ドア用の室内右スイッチが設けられ、車両の左外側面に左側ドア用の室外左スイッチが設けられると共に車両の右外側面に右側ドア用の室外右スイッチが設けられ、室内左スイッチを開操作したのち室外左スイッチを開操作するとドア駆動手段が動作して左側ドアが開き、室内右スイッチを開操作したのち室外右スイッチを開操作するとドア駆動手段が動作して右側ドアが開くように設定され、前記室外左スイッチ及び室外右スイッチは、乗務員が車両室内から操作するよりも、車外に出て操作する方が容易となるように構成されていることである。
【0010】
前記において「左」「右」とは、車両進行方向に対する左・右を指すものとする。従って、車両の進行方向によって左右は入れ替わるが、本発明における左スイッチ・右スイッチは、操作対象とするドアが異なる以外、実質的に同一の機能を有するものであるので、進行方向によりスイッチ名称が左右入れ替わっても何ら支障はない。なお以下の説明において、室内左スイッチ及び室内右スイッチを合わせて「室内スイッチ」、室外左スイッチ及び室外右スイッチを合わせて「室外スイッチ」と称する場合がある。
【0011】
室外左スイッチ及び室外右スイッチを、乗務員が車両室内から操作するよりも、車外に出て操作する方が容易となるようにするための具体的な手段としては、前記室外左スイッチ及び室外右スイッチを、車両外側面における乗務員の乗降口から一定距離だけ離れた位置に設置することが考えられる。この場合、乗務員乗降口から室外スイッチまでの具体的な距離は、車両の種類や使用するスイッチの構造等に応じ適宜設定され、通常は600〜1000mm(好ましくは650〜750mm)の範囲とする。また室外スイッチは、乗務員乗降口に対し、車両進行方向の前後(上り側・下り側)のいずれに配置してもよい。
【0012】
室外スイッチの操作が、車両室内からよりも、車外に出た方が容易となるようにするための他の手段としては、室外左スイッチ及び室外右スイッチそれぞれの操作面を、室内に居る乗務員が乗降口からは直視することができないように傾斜させることが考えられる。この場合、操作面の傾斜角度は、室外スイッチの乗降口からの距離に基づいて適宜設定される。すなわち、車両室内から室外スイッチの操作面を直視できないようにするには、室外スイッチの位置が乗降口から近いときは操作面の傾斜角度を大きく設定すればよく、乗降口からの距離が大きいときは傾斜角度は小さくてもよい。
【0013】
さらに、室外スイッチの操作が車外からの方が容易となるようにする手段として、室外左スイッチ及び室外右スイッチの操作面上に、開閉可能な蓋を設けるという手法も考えられる。
【0014】
本発明に係るドア開閉装置は、ワンマン列車に適用することが考えられ、この場合、車両の運転室内に室内左スイッチ及び室内右スイッチを設け、車両外側面における運転士乗降口から一定距離離れた位置に室外左スイッチ及び室外右スイッチを設置し、さらに、室外左スイッチ及び室外右スイッチは、運転室に最も近い位置の乗客用ドアを開放するための前ドア操作部と、その他の乗客用ドアの少なくとも1つを開放するための後ドア操作部とを有するものとすることが望ましい。ここで、後ドア操作部の操作で開く少なくとも1つのドアとは、通常は、室外スイッチを設置した車両の最後部のドア1つだけであるが、車両運用等の状況に応じて、他のドアも開くように設定することも妨げない。
【0015】
なお本発明に係るドア開閉装置は、前述の構成に加えて、車両外側面に設けられる室外左スイッチ及び室外右スイッチに、ドアを閉止するための閉操作部を設けることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果を、駅プラットホームが左側に位置するように車両が停止する場合を例にして説明する。車両が駅に停車した後、乗務員が車両左側のドアを開放するには、室内左スイッチを開操作したのち、室外左スイッチを開操作しなくてはならない。室外左スイッチは、乗務員が車両室内から操作するよりも、車外に出て操作する方が容易となるように構成されているから、乗務員は室内左スイッチを開操作したのち、乗降口からプラットホームへ一旦降りて、室外左スイッチを操作することになる。つまり、乗務員がスイッチ操作して開放するドアは、必ずプラットホームの在る左側となる。室内スイッチの操作後、誤って乗務員がプラットホームの無い右側の乗降口から降りようとしても、プラットホームが存在しないために降りられず、それ故、室外右スイッチを操作することはできない。従って乗務員が、注意力低下や意識迂回のため誤って室内右スイッチの開操作を行なったとしても、引き続き室外右スイッチが操作される可能性を無くせるから、プラットホームの無い右側のドアが開かれる事故を確実に防止できる。このように本発明は、乗務員の注意力に頼ることなく、人間工学的な手法により、ドア誤扱いを防止するものであるから、たとえ乗務員に注意力低下や意識迂回等に基づくヒューマンエラーが生じたとしても、それを起因とするドア誤扱い事故の発生を確実に排除できる。また本発明を採用する結果、乗務員のドア扱い時における心理的負担を軽減できるという利点も得られる。
【0017】
なお、最初に誤って室内右スイッチを開操作したときは、乗務員がプラットホームに降りて室外左スイッチを操作してもドアが開かない。この場合、乗客に対し不便をかけることになるとしても、反対側のプラットホームの無い側のドアが誤って開かれることは決してないから、乗客に対する身体的な安全は保証される。
【0018】
また本発明に係るドア開閉装置は、室内スイッチを開操作したのちでなければ、室外スイッチを操作してもドアが開くことがないように構成されているので、駅に停車する直前の低速走行時に、予期しない障害物が室外スイッチに接触したり、外部から室外スイッチを不正に操作されたりしたとしても、ドアが開放されることは決してない。
【0019】
室外スイッチを操作するのに、乗務員が乗降口から必ずプラットホームへ降りるようにするための方策として、室外スイッチを乗務員乗降口から一定距離だけ離れた位置に設置するという手段を採用することにより、乗務員が車両室内から室外スイッチを操作するのが困難になるので、室外スイッチを操作する際には必ずプラットホームへ降りることになる。その結果、プラットホームの無い側のドアが開かれる事故を確実に防止できる。また当該手段は構成が簡単であるから、実施に要するコストを小さくできるという効果が得られる。
【0020】
室外スイッチの操作面を、室内に居る乗務員が乗降口からは直視することができないように傾斜させる構成を採用した場合、乗務員は車両室内に止まっている限り、室外スイッチの操作面を確認することができない。それ故、室外スイッチを操作する際には、操作面を確認するため、乗務員は必ずプラットホームへ降りることになるから、プラットホームの無い側のドアが開かれる事故を確実に防止できる。
【0021】
また当該手段を採用した場合は、スイッチ操作面を車両側面と同一又は平行に配置する場合と比べて、乗降口から近い位置に室外スイッチを配置することが可能となる。スイッチ操作面を車両側面と同一又は平行に配置する場合は、乗降口から600mm以上離すことが望ましいと考えられるのに対し、操作面を傾斜させた場合は、室外スイッチを乗降口から例えば300mm程度の近い位置に配置することが可能となる。それ故、プラットホームに降りた後、乗務員は迅速にスイッチ操作をすることが可能である。
【0022】
なお、室外スイッチの操作面を室内からは直視することができないという条件を満たすには、室外スイッチの乗降口からの距離に応じて、スイッチ操作面の傾斜角度を決定する必要がある。すなわち、傾斜角度を大きく設定すれば室外スイッチを乗降口の近くに設置することができ、傾斜角度を小さく設定したときは室外スイッチの乗降口からの距離を大きくすることが必要となる。
【0023】
室外スイッチの操作面上に開閉可能な蓋を設ける構成を採用した場合は、室外スイッチを乗降口から適当な距離に配置することにより、乗務員が車両室内から蓋を開いて室外スイッチを操作するのを困難にできる。依って乗務員は、室外スイッチを操作する際、必ずプラットホームへ降りることになるから、非プラットホーム側のドアを開く事故を確実に防止できる。なお当該構成を採用することによっても、室外スイッチを乗降口から比較的近い位置に配置することが可能となる。また、通常は操作面上が蓋で覆われるから、室外スイッチへの不正アクセスを防止できる効果が発揮される。
【0024】
本発明に係るドア開閉装置は、ワンマン列車へ適用することにより、運転士のドア誤扱い事故を確実に防止することができる。この場合、運転士は、運転台の室内スイッチを開操作したのち、乗降口からプラットホームへ降りて室外スイッチを開操作するので、必ずプラットホームの在る側の乗客用ドアを開き、反対側のドアを誤って開くことは決してない。さらに室外左スイッチ及び室外右スイッチに、運転室に最も近い位置の乗客用ドアを開放するための前ドア開操作部と、その他の乗客用ドアを開放するための後ドア操作部とを設けることにより、運転士がプラットホームに降りた状態で、ワンマン列車で採用されている前降り・後乗りのドア扱いを実施することが可能となる。
【0025】
さらに本発明に係るドア開閉装置において、室外左スイッチ及び室外右スイッチそれぞれに、ドアを閉止するための閉操作部を設けた場合は、乗務員がプラットホームに降りた状態で、車外からドアの閉止を実行することができる。従って、ドア閉止時に乗客の乗降の有無を確認できるから、乗客に対する安全性をより高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るドア開閉装置を適用したワンマン列車の運転室を概略的に示す平面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るドア開閉装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るドア開閉装置を適用したワンマン列車の運転室周辺を概略的に示す側面図であって、図(A)は室外スイッチを乗降口より前方に配置した例、図(B)は室外スイッチを乗降口より後方に配置した例を示すものである。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るドア開閉装置における室外スイッチの設置領域を説明する車両の要部側面図である。
【図5】本発明に係るドア開閉装置における室外スイッチの各種態様を例示する図面である。
【図6】本発明に係るドア開閉装置における室内スイッチの異なるスイッチ構成を例示する図面である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るドア開閉装置に関するものであって、図(A)は室外スイッチの設置要領を説明するための車両の乗降口付近を概略的に示す平面図、図(B)は室外スイッチを乗降口から見た側面図、図(C)は室外スイッチの操作面の正面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るドア開閉装置に関するものであって、図(A)は室外スイッチの設置要領を説明するための車両の乗降口付近を概略的に示す平面図、図(B)は室外スイッチの蓋を閉じた状態の正面図、図(C)は室外スイッチの蓋を開いた状態の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1の実施形態]
本発明を、ワンマン列車のドア開閉装置に適用した場合の実施形態について説明する。図1に示す如く、車両Tの運転室R内に備えられる運転台Uに、ドア開閉装置の室内スイッチ10の操作盤10aが設けられ、車両Tの左右外側面それぞれにおける乗降口1L,1Rから一定距離だけ離れた位置に、室外左スイッチ20L及び室外右スイッチ20Rが設置されている。上述の室内スイッチ10及び室外左右スイッチ20L,20Rと、ドアを開閉駆動する手段(戸閉め装置)とで、乗客用ドアDを開閉操作するドア開閉装置が構成される。なお図1には、室外スイッチ20を、車両Tの表面から若干突出するように示したが、車両Tの表面と面一に設置するのが望ましく、または車両T表面から若干引っ込むように構成することも妨げない。
【0028】
運転台Uに配設される室内スイッチ10の操作盤10aは、例えば図2に示す如く構成される。なお本例では、各スイッチを押しボタン式スイッチで構成してある。図示する操作盤10aにおいて、左側へ一列に配置されたスイッチ群は、車両左側の乗客用ドアDに対応する室内左スイッチ10Lであり、右側へ一列に配置されたスイッチ群は、車両右側の乗客用ドアDに対応する室内右スイッチ10Rである。室内左スイッチ10L及び室内右スイッチ10Rはそれぞれ、全部のドア又は前側ドアを開く前・全ドア開スイッチ11L,11R、後側のドアを開く後ドア開スイッチ12L,12R、開いたドアを閉止するためのドア閉スイッチ13L,13Rから成る。
【0029】
操作盤10aの中央には、ドアの開放モードを選択する全車・自車切替スイッチ14が設けられている。切替スイッチ14を全車モードに設定したときは、前・全ドア開スイッチ11L(11R)を押し込み操作することにより、操作した側の全部のドアDが開放可能な状態となる。切替スイッチ14を自車モードに設定すると、通常は、前・全ドア開スイッチ11L(11R)を押し込み操作することにより、運転室に最も近い最前位置のドアDだけが開放可能な状態となり、後ドア開スイッチ12L(12R)の押し込み操作により、運転室が設けられた車両の最後部のドアDが開放可能な状態になる。また、ドア閉スイッチ13L(13R)を押し込み操作することで、開放されたドアを閉止することができる。
【0030】
前記室内スイッチ10だけの操作ではドアの開放が実行されないようにするため、室外スイッチ20が組み合わされる。室外スイッチ20は、左側のドアに対応する室外左スイッチ20Lと右側のドアに対応する室外右スイッチ20Rとから成る。室外スイッチ20の取り付け位置は、図3(A)(B)に示すように、車両Tの側面における乗務員乗降口1から一定距離だけ離れた位置とする。一定距離を確保できるのであれば、室外スイッチ20の取付位置は、車両進行方向の前側領域Xでも後側領域Yでもよい。(本例では運転士Mがドア開閉装置を操作するワンマン列車を想定しているので、図3における左側が、車両Tの進行方向前側となっている。)また室外スイッチ20の取付高さも、特に限定されるものではない。実際的には、室外スイッチ20の具体的な配置は、車両の構造や電気配線の状態に応じ適宜決定すればよい。
【0031】
室外スイッチ20の望ましい取付位置は、図4に示す如く、乗務員乗降口1からの距離W1=600mm以上(より好ましくは700mm以上)離れた領域X.Yとする。その理由は、運転士Mが運転室内に止まったままの状態ではスイッチ操作をするのが困難であり、図3に示すように、運転士Mが乗降口1からプラットホームPへ降り立てば、スイッチ操作が容易となるようにするためである。このように、室内に止まるよりもプラットホームPへ降りた方がスイッチ操作が容易になるような離隔位置に室外スイッチ20を配置すれば、運転士Mは、室外スイッチ20を操作する際には必ずプラットホームPへ降り立つことになるから、乗客用ドアDを開放する前に、プラットホームPの有無を確認することができる。
【0032】
なお、室外スイッチ20を乗降口1からあまり遠くに設置すると、運転士Mがスイッチ操作するための移動距離が長くなり、操作性が悪くなる。また、乗客用ドアDに近い位置であると、乗客が、半自動設定時に使用する乗客用のドア開閉スイッチと誤解するおそれが生じる。従って、室外スイッチ20の乗降口1からの最大距離W2は1000mm以内とするのが望ましい。
【0033】
室外スイッチ20は、室内スイッチ10(図2参照)と連動して、操作した側の乗客用ドアDを開放するためのものであるが、操作態様に応じ、室内スイッチ10及び室外スイッチ20の具体的なスイッチ構成は、適宜変更することが可能である。ワンマン列車にあっては、停車駅が有人駅であるか無人駅であるかに応じドア開閉の扱いを全車モード・自車モードに切り替えるのが普通であるから、これに合わせて、室外スイッチ20も、乗客用ドアDを前後個別に開放操作できるよう構成することが望ましい。そのため図5(A)に示す如く、室外スイッチ20に、前ドア操作部となる前スイッチ21及び後ドア操作部となる後スイッチ22を設ける。この場合、室内スイッチ10の全車・自車切替スイッチ14を全車モードに設定したときは、運転士が室内の前・全ドア開スイッチ11L(11R)を開操作したのち、プラットホームに降りて室外の前スイッチ21を操作することにより、操作した側の乗客用ドアDが全て開く。切替スイッチ14を自車モードに設定したときは、室内の前・全ドア開スイッチ11L(11R)を開操作したのち、室外の前スイッチ21を操作することにより、操作した側の乗客用ドアDのうち運転室に最も近いドアDだけが開く。引き続き室外の後スイッチ22を操作すれば、運転室の有る車両Tにおける最後部のドアDを開くことができる。なお通常は、後スイッチ22で開放されるのは、運転室の有る車両Tの最後部ドアDだけとされるが、状況に応じ、操作した側の残りの全ドアDが開くように設定することも妨げない。
【0034】
図5(B)に例示する如く、室外スイッチ20に、ドアDを閉止するための閉スイッチ23(閉操作部)を併設してもよい。これにより、ドアDの閉操作を車両Tの室外で実行することが可能となる。かかる構成によれば、ドアDの閉止操作をする際に、乗客がドアDと干渉していないかどうか、また駆け込み乗車をしようとする者がいないかどうか等を確認できるから、ドア閉止時の安全性を確保するのが容易となる。なお、この場合において、運転室の室内スイッチ10に設けたドア閉スイッチ13L,13Rを操作することによっても、全部のドアDを閉止できるように構成される。
【0035】
図5(A)(B)に例示したように、室外スイッチ20に前スイッチ21及び後スイッチ22を設けた場合、図6に示す如く、室内スイッチ10には単一のドア開スイッチ15L,15Rのみ設けることも考えられる。この場合、切替スイッチ14を全車モードに設定したときは、室内のドア開スイッチ15L(15R)を操作した後、室外で前スイッチ21を操作することにより、操作側の全ドアを開放することが可能である。切替スイッチ14を自車モードに設定したときは、室内のドア開スイッチ15L(15R)を操作した後、室外で前スイッチ21を操作することにより、操作側ドアDのうち運転室に最も近い最前のドアが開放され、引き続き後スイッチ22を操作することにより、後方のドアを開放することができる。最後に、室外の閉スイッチ23(図5(B)の場合)を操作することにより、または室内のドア閉スイッチ13L(13R)を操作することにより、ドアDを全て閉止することができる。
【0036】
ところで、列車の駅停車時に開放するドアを、原則として全てのドアまたは特定のドアだけに固定する場合は、図5(C)又は(D)に示すように、室外スイッチ20に設けるのを前後の区別のない開スイッチ24とすることが可能である。この場合、室内スイッチ10の全車・自車切替スイッチ14を全車モードに設定したときは、運転士が室内の前・全ドア開スイッチ11L(11R)を開操作したのち、プラットホームに降りて室外の開スイッチ24を操作することにより、車両Tにおける操作した側の乗客用ドアDが全て開く。切替スイッチ14を自車モードに設定したときは、室内の前・全ドア開スイッチ11L(11R)を開操作したのち、室外の開スイッチ24を操作することにより、通常は、操作した側のドアDのうち運転室に最も近いドアDだけを開く。この場合、後方のドアDを開放することは行なわない。しかるのち、室外の閉スイッチ23または室内のドア閉スイッチ13L(13R)を操作すれば、開放したドアDを全て閉じることができる。
【0037】
前述の如く構成されたドア開閉装置の機能を以下に説明する。なお、室内スイッチ10については図2のスイッチ構成とし、室外スイッチ20は図5の(A)又は(B)に示すスイッチ構成とした場合を想定する。
【0038】
車両Tが所定速度(例えば時速5km)以上で走行中は、走行検知装置が保安装置として動作し、乗客用ドアDが決して開くことがないように規制する。例えば、ドア開閉装置と電源との間の回路を電気的に切断することにより、室内スイッチ10及び室外スイッチ20の何れか一方又は両方が万一操作されたとしても、ドア駆動手段(戸閉め装置)へ通電されないように構成することが考えられる。
【0039】
車両Tが駅に到着して停車したならば、ワンマン列車の運転士は、切替スイッチ14で全車モードか自車モードかを選択する。停車駅に駅員が居るときは、通常、駅員が乗降客と対応できるので、全車モードを選択する。停車駅に駅員が不在のときは、運転士が乗客との間で運賃収受や質疑応答などの接客業務を行なう必要があるため、自車モードを選択する。
【0040】
全車モード又は自車モードを設定した後、運転士は、室内スイッチ10のうち、プラットホームの有る側の前・全ドア開スイッチ11L(又は11R)を操作する。これにより操作した側の乗客用ドアDが開放可能となる。次いで、運転士が乗降口1からプラットホームに降りて、車両側面に設けた室外スイッチ20の前スイッチ21を操作する。全車モードのときは操作した側の全ドアDが開き、自車モードのときは最前のドアDのみが開放される。自車モードのときにおいて、さらに必要であれば、室外の後スイッチ22を操作して、後方のドアDを開放する。しかるのち、運転士は、室外の閉スイッチ23、または室内のドア閉スイッチ13L(13R)を操作することにより、全部のドアを閉止する。
【0041】
上に述べたように、本発明に係るドア開閉装置にあっては、同じ側の室内スイッチ10及び室外スイッチ20を続けて操作しなくてはならず、且つ、室外スイッチ20は運転士が必ずプラットホームに降りて操作しなくては、ドアが絶対に開放されないよう構成されている。従って、仮に運転士が注意力の低下や意識迂回を起こしたとしても、プラットホームの無い側の乗客用ドアDが開放されることは原理的に有り得ない。例えば、室内スイッチ10におけるプラットホームの無い側の前・全ドア開スイッチ11L(11R)を誤って操作した場合は、運転士が操作する室外スイッチ20は必ずプラットホームの有る側となるため、室内スイッチ10と室外スイッチ20とが整合しない。それ故プラットホームの無い側のドアが開かれることは決してない。
【0042】
ところで、車両Tが駅に停車する直前の低速走行状態となった時には、駅の乗客が車両T側面の室外スイッチ20に接触可能となる場合が考えられる。走行速度が所定値未満になると、走行検知装置による規制が解除される。しかし本発明では、室内スイッチ10及び室外スイッチ20の両方が操作されない限り、ドアDが開放されることはないので、低速走行中に室外スイッチ20に対し予期しない障害物が衝突したり不正アクセスが生じたりしたとしても、停車前にドアDが開くという事故を確実に防止することができる。
【0043】
[第2の実施形態]
図7に示すように、室外スイッチ20の操作面20aを、車両Tの表面に対し適当に傾斜させることにより、室内に居る乗務員が乗降口1からは操作面20aを直視することができないように構成してもよい。例えば、図7(A)に示す如く、車両Tの表面に設けた傾斜台31に室外スイッチ20を取り付ける。こうすると、室外スイッチ20を乗降口1から見たときは、図7(B)の如く観察され、操作面20aを直視することができなくなる。その結果、乗務員が室外スイッチ20を操作しようとするときは、プラットホームに降りて、操作面20aを確認できる位置へ移動する必要が生じる。従って、本例の構成によっても、乗務員がドアの開放操作をするときは、必ずプラットホームの在る側の室外スイッチ20を操作することになるから、プラットホームの無い側のドアを誤って開く事故を確実に防止できる。
【0044】
本例では、操作面20aを傾斜させたことにより、室外スイッチ20を乗務員乗降口1から比較的近くに配置することが可能である。何故ならば、室外スイッチ20における操作面20aの傾斜角度θと、車両T表面からの突出高さh(図7(A)参照)とが適度に大きければ、乗降口1からの距離W3が短くても、乗務員が乗降口1から操作面20aを直視することができなくなるからである。なお、傾斜角度θを小さく設定したときは、乗降口1からの距離W3を適度に広くすればよい。
【0045】
[第3の実施形態]
図8に示すように、室外スイッチ20の操作面20aを、開閉可能な蓋32で覆う構成も可能である。(なお図中の符号33は、蓋を開閉操作するための把手である。)この場合、室外スイッチ20は乗降口1から適度に離すことが望ましい。これにより、室内に居る乗務員は乗降口1から操作面20aを確認することができないから、室外スイッチ20を操作しようとするときは、プラットホームに降りて、操作面20aを覆っている蓋32を開ける必要が生じる。従って、本例の構成によっても、乗務員は必ずプラットホームの在る側の室外スイッチ20を操作することになるから、プラットホームの無い側のドアを誤って開く事故を確実に防止できる。
【0046】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を、ワンマン列車に適用した場合について説明したが、車掌が乗務する列車に対して本発明を適用することも妨げない。この場合にあっても、車掌がドアの開放を行なう際には、必ずプラットホームに降りて室外スイッチ20を操作することになる。よって本発明は、車掌がドア扱いする場合でも、非プラットホーム側のドアを開放するというドア誤扱い事故を防止するうえで有効に機能する。
【0047】
なお車掌がドア扱いをする場合、車掌室は通常、列車進行方向の後方に位置するから、自車モードを選択したときにおいて、室外スイッチ20で最初に開くのを、車掌室に最も近い最後部のドアとなるように設定してもよい。
【0048】
また、室内スイッチ10又は室外スイッチ20は、押しボタン式以外に、トグルスイッチで構成することも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…乗務員乗降口 10…室内スイッチ 10L…室内左スイッチ 10R…室内右スイッチ 11(L,R)…前・全ドア開スイッチ 12(L,R)…後ドア開スイッチ 13(L,R)…ドア閉スイッチ 14…全車・自車切替スイッチ 15(L,R)…ドア開スイッチ 20…室外スイッチ 20a…操作面 21…前スイッチ(前ドア操作部)) 22…後スイッチ(後ドア操作部) 23…閉スイッチ(閉操作部) 24…開スイッチ 31…傾斜台 32…蓋 33…把手 T…車両 R…運転室 U…運転台 M…運転士 P…プラットホーム D…乗客用ドア


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の左右側面に設けられている乗客用ドアを開閉操作するための装置であって、
車両室内に左側ドア用の室内左スイッチ及び右側ドア用の室内右スイッチが設けられ、
車両の左外側面に左側ドア用の室外左スイッチが設けられると共に車両の右外側面に右側ドア用の室外右スイッチが設けられ、
室内左スイッチを開操作したのち室外左スイッチを開操作するとドア駆動手段が動作して左側ドアが開き、室内右スイッチを開操作したのち室外右スイッチを開操作するとドア駆動手段が動作して右側ドアが開くように設定され、
前記室外左スイッチ及び室外右スイッチは、乗務員が車両室内から操作するよりも、車外に出て操作する方が容易となるように構成されている
ことを特徴とする鉄道車両のドア開閉装置。
【請求項2】
前記室外左スイッチ及び室外右スイッチは、車両外側面における乗務員の乗降口から一定距離だけ離れた位置に設置されていることを特徴とする請求項1に記載する鉄道車両のドア開閉装置。
【請求項3】
前記室外左スイッチ及び室外右スイッチは、それぞれの操作面を、室内に居る乗務員が乗降口からは直視することができないように傾斜させたことを特徴とする請求項1に記載する鉄道車両のドア開閉装置。
【請求項4】
前記室外左スイッチ及び室外右スイッチの操作面上に開閉可能な蓋を設けたことを特徴とする請求項1に記載する鉄道車両のドア開閉装置。
【請求項5】
車両の運転室内に室内左スイッチ及び室内右スイッチが設けられ、
車両外側面における運転士乗降口から一定距離離れた位置に室外左スイッチ及び室外右スイッチが設置され、
室外左スイッチ及び室外右スイッチは、運転室に最も近い位置の乗客用ドアを開放するための前ドア操作部と、その他の乗客用ドアの少なくとも1つを開放するための後ドア操作部とを有している請求項1乃至4のいずれかに記載する鉄道車両のドア開閉装置。
【請求項6】
車両外側面に設けられる室外左スイッチ及び室外右スイッチに、ドアを閉止するための閉操作部を設けた請求項1乃至5のいずれかに記載する鉄道車両のドア開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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