説明

鉄道車両の構体内部構造

【課題】長ケタとガセットとをスポット溶接するための作業スペースを確保した鉄道車両の構体内部構造を提供すること。
【解決手段】鉄道車両の構体内部構造20は、一端が複数の縦骨25に組み込まれ、他端が長ケタ23のうち屋根構体部21の内側面に接合された領域と対向するように配置されるガセット27と、屋根構体部21の内側面に設けられると共に内装具をユーザから遮蔽する側パネルを支持可能に構成される、断面が略逆ハット形状に形成された吊溝28と、複数の横骨27のうちの1つに固着される、荷棚37を取り付け可能な荷棚取付部34と、を備え、長ケタ23とガセット27とが対向する領域をスポット溶接するためのスポット溶接ガンの作業スペースをガセット27、吊溝28及び荷棚取付部34とから画定される空間により確保するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の構体内部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には、構体部同士を部材を用いて溶接する場所がいくつかある。この溶接の方法として、一般に、アーク溶接、スポット溶接等が知られている。いずれの溶接方法が適切かは溶接する部材の材質等によって異なるが、例えば、材質としてアルミニウム合金を用いる場合、アルミニウム合金は通電性が高いため、電気アークの熱を利用し、金属材料を局部的に溶融して接合するアーク溶接を用いることが多い。
【0003】
また、鉄道車両の車体構造に関する技術として、荷棚受を側構体部の補強材から屋根構体部の補強材のコーナ部近傍に渡して双方に一体化し、補強材間を連結することにより、重量の増大を抑え、内装の見栄えを低下させずに、側構体部および屋根構体部間を十分に補強できるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010―143354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、鉄道車両の部材の材質として、アルミニウム合金に代えてステンレス鋼を用いる場合がある。これは、アルミニウム合金と比べて防錆効果が大きいため、例えば、長ケタのように外部に露出する部材にはステンレス鋼を採用するメリットがあるからである。このように部材の材質としてステンレス鋼が採用された場合、いずれの溶接方法が適切か検討すると、ステンレス鋼はアルミニウム合金と比べて通電性が低いため、アーク溶接ではなく、接合部位に圧力を加えながら大電流を加えることで溶接するスポット溶接を用いることが望ましいという結論を得る。
【0006】
しかしながら、スポット溶接はスポット溶接ガンの先端部分をステンレス鋼に当接する必要があるため、一定の作業スペースが必要になる。ところが、鉄道車両の構体内部には、種々の内装具が設けられており、スポット溶接を行うための作業スペースを確保することが難しかった。
【0007】
ここで、従来の長ケタとガセットとを溶接する場合について図3を用いて説明すると、長ケタ1近傍には、この長ケタ1と屋根構体部2の内側面に固着される幕板受3と、長ケタ1及び側構体部の縦骨4に固着されるガセット5と、幕板受3の底面側及び横骨6に設けられた内張部7に固着される荷棚受骨8と、これら内装具を覆う天井パネル9と、荷棚受骨8に固着される荷棚受10とが設けられている。このように種々の内装具が配置される場合に、長ケタ1とガセット5とをスポット溶接しようすると、幕板受3が障害になり、スポット溶接ガンを配置する作業スペースを確保することが難しがった。
【0008】
また、上記特許文献1に記載の技術は、長ケタとガセットとをスポット溶接することを想定していないため、スポット溶接ガンを配置する作業スペースはない。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、長ケタとガセットとをスポット溶接するための作業スペースを確保した鉄道車両の構体内部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、屋根構体部と縦骨及び横骨をそれぞれ複数有する側構体部とを有し、屋根構体部の内側面と側構体部の上面とを長ケタを用いて接合する鉄道車両の構体内部構造であって、一端が複数の縦骨それぞれに取り付けられ、他端が長ケタのうち屋根構体部の内側面に接合された領域に対向するように配置される複数のガセットと、屋根構体部の内側面に設けられると共に内装具を遮蔽する側パネルを支持する吊溝と、複数の横骨のうちの1つに取り付けられ、荷棚を支持可能な荷棚取付部と、を備え、長ケタとガセットとが対向する領域をスポット溶接するためのスポット溶接ガンの作業スペースを、ガセット、吊溝及び荷棚取付部に基づいて画定される空間により確保するように構成されたことを特徴とするものである。
【0011】
この構成によると、鉄道車両の製造時に、長ケタとガセットとをスポット溶接するための作業スペースを設けることができる。詳細には、従来、図3に示すように、横骨と幕板受との間に荷棚受骨を固着する必要があるため、幕板受にある程度の大きさを確保する必要があった。しかしながら、本発明に係る鉄道車両の構体内部構造は、横骨に荷棚取付部を取り付けると共にこの荷棚取付部に荷棚が取り付け可能に構成されており、荷棚受骨を必要としない構成としている。従って、幕板受に荷棚受骨を取り付ける必要がなくなり、幕板受をコンパクトにすることが可能になる。よって、幕板受に相当する構成として、例えばよりコンパクトな略逆ハット形状に形成された吊溝を用いることができる。そして、長ケタとガセットとが対向する領域をスポット溶接するためのスポット溶接ガンの作業スペースをガセット、吊溝及び荷棚取付部に基づいて画定される空間により確保することが可能になる。このように作業スペースを広く確保できるため、ガセットと長ケタとのスポット溶接を容易に行うことが可能になる。更に、横骨を利用して荷棚取付部及び荷棚を取り付けるため、従来よりある鉄道車両の構造を利用することができ、設計変更に伴うコストの上昇を抑えることができる。
【0012】
また、本発明に係る鉄道車両の構体内部構造において、吊溝に取り付けられると共に、側パネルの基端部を支持する支持部材を備え、側パネルは天井部分の内装具を遮蔽する側天井パネルと、カモイ部分の内装具を遮蔽する側カモイパネルとを有し、基端部は側天井パネルの一端を支持すると共に側天井カモイの一端を回動可能に支持し、側カモイパネルは、他の一端が荷棚取付部に着脱自在に取り付けられ、既述の一端を支点として開閉可能に構成されるようにしても良い。
【0013】
従来、図3に示すように、1つの天井パネルで天井部分とカモイ部分の内装具を遮蔽する構造となっていたため、例えば、天井パネルで遮蔽される配線等のメンテナンス作業を行う場合、必ず天井パネルを外す必要があり、非常に負荷のかかる作業になっていた。しかしながら、上記構成によると、側カモイパネルを開閉することが可能になるため、側カモイパネルで隠されている配線等のメンテナンス作業に関しては、作業の負荷を低減することができる。
【0014】
更に、本発明に係る鉄道車両の構体内部構造において、荷棚を荷棚取付部に取り付ける取付機構を備え、この取付機構は荷棚取付部の前面部分によりユーザに対して遮蔽されるようにしても良い。
【0015】
この構成によると、荷棚を荷棚取付部に取り付ける取付機構について見栄えを考慮する必要がなくなる。つまり、当該取付機構を例えば吊ボルトから構成した場合、ねじ頭が飛び出るような外観上の見栄えの悪さが生じるが、このような見栄えの悪さが生じても荷棚取付部の前面によりユーザから遮蔽することができる。また、当該取付機構を吊ボルトで構成した場合、見栄えを考慮する必要性から生じる穴あけタップ作業が不要になり、作業者の作業工程を減らすことができる。
【0016】
更に、取付機構は、荷棚取付部に含まれる鉛直方向に沿って立設された板部と荷棚をこの板部に固定する吊ボルトとから構成されるようにしても良い。
【0017】
従来であれば、図3に示すように、荷棚は荷棚受骨に取り付けられており、この荷棚受骨は内張部と幕板受とに渡って斜めに配置されていた。このため、荷棚を取り付ける面が斜めになっており、荷棚を取り付ける高さ及び傾きの調整が非常に煩雑だった。しかしながら、上記構成によると、荷棚を取り付ける荷棚取付部の板部が鉛直方向に沿って立設されているため、荷棚を取り付ける高さ及び傾きの調整を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、長ケタとガセットとをスポット溶接するための作業スペースを確保した鉄道車両の構体内部構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る側カモイパネルが閉状態にある構体内部構造の断面の一部を示す図である。
【図2】同実施の形態に係る側カモイパネルが開状態にある構体内部構造の断面の一部を示す図である。
【図3】従来の鉄道車両の構体内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明に係る鉄道車両の構体内部構造の断面の一部を示す図である。なお、同図においては、本発明に係る部分を中心に図示し、他の部分については説明の便宜上図示を省略している。
【0021】
鉄道車両の構体内部構造20は、屋根構体部21と側構体部22とを有しており、屋根構体部21の内側面と側構体部22の上面とを長ケタ23を用いて接合している。より詳細には、長ケタ23は、屋根構体部21の内側面に接合される部分と、屋根構体部21の端部を通過して側構体部22の上面に接合される部分とで構成されている。また、側構体部22の上側及び屋根構体部21の上側には、雨水等を防水すると共にこの雨水等を排水するための雨樋を構成する屋根部材24が設けられている。
【0022】
側構体部22は、縦骨25及び横骨26を複数有している。複数の縦骨25は鉄道車両の短手方向に平行となるように(図示を省略する。)、複数の横骨26は鉄道車両の長手方向に平行となるように配置されており、側構体部22の縦方向及び横方向の強度を確保している。
【0023】
ガセット27は、側構体部22と屋根構体部21とを接合する部材であり、一端が複数の縦骨25に組み込まれており、他の一端が屋根構体部21方向に延出するように構成されている。この延出された他の一端と既述の長ケタ23のうち屋根構体部21の内側面に接合された領域とが対向するように配置されている。
【0024】
吊溝28は、屋根構体部21の内側面に設けられると共に内装具をユーザから遮蔽する側パネル29を支持可能に構成される。より詳細には、ガセット27と長ケタ23とが対向する領域から屋根構体部21の内側面に沿って所定距離進んだ位置に吊溝28が設けられる。この吊溝28は、断面が略逆ハット形状に形成されている。
【0025】
また、吊溝28は、既述の側パネル29を逆ハット形状の下側の平坦部分に固着される支持部材30を介して支持する。支持部材30は、天井部分及びカモイ部分にそれぞれ配置される配線31等を載置するためにも用いられる。
【0026】
側パネル29は、天井部分の内装具をユーザから遮蔽する側天井パネル32とカモイ部分の内装具をユーザから遮蔽する側カモイパネル33からなる。側パネル29の基端部は、側天井パネル32の一端を支持すると共に側カモイパネル33の一端を回動可能に支持する。更に、側カモイパネル33の他の一端は荷棚取付部34に着脱自在に取り付けられている。したがって、側カモイパネル33は既述の一端を支点として開閉可能に構成されている。図2は、鉄道車両の構体内部構造20において、側カモイパネル33を開状態にした場合を示している。
【0027】
複数の横骨26のうちの1つ、本実施形態では、上から2番目に位置する横骨26には、荷棚取付部34が取り付けられている。荷棚取付部34は、内張部35と側カモイパネル受部36とから構成されている。
【0028】
内張部35は、断面がコ字形状で形成され、コ字の先端部分で横骨26を挟み込むように取り付けられる。側カモイパネル受部36は、内張部35の上側の一部及び内張面35aの一部に固着するように設けられている。
【0029】
側カモイパネル受部36は、内張部35の上面から鉛直方向に沿って立設した板部36aを側構体部22側に有している。当該板部36aは、吊ボルト36bによる固着機構が上下に2組設けられており、下側の吊ボルト36bにより内張部35、板部36a及び荷棚37を固着するように構成されており、上側の吊ボルト36bにより板部36a及び荷棚37を固着するように構成されている。これらにより荷棚の取付機構を構成する。また、この取付機構は、側カモイパネル受部36の前面によりユーザから遮蔽されるようになっている。
【0030】
以上のように構成された鉄道車両の構体内部構造20によると、鉄道車両の製造時に、長ケタ23とガセット27とをスポット溶接するための作業スペースを設けることができる。詳細には、鉄道車両の構体内部構造20は、横骨26に荷棚取付部34を固着すると共にこの荷棚取付部34に荷棚37が取り付け可能に構成されており、荷棚受骨を必要としない構成としている。従って、従来のように幕板受に荷棚受骨を固着する必要がなくなり、幕板受に相当する構成として、幕板受よりコンパクトにした略逆ハット形状に形成された吊溝28を用いることができる。そして、長ケタ23とガセット27とが対向する領域をスポット溶接するためのスポット溶接ガンの作業スペースをガセット27、吊溝28及び荷棚取付部34とに基づいて画定される空間により確保することが可能になる。このように作業スペースを確保できるため、長ケタ23とガセット27とのスポット溶接を容易に行うことが可能になる。
【0031】
また、横骨26を利用して荷棚取付部34及び荷棚37を取り付けるため、従来よりある鉄道車両の構造を利用することができ、設計変更に伴うコストの上昇を抑えることができる。
【0032】
更に、側カモイパネル33を開閉することが可能になるため、側カモイパネル33で隠されている配線31等のメンテナンス作業に関しては、作業の負荷を低減することができる。
【0033】
更に、荷棚37を荷棚取付部34に取り付ける吊ボルト36b(取付機構)を、荷棚取付部34内に配置し、荷棚取付部34の前面部分によりユーザから遮蔽しているため、取付機構について見栄えを考慮する必要がない。また、当該取付機構を吊ボルト36bで構成する場合、穴あけタップ作業が不要になり、作業者の作業工程を減らすことができる。
【0034】
更に、荷棚37を内張部35の上面から鉛直方向に沿って立設した板部36aに取り付けるため、荷棚37を取り付ける高さ及び傾きの調整を容易にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、長ケタとガセットとをスポット溶接する作業スペースを広く確保する必要のある鉄道車両の構体内部構造に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
20・・・鉄道車両の構体内部構造
21・・・屋根構体部
22・・・側構体部
23・・・長ケタ
24・・・屋根部材
25・・・縦骨
26・・・横骨
27・・・ガセット
28・・・吊溝
29・・・側パネル
30・・・支持部材
31・・・配線
32・・・側天井パネル
33・・・側カモイパネル
34・・・荷棚取付部
35・・・内張部
36・・・側カモイパネル受部
36a・・・板部
36b・・・吊ボルト
37・・・荷棚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根構体部と縦骨及び横骨をそれぞれ複数有する側構体部とを有し、前記屋根構体部の内側面と前記側構体部の上面とを長ケタを用いて接合する鉄道車両の構体内部構造であって、
一端が前記複数の縦骨それぞれに取り付けられ、他端が前記長ケタのうち前記屋根構体部の内側面に接合された領域と対向するように配置される複数のガセットと、
前記屋根構体部の内側面に設けられると共に内装具を遮蔽する側パネルを支持する吊溝と、
前記複数の横骨のうちの1つに取り付けられ、荷棚を支持可能な荷棚取付部と、
を備え、
前記長ケタと前記ガセットとが対向する領域をスポット溶接するためのスポット溶接ガンの作業スペースを、前記ガセット、前記吊溝及び前記荷棚取付部から画定される空間に確保するように構成されたことを特徴とする鉄道車両の構体内部構造。
【請求項2】
前記吊溝に取り付けられると共に、前記側パネルの基端部を支持する支持部材を備え、
前記側パネルは、天井部分の内装具を遮蔽する側天井パネルと、カモイ部分の内装具を遮蔽する側カモイパネルとを有し、
前記基端部は前記側天井パネルの一端を保持すると共に前記側天井カモイの一端を回動可能に支持し、
前記側カモイパネルは、他端が前記荷棚取付部に着脱自在に取り付けられ、前記一端を支点として開閉可能に構成されることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両の構体内部構造。
【請求項3】
前記荷棚を前記荷棚取付部に取り付ける取付機構を備え、
前記取付機構は、前記荷棚取付部の前面部分により遮蔽されるように構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄道車両の構体内部構造。
【請求項4】
前記取付機構は、前記荷棚取付部に含まれる鉛直方向に沿って立設された板部と前記荷棚を前記板部に固定する吊ボルトとから構成されることを特徴とする請求項3に記載の鉄道車両の構体内部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−52744(P2013−52744A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191977(P2011−191977)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(712004783)株式会社総合車両製作所 (40)