説明

鉄道車両構体

【課題】タンクの省スペース化が図られると共に、車両の重量バランスを良好に維持することが可能な鉄道車両構体を提供する。
【解決手段】鉄道車両構体1では、左右の側構体3,3において骨部材12の内側に形成された水密の中空部Sが、液体を貯留するタンク21となっている。通常、側構体3,3における骨部材12の内側の領域はデッドスペースであるため、このスペースに液体を貯留することにより、タンク21の省スペース化が図られる。この構成によれば、従来のように車両の床下装置の構成に影響を与えることもなく、車両の屋根上に重量物を配置しないことから、車体の強化構造を別途に設ける必要もない。また、骨部材12の配列に応じて左右の側構体3,3にタンク21が複数設けられることから、各タンク21における液体の量を調整することによって車両の重量バランスを良好に維持することも可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両構体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には、例えば洗面用などの水を貯めるためのタンクを備えたものがある。このようなタンクは、鉄道車両の床下に取り付けられる場合が多いが、床下には電源装置やブレーキ制御装置といった各種の床下装置が取り付けられるので、タンクの設置スペースの確保が課題となっている。そこで、例えば特許文献1に記載の鉄道車両用タンクでは、内部を水密性の可動間仕切り部材を設け、一つのタンクを洗浄水用室と汚水用室とに仕切ることにより、タンクの小型化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−103587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の鉄道車両用タンクでは、鉄道車両の床下に取り付ける構造自体に変わりはない。そのため、床下装置の配置構成によっては、タンクを小型化しても設置スペースが確保しきれない場合も考えられる。一方、鉄道車両の中には、タンクを床下に設ける代わりに屋根上に設ける方式を採用したものもある。
【0005】
この場合、床下装置の配置構成に関係なくタンクを配置することはできるが、屋根上に重量物を載せることになるので、床下にタンクを取り付ける場合に比べて車体の強度を高める必要が生じる。また、鉄道車両の重心位置が高くなるので、車両の重量バランスが崩れ易くなるといった問題もある。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、タンクの省スペース化が図られると共に、車両の重量バランスを良好に維持することが可能な鉄道車両構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決のため、本発明に係る鉄道車両構体は、外板の内側に複数の骨部材を配置してなる左右一対の側構体を備えた鉄道車両構体であって、骨部材の内側に水密の中空部が形成され、当該中空部が液体を貯留するタンクとなっていることを特徴としている。
【0008】
この鉄道車両構体では、側構体において骨部材の内側に形成された水密の中空部が、液体を貯留するタンクとなっている。通常、側構体における骨部材の内側の領域はデッドスペースであるため、このスペースに液体を貯留することにより、タンクの省スペース化が図られる。この構成によれば、従来のように車両の床下装置の構成に影響を与えることもなく、車両の屋根上に重量物を配置しないことから、車体の強化構造を別途に設ける必要もない。また、骨部材の配列に応じて左右一対の側構体にタンクが複数設けられることから、各タンクにおける液体の量を調整することによって車両の重量バランスを良好に維持することも可能となる。
【0009】
また、中空部内には、水密性の袋状体が配置されており、液体は、袋状体の内部に貯留されていることが好ましい。この場合、中空部の水密性を一層高めることができる。
【0010】
また、中空部内は、仕切部材によって2以上の領域に仕切られていることが好ましい。こうすると、洗浄水と汚水、或いは冷却水と液体燃料といった具合に、タンク内に複数種の液体を貯留することができる。
【0011】
また、複数の骨部材は、車両の上下方向を向いた状態で車両の前後方向に配列されており、前後の中空部がパイプによって互いに連結されていることが好ましい。この場合、車両の前後方向の重量バランスを良好に維持できる。
【0012】
また、一方の側構体における中空部と他方の側構体における中空部とがパイプによって互いに連結されていることが好ましい。この場合、車両の左右方向の重量バランスを良好に維持できる。
【0013】
また、骨部材は、断面矩形の中空部材であることが好ましい。このような中空部材を骨部材として用いることにより、骨部材の内側に中空部を確実に形成できる。
【0014】
また、骨部材は、断面コの字状のチャネル部と、当該チャネル部の側縁部から張り出す一対のフランジ部とを有するハット型部材であることが好ましい。このようなハット型部材を骨部材として用いることにより、骨部材の内側に中空部を確実に形成できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、タンクの省スペース化が図られると共に、車両の重量バランスを良好に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る鉄道車両構体の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】側構体の構成を示す斜視図である。
【図3】図2における要部拡大斜視図である。
【図4】変形例に係る側構体の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る鉄道車両構体の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る鉄道車両構体の一実施形態を示す斜視図である。同図に示すように、鉄道車両構体1は、床構体2と、側構体3と、屋根構体4と、妻構体5とを備え、これらの各構体が相互に接合されることにより、乗客を収容する空間を内部に有する箱型形状をなしている。
【0019】
床構体2は、車両の床部を構成する構体として鉄道車両構体1の底部に配置されている。床構体2の下部(床下)には、電源装置やブレーキ制御装置といった各種の床下装置が取り付けられている。側構体3及び妻構体5は、車両の側部を構成する構体として、床構体2の左右の縁部及び前後の縁部を囲むように立設されている。側構体3には、乗客・乗員が乗り降りするためのドア部6が等間隔に複数(例えば3ヶ所)設けられている。
【0020】
また、ドア部6,6間と側構体3の両端部とには、窓部7が設けられている。妻構体5は、乗客・乗員らが車両間を行き来するための出入口部8が設けられている。屋根構体4は、車両の屋根部を構成する構体として鉄道車両の構体の上部に空間に蓋をするように配置されている。車両の屋根構体4には、上部に車内の温度を調整するためのエアコンディショナーやパンタグラフ(図示しない)などを備えている。
【0021】
次に、上述した側構体3の構成について更に詳細に説明する。図2は、側構体3の構成を示す斜視図である。同図に示すように、側構体3は、外板11と、複数の骨部材12とを備えている。外板11は、車両の外壁部を構成する部材である。外板11は、例えば厚さ1.2mm程度のステンレス鋼(SUS301)などからなり、長さ1000mm程度の矩形状をなしている。
【0022】
一方、骨部材12は、頂部13及び頂部13の幅方向の端部から起立するウェブ部14,14とからなる断面コの字状のチャネル部15と、ウェブ部14,14の先端から外側に張り出すフランジ部16,16とを有するハット型部材であり、鉄道車両構体1における柱部材となっている。骨部材12は、例えば厚さ0.8mm程度のステンレス鋼(SUS301)などからなり、外板11の高さに応じた長尺状となっている。また、頂部13の幅は例えば50mmとなっており、ウェブ部14の高さは例えば35mmとなっている。
【0023】
このような骨部材12は、頂部13を車両の内側に向けた状態で、例えば200mmピッチで車両の前後方向に並列配置され、フランジ部16,16に沿って連続的なレーザ溶接部(不図示)によって外板11に強固に接合されている。これにより、骨部材12の内側には、外板11とチャネル部15とによって囲まれる中空部Sが形成されている。
【0024】
ここで、本実施形態に係る鉄道車両構体1では、骨部材12の内側の中空部Sの上端及び下端を塞ぐように蓋部材17が連続的なレーザ溶接部によって固定されており、外板11とフランジ部16,16との間の連続的なレーザ溶接部との協働により、中空部Sの水密性が確保されている。そして、この水密の中空部Sは、液体を貯留するためのタンク21として用いられる。
【0025】
タンク21としての中空部S内には、より詳細には、図3に示すように、仕切部材22と、袋状体23とが配置されている。仕切部材22は、例えば骨部材12と同様に厚さ1.2mm程度のステンレス鋼(SUS301)などからなり、骨部材12の略中央の位置において連続的なレーザ溶接部によってチャネル部15及び外板11に固定されている。これにより、中空部Sは、上部タンク21a及び下部タンク21bの2つの領域に仕切られている。
【0026】
袋状体23は、例えばゴム、テフロン(登録商標)、ビニールなどによって水密に形成されている。袋状体23は、上部タンク21a及び下部タンク21bのそれぞれに配置されており、袋状体23の内部には所定の液体が貯留されている。上部タンク21aの袋状体23と下部タンク21bの袋状体23とには、それぞれ別の液体を貯留するようにしてもよい。貯留する液体の組み合わせとしては、洗浄水と汚水、或いは冷却水と液体燃料といったものが挙げられる。
【0027】
また、図2に示すように、骨部材12の周囲には、車両の前後方向に延在する第1のパイプ31と、車両の左右方向に延在する第2のパイプ32とが配置されている。第1のパイプ31は、骨部材12の上方及び下方にそれぞれ配置され、第1のパイプ31の一端は、洗浄装置といった所定の装置に接続されている。
【0028】
第1のパイプ31の本体管31aからは、骨部材12側に向かって分岐する支管31bが設けられている。支管31bの先端部分は、蓋部材17を通って中空部S内に通され、液体を貯留する袋状体23が水密に固定されている。支管31bの先端部分と袋状体23との固定は、例えば袋状体23の開口部分にパイプを固定し、このパイプの外周と支管31bの先端部分の外周とにネジ溝を形成しておき、これらをねじ込み継手によって連結すればよい。また、支管31bと蓋部材17との間は、樹脂等によって封止され、水密性が保たれている。これにより、側構体3,3において、前後の上部タンク21a,21a同士及び前後の下部タンク21b,21b同士は、第1のパイプ31を介して互いに連結されている。
【0029】
一方、第2のパイプ32は、所定のピッチで車両の床下に配置され、一方の側構体3側において骨部材12の下側を通る第1のパイプ31の本体管31aと、他方の側構体3側において骨部材12の下側を通る第1のパイプ31の本体管31aとを連結している。これにより、一方の側構体3における下部タンク21bと他方の側構体3における下部タンク21bとは、第2のパイプ32を介して左右で互いに連結されている。
【0030】
以上説明したように、鉄道車両構体1では、左右の側構体3,3において骨部材12の内側に形成された水密の中空部Sが、液体を貯留するタンク21となっている。通常、側構体3,3における骨部材12の内側の領域はデッドスペースであるため、このスペースに液体を貯留することにより、タンク21の省スペース化が図られる。この構成によれば、従来のように車両の床下装置の構成に影響を与えることもなく、車両の屋根上に重量物を配置しないことから、車体の強化構造を別途に設ける必要もない。また、骨部材12の配列に応じて左右の側構体3,3にタンク21が複数設けられることから、各タンク21における液体の量を調整することによって車両の重量バランスを良好に維持することも可能となる。
【0031】
また、本実施形態では、中空部S内が仕切部材22によって上部タンク21a及び下部タンク21bの2つの領域に仕切られており、上部タンク21a及び下部タンク21bの内部には、水密性の袋状体23がそれぞれ配置されている。これにより、各タンク21a,21bには、洗浄水と汚水、或いは冷却水と液体燃料といった具合に複数種の液体を貯留することができる。また、袋状体23を用いることにより、中空部Sの水密性が更に高められている。
【0032】
さらに、本実施形態では、前後の上部タンク21a,21a同士及び前後の下部タンク21b,21b同士が第1のパイプ31を介して互いに連結され、一方の側構体3における下部タンク21bと他方の側構体3における下部タンク21bとが第2のパイプ32を介して左右で互いに連結されている。これにより、各タンク21a,21bに貯留される液体の量を調整することで、車両の前後方向及び左右方向の重量バランスを良好に維持できる。
【0033】
重量バランスの調整にあたっては、圧縮空気を供給するコンプレッサと、大気開放を制御する電磁弁とを例えば左右の第1のパイプ31にそれぞれ取り付け、一方の第1のパイプ31を大気開放した状態で他方の第1のパイプ31から所定量の圧縮空気を各タンク21a,21bに供給すればよい。また、第2のパイプ32にポンプを取り付け、左右の第1のパイプ31をいずれも大気開放した状態で、各タンク21a,21bの液体をポンプで移動させるようにしてもよい。
【0034】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、骨部材12としてハット型部材を用いているが、骨部材12の内側に中空部Sが形成されるものであればハット型部材に限られることはなく、例えば図4に示すように、断面矩形の中空部材を骨部材41として用いてもよい。この場合であっても、骨部材41の中空部Sに液体を貯留することによって上記実施形態と同様の作用効果が得られる。この他、骨部材12におけるチャネル部15の寸法を変えることにより、車両の前後方向及び左右方向で各タンク21a,21bの容量が異なるようにしてもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、第1のパイプ31を骨部材12の上下に配置し、第1のパイプ31の支管31bを中空部Sに貫通させているが、骨部材12のウェブ部14,14を貫通するように第1のパイプ31を配置してもよい。さらに、第2のパイプ32を屋根上にも配置し、一方の側構体3における上部タンク21aと他方の側構体3における上部タンク21aとを第2のパイプ32を介して左右で互いに連結してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…鉄道車両構体、3…側構体、11…外板、12,41…骨部材、15…チャネル部、16…フランジ部、21…タンク、21a…上部タンク、21b…下部タンク、22…仕切部材、23…袋状体、31…第1のパイプ、32…第2のパイプ、S…中空部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外板の内側に複数の骨部材を配置してなる左右一対の側構体を備えた鉄道車両構体であって、
前記骨部材の内側に水密の中空部が形成され、当該中空部が液体を貯留するタンクとなっていることを特徴とする鉄道車両構体。
【請求項2】
前記中空部内には、水密性の袋状体が配置されており、
前記液体は、前記袋状体の内部に貯留されていることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両構体。
【請求項3】
前記中空部内は、仕切部材によって2以上の領域に仕切られていることを特徴とする請求項1又は2記載の鉄道車両構体。
【請求項4】
前記複数の骨部材は、車両の上下方向を向いた状態で車両の前後方向に配列されており、前後の中空部がパイプによって互いに連結されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の鉄道車両構体。
【請求項5】
一方の側構体における前記中空部と他方の側構体における前記中空部とがパイプによって互いに連結されていることを特徴とする請求項4記載の鉄道車両構体。
【請求項6】
骨部材は、断面矩形の中空部材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の鉄道車両構体。
【請求項7】
骨部材は、断面コの字状のチャネル部と、当該チャネル部の側縁部から張り出す一対のフランジ部とを有するハット型部材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の鉄道車両構体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−51467(P2011−51467A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201886(P2009−201886)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)