説明

鉄道車両用車体

【課題】簡素かつ小規模な構成によって車体の曲げ振動を低減した鉄道車両用車体を提供する。
【解決手段】屋根構10、側構20、及び、床構30を有する鉄道車両用車体1を、屋根構から下方へ突き出して形成された吊手棒受60と、吊手棒受の下端部に支持された吊手棒50と、側構と吊手棒50を連結する側構連結部材100と、側構上部近傍から車幅方向内側へ突き出して設けられた荷棚80と、荷棚の車幅方向内側の端部82と吊手棒とを連結する荷棚端部連結部材110と、荷棚の基部81aと吊手棒とを連結する荷棚基部連結部材120とを備え、各連結部材100,110,120に減衰手段200,210,220を設けた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用車体に関し、特には簡素かつ小規模な構成によって車体の曲げ振動を低減したものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電車等の鉄道用旅客車の車体は、一般に床構、側構、妻構、屋根構を有するほぼ六面体として構成された箱状の構造物となっている。
また、鉄道車両用車体は、軽量化とともに、振動抑制による乗り心地改善や衝突安全性の向上のため、剛性を確保することも要求される。
【0003】
従来、踏切事故や脱線衝突事故に対する安全性を向上するために、車体側面方向から側構に作用する荷重に対する強度を向上させることを目的として、床構の横梁、側構の側柱、及び、屋根構の垂木を同一断面内に配置した補強骨組部を、車体長手方向の複数箇所に配置した鉄道車両が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に記載された技術では、車体の屋根構、側構、床構といった各構体における構造部材の配置等の基本設計に及ぼす制約が多く、車両の設計自由度が低くなってしまう。また、既存の車両には適用することが極めて困難である。
また、本願の発明者らは、後述する特許文献2において、左右の側構に設けられた戸袋柱の上端部間を、枕木方向に延びた円筒状の吊手棒によって連結し、これによって車体剛性を向上させて振動抑制等を図ることを提案している。
【0005】
また、特許文献3には、吊手棒を安価に提供することを目的として、一体成型されたパイプによって、左右の壁部を連結することが記載されている。
また、特許文献4には、車体の横荷重に対する強度不足を解消して万一の場合の乗客の安全を図るため、胴部のコーナ部に三角形のガセット状の連結部材を設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007− 62440号公報
【特許文献2】特開2010− 52511号公報
【特許文献3】特開平 5−131926号公報
【特許文献4】特開2007−161084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の鉄道車両の軽量化や、それに伴う車体構造の変化などを背景として、乗り心地の観点から車体の上下曲げ振動を低減することが要求されている。
特に、最近では、優等列車だけでなく、通勤車両などの一般的な車両に対しても、車体曲げ振動低減のための取り組みが進められている。
このような通勤車両で主流のひとつとなっているステンレス鋼製車体は、車体の軽量化、製造工程の省力化、走行時のエネルギ消費軽減などに貢献する一方、これまでの振動測定により、床、屋根、側といった車体を構成する各面が独立に振動する傾向を有することが確認されている。
【0008】
この点について、上述した各従来技術においては、それ以前の従来技術との比較においては比較的簡素な構成によって車体の剛性を向上して各面の独立変形を抑制し、乗り心地に影響を与える振動モード数の低減や、固有振動数の上昇により乗客の感度が鈍化するなど、一定の乗り心地向上効果を有するものと認められる。
しかし、これらの従来技術は、車体の減衰能を向上させているわけではないため、必ずしも振動そのものの低減にはつながらない場合もあった。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、簡素かつ小規模な構成によって車体の曲げ振動を低減した鉄道車両用車体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するため、本発明の鉄道車両用車体は、屋根構、側構、及び、床構を有する鉄道車両用車体であって、側構と屋根構又は他方の側構を直接又は間接に連結する連結手段を備え、前記連結手段の一部に前記連結手段の両端部間の相対変位を伴う振動を減衰させる減衰手段を設けたことを特徴とする。
これによれば、車体に曲げ振動が生じると、側構と屋根構又は他方の側構との間で相対変位が生じ、連結手段に内部応力が発生してその結合部(両端)間で力の伝達が生じる。
このような連結手段の一部に減衰要素を付加すれば、このような相対変位を伴う振動モードに関しては、振動の低減を図ることができる。
これによって、車体の曲げ振動低減による乗り心地の改善を図ることができる。
【0010】
本発明において、前記屋根構から下方へ突き出して形成された吊手棒受と、前記吊手棒受の下端部に支持され車両の前後方向にほぼ沿って延びた吊手棒とを備え、前記連結手段は側構と前記吊手棒又は吊手棒受とを連結する側構連結部材を有し、前記側構連結部材に前記減衰手段を設けた構成とすることができる。
これによれば、側構連結部材−吊手棒−吊手棒受、あるいは、側構連結部材−吊手棒受を介して、側構と屋根構とを連結し、減衰手段が生じる減衰力によってこれらの相対変位を伴う振動を減衰することが可能となる。
また、このような連結手段は、既存の吊手棒受、吊手棒を利用して、容易に車体に適用することが可能である。
特に、このような側構連結部材や後述する各連結部材は、例えばビス等によって容易に着脱可能なジョイントを用いて取り付けることが可能であり、さらに車体側に新たな設置座を設ける必要がないことから、設計済の新造車あるいは現在運用中の既存の車体にも小規模な設計変更や改修によって適用することができ、汎用性、実用性が高い。
【0011】
本発明において、前記側構の上部近傍から車幅方向内側へ突き出して設けられた荷棚を備え、前記連結手段は前記荷棚の車幅方向内側の端部と前記吊手棒又は吊手棒受とを連結する荷棚端部連結部材を有し、前記荷棚端部連結部材に前記減衰手段を設けた構成とすることができる。
また、本発明において、前記連結手段は前記荷棚の基部と前記吊手棒又は吊手棒受とを連結する荷棚基部連結部材を有し、前記荷棚基部連結部材に前記減衰手段を設けた構成とすることもできる。
これらによれば、荷棚を介して側構と吊手棒又は吊手棒受とを連結し、減衰手段が生じる減衰力によってこれらの相対変位を伴う振動を減衰することが可能となる。
【0012】
この場合、前記荷棚端部連結部材と前記荷棚基部連結部材とを、車両の前後方向における位置を隣接又は一致させて配置した構成とすることができる。
これによれば、荷棚、荷棚端部連結部材、荷棚基部連結部材がトラス構造類似の構造体を形成することから、上述した効果を促進することができる。
【0013】
本発明において、前記吊手棒及び前記吊手棒受は枕木方向に離間して複数設けられ、前記連結手段は複数の前記吊手棒又は前記吊手棒受の間を連結するとともに枕木方向にほぼ沿って延びた吊手棒間連結部材を有する構成とすることができる。
これによれば、各連結部材及び吊手棒間連結部材によって、左右の側構を連結し、減衰手段が生じる減衰力によってこれらの相対変位を伴う振動を減衰することが可能となる。
本発明において、前記減衰手段は、前記連結手段の一部を構成するとともに相対移動可能とされた第1部材と第2部材との間を粘弾性を有する材料からなる粘弾性部材を介して接続して構成される構成とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、簡素かつ小規模な構成によって車体の曲げ振動を低減した鉄道車両用車体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した鉄道車両用車体の第1実施形態の模式的横断面図である。
【図2】第1実施形態の鉄道車両用車体の斜視断面図である。
【図3】第1実施形態の鉄道用車体の模式的平面視図である。
【図4】図3のIV−IV部矢視断面図である。
【図5】図3のV−V部矢視断面図である。
【図6】第1実施形態の鉄道車両用車体における減衰手段の外観斜視図である。
【図7】各実施形態及び比較例の有限要素法(FEM)による周波数応答解析結果を示すグラフであって、床上台車直上のデータを示すものである。
【図8】各実施形態及び比較例のFEMによる周波数応答解析結果を示すグラフであって、床上中央部のデータを示すものである。
【図9】各実施形態及び比較例のFEMによる周波数応答解析結果を示すグラフであって、床上中央部窓際のデータを示すものである。
【図10】各実施形態及び比較例のFEMによる周波数応答解析結果を示すグラフであって、腰掛フレーム上のデータを示すものである。
【図11】比較例1を基準とした比較例2、第1実施形態、第2実施形態における車体23箇所の測点での乗り心地レベルLの増減を示す図である。
【図12】図11の全測点における感覚補正加速度パワーの5〜20Hz成分の総和の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の第1、第2実施形態に係る鉄道車両用車体について説明する。
なお、以下の説明では、レールの長手方向(車両の進行方向)を前後方向、軌道面におけるレール長手方向と直角をなす方向を横方向(枕木方向)、軌道面に垂直な方向を上下方向と称する。
【0017】
<第1実施形態>
第1実施形態の鉄道車両用車体(以下単に「車体」と称する)1は、例えば片側4ドアの通勤型電車のステンレス鋼製車体である。
図1は、本発明を適用した鉄道車両用車体の第1実施形態の模式的横断面図である。
図2は、第1実施形態の鉄道車両用車体の斜視断面図である。
図3は、第1実施形態の鉄道用車体の模式的平面視図である。
図4は、図3のIV−IV部矢視断面図である。
図5は、図3のV−V部矢視断面図である。
車体1は、屋根構10、側構20、床構30及び妻構90(図3参照)等を有するほぼ六面体状に形成されている。
【0018】
屋根構10は、屋根外板11及び垂木12を有して構成される。
屋根外板11は、車体1の外表面部となる波形形状等の板状部材である(波形部分の図示は省略)。屋根外板11は、車体1の横断面における形状が、上方が凸となる円弧状に湾曲して形成されている。
垂木12は、車幅方向にほぼ沿って伸びた梁状の部材である。垂木12は、屋根外板11の下面に沿って配置され、屋根外板11に対して例えばスポット溶接、アーク溶接、レーザ溶接等により複数個所で固定されている。垂木12は、車体1の前後方向に分散して複数設けられている。
【0019】
側構20は、車体1の左右両側面部を構成する部分であって、図2等に示すように、外板21、ドア開口22、窓開口23等を有して構成されている。
また、側構20の上端部でありかつ屋根構10の左右側端部には、幕板受20aが設けられている。
幕板受20aは、屋根外板11の車幅方向両端部における下面部にそれぞれ接合され、車体1の長手方向に伸びた部材である。
外板21は、車体1の外表面部となる板状の部材である。外板21の上端部及び下端部は、屋根構10及び床構30の車幅方向における両端部とそれぞれ接合されている。
ドア開口22は、旅客乗降用の図示しないドアが開閉可能に設けられる部分である。ドア開口22は、車体1の一方の側面に例えば4つがほぼ等間隔に分散して設けられている。
窓開口23は、隣接する一対のドア開口22の中間部等に設けられている。
【0020】
戸袋内柱24及び戸尻柱25は、ドア開口22の両側にそれぞれ設けられドアを収容する戸袋に備えられる部材である。戸袋内柱24は、戸袋の入口側に設けられ、戸尻柱25はその反対側(ドア開口22から遠い側)に設けられる。戸袋内柱24及び戸尻柱25は、鉛直方向にほぼ沿って伸びて形成され、その下端部は床構30の車幅方向における端部と隣接して配置されている。また、戸袋内柱24及び戸尻柱25の上部には傾斜部24a、25aが設けられている。傾斜部24a、25aは、上端部が下端部に対して枕木方向中央側となるように内傾している。傾斜部24a、25aは、幕板受20aと隣接して配置され、その上端部が幕板受20aに固定されている。戸袋内柱24及び戸尻柱25は、一つの戸袋につき1本ずつが平行に設けられている。
【0021】
また、窓開口23の上部には、上下方向に延びた柱状部材26が設けられている。柱状部材26は、例えばいわゆるハット形の横断面形状を有する梁を、側構20の内面にスポット溶接等で固定することによって形成されている。
【0022】
床構30は、車体1の床面部を構成する部分であって、図示しない側梁、横梁、枕梁等によって構成されるフレームの上面部に床板を固定して構成されている。
【0023】
また、車体1は、さらに灯具受け40、前後吊手棒50、吊手棒受60、横吊手棒71,72、荷棚80等を備えている。
灯具受け40は、車室内を照明する図示しない照明機器が装着される灯具支持部材であって、車体1の前後方向に延びたハット形断面の梁状に形成されている。灯具受け40は、車幅方向に離間して例えば一対が設けられ、屋根構10の車幅方向中央部における下面に装着されている。また、灯具受け40は、車体1の前後方向におけるほぼ全長にわたって形成されている。
左右の灯具受け40の間には、空調用のダクトD(図1、図4等参照。図2では図示を省略)が配置されている。
【0024】
前後吊手棒50は、車両の前後方向に延びて配置された丸パイプ状の部材であって、吊手S(図4参照)が取り付けられるものである。前後吊手棒50は、車幅方向に間隔を隔てて例えば2本が並行して設けられている。左右の前後吊手棒50は、左右の灯具受け40の下方にそれぞれ配置されている。
また、左右の前後吊手棒50は、図2、図3に示すように、横吊手棒71,72によって、相互に連結されている。
【0025】
吊手棒受60は、灯具受け40と前後吊手棒50とを連結し、前後吊手棒50を吊り下げて支持する支柱状の部材である。吊手棒受60の上端部は、図示しない内張り板を介して灯具受け40の下面に固定されている。また、吊手棒受60の下端部には、前後吊手棒50が固定されている。
吊手棒受60は、前後吊手棒50の両端部及び中間部に配置されている。中間部の吊手棒受60は、例えば、車両前後方向における位置がドア開口22の両端部近傍に配置されている。
【0026】
横吊手棒71,72は、横方向に直線状に延びて配置された丸パイプ状の部材であって、左右の前後吊手棒50を連結するとともに、吊手Sが取り付けられるものである。
横吊手棒71の両端部は、左右の吊手棒受60の下端部近傍にそれぞれ固定されている。
横吊手棒72の両端部は、前後の吊手棒受60の中間部において、前後吊手棒50にT字ジョイントを介して固定されている。T字ジョイントは、前後吊手棒50が挿入される円筒の外周面から、横吊手棒72の端部が挿入される円筒を径方向に立設したものである。
【0027】
荷棚80は、座席腰掛上部に設けられ、手荷物などが載せられる部分である。
荷棚80は、ブラケット81、パイプ82等を有して構成されている。
ブラケット81は、側構20の車室内側に配置される内装パネルPから、車幅方向内側へ突き出して形成された部材である。
ブラケット81は、内装パネルPを介して、パネルPの裏側に設けられた図示しない受金に固定されるフランジ部81aを備えている。
ブラケット81は、例えば、アルミニウム合金等の鋳造品である。
ブラケット81は、荷棚80の車両前後方向における両端部等に設けられている。
【0028】
パイプ82は、前後のブラケット81間に渡して配置された例えば丸パイプであって、車幅方向に離間して複数本が配列されている。
パイプ82は、手荷物などが載せられる部分である。
また、最も車幅方向内側に配置されたパイプ82は、後述する荷棚端部連結部材110が取り付けられる基部としても機能する。
また、荷棚80における荷物が載せられる部分を、パイプ82に変えて例えばアルミ押出し型材などの他の製法や材質の部材で構成してもよい。
【0029】
妻構90は、図3に示すように、車体1の前後方向における両端部に設けられ、妻面を構成するものである。
【0030】
また、車体1は、以下説明する側構連結部材100、荷棚端部連結部材110、荷棚基部連結部材120等が備えられている。
側構連結部材100は、例えば金属製の丸パイプとして形成され、枕木方向にほぼ沿って延びるとともに、前後吊手棒50と側構20の上部とを連結するものである。
側構連結部材100の側構20側の端部には、側構連結部材100と側構20との相対運動を伴う振動を、粘弾性部材によって減衰させる減衰装置200が設けられている。この減衰装置200の詳細については、後に詳しく説明する。
図4等に示すように、側構連結部材100の吊手棒50側の端部は、T字ジョイントJを介して前後吊手棒50に連結されている。また、側構連結部材100の側構20側の端部に設けられた減衰装置200は、戸袋内柱24の傾斜部24aの上端部近傍に、例えば図示しないジョイントを介して、ボルト−ナット等で固定されている。
【0031】
図4に示すように、側構連結部材100は、吊手棒側端部101、側構側端部102、中間部103を備えている。側構連結部材100は、一本の丸パイプを曲げ加工することによってこれらの各部を形成し、S字上に屈曲して一体に成形されている。
吊手棒側端部101は、吊手棒50から枕木方向外側に延びた部分であり、水平ないしは外側がやや持ち上がるように緩やかに傾斜している。
側構側端部102は、荷棚80の傾斜に沿って、枕木方向内側が外側に対して高くなるように傾斜している。側構側端部102の側構20側の端部には、減衰装置200が接続されている。
中間部103は、吊手棒側端部101と側構側端部102とを連結する部分であって、側構側端部102側のほうが高くなるように傾斜している。
このような側構連結部材100の形状は、例えば、荷棚80に荷物を載せる際のアクセス等を考慮して設定される。
また、図3に示すように、側構連結部材100は、上方から見た平面形はほぼ直線状とされ、枕木方向に沿って配置されている。
【0032】
荷棚端部連結部材110は、例えば金属製の丸パイプ材によって形成され、荷棚80の最も車幅方向内側(突端部側)のパイプ82と、前後吊手棒50とを連結するものである。
図5に示すように、荷棚端部連結部材110は、実質的にストレートな丸パイプとして形成されるとともに、その両端部は、T字ジョイントJを介して、前後吊手棒50及びパイプ82に連結されている。
このようなT字ジョイントJは、例えばビス等によって各部材に締結され、容易に着脱可能となっている。
また、荷棚端部連結部材110の前後吊手棒50側の端部には、荷棚端部連結部材110と前後吊手棒50との相対運動を伴う振動を、粘弾性部材によって減衰させる減衰装置210が設けられている。減衰装置210の前後吊手棒50側の端部は、前後吊手棒50に固定されるT字ジョイントJに接続されている。
荷棚端部連結部材110は、前後吊手棒50側の端部がパイプ82側の端部よりも高くなるように傾斜して配置されている。
また、図3に示すように、荷棚端部連結部材110は、上方から見た平面形はほぼ直線状とされ、枕木方向に沿って配置されている。
【0033】
荷棚基部連結部材120は、例えば金属製の丸パイプ材によって形成され、荷棚80のブラケット81のフランジ部81aと、前後吊手棒50とを連結するものである。
荷棚端部連結部材120の前後吊手棒50側の端部には、荷棚基部連結部材120と前後吊手棒50との相対運動を伴う振動を、粘弾性部材によって減衰させる減衰装置220が設けられている。
図5に示すように、荷棚基部連結部材120は、実質的にストレートな丸パイプとして形成されるとともに、前後吊手棒50側の端部は、減衰装置220及びT字ジョイントJを介して、前後吊手棒50に連結されている。
また、荷棚基部連結部材120の荷棚80側の端部は、フランジを形成したジョイント121を介して、ブラケット81のフランジ部81aに連結されている。
ジョイント121は、そのフランジをブラケット81のフランジ部81aとともに、内装パネルPの裏側に設けられた図示しない受金に、ビスの共締め等によって固定される。
【0034】
荷棚基部連結部材120は、前後吊手棒50側の端部がブラケット81側の端部に対して高くなるように傾斜して配置されるが、その傾斜度は荷棚端部連結部材110に対して緩やかとなっている。
また、図3に示すように、荷棚基部連結部材120は、上方から見た平面形はほぼ直線状とされ、枕木方向に沿って配置されている。
さらに、荷棚端部連結部材110と荷棚基部連結部材120とは、車両の前後方向における位置が近接して配置され、荷棚80と協働して実質的にトラス状の構造体を形成するようになっている。
【0035】
次に、上述した減衰装置200についてより詳細に説明する。
図6は、減衰装置200の外観斜視図である。
減衰装置200は、外筒201、粘弾性部材202等を備えて構成されている。
外筒201は、側構連結部材100の側構側端部102の外径よりも内径が大きい円筒状に形成されている。
外筒201の車幅方向内側の端部には、側構連結部材100の側構側端部102がほぼ同心となるように挿入されている。
また、外筒201の車幅方向外側の端部は、側構20の戸袋内柱24に固定されている。
側構側端部102は、外筒201に対して、側構20と前後吊手棒50との相対変位に応じて、相対変位可能となっている。
【0036】
粘弾性部材202は、外筒201の内周面と、側構連結部材100の側構側端部102の外周面との間に配置され、これらと接着等によって接合されている。
粘弾性部材202は、例えばエラストマ等の粘弾性を有する材料によって形成されている。
減衰装置200は、このような構成によって、外筒201と側構連結部材100との軸方向、ねじり方向、こじり方向等の相対変位に応じた減衰力を発生し、側構20と前後吊手棒50との相対変位を伴う振動を減衰させる機能を備えている。
【0037】
荷棚端部連結部材110、荷棚基部連結部材120にそれぞれ設けられる減衰装置210、220も上述した減衰装置200と実質的に同様の構成を有し、前後吊手棒50に固定され各連結部材の端部が挿入される外筒、及び、各連結部材の外周面と外筒との間に設けられた粘弾性部材を備えている。
なお、本実施形態では、減衰装置200は、側構連結部材の100の例えば側構20側の端部に設けているが、これに限らず、例えば前後吊手棒50側の端部や、中間部に設けてもよい。
また減衰装置210,220は、各連結部材110,120の例えば前後吊手棒50側の端部に設けているが、これに限らず、例えば側構20側の端部や、中間部に設けてもよい。
また、各連結部材100,110,120の両端部等、複数個所に減衰装置を設けてもよい。
【0038】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した鉄道車両用車体の第2実施形態について説明する。なお、以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
第2実施形態の鉄道車両用車体は、実施形態1における減衰装置200の粘弾性部材202の剛性を、パラメータスタディのため高めたものである。
【0039】
以上説明した第1、第2実施形態によれば、荷棚80の先端部及び基部と、前後吊手棒50とを連結することによって、屋根構10−灯具受40−吊手棒受60−前後吊手棒50−荷棚端部連結部材110及び/又は荷棚基部連結部材120−荷棚80−側構20が順次連結され、屋根構10と側構20との相対角度変化を拘束するトラス構造類似の構造体が形成される。
さらに、前後吊手棒50と、側構20の戸袋内柱24とを連結することによって、屋根構10−灯具受40−吊手棒受60−前後吊手棒50−側構連結部材100−戸袋内柱24−幕板受20a−屋根構10が順次連結され、屋根構10と側構20との相対角度変化を拘束するトラス構造類似の構造体が形成される。
これらの構造体は、屋根構10及び側構20の面外変形を伴う振動を減衰させる効果も有する。これによって、車体1の減衰能が向上し、振動の抑制による乗り心地の向上を図ることができる。
【0040】
ここで、側構連結部材100、荷棚端部連結部材110、荷棚基部連結部材120、減衰装置200,210,220以外の各要素は、一般的な鉄道車両用車体であれば通常設けられているものであることから、第1実施形態においては、簡素な構成の連結部材100、110、120を設けることによって、上述した効果を得ることができ、既存の車両であっても小規模な設計変更、施工等によって、車両の質量、コストをほとんど増加させることなく効果的に車体剛性を向上することができる。
そして、実施形態1においては、各連結部材100,110,120の端部に、減衰装置200,210,220を設けたことによって、側構20と屋根構10とが相対変位し、各連結部材100,110,120への軸方向、ねじり方向、こじり方向等の入力を伴う車体の曲げ振動が発生した場合に、これを減衰させる効果を発揮する。
このような減衰装置200,210,220による効果について、以下詳しく説明する。
【0041】
以下、上述した各実施形態の鉄道車両用車体の有限要素法(FEM)による評価結果について、以下説明する本発明の比較例1、2と対比して説明する。
比較例1の鉄道車両用車体は、実施形態1の鉄道車両用車体から、側構連結部材100、荷棚端部連結部材110、荷棚基部連結部材120、減衰装置200,210,220を撤去したものであり、通常使われる通勤型車両の条件に該当する。
また、比較例2の鉄道車両用車体は、実施形態1の鉄道車両用車体から、側構連結部材100、荷棚端部連結部材110、荷棚基部連結部材120に設けられる減衰要素200,210,220を除去し、この除去箇所を直結してリジットに結合したものである。
【0042】
FEMで用いた振動解析モデルは、1車両全体を対象としたもので、構体に関しては外板等の板部はシェル要素、垂木や横はり等のはり部はビーム要素でモデル化した。
車内の設備については、内装板や空調用のダクトなどのモデル化は省略し、吊手棒、荷棚、腰掛フレーム、腰掛前のスタンションポール等はビーム要素でモデル化した。
材料特性のうち、質量密度、ヤング率、ポアソン比は、各部位ごとに使用されている(材料(例えば、ステンレス鋼、普通鋼、アルミニウム合金等)の代表的な物性値を用いた。
一方、車体としての減衰特性は、一般的な金属材料そのものの値よりも、大きい傾向があることが知られている。これは、構体接合部の摩擦や、内装部材等の影響によるものと考えられているが、実態に即した値を部位ごとに設定することは困難であるため、ここでは、全ての材料に一定の構造減衰(3%)を与えた。
【0043】
車体はまくらはりの位置(4点)で、空気ばねであるまくらばねに相当する剛性を持つスプリング要素により台車枠のモデル上に支持した。
台車枠、輪軸は、質量と慣性モーメントを考慮した剛体として考慮し、けん引装置や軸ばねは、スプリング要素としてモデル化した。
【0044】
各連結部材は、外径30mmのステンレス鋼と普通鋼のクラッド管とし、粘弾性部材の厚さは6mmとした。また、外筒は鋼製で外径48.6mmとした。これらはいずれもソリッド要素でモデル化し、金属部の材料特性は、一般的に使用されているものを与え、粘弾性体については、材料の諸元値を参照し、せん断弾性率として0.66N/mmを設定した。
粘弾性体の長さは設計パラメータであり、それに比例して剛性値を変更することができるため、ここでは例えば15mm(第1実施形態)、75mm(第2実施形態)の場合についてモデルを作成した。
このモデルで連結部材及び外筒の間に、連結部材の軸方向、もしくは連結部材が回転しないような軸直角方向の静荷重を加え、それぞれの条件で発生した変位との関係から、並進ばねの特性を求めた。
また、連結部材の一端のみに軸直角方向の荷重を加え、そのときの変位(回転角)からこじり剛性を、また軸回りのモーメントを与えたときの変位(回転角)から、ねじり剛性を求めた。
【0045】
前項で求めた粘弾性部材の剛性値を、連結部材の粘弾性支持端のスプリング要素に与えることで、全体としての車体モデルに適用した。
スプリング要素の減衰比は、材料の諸元値として与えられた0.135に設定した。
モデル内の要素は一辺のサイズが概ね100mm程度となるように作成し、振動モードを求めた。
なお、比較例1、2におけるFEM解析の結果は、比較例1、2の実物試験車体の台上加振試験結果の実測データと比較したところ、振動形状や出現の順序(固有振動数の相対的な大小)は概ね一致していることが確認されている。
【0046】
これらのFEMモデルに対して、周波数応答解析を行い、車輪位置に上下加速度外乱を与えて、車体の代表点における加速度PSDを求めた。
代表的な測定点のPSDについて、第1実施形態、第2実施形態、比較例1、比較例2を比較したものを図7乃至図10に示す。
図7乃至図10は、各実施形態及び比較例のFEMによる周波数応答解析結果を示すグラフである。
図7は床上台車直上、図8は床上中央部、図9は床上中央部窓際、図10は腰掛フレーム上のデータをそれぞれ示している。
各図において、横軸は周波数を示し、縦軸は加速度PSDを示している。
【0047】
図7に示す台車直上の測点では、比較例1の9Hz付近にピークが認められる。
これに対し、比較例2ではピークが10.5Hz付近に移動しており、剛性向上効果が確認できるが、ピークの高さ及び鋭さにはほとんど変化がない。
一方、減衰装置を設けた第1、第2実施形態では、周波数の上昇量は比較例2よりも小さいが、ピークが急峻でなくなるとともに、高さが低くなっている。
【0048】
また、図9に示す車体中央窓際と図10に示す腰掛フレーム上(車体中央部直近)では、8Hz付近と13Hz付近の振動が顕著である。
前者は比較例2、第1実施形態、第2実施形態の差が比較的小さいが、後者では特に第2実施形態でピークが鈍化している。
このように、モードによって効果の程度は異なるが、全体として、比較例1、2はPSDの山谷がはっきりしているのに対し、第1、第2実施形態は、減衰効果により比較的ピークが鈍っており、極大値と極小値との差が小さい傾向が確認できる。
【0049】
また、図7乃至図10の凡例には、各条件の乗り心地レベルLについて、比較例1を基準とした増減値を示した。
の算出は、曲げ振動と関連が大きいPSDの5〜20Hz成分を用いて計算した。
ここで示した測点では、比較例2、第1実施形態、第2実施形態のLは、比較例1と比較して概ね減少しているが、比較例2では、PSDの山谷の傾向が変化し、特に反共振が生じることによる影響が大きいのに対し、第1実施形態、第2実施形態では、ピーク値自体が減少する傾向が認められ、両者ではメカニズムが異なることがわかる。
【0050】
以上のようにして求めた車体加速度PSDのうち、ほぼ等間隔で長手方向(車両前後方向)に7列、幅方向(枕木方向)に3列の21点と、長手方向中央付近の腰掛フレーム2点の合計23点を評価点として設定した。
図11は、この評価点における乗り心地レベルLの比較結果を示す図である。
図11(a)、図11(b)、図11(c)は、比較例1を基準とした比較例2、第1実施形態、第2実施形態におけるLの増減値を示しており、負の絶対値が大きいほど、乗り心地向上効果が高いと評価される。
【0051】
図11において、数値を配置した各欄が、概ね評価点の車体上の位置に対応し、図の左右が車体の長手方向、上下が車体の幅方向を示す。
比較例2では、車体中央付近ではL値の減少量が大きいが、車端ではむしろL値が増加している測点もみられる。
これに対し、第1実施形態、第2実施形態では、L値が増加している測点は見当たらない。
第1実施形態と第2実施形態との比較では、粘弾性体の長さの値が大きい第2実施形態で振動低減効果が高いことがわかる。
【0052】
最後に、車体(床上)全体としての振動低減効果を評価するため、L算出の過程で得られる感覚加速度パワーの比較結果を示す。
図12は、図11の全測点における感覚補正加速度パワーの5〜20Hz成分の総和の割合を示すグラフである。
図12に示すように、第2実施形態においては、床面全体としての評価で、振動のパワーが比較例1に対して約半減していることがわかる。
【0053】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。
車体を構成する各部材の形状、材質、製法、構造等は、上述した各実施形態に限定されることなく、適宜変更することができる。例えば、吊手棒及び吊手棒受の本数、配置等は適宜変更することができる。
また、各実施形態では各連結部材はいずれも丸パイプ状の部材を用いて形成しているが、これに限らず、他の材質や製法としてもよい。例えば、アルミニウム系合金の鋳物や押し出し材等を用いてもよい。また、複数の部材を組み立てて各連結部材を構成してもよい。さらに、各連結部材の本数や配置、その両端部の接続箇所、接続方法等も特に限定されない。
また、減衰手段の構成も、各実施形態のような粘弾性部材を用いたものに限らず、適宜変更することが可能である。
また、荷棚の構造、材質、製法や、連結部材との連結方法も特に限定されない。
【符号の説明】
【0054】
1 鉄道車両用車体
10 屋根構
11 屋根外板 12 垂木
20 側構 20a 幕板受
21 外板 22 ドア開口
23 窓開口 24 戸袋内柱
24a 傾斜部 25 戸尻柱
25a 傾斜部 26 柱状部材
30 床構
40 灯具受け 50 前後吊手棒
60 吊手棒受け 71,72 横吊手棒
80 荷棚 81 ブラケット
81a フランジ部 82 パイプ
90 妻構
100 側構連結部材 101 吊手棒側端部
102 側構側端部 103 中間部
110 荷棚端部連結部材
120 荷棚基部連結部材 121 ジョイント
D ダクト S 吊手
J T字ジョイント P 内装パネル
200 減衰装置 201 外筒
202 粘弾性部材 210 減衰装置
220 減衰装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根構、側構、及び、床構を有する鉄道車両用車体であって、
側構と屋根構又は他方の側構を直接又は間接に連結する連結手段を備え、
前記連結手段の一部に前記連結手段の両端部間の相対変位を伴う振動を減衰させる減衰手段を設けたこと
を特徴とする鉄道車両用車体。
【請求項2】
前記屋根構から下方へ突き出して形成された吊手棒受と、
前記吊手棒受の下端部に支持され車両の前後方向にほぼ沿って延びた吊手棒とを備え、
前記連結手段は側構と前記吊手棒又は吊手棒受とを連結する側構連結部材を有し、
前記側構連結部材に前記減衰手段を設けたこと
を特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用車体。
【請求項3】
前記側構の上部近傍から車幅方向内側へ突き出して設けられた荷棚を備え、
前記連結手段は前記荷棚の車幅方向内側の端部と前記吊手棒又は吊手棒受とを連結する荷棚端部連結部材を有し、
前記荷棚端部連結部材に前記減衰手段を設けたこと
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両用車体。
【請求項4】
前記連結手段は前記荷棚の基部と前記吊手棒又は吊手棒受とを連結する荷棚基部連結部材を有し、
前記荷棚基部連結部材に前記減衰手段を設けたこと
を特徴とする請求項3に記載の鉄道車両用車体。
【請求項5】
前記荷棚端部連結部材と前記荷棚基部連結部材とを、車両の前後方向における位置を隣接又は一致させて配置したこと
を特徴とする請求項4に記載の鉄道車両用車体。
【請求項6】
前記屋根構から下方へ突き出して形成された吊手棒受と、
前記吊手棒受の下端部に支持され車両の前後方向にほぼ沿って延びた吊手棒と、
前記側構の上部近傍から車幅方向内側へ突き出して設けられた荷棚とを備え、
前記連結手段は前記荷棚の基部と前記吊手棒又は吊手棒受とを連結する荷棚基部連結部材を有し、
前記荷棚基部連結部材に前記減衰手段を設けたこと
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鉄道車両用車体。
【請求項7】
前記吊手棒及び前記吊手棒受は枕木方向に離間して複数設けられ、
前記連結手段は複数の前記吊手棒又は前記吊手棒受の間を連結するとともに枕木方向にほぼ沿って延びた吊手棒間連結部材を有すること
を特徴とする請求項2から請求項6までのいずれか1項に記載の鉄道車両用車体。
【請求項8】
前記減衰手段は、前記連結手段の一部を構成するとともに相対移動可能とされた第1部材と第2部材との間を粘弾性を有する材料からなる粘弾性部材を介して接続して構成されること
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の鉄道車両用車体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−52734(P2013−52734A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191412(P2011−191412)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(712004783)株式会社総合車両製作所 (40)