説明

鉄道車輌用鋳鉄制輪子

【課題】制輪子の当接面を満遍なく車輪の踏面に当接させることでブレーキ性能を向上し、且つ制動ブロックを鋳込むことにより耐摩耗性を改善し、制輪子が摩耗した場合、摩擦部分のみ交換でコストを低減させることができる鉄道車輌用制輪子を提供する。
【解決手段】弾性を有する材料によって円弧状に形成された裏板2に、複数の鋳鉄ブロック3が着脱自在に設けられ、これら鋳鉄ブロック3には無数の連通気孔が形成されているセラミックスブロック10が鋳込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車輌の制動装置に使用される鉄道車輌用鋳鉄制輪子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道車輌用のブレーキ機構には踏面方式とディスク方式があり、在来線には踏面方式が多く採用されている。この踏面方式は、車輪の踏面に制輪子を押付け、ブレーキ力を得るものである。踏面方式の鉄道車輌用鋳鉄制輪子はブレーキ性能を向上させるために、制輪子を構成する鋳鉄合金の成分を変更したものがある他に、無数の連通気孔が形成されている発泡体状のセラミックスブロック(制動ブロック)を制輪子に鋳込んだものがある。
これらの鋳鉄制輪子は、剛性が高く鉄道車輪に当接する際に弾性変形することが殆どない。また、この制輪子は車輪踏面に鋳鉄粉が付着することにより車輪踏面の粗さが増加し、車輪とレールとの間の摩擦係数を高めることができる(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2873569号公報
【特許文献2】特許第3261478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述した従来技術においては、制輪子の当接面を満遍なく全範囲で車輪の踏面に当接させるのが困難であるため、ブレーキ性能の向上に限界がある。また、制輪子が摩耗した場合には制輪子そのものを交換する必要があるためにコストがかかるという課題がある。
【0004】
そこで、この発明は、制輪子の当接面を満遍なく車輪の踏面に当接させることでブレーキ性能を向上し、且つ制動ブロックを鋳込むことにより耐摩耗性を改善し、制輪子が摩耗した場合、摩擦部分のみの交換でコストを低減させることができる鉄道車輌用制輪子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、弾性を有する材料によって円弧状に形成された裏板に、複数の鋳鉄ブロックが着脱自在に設けられ、これら鋳鉄ブロックには多孔状の制動ブロックが鋳込まれていることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載した発明は、前記鋳鉄ブロックの制動摩擦面における前記制動ブロックの面積比が1〜3%であることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載した発明は、前記裏板に前記制動ブロックが一対設けられると共に、前記裏板の長手方向中央を基準にして振り分け配置され、これら鋳鉄ブロック内であって、前記裏板の中央寄りに前記制動ブロックが配置されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載した発明は、前記制動ブロックは、無数の連通気孔が形成されている発泡体状のセラミックスにより形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鋳鉄ブロックが裏板の曲げ弾性によって車輪踏面への追随性が向上し、車輪踏面との接触面積が増加するためブレーキ性能を向上させることができる。また、この鋳鉄ブロックに制動ブロックを鋳込むことにより、耐摩耗性を向上させることができる。この場合、制動ブロックを適正な割合(鋳鉄ブロックの制動摩擦面における制動ブロックの面積比が1〜3%)及び位置(鋳鉄ブロック内であって、バックメタルの中央寄りに制動ブロックが配置されている)に鋳込むことでブレーキ性能を確実に向上させることができる。
そして、裏板に鋳鉄ブロックが着脱自在に設けられているため、例えば、鋳鉄ブロックが摩耗した場合に、制輪子そのものを交換する必要がなく、鋳鉄ブロックのみ交換して裏板を流用することができる。このため、制輪子交換時のコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1、図2に示すように、鉄道車輌用鋳鉄制輪子1は、円弧状の裏板2に一対の鋳鉄ブロック3,3が裏板2の両端に設けられたボルト4a、ナット4bによって固定されたものである。
【0011】
裏板2は、弾性を有する板状の鋼が鉄道用の車輪11に沿うように湾曲形成されたものである。この裏板2における長手方向の略中央の外面2bには略台形状のコッタ部5が設けられている。一方、裏板2における長手方向の略中央の内面2aには一対の板状のストッパ6,6が幅方向に沿うようにして設けられている。これらストッパ6,6は裏板2の長手方向の中央を基準にして振り分け配置されている。また、裏板2の幅方向の両側であって、鋳鉄ブロック3,3に対応する部分に四つの側壁7が裏板2の内面2a側に向かって突出して設けられている。さらに、裏板2の両端に幅方向に沿う一対の側壁8,8が内面2a側に向かって突出して設けられ、この側壁8,8の幅方向略中央にボルト4a、ナット4bが設けられている。
【0012】
スットッパ6、側壁7及び側壁8によって形成された一対の収容部9,9には、一対の鋳鉄ブロック3,3が収容されている。鋳鉄ブロック3は、耐熱性、耐摩耗性等を考慮してニッケル、クロム等の合金元素を添加した合金鋳鉄により成形された直方体のものであって、ボルト4aがこの鋳鉄ブロック3を中央側に押圧することによりストッパ6とボルト4aとによって挟持された状態になっている。鋳鉄ブロック3の車輪11と対向する制動摩擦面13は、車輪11の踏面12に対応するように凹状に湾曲して形成されている。また、鋳鉄ブロック3の裏板2側の背面14は、裏板2に沿うように凸状に湾曲して形成されている。尚、鋳鉄ブロック3の背面14は、凸状に湾曲した形状の他に、平面形状や、凹状に湾曲した形状であってもよい。
【0013】
さらに、鋳鉄ブロック3にはセラミックスブロック10が鋳込まれている。
図3に示すように、セラミックスブロック10は炭化ケイ素粉体を焼結して円柱状に形成された発泡体であって、全体に無数の連通気孔が形成され、その開口率は85〜94%である。そして、このセラミックスブロック10は、一側面を鋳鉄ブロック3の制動摩擦面13に露出させた状態で、その全体が鋳鉄により鋳ぐるまれており、無数の連通気孔内にも鋳鉄が充填した状態になっている。
【0014】
図4は、制動摩擦面13におけるセラミックスブロック10の面積比(制動摩擦面13におけるセラミックスブロック10の割合)に対する平均摩擦係数の向上割合を示したものである。
同図に示すように、鋳鉄ブロック3の制動摩擦面13におけるセラミックスブロック10の面積比を変化させてブレーキ試験を行い、平均摩擦係数が鋳鉄ブロック3にセラミックスブロック10を鋳込まない場合に対してどの程度向上したかを求めた。ここで、試験条件は、ブレーキ初速度を125km/h、135km/h、145km/h、押付力を両抱き式で34kN、試験回数5回、輪重を6.5t相当とした。試験の結果、鋳鉄ブロック3の制動摩擦面13におけるセラミックスブロック10の面積比が1〜3%のとき、とりわけ略2%において、平均摩擦係数を高める効果が高いことが観察できた。
【0015】
次に、鋳鉄ブロック3に鋳込むセラミックスブロック10の最適位置を図5〜図9に基づいて説明する。尚、セラミックスブロック10の最適位置は、鋳鉄ブロック3が車輪11の踏面12と接触した際の鋳鉄ブロック3の各箇所の温度を測定することによって判断できる。すなわち、最も温度の高い箇所、つまり、鋳鉄ブロック3と踏面12とがより良好に接触している箇所にセラミックスブロック10を配置すればセラミックスブロック10の効果が最大限発揮される箇所となる。
【0016】
図5に示すように、鋳鉄ブロック3毎に三箇所を測定箇所とした。それぞれの測定箇所R1,R2,R3,R4,R5,R6,L1,L2,L3,L4,L5,L6は、制動摩擦面13から深さ10mmで、鋳鉄ブロック3の外側端部から40mm,80mm,120mmの三箇所である。試験条件は、ブレーキ初速度を135km/h、押付力を両抱き式で34kN、試験回数5回、鋳鉄ブロック初期温度を100℃とした。尚、図5は、図示都合上車輪11の外周(踏面12)に対して、鋳鉄ブロック3の制動摩擦面の曲率が一致していないが、実際には図1に示すように両者は略一致している。
【0017】
図6〜図9は、縦軸を鋳鉄ブロックの各測定箇所の測定温度、横軸をブレーキ時間としたときの各測定箇所とブレーキ時間との温度関係を示している。尚、図6、図7は一回目の試験の測定結果を示し、図6は左側(図5中左側)の鉄道車輌用鋳鉄制輪子1、図7は右側(図5中右側)の鉄道車輌用鋳鉄制輪子1を各々対象としている。また、図8、図9は3回目の試験の測定結果を示し、図8は左側(図5中左側)の鉄道車輌用鋳鉄制輪子1、図9は右側(図5中右側)の鉄道車輌用鋳鉄制輪子1を各々対象としている。
図6〜図9に示すように、鋳鉄ブロック3において裏板2の中央寄り(R2,R3,R4,R5,L2,L3,L4,L5)が最も温度が高いことが観察できた。
【0018】
図10は、本発明に係る鉄道車輌用鋳鉄制輪子1と現行の制輪子との平均摩擦係数(縦軸)をブレーキ回数(横軸)に応じて比較したもので、図11は、両者の摩耗量の比較を示す。試験条件は、ブレーキ初速度を135km/h、押付力を両抱え式で40kN、試験回数5回、輪重を6.5t相当とした。図10に示すように、何れのブレーキ回数においても現行の制輪子と比較して平均摩擦係数が向上していることが観察できた。また、図11に示すように、現行の制輪子と比較して摩耗量が減少していることが観察できた。
【0019】
したがって、上述の実施形態によれば、裏板2に設けられた鋳鉄ブロック3を車輪11の踏面12に押付ければ裏板2の曲げ弾性によって鋳鉄ブロック3の踏面12への追随性が向上し、踏面12への鋳鉄ブロック3の接触面積を増加させることができる。このため、ブレーキ性能を向上させることが可能となる。
【0020】
また、鋳鉄ブロック3にセラミックスブロック10を鋳込む際には、鋳鉄ブロック3の制動摩擦面13におけるセラミックスブロック10の面積比(制動摩擦面13におけるセラミックスブロック10の占める割合)を1〜3%、好ましくは略2%とし、さらに、セラミックスブロック10を鋳鉄ブロック3内であって裏板2の中央寄りに鋳込むことで、よりブレーキ性能を向上させることが可能となる。
【0021】
また、鋳鉄ブロック3が裏板2に設けられたストッパ6とボルト4aによって挟持された状態となっているため、ボルト4aを緩めれば容易に鋳鉄ブロック3を裏板2から脱着させることができる。このため、例えば、鋳鉄ブロック3が摩耗して鉄道車輌用鋳鉄制輪子1の交換が必要になった場合であっても、鋳鉄ブロック3のみ交換するという簡単な作業でよく、コストも低減できる。
【0022】
さらに、鉄道車輌用鋳鉄制輪子1は、裏板2に鋳鉄ブロック3が着脱自在に設けられたものであるため、鋳鉄ブロック3の材質を変更したものや、鋳鉄ブロック3に鋳込ませるセラミックスブロック10の配置を変化させたものを複数用意しておき、仕様に応じて鋳鉄ブロック3を交換するという簡単な作業でブレーキ性能を変更させることができる。
【0023】
また、裏板2に設けられたストッパ6によって鋳鉄ブロック3が位置決められるため、鋳鉄ブロック3は裏板2に対して中央基準として対称配置することができると共に、例えば、鋳鉄ブロック3を交換した場合であっても、交換前の鋳鉄ブロック3の位置と交換後の鋳鉄ブロック3の位置との再現性を確保することができる。このため、鉄道車輌用鋳鉄制輪子1のブレーキ性能を安定させることができる。
【0024】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、例えば、鉄道車輌用鋳鉄制輪子1は裏板2に一対の鋳鉄ブロック3が設けられた場合について説明したが、この鋳鉄ブロック3を3個以上設けてもよい。
また、上述の実施形態では、例えば、セラミックスブロック10は円柱状に形成されたものである場合について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、円柱形状に限られるものではない。
さらに、上述の実施形態では、例えば、セラミックスブロック10は全体に無数の連通気孔が形成されたもので、その開口率は85〜94%である場合について説明したが、開口率はこれに限るものではなく、全体に無数の連通気孔が形成されたものであればよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態における鉄道用車輌制輪子の側面図である。
【図2】本発明の実施形態における鉄道用車輌制輪子の正面図である。
【図3】本発明の実施形態におけるセラミックスブロックの斜視図である。
【図4】本発明の実施形態における制動摩擦面におけるセラミックスブロックの割合に対する平均摩擦係数の向上割合を示したグラフである。
【図5】本発明の実施形態における鉄道用車輌制輪子の測定箇所を示す側面図である。
【図6】本発明の実施形態における鋳鉄ブロックの温度状況を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態における鋳鉄ブロックの温度状況を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態における鋳鉄ブロックの温度状況を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態における鋳鉄ブロックの温度状況を示すグラフである。
【図10】本発明の実施形態における鋳鉄ブロックのブレーキ性能を示す摩擦係数比較図である。
【図11】本発明の実施形態における鋳鉄ブロックのブレーキ性能を示す摩耗量比較図である。
【符号の説明】
【0026】
1 鉄道車輌用鋳鉄制輪子
2 裏板
3 鋳鉄ブロック
4a ボルト
4b ナット
10 セラミックスブロック(制動ブロック)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する材料によって円弧状に形成された裏板に、複数の鋳鉄ブロックが着脱自在に設けられ、これら鋳鉄ブロックには多孔状の制動ブロックが鋳込まれていることを特徴とする鉄道車輌用鋳鉄制輪子。
【請求項2】
前記鋳鉄ブロックの制動摩擦面における前記制動ブロックの面積比が1〜3%であることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車輌用鋳鉄制輪子。
【請求項3】
前記裏板に前記制動ブロックが一対設けられると共に、前記裏板の長手方向中央を基準にして振り分け配置され、これら鋳鉄ブロック内であって、前記裏板の中央寄りに前記制動ブロックが配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鉄道車輌用鋳鉄制輪子。
【請求項4】
前記制動ブロックは、無数の連通気孔が形成されている発泡体状の炭化ケイ素セラミックスにより形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れかに記載の鉄道車輌用鋳鉄制輪子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−2548(P2008−2548A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−171775(P2006−171775)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】