説明

鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤及び洗浄方法

【課題】製鉄所の操業を停止することなく、その操業中に循環冷却水系内に設置された濾過器及び/又は冷却塔のマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解除去することができる循環冷却水系用洗浄剤及び洗浄方法を提供する。
【解決手段】鉄鋼製造工程における循環冷却水系に設置された濾過器及び/又は冷却塔のマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解する洗浄剤であって、ホスホン酸及び/又はその塩を含んでなる鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤。濾過器及び/又は冷却塔にホスホン酸及び/又はその塩を含んでなる洗浄剤を接触させて、マンガンによる汚れ又はマンガン析出物を溶解する鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤及び洗浄方法に関する。詳しくは、本発明は、製鉄所の真空脱ガス法設備の直接水系における濾過器及び/又は冷却塔に発生するマンガン汚れやマンガン析出物を、製鉄所の操業を停止することなく、効率的に溶解させて除去する洗浄剤と洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼を製造するために、循環冷却水として大量の水が使用されている。このような循環冷却水系としては、例えば、高炉・転炉から発生する排ガス集塵循環冷却水や、製鋼工程で、鉄鋼に含まれる成分を調整するための脱ガス装置に使用される循環冷却水等が挙げられる。
【0003】
即ち、高炉・転炉、特に高炉からは、塵芥を含む排ガスが大量に発生し、それらは集塵冷却水と接触させることで、排ガスの浄化と冷却を行い、浄化ガスは大気中へ放出される。一方、集塵冷却水は、濾過や沈殿処理等の固液分離処理を受け、処理水は冷却塔に移送されて冷却され、再度、前記集塵冷却水として循環使用されるように、循環冷却水系が形成されている。
【0004】
また、脱ガス装置は、鉄鋼製造中に溶鋼に取り込まれた水素や酸素、窒素、及びその他の有害元素等の除去や、炭素の除去による極低炭素鋼の製造等に、多目的に使用されている。
このような脱ガス装置を使用する脱ガス法としては、真空脱ガス法と取鍋脱ガス精錬法とが適用される。真空脱ガス法としては、流滴脱ガス法(取鍋流滴脱ガス法、真空造塊法、出鋼脱ガス法等)、真空容器内脱ガス法(DH(真空吸い上げ脱ガス)法、RH(還流
式脱ガス)法等)や取鍋攪拌脱ガス法(ガス攪拌法、電磁誘導攪拌法)があり、一方、取鍋脱ガス精錬法としては、アーク加熱取鍋脱ガス法(ASEA−SKF法、VAD法等)や真空脱炭法(VOD法、RH−OB法等)がある。
【0005】
このような脱ガス法では、高性能大容量の真空ポンプが使用されるが、近年、維持管理が比較的容易なスチームエジェクターを使用して、真空ポンプに代替するか、又は真空ポンプの負荷を低減する方法が採用されている。
【0006】
このスチームエジェクターは、溶鋼から不必要成分を真空状態で抽気したガスと高圧水蒸気とを接触させた後、コンデンサーで、冷却水と直接接触させて前記水蒸気を冷却、凝縮することにより、除塵と真空維持を行う装置である。発生した凝縮水はその後、濾過や沈殿処理等の固液分離処理を受け、処理水は冷却塔に移送されて冷却され、再度、前記冷却水として循環使用されるように、循環冷却水系が形成されている。
【0007】
このような脱ガス装置を備える鉄鋼製造工程の循環冷却水系の一般的な構成を図1を参照して説明する。
【0008】
図1は、真空脱ガス装置1として、RH型脱ガス装置を用いた図であり、溶鋼2を含む取鍋3の上部に、上昇管4と下降管5を有する真空容器6を設け、上昇管4から溶鋼2を真空容器6に吸い上げ、溶鋼中の不純物を抽気後、下降管5から再度取鍋3に溶鋼を戻すように構成されている。なお、通常、溶鋼2の攪拌のためにアルゴンガス等の不活性ガスが溶鋼2に吹き込まれるが、図1では図示されていない。
【0009】
真空容器6はスチームエゼクター10と連結され、前記抽気ガスがスチームエゼクター10に送られると、エゼクタ―10内で高圧水蒸気11と混合された後、コンデンサー12、例えばバロメトリックコンデンサー等で、冷却塔19からのガス冷却・洗浄水13と直接接触し、排ガスは冷却・凝縮される。その結果、真空容器6内の真空度が維持される。
なお、図1では、1段のスチームエゼクター10が図示されているが、必要により復数段設けることができる。
【0010】
不純物を含むスチームドレン14(凝縮水)はガスセパレーター(図示せず)に送られて集塵水とガスとに分離され、ガスは大気に放出される。一方、集塵水は、シールタンク15及び集塵水槽16を経て、固液分離のために濾過器17及び/又は沈殿池18に送られ、そこで懸濁物質が分離される。
濾過器17及び/又は沈殿池18で懸濁物質が分離除去された水は、冷却塔19に送給されて冷却され、再度スチームエゼクター10のコンデンサー12に送られる。
なお、集塵水は懸濁物質濃度が低い場合には、直接冷却塔19に送給される場合もある。
【0011】
濾過器17は必要に応じ、或いは定期的に逆洗水で逆洗洗浄され、逆洗排水は系外へ排出される。
【0012】
近年、鉄鋼用原材料の原産地の多様化と共に、原材料中の成分が変化し、不純物としてマンガンや亜鉛等を含むようになってきた。
原材料中のマンガンや亜鉛等は、上記脱ガス装置により溶鋼から除去され、水蒸気側に移行してコンデンサーで凝縮される結果、一定以上の濃度になると、マンガン或いはマンガンと亜鉛を含むスケールとして脱ガス循環水系中の配管壁や濾過器の濾材、冷却塔の充填材等、特に濾過器の濾材や冷却塔の充填材にマンガン汚れないしは析出物として付着する。
【0013】
鉄鋼製造工程の循環冷却水系、特に濾過器の濾材や冷却塔の充填材に、マンガン汚れやマンガンスケールが付着すると、次のような問題が起こる。
・濾過器の逆洗頻度が多くなることで工業用水の使用量が増える。
・冷却塔の充填材に汚れが付くため、熱交換効率が低下して冷却水を十分に冷却できなくなる。
・真空脱ガス装置に送る冷却水が冷えなくなること及び真空脱ガス装置内部のバロメトリックコンデンサーが汚れていくことにより、真空に要する時間が長くなることで、真空脱ガス法設備の生産性が落ちる。
【0014】
従来、製鉄所設備の操業中にマンガン析出物を溶解させる水処理薬剤に関しては、実用に至っている薬剤は提供されていないのが現状である。このため、従来は、上述の問題に対して、洗浄ないしはマンガンイオンや亜鉛イオンを強制的に酸化させて除去する方法や配管等を定期的に清掃することで対応している。マンガンイオンを強制的に酸化させて除去する方法としては、塩素、次亜塩素酸ソーダ又は過マンガン酸カリウムといった酸化剤を注入し、マンガンイオンを酸化させこれを濾過する方法などがあるが、この方法では、全残留塩素濃度1mg/L以上となるように酸化剤を添加すると金属の腐食が懸念され、また、対象水の水質の経時変化がある場合、残留塩素の管理は難しく設備腐食の危険性がある。
【0015】
このため、従来は、製鉄所設備の操業を停止して、濾過器や冷却塔の清掃を行うことで対応がなされているが、操業を停止しての清掃作業は生産性を著しく損なう。
【0016】
なお、特許文献1には、ジホスホン酸又はポリホスホン酸を含む金属酸化物の溶解剤が記載され、金属酸化物として、鉄、アクチニド、ランタニド、クロム、鉛、マンガンの酸化物が記載されているが、鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤として使用できるとの記載はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特表平5−507305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、製鉄所の操業を停止することなく、その操業中に循環冷却水系内に設置された濾過器及び/又は冷却塔のマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解除去することができる循環冷却水系用洗浄剤及び洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明(請求項1)の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤は、鉄鋼製造工程における循環冷却水系に設置された濾過器及び/又は冷却塔のマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解する洗浄剤であって、ホスホン酸及び/又はその塩を含んでなることを特徴とする。
【0020】
請求項2の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤は、請求項1において、前記ホスホン酸及び/又はその塩が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0021】
請求項3の鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤は、請求項1又は2において、前記循環冷却水系が、脱ガス装置を含む循環冷却水系であることを特徴とする。
【0022】
本発明(請求項4)の鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法は、鉄鋼製造工程における循環冷却水系に設置された濾過器及び/又は冷却塔にホスホン酸及び/又はその塩を含んでなる洗浄剤を接触させて、マンガンによる汚れ又はマンガン析出物を溶解することを特徴とする。
【0023】
請求項5の鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法は、請求項4において、前記ホスホン酸及び/又はその塩が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0024】
請求項6の鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法は、請求項4又は5において、前記濾過器の逆洗水に前記ホスホン酸及び/又はその塩を添加して、該濾過器の濾材に付着したマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解することを特徴とする。
【0025】
請求項7の鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法は、請求項4ないし6のいずれか1項において、前記濾過器及び/又は冷却塔に導入される循環冷却水中に前記ホスホン酸及び/又はその塩を添加して、該濾過器の濾材及び/又は冷却塔の充填材に付着したマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解することを特徴とする。
【0026】
請求項8の鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法は、請求項6又は7において、前記ホスホン酸及び/又はその塩を100〜10000mg/Lの添加量で添加することを特徴とする。
【0027】
請求項9の鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法は、請求項4ないし8のいずれか1項において、前記循環冷却水系が、脱ガス装置を含む循環冷却水系であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明で用いるホスホン酸及び/又はその塩(以下「ホスホン酸(塩)」と記載する。)は、MnイオンとZnイオンが共存する水系において、Mnイオン、更にはMnイオンとZnイオンの析出を抑制する付着防止効果並びにMn析出物等からなる汚れの溶解作用に優れ、特に水中の微細粒子ないし粗粒子に吸着して粒子の成長を抑制すると共に溶解する作用が非常に高く、これにより、鉄鋼製造工程の循環冷却水系に設けられた濾過器及び/又は冷却塔において、既に設備系内に付着しているマンガン汚れ又はマンガン析出物を効果的に溶解除去することができる。しかも、設備腐食等の危険性も少なく、薬注管理も容易である。
【0029】
本発明においては、操業を停止することなく、ホスホン酸(塩)を循環冷却水系の適当な箇所に添加することにより、上記のマンガン汚れ又はマンガン析出物の溶解除去効果を有効に発揮することができ、次のような優れた効果を得ることができる。
【0030】
・通常の操業中に濾過器の濾材や冷却塔の充填材の汚れを除去することができ、操業を停止しての清掃頻度やメンテナンス頻度を減らすことができる。
・濾過器の濾材の汚れ除去及び汚れ付着防止、マッドボール化の防止、濾材の流出防止により逆洗頻度や濾材の交換頻度を減少でき、工業用水の使用量を削減することができる。
・冷却塔の充填材の汚れを洗浄除去すると共に汚れ付着を防止することにより、冷却塔の冷却能力を維持することができ、冷却塔の水温上昇による生産性低下を防止すると共に、冷却塔の充填材の洗浄、交換頻度を低減することができる。また、冷却塔からの送水ラインの汚れ洗浄も可能となる。
・真空脱ガス法設備に送る冷却水温度を正常に保つこと並びに真空脱ガス法設備内部のバロメトリックコンデンサーの汚れ付着を防止することにより、真空に要する時間を正常に維持でき、真空脱ガス法設備の操業の安定化と高効率化による生産量の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】鉄鋼製造工程におけるRH型脱ガス装置を含む循環冷却水系の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0033】
本発明の循環冷却水系用洗浄剤の有効成分であるホスホン酸(塩)としては、任意のものが採用可能であり、そのようなホスホン酸としては、例えば、ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTMP)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(EDTP)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)、アミノメチレンホスホネート(AMP)、ポリアミノポリエーテルメチレンホスホネート(PAPEMP)、ホスホノポリカルボン酸(POCA)、1,2−ジヒドロキシ−1,2−ビス(ジヒドロキシホスホニル)エタン(DDPE)、2−ジヒドロキシジヒドロキシホスホニル−2−ヒドロキシプロピオン酸(DHHPA)、1,3−ビス[(1−フェニル−1−ジヒドロキシホスホニル)メチル]−2−イミダゾリジノン(BPDMI)、2,3−ビス(ジヒドロキシホスホニル)−1,4−ブタン二酸(BDBA)、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸(DTPMP)、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸(HDTMP)、ビス(ポリ−2−カルボキシエチル)ホスホン酸、及びこれらの水溶性塩、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0034】
本発明で用いるホスホン酸(塩)としては、とりわけ、性能の面から、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)、及びそれらの塩から選ばれるホスホン酸(塩)が好ましい。
これらのホスホン酸(塩)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0035】
ホスホン酸(塩)は通常1〜100重量%程度の濃度の水溶液として用いられる。
【0036】
本発明においては、このようなホスホン酸(塩)を鉄鋼製造工程の循環冷却水系の適当な箇所に薬注ポンプで添加することにより、系内に既に析出しているマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解させて除去する。この場合、ホスホン酸(塩)はその有効成分濃度として、洗浄対象とする設備への送水量に対して、100〜10000mg/L、特に100〜1000mg/L程度の比較的高い濃度となるように、所定時間、例えば5分〜100時間程度添加することが好ましい。この添加濃度が低過ぎると十分な洗浄効果が得られず、高過ぎてもそれ以上の効果が望めず、徒に薬剤コストが高騰して不経済である。
【0037】
なお、Mnイオン及び/又はイオンの析出防止効果を得るためには、Mnイオン:0〜100mg/L、Znイオン:0〜100mg/L、Feイオン:0〜100mg/Lを含む、pH6〜10の水系において、ホスホン酸(塩)添加濃度0.1〜5.0mg/Lの範囲でMnイオンとZnイオンの析出を抑制する効果があるが、既に析出したマンガン汚れ又はマンガン析出物の溶解除去においては、pH6〜10の水系において、ホスホン酸(塩)添加濃度100mg/L以上の高濃度で効果が得られる。
【0038】
本発明においては、ホスホン酸(塩)を鉄鋼製造工程の循環冷却水系のうち、特に濾過器及び/又は冷却塔に接触させて、濾過器及び/又は冷却塔におけるマンガン汚れ又はマンガン析出物の溶解除去を行うが、この場合、ホスホン酸(塩)の添加箇所は具体的には、図1に示す循環冷却水系において、次のような箇所とすることが好ましい。
【0039】
即ち、図1においてコンデンサー12からシールタンク15及び集塵水槽16を経て送給される集塵水中にはマンガンや亜鉛等の原材料由来の不純物が含まれており、操業を継続することによりこれらの濃度が高まり、マンガン汚れ又はマンガン析出物が水槽や配管、特に集塵水を処理する濾過器17や冷却塔19に付着するようになる。
【0040】
従って、ホスホン酸(塩)は、図1の添加箇所Aにおいて、マンガン汚れ又はマンガン析出物が付着している冷却塔19に導入される水(冷却塔19への戻り水)に、この戻り水中のホスホン酸(塩)濃度が100〜10000mg/L、特に100〜1000mg/L程度となるように添加することが好ましい。
【0041】
また、同様に、図1の添加箇所Bにおいて、マンガン汚れ又はマンガン析出物が付着している濾過器17に導入される水に、この導入水中のホスホン酸(塩)濃度が100〜10000mg/L、特に100〜1000mg/L程度となるように添加することが好ましい。
【0042】
更には、図1の添加箇所Cにおいて、濾過器17の逆洗水に、この逆洗水中のホスホン酸(塩)濃度が100〜10000mg/L、特に100〜1000mg/L程度となるように添加することが好ましい。
【0043】
このように、ホスホン酸(塩)を比較的高濃度で添加することにより、濾過器17や冷却塔19、更にはこの周辺の配管に付着しているマンガン汚れ又はマンガン析出物を効果的に溶解して除去することができる。なお、100〜1000mg/L程度の濃度では、マンガン汚れ又はマンガン析出物の溶解量は小さいが、ホスホン酸(塩)がマンガン汚れ又はマンガン析出物の隙間に浸透することにより効率的に除去することができるものと考えられる。
【0044】
図1は、本発明を適用し得る鉄鋼製造工程の循環冷却水系の一例を示すものであって、本発明の適用対象は何ら図1に示す循環冷却水系に限定されるものではなく、本発明は鉄鋼製造工程の高炉・転炉から発生する排ガス集塵循環冷却水や、鉄鋼に含まれる成分を調整するための前記各種の脱ガス装置に使用される循環冷却水等を対象にするが、本発明は特に、図1に示すような脱ガス装置を備える循環冷却水系の濾過器及び/又は冷却塔において、その付着による障害が問題となるマンガン汚れ又はマンガン析出物の洗浄除去に有効である。
【0045】
なお、本発明の洗浄対象となる濾過器17としては、特に制限はなく、従来公知の様々な濾過器の中から適宜選ぶことができる。この濾過器としては、例えば、アンスラサイト、砂、けい砂、砂利、活性炭、プラスチックなどの濾材を用いる濾過器の他に、必要に応じて精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜などの濾過膜を用いる膜濾過器等も用いることができる。
【0046】
なお、集塵水の懸濁物質が大きな粒子で沈降しやすい場合や、懸濁物質の濃度が高い場合には、沈殿池を設けて濾過器と組み合わせて用いることが好ましい。
沈殿池18としても、公知の任意のものが採用できるが、好ましくは凝集沈殿槽や加圧浮上槽に凝集剤を添加することにより行う方式のものが採用できる。この凝集剤に特に制限はなく、例えば、従来公知のアニオン性高分子凝集剤、ノニオン性高分子凝集剤、カチオン性高分子凝集剤、両性高分子凝集剤、さらには無機凝集剤などを挙げることができる。無機凝集剤としては、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド、塩化第二鉄、ポリ硫酸鉄などがある
【0047】
このような固液分離手段により、懸濁物質の分離が促進され、濾過器17及び/又は沈殿池18の出口では、通常、処理水中の懸濁物質濃度は循環する上に問題にならない程度、例えば50mg/L以下に処理されている。前述の如く、このように懸濁物質成分が分離された水は、次いで冷却塔19に送られ、そこで、大気と強制接触することで冷却されて、再度、前記のスチームエジェクター10のコンデンサー12に送られる。
【0048】
なお、冷却塔19の戻り水は沈殿池18のみで処理されても良く、濾過器17及び沈殿池18で処理されても良く(即ち、沈殿池で固液分離して得られた分離水を濾過器に送給して処理する。)、濾過器17のみで処理されても良い。また、集塵水中の懸濁物質濃度が低い場合には、一部の水を直接冷却塔19に戻しても良い。
【0049】
本発明においては、必要に応じて、ホスホン酸(塩)と共に、他の薬剤、例えば一般に添加される防食剤や殺菌剤、ホスホン酸(塩)以外のスケール防止剤、消泡剤等を併用することができる。
前記防食剤としては、リン酸塩、重合リン酸塩、リン酸エステル等のリン系化合物、亜鉛、アルミニウム及びニッケルなどの多価金属の塩類等が挙げられる。
前記殺菌剤としては、例えば、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩、クロルメチルトリチアゾリン、クロルメチルイソチアゾリン、メチルイソチアゾリン、次亜塩素酸塩、及びブロム化ヒダントイン等の等の塩素系、臭素系、及び有機窒素硫黄系薬剤等が挙げられる。なお、殺菌剤としては、機器により殺菌成分を発生させる方法でも良く、例えば、被処理液に食塩を加え、又は加えずにそのまま被処理液を電気分解する方法等も適用することができる。
前記ホスホン酸以外のスケール防止剤としては、分子量が500〜100,000程度のポリカルボン酸類が挙げられ、具体的には、ポリマレイン酸、ポリアクリル酸などが例示される。また、カルボン酸系不飽和単量体単位と、非イオン性不飽和単量体単位及び/又はスルホン酸基含有不飽和単量体単位とを有する共重合体も使用でき、例えば、マレイン酸とイソブチレンの共重合体、マレイン酸とアミレンの共重合体、(メタ)アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の共重合体、(メタ)アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とt−ブチルアクリルアミドの共重合体、(メタ)アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸の共重合体、(メタ)アクリル酸とイソプレンスルホン酸の共重合体、(メタ)アクリル酸とイソプレンスルホン酸と2−ヒドロキ シメチルメタクリレートとの共重合体、(メタ)アクリル酸とスチレンスルホン酸の共重合体などが例示される。
【0050】
水系内に銅材質を含む場合には、例えば、ベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールなどのアゾール類を併用すれば、銅材質に対する防食性能を向上させることができて好ましい。
前記消泡剤としては、シリコーン系消泡剤、プルロニック系又はポリオキシアルキレン系消泡剤、及び鉱物油系消泡剤等が挙げられる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
[実施例1〜6、比較例1〜12]
Mn析出物の溶解机上試験を実施し、Mn析出物の溶解効果を確認した。
実施試験条件及び試験方法は以下の通りである。
【0053】
<机上試験条件>
・初期濃度 Mn析出物:1000mg/L
・pH 8
・静置時間 24時間
・水温 20℃
【0054】
<机上試験方法>
Mn析出物が混入されている液に薬剤添加有りのものと無し(ブランク)のものを作製し、24時間静置する。その後0.1μmの濾紙を用いて濾過を行い、得られた濾液のMnイオン濃度を原子吸光度計を用いて測定し、Mn析出物の溶解率を以下の式で算出した。
Mn析出物の溶解率(%)=[薬剤を添加し静置後の濾液のMnイオン濃度]/[Mn析出物の初期濃度:1000mg/L]×100
表1に各例における添加薬剤の種類と添加量とMn析出物の溶解率を示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1より、本発明によればホスホン酸(塩)を好ましくは100〜10000mg/L、特に1000〜10000mg/Lの濃度で添加することにより、Mn析出物を効率的に洗浄除去することができることが分かる。
【符号の説明】
【0057】
1 RH型脱ガス装置
2 溶鋼
6 真空容器
10 スチ−ムエゼクター
11 高圧水蒸気
12 コンデンサー
17 濾過器
18 沈殿池
19 冷却塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼製造工程における循環冷却水系に設置された濾過器及び/又は冷却塔のマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解する洗浄剤であって、ホスホン酸及び/又はその塩を含んでなることを特徴とする鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤。
【請求項2】
請求項1において、前記ホスホン酸及び/又はその塩が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記循環冷却水系が、脱ガス装置を含む循環冷却水系であることを特徴とする鉄鋼製造工程における循環冷却水系用洗浄剤。
【請求項4】
鉄鋼製造工程における循環冷却水系に設置された濾過器及び/又は冷却塔にホスホン酸及び/又はその塩を含んでなる洗浄剤を接触させて、マンガンによる汚れ又はマンガン析出物を溶解することを特徴とする鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法。
【請求項5】
請求項4において、前記ホスホン酸及び/又はその塩が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記濾過器の逆洗水に前記ホスホン酸及び/又はその塩を添加して、該濾過器の濾材に付着したマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解することを特徴とする鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれか1項において、前記濾過器及び/又は冷却塔に導入される循環冷却水中に前記ホスホン酸及び/又はその塩を添加して、該濾過器の濾材及び/又は冷却塔の充填材に付着したマンガン汚れ又はマンガン析出物を溶解することを特徴とする鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記ホスホン酸及び/又はその塩を100〜10000mg/Lの添加量で添加することを特徴とする鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法。
【請求項9】
請求項4ないし8のいずれか1項において、前記循環冷却水系が、脱ガス装置を含む循環冷却水系であることを特徴とする鉄鋼製造工程における循環冷却水系の洗浄方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163488(P2010−163488A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4681(P2009−4681)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】