説明

鉄骨構造物の亜鉛被覆の補修方法

【課題】 鉄骨構造物の亜鉛被覆を有効かつ高率的に補修すること。
【解決手段】 鉄骨構造物の亜鉛被覆の補修方法は、鉄骨構造物の亜鉛被覆の経年変化を、分光測色計を用いて客観的に判定する段階と、判定結果に基づき補修箇所を決定する段階と、補修箇所における合金層の赤さびを除去する段階と、ならびに補修箇所に亜鉛塗料を塗布する段階とからなる。経年変化を判定する段階は鉄骨構造物の表面の分光反射率を分光測色計で測定し、測定結果を代表的経年変化状態の予め測定された分光反射率と比較し、皮膜の経年変化を判定することにより客観的に行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛被覆の補修方法に関し、さらに詳しく言えば、鉄骨構造物の亜鉛被覆の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨構造物に用いられる鋼材には、その防食・防錆のために溶融亜鉛めっき皮膜が施されているものが多い。この溶融亜鉛めっき皮膜を保護し、その外観を向上させるために、溶融亜鉛めっき皮膜の上にさらに通常の塗料による塗装が施されているものもある。
【0003】
ところが、塗膜を含めた全体の被覆が、経年変化により劣化すると、塗膜が剥がれ、溶融亜鉛めっき皮膜に赤さびが発生する。その塗膜補修は、毎回周期が短くなり、塗膜厚も肥大化する。赤さびを完全に除去しないで、塗膜補修をした場合には、補修後短期間で赤さびが拡大して塗膜が剥離することもある。
【0004】
近年、亜鉛塗料が開発され、一般塗料に代えて、亜鉛めっき皮膜の補修に活用されるようになってきた。この亜鉛塗料は、亜鉛粉末を特殊な樹脂溶剤中に混合したもので、溶融亜鉛めっき皮膜と同等の電気化学的作用を発揮する。このような亜鉛塗料の一例としては、商品名「ローバル」としてローバル株式会社から市販されているものがある(非特許文献1)。
【0005】
一方、本出願人は、先に「溶融亜鉛めっき皮膜の経年変化判定方法」(特許文献1)を提案した。この判定方法は、溶融亜鉛めっき皮膜の表面の分光反射率を分光測色計で測定し、測定結果を代表的経年変化状態の予め測定された分光反射率と比較し、皮膜の経年変化を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−333201号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ウェブページ「塗る亜鉛めっき」(http://www.roval.co.jp/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
大規模な鉄骨構造物(例えば、変電所、送電線鉄塔、鉄橋、照明塔、資材倉庫等)には、溶融亜鉛めっき皮膜の経年変化を観察するのに困難を来す場所もあり、観察に個人差を生じることもある。
【0009】
特許文献1では、溶融亜鉛めっき皮膜の経年変化を客観的に判定することはできるが、判定後の皮膜の補修に関しては具体的な対策が提案されていない。一方、非特許文献1では、劣化した溶融亜鉛めっき皮膜の補修に対して有力な亜鉛塗料を提供しているが、大規模な鉄骨構造物に対する溶融亜鉛めっき皮膜の経年変化の客観的判定法および具体的補修法についてはなんら示唆していない。
【0010】
従って、本発明の課題は、鉄骨構造物の亜鉛被覆を有効かつ高率的に補修する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の鉄骨構造物の亜鉛被覆の補修方法は、鉄骨構造物の溶融亜鉛めっき皮膜の経年変化を判定する段階と、判定結果に基づき補修箇所を決定する段階と、補修箇所における合金層の赤さびを除去する段階と、ならびに、補修箇所に亜鉛塗料を塗布する段階とからなる。
【0012】
経年変化を判定する段階は鉄骨構造物の表面の分光反射率を分光測色計で測定し、測定結果を代表的経年変化状態の予め測定された分光反射率と比較し、皮膜の経年変化を判定することにより客観的に行われる。
【0013】
合金層の赤さびを除去する段階は、手動工具または動力工具を用いて行うことができる。亜鉛塗料を塗布する段階は、塗装刷毛または塗料噴霧ガンを用いて行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、鉄骨構造物の亜鉛被覆を有効かつ高率的に補修することができる。また、塗布された亜鉛塗料は、既設の溶融亜鉛めっき皮膜と実質的に一体となるため、塗布後においても経年変化を同様に判定でき、腐食が鉄骨構造物の鋼材に浸透する前に対処できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1の(A)図から(C)図までは、鉄骨構造物の表面の一部断面説明図であって、亜鉛被覆の経年変化状態を概略的に示す。
【図2】図2の(A)図から(C)図までは、鉄骨構造物の表面の一部断面説明図であって、亜鉛被覆の劣化部分を補修するために本発明の方法が適用される工程順序を概略的に示す。
【図3】図2の(C)図に相当する、亜鉛被覆の劣化部分を補修するために本発明の方法が適用されたときの別の適用形態を示す図である。
【図4】亜鉛被覆の劣化部分を補修するために本発明の方法が適用されたときの別の適用形態を示す、図3と同様な図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図1および図2を参照して、本発明に基づく鉄骨構造物の亜鉛被覆の補修方法の実施例について説明する。
【0017】
本発明の実施例を説明する前に、先ず図1を参照して、鉄骨構造物の溶融亜鉛めっき皮膜上に亜鉛塗料を塗布した亜鉛被覆における経年変化状態を説明する。図1の(A)図から(C)図までは、従来の鉄骨構造物の表面の一部断面説明図であって、亜鉛被覆の経年変化状態を概略的に示す。
【0018】
図1の(A)図は、鉄骨構造物(図示せず)の亜鉛被覆10の正常な状態を示す。亜鉛被覆10は、鉄骨構造物の鋼材11の表面に下層から順に合金層(鉄と亜鉛との合金)12と亜鉛層13からなる溶融亜鉛めっき層と、溶融亜鉛めっき層上に塗布された亜鉛塗料層14から形成される。鉄骨構造物は、主として大規模な鉄骨構造物であって、例えば、変電所、送電線鉄塔、鉄橋、照明塔、資材倉庫等である。亜鉛塗料は、亜鉛粉末を特殊な樹脂溶剤中に混合したもので、例えば、前述した非特許文献1に開示されているような「ローバル」(登録商標)が利用される。この亜鉛塗料は、乾燥塗膜中の亜鉛含有率を96%まで高めることができ、常温で溶融亜鉛めっきと同等の効果が得られる。
【0019】
時間の経過と共に、亜鉛被覆10は劣化が進行する。初期の段階では、図1の(B)図に示すように、まず亜鉛塗料層14の厚みが減少する。さらに劣化が進行すると、図1の(C)図に示すように、亜鉛塗料層14、亜鉛層13、合金層12の一部が剥離し、陥没穴15が発生する。陥没穴15内では合金層12が大気に露出され、赤さび層16が発生する。このような状態にまでなるか、またはそれ以前に、亜鉛被覆10を補修する必要がある。
【0020】
そこで、本発明の亜鉛被覆の補修方法が実施されることになる。図2の(A)図から(C)図までを参照して、本発明の亜鉛被覆の補修方法の実施例について説明する。図2の(A)図から(C)図までは、従来の鉄骨構造物の表面の一部断面説明図であって、亜鉛被覆の劣化部分を補修するために本発明の方法が適用される工程順序を概略的に示す。
【0021】
図2の(A)図は、図1の(C)図と同様な図面である。この劣化状態では、前述したように、亜鉛塗料層14、亜鉛層13、合金層12の一部が剥離し、陥没穴15が発生する。陥没穴15内では合金層12が大気に露出され、赤さび層16が発生する。
【0022】
大規模な鉄骨構造物においては、検査員が肉眼で直接観察し、被覆劣化状態の箇所および程度を判定することもできる。しかし、検査員による肉眼直接観察では見落とし、または個人差が生じることもあり、さらには、図2の(A)図に示す劣化状態に至る直前の劣化状態を判定するのは困難であるともいえる。
【0023】
そこで、亜鉛被覆の経年変化を、分光測色計を用いて客観的に判定するのが望ましい。分光測色計を用いた客観的判定方法は、例えば、前述した特許文献1に開示された技術を応用することができる。すなわち、鉄骨構造物の表面の分光反射率を分光測色計で測定し、測定結果を代表的経年変化状態の予め測定された分光反射率と比較し、皮膜の経年変化を判定する。分光測色計は、固定式、移動式、携帯式等の各種機器が市販されている。現場の状況に応じて、いずれかの形式の分光測色計を選択すればよい。
【0024】
判定結果に基づき補修箇所を決定する。判定結果は、地上に別途設置した記録器に記録されると同時に、鉄骨構造物の補修箇所にも直接に標記される。
【0025】
次に、図2の(B)図に示すように、補修箇所(陥没穴15)における合金層12の赤さび16(図2の(A)図)を除去する。この赤さび除去は、手動工具または動力工具を用いて行うことができる。
【0026】
最後に、図2の(C)図に示すように、補修箇所(陥没穴15)に亜鉛塗料を塗布する。新亜鉛塗料層14bは、前亜鉛塗料層14aを被覆し、陥没穴15を充満する。新亜鉛塗料層14bと前亜鉛塗料層14aとは、渾然一体となる。このようにして、新亜鉛被覆10bが形成される。新亜鉛塗料の塗布は、塗装刷毛または塗料噴霧ガンを用いて行う。
【0027】
上述の説明において、新亜鉛塗料層14bは、補修箇所を含む前亜鉛塗料層14a上に被覆するように説明したが、図3に示すように、補修箇所である陥没穴15のみを新亜鉛塗料層14bが充満するように部分的に塗布して新亜鉛被覆10cを形成することで所期の効果を遂行できることは容易に理解されよう。また、上述の説明において、鉄骨構造物の被覆を、合金層12と亜鉛層13からなる溶融亜鉛めっき層の上に亜鉛塗料層14を被覆したものを処理対象物として説明したが、溶融亜鉛めっき層のみを有する場合であっても、図4に示すように、溶融亜鉛めっき層の上に新亜鉛塗料層14bを塗布して新亜鉛被覆10dを形成することで同様に所期の効果を実現できることは容易に理解されよう。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、大規模な鉄骨構造物のみならず、小規模な鉄骨構造物にも適用できる。また、上述の説明において、鉄骨構造物の亜鉛被覆は溶融亜鉛めっきの上に亜鉛塗料を塗装した構成で説明したが、溶融亜鉛めっきのみの場合であっても同様に適用できることは当業者にとって自明である。さらに、亜鉛塗料の代わりに通常の塗料が用いられている場合であっても、通常の塗料の盛り上がりや剥がれ等の現象の有無により補修必要箇所を判定することにより、本発明の方法を同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
10 亜鉛被覆
10b,10c,10d 新亜鉛被覆
11 鋼材層
12 合金層
13 亜鉛層
14 亜鉛塗料層
14a 前亜鉛塗料層
14b 新亜鉛塗料層
15 陥没穴(補修箇所)
16 赤さび

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨構造物の亜鉛被覆の経年変化を判定する段階と、
判定結果に基づき補修箇所を決定する段階と、
補修箇所における合金層の赤さびを除去する段階と、ならびに
補修箇所に亜鉛塗料を塗布する段階と、
からなる鉄骨構造物の亜鉛被覆の補修方法。
【請求項2】
前記経年変化を判定する段階は鉄骨構造物の亜鉛被覆表面の分光反射率を分光測色計で測定し、測定結果を代表的経年変化状態の予め測定された分光反射率と比較し、皮膜の経年変化を判定する、請求項1に記載の被覆補修方法。
【請求項3】
前記合金層の赤さびを除去する段階は、手動工具を用いて行う、請求項1に記載の被覆補修方法。
【請求項4】
前記合金層の赤さびを除去する段階は、動力工具を用いて行う、請求項1に記載の被覆補修方法。
【請求項5】
前記亜鉛塗料を塗布する段階は、塗装刷毛を用いて行う、請求項1に記載の被覆補修方法。
【請求項6】
前記亜鉛塗料を塗布する段階は、塗料噴霧ガンを用いて行う、請求項1に記載の被覆補修方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−185180(P2010−185180A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28569(P2009−28569)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(306033025)日本鉄塔工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】