説明

鉛アルカリ蓄電池

正極が二酸化鉛、負極が亜鉛、鉄、鉛またはカドミウムを含み、また電解質がアルカリ性である再充電可能な蓄電池が提供される。放電すると、二酸化鉛が一酸化鉛へと還元され、金属は酸化物へと酸化され、電解質は変化しない。蓄電池の充電時は、反応は逆である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年1月13日に出願された米国特許出願第10/756015号明細書に対応する一部継続出願である。
本発明は、特有の電気化学的性質によって区別される新規の種類の蓄電池に関する。その変化した状態で、正極は二酸化鉛を含み、負極は亜鉛、カドミウム、鉛、鉄および/またはこれらの金属の合金と組合せを含む。電解質は、アルカリ金属の水酸化物または水酸化テトラメチルアンモニウムのアルカリ性水溶液からなり、炭酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩および硫酸塩を含む様々な緩衝剤が添加されていてもよい。放電すると、二酸化鉛は一酸化鉛に還元され、金属は酸化物へと酸化される。
【背景技術】
【0002】
ほとんど全ての車両にみられる最も一般的な蓄電池は、鉛酸蓄電池である。この蓄電池は、二酸化鉛の正極と、金属鉛の負極と、電解質用の硫酸とを含んでいる。その主要な利点は低コストにある。それにも関らず、そのエネルギ密度は限定され、電解質は極めて腐食性が高い。さらに、放電中に電極と反応する充分な酸が必要である。米国特許第3862861号明細書に記載されているように、メインテナンスフリー型は発生ガスの損失を回避するものの、そのサイクル寿命は依然として限定される。
【0003】
鉛酸蓄電池の代替物の研究が進行中である。1934年まで遡ると、Drummは酸化ニッケル・亜鉛蓄電池および酸化銀・亜鉛蓄電池を開示している(米国特許第1955115号明細書)。これらの蓄電池は双方とも負極として亜鉛を、また電解質として苛性カリを使用している。酸化ニッケルまたは酸化銀は正極の役割を果たす。これらの蓄電池はエネルギ密度を向上させ、多くの用途にとって良好に折り合いがつく。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最適な蓄電池は、既存の蓄電池の最良の特徴を、欠点を含まず組み合わせたものであろう。このような蓄電池に対する需要は、バックアップシステムおよび自動車の用途では明白である。したがって、本発明の目的は、経済性と効率の双方が高い改良された蓄電池を提供することにある。本発明の上記の目的およびその他の目的、特徴並びに利点は、以下の説明および添付図面から認められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
正極が二酸化鉛を含み、負極が鉄、鉛、亜鉛およびカドミウムの群から選択された金属を含む再充電可能な蓄電池が開発された。放電すると、二酸化鉛は一酸化鉛に還元され、金属は酸化物へと酸化される。これらの反応は、蓄電池の充電時には逆になる。
電池の電解質はアルカリ性である。塩基の水溶液がアルカリ度をもたらす。これらの塩基には、アンモニアおよびアルカリ金属(すなわちリチウム、ナトリウム、カリウムおよびセシウム)の水酸化物が含まれる。加えて、水酸化テトラメチルアンモニウムを使用してもよい。
【0006】
ある種の添加剤は、電解質中の有効な緩衝剤であることが判明している。これらの添加剤には、炭酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩および硫酸塩が含まれる。これらは、対応する酸またはそれぞれの塩によって誘導されることができる。
本発明の実際の実施形態の電極は、電極の表面積を最大限にするため、シート、繊維、または粒子として構成されてもよい。導電率を高めるために、炭素質材料の散在性粒子を使用してもよい。電解質を固定するためにゲル化剤を添加してもよい。必要ならば、短絡を防止するために正極と負極との間に分離器を使用してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
鉛アルカリ蓄電池の化学は、その動作を理解するために重要である。当初は鉛から製造された正極は、変化すると二酸化鉛になり、放電中に一酸化鉛に還元される。負極が例えば亜鉛を含む場合は、この金属は電池が放電されると酸化亜鉛へと酸化される。電解質はアルカリ性であるため、溶液は過剰な水酸化物イオンを含む。放電中の電極の反応は、以下の化学反応式によって表すことができる。
正極:
(1)PbO+HO+2e→PbO+2OH
負極:
(2)Zn+2OH→ZnO+HO+2e
上記の反応で、水酸化亜鉛は酸化亜鉛の形成の中間段階であってよい。これらの化学反応式が複合されると、電池の反応は、
(3)PbO+Zn→PbO+ZnO
となる。反応全体で、放電中は濃度勾配があることはあるが、電解質の平均組成は変化しない。
【0008】
電池の再充電中、反応は逆になる。したがって、酸化鉛は二酸化鉛へと酸化され、酸化亜鉛は金属亜鉛へと還元される。充電に必要なemf(起電力)は外部の電源から供給される。放電−再充電サイクルは無限に反復されることができ、したがって蓄電池の機能を満たす。
新規の蓄電池を設計する際の特に困難な課題は、電気化学反応にさらされ、しかも電解質による腐食に耐える電極材料を特定することである。この点に関して理論は有用であるが、電極と電解質の双方について材料の有効性を実証するには経験的なデータが必要である。電池の相対的性能の1つの尺度は、その開路電圧である。別の考慮対象はサイクル寿命である。
【0009】
+2酸化状態での鉛は一般に2価陽イオンPb++を含む鉛塩を形成するので、アルカリ電池で鉛を使用することは疑問に思われるかも知れない。しかし、鉛化合物への水酸化物の反応によって、水溶液に可溶な陰イオンHPbOを形成することができる。したがって、Pb(OH)は両性水酸化物とみなされる。同様に、アルカリ水酸化物の濃厚溶液は二酸化物PbOに反応して、鉛酸イオンPbO−4およびPbO−2を形成し、これらも同様に水溶性である。
【0010】
これらの考慮事項を踏まえ、新規の電池の研究の1つの目標は電解質中の水酸化物の濃度を制御することにあった。その成果は、以下のように反応する炭酸ナトリウム溶液を使用することで可能になった。
(4)NaCO+HO←→NaOH+NaHCO
この化学反応式から、このような溶液が強アルカリ性であることが分かる。加水分解で生成した炭酸は、塩基性は強いが重炭酸塩を形成する場合には逃げない。しかし、炭酸ナトリウムの濃度を増すことによって加水分解の減少が可能であり、ひいては水酸化物の形成をある程度制御できる。
【0011】
炭酸塩の代わりに、ホウ酸塩を使用しても同じ利点が得られる。ホウ酸は弱酸であり、炭酸よりも刺激性が大幅に低い。したがって、ホウ酸塩は溶液中で加水分解する傾向がある。以下の化学反応式は、水酸化カリウムおよびテトラホウ酸カリウムを形成する、溶液中のメタホウ酸カリウムの反応を示している。
(5)2K+HO←→2KOH+K
この場合も、ホウ酸カリウムの濃度を調整することにより水酸基濃度を制御可能である。
【0012】
炭酸塩およびホウ酸塩は電解質のアルカリ度を制御するために有効であるだけではなく、鉛と共に不溶性塩類をも形成する。このようにして、正極の腐食を最小限にすることができる。この点に関して炭酸塩およびホウ酸塩のみが有用であるのではなく、他の塩も同様に有効である。ケイ酸塩、リン酸塩、および硫酸塩が鉛と共に不溶性塩類を形成する。
リチウム、ナトリウム、カリウムおよびセシウムを含むアルカリ金属の化合物によって、アルカリ度が得られる。リチウムは、その炭酸塩およびリン酸塩が水にほとんど溶けないので、限界がある。セシウムは極めて強い塩基を提供するが、この材料のコストにより利用可能性が限定される。水酸化アンモニウムは溶液中で塩基性であるが、その揮発性により使用が制約される。最後に、水酸化テトラメチルアンモニウムは、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのアルカリ性に近い強アルカリ性であることが知られている。
【0013】
本発明は、電解質用の水溶液の使用を対象として含んでいる。これらの溶液は、導電性が優れているという利点を備えている。アルコールおよびグリコールを含む有機溶剤の使用も可能であるが、その性能は劣っている。
鉛アルカリ電池の構成は制限されない。電極および電解質の様々な組合せをテストする目的で、ガラスジャーと、必要ならばポリプロピレンシートによって分離された金属条片とから、簡単な電池が組み立てられた。しかし、実際に使用できる蓄電池は、最大限の電極表面積と最小限の電解質容積で設計することが必要であろう。平坦なものであれ、螺旋状に巻き付けられたものであれ、並列プレートとしてこのような形状設計が適している。あるいは、鉛と金属のいずれかの粒子を、単独で、または黒鉛とともに散在させて使用してもよい。このようにして、電池の容量を高め、その内部抵抗を最小限にすることができる。
【0014】
本発明をより深く理解するため、図1はその際立った特徴を示す。破断斜視図は、電極が平坦な並列プレートとして配列された単一セルを備える鉛・亜鉛蓄電池を示している。二酸化鉛の正極1と、亜鉛の負極2とは、分離器3によって隔離されている。これらの部品は、ケーシング5内に収容されたアルカリ電解質4に浸されている。この断面図は、前記電極に取り付けられた電気リード線をも示している。この設計の利点は、正極と負極とを互いに密接して配置することで電解質の量が削減されることにある。
【0015】
本発明によって提供される二次電池の用途はほぼ無限である。最大の用途は、新規のハイブリッドモータを動力とする自動車を含む乗り物である。他の用途には、携帯電話端末やラップトップコンピュータのような携帯電子機器がある。
実施例
【実施例1】
【0016】
100.0gmの重炭酸カリウムをオーブンで加熱して炭酸カリウムに転換し、185mlの水に溶解することにより、電解質が準備された。3.6cm(1.5インチ)幅の鉛条片から正極が形成され、また3.6cm(1.5インチ)幅の鋼から負極が形成された。セルは、直径が約6.985cm(2.75インチ)、高さが約6.4cm(2.5インチ)のガラスジャーからなっている。セルを21分間2.5ボルトで充電した後、1.7ボルトの開路電位が認められた。動作終了時に、双方の電極とも良好な状態にあり、電解質は水のように澄んでいた。
【実施例2】
【0017】
106.3gmの重炭酸ナトリウムをオーブンで加熱して炭酸ナトリウムに転換し、250mlの水と10mlの濃硫酸とに溶解することにより、電解質が準備された。5.08cm(2インチ)幅の2枚の鉛条片が、正極と負極用に使用された。セルは、直径が6.4cm(2.5インチ)、高さが約10.16cm(4インチ)のガラスジャーからなっている。セルを9分間2.4ボルトで充電した後、1.5ボルトの開路電位が認められた。双方の電極とも寸法は安定していた。
【実施例3】
【0018】
実施例2と同じセルが使用されたが、電解質に3.7gmの水酸化ナトリウムのペレットが添加された。さらに、鉛の負極の代わりに亜鉛電極が使用された。セルを3分間2.5ボルトで充電した後、2.1ボルトの開路電位が得られた。反復サイクル後、電極は優れた状態に保たれた。
【実施例4】
【0019】
負極としてカドミウムを使用して実施例3と同様のセルを構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】鉛・亜鉛蓄電池の破断斜視図である。
【符号の説明】
【0021】
1 正極
2 負極
4 アルカリ電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池であって、
a.変化した状態で二酸化鉛として存在する正極と、
b.負極と、
c.アルカリ性電解質と、
d.該電極に取り付けられた電気リード線と、
を備えることを特徴とする蓄電池。
【請求項2】
前記負極は、鉄、鉛、亜鉛、カドミウム、これらの金属の合金、およびこれらの金属と合金との組合せからなる群から選択される金属を含むことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池。
【請求項3】
前記アルカリ性電解質は、リチウム、ナトリウム、カリウム、およびセシウムならなる群から選択されたアルカリ金属の水酸化物を含む水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電池。
【請求項4】
前記アルカリ性電解質は水酸化テトラメチルアンモニウムの水溶液を含むことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池。
【請求項5】
前記アルカリ性電解質は、炭酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩および硫酸塩の群から選択された緩衝剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の蓄電池。

【図1】
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【公表番号】特表2008−547184(P2008−547184A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519395(P2008−519395)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/024088
【国際公開番号】WO2007/002160
【国際公開日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(508000179)
【氏名又は名称原語表記】STAUFFER,John,E.
【Fターム(参考)】