説明

鉛含有ガラスの処理方法および鉛含有ガラスの処理剤

【課題】鉛含有ガラス廃棄物を容易かつ効率的に、しかも安全に処理して、処理物からの鉛の溶出ないし流出を確実に防止する。
【解決手段】鉛含有ガラス廃棄物に、塩化カルシウム又は塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を混合する鉛含有ガラス廃棄物の処理方法(ただし、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を混合する場合には更にリン酸系化合物とともに混合する場合を除く。)。鉛含有ガラス廃棄物に、塩化カルシウムおよびリン酸系化合物を混合する鉛含有ガラス廃棄物の処理方法。リン酸系化合物としては第2リン酸塩が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛含有ガラス廃棄物の処理方法および鉛含有ガラスの処理剤に係り、特に、鉛含有ガラス廃棄物を容易かつ効率的に、しかも安全に処理して、処理物からの鉛の溶出ないし流出を防止する処理方法と処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビやOA機器のブラウン管に使われるガラスやクリスタルガラスと呼ばれる透明度を上げたガラスには鉛が含まれているため、これらの鉛含有ガラスを廃棄処分する場合には、鉛含有ガラスからの鉛の溶出が問題となる。特に、アルカリ性の液体等と長時間接触する場合や、処分のためにガラスを破砕して微粒子状としたことにより表面積が増大した場合には、鉛含有ガラスからの鉛の溶出はより顕著になる。このため、このような鉛含有ガラス廃棄物を埋立処分するに当たっては、鉛の溶出を防止する処理を施す必要がある。
【0003】
従来、鉛等の重金属類の溶出防止技術としては、特許文献1に、飛灰に水溶性リン酸を添加する重金属類不溶化方法が提案されているが、この方法は、被処理物中に水溶性カルシウムが存在することを前提としており、鉛ガラスのようなカルシウムを含まない被処理物の処理には適用し得ない。
【0004】
特許文献2には、スラグ固化物に、リン酸系薬剤を単独、又はリン酸系薬剤と石灰系薬剤とを併用して添加する鉛の溶出防止技術が提案されているが、具体的なリン酸およびカルシウム化合物の選定方法、最適な処方は説明されておらず、鉛含有ガラスの場合、特許文献2において好ましいとされるリン酸系薬剤の単独使用、或いはリン酸系薬剤と石灰系薬剤との併用処理でも、十分な不溶化処理が行えない場合があった。
【0005】
特許文献3には、鉛含有ガラス廃棄物へのマグネシウム塩の単独添加、或いはマグネシウム塩またはカルシウム塩とリン酸との併用添加、もしくはアルミナセメントの添加で鉛を不溶化することが提案されているが、これらの薬剤は固体またはスラリー状で使用する必要があり、液体のようにガラス破砕物表面に均一に散布することが難しく、このため安定した不溶化効果を得ることが難しい。また、特許文献3には、カルシウム塩単独で処理する方法については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平4−1710号公報
【特許文献2】特開2005−329400号公報
【特許文献3】特開2001−293463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鉛含有ガラス廃棄物を容易かつ効率的に、しかも安全に処理して、処理物からの鉛の溶出ないし流出を確実に防止する処理方法および処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、鉛含有ガラス廃棄物に、中性のカルシウム塩類を添加することにより鉛の溶出基準をクリアすることができる良好な不溶化効果が得られること、更に、リン酸系化合物を併用することにより、鉛不溶化物の安定性を高め、より一層高度な鉛溶出ないし流出防止効果が得られることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 鉛含有ガラス廃棄物に、塩化カルシウム又は塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を混合することを特徴とする鉛含有ガラス廃棄物の処理方法。ただし、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を混合する場合には更にリン酸系化合物とともに混合する場合を除く。
【0011】
[2] 鉛含有ガラス廃棄物に、塩化カルシウムおよびリン酸系化合物を混合することを特徴とする鉛含有ガラス廃棄物の処理方法。
【0012】
[3] [2]において、前記リン酸系化合物が第2リン酸塩であることを特徴とする鉛含有ガラス廃棄物の処理方法。
【0013】
[4] [1]において、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物が、硫酸カルシウム、リン酸カルシウムおよび炭酸カルシウムより選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする鉛含有ガラスの処理方法。
【0014】
[5] 塩化カルシウムを含む鉛含有ガラスの処理剤。
【0015】
[6] 塩化カルシウムとリン酸系化合物を含む鉛含有ガラスの処理剤。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、鉛含有ガラス廃棄物を容易かつ効率的に、しかも安全に処理して、従来の鉛固定化剤では固定化が困難であった鉛含有ガラス廃棄物中の鉛を効果的に固定化し、処理物からの鉛の溶出ないし流出を確実に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の鉛含有ガラス廃棄物の処理方法および鉛含有ガラスの処理剤の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
[鉛含有ガラスの処理方法]
本発明の鉛含有ガラスの処理方法は、鉛含有ガラス廃棄物に、
(1)塩化カルシウム
(2)塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物
を添加混合するものであり、(1)塩化カルシウムを添加する場合、塩化カルシウムと共にリン酸系化合物を併用してもよいものである。
【0019】
<作用機構>
本発明において、塩化カルシウム或いは塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を用いることによる鉛含有ガラス廃棄物中の鉛の不溶化機構の詳細は十分に解明されていないが、鉛含有ガラス廃棄物から溶出する鉛には、イオン状のものと微粒子状のものとがあり、塩化カルシウムおよび塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物は、このうち、微粒子状の鉛を吸着して溶出しない形に固定化するものと推測される。またさらに、リン酸系化合物を塩化カルシウムと共に併用添加した場合、微粒子状の鉛を前述の機構で不溶化すると共に、イオン状の鉛と結合してこれを鉱物化することにより、より高い不溶化効果が得られると推測される。
【0020】
鉛はpH8〜10の中性域で最も不溶化効果が良いため、鉛の溶出防止効果に対しては、添加する薬剤の性状が溶出pHに大きく影響する。
本発明で処理対象としている鉛含有ガラス廃棄物は、焼却灰やスラグ破砕物のようにpH緩衝性を全く持たないため、添加する薬剤の影響が大きく現れる。従って、添加するカルシウム化合物としては、中性ないし弱酸性又は弱アルカリ性の塩化カルシウムや、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物が有効である。
【0021】
また、鉛含有ガラスを破砕してなる廃棄物のように、粗大粒子から微粒子状粉砕物のような大小様々な破片を含む鉛含有ガラス廃棄物の表面に、粉末状の薬剤を均一に付与して、その鉛不溶化効果を十分に発揮させることは困難であることから、本発明において鉛含有ガラス廃棄物に添加する薬剤は液状で用いることが好ましく、特に水溶液として用いることが好ましい。
【0022】
<鉛含有ガラス廃棄物>
本発明で処理対象とする鉛含有ガラス廃棄物とは、通常、テレビやOA機器のブラウン管、液晶表示板、クリスタルガラス等の鉛含有ガラスを廃棄するに当たって、厚さ5〜20mm程度、径1〜200mm程度に破砕された破砕ガラスである。
【0023】
<塩化カルシウム・塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物>
本発明において、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物としては、上述の如く、pHが中性又は弱酸性ないし弱アルカリ性を示す点において、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム(第1リン酸カルシウム、第2リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム)、炭酸カルシウムが好ましく、それ自体の添加量の変動によりpHを左右しない中性を示すことから、特に硫酸カルシウムが好ましい。
【0024】
このように、それ自体の添加量の変動によりpHを左右しない中性である点においては、塩化カルシウムも好ましい。
【0025】
なお、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で混合して用いてもよい。
また、塩化カルシウムと塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物とを併用することも可能であるが、本発明において、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を用いた場合、後述のリン酸系化合物は不使用とする。
【0026】
塩化カルシウムは前述のように水溶液として用いることが取扱い上好ましく、その場合、水溶液中の塩化カルシウムの濃度は任意に設定できるが、好ましくは1〜40重量%程度である。塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物は水への溶解度が比較的低く、高濃度の水溶液として使用することは難しく、通常粉末状かまたは懸濁液として使用する。
【0027】
<リン酸系化合物>
本発明において、塩化カルシウムを用いて鉛含有ガラス廃棄物を処理する場合、リン酸系化合物を併用すると、鉛不溶化効果を安定化させて、処理物からの鉛の溶出ないし流出をより一層確実に防止することができる。
【0028】
併用するリン酸系化合物としては、リン酸又はその塩を用いることができ、リン酸としては正リン酸や次亜リン酸、メタ亜リン酸、ピロ亜リン酸、正亜リン酸、次リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、縮合リン酸が挙げられ、リン酸塩としては、第1〜第3リン酸ナトリウム、第1〜第3リン酸カリウム、第1〜第3リン酸カルシウム等のリン酸の第1〜第3アルカリ金属塩や第1〜第3アルカリ土類金属塩が挙げられるが、塩化カルシウムと同様、それ自体の添加量の変動でpHに影響を与えにくいことから、第1〜第3リン酸ナトリウム、第1〜第3リン酸カリウム、第1〜第3リン酸カルシウム等のリン酸塩が好ましく、より好ましくは、第2リン酸アルカリ金属塩、第2リン酸アルカリ土類金属塩等の第2リン酸塩類が好ましく、特に好ましくは第2リン酸ナトリウムである。
【0029】
これらのリン酸系化合物は、1種と単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で混合して用いてもよい。
【0030】
リン酸系化合物は、液体として鉛含有ガラス廃棄物に添加することが好ましく、特に0.1〜85重量%程度の水溶液として用いることが取り扱い性、鉛含有ガラス廃棄物への均一混合性等の面で好ましい。
【0031】
<処理方法>
本発明においては、鉛含有ガラス廃棄物に、塩化カルシウム、或いは塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物、或いは塩化カルシウムとリン酸系化合物とを、好ましくは、添加薬剤の水溶液として添加、混合することにより、鉛含有ガラス廃棄物からの鉛の溶出ないし流出を防止する。
【0032】
なお、塩化カルシウムとリン酸系化合物を併用する場合のように2種以上の薬剤を併用して処理を行う場合、いずれの薬剤を先に用い、いずれの薬剤を後に用いてもよく、これらを同時に鉛含有ガラス廃棄物に添加してもよく、また、予め混合して一剤化したものを用いてもよい。2種以上の薬剤を予め混合して一剤化する場合、合計の薬剤濃度として2〜60重量%程度の水溶性カルシウム化合物とリン酸系化合物の混合液として用いるのが好ましい。
【0033】
<薬剤添加量>
鉛含有ガラス廃棄物への薬剤添加量は、用いる薬剤の種類、塩化カルシウムの場合にはリン酸系化合物の併用の有無、処理する鉛含有ガラス廃棄物の鉛含有量により異なり、十分な鉛の不溶化効果が得られる程度に適宜決定されるが、通常の場合、塩化カルシウムのみを添加する場合、鉛含有ガラス廃棄物に対する塩化カルシウム添加量として0.1〜40重量%、特に0.5〜20重量%とすることが好ましい。
【0034】
また、塩化カルシウムとリン酸系化合物とを併用する場合、鉛含有ガラス廃棄物に対する塩化カルシウム添加量が、0.1〜40重量%、特に0.5〜20重量%で、リン酸系化合物の添加量が鉛含有ガラス廃棄物に対して0.1〜40重量%、特に0.5〜20重量%で、塩化カルシウムとリン酸系化合物の合計の添加量が0.2〜80重量%、特に1〜40重量%となるように添加することが好ましい。
【0035】
また、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を添加する場合、鉛含有ガラス廃棄物に対する塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物添加量として0.1〜40重量%、特に0.5〜20重量%とすることが好ましい。塩化カルシウムと塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物とを併用する場合も、これらの合計の添加量が上記範囲となるようにすることが好ましい。
【0036】
いずれの場合も、薬剤添加量が少な過ぎると十分な鉛の不溶化効果が得られず、多過ぎてもそれ以外の不溶化効果の向上は望めず、徒に薬剤添加量が増加して経済的でない。
【0037】
[鉛含有ガラスの処理剤]
本発明の鉛含有ガラスの処理剤は、塩化カルシウムを含むものであり、通常、塩化カルシウムの1〜50重量%程度の水溶液として提供される。
【0038】
本発明の鉛含有ガラスの処理剤は、塩化カルシウムと前述のリン酸系化合物とを含むものであっても良く、この場合、塩化カルシウムの1〜30重量%程度の水溶液と、リン酸系化合物の1〜30重量%程度の水溶液とからなるものであってもよく、塩化カルシウム1〜30重量%とリン酸系化合物1〜30重量%とを合計で2〜60重量%程度含む水溶液よりなる一剤化薬剤であってもよい。
また、本発明の鉛含有ガラスの処理剤は粉末状で提供され、使用に際して水溶液として用いられるものであってもよい。
【実施例】
【0039】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0040】
以下において、被処理鉛含有ガラス廃棄物としては、鉛を含有する鉛ガラスを厚さ5〜10mm、径10〜30mmの小片状に破砕したものを用いた。
【0041】
[実施例1〜5、比較例1〜4]
被処理鉛含有ガラス廃棄物に、表1に示す薬剤を表1に示す量添加してスパーテルにより十分に混合し(ただし、比較例1では薬剤添加せず)、得られた処理物について、昭和48年環境庁告示第13号の溶出試験を行って、pHと鉛の溶出量を測定し、結果を表1に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より、次のことが明らかである。
【0044】
無処理の比較例1では、Pb溶出量3.0mg/Lであるのに対して、中性の35重量%第2塩化カルシウム水溶液を添加した実施例1では、Pb溶出量は0.07mg/Lと、埋立基準の0.3mg/Lをクリアした。この35重量%第2塩化カルシウム水溶液に更に、中性の30重量%第2リン酸カリウム水溶液を併用した実施例2では、より一層鉛の溶出防止効果が得られた。なお、この実施例2では、第2塩化カルシウム水溶液と第2リン酸カリウム水溶液の添加順序は第2塩化カルシウム水溶液、第2リン酸カリウム水溶液の順とした。
炭酸カルシウムを添加した実施例3では、Pb溶出量は0.03mg/Lである。
硫酸カルシウムを添加した実施例4では、Pb溶出量は0.01mg/Lである。
第2リン酸カルシウムを添加した実施例5では、Pb溶出量は0.01mg/Lである。
【0045】
一方、30重量%第2リン酸カリウム水溶液のみを添加した比較例2では、溶出防止効果は得られなかった。
また、リン酸と石灰系薬剤の消石灰とを併用した比較例3では、溶出防止効果が得られる場合(1回目)と、得られない場合(2回目)とがあった。これは、ガラス破砕物に対して石灰系薬剤のような粉体薬剤を均一に塗布することが難しく、効果がばらつくためである。
【0046】
以上より、本発明によれば、塩化カルシウム、或いは塩化カルシウムとリン酸系化合物、或いは塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を用いて、鉛含有ガラス廃棄物からの鉛の溶出ないしは流出を確実に防止することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛含有ガラス廃棄物に、塩化カルシウム又は塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を混合することを特徴とする鉛含有ガラス廃棄物の処理方法。ただし、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物を混合する場合には更にリン酸系化合物とともに混合する場合を除く。
【請求項2】
鉛含有ガラス廃棄物に、塩化カルシウムおよびリン酸系化合物を混合することを特徴とする鉛含有ガラス廃棄物の処理方法。
【請求項3】
請求項2において、前記リン酸系化合物が第2リン酸塩であることを特徴とする鉛含有ガラス廃棄物の処理方法。
【請求項4】
請求項1において、塩化カルシウム以外の水溶性カルシウム化合物が、硫酸カルシウム、リン酸カルシウムおよび炭酸カルシウムより選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする鉛含有ガラスの処理方法。
【請求項5】
塩化カルシウムを含む鉛含有ガラスの処理剤。
【請求項6】
塩化カルシウムとリン酸系化合物を含む鉛含有ガラスの処理剤。

【公開番号】特開2011−235230(P2011−235230A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108387(P2010−108387)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】