説明

鉛直アレイ地震計を利用したQ値測定方法

【課題】地中に埋設されている鉛直アレイ地震計を利用し、地表に設置した周波数可変のバイブレータ型振源を用いて、原位置で簡便にQ値測定を行うことができるようにする。
【解決手段】地中に、異なる深度で複数の受振器10を埋設して鉛直アレイ地震計とし、地表には、周波数可変のバイブレータ型振源12を設置して、該振源により10Hz〜50Hzの異なる発振周波数で起振して前記各受振器で受振し、受振波形を4ms以下のサンプリング間隔で収録し、収録した波形記録をフーリエ変換して振幅スペクトルを求め、任意の2つの受振器間の振幅スペクトル比を計算して、振幅スペクトルの自然対数を受振器間距離で除することにより減衰係数を求め、その減衰係数と弾性波速度から前記2つの受振器間の地盤のQ値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設されている鉛直アレイ地震計を利用して地盤のQ値(減衰定数の逆数)を求める方法に関し、更に詳しく述べると、地表に設置した周波数可変のバイブレータ型振源を用いて原位置でQ値測定を行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震波の伝播を検討する上で、地盤の減衰特性は重要なパラメータとなる。地盤の減衰を示すパラメータであるQ値に関しては、周波数依存、びずみ依存、圧力依存、不均質地盤の影響等が議論され、類似した地盤(弾性波速度)であってもQ値が大きく異なる現象が生じることが確認されている。このことより、原位置でQ値の測定を実施することは地盤の減衰を評価する上で重要であると考えられ、重要構造物の建設に際しては、原位置でのQ値測定が実施される傾向にある。
【0003】
一般に、原位置におけるQ値の測定方法には、PS検層による方法(例えば非特許文献1参照)と、自然地震を利用する方法とがある。前者は、ボーリング孔内に受振器を挿入して、人工振源による振動波形を記録・解析する。後者は、地中に埋設されている受振器を用いて、自然地震による地震波形を記録・解析する。
【0004】
PS検層による方法は、ボーリング孔内で深度方向の測定間隔を任意に設定できるため地質区分毎のQ値を詳細に把握することが可能であるが、検層に用いる振動は高周波で周波数帯が狭くなる。PS検層で発振・受振する周波数の範囲は用いる振源のサイズにより異なり、振源のサイズを大きくすれば低い周波数の振動を生じさせることができる。しかし、振源のサイズには自ずから限界があり、発振周波数の範囲は、一般に、30Hz〜100Hz程度になる。そのため、自然地震波の周波数(10Hz程度以下)との乖離が大きく、耐震設計上、このような周波数帯での評価が妥当か否かという議論が生じる。
【0005】
自然地震を用いる方法は、自然地震の周波数帯での評価が可能となるが、自然地震の発生を待たねばならない。また、得られるQ値は地中に埋設した地震計間のQ値であると共に、地震動の到来方向や入射角といった振動の伝搬にも影響を受ける。更に、収録器のデータサンプリング間隔が粗い(自然地震観測におけるデータサンプリング間隔は、20ms〜5msが一般的である)。地震波の周波数を考慮すると、これ以上細かくサンプリングする必要性がないし、必要以上に細かくすると、収録器に記録できるデータ数が少なくなり、データ回収の頻度が高くなってコスト高となるからである。
【0006】
また、PS検層による手法で得られるQ値と自然地震を用いた手法により得られるQ値に相違が生じることがあり、これが周波数依存によるものか、方法の違いによるものかの判断は難しく、しばしば問題として取り上げられている。そこで、原位置にて簡便にQ値の周波数依存を調査できるような方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「PS検層時のQ測定の試み」殿内啓司他、物理探鉱技術協会第60回学術講演予稿集(1979)p26−27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、地中に埋設されている鉛直アレイ地震計を利用し、地表に設置した周波数可変のバイブレータ型振源を用いて、原位置で簡便にQ値測定を行うことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、地中に、異なる深度で複数の受振器を埋設して鉛直アレイ地震計とし、地表には、周波数可変のバイブレータ型振源を設置して、該振源により10Hz〜50Hzの異なる発振周波数で起振して前記各受振器で受振し、受振波形を4ms以下のサンプリング間隔で収録し、収録した波形記録をフーリエ変換して振幅スペクトルを求め、任意の2つの受振器間の振幅スペクトル比を計算して、振幅スペクトルの自然対数を受振器間距離で除することにより減衰係数を求め、その減衰係数と弾性波速度から前記2つの受振器間の地盤のQ値を算出することを特徴とする鉛直アレイ地震計を利用したQ値測定方法である。
【0010】
ここで、バイブレータ型振源の周波数を10Hz〜50Hzとしているのは、10Hz未満の振動発生は困難であるし、そのような低周波振動では分解能の低下が避けられないためであり、50Hzを越えて60Hzに近づくと商用電源ノイズが卓越するため、正確なQ値の評価が困難になるためである。また、サンプリング間隔を4ms以下としているのは、人工振源を用いた調査を可能とするためである。より好ましくは、サンプリング間隔を0.5ms程度(1ms〜0.25ms)とすることである。1ms〜0.25msであれば、解像度も十分であり、データ量が多すぎることもない。
【0011】
前記鉛直アレイ地震計としては、既設の自然地震観測用の設備をそのまま利用することができ、例えば複数の同一の加速度計から構成され、前記受振器での受振波形は弾性波探査データ収録装置で収録する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るQ値測定方法は、振源として周波数可変のバイブレータ型振源を用いているので、発振周波数を離散的に変えていくかスイープして起振し、鉛直アレイ地震計で受振した波形を収録することにより、Q値の周波数依存性を的確に評価することができる。また本発明は、既設の自然地震観測用の設備である鉛直アレイ地震計が利用できるので、高速サンプリングが可能な弾性波探査データ収録装置に信号ケーブルを繋ぎ替え、バイブレータ型振源を設置するだけでよく、費用対効果の大きい調査を実施できる。更に、自然地震観測を実施している鉛直アレイ地震計で測定を行うことにより、自然地震動解析で得られる結果との比較も行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るQ値測定方法を実施するための試験システムの概略図。
【図2】Q値測定の解析フロー図。
【図3】Q値解析結果の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すように、地中に、異なる深度で複数の受振器10を埋設して鉛直アレイ地震計とする。ここでは、前記鉛直アレイ地震計として、既設の自然地震観測用の設備をそのまま利用している。各受振器10は、固有振動数5Hzの3成分(水平×2、上下×1)サーボ型加速度計である。地表には、周波数可変のバイブレータ型振源12を設置する。このバイブレータ型振源12は、P波/S波切り替え可能であり、10Hz〜100Hzの任意の範囲でスイープすることもできるし、単一周波数を所定の時間間隔と所定の周波数間隔で可変できる方式である。P波(疎密波)は振動体を上下に振動させることにより発生し、S波(せん断波)は振動体を左右に振動させることにより発生する。発振周波数の制御は、パソコンで作成する駆動信号の周波数を制御することで行う。パソコンで作成した駆動信号を油圧回路のバルブに伝達し、所定の周波数の振動を発生させる。
【0015】
各受振器10からの信号ケーブル14を、観測建屋16内の通常の自然地震観測システムから切り離し、高速サンプリングが可能な弾性波探査データ収録装置18に繋ぎ替えて測定を行う。
【0016】
地表に設置されたバイブレータ型振源12により、所定周波数範囲の異なる発振周波数で起振し、発生した振動を地中の各受振器10で受振する。受振波形は、弾性波探査データ収録装置18により、4ms〜0.03ms(好ましくは0.5ms程度)のサンプリング間隔でA/D変換し波形記録を収録する。
【0017】
異なる2つの深度の受振器による波形記録を用い、図2に示す解析フローに従って、2つの受振器間の地盤のQ値を測定する。
(1)波形記録の収録:弾性波探査データ収録装置により波形記録を収録する。
(2)波形記録のフィルタ処理:収録波形に、起振による信号以外のノイズ信号(電気的ノイズ、商業ノイズ、自然ノイズなど)があれば、周波数フィルタなどにより除去する。
(3)振幅スペクトル計算:波形記録をフーリエ変換により時間領域から周波数領域に変換して振幅スペクトルを計算する。
(4)スペクトル平坦化:計算した振幅スペクトルに対し、Q値計算を安定化させることを目的として平滑化処理を行う。
(5)補正処理:得られた振幅スペクトルは、振源からの距離による減衰、地層境界(反射境界)による減衰が含まれるため、これらの影響を除去することを目的とし、幾何補正および透過補正を適用する。
(6)スペクトル比の計算:補正後の受振器間の振幅スペクトル比を計算する。
(7)減衰係数の計算:振幅スペクトル比の自然対数を受振器間距離で除することにより減衰係数αを計算する。即ち、減衰係数αは、
α={ln(U1/U2)}/(r1−r2)
となる。但し、U1,U2は振幅スペクトル、r1,r2は振源から受振器までの距離である。
(8)Q値の算出:その減衰係数αと弾性波速度Vから2つの受振器間の地盤のQ値を算出する。即ち、Q値は、
Q=2π/{1−exp(−2α・V/f)}
となる。但し、fは周波数である。
【0018】
前記のようにバイブレータ型振源ではP波とS波を切り替えて発生させることができるが、耐震設計に関してはS波が重要であるため、S波によるQ値が重要視されている。上記のように周波数を可変とすることにより、Q値の周波数依存性の有無の評価ができるため、本発明のように周波数可変とすることには大きな意味がある。その際、単一周波数を段階的に変化させて起振を行う場合と、周波数をスイープして起振を行う場合とでは、結果に大きな相違は生じない。しかし、作業効率の観点からは、スイープさせる方が好ましい。本発明では、自然地震観測を実施している配置と同一の地震計配置で測定を行っているので、自然地震動解析で得られる結果との比較が可能となる。
【実施例】
【0019】
原位置にてQ値測定を実施し、調査地の減衰特性についての検討を行った。調査地の地質は、地表から深度7mは砂礫から礫混じりシルト層からなる扇状地堆積物からなり、深度7m以深は花崗岩となる。花崗岩はPS検層で求めた速度層区分により3区分される。
【0020】
調査地に設置されている鉛直アレイ地震計は、深度1m、50m、140m、340mの4深度に埋設した4個の受振器からなり、各受振器は同一型式・構造であり、固有周波数5Hzのサーボ型加速度計である。これらは、自然地震観測用に既に設置されているものをそのまま使用している。人工振源として周波数可変のバイブレータ型振源を用い、発振周波数を制御した。調査地に既設の鉛直アレイ地震計システムは、自然地震観測を目的としていることから収録器のデータサンプリング間隔が粗く、人工振源を用いた調査への適用は困難である。そこで、既往のシステムから各受振器の信号ケーブルを取り外し、弾性波探査データ収録装置に接続してデータの収録を行った。
【0021】
測定を実施するに際し、まず調査地のバックグラウンドノイズを測定した。その結果、60Hzの商用電源ノイズが卓越していること、及び高周波成分でノイズレベルの絶対値が異なることが確認できた。このため、周波数50Hz以上の帯域では、Q値の評価は困難であると推測された。
【0022】
調査地における測定は、次のような発振・測定パターンで行った。
・発振タイプがスイープの場合、10Hz〜40Hz、10Hz〜50Hz、10Hz〜60Hz、10Hz〜80Hz、10Hz〜100Hzの5パターンでいずれも振動時間は5秒間
・発振タイプが単一周波数の場合、5Hz〜20Hz区間を1Hz間隔、20Hz〜50Hz区間を2Hz間隔、50Hz〜80Hz区間を5Hz間隔、80Hz〜100Hz区間を10Hz間隔の4パターンでいずれも振動時間は5秒間
なお、波形記録のサンプリング間隔は、いずれのばあいも0.5ms間隔で行った。
【0023】
Q値の解析は、図2の流れに沿って実施した。鉛直アレイ地震計が同一層内に埋設されていないことを考慮し、収録記録の振幅補正は、幾何補正に加えて透過減衰の影響を考慮した補正を適用した。解析により得られたQ値を図3に示す。
【0024】
調査地では既にPS検層によるQ値測定により地質区分毎のQ値が得られており、深度172m以浅のQ値はQs=11〜12、深度172m以深のQ値はQs=35.5である。これに対して図3に示す結果は、深度140mと深度340mの受振器間のQ値が、低周波域でQs≒17となり、その他は概ねQs=8〜10程度となった。また、調査地において周波数15Hz〜45Hz程度までの間では、Q値が周波数に対してほぼ一定であることが確認できた。このような解析により得られたQ値は、既往の調査結果とほぼ対応していた。
【0025】
このように、受振器間の振幅スペクトル比からQ値を算出する手法により周波数毎のQ値が求められ、既存の自然地震観測の鉛直アレイ地震計を利用したQ値測定の有効性が示された。このことは、既に鉛直アレイ地震計が設置されていれば、簡便にQ値を測定できることを示している。このようにして周波数可変で調査することにより、費用対効果が大きく、精度の高い測定が実施できる。
【符号の説明】
【0026】
10 受振器
12 バイブレータ型振源
14 信号ケーブル
18 弾性波探査データ収録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に、異なる深度で複数の受振器を埋設して鉛直アレイ地震計とし、地表には、周波数可変のバイブレータ型振源を設置して、該振源により10Hz〜50Hzの異なる発振周波数で起振して前記各受振器で受振し、受振波形を4ms以下のサンプリング間隔で収録し、収録した波形記録をフーリエ変換して振幅スペクトルを求め、任意の2つの受振器間の振幅スペクトル比を計算して、振幅スペクトルの自然対数を受振器間距離で除することにより減衰係数を求め、その減衰係数と弾性波速度から前記2つの受振器間の地盤のQ値を算出することを特徴とする鉛直アレイ地震計を利用したQ値測定方法。
【請求項2】
前記鉛直アレイ地震計が、既設の自然地震観測用の設備であって複数の同一の加速度計から構成され、前記受振器での受振波形を弾性波探査データ収録装置で収録する請求項1記載の鉛直アレイ地震計を利用したQ値測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−108072(P2012−108072A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258811(P2010−258811)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人物理探査学会第122回(平成22年度春季)学術講演会講演論文集 第217−220頁(講演番号58)、平成22年5月31日頒布
【出願人】(000121844)応用地質株式会社 (36)
【出願人】(000230940)日本原子力発電株式会社 (130)