説明

鉛蓄電池の電槽化成方法

【課題】複数の鉛蓄電池を電槽化成する方法において、電流容量が必要十分に確保されない電源を用い一定電流の維持が困難な場合であっても、充電不足の解消及び充電時間の短縮を図る。
【解決手段】複数個が直列接続された鉛蓄電池の電槽化成において、一定間隔の時間ごとに端子電圧値と充電電流値とを計測し、その積である電力量を連続的に積算して積算電力量を測定し、予め設定した積算電力量に到達した時点で電槽化成を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池の電槽化成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池を未化成極板により構成した極板群を電槽のセル室に収納し、セル間を接続し、電解液を注液して最初に充電を行う電槽化成は、鉛蓄電池の性能を決める重要工程の一つである。電槽化成が不十分な場合は、鉛蓄電池の容量不足、電圧特性の低下及び寿命特性の劣化を生じ、電槽化成が過多の場合は、極板の化学反応が進行し過ぎ、格子体の腐食により寿命特性を低下させてしまう。一般的に、電槽化成の方式は、定電圧・定時間設定方式及び定電流・定時間設定方式が知られている。
【0003】
定電圧・定時間設定方式では、設定された電圧により設定された時間充電する方式で、充電により未化成活物質が化成されるに従って、鉛蓄電池の端子電圧が設定充電電圧に近づき、充電電流が自動的に減少して充電電気量が適正に調整される。更に、この方式は、充電電流の減少に伴い蓄電池温度の上昇も抑制することができ、過充電状態にならないという利点がある。
【0004】
しかし、複数個の蓄電池を直並列接続した組電池の場合、前記組電池の複数組を一つの充電装置に並列接続して充電する場合には、充電電流が組電池毎の内部抵抗の違いにより異なるため、組電池毎の充電電流が異なり、個々の蓄電池性能が一定にならないという課題を有していた。更に、充電末期に充電電流が減少することから、規定の充電電気量を全ての蓄電池に受入れさせるためには、比較的長い充電時間を必要とした。
【0005】
これに対し、定電流・定時間設定方式では、蓄電池に流れる充電電流が常に一定となるように充電するので、複数個の蓄電池を一つの充電装置に接続して充電する場合でも、直列に接続されている各蓄電池に流れる電流は一定である。このため、鉛蓄電池の内部抵抗に係わりなく一定の充電電気量で電槽化成することが可能となり、蓄電池性能のバラツキが発生しにくいという利点が有った。
【0006】
しかし、この方法でも電流容量が必要十分に確保されない場合には、一定電流の維持が不安定となり、充電電流減少等の影響で規定の充電時間内における充電電気量を一定にすることは困難であった。更に、この方式は、蓄電池の内部抵抗と充電電流とで発生する熱により、鉛蓄電池本体の温度が上昇する結果、蓄電池への発熱の影響を抑制するために電槽化成の終期には充電電流値を比較的小さく制限せざるを得ず、その結果として長時間の充電時間が必要であった。
【0007】
これらの課題を解決するために、特許文献1では、複数の鉛蓄電池を定電流・定電圧充電装置に並列に接続して、充電時間を短縮する試みとして、定電流充電方式による充電期間は、蓄電池毎に具備された切替えスイッチを適宜開閉して、個々の蓄電池ごとに又は並列に接続された蓄電池グループごとに充電し、全ての蓄電池が一定の充電電圧に達すると定電圧充電に切り換えて充電し、満充電判定回路によって、各地区電池の満充電の状態を個々に判定し、満充電になった蓄電池に対して一定時間追い充電を行った後、充電を終了させる方法が提案されている。
【0008】
特許文献2には、正極の劣化を最低限に抑え、かつ化成時間を短縮する試みの一つとして、電池温度による正極の酸素発生電位変化を予め求め、得られた酸素発生電位以下に正極電位を設定して充電する方法が示されている。
【0009】
更に、特許文献3には、定電流充電方法の改善により過充電及び充電不足のない適正な充電を行う試みとして、多段式の定電流充電方法において、1段目からn段目までの各段の充電電気量を積算して総充電電気量を求め、必要充電電気量に達すると充電を停止する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平11−313445号公報
【特許文献2】特開2004−193097号公報
【特許文献3】特開平11−136876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電流容量が十分に確保されない電源を用いる場合でも、複数個の鉛蓄電池の電槽化成を精度良く行い、充電化成時間の短縮を可能とする電槽化成方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、複数個が直列接続された鉛蓄電池の電槽化成において、一定間隔の時間ごとに鉛蓄電池の端子電圧と充電電流とを計測し、端子電圧と充電電流の積である電力を積算した積算電力量が、予め設定した積算電力量に到達した時点で充電を停止させる鉛蓄電池の電槽化成方法を示すものである。
【0012】
さらに、本発明の請求項2に係る発明は、電槽化成時における鉛蓄電池の電解液の温度もしくは鉛蓄電池を冷却する水槽中の冷却水の温度を、温度センサにて検知し、温度センサからの情報により充電電流を制御する鉛蓄電池の電槽化成方法を示すものである。
【発明の効果】
【0013】
上記の電槽化成方法によれば、電流容量が必要十分に確保されない電源を用い一定電流の維持が困難な状態においても電槽化成を行うことができ、電槽化成時間の短縮も可能となるため、工業上、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明を行う電槽化成の構成概念図である。各セルに挿入された極板群1は電解液2に浸漬され、外部との電気的接続のための正極端子3と負極端子4を有した鉛蓄電池が、複数個直列に接続され(図示はしていない)、冷却用水槽5中に配置されている。
【0016】
温度センサ6は電池の温度を連続的に測定するように電解液2中に液口7より挿入され、前記温度センサ6は電流制御装置8に接続され、温度センサからの温度情報を電流制御装置に伝え、前記電流制御装置8は鉛蓄電池の電解液2が設定温度以上にならないように充電電源9の充電電流を制御する。
【0017】
充電時の鉛蓄電池の内部温度が上昇した場合、極板活物質内の添加剤が電解液中に溶出して電池性能を著しく悪化させる弊害があるため、電槽化成中の電池内部温度は一定温度以下に保つ必要がある。
【0018】
充電電源9は、一般の交流電源10より直流電流(充電電流)に変換し、積算電力計11を介して、複数個直列接続された鉛蓄電池の正極端子3と負極端子4に充電電流を流す。ここで、充電電源9は、接続する鉛蓄電池の個数及び容量によってその特性が設定される。
【0019】
積算電量計11は、電流制御装置8に接続されており、充電電流と鉛蓄電池の電圧により一定間隔で計測した積算電力量を記録し、事前に設定した積算電力量に前記計測した積算電力量が達した時に、前記電流制御装置8に到達時点の情報を信号として伝達する。
【0020】
冷却水槽5の中には、複数の鉛蓄電池が直列接続された状態で配列され、充電電流が供給されることで発熱する蓄電池の温度上昇を抑制する。冷却水槽5の冷却水5aを冷却用水槽中の温度センサ6aにて測定した温度情報を、電流制御装置8に送り、鉛蓄電池が設定温度以上にならないように充電電源9からの充電電流を制御しても良い。
【0021】
電流制御装置8は、鉛蓄電池内の温度センサ6による温度情報又は冷却水槽の温度センサ6aによる温度情報が予め設定した温度に近づくにつれ、前記設定温度を超えないように、充電電源9に指示を出して充電電流値を下げることにより温度上昇を抑制する。一方、前記温度情報が、予め電流制御装置8に設定された温度より低くなった場合には、電流制御装置8から充電電源9へ設定温度を超えないように充電電流を増加させる。
【0022】
この一連の動作を繰り返すことにより、鉛蓄電池内の温度又は冷却水の温度が常に予め設定した温度を超えない範囲で、電槽化成時の充電電流を増加させることが可能となる。更に、電解液中の温度センサ6と前記冷却用水槽中の温度センサ6aの両者の温度情報を、電流制御装置8が総合的に勘案して、充電電流を制御しても良い。
【0023】
積算電力計11は、計測された積算電力量が予め設定した積算電力量に到達した時点で、電流制御装置8へ信号を送出し、電流制御装置8が充電電源9へ充電電流の遮断の指示を出し、電槽化成が終了する。
【0024】
このように電槽化成をすることで、充電電流値の制御を精緻に行うことができる電槽化成が可能になり、従来の規定充電電気量よる電槽化成よりも短時間で鉛蓄電池に充電することも可能となる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明の構成と効果を説明する。
【0026】
供試電池は、電圧が12Vで5時間率容量50Ahの車両用鉛蓄電池で、12個直列接続した組電池を同時に2列並列接続した。これらの鉛蓄電池を充電する充電電源は、直流出力210V、電流容量40Aの直流電源を用いた。
【0027】
図2は、充電電流と電池電解液温度との経時変化の関係図である。
【0028】
本発明と従来の電槽化成法との差異が明確になるように、一段目と二段目の充電電流と充電時間では設定温度70℃に至らないため同一とし、発熱が大きく生じる三段目の充電電流の段階で、本発明による温度条件を基に一定間隔の時間ごとに鉛蓄電池の端子電圧値と充電電流値とを計測し、その積である電力を連続的に積算して積算電力量とすることによって、予め設定した積算電力量になるように充電を実施した。
【0029】
供試電池は、一段目の充電電流値は0.6CAで充電時間が1時間、二段目の充電電流値は0.7CAで充電時間が3時間とし、従来の方法は、三段目の充電電流値は0.5CAで充電時間が1時間供給され、冷却用水槽中で冷却しながら電槽化成を行い、供試電池の電解液温度が70℃を超えない条件である。一方、本発明による方法は、前記三段目の充電電流を、供試電池の電解液内に浸されている温度センサが70℃を検知した温度情報を電流制御装置に伝え、70℃を維持するように充電電流を制御する積算電力量により実施した。
【0030】
充電時間が4時間を経過して電槽化成終了に近くなるにつれ、電解液の温度は70℃に近づき、供試電池の充電電圧は上昇する。本発明による方法によれば、70℃を上限に一定にして充電電流値は徐々に減少していく、一方、充電電圧は大きく上昇することにより充電電流と充電電圧との積である電力量は増加していく。
【0031】
図3は、この時の積算電力量の経時変化図である。本発明の方法では、4時間を経過した時点で、温度制御により充電電流は徐々に減少し、充電電圧の上昇により電力量は増加し、供試電池に必要十分な設定電力量が供給された時点で充電は早期に終了する。
【0032】
一方、従来方法は、本発明による方法で電槽化成が終了した時点では、三段目の充電電流に切り替えが優先されるため、供試電池に十分な電気量を投入するのに充電時間を長くすることになり、電力量の観点で見た場合には、十分に供試電池に電力が入っていない状態である。
【0033】
このように、電流容量が必要十分に確保されない充電電源を用いた場合、従来方法では、充電の終盤に鉛蓄電池の充電電圧が上昇するために十分な充電電流が供給されない現象が出現し易い。このため、規定の5時間で電槽化成を打ち切ると予め定めた場合に設定した充電電気量に到達しない場合も散見された。
【0034】
本発明では、三段目の電槽化成の初期で蓄電池温度が低く、設定検出温度との差がある場合に、従来例に比べ大きな電槽化成電流を供試電池へ投入できることから、蓄電池温度が70℃を超えることなく規定の充電時間内で、化成充電に必要な充電電気量の投入を行うことができる。さらに、5時間以内で電槽化成を終了することもでき、電流容量が十分に確保されない充電電源を用いた場合でも、規定の充電電気量を確保できるとともに充電時間の短縮も可能となった。
【0035】
なお、本発明では、電槽化成時の充電電流を三段階に変化させた例を示しているが、一定間隔の時間を短縮して、前記充電電流を任意かつ連続に変化させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
上記の電槽化成方法によれば、電流容量が不安定な電源を用いても電槽化成を行うことができ、更に、安定した電源では充電時間の短縮も可能であり、工業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による電槽化成の構成概念図
【図2】充電電流と電池電解液温度との経時変化の関係図
【図3】積算電力量の経時変化図
【符号の説明】
【0038】
1 極板群
2 電解液
3 正極端子
4 負極端子
5 冷却水槽
5a 冷却水
6 温度センサ
6a 冷却用水槽中の温度センサ
7 液口
8 電流制御装置
9 充電電源
10 交流電源
11 積算電力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個が直列接続された鉛蓄電池の電槽化成において、一定間隔の時間ごとに前記 鉛蓄電池の端子電圧と充電電流とを計測し、前記端子電圧と前記充電電流の積である電 力を積算した積算電力量が、予め設定した積算電力量に到達した時点で充電を停止させ ることを特徴とした鉛蓄電池の電槽化成方法。
【請求項2】
電槽化成時における鉛蓄電池の電解液の温度もしくは鉛蓄電池を冷却する水槽中の 冷却水の温度を、温度センサにて検知し、前記温度センサからの情報により充電電流を 制御する請求項1記載の鉛蓄電池の電槽化成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−212038(P2009−212038A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56113(P2008−56113)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】