説明

鉛蓄電池用ペースト充填装置

【課題】充填する際のペースト充填におけるばらつきを低減し、信頼性の高い初期容量、サイクル特性が得られる鉛蓄電池用ペースト充填装置を提供する。
【解決手段】ペースト充填後の格子体5の重量を測定し、その測定結果と連動して充填ローラー3の回転速度を変えて格子体のペースト充填量を自動制御させる鉛蓄電池用ペースト充填装置であって、格子体へのペーストの充填量は充填ローラーの回転速度で調整し、ペースト充填後の極板の厚みはスクレーパー9と充填ベルト4充填ベルトの隙間間隔で調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用ペースト充填装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ペースト式鉛蓄電池の極板は、鉛合金である格子体にペーストを充填して製造されるが、充填する際のペースト充填量、充填後の極板厚み、さらには充填密度の誤差が電池性能に大きな影響を与える。しかしながら、ペースト充填工程においてペースト充填量および充填後の極板厚みのばらつきは、ペースト充填装置のホッパーに投入するペースト量の多少によるものと、ペーストの経時変化等により化学反応の温度上昇に伴う水量の減少の影響によりペースト密度が上昇する。そのため、充填ローラーから格子に充填する際の吐出圧力が変動することが挙げられる。
【0003】
ペーストの充填量および充填後の極板厚みを調整する手段として、充填装置の直後にペーストをこきとると同時に極板表面をならす機能を有するスクレーパーを設置し、スクレーパーと極板を載置したベルトの距離を変えることにより調整する方法が一般的である。しかしながらこの方法だと、極板の厚みを一定にするためにはスクレーパーを固定しておく必要があり、充填量を調整する場合にはスクレーパーとベルトの距離を増減させなければならず、ペースト密度の経時変化に対応して極板厚みとペースト充填量の両方を同時に調整することは不可能である。
【0004】
一方、充填ローラーより格子体にペーストを充填する際の充填圧力を一定にするために、特許文献1に示されたように、ペースティングベルト下方に圧力センサを配置し圧力が一定になるように充填ローラーの回転を制御する機構が、また、特許文献2に示されたように、ペースティングベルト下方に圧力センサを設置し圧力が一定になるように充填ローラーの回転およびホッパー内のペースト量を制御する機構が提案されている。しかしながら、充填ローラーからの吐出圧力を一定にしても、ペーストの密度の経時変化に対応してペースト供給量が一定にならないため、充填量を一定に保つことが難しかった。
【特許文献1】特開昭60−182659号公報
【特許文献2】特開平4−328248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、鉛蓄電池用ペースト充填装置において、充填する際のペースト充填量のばらつき、充填後の極板厚みの誤差を減少させ、安定した初期容量およびサイクル寿命特性を有した信頼性の高い鉛蓄電池を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決するために本発明の請求項1に係る発明は、ペーストホッパーに投入された活物質原料となるペーストを、充填ベルト上を移動する活物質保持体となる格子に、表面に溝加工を施した充填ローラーを介して吐出し充填する鉛蓄電池用ペースト充填装置において、ペースト充填後の格子体の重量を測定し、その測定結果と連動して充填ローラーの回転速度を変えることにより、格子体へのペーストの充填量を自動制御させることを特徴とする鉛蓄電池用ペースト充填装置を示すものであり、さらに本発明の請求項2に係る発明は、格子体へのペーストの充填量は充填ローラーの回転速度で調整し、ペースト充填後の極板の厚みはスクレーパーと充填ベルトの隙間寸法で調整する鉛蓄電池用ペースト充填装置を示すものである。
【発明の効果】
【0007】
前記した本発明の構成によれば、ペースト充填量の測定結果と、充填ローラーの回転数を連動させることにより、ペースト充填量を一定にすることができ、さらには、スクレーパーにより極板厚みをより一定に保つことができ、特に放電容量、サイクル寿命特性において信頼性の高い鉛蓄電池を得ることができるため、工業上有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0009】
図1は実施例のペースト充填装置の概略図である。酸化鉛を主体とした鉛粉を希硫酸で練合し作成したペースト1は、ペースト充填装置の上部に位置するホッパー2に投入され、表面に溝加工を施され、互いに内側に向かって回転する一対の充填ローラー3を介して充填ベルト4上を移動する格子体5に充填される。
【0010】
充填後の格子体5は、充填ベルト4から離れて重量測定器基台6に取り付けられた重量センサ7が装着された重量測定用ベルト8に搬送されると同時に重量を測定される。充填後の格子体5は、重量センサ7により、ペースト充填量の低下を検出した場合には、シーケンサー(図示はしていない)を介して充填ローラー3の回転数を増加し、逆にペースト充填量の増加を検出した場合には充填ローラー3の回転数を低下させる。
【0011】
スクレーパー9は、充填ベルト4との隙間寸法を調整できるように充填直後の装置に固定されており、充填ベルト4との間に充填後の格子体5が通過する際に格子体に充填された過剰なペーストの除去とともに充填表面をならす構造となっている。
【実施例】
【0012】
規格として、格子体が重量150gでペースト充填量を200g、極板厚み1.5mmの極板に、ペーストの見かけ密度4.1g/mlのペーストを充填する正極板の製造工程において、本実施例により作製した極板、従来例および比較例による極板相互の比較を行った。
【0013】
本実施例によるものは、充填ローラー3はその直径が116mmでその回転数は30〜60回/分の範囲で可変可能なように設定され、重量センサ7で測定された極板重量を元に、PID制御法に基づく次式によりシーケンサーを介して充填ローラーの回転数を変化させ調整量を求め、極板重量範囲が350±5gとなるように設定した。
【0014】
=Xn−1+ΔX (1)
ΔX=Kp(e−en−1)+Ki+Kd{(en−1−en−2)}
(2)
Xn:今回の回転数の調整量
n−1:前回の回転数の調整量
ΔX:今回の調整量差分
:今回の極板重量の偏差
n−1:前回の極板重量の偏差
n−2:前々回の極板重量の偏差
Kp、Ki、Kd:ステップ応答法によるチューニングで求めた定数
一方、従来例1として、本実施例と同様に充填ローラー3の径は116mmとし、回転数は50回/分に固定した上で、極板を50枚に1枚の割合で抜き取り極板重量を測定し、その結果をもとにスクレーパー9を極板重量が350gになるように手動で調整を行った。
【0015】
ペースト充填量を調査しその結果を図2に示した。本発明における充填ローラーの回転を充填後に重量測定し、その結果をローラーの回転数にフィードバックする方法においては、ペースト充填量が200±1gであったのに対し、従来例の極板重量を測定し、スクレーパーを手動で調整する場合ではペースト充填量が208gを超える極板があった。その原因はスクレーパーでもある程度の調整は可能であるが、調整直後は充填量の誤差は少ないもの徐々に充填後の重量が大きいほうに移行し、大幅に設定値と異なる結果となった。このように本発明は、従来例に比べペースト充填量のばらつきが約1/4に減少することができた。
【0016】
次に極板厚みの比較を調査しその結果を図3に示した。本発明における極板厚みは1.50±0.075mmに収まっているが、従来の方法においては1.50±0.15mmと大きくばらついた結果であり、本発明によるものは従来例に比べ、極板厚みでばらつきを約1/2に低減できた。
【0017】
次に、上記で作製した正極板を化成済み極板とし、正極板に対し十分な容量がある負極板を用い容量が正極支配になるような電池構成にして公称仕様12V2.0Ahの電池を各10個ずつ作成して評価を実施した。これらの電池の他の構成は、正極板以外は常法により作成して本発明例と従来例とも全く同じ条件とした。
【0018】
これらの電池を3時間率の電流にて終止電圧1.75V/セルにいたるまで放電し、その結果を初期容量の比較として図4に示した。初期容量の結果は、本発明が1.54〜1.46Ahの範囲で1.52Ah近傍に集中して偏差値の少ない結果であったのに対し、従来例は1.54〜1.42Ahと範囲が広く、その範囲の中でも低い容量の方に偏在していた。初期容量のばらつきの原因は、充填量のばらつき、すなわち充填量が多くなると容量が大きくなるが、逆の場合には容量が低くなることに起因している。充填装置におけるペースト充填量を均一にコントロールすることにより容量を高いレベルで維持することができる。
【0019】
次に、上記試験終了後の電池各2個ずつ抽出し寿命試験を実施した。放電は初期容量に対し2時間率相当の定電流とし、充電は2.45V/セルの定電圧にて5時間充電を行うサイクル試験を行い、その結果を充放電サイクル寿命の比較として図5に示した。その結果、本発明の電池は2個とも400回までの充放電が可能であったのに対し、従来例の電池では400回を維持できたものと、400回で容量低下を生じるものが発生していた。
【0020】
寿命終了後に電池の分解調査を実施した結果、容量低下を生じた電池の正極板は、本発明の電池との比較において同一セル中の他の極板とで厚みが0.2mmの差があるものが混じっており、これに起因したとも考えられる。また、他の考え方として、極板厚みのばらつき、すなわち極板が厚くなると規定寸法のセル間に極板群を挿入するため極板群圧力が大きくなり、サイクル寿命特性が良化し、逆の場合にはサイクル寿命特性が悪くなることにも起因するため、充放電サイクル寿命のばらつきの差はこれらの要素が関連したとも考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば極板重量を測定しその結果と連動させてペースト充填量を一定にすることにより、さらにスクレーパーと充填ベルトの隙間寸法を調整し固定することにより、ペースト充填量、極板厚みのばらつきが低減でき、特に放電容量、サイクル寿命特性においてばらつきの少ない信頼性の高い鉛蓄電池を供給でき、その工業的価値は高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のペースト充填装置の概略図
【図2】ペースト充填量の比較を示す図
【図3】極板厚みの比較を示す図
【図4】初期容量の比較を示す図
【図5】サイクル寿命の比較を示す図
【符号の説明】
【0023】
1 ペースト
2 ホッパー
3 充填ローラー
4 充填ベルト
5 格子体
6 重量測定器基台
7 重量センサ
8 重量測定用ベルト
9 スクレーパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペーストホッパーに投入された活物質原料となるペーストを、充填ベルト上を移動する活物質保持体となる格子に、表面に溝加工を施した充填ローラーを介して吐出し充填する鉛蓄電池用ペースト充填装置において、ペースト充填後の格子体の重量を測定し、その測定結果と連動して充填ローラーの回転速度を変えることにより、格子体へのペーストの充填量を自動制御させることを特徴とする鉛蓄電池用ペースト充填装置。
【請求項2】
格子体へのペーストの充填量は充填ローラーの回転速度で調整し、ペースト充填後の極板の厚みはスクレーパーと充填ベルトの隙間寸法で調整することを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池用ペースト充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−93912(P2009−93912A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−263095(P2007−263095)
【出願日】平成19年10月9日(2007.10.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】