説明

鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板及び鉛蓄電池

【課題】 水素ガス発生電位の低下を抑制し、PSOCにおける急放電サイクル特性を向上した鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板を提供する。
【解決手段】 導電性を確保するカーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を確保する活性炭と少なくとも結着剤を混合して成るカーボン合剤の被覆層を負極活物質充填板の表面に形成して成る鉛蓄電池用複合キャパシタ負極において、該活性炭として官能基で修飾されている活性炭を用いる。好ましくは、酸性表面官能基で修飾されている活性炭を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PSOCで急速充放電を繰り返すハイブリッド自動車用途や風車、PV(太陽光発電)などの産業用途に適した鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板及び鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛活物質を多孔集電板に充填して成る負極板の表面に、導電性を有するカーボンブラックなどの第1カーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を有する活性炭、黒鉛などの第2カーボン材料とから成る2種類のカーボン材料と結着剤を混合して成るカーボン合剤の被覆層を形成して成る複合キャパシタ負極板を鉛蓄電池の負極として用いることにより、鉛蓄電池のPSOCで急速充放電を繰り返した場合、そのキャパシタの機能により従来の負極板を具備した鉛蓄電池に比し寿命を大幅に延長することができるようにした発明が、特表2007-506230号公報に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007-506230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、該鉛蓄電池は、充電時に負極から発生する水素ガス量は負極の水素過電圧で決まるため、上記特許文献1に記載のように、該負極活物質充填板の表面に表面積が大きく、且つ水素過電圧の低い上記のカーボン合剤の被覆層を設けることは、水素ガス発生を促進し、充電時に水電解による電解液の減少を招くことが判った。これを抑制するために、鉛、亜鉛、ビスマス、銀やその化合物などの添加剤を前記のカーボン合剤に添加混合することにより水素過電圧を高めることも上記特許文献1で開示しているが、これらの添加剤の添加により負極の水素過電圧を高めることはできるが不充分であり、第2カーボン材料として、特に活性炭を使用した場合は水素過電圧を高めることはできず、活性炭そのものの性質が、水素過電圧を高める効果の発現の有無に大きく影響することが検討の結果分かった。
本発明は、かかる知見に基づきなされたもので、かかる上記従来の発明の課題を解消し、活性炭の改善に基づき、水素過電圧の低下を抑制すると共に水素過電圧を高めることにより減水を抑制し、鉛蓄電池のサイクル特性の向上をもたらす鉛蓄電池用複合キャパシタ負極及び鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、請求項1に記載の通り、導電性を確保するカーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を確保する活性炭と少なくとも結着剤を混合して成るカーボン合剤の被覆層を負極活物質充填板の表面に形成して成る鉛蓄電池用複合キャパシタ負極において、該活性炭は官能基で修飾されている活性炭であることを特徴とする鉛蓄電池用負極板に存する。
更に本発明は、請求項2に記載の通り、該官能基修飾活性炭は揮発成分を3〜30重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項3に記載の通り、該カーボン合剤は、該カーボン材料5〜70重量部、該活性炭20〜80重量部、結着剤1〜20重量部、増粘剤0〜10重量部、短繊維状補強材0〜10重量部から成ることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項4に記載の通り、該負極活物質充填板の表面に被覆されるカーボン合剤の添加量は、負極活物質100重量部に対し15重量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項5に記載の通り、該カーボン合剤被覆層の気孔率は40〜90%であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項6に記載の通り、該カーボン合剤被覆層の厚みは1.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項7に記載の通り、請求項1乃至6に記載のいずれか1つに記載の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池に存する。
更に本発明は、請求項8に記載の通り、該官能基修飾活性炭は酸性表面官能基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項9に記載の通り、該酸性表面官能基量は活性炭1g当たりの量を活性炭の比表面積で除した値が0.16〜3.11μmol/m2であることを特徴とする請求項9に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項10に記載の通り、該酸性表面官能基はカルボキシル基であり、活性炭1g当たりのカルボキシル基量は活性炭の比表面積で除した値が0.01μmol/m2以上であることを特徴とする請求項9に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項11に記載の通り、該酸性表面官能基はラクトン基であり、活性炭1g当たりのラクトン基量は活性炭の比表面積で除した値が0.04μmol/m2以上であることを特徴とする請求項9に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項12に記載の通り、該酸性表面官能基はフェノール性水酸基であり、活性炭1g当たりのフェノール性水酸基量は活性炭の比表面積で除した値が0.14μmol/m2以上であることを特徴とする請求項9に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板に存する。
更に本発明は、請求項13に記載の通り、請求項8〜12に記載のいずれか1つに記載の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池に存する。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、該複合キャパシタを具備した鉛蓄電池は、水素過電圧の低下を抑制することができ、例えば、PSOCにおける急放電サイクル特性の向上をもたらし、エンジンのオンオフを繰り返すハイブリッド自動車用或いは風車などの各種の電池利用産業に適し、優れた効果をもたらす。
請求項2に係る発明によれば、負極の水素過電圧を高めることができると共に、内部抵抗を低下せしめることができる一方、鉛の析出を抑制し、優れた電池特性を有する鉛蓄電池をもたらす。
請求項3に係る発明によれば、第1カーボン材5〜70重量部により、負極の良好な導電性及びキャパシタ容量を確保できる。
該官能基修飾活性炭20〜80重量部により、キャパシタ容量を確保できる。
該結着剤1〜20重量部により、該カーボン合剤被覆層の該負極活物質充填板の表面への電気的な結合と導電性を確保し且つ該カーボン合剤被覆層のポーラスな状態を良好に維持することができる。
増粘剤及び短繊維状補強材は夫々10重量部以下により、導電性を損なうことなく該カーボン合剤をペースト状に調製することに有用であり、また、該短繊維状補強材により、該カーボン合剤被覆層の乾燥時の亀裂を防止することができる。
請求項4に係る発明によれば、厚すぎることなく上記効果をもたらすカーボン合剤被覆層を確実に形成できる。
請求項5に係る発明によれば、該カーボン合剤被覆層の気孔率を60〜90%とすることにより、電解液の移動を確保し、良好な放電性能を確保できる。
請求項6に係る発明によれば、該カーボン合剤被覆層の厚みを1.0mm以下とすることにより、経済的に充分な放電効果をもたらす。
請求項7に係る発明によれば、該鉛蓄電池は、エンジンのオンオフを繰り返すハイブリッド自動車或いは風車などの各種の電池利用産業に用い、急放電サイクル特性が向上する。
請求項8乃至12に係る発明によれば、該複合キャパシタ負極板の静電容量が増加し、請求項13に記載のこれらの各複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池は、充電受け入れ性が向上し、その結果、サイクル特性の向上をもたらす。また、複合キャパシタ負極板の水素過電圧が高まり、また、減水がなくなり、その結果、サイクル特性の向上をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】活性炭の単位面積当たりの酸性表面官能基量とサイクル寿命との関係を示す図である。
【図2】活性炭の単位面積当たりのカルボキシル基量とサイクル寿命との関係を示す図である。
【図3】活性炭の単位面積当たりのラクトン基量とサイクル寿命との関係を示す図である。
【図4】活性炭の単位面積当たりのフェノール性水酸基量とサイクル寿命との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態につき以下詳述する。
上記の第1カーボン材料と混合される第2カーボン材料として選択する活性炭を一般に電気二重層キャパシタ用の活性炭として用いる場合には、該活性炭の耐久性を向上するため、該活性炭の表面官能基は高温処理などで取り除く操作が行われる。その理由は、有機電解液を用いる場合は、活性体の表面官能基が系内に持ち込む水分が耐久性を著しく損なうためであり、また水系キャパシタでは基板に用いる金属材料を腐食・溶出させ、これら不純物イオンにより耐久性が損なわれるためといわれる。
しかし乍ら、本発明者等は、従来必要がない存在と考えられた活性炭の表面官能基が水素過電圧を高める上で重要な働きをすることを知見した。
即ち、第1カーボン材料として導電性を確保するカーボンブラックと従来の活性炭と結着剤としてPPと分散剤として水と混合して成るカーボン合剤を鉛蓄電池の負極板、即ち、鉛活物質充填板の表面に塗布、乾燥してポーラスなカーボン合剤被覆層を形成された複合キャパシタ負極を製造し、これを鉛蓄電池の負極とし、充放電を繰り返した。この充放電の繰り返しの過程で、該複合キャパシタ負極から溶解した鉛イオンは徐々に該ポーラスなカーボン合剤被覆層の表面に析出して金属鉛及び/又は硫酸鉛の層が形成され、その結果、該負極の水素過電圧がカーボン合剤被覆層のない負極並みに高まることが期待された。
しかし乍ら、事実は、活性炭の表面官能基の量が少ないと充分に鉛イオンが析出せず、充放電を繰り返しても水素過電圧が高まらないことが分かった。そこで、試みに、活性炭の表面官能基の量を徐々に増大させたものをカーボン合剤に含有させ、上記と同様に該負極を多数製造し、その夫々の負極を具備せしめた鉛蓄電池を製造し、夫々充放電を繰り返した後の負極の状況を調べたところ、該カーボン合剤被覆層の表面に金属鉛及び/又は硫酸鉛層が充分に析出しており、その夫々の負極の水素過電圧が高くなることが確認された。
かかる観点より、更に試験研究を重ねた結果、活性炭の表面官能基の量は下記する特定の範囲の量において水素過電圧が高まる効果をもたらすとの結論を得た。そこで、従来の活性炭を表面官能基修飾されていない活性炭とみなし、請求項1に記載のように、本発明の特徴とする活性炭を「官能基で修飾されている活性炭」と表現し、上記従来のものと区別した。
【0009】
従来、表面官能基の定量は、ある特定の官能基はXPS(X線光電子分光分析)や滴定法で定量できるとされているが、高度な技術を伴い一般には困難である。そこで鋭意検討した結果、JIS M 8812に定められた揮発成分の定量値を代替特性として使用することに思い至った。そして、様々な活性炭についてサイクリックボルタングラムにより表面官能基の量が種々異なる活性炭を含むポーラスなカーボン合剤被覆層を形成した負極につき、その水素過電圧を測定した。その結果、活性炭は揮発成分を3重量%以上含んでいれば水素過電圧は高まるが、その量を多くして30重量%を超えてしまうと、キャパシタ容量が低下するので、従って、揮発成分は3〜30重量%の範囲が好ましく、更に好ましくは、4〜25重量%の範囲であり、而も耐久性が損なわれることがないことが判明した。
【0010】
本発明の好ましいカーボン合剤の配合組成は、第1カーボン材料5〜70重量部、活性炭20〜80重量部、結着剤1〜10重量部、増粘剤1〜10重量部、短繊維状補強材0〜10重量部から成る。
【0011】
第1カーボン材料は導電性を確保するのに必要で、アセチレンブラックやファーネスブラックなどのカーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛などが適当である。これらのカーボン材料は導電性を重視する観点から、一般に表面官能基の量は少ない方が良い。第1カーボン材料の配合量は5重量部未満では導電性を確保できず、キャパシタ容量の低下を招く一方、70重量部を超えると導電効果が飽和する。より好ましい量は10〜60重量部である。
【0012】
活性炭はキャパシタ及び/又は擬似キャパシタとしての容量を確保するのに、必要である。この活性炭はキャパシタ及び/又は擬似キャパシタ容量を確保する観点から、配合量は20重量部未満ではキャパシタ容量が不足し。80重量部を超えると相対的に第1カーボン材料の割合が減少して、むしろ、容量が低下する。より好ましい量は30〜70重量部である。
【0013】
結着剤はカーボン材料同士並びにこれらと鉛蓄電池を構成する負極表面を結合して電気的な接続を確保すると共に、合剤がポーラスな状態を維持するのに必要である。結着剤としては、ポリクロロプレン、SBR、PTFE、PVDFなどが適当で、1重量部未満では上記の結合が不充分となり、20重量部を超えると結合効果が飽和すると共に、絶縁体であるため導電性を低下させる。より好ましい量は5〜15重量部である。
【0014】
増粘剤は合剤ペースト状に調製するのに有用で、水性のペーストにはCMCやMCなどのセルロース誘導体、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコールなどが適当であり、有機系にはNMP(N-メチル-2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン)などが適当である。増粘剤を用いる場合は、乾燥残分が10重量部を超えると合剤の導電性を損なうのでこれ以下が良い。
【0015】
短繊維状補強材は、合剤をペースト状に調製し負極に塗布する場合、乾燥による亀裂の発生を抑制するのに有用である。材質はカーボン、ガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリエステルなど硫酸酸性中で安定であればよく、太さは直径20μm以下、長さは0.1mm〜4mmが望ましい。配合量は10重量部を超えるとカーボン材料や結着剤の相対的な比率を下げて性能を損なうと共に、導電性も低下させるのでこれ以下が良い。
【0016】
負極活物質重量100重量部に対するカーボン合剤の添加量は15重量部以下が好ましい。15重量部を超えると被覆層の厚みが厚くなって効果が飽和する。より好ましい合剤の量は3〜10重量部である。
【0017】
該負極活物質充填板を被覆するポーラスなカーボン合剤被覆層の気孔率は40〜90%が好ましい。40%未満では電解液の移動が阻害され、放電性能の低下を招く。90%を超えると効果が飽和すると共に、厚みが厚くなり、設計に支承をきたす。より好ましい気孔率は60〜80%である。
また、カーボン合剤被覆層の厚みは1.0mm以下でよい。その厚みが1.0mmを超えても、放電特性効果は飽和し、向上しない。従って、1.0mm以下が無駄なく経済的に上記効果をもたらす。
【0018】
比較試験例1
活性炭として揮発成分が2.5、3.0、3.2、4.1、4.8、5.3重量%と異なる6種類の活性炭につき、夫々の水素ガス発生電位を下記の要領で調べた。
即ち、先ず、これら6種類の活性炭を下記表1に示すカーボン合剤の配合成分とし、6種類のカーボン合剤を試料No.1、No.2、No.3、No.4、No.5、No.6として調製した。次に、これら6種類のカーボン合剤試料の夫々につき、2cm角の純鉛板の両面に合計0.5g塗布し、これをAGM(Absorbed Glass Mat)セパレータで挟み、更にその両側面に二酸化鉛から成る対極を重ねてスタック(積層体)を作製し、このスタックをアクリル板で挟み、20kPaの加圧力が掛かるように固定した。次に、このスタックを比重1.30、温度25℃の硫酸水溶液中に入れ、掃引速度10mV/sec、-1.6V〜+1.0V vs. Hg/Hg2SO4の範囲で、サイクリックボルタングラムによる充放電を10回繰り返し、10サイクル目の水素発生開始に起因するカソード電位を測定した。その結果は下記表2に示す通りであった。
一方、比較のため、カーボン合剤を塗布しない2cm角の純鉛板を比較試料とし、その両面にAGMセパレータと二酸化鉛から成るスタックをアクリル板で挟み、20kPaの加圧力が掛かるように固定し、前記と同様の条件で充放電を10回繰り返し、10サイクル目の水素発生に起因するカソード電位を測定した。その結果を表2に示す。表2から活性炭の揮発成分量が増えるほど高い水素ガス発生電位を示し、3.0重量%以上であれば、鉛蓄電池として問題ない水素ガス発生電位を示すことが判明した。
尚、表1,表2及び後記する表3において、官能基修飾活性炭を単に活性炭と表示した。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
比較試験例2
制御弁式鉛蓄電池に用いる従来の正極化成板と負極化成板を公知の方法で作製した。そして、このように製造した各負極化成板の両表面に表1に示す共通の配合組成から成るが、活性炭については揮発成分量が2.5、3.0、3.2、4.1、4.8、5.3重量%と異なる6種類の活性炭から成る6種類のカーボン合剤の夫々を空気中60℃で1時間乾燥し、気孔率75%のポーラスなカーボン合剤被覆層を有する複合キャパシタ負極板を6種類製造した。
このように製造した上記の6種類の複合キャパシタ負極板の夫々を負極とし、正極、AGMセパレータと積層して極板群を組み立て、これを制御弁式鉛蓄電池で公知の組み立て方法と同様に電槽内に収納して、正極容量規制で、5時間率容量が10Ahの鉛蓄電池を6種類組み立てた。尚、極板群の圧迫度は50kPaになるように電槽と極板群の間にスペーサーを入れて調製した。
また、比較のため、カーボン合剤を塗布していない充填用多孔集電基板に鉛活物質を充填して成る負極活物質充填板を負極とし、前記と同じ要領で極板群とし、これを電槽内に圧迫度50kPaになるように収容して、5時間率容量10Ah、2Vの従来の鉛蓄電池を組み立てた。
【0022】
次に、上記に組み立てた6種類の鉛蓄電池No.1、No.2、No.3、No.4、No.5、No.6及び上記の比較用鉛蓄電池の夫々に、硫酸アルミニウム・18水塩を30g/l溶解した比重1.30の硫酸水溶液を電解液として注入し、次いで、1Aで20時間充電を行い、その後電池電圧が1.75Vに達するまで2Aで放電した。その後、再び1Aで15時間の充電と2Aでセル電圧1.75Vまで放電し、5時間率容量を測定したところ、これらの全ての電池の容量は10Ahであった。
【0023】
寿命試験:
次に、上記の6種類の鉛蓄電池No.1〜No.6及び上記従来の鉛蓄電池の夫々につき、HEVによる走行を模擬してPSOCで急速充放電を繰り返すことによる寿命試験を行った。即ち、その試験は各鉛蓄電池につき、2Aで1時間放電してPSOC 80%とした後、40℃の雰囲気中で50A・1秒放電と20A・1秒充電を500回繰り返した後、30A・1秒充電と休止・1秒を510回繰り返し、これを1サイクルとした。この試験を400サイクル繰り返した後、該鉛蓄電池の内部抵抗を測定した。その結果を下記表3に示す。尚、従来の鉛蓄電池は180サイクルで寿命になり、測定ができなかった。該表3から明らかなように、活性炭の揮発成分量が増大するに伴い、内部抵抗が小さくなり電池性能が向上することが判った。
【0024】
【表3】

【0025】
比較試験例3
揮発成分量が下記表4に示すように、3.0重量%から36.2重量%まで異なる7種類の活性炭を夫々用いて、上記表1に示した配合組成のカーボン合剤を夫々調製し、その7種類のカーボン合剤の夫々を用いて、実施例2と同様に、2cm角の純鉛板の両面に合計0.5g塗布し、これをAGMセパレータで挟み、更にその両側面に二酸化鉛から成る対極を配置した。そして、このスタックをアクリル板で挟み、20kPaの加圧力が掛かるように固定した。次に、かくして得られた7種類のスタック(負極)試料No.7、No.8、No.9、No.10、No.11、No.12、No.13の夫々を比重1.30、温度25℃の硫酸水溶液中に入れ、掃引速度10mV/sec、-1.6V〜+1.0V vs. Hg/Hg2SO4の範囲で、サイクリックボルタングラムによる充放電を10回繰り返し、10サイクル目の水素発生開始に起因するカソード電位を測定した。また、純鉛板のレドックス容量やガス発生に対する電流の影響がない範囲(-0.7V〜+0.65V vs. Hg/Hg2SO4)の10サイクル目のクーロン量も求めた。
比較のため、カーボン合剤を塗布しない純鉛板につき、その両側面にセパレータと二酸化鉛から成る対極を順次重ね合わせて成るスタック(負極)を比較試料とし、該スタックをアクリル板で挟み、20kPaの加圧力が掛かるように固定し、以上は上記と同様の条件で充放電を10回繰り返し、10サイクル目の水素発生開始に起因するカソード電位及び-0.7V〜+0.65Vの範囲でクーロン量を求めた。その結果を表4に示す。
【0026】
【表4】

【0027】
上記表4から明らかなように、活性炭の揮発成分量が36.2重量%、即ち、30重量%を超えると、水素過電圧は貴側へ移行してしまうと共に、クーロン量が低下する。
【0028】
上記比較試験例1〜3から明らかなように、活性炭が官能基で修飾される揮発成分量が3〜30重量%の範囲のものをカーボン合剤に配合することにより、鉛活物質充填板から成る負極板の表面に塗布し、そのカーボン合剤被覆層を形成して成る負極を鉛蓄電池に用いるときは、水素ガス発生の増加を抑制し、電池寿命を延長し、更には、PSCOにおける急放電サイクル特性に優れ、エンジンのオンオフを繰り返すハイブリッド自動車や風車などの電池利用産業分野に用いるときは、負極極性の向上をもたらす。
【0029】
比較試験例4
更に、本発明者等は、官能基で修飾されている活物質につき、下記する方法により、活性炭の表面官能基の特定の種類及び量が鉛蓄電池のサイクル寿命の向上に重要な働きをすることを知見した。即ち、先ず以下の方法で下記表5に示す試料A〜Kを調製した。
各種活性炭の調製:
1)ヤシガラ系活性炭を用い、水蒸気賦活を2時間行ったヤシガラ活性炭を試料Aとした。
2)空気酸化法
試料Aの活性炭につき、空気酸化法で表面処理を行った。具体的には、その活性炭を湿潤空気の気流中(1リットル/分)で350℃まで昇温して、その温度に夫々1,3,5時間保持した後、室温まで冷却して調製したものを夫々試料B,C,Dとした。
3)溶液酸化法
試料Aの活性炭につき、溶液酸化法で表面処理を行った。具体的には、その活性炭を濃度が0.3,1.5,1.0,1.2,2.0mol/lの過硫酸アンモニウム水溶液に夫々浸漬し、2昼夜放置した後、水洗・乾燥して調製したものを夫々試料E,F,G,H,Iとした。
4)熱処理法
試料Aの活性炭につき、熱処理法で表面処理を行った。具体的には、その活性炭を窒素雰囲気下で800℃に昇温し、その温度に1,2時間保持した後、室温まで冷却して調製したものを試料J,Kとした。
【0030】
【表5】

【0031】
活性炭の酸性表面官能基量の測定:
次に、試料A〜Kの活性炭につき、酸性表面官能基の量の測定を下記するa),b),c)の手順で行った。尚、官能基量の測定は、カルボキシル基、ラクトン基、フェノール性水酸基の3種類の各酸性官能基と水酸化ナトリウムとの間で中和反応が起こる原理を利用し、中和で消費された水酸化ナトリウムの量から表面官能器量を算出した。
a)前処理
るつぼに測定する試料A〜Kの活性炭を加え、電気炉にて300℃で3時間乾燥した。その後、デシケーター中で室温まで冷却したものを測定試料とした。
b)カルボキシル基、ラクトン基、水酸基の反応
各測定試料0.1gに0.1MのNaOH水溶液50mlをフラスコに加え、2日間振盪器にかけた。その後、ろ別したろ液を測定溶液とした。
c)酸性表面官能基の定量
測定溶液20mlを分取し0.1MのHCl水溶液で逆滴定を行い、空試験との体積差から表面官能基量(mmol/g)を算出した。その結果を表5に示す。
【0032】
活性炭の物性の測定:
更に、試料A〜Kの活性炭につき、比表面積及び平均粒径の測定を夫々次のように行った。
a)比表面積の測定:
試料A〜Kの活性炭の比表面積の測定は、窒素吸着法を用いて行った。前記の前処理が済んだA〜Kの各測定試料2.0gを自動比表面積測定装置(ジェミニ2360、島津製作所製)で測定し、BET式より比表面積(m2/g)を算出した。その結果を表5に示す。
b)平均粒径の測定:
次に、試料A〜Kの活性炭の平均粒径の測定は、レーザー回折法を用いて行った。前記の前処理が済んだA〜Kの各測定試料0.1gをレーザー回折散乱式粒度分布測定器(SKレーザーマイクロンサイザーLMS-2000e、セイシン企業製)で測定した。その結果を表5に示す。
【0033】
活性炭の単位面積当たりの酸性表面官能基量の算出:
上記で求めた活性炭1g当たりの酸性表面官能基量と、上記の比表面積の測定法で求めたA〜Kの各活性炭1g当たりの比表面積の測定結果から、活性炭の単位面積当たりの表面酸性官能基量を算出した。その結果を表5に示す。
【0034】
複合キャパシタ負極板の作製:
次に、試料A〜Kの11種類の各活性炭を用いて、鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板を下記のように作製した。
ボールミル法で製造した一酸化鉛を主成分とする鉛粉から成る負極活物質100重量部に対し導電性カーボン材料としてアセチレンブラックの粉末を0.5重量部と硫酸バリウムの粉末をアセチレンブラックの添加量の1.5倍量、即ち、0.75重量部を添加し、混合した。次に、リグニンを負極活物質に対し0.2重量%を水3gと共にイオン交換水を負極活物質に対し10重量%を添加、混練し、更に、比重1.36の希硫酸を負極活物質に対し9.5重量部添加、混練してカップ密度約135g/2in3負極活物質ペーストを調製した。次に、このように製造した負極活物質ペーストをPb-Ca合金から成る集電用格子基板に充填した後、40℃、湿度95%の雰囲気で24時間熟成し、その後乾燥して未化成の負極板を多数枚製造した。
次いで、試料A〜Kと異なる11種類の活性炭各種活性炭40重量部を下記表6に示すカーボン合剤ペーストの配合成分添加し、11種類のカーボン合剤ペーストを調製し、前記負極板の耳を除く両表面全体に該カーボン合剤ペーストが乾燥したときの乾燥重量換算で負極板に含有する活物質重量の8重量%を0.2mmの厚さに塗布した後、空気中60℃で1時間乾燥すると同時に鉛活物質を酸化させた。かくして、各負極板の表面に気孔率75%を有するポーラスなカーボン合剤の被覆層が形成された複合キャパシタ負極板を11種類作製した。
【0035】
【表6】

【0036】
正極板の作製:
酸化鉛100重量部にイオン交換水10重量部と、次いで、比重1.27の希硫酸10重量部を添加、混練して正極用ペーストを調製した後、この正極用ペーストをPb-Ca合金から成る集電用格子基板に充填し、40℃、湿度95%の雰囲気で24時間熟成し、その後乾燥して未化成の正極板を多数枚作製した。
【0037】
鉛蓄電池の製造:
上記に作製した11種類の複合キャパシタ負極板の夫々について、該複合キャパシタ負極板5枚と上記に作製した正極板4枚とを、微細ガラスマットセパレータを介し交互に積層し、同極性極板の耳群をCOS方式で溶接して極板群を組み立てた。これを公知の制御弁式鉛蓄電池の組み立て方法と同様にポリプロピレン製の電槽に入れ、ヒートシールによって蓋を施して封口して、正極容量規制で5時間率容量が10Ahの2Vから成る11種類の制御弁式鉛蓄電池A,B,C,…Kを組み立てた。尚、群挿入の際に極板群の圧迫度が50KPaになるようにスペーサーを電槽と群との間に介入して調製した。次いで、上記に組み立てた鉛蓄電池に電解液として、硫酸アルミニウム・18水塩を30g/l溶解した比重1.30の硫酸水溶液を注入し、次いで、1Aで20時間充電を行い、その後セル電圧が1.75Vになるまで2Aで放電した。その後、再び1Aで15時間の充電と2Aでセル電圧1.75Vまで放電した。かくして、5時間率容量は10Ahの11種類の鉛蓄電池(セル)A,B,C,…Kを製造した。
【0038】
サイクル寿命試験:
上記の11種類の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池(セル)A,B,C,…Kの夫々について、HEVによる走行を模擬してPSOCで急速充放電を繰り返すことによるサイクル寿命試験を次のように行った。即ち、各セルを2Aで1時間放電してSOC 80%とした後、40℃の雰囲気中で50A・1秒放電と20A・1秒充電を500回繰り返した後、30A・1秒充電と休止・1秒を510回繰り返し、これを1サイクルとした。このサイクル試験を繰り返し、2Vセルの放電電圧が0Vに達した時点を寿命とした。夫々の鉛蓄電池の急速充放電サイクル寿命試験の結果を下記表7に示す。
【0039】
【表7】

【0040】
上記表5及び表7から明らかなように、表面酸化処理による比表面積の大きな変化が見られず、また平均粒径もそれほど変わらないことから、該複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池のサイクル寿命には活性炭の表面酸性官能基量が大きく影響していることが分かった。尚、茲で、各試料の表面酸性官能基量を単位面積当たりで比較するために、酸性官能基量(mmol/g)を比表面積(m2/g)で除した値(μmol/m2)を算出して、各夫々の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池A,B,C,…Kのサイクル寿命との関係を図1に示す。図1で、夫々のプロットは、夫々の試料A,B,C,…Kを用いた鉛蓄電池A,B,C,…Kのサイクル寿命を示す。溶液酸化を施した資料Eを備えた鉛蓄電池では1.17μmol/m2のときに、表面処理を施さなかった試料Aを備えた鉛蓄電池Aと比較して約6倍の寿命性能を得ることができた。
【0041】
図1に示す試料A,B,C,…Kのプロットから大きく値の外れた試料Iのデータを除いたプロットの多項式近似を求めた所、次の数式が得られた。
y=-843.06x2+2754.6x+91.458、R2=0.9415、ここで、x:酸性表面官能基量、y:サイクル寿命、R2:決定係数。
鉛蓄電池Aの寿命は350サイクルであるので、これの約1.5倍の500サイクルをサイクル寿命の優位性の基準とすると、上記数式のyに500を代入して解を求めると、x=0.16、3.11である。即ち、酸性表面官能基量が0.16〜3.11μmol/m2のとき、活性炭A,B,C,D,E,F,Gを用いた複合キャパシタ負極板を備えた鉛蓄電池B,C,D,E,F,Gは、500サイクル以上の寿命の向上が認められる。
単位面積当たりの表面酸性官能基量が0.08〜1.17μmol/m2までの鉛蓄電池A、鉛蓄電池B〜G、鉛蓄電池J,Kでは性の直線関係が成立しているが、これは官能基量の増加に比例してキャパシタ容量も増加したことが理由として考えられる。キャパシタ容量の増加に伴い鉛蓄電池の充電受け入れ性が向上し、ひいては長寿命化という結果に繋がったものである。
一方、単位面積当たりの表面酸性官能基量が増加するとキャパシタ容量が大きくなるが、一方で電解液の減少量も大きくなる。通常、PSOCで急速充放電を繰り返すことによるサイクル寿命試験では負極板の劣化(サルフェーション)により寿命となるが、官能基量が1.93μmol/m2以上になると液枯れにより寿命となった。よって、活性炭の表面官能基量はキャパシタ容量という観点では多いほど良いが、これを電池寿命という観点から見ると、多過ぎると逆効果となることが分かった。
【0042】
比較試験5
次に、具体的にどのような酸性表面官能基が寿命に影響を与えているかを調べるために、表8に示す試料L〜Rの活性炭を準備して、表面官能基量の定量、及び物性(比表面積、平均粒径)の測定を行った。
【0043】
活性炭の各酸性表面官能基量の定量:
試料Lとして、アルカリ賦活を1時間行ったフェノール樹脂系活性炭、試料M〜Pとして水蒸気賦活を2時間行ったヤシガラ活性炭、試料Qとしてリン酸賦活を2時間行った木系活性炭を用い、各試料L〜Qの活性炭につき、各酸性表面官能基量の定量を特開2004-47613の[0014]に記載されているように、一般的に知られている方法で行った。即ち、活性炭試料各2gを100mlのエルレンマイヤーフラスコに取り、N/10のアルカリ試薬((a)炭酸水素ナトリウム、(b)炭酸ナトリウム、(c)苛性ソーダ、(d)ナトリウムエトキシド)を各々50ml加え、24時間振とうした後濾別し、未反応のアルカリ試薬をN/10塩酸で滴定し、カルボキシル基はアルカリ試薬(a)〜(d)の全てと、ラクトン基はアルカリ試薬(b)〜(d)と、フェノール性水酸基はアルカリ試薬(c)〜(d)と反応するので、各々の滴定量を差し引きすることによって、各酸性表面官能基量を定量した。その結果を表8に示す。
【0044】
活性炭の物性の測定:
次に、試料L〜Qの活性炭につき、比較試験3の場合と同様にして比表面積及び平均粒径の測定を行った。その結果を表8に示す。
【0045】
活性炭の単位面積当たりの各酸性表面官能基量の測定:
上記で求めた活性炭1g当たりの官能基量と、上記で求めた活性炭1g当たりの比表面積の測定結果から、各活性炭の単位面積当たりのカルボキシル基量、ラクトン基量、フェノール性水酸基量を算出した。カルボキシル基、ラクトン基及びフェノール性水酸基の合計を酸性合計とした。その結果を表8に示す。
【0046】
【表8】

【0047】
鉛蓄電池の作製
次に、試料となる活性炭が異なる以外は先の比較試験例4の場合と同様にして、5時間率容量が10Ahの2Vセルから成る表9に示す蓄電池L〜Qに係る制御弁式鉛蓄電池を夫々組み立て、電解液の調製、化成及び容量測定を行って、完成電池とした。
【0048】
【表9】

【0049】
サイクル寿命試験
次に、試料となる活性炭が異なる以外は先の比較試験例4の場合と同様の条件でサイクル寿命試験を行った。その結果を上記表9に示す。
【0050】
茲で、各試料の表面官能基量を単位面積当たりで比較するために、各官能基量(mmol/g)を比表面積(m2/g)で除した値(μmol/m2)を算出して、各複合ャパシタ負極を具備した鉛蓄電池のサイクル寿命との関係を調べた。先ず、カルボキシル基量とサイクル寿命との関係では、図2に示すように各プロットから線形近似を求めた所、次の数式が得られた。
y=11469x+606.11、R2=0.9068、ここで、x:カルボキシル基量、y:サイクル寿命、R2:決定係数。
表7の蓄電池Aのサイクル寿命は350サイクルであるので、その2.0倍の700サイクルを優位性の基準とすると、上記数式のyに700を代入して解を求めると、x=0.01であり、即ち、カルボキシル基量が0.01μmol/m2以上のとき、複合キャパシタ負極を備えた鉛蓄電池のサイクル寿命の向上が可能となる。
【0051】
次に、ラクトン基量とサイクル寿命との関係では、図3に示すように各プロットから線形近似を求めた所、次の数式が得られた。
y=10684x+251、R2=0.9245、ここで、x:ラクトン基量、y:サイクル寿命、R2:決定係数。
上記と同様に、700サイクルを優位性の基準とすると、上記数式のyに700を代入して解を求めると、x=0.04であり、即ち、ラクトン基量が0.04μmol/m2以上のとき、複合キャパシタ負極を備えた鉛蓄電池のサイクル寿命の向上が可能となる。
【0052】
次に、フェノール性水酸基量とサイクル寿命との関係では、図4に示すように各プロットから線形近似を求めた所、次の数式が得られた。
y=4395.3x+194.87、R2=0.5791、ここで、x:フェノール性水酸基量、y:サイクル寿命、R2:決定係数。
上記と同様に、700サイクルを優位性の基準とすると、上記数式のyに700を代入して解を求めると、x=0.11となった。が、実施例13ではx=0.12のときにy=510であるので、フェノール性水酸基量が0.14μmol/m2以上のとき、複合キャパシタ負極を備えた鉛蓄電池のサイクル寿命の向上が可能となる。
このように、図2〜図4から明らかなように、各官能基量とサイクル寿命との関係を見ると、カルボキシル基量では0.01μmol/m2以上、ラクトン基量では0.04μmol/m2以上、フェノール性水酸基量では0.14μmol/m2以上で鉛蓄電池のサイクル寿命の向上をもたらす。また、塩基性のキノン基量はあまり効果がないことが分かった。これらより、活性炭の表面官能基としてカルボキシル基、ラクトン基、フェノール性水酸基等の酸性官能基を備えるものがサイクル特性の向上が期待でき、夫々の官能基ではカルボキシル基>ラクトン基>フェノール性水酸基の順に効果が大きいことが分かった。
【0053】
上記比較試験例4及び5から明らかなように、鉛活物質充填板から成る負極板の表面に活性炭が上記特定の酸性表面官能基で修飾され活性炭を含むカーボン合剤被覆層を形成して成る複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池は、サイクル寿命が延長し、PSOCにおける急放電サイクル特性に優れ、エンジンのオンオフを繰り返すハイブリッド自動車や風車などの電池利用産業分野に用い極めて有用である。
【符号の説明】
【0054】
A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K 各試料のプロット
L,M,N,O,P,Q 各試料のプロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を確保するカーボン材料とキャパシタ容量及び/又は擬似キャパシタ容量を確保する活性炭と少なくとも結着剤を混合して成るカーボン合剤の被覆層を負極活物質充填板の表面に形成して成る鉛蓄電池用複合キャパシタ負極において、該活性炭は官能基で修飾されている活性炭であることを特徴とする鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項2】
該官能基修飾活性炭は揮発成分を3〜30重量%含むことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項3】
該カーボン合剤は、該カーボン材料5〜70重量部、該官能基修飾活性炭20〜80重量部、結着剤1〜20重量部、増粘剤0〜10重量部、短繊維状補強材0〜10重量部から成ることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項4】
該負極活物質充填板の表面に被覆されるカーボン合剤の添加量は、負極活物質100重量部に対し15重量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項5】
該カーボン合剤被覆層の気孔率は40〜90%であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項6】
該カーボン合剤被覆層の厚みは1.0mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載のいずれか1つに記載の複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池。
【請求項8】
該官能基修飾活性炭は酸性表面官能基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項9】
該酸性表面官能基量は活性炭1g当たりの量を活性炭の比表面積で除した値が0.16〜3.11μmol/m2であることを特徴とする請求項9に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項10】
該酸性表面官能基はカルボキシル基であり、活性炭1g当たりのカルボキシル基量は活性炭の比表面積で除した値が0.01μmol/m2以上であることを特徴とする請求項9に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項11】
該酸性表面官能基はラクトン基であり、活性炭1g当たりのラクトン基量は活性炭の比表面積で除した値が0.04μmol/m2以上であることを特徴とする請求項9に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項12】
該酸性表面官能基はフェノール性水酸基であり、活性炭1g当たりのフェノール性水酸基量は活性炭の比表面積で除した値が0.14μmol/m2以上であることを特徴とする請求項9に記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか1つに記載の鉛蓄電池用複合キャパシタ負極板を具備した鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−71112(P2011−71112A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187837(P2010−187837)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【Fターム(参考)】