説明

鉛蓄電池用負極板及びそれを用いた鉛蓄電池

【課題】長寿命の鉛蓄電池用負極板及びそれを用いた長期サイクル後にも放電容量の低下が少ない鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】鉛蓄電池用負極板に、水溶性ビニロンを、活物質である鉛原料(鉛粉)に対して0.05質量%以上0.14質量%以下添加することを特徴とする。更に、水溶性ビニロンと共に、グラファイトを鉛粉に対して0.2質量%以上1.4質量%以下添加することが好ましい。また、この鉛蓄電池用負極板を用いたことを特徴とする鉛蓄電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長寿命の鉛蓄電池用負極板及びそれを用いた鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉛蓄電池用極板は、集電体にペースト式活物質層が形成されたもので構成されているが、活物質の脱落を防ぐためにガラス繊維、ポリプロピレン樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維等の補強用短繊維をペースト式活物質層内に分散して含有させている。しかしながら、ポリプロピレン樹脂繊維、ポリエステル樹脂繊維は、疎水性を有しているため、電解液を保持する能力がほとんどない。また、ガラス繊維は親水性を有するものの、表面が平滑なため、電解液保持量が少ない。そのため、極板の活物質利用率が上がらないといった問題点があった。
【0003】
そこで、活物質利用率を向上させルために、ポリプロピレン樹脂繊維を、親水基を有するモノマー(アクリル酸)を含有する水溶液に浸漬してポリプロピレン樹脂の表面を科学修飾した補強用短繊維を作り、これを活物質中に添加する方法(特許文献1参照)や、鉛化合物の微細粒子と耐酸性および耐酸化性を有する細繊維とを凝集してできる多孔質の凝集粒を活物質中に添加する方法(特許文献2参照)が採用されているが、サイクルの経過と共に活物質利用率の低下が著しく、極板寿命が短くて実用的ではなかった。
【0004】
これらの問題点を解決した発明として、「ペースト式正極板、リテーナもしくはセパレータ、及びペースト式負極板を積層してなる鉛蓄電池において、該ペースト式正極板、及び/又は該ペースト式負極板が親水性短繊維を含有することを特徴とする鉛蓄電池。」(特許文献3参照)があり、特許文献3には、「前記親水性短繊維はアクリル繊維、レーヨン繊維、及びビニロン繊維の少なくとも1種であること」、「前記親水性短繊維の含有量が前記ペースト式正極板もしくは前記ペースト式負極板の活物質である鉛原料の0.15〜1.0重量パーセントであること」が記載されている。
【0005】
特許文献3に記載の発明によれば、親水性短繊維を活物質の0.15〜1.0重量%添加することで、「硫酸電解液のペースト式活物質内への吸液性及び保持性が、親水性短繊維によって大幅に向上するため、活物質利用率が高く、サイクル劣化の少ない鉛蓄電池を提供することができる。」(段落[0012])とあるが、親水性短繊維の吸液性(電解液保持性)を利用するものであるから、ビニロン繊維は、耐水性で繊維形態が維持されることを前提とするものであり、水溶性でないことは明らかである。また、後述の比較例に示されるように、水溶性ビニロンを0.15重量%添加した負極板を用いた鉛蓄電池は、初期容量は増加するものの、長期サイクル後の放電容量は従来例よりも低下し、サイクル寿命の向上が十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−241673号公報
【特許文献2】特開平4−229556号公報
【特許文献3】特開2006−004688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題を解決し、長寿命の鉛蓄電池用負極板及びそれを用いた長期サイクル後にも放電容量の低下が少ない鉛蓄電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)水溶性ビニロンを、活物質である鉛原料に対して0.05質量%以上0.14質量%以下添加することを特徴とする鉛蓄電池用負極板。
(2)更に、グラファイトを、前記鉛原料に対して0.2質量%以上1.4質量%以下添加することを特徴とする前記(1)の鉛蓄電池用負極板。
(3)前記(1)又は(2)の鉛蓄電池用負極板を用いたことを特徴とする鉛蓄電池。
(4)前記水溶性ビニロンが電解液中に溶出していることを特徴とする前記(3)の鉛蓄電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、負極板に、水溶性ビニロンを、活物質である鉛原料に対して0.05質量%以上0.14質量%以下添加し、更に、水溶性ビニロンと共に、グラファイトを鉛粉に対して0.2質量%以上1.4質量%以下添加したことにより、長期サイクル後にも放電容量の低下が少なくなり、鉛蓄電池のサイクル寿命が顕著に向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】鉛蓄電池のサイクル数と放電容量の関係(寿命試験結果)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の鉛蓄電池用負極板を作製する場合、従来のペースト式負極板と同様に、まず、活物質である鉛原料(鉛粉)に対して、所定量のリグニン、硫酸バリウム、補強用短繊維などを添加して混練した混合物とし、この混合物に水を加えて混合し、さらに希硫酸を加えて負極活物質ペーストを作製するが、本発明においては、上記の混合物とする際に、鉛粉に対して0.05〜0.14質量%の水溶性ビニロンを添加する。水溶性ビニロンの添加量は、0.05質量%未満では、寿命性能の向上が十分ではなく、0.14質量%より多いと、初期容量は増加するものの、長期サイクル後の放電容量が低下するので、0.05〜0.14質量%の範囲が好ましい。水溶性ビニロンは、直径11〜27μm、長さ2〜6mmの繊維状のものを採用することができるが、活物質を補強するために添加するのではなく、寿命性能を向上させるために添加するので、形状は任意である。また、本発明において、ビニロンは水溶性であるから、サイクルの経過に伴い、負極板に添加した量だけ電解液中に溶解する。したがって、負極板を補強するため、補強用短繊維(ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレートなど)は別途添加する。補強用短繊維の添加量は、0.05〜0.3質量%が好ましい。
【0012】
上記のように、水溶性ビニロンは、寿命性能を向上させるものであるが、負極の充電受け入れ性能を低下させてしまう。これを解決するために、水溶性ビニロンと共にグラファイトを添加することが好ましい。ただし、グラファイトの添加量を1.5質量%以上にすると、水素発生の影響が出て、再び寿命性能が低下に転じるため、グラファイトの添加量は、鉛粉に対して0.2質量%以上1.4質量%以下とすることがより好ましい。以上のように、ビニロンを鉛粉に対して0.05質量%以上0.14質量%以下添加し、より好ましくは、グラファイトを鉛粉に対して0.2質量%以上1.4質量%以下添加することで、長寿命の鉛蓄電池用負極板が得られる。
【0013】
次に、上記のようにして作製した負極活物質ペーストを集電体格子に充填して、熟成した後に、乾燥させ、未化成の負極板を作製する。集電体格子としては、鉛−カルシウム−錫合金、鉛−カルシウム合金、又はこれらに砒素、セレン、銀、ビスマスを微量添加した鉛−カルシウム−錫系合金、鉛−カルシウム系合金などからなるものを使用することができる。熟成条件は、温度35〜85℃、湿度50〜90RH%の雰囲気で40〜56時間とすることが好ましい。乾燥条件は、温度50〜80℃で18〜30時間とすることが好ましい。
【0014】
本発明において、正極板を作製する場合、従来のペースト式正極板と同様に、まず、鉛粉に対して、補強用短繊維を加え、水と希硫酸を加え、これを混練して正極活物質ペーストを作製する。この正極活物質ペーストを集電体格子に充填して、熟成した後に、乾燥させ、未化成の正極板を作製する。集電体格子の種類、熟成条件、乾燥条件は、ほぼ、負極板の場合と同様である。
【0015】
上記のように作製した負極板と正極板を、従来と同様に、セパレータを介して積層し、同極性の極板同士をストラップで連結させて極板群とする。この極板群を電槽内に配置して未化成電池を作製する。上記未化成電池に希硫酸を入れ、化成した後に、電解液を一度抜き、その後硫酸を入れて、本発明の鉛蓄電池とする。セパレータとしては、ポリエチレン製、ガラス繊維製などのものを使用することができる。なお、化成条件や使用する硫酸の比重は極板のサイズによって決めることができる。
【0016】
以下、詳細を実施例によって説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
(負極板の作製)
負極板の作製においては、まず、鉛粉に対して、0.3質量%のリグニンと0.5質量%の硫酸バリウム、0.1質量%のポリプロピレン繊維、及び、表1に示される量の添加剤(水溶性ビニロン:クラレ株式会社製、商品名「ビニロンREC S7」、グラファイト)を添加し、混練機で約10分混練した混合物を準備した。次に、この混合物に、鉛粉に対して13質量%の水を加えて混合し、さらに鉛粉に対して13質量%の希硫酸(比重1.40,20℃)を加えて負極活物質ペーストを作製した。この負極活物質ペースト54gを、長さ116mm×幅100mm×厚さ1.0mmの鉛−カルシウム−錫合金からなる集電体格子に充填して、温度50℃,湿度50RH%の雰囲気下で48時間放置して熟成した後に、温度50℃で24時間放置して乾燥させ、未化成の負極板を作製した。
【0018】
(正極板の作製)
正極板の作製においては、まず、鉛粉に対して、0.1質量%のポリプロピレン繊維を加え、鉛粉に対して13質量%の水と8質量%の希硫酸(比重1.40,20℃)を加え、これを混練して正極活物質ペーストを作製した。この正極活物質ペースト65gを、長さ116mm×幅100mm×厚さ1.4mmの鉛−カルシウム−錫合金からなる集電体格子に充填して、温度50°C、湿度50RH%の雰囲気下で72時間放置して熟成した後に、温度50°Cで24時間放置して乾燥させ、未化成の正極板を作製した。
【0019】
(電池の作製および化成)
上記のようにして作製した負極板5枚と正極板4枚を、ポリエチレン製セパレータを介して積層し、同極性の極板同士をストラップで連結させて極板群とした。この極板群を電槽内に配置して未化成電池を作製した。
上記未化成電池に比重1.20(20℃)の希硫酸を入れ、7Aで20時間化成した後に、電解液を一度抜き、その後1.28(20℃)の硫酸を入れて、実施例1〜7、比較例、及び従来例の鉛蓄電池を完成させた。得られた鉛蓄電池の容量は28Ahであった。
【0020】
(鉛蓄電池の評価条件:JIS軽負荷寿命試験)
上記のようにして作製した鉛蓄電池について、以下の条件で寿命試験を行った。
放電:25A×4min
充電:14.8V(max25A)×10min
上記充放電480サイクル毎に、以下の条件で判定放電を実施し、30秒目電圧が1.2V以下になったところを寿命とした。
判定放電:150A×30sec
【0021】
(多孔度の測定方法)
上記のようにして作製した鉛蓄電池について、0サイクル、960サイクル、1920サイクル、2880サイクル毎に、負極板の多孔度(%)を水銀圧入法(水銀ポロシメーター)で測定した。
【0022】
実施例1〜7、比較例、及び従来例の鉛蓄電池について、負極板の多孔度(%)の測定結果を表1に、寿命試験結果を図1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1によれば、水溶性ビニロン(以下、「ビニロン」と省略)を鉛粉に対して0.05〜0.14質量%添加した負極板を用いた実施例1〜7の鉛蓄電池は、ビニロンを添加していない負極板を用いた従来例の鉛蓄電池と比較して、負極板の多孔度が顕著に増大し、長期サイクル後も大きな多孔度が維持されていることが分かる。したがって、ビニロンを鉛粉に対して0.05〜0.14質量%添加することにより、活物質利用率が向上するといえる。また、ビニロンを鉛粉に対して0.14質量%添加した負極板を用いた実施例2の鉛蓄電池と、ビニロンを鉛粉に対して0.15質量%添加した負極板を用いた比較例の鉛蓄電池とを比較すると、僅か0.01質量%の添加量の違いで、実施例2の負極板の多孔度は増大し、特に、長期サイクル後の多孔度が大幅に増大していることが分かる。
【0025】
図1によれば、ビニロンを鉛粉に対して0.05〜0.14質量%添加した負極板を用いた実施例1〜7の鉛蓄電池は、ビニロンを添加していない負極板を用いた従来例の鉛蓄電池と比較して、初期容量が増加し、長期サイクル後も放電容量の低下が少ないことが分かる。特に、ビニロン0.14質量%とグラファイト0.2〜1.4質量%(鉛粉に対して)を添加した負極板を用いた実施例5〜7の鉛蓄電池では、長期サイクル後の放電容量が大幅に改善されている。これに対し、ビニロンを鉛粉に対して0.15質量%添加した負極板を用いた比較例の鉛蓄電池は、長期サイクル(1440サイクル、1920サイクル)後の放電容量が、ビニロンを添加していない負極板を用いた従来例の鉛蓄電池よりも低下している。
【0026】
以上のように、本発明においては、負極板に、ビニロンを鉛粉に対して0.05〜0.14質量添加すること、更に、ビニロンと共に、グラファイトを鉛粉に対して0.2〜1.4質量%添加することにより、負極板の多孔度が増大し、活物質利用率が向上すると共に、その負極板を用いた鉛蓄電池のサイクル寿命が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ビニロンを、活物質である鉛原料に対して0.05質量%以上0.14質量%以下添加することを特徴とする鉛蓄電池用負極板。
【請求項2】
更に、グラファイトを、前記鉛原料に対して0.2質量%以上1.4質量%以下添加することを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用負極板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鉛蓄電池用負極板を用いたことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項4】
前記水溶性ビニロンが電解液中に溶出していることを特徴とする請求項3に記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−232147(P2010−232147A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81370(P2009−81370)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】