説明

鉛蓄電池

【課題】電池反応を阻害することなく、補水点検に必要な電槽の透視性を確保できる鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【解決手段】透視可能な樹脂製の電槽を用いた、補水点検を必要とする鉛蓄電池であって、電槽に電解液面の上限を示す最高液面線と電解液面の下限を示す最低液面線とを設け、電槽を複数のセル室に分割する中仕切りにおける最高液面線と最低液面線との間に相当する位置に、ポリオレフィン製の吸着素材を備えるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車始動用の液式鉛蓄電池の電解液である希硫酸は、充電時の水の電気分解に伴って徐々に減少する。電解液が減少し続けることで鉛蓄電池の極板が空気中に長期間露出するようになり、この状態で充電し続けることで格子耳及びストラップ部が腐食破断して、電池の内部に溜まった水素ガスや酸素ガスに引火して電池が破裂する虞がある。よって自動車始動用の液式鉛蓄電池は、電解液面を管理して補水点検することが不可欠となっている。
【0003】
この液式鉛蓄電池のセパレータにはポリエチレンを主成分とするフィルム状微孔セパレータが広く用いられている。この種のセパレータは孔径が小さく耐酸性にも優れている。フィルム状セパレータは、まずポリエチレンとシリカの粉体とオイルとを混合し、溶融状態にしたものを押出成型して、有機溶媒を通過させることでオイルを一部抽出することで製造される。ここで混合されたオイルはポリエチレンを保護しセパレータの耐酸性を向上させるが、このオイルが電池の使用によって徐々に電解液中に溶出し、電解液面を浮遊して、近傍の電槽の内壁面に付着することになる。
【0004】
一方、鉛蓄電池の放電生成物は正極、負極とも硫酸鉛であって、これを充電によって二酸化鉛(正極)および海綿状鉛(負極)に戻すのだが、硫酸鉛は導電性が低く、放置によって再結晶反応を起こして不活性化するという課題を持っている。この課題を解決するために、負極活物質に導電性を有するカーボンを多量に添加することが効果的である。とりわけ近年は環境保全の観点からアイドリングストップによる燃費向上を目的とした車両が実用化されているが、この車両の特質として、鉛蓄電池への充電量が削減される一方で、車両搭載機器への電力供給のために深い放電が入ることになる。よって、少ない充電量でも鉛蓄電池が充電不足に陥ることがないよう(鉛蓄電池の充電受入性を向上させるよう)、負極により多くのカーボンを添加する傾向がある。しかし鉛蓄電池を充放電する間に、このカーボンは電解液中に流出し、電槽の内壁面に付着することになる。
【0005】
液式鉛蓄電池の電解液面は電槽を透視して確認するのだが、電槽の内壁面(特に電解液面の近傍)に付着したオイルやカーボンは、電槽の透視性を極度に低下させるため、精確な液面位置の管理を極めて困難なものにさせているという課題があった。
【0006】
これを防止するために、ポリエチレンを主成分とするセパレータにイオン系界面活性剤と非イオン系界面活性剤を共存させ、セパレータからのオイルの溶出を抑えることが提案されている(例えば特許文献1参照)。また負極の活物質内にポリプロピレン、ポリエチレンもしくはこれらの共重合体を添加することで、負極からのカーボンの流出を低減することが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−242876号公報
【特許文献2】特開2007−328979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1の技術を用いた場合、正極と負極との反応面に位置するセパレータの中に界面活性剤が存在することで、電池反応(特に充電反応)が阻害されて、いわゆる「バッテリー上がり」などの不具合を起こすという懸念がある。
【0008】
また特許文献2の技術を用いた場合、負極の内部に疎水性の高い樹脂が存在することで、電池反応(特に放電反応)が阻害されて、セルスタータとしての始動不良などの不具合を起こすという懸念がある。
【0009】
本発明は上述した課題を解決するものであり、電池反応を阻害することなく、補水点検に必要な電槽の透視性を確保できる鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、透視可能な樹脂製の電槽を用いた、補水点検を必要とする鉛蓄電池であって、電槽に電解液面の上限を示す最高液面線と電解液面の下限を示す最低液面線とを設け、電槽を複数のセル室に分割する中仕切りにおける最高液面線と最低液面線との間に相当する位置に、ポリオレフィン製の吸着素材を備えるようにしたことを特徴とする。
【0011】
また本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に係る鉛蓄電池において、電槽の素材としてポリプロピレンを用いたことを特徴とする。
【0012】
さらに本発明の請求項3に係る発明は、請求項1に係る鉛蓄電池において、吸着素材の形態として、不織布および/あるいは連続気泡の発泡体を選択したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成によれば、セパレータや負極活物質から溶出したオイルやカーボンが電槽内壁への付着を、電池反応を阻害することなく抑制できるので、補水点検に必要な電槽の透視性を確保できる、信頼性の高い鉛蓄電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図を用いて説明する。
【0015】
本発明の請求項1に係る発明は、透視可能な樹脂製の電槽を用いた、補水点検を必要とする鉛蓄電池であって、電槽に電解液面の上限を示す最高液面線と電解液面の下限を示す最低液面線とを設け、電槽を複数のセル室に分割する中仕切りにおける最高液面線と最低液面線との間に相当する位置に、ポリオレフィン製の吸着素材を備えるようにしたことを特徴とする。
【0016】
鉛蓄電池101は、複数のセパレータ104を介して複数の正極102と複数の負極103とを対峙させた極板群105を、電槽106を中仕切り107で分割してなる複数のセル室に挿入して構成される。なお複数の正極102は正極ストラップ109によって互いに接続され、複数の負極103は負極ストラップ110によって互いに接続される。また正極ストラップ109は接続体111によって隣のセル室の正極ストラップ109と接続され、負極ストラップ110は接続体111によって隣のセル室の負極ストラップ110と接続される。さらに電槽106はポリプロピレン(PP)やポリプロピレン(PE)などの透視可能な樹脂でできており、電解液面の上限を示す最高液面線112と電解液面の下限を示す最低液面線113とが設けられている。
【0017】
本発明では、中仕切り107における最高液面線112と最低液面線113との間に相当する位置に、ポリオレフィン製の吸着素材108を備えるようにしたことを特徴とする。
【0018】
PPやPEに代表されるポリオレフィン製の吸着素材108は、電解液中にセパレータ104から溶出したオイルや負極103から流出したカーボンを吸着できるので、鉛蓄電池101の中に無作為に吸着素材108を設けても、透視性は向上できると考えられる。しかしカーボンを吸着して吸着素材108は導電性を帯びるので、正極102と負極103とが対峙する箇所と同等の高さに吸着素材108が存在すると、導電性ゆえに内部短絡が起こって正極の活物質が軟化して脱落し、電解液を汚染して結局は透視性を低下させる。
【0019】
そこで正極102と負極103とが対峙する箇所を避けて吸着素材108を設ける(具体的には中仕切り107における最高液面線112と最低液面線113との間に相当する位置に限定する)ことにより、課題なく吸着素材108の効果が発揮できるようになる。
【0020】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に係る鉛蓄電池において、電槽106の素材としてポリプロピレンを用いたことを特徴とする。ポリプロピレンは疎水性(親油性)が高いため、オイルやカーボンを効率良く吸着することができる。さらにポリプロピレンは耐熱温度が110℃付近と高いため、広範囲の電池使用温度に耐えることができる。
【0021】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1に係る鉛蓄電池において、吸着素材108の形態として、不織布および/あるいは連続気泡の発泡体を選択したことを特徴とする。吸着素材108の形態を不織布および/あるいは連続気泡の発泡体とすることで、比表面積を増大し、オイルやカーボンの吸着能力が増大するので好ましい。なお吸着素材108を用いた不織布および/あるいは連続気泡の発泡体の厚さは3〜5mmの範囲が好ましい。不織布および/あるいは連続気泡の発泡体の厚さが3mm未満であると吸着素材の有効面積が小さく、長期間使用した際に電槽内の汚染物質を吸着しきれなくなる可能性があり、5mmを超えると正極ストラップ109および負極ストラップ110に接触して短絡する可能性がある。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
ボールミルで粉砕した鉛粉(金属鉛30質量%と一酸化鉛70質量%の混合物)を水及び硫酸とで混練し、活物質ペーストを得た。これに何も添加しないものを正極活物質ペーストとし、カーボン(電気化学工業(株)製のデンカブラック)、リグニンスルフォン酸、硫酸バリウム、アクリル繊維(長さ2.0mm、径10μm)を所定量混合して混練したものを負極活物質ペーストとした。
【0023】
Pb−Ca−Sn合金のエキスパンド格子体に正極活物質ペーストおよび負極活物質ペーストを充填して熟成乾燥することで、正極および負極を作製した。この正極5枚を、微孔性ポリエチレンの袋状セパレータに収納した負極6枚と対峙させ、正極ストラップおよび負極ストラップで正極および負極をまとめることで極板群を構成した。
【0024】
中仕切りで6つのセル室に分割されたポリプロピレン製の透視可能な電槽(乳白色、高さ196.5mm)の各セル室に、上述した極板群を挿入し、各セル室の中の極板群が直列に接続されるように、正極ストラップどうしおよび負極ストラップどうしを接続体で接続した。なお電槽については、高さ160mmの箇所に最高液面線を設け、高さ140mmの箇所に最低液面線を設けた。
【0025】
さらに中仕切りにおける最高液面線と最低液面線との間に相当する位置に、ポリプロピレンからなる吸着素材を用いて構成した不織布(厚さ4mm/幅)を溶着した後、蓋を溶着し、硫酸からなる電解液を注入してJIS D5301(始動用鉛蓄電池)に規定する55D23形鉛蓄電池(12V48Ah)に相当する鉛蓄電池を作製した。
【0026】
(実施例2)
ポリプロピレンからなる吸着素材を用いて構成した不織布に代えて、ポリプロピレンからなる吸着素材を用いて構成した連続気泡の発泡体を、中仕切りにおける最高液面線と最低液面線との間に相当する位置に溶着したこと以外は、実施例1と同様の鉛蓄電池を作製した。
【0027】
(比較例1)
中仕切りに吸着素材を設けなかったこと以外は、実施例1と同様の鉛蓄電池を作製した。
【0028】
(比較例2)
中仕切りの壁面全体にポリプロピレンからなる吸着素材を用いて構成した不織布を溶着したこと以外は、実施例1と同様の鉛蓄電池を作製した。
【0029】
(比較例3)
中仕切りに吸着素材を設けず、セパレータにイオン系界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム)および非イオン系界面活性剤(ペンタオキシエチレンドデシルエーテル)を含ませたこと以外は、実施例1と同様の鉛蓄電池を作製した。
【0030】
(比較例4)
中仕切りに吸着素材を設けず、負極中に共重合体(ポリプロピレン繊維)を含ませたこと以外は、実施例1と同様の鉛蓄電池を作製した。
【0031】
上記した鉛蓄電池について、25℃、40℃、50℃、60℃、75℃のそれぞれの環境下において、25Aで60秒放電してから14.8V(最大電流25A)の定電圧充電を10分行うという充放電サイクルを8640サイクル行った。480サイクル毎に定格コールドクランキング電流の1/2の値の電流値を30秒間流し、30秒目の電池の端子電圧が7.2V以下となった時を電池の寿命とした。電池寿命に関わらず8640サイクル試験後の電池を静置し、電槽を透視して電解液面が確認できたものを「良好」、電解液面を故意に揺動させることによって電解液面が確認できたものを「不良」、電解液面を揺動させても電解液面が確認できなかったものを「不可」として(表1)に記した。
【0032】
【表1】

【0033】
(表1)に示した結果から、40℃を超えると実施例と比較例との間に顕著な差が見られた。特に比較例1は50℃以上の環境下では電解液面の透視性が失われた。
【0034】
中仕切りの壁面全体に吸着素材を設けた比較例2は、50℃環境下で電解液面の透視性が低下し、75℃環境下では電解液面の透視性が失われた。これは溶出したカーボンが吸着素材に付着したことにより吸着素材に導電性が付与されて内部短絡を引き起こし、これによって活物質の軟化脱落が激しくなって電解液が汚染したためと考えられる。以上のことから、吸着素材は中仕切りにおける最高液面線と最低液面線との間に相当する位置に設ける必要があると考えられる。
【0035】
中仕切りに吸着素材を設けずに、セパレータにイオン系界面活性剤および非イオン系界面活性剤を含ませた比較例3、および負極中に共重合体を含ませた比較例4は、ともに60℃以上の環境下では電解液面の透視性が不十分であることがわかった。比較例3ではセパレータに界面活性剤が存在しているため電池の内部抵抗が上昇し、電池が充電不足となり本発明より短寿命になったと考えられる。また、比較例4では負極活物質中にポリプロピレン繊維が存在しているため電池反応を阻害し、判定放電時の出力特性を低下させ本発明よりも短寿命となったと考えられる。
【0036】
以上、説明してきたように、本発明によれば、鉛蓄電池を長期間苛酷な環境下に放置しても、優れた透視性を発揮することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の鉛蓄電池は、電池使用による電解液面の透視性を損なうことが無いため、液式の自動車用鉛蓄電池をはじめとして、さまざまな用途の鉛蓄電池に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の鉛蓄電池の要部断面を示す図
【符号の説明】
【0039】
101 鉛蓄電池
102 正極
103 負極
104 セパレータ
105 極板群
106 電槽
107 中仕切り
108 吸着素材
109 正極ストラップ
110 負極ストラップ
111 接続体
112 最高液面線
113 最低液面線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透視可能な樹脂製の電槽を用いた、補水点検を必要とする鉛蓄電池であって、
前記電槽に、電解液面の上限を示す最高液面線と電解液面の下限を示す最低液面線とを設け、
前記電槽を複数のセル室に分割する中仕切りにおける前記最高液面線と前記最低液面線との間に相当する位置に、ポリオレフィン製の吸着素材を備えるようにしたことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記電槽の素材としてポリプロピレンを用いたことを特徴とする、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記吸着素材の形態として、不織布および/あるいは連続気泡の発泡体を選択したことを特徴とする、請求項1に記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−113865(P2010−113865A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283843(P2008−283843)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】