説明

鉛蓄電池

【課題】硫酸鉛の蓄積が少なく、かつ低温HR性能を向上させた鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】鉛蓄電池は、正極板と負極板との間にセパレータを介在させた極板群を電槽内に収容すると共に、電槽内に電解液を保持させる。電解液は20℃の満充電状態における密度が1.265g/cm以下で、かつアルミニウムイオンを0.02mol/L以上で0.2mol/L以下、リチウムイオンを0.02mol/L以上で0.2mol/L以下含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費の改善を目的に、蓄電池への充電を制御する充電制御機能、あるいは停止時にエンジンをストップするアイドリングストップ機能を備えている自動車が普及しつつある。このような自動車では、充電不足な状態で使用されるため、負極に硫酸鉛が蓄積するサルフェーションにより鉛蓄電池が短寿命になる傾向がある。これに対して発明者は、電解液の密度を例えば1.265g/cm以下と低くし、かつ電解液に所定量のアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含有させることにより、負極への硫酸鉛の蓄積を特に少なくでき、かつ低温HR性能を向上させることができることを見出した。なお低温HR性能は低温でエンジンを始動する際の蓄電池の性能を表し、例えば低温HR容量で評価できる。
【0003】
関連する先行技術を示すと、特許文献1(WO2007/36979)は、電解液にアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含有させることにより、アイドリングストップ寿命と電池の容量(5時間率容量)とに優れた鉛蓄電池が得られることを開示している。しかしながら電解液の密度の影響は検討されておらず、負極がカーボンブラックを含み、アルミニウムイオンを含み密度が1.28g/cmの電解液を備えた蓄電池に言及しているに留まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/36979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の基本的課題は、硫酸鉛の蓄積が少なく、かつ低温HR性能を向上させた鉛蓄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、正極板と負極板との間にセパレータを介在させた極板群を電槽内に収容すると共に、前記電槽内に電解液を保持させた鉛蓄電池において、前記電解液は20℃の満充電状態における密度が1.265g/cm以下で、かつアルミニウムイオンを0.02mol/L以上で0.2mol/L以下、リチウムイオンを0.02mol/L以上で0.2mol/L以下含有することを特徴とする。
【0007】
好ましくは電解液は20℃の満充電状態における密度が1.265g/cm以下で1.200g/cm以上で、最も好ましくは20℃の満充電状態における密度が1.260g/cm以下で1.230g/cm以上である。満充電状態とは充電率が実質的に100%である状態をいい、例えば10時間率電流等で、定格容量の150%程度充電すると満充電状態にできる。鉛蓄電池の種類は実施例の液式鉛蓄電池の他に制御弁式鉛蓄電池でも良い。以下、電解液の密度は20℃の満充電状態における密度を表すものとする。
【0008】
鉛蓄電池の電解液へのアルミニウムイオンとリチウムイオンの効果は、電解液の密度を1.265g/cmを境に変化する。即ち、アルミニウムイオンもリチウムイオンも含有しない電解液と、アルミニウムイオンとリチウムイオンとを含有する電解液との差は、電解液の密度が1.265g/cm以下で特に大きくなる。そして電解液の密度が1.265g/cm以下では、アルミニウムイオンとリチウムイオンとを含有させることにより、硫酸鉛の蓄積が特に少なくなる。このためアイドリングストップ寿命性能をさらに向上させることができる。
【0009】
電解液の密度を小さくすると、一般に大電流での放電性能が低下し、自動車用の鉛蓄電池の場合、低温HR性能の低下が問題になる。しかしながらアルミニウムイオンとリチウムイオンとを適正量含む電解液では、電解液の密度を小さくしているにもかかわらず、低温HR性能を向上させることができる。これは電解液の密度が小さい場合、アルミニウムイオンとリチウムイオンの組み合わせが低温HR性能を著しく向上させるためである。
【0010】
電解液の密度が1.265g/cm以下での、アルミニウムイオンとリチウムイオンの効果を説明する。0.02mol/L以上で0.2mol/L以下のリチウムイオンを含む場合、アルミニウムイオンの効果は0.02mol/L以上の濃度で著しくなり、例えば0.01mol/Lの場合に比べ、0.02mol/Lでは硫酸鉛の蓄積量を著しく少なくできる。またアルミニウムイオンの濃度が0.2mol/Lを越えると、硫酸鉛の蓄積がむしろ多くなることがあり、低温HR性能も低下する。0.02mol/L以上で0.2mol/L以下のアルミニウムイオンを含む場合、リチウムイオン濃度を0.01mol/Lから0.02mol/Lに増すと、低温HR性能が著しく向上し、硫酸鉛の蓄積量も減少する。リチウムイオン濃度を0.2mol/L超としても、性能の向上は見られず、硫酸鉛の蓄積量が増すことがある。そしてリチウム資源は限られており、過剰使用は好ましくない。
【0011】
電解液の密度が1.200g/cm未満となると、低温HR性能が不足するようになるので、電解液の密度は1.200g/cm以上が好ましく、特に1.230g/cm以上が好ましい。アルミニウムイオンとリチウムイオンを含有しない場合を基準とする、アルミニウムイオンとリチウムイオンの組み合わせによる低温HR性能の向上は、密度が1.265g/cmよりも1.250g/cmでより大きくなるので、密度は1.260g/cm以下で1.230g/cm以上が最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】リチウムイオンを0.1mol/L、アルミニウムイオンを0.05mol/L含む電解液での、20℃の満充電状態における密度と、低温HR容量及びアイドリングストップ寿命試験後の硫酸鉛の蓄積量を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0014】
ボールミル法で製造した鉛粉に合成樹脂繊維を加え、水と希硫酸とを加えてペースト化し、Pb-Ca-Sn系の正極格子に充填して熟成と乾燥とを施し、未化成の正極板とした。ボールミル法で製造した鉛粉に合成樹脂繊維と硫酸バリウムとカーボンブラックとリグニンとを加え、水と希硫酸とを加えてペースト化し、Pb-Ca-Sn系の負極格子に充填して熟成と乾燥とを施し、未化成の負極板とした。未化成の負極板を微孔質で袋状のポリエチレンセパレータで包み、未化成の負極板8枚と未化成の正極板7枚とを電槽に収容した。
【0015】
アルミニウムイオン含有量とリチウムイオン含有量とが各々0〜0.3mol/Lとなるように硫酸アルミニウムと硫酸リチウムとを加え、かつ化成後の満充電の状態で20℃での密度が1.290〜1.200g/cmとなるように密度を変化させた希硫酸を調製した。この希硫酸を電槽に注ぎ、25℃の水槽内で電槽化成を行って、D23サイズの鉛蓄電池とした。正極格子及び負極格子の材質と製造方法は任意で、鉛粉はボールミル法によるものに限らず、バートン法等によるものでもよく、鉛丹等の含有量は任意である。また鉛粉への添加物の量と種類、不純物の含有量等は任意である。アルミニウムイオンとリチウムイオンを含有させるための化合物の種類は任意である。各試料は、電解液の密度とアルミニウムイオン含有量とリチウムイオン含有量の他は、全て同じ条件で製造した。
【0016】
電解液の密度と組成が同じ蓄電池を3個ずつ用意し、低温HR放電試験(JIS D 5301:2006の9.5.3b)を行い、-15℃で300Aで放電した際に端子電圧が6Vに低下するまでの放電持続時間を測定した。低温HR放電試験の後に蓄電池を満充電し、50℃でアイドリングストップ寿命試験を行った。電池工業会規格では、アイドリングストップ寿命試験を、25℃で45A×59秒の放電と300A×1秒の放電と14Vで60秒の充電の充放電サイクルを繰り返し、3600サイクル毎に40〜48時間蓄電池を放置するとしている(SBA S 0101:2006)。ここでは周囲の気温を50℃に変更して試験した。これは低密度の電解液では高温で硫酸鉛の蓄積が進行しやすいことと、季節と地域によっては自動車のエンジンルーム内は50℃以上になることのためである。そしてアイドリングストップ寿命試験での充放電を25200サイクルで打ち切り、蓄電池を解体して負極の硫酸鉛蓄積量を測定した。
【0017】
3個の蓄電池の平均値で結果を表1に示し、アルミニウムイオン含有量を0.05mol/L、リチウムイオン含有量を0.1mol/Lに固定し、電解液の密度を変えた際の結果を図1に示す。また結果は、電解液の密度が同じで、アルミニウムイオンもリチウムイオンも含有しない比較例を100とする相対値で示す。なおアルミニウムイオン含有量とリチウムイオン含有量が共に0の場合、電解液の密度が低い程、硫酸鉛の蓄積量が減り、低温HR性能が低下する傾向にある。
【0018】
主な結果を図1に示す。アルミニウムイオンとリチウムイオンを共に含む電解液では、密度を1.280g/cmから1.265g/cmへ低下させると、硫酸鉛の蓄積が著しく少なくなり、電解液の密度をさらに低下させても、硫酸鉛の蓄積はほぼ同じである。低温HR容量では、密度が1.230g/cmまでは電解液の密度を小さくする程、アルミニウムイオンとリチウムイオンの効果が増して、これらのイオンを含有しない場合を基準とする低温HR性能が向上する。
【0019】
【表1】

【0020】
電解液の密度を実施例での代表的な条件である1.265g/cmに固定し、リチウムイオン濃度を0.1mol/Lに固定して、アルミニウムイオン濃度を変えると、0.01mol/Lと0.02mol/Lの間で、硫酸鉛の蓄積量が急変する。そして0.2mol/Lまではアルミニウムイオン濃度と共に硫酸鉛の蓄積量が減少するが、0.3mol/Lでは逆に増加する。低温HR容量はアルミニウムイオン濃度を0.2mol/Lから0.3mol/Lへ増加させると、大きく低下する。従ってアルミニウムイオン濃度を0.02mol/Lから0.2mol/Lとする。これらの点では、電解液の密度を1.230g/cmに固定した場合も、同じ傾向を示す。
【0021】
電解液の密度を1.265g/cmに固定し、アルミニウムイオン濃度を0.05mol/Lに固定して、リチウムイオン濃度を変えると、0.05mol/Lまではリチウムイオン濃度と共に硫酸鉛の蓄積量が減少するが、0.2mol/L以上では逆に増加する。低温HR容量はリチウムイオン濃度が0.05mol/Lで最大となり、それ以上リチウムイオン濃度を増しても向上しない。従ってリチウムイオン濃度を0.02mol/Lから0.2mol/Lとする。電解液の密度を1.230g/cmに固定し、アルミニウムイオン濃度を0.05mol/Lに固定すると、0.2mol/Lまでリチウムイオン濃度と共に蓄電池の性能が向上する。このためリチウムイオン濃度を0.02mol/Lから0.2mol/Lとする。
【0022】
電解液の密度を1.250g/cmあるいは1.200g/cmとした蓄電池でも、リチウムイオン濃度が0.02mol/L以上で0.2mol/L以下、アルミニウムイオン濃度が0.02mol/L以上で0.2mol/L以下で、同様の結果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板との間にセパレータを介在させた極板群を電槽内に収容すると共に、前記電槽内に電解液を保持させた鉛蓄電池において、
前記電解液は20℃の満充電状態における密度が1.265g/cm以下で、かつアルミニウムイオンを0.02mol/L以上で0.2mol/L以下、リチウムイオンを0.02mol/L以上で0.2mol/L以下含有することを特徴とする、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記電解液は20℃の満充電状態における密度が1.265g/cm以下で1.200g/cm以上であることを特徴とする、請求項1の鉛蓄電池。

【図1】
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