説明

鉛電池

【課題】
正極利用率を向上させ、サルフェーションを抑制することで鉛電池の長寿命化を図った鉛電池を提供する。
【解決手段】
電解液にリチウムイオンを0.14mol/l以下添加し、該リチウムイオンの添加量は0.005〜0.1mol/lであることが好ましい。更に、アルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンから選ばれた少なくとも一種を含み、夫々、0.3mol/l以下、0.0012mol/l以下、0.1mol/l以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寿命性能が改善された鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用鉛電池はSLIバッテリーと呼ばれるように、始動時のスタータ起動、照明、イグニションをはじめ、高級車では100個以上搭載されていると言うモーターの電源として使用されて来たが、始動時のスタータ起動以外はエンジンが発電機を駆動して電力を供給するため、鉛電池はさほど深い放電が行われることはなかった。また、発電機からの充電により、多くの場合は満充電状態に置かれるため、過充電に強いことが求められていた。それに伴い、鉛電池の性能改善要求が高まり、一つは始動性能(放電性能)向上、もう一つは燃費改善に伴う鉛電池の軽量化である。これらは正極の放電電位の向上は放電性能の向上、正極利用率の向上は電池の軽量化につながる。
【0003】
しかし近年、自動車は燃費改善や排出ガスの削減が強く求められるようになり、鉛電池への要求は大きく変わってきた。
【0004】
一つは燃費改善を目的とした車両重量の軽減、即ち鉛電池の軽量化である。この要求を達成するために、正極活物質にNaやSnを添加するなどして、該正極活物質の利用率向上させることで鉛電池の寿命性能を改善させる方法(特許文献1、特許文献2)などが提案されている。
【0005】
もう一つは、信号などによる停車中にエンジンを停止するアイドリングストップや過充電の制御である。エンジンの停止により発電機からの電力供給も停止するため、この間の電力は鉛電池の放電によってまかなうことになる。そのため、従来と比較して深く放電されることになる。これに加え、過充電制御では充電効率が低い場合はむしろ充電不足状態で使用されることになり、これらの結果として鉛電池は著しく短寿命となった。これは慢性的な充電不足状態に置かれることとなった結果、負極活物質がサルフェーションを起こして可逆性が損なわれたことによる。この問題を改善手段として電解液にポリアクリル酸やエステルなどの有機酸を添加する方法(特許文献3)や負極にカーボンを通常よりも多く添加する方法(非特許文献1)が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−340252号公報
【特許文献2】特開平10−188963号公報
【特許文献3】特開2001−313064号公報
【非特許文献1】J. Power Source vol.59(1996)153−157
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や2記載の方法は、正極活物質にNaやSnを添加し寿命性能を改善させるものであるが、何れの方法も効果は十分でなかった。また、特許文献3に記載の方法は、電解液にポリアクリル酸やエステルなどの有機酸を添加するものであるが、格子を腐食させてしまい実用性に乏しいものである。更に、非特許文献1に記載の方法は、カーボンの添加量は開示されていないが、硫酸鉛の間隙に入り、導電パスを作るとされている。しかし、発明者等はカーボン量を広範囲に取って各種試験した結果、寿命延長効果は限定的であり、カーボンの添加量が多すぎても逆効果であることが確認された。
何れにおいても、現在の市場要求を満たすには更なる改良が必要である。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、正極利用率を向上させ、サルフェーションを抑制することで鉛電池の長寿命化を図った鉛電池を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するため、電解液にリチウムイオンを0.14mol/l以下添加したことを特徴とするも鉛電池を提供するものである。
【0010】
また、電解液にリチウムイオンを0.005〜0.1mol/l添加したことを特徴とする鉛電池を提供するものである。
【0011】
また、電解液にリチウムイオンを含み、更にアルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンから選ばれた少なくとも一種を含むことを特徴とする鉛電池を提供するものである。
【0012】
また、電解液に添加する量は、アルミニウムイオンの場合0.3mol/l以下、セレンイオンの場合は0.0012mol/l以下、チタンイオンの場合は0.1mol/l以下であることを特徴とする鉛電池を提供するものである。
【0013】
また、電解液にリチウムイオンを添加し、更にアルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンから選ばれた少なくとも一種を添加する方法であって、硫酸水溶液に可溶性のこれらの化合物、及び又は金属を正極に添加する、及び又は電槽中の電解液に接する所に設置して、電解液中にイオンとして溶解することによる電解液へのリチウムイオン、アルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンの添加方法を提供するものである。
【0014】
本発明は電解液にリチウムイオンを添加することで、リチウムイオンが酸化鉛中の結晶格子内に侵入し、結晶格子をゆがませ、反応性が高まった結果、正極利用率が向上したと考えられる。リチウムイオンの添加量は0.14mol/l以下が望ましい。これ以上の添加は逆に電池寿命を低下させてしまう。利用率の向上効果を得るには0.005mol/l以上添加すれば良い。なお、電解液や活物質にリチウムを添加することは、特開昭52−85336、特開昭63−152861、特開平09−185961などで公知であるが、これらは添加量が多く、本発明のように少量の添加で効果があることは誰も気付いていなかった。
【0015】
また、アルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンの作用は、これも明らかではないが、充電不足状態で使用された場合に正極及び負極に生成する硫酸鉛の結晶の粗大化や緻密化を抑制して、充電受け入れ性を大幅に改善する効果がある。
【0016】
アルミニウムイオンの添加量は0.01mol/l〜0.30mol/lが良く、0.01mol/l未満では効果が不十分であり0.30mol/lを越えると電解液の導電率が低下して急放電性能を損なう。
【0017】
セレンイオンの添加量は0.0002mol/l〜0.0012mol/lが良く、0.0002mol/l未満では効果が不十分であり0.0012mol/lを越えると電解液中に金属セレンが析出し易くなりそれ以上の効果が期待できないほか、析出したセレンが短絡を引き起こすなどの悪影響を与える。
【0018】
チタンイオンの添加量は0.001mol/l〜0.1mol/lが良く、0.001mol/l未満では効果が不十分であり0.1mol/lを越えると電解液の導電率が低下して急放電性能を損なう。
【0019】
本発明は、電解液へのリチウムイオンの添加によって正極利用率を向上させ、鉛電池の軽量化を図ることが可能である。更に、アルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンから選ばれた少なくとも一種を含むことにより正負極に生成した硫酸鉛の結晶粗大化を抑制し、硫酸鉛から鉛への可逆性を高め、サルフェーションを抑制することができ、電池の長寿命化が達成することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の鉛蓄電池を適用することで、正極利用率を向上させることが可能であり、同サイズでの放電容量が増加するので鉛電池の軽量化が可能となり、さらにサルフェーションの抑制効果が改善されたことにより、鉛電池の長寿命化が達成されるので、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、常法により正極板および負極板を作製し、正極板と負極板とをポリエチレンセパレータを介して交互に積層して極板群を構成し、これを電槽内に極板群収納し該電槽へ蓋を施し所定量の電解液を注液して電槽化成を行い、所望の鉛電池を作製した。
なお、電解液は希硫酸水溶液にリチウムイオン等を所定量添加し混合して作製した。
【実施例1】
【0022】
本鉛電池は、以下のようにして作製した。まず、鉛を主成分とする格子基板に常法により作製した正極活物質ペーストを充填してなる未化成の正極板と、鉛を主成分とする格子基板に常法により作製した負極活物質ペーストを充填してなる未化成の負極板を、熟成、乾燥を経て夫々の正・負極板を作製した。これらの正極未化成板と負極未化成板にポリエチレンセパレータとを交互に積層し組み合わせ、COS方式(キャストオンストラップ方式)で極板同士を溶接して極板群とした。これをPP製(ポリプロピレン製)の電槽に入れ、ヒートシールによって蓋をした。そして、表1に記載の通り電解液に注入するリチウムイオンを硫酸塩として添加する量を種々変化(0.005〜0.14mol/l)させ添加し、電槽化成を行い5時間率容量が50AhのD23サイズの12V鉛電池を各々試作した(本発明1〜6)。なお、電槽化成後の電解液比重は1.280(20℃)であった。
【0023】
(比較例1)
電解液に注入するリチウムイオンを硫酸塩として添加する量を本発明の範囲外(添加なし)とした以外は実施例1と同様に5時間率容量が50AhのD23サイズの12V鉛電池を各々試作した(比較例1)。
【0024】
(比較例2)
電解液に注入するリチウムイオンを硫酸塩として添加する量を本発明の範囲外(0.18mol/l)とした以外は実施例1と同様に5時間率容量が50AhのD23サイズの12V鉛電池を各々試作した(比較例2)。
【0025】
種々作製した鉛電池(本発明1〜6、比較例1〜2)を用いて、鉛電池の雰囲気温度25℃における5時間率容量から正極活物質の利用率を求めた。
また、種々作製した鉛電池(本発明1〜6、比較例1〜2)を用いて、JIS重負荷寿命試験を行い、鉛電池寿命を評価した。試験は40℃の水槽中で20A、1時間の放電と5A、5時間の充電を24回繰り返し、25回目に5時間率容量を測定することからなり、5時間率容量が初期容量の50%を下回った時点で寿命とした。
表1に、電解液へのリチウムイオンの添加量および正極利用率、重負寿命を併記した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように、正極の利用率はリチウムイオンを添加しない場合(比較例1)は43%であったが、リチウムイオンの添加量が0.005〜0.14mol/l(実施例1〜6)では50%以上の高い値を示し正極利用率が向上していることが分った。しかし、0.18mol/l(比較例2)では利用率が40%と無添加の場合を下回り、過剰の添加は逆効果であった。
【0028】
また、重負荷寿命はリチウムイオンを添加しない場合(比較例1)は175回であったが、リチウムイオンの添加量が0.005〜0.07mol/l(実施例1〜5)で200回以上の高い値を示し効果が認められた。また、0.14mol/l(実施例6)の添加は無添加と同様であった。しかし、0.18mol/l(比較例2)では100回と無添加の場合を下回り、リチウムイオンの過剰添加は逆効果であった。夫々の電池を解体調査したところ、リチウムイオンを0.18mol/l(比較例2)の鉛電池は、寿命試験回数のわりに正極活物質の軟化が進行しており、リチウムイオンの過剰添加は軟化を促進すると考えられる。
【実施例2】
【0029】
表2に示すように、電解液に注入するリチウムイオンを硫酸塩として添加する量を0.02mol/lおよびアルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンから選ばれた少なくとも一種を硫酸塩として添加する量を夫々0.01mol/l〜0.30mol/l、0.0002mol/l〜0.0012mol/l、0.001mol/l〜0.1mol/lとした以外は実施例1と同様に5時間率容量が50AhのD23サイズの12V鉛電池を各々試作した(本発明7〜17)。
【0030】
(比較例3)
表2に示すように、電解液に注入するリチウムイオンを硫酸塩として添加する量を本発明の範囲外およびアルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンから選ばれた少なくとも一種を硫酸塩として添加する量を本発明の範囲外とした以外は実施例1と同様に5時間率容量が50AhのD23サイズの12V鉛電池を各々試作した(比較例3〜7)。
【0031】
種々作製した鉛電池(本発明7〜17、比較例3〜7)を用いてアイドルストップ寿命試験を行い、充電不足状態で使用する場合を想定した電池寿命を評価した。先ず、鉛電池を雰囲気温度25℃、5時間率電流で完全充電した。次いで、25℃雰囲気で50A、59秒間及び300A、1秒間の定電流放電と100A、60秒間、上限電圧14.0Vの定電流・定電圧充電の組合せを1サイクルとするアイドルストップ寿命試験を行い、寿命に至るサイクル数を測定した。
尚、試験中の鉛電池温度を電槽側面に貼付けた熱電対で測定し、鉛電池のジュール熱や反応熱で徐々に上昇し、約50℃で安定した。
表2に、電解液へのリチウムイオン、アルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンの添加量およびサイクル寿命を併記した。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すように、電解液中にリチウムイオンとアルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンから選ばれた少なくとも一種を添加した本発明(本発明7〜17)は何れも20000回を上回る寿命を示し、充電不足状態においても長寿命であった。しかし、リチウムイオン、アルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンの何れも添加しない場合(比較例3)の寿命は15000回であった。また、アルミニウムイオンは0.4mol/l添加(比較例5)すると寿命が低下した。これは、アルミニウムイオンが過剰となり電解液の導電性が低下し、放電特性が損なわれたためと考えられる。従って0.3mol/l以下の添加が望ましい。セレンイオンは0.0016mol/l添加(比較例6)するとセレンが金属として析出した。従って0.0012mol/l以下の添加が望ましい。チタンイオンは0.2mol/l添加(比較例7)すると寿命が低下した。これは、アルミニウムイオンの場合と同様、チタンイオンが過剰となり電解液の導電性が低下し、放電特性が損なわれたためと考えられる。従って0.1mol/l以下の添加が望ましい。
【0034】
なお、本実施例ではリチウムイオンやセレンイオン、チタンイオン、アルミニウムイオンは硫酸塩として添加したが、硫酸水溶液や水に可溶性であれば混合し易く、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、ホウ酸塩、水酸化物、酸化物、金属酸塩などの化合物やこれらの水和物として添加することができる。また、硫酸水溶液に可溶性のこれらの化合物、及び又は金属を正極に添加する、及び又は電槽中の電解液に接する所に設置して、電解液中にイオンとして溶解することにより、電解液にリチウムイオン、アルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンを供給することができる。
また、本実施例では液式電池の例を示したが、密閉式電池でも同様の効果が得られることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液にリチウムイオンを0.14mol/l以下添加したことを特徴とする鉛電池。
【請求項2】
電解液にリチウムイオンを0.005〜0.1mol/l添加したことを特徴とする請求項1に記載の鉛電池。
【請求項3】
電解液にリチウムイオンを含み、更にアルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンから選ばれた少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1及び請求項2に記載の鉛電池。
【請求項4】
電解液に添加する量は、アルミニウムイオンの場合0.3mol/l以下、セレンイオンの場合は0.0012mol/l以下、チタンイオンの場合は0.1mol/l以下であることを特徴とする請求項3に記載の鉛電池。
【請求項5】
電解液にリチウムイオンを添加し、更にアルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンから選ばれた少なくとも一種を添加する方法であって、硫酸水溶液に可溶性のこれらの化合物、及び又は金属を正極に添加する、及び又は電槽中の電解液に接する所に設置して、電解液中にイオンとして溶解することによる電解液へのリチウムイオン、アルミニウムイオン、セレンイオン、チタンイオンの添加方法。

【公開番号】特開2008−243487(P2008−243487A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80194(P2007−80194)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】