説明

鉢および植物が植えられた鉢の製造方法

【課題】根腐れを発生させることなく、植物が好適に生育することができる鉢を提供することにある。
【解決手段】花鉢10は、鉢10aと、この鉢10aで栽培される植物5と、植物5を支持する支持棒6とを備えている。鉢10aは、下方に向かって縮径する平面視六角形状の鉢本体1と、通気性および排水性を有し、それぞれ植物が植えられる複数の植栽容器である素焼鉢2と、鉢本体1の内部に複数の素焼鉢2を下方に空洞部7を形成した状態で固定する固定具3とを備えている。固定具3は、素焼鉢2を嵌め入れるための開孔が形成された平板状の容器支持部12と、開孔の内周縁に設けられ素焼鉢2を押圧して保持する複数の押圧片13と、容器支持部12に連設され容器支持部12を外鉢本体1の内壁に固定する固定片14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉢植え用の植物が植えられる植栽容器を集合させて形成した鉢および植物が植えられた鉢の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの鉢の内部に同一品種または異種の観賞用花卉を寄せ集めて配置する寄せ植えが行われている。また、植物が植えられた状態の植栽容器を複数個集合させることにより、寄せ植え作業の簡略化が図られている。植物が植えられたポットなどの複数の植栽容器を集合させる場合、各植栽容器を二人の作業者がお互いの手で押さえ持って鉢本体の内部に収容する方法が採られている。しかし、この方法では、作業者が二人必要であり作業性が悪いなどの問題がある。この問題点を解決するために、植栽容器を集合させるための固定具を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1には、植木鉢の底面から複数本の支柱を等間隔で立設し、この支柱の内周側面を中央頂部から分岐するふたつの円弧面に形成し、対向する円弧面及び底面中央に立設した円錐型突子の側面間でポット苗のポットを挟み込み、支柱の外周面を植木鉢の内周面に当接させるようにした植木鉢に複数個のポット苗を固定するための固定具が記載されている。また、固定具の底面に複数個の排水口および連結溝を設けたことが記載されている。この固定具によれば、ポットを上から挿入するだけでポットを固定することができるため、作業性を向上させてポットを集合させることが可能であり、また、水はけがよく、ポット苗が長期間痛まないとしている。
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3117647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1においては、作業性は高まるものの、固定具の底面上にポットが載置されて固定されている。このように固定されると、ポットの底面と固定具の底面とが密着するため通気量や排水量が少なくなり、灌水後には湿害となって根腐れを起こす恐れがある。また、ポットの側面の一部においても、固定具の支柱の内周側と面状で密着するため、この密着した部分の通気量や排水量が少なくなって、同様に根腐れを起こす恐れがある。また、ポットは樹脂製で通気量や排水量が少ないと推察される。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、複数の植栽容器を集合させた状態でも根腐れを発生させることなく、植物が好適に生育することができる鉢および植物が植えられた鉢の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鉢は、鉢本体と、通気性および排水性を有し、それぞれ植物が植えられる複数の植栽容器と、鉢本体の内部に複数の植栽容器を下方に空洞部を形成した状態で固定する固定具とを備えたことを特徴とする。
【0008】
植栽容器を通気性および排水性を有するものとすることにより、植栽容器内へ空気が入り込み、また植栽容器内から余分な水を排水させることができる。そして、植栽容器を下方に空洞部を形成した状態で固定することで、植栽容器の底部は常に空気に触れることとなり、また、排水された水が植栽容器周辺に留まることがないため、植栽容器およびこの内部が過度に湿ることを防止することができる。従って、植栽容器内の培地に空気を充分含ませることが可能となり、植物の根圏環境を良好とすることができるため、植物の根腐れの発生を防止することができる。
【0009】
また、植栽容器は、素焼鉢、駄温鉢、朱温鉢のいずれかとすれば、通気性および排水性を有することができる。ここで、素焼鉢、駄温鉢、朱温鉢について説明する。
素焼鉢は、粘土を焼成温度1000℃以下(概ね700℃程度)の低温で焼いて作られた鉢であり、多孔質である。鉢内部の水分の多くは鉢壁の孔から蒸散するため、優れた通気性および排水性を有する。
駄温鉢は、粘土を焼成温度1000℃〜1300℃程度の高温で焼いて作られた鉢であり、釉薬がかけられて形成されている。多孔質であり通気性および排水性を有するが、釉薬の影響により素焼き鉢よりも劣る。
【0010】
朱温鉢は、粘土を焼成温度1000℃〜1300℃の高温で焼いて作られた鉢であり、釉薬がかけられていないものである。多孔質であり通気性および排水性を有し、釉薬がかけられていない分だけ駄温鉢よりも通気性および排水性に優れるが、素焼鉢よりも劣る。
従って、植栽容器としては、根腐れを起こしやすい植物、特に胡蝶蘭などの花卉類に対しては、素焼鉢が最適である。
【0011】
さらに、固定具は、植栽容器を嵌め入れて支持する開孔が形成された容器支持部と、開孔の内周縁に連設され植栽容器を押圧して保持する複数の押圧片と、容器支持部に連設されこの容器支持部を鉢本体の内壁に固定する固定部とを備えたものであることを特徴とする。
上記のような構成とすることにより、植栽容器を嵌め入れて支持、固定することができるので、作業者は一人でも固定具に植栽容器を集合させることができ、作業の効率化を図ることが可能となる。
【0012】
本発明の植物が植えられた鉢の製造方法は、複数の植栽容器を集合させて形成する植物が植えられた鉢の製造方法であって、鉢本体の内壁に、複数の植栽容器を下方に空洞部を形成した状態で固定する固定具を装着する工程と、それぞれ植物が植えられている複数の植栽容器を、固定具にそれぞれ固定する工程とを含むことを特徴とする。上記のような工程を含めば、植栽容器の底部および下部周辺は常に空気に触れることとなる。これにより、植栽容器およびこの内部が過度に湿ることを防止することができる。従って、植栽容器内の培地に空気を充分含ませることが可能となり、植物の根圏環境を良好とすることができるため、植物の根腐れの発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の特徴は、鉢本体と、通気性および排水性を有し、それぞれ植物が植えられる複数の植栽容器と、鉢本体の内部に前記複数の植栽容器を下方に空洞部を形成した状態で固定する固定具とを備えたことにある。植栽容器を通気性および排水性を有するものとし、植栽容器の下方に空洞部を形成したことにより、植栽容器内の培地に空気を充分含ませることが可能となり、植物は根腐れを発生することなく好適に生育することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態についての概要を説明する。図1は本発明の実施形態における植物が植えられた鉢の概要を示す断面図、図2は同鉢の固定具を示す図である。図1に示すように、本発明の実施形態における植物が植えられた鉢(以下、花鉢と称す)10は、鉢10aと、この鉢10aで栽培される植物5と、植物5を支持する支持棒6とを備えている。鉢10aは、下方に向かって縮径する平面視六角形状の鉢本体1と、通気性および排水性を有し、それぞれ植物が植えられる複数の植栽容器である素焼鉢2と、鉢本体1の内部に複数の素焼鉢2を下方に空洞部7を形成した状態で固定する固定具3とを備えている。素焼鉢2は、下方に向かって縮径する平面視円状である。素焼鉢2の内部には苔類等の培地4が充填されており、培地4には植物5が支持棒6に支持されて栽培されている。素焼鉢2の下方には、空洞部7が形成されており、素焼鉢2の底部および下部は何にも接していない。
【0015】
固定具3は、図2に示すように、素焼鉢2を嵌め入れるための開孔11が形成された平板状の容器支持部12と、開孔11の内周縁に連設され素焼鉢2を押圧して保持する複数の押圧片13と、容器支持部12に連設され容器支持部12を鉢本体1の内壁に固定する固定部である固定片14とを備えたものである。容器支持部12は、平面視六角形状であり鉢本体1の平面視六角形にほぼ水平に嵌まるように収納可能な形状である。容器支持部12の端部である各辺には、折り曲げ線14aで下方に折り曲げ可能に一片ずつ、合計六片の台形形状の固定片14が設けられている。固定片14は、容器支持部12の外周端部に連設された板状であり、形状は台形状である。
【0016】
開孔11は円形であり容器支持部12に三カ所形成されている。開孔11のそれぞれの円の内周縁となる折り曲げ線11aで下方に折り曲げ可能に一カ所の開孔につき10片、容器支持部全体として30片の扇形状の押圧片13が、それぞれ等角度で同一面積となるように形成されている。押圧片13の形状は、より詳しくは、開孔11の周縁を円弧として形成される扇形から、開孔11よりも小さい円弧で形成される扇形を除去した形状である。押圧片13を下方に折り曲げることで、素焼鉢2を嵌め入れる開孔11が形成される。
固定具3は、折り曲げて組み立て可能なダンボール製であり、押圧片13と固定片14とを下方へ折り曲げて使用される。この場合、折り曲げ線11a,14aは、折り曲げの際には容器支持部12を曲げたり傷つけたりすることなく、容易に行うために、他の部分よりも薄く形成されている。
【0017】
次に、図3〜図5を用いて、素焼鉢2を使用した花鉢10の製造工程について説明する。図3は固定具3を鉢本体1内に収容する前の状態を示す斜視図、図4は固定具3を鉢本体1内に収容したことを示す斜視図、図5は固定具3に素焼鉢2を固定したことを示す斜視図であり植物を省略した図である。
(1)準備工程
図3に示すように、内部に空洞を有する鉢本体1と、固定具3とを用意し、固定具3の固定片14を折り曲げ線14aで折り曲げておく。
【0018】
(2)固定具収容工程
次に、鉢本体1の内部に、固定具3を収容する。このとき、鉢本体1は下方に縮径して形成されているため、容器支持部12の六角形状と鉢本体1の内周形状(六角形状)とが一致するときに、固定具3の容器支持部12はほぼ水平となって鉢本体1の内壁に引っ掛かって装着される。これにより、固定具3の下方には空洞部7が形成される。そして、固定片14が鉢本体1の内壁に面状で接することとなり(図1参照)、固定具3は鉢本体1内で固定された状態となる。ここで、押圧片13を下方に折り曲げておくと良い。
【0019】
(3)植栽容器収容工程
容器支持部12の開孔11に、植物5である胡蝶蘭が植えられた三個の素焼鉢2(図1,図5参照)を嵌め入れて固定する。この場合、素焼鉢2の底部で押圧片13を下方へ押して折り曲げながら挿入することもできる。素焼鉢2は、前述したように、平面視円形状で下方に向かって縮径しているため、開孔11の径と素焼鉢2の外周径とが一致するときに、素焼鉢2は引っ掛かって固定される。そして、押圧片13は、素焼鉢2の側部に面状で接して、素焼鉢2をずれないように押圧しながらその状態を保持して固定する。
【0020】
以上のように、鉢本体1の内部に植栽容器を集合させることにより、素焼鉢2の下方に空洞部7を備えた花鉢10となり、素焼鉢2の底部および下部周辺は常に空気に触れる状態とすることができる。また、排水された水が素焼鉢2周辺に留まることがないため、素焼鉢2およびこの内部が過度に湿ることを防止することができる。従って、素焼鉢2内の培地4に空気を充分含ませることが可能となり、植物5の根圏環境を良好とすることができ、根腐れの発生を防止することができる。
【0021】
植物5としては、本実施形態においては、胡蝶蘭を用いているが、根腐れしやすい花卉類等にも適しており、野菜類、果菜類にも適用することができる。また、栽培状況や対象植物によっては、植栽容器として素焼鉢の他に、駄温鉢や朱温鉢を使用することもできる。なお、鉢本体1内であって固定具3上には、ちいさな草花を植栽した小型ポットや、装飾品等を載置することも可能であり、見栄えの良い花鉢10とすることができる。
【0022】
また、固定片14は、素焼鉢2を容器支持部12に支持させて固定すると容器支持部12の端部には荷重がかかることとなるが、固定片14が補強部材としても機能し、充分な強度を確保することができる。さらに、押圧片13も、開孔11周辺を補強する補強部材として機能し、段ボールを使用しながらも、素焼鉢2を支持するのに充分な強度を確保することができる。また、固定具3は、押圧片13および固定片14を折り曲げるだけで使用できるので、一人でも素焼鉢2を集合させることができ、作業性に優れる。
【0023】
なお、本実施形態においては、鉢本体1の平面視と、固定具3の容器支持部12の平面視を六角形状としたが、垂直断面が下方に縮径する形状であれば、他の多角形状や円状としても良い。この場合、固定片14の数は、容器支持部12の平面視形状によって適宜変更することができる。また、開孔11および素焼鉢2の平面視形状は、円状に限定されることなく、嵌めることができれば矩形状など他の形状としても良い。鉢本体1の材質は特に限定されないが、素焼鉢とすれば、さらに通気性を高めることが可能となる。また、容器支持部12の開孔11の数および素焼鉢2の数は三つに限定されることなく、適宜設計変更できる。
【0024】
次に、図6に基づいて本発明の他の実施の形態についての概要を説明する。図6は本発明の他の実施形態における鉢の概要を示す断面図である。本発明の他の実施形態における鉢20aは、鉢本体1内の底面に、素焼鉢2を載置するための棚部21を備えている。花鉢20は、鉢20aと、この鉢20aで栽培される植物5と、植物5を支持する支持棒6とを備えている。その他の部分の構造、機能などは図1などで示した鉢10aと同様であるため、図1などと同じ符号を付して説明を省略する。
【0025】
棚部21は、素焼製で通気性や排水性に優れるものであり、この棚部21の少なくとも一部には、素焼鉢2を載置するための平坦部21aが形成されている。そして棚部21は、空洞部7に設けられているが、素焼鉢2の通気性や排水性を阻害せず、空洞部7の機能を充分確保するように設けられている。なお、棚部21の材質は素焼製に限定されるものではなく、金網等の空気が移動しやすい材質のものを使用しても良い。棚部21は、固定具3の負担を軽減することができるため、鉢本体1がさらに大きかったり、素焼鉢2の数をさらに増やしたりして、固定具3への負荷が増大する場合などには有効である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、鉢植え用の植物、特に根腐れを起こしやすい花卉類が植えられる植栽容器を集合させて形成した鉢および植物が植えられた鉢として、広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態における植物が植えられた鉢(花鉢)の概要を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態における花鉢の固定具を示す図である。
【図3】固定具を鉢本体内に収容する前の状態を示す斜視図である。
【図4】固定具を鉢本体内に収容したことを示す斜視図である。
【図5】固定具に素焼鉢を固定したことを示す斜視図であり植物を省略した図である。
【図6】本発明の他の実施形態における花鉢の概要を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10,20 植物が植えられた鉢(花鉢)
10a,20a 鉢
1 鉢本体
2 素焼鉢
3 固定具
4 培地
5 植物
6 支持棒
7 空洞部
11 開孔
11a 折り曲げ線
12 容器支持部
13 押圧片
14 固定片
14a 折り曲げ線
21 棚部
21a 平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉢本体と、
通気性および排水性を有し、それぞれ植物が植えられる複数の植栽容器と、
前記鉢本体の内部に前記複数の植栽容器を下方に空洞部を形成した状態で固定する固定具とを備えた鉢。
【請求項2】
前記植栽容器は、素焼鉢、駄温鉢、朱温鉢のいずれかである請求項1記載の鉢。
【請求項3】
前記固定具は、前記植栽容器を嵌め入れて支持する開孔が形成された容器支持部と、前記開孔の内周縁に連設され前記植栽容器を押圧して保持する複数の押圧片と、前記容器支持部に連設され該容器支持部を前記鉢本体の内壁に固定する固定部とを備えたものである請求項1または2に記載の鉢。
【請求項4】
複数の植栽容器を集合させて形成する植物が植えられた鉢の製造方法であって、
鉢本体の内壁に、前記複数の植栽容器を下方に空洞部を形成した状態で固定する固定具を装着する工程と、
それぞれ植物が植えられている前記複数の植栽容器を、前記固定具にそれぞれ固定する工程と
を含む、植物が植えられた鉢の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−244219(P2007−244219A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68373(P2006−68373)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(506086889)
【Fターム(参考)】