説明

銀粉の製造方法

【課題】銀粉の凝集を抑制する。
【解決手段】湿式法により製造した銀粒子を、液温が35℃以下のアルカリ性溶液、又は水で洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解砕し易い銀粉及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、例えば、湿式法により製造した銀粒子スラリーを乾燥して解砕し、銀粒子を回収する際に、解砕しやすい銀粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器における配線層や電極などの形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストのような銀ペーストが多用されている。即ち、これらの銀ペーストを各種基材上に塗布又は印刷した後、加熱硬化又は加熱焼成することによって、配線層や電極等となる導電膜を形成することができる。
【0003】
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、100℃〜200℃で加熱硬化させて導電膜とし、配線や電極を形成することができる。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、600℃〜800℃に加熱焼成して導電膜とし、配線や電極を形成することができる。これらの銀ペーストで形成された配線や電極では、銀粉が連なることで電気的に接続した電流パスが形成されている。
【0004】
銀ペーストに使用される銀粉は、粒径が0.1μmから5μmであり、形成する配線の太さや電極の厚さ等によって使用される銀粉の粒径が異なる。また、銀ペースト中に均一に銀粉を分散させることにより、均一な太さの配線又は均一な厚さの電極を形成することができる。
【0005】
銀ペースト用の銀粉に求められる特性は、用途及び使用条件により様々である。一般的で且つ重要な特性は、粒径が均一で凝集が少なく、銀ペースト中への分散性が高いことである。銀粉の粒径が均一で且つ銀ペースト中への分散性が高いと、硬化又は焼成が均一に進み、低抵抗で強度の大きい導電膜を形成できるからである。逆に、銀粉の粒径が不均一で分散性が悪いと、印刷膜中に銀粒子が均一に存在しなくなるため、配線や電極の太さや厚さが不均一となるばかりか、硬化又は焼成が不均一となることで導電膜の抵抗が大きくなったり、導電膜が脆く弱いものになったりしやすくなるからである。
【0006】
粒径の均一な微粒子を得る方法としては、硝酸銀や塩化銀等を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む溶液と還元剤溶液を混合し、銀錯体を還元して銀粒子を得る湿式法が一般的である。しかしながら、湿式法で微粒子を製造する場合には、多量の還元剤を用いるとともに表面に分散剤などを吸着させる方法が一般的であり、不純物品位の増加や製造時に発生する廃液の処理コストが増大するなどの問題がある。
【0007】
更には、銀粒子スラリーをろ過脱水して乾燥させると硬い凝集体が多く生成する。この凝集体を強引に解砕すると、銀粒子にダメージを与えることで銀粒子が不規則な形状になり、流動性の良い銀粒子を得ることができない。しかしながら、銀粒子にダメージを与えないように弱い力で解砕すると、乾燥時の粗大な凝集体が多く残るために回収率が低くなり、生産コストが増加してしまう。
【0008】
従って、銀ペースト用の銀粉に求められる事項としては、使用する原料や材料の単価が低いことや廃液や排気の処理コストが低いことだけでなく、解砕性の良い銀粉の製造方法が重要となる。
【0009】
銀ペーストに使用される銀粉の製造は、例えば特許文献1では、平均粒径がサブミクロンの銀粒子のスラリーに、カルボキシル基又はアミノ基を有する炭素数2個以上の非粘性直鎖有機化合物からなる保護層を粒子表面に有することを特徴とする銀粒子の製造方法が記載されている。
【0010】
この特許文献1の製造方法では、有機化合物の添加量を、銀粒子スラリーの銀1gに対して10−10mol〜10−1molとすることで、90μm目開きの篩に対する通過率が有機化合物を添加しない場合に比べて高くなる。この方法では、90μm目開きの篩に対する通過率を90%以上まで高くするためには有機化合物の添加量を5×10−6程度まで増加させる必要があるが、生産性を考慮した場合には通過率を更に高くする必要がある。そのためには、有機化合物の添加量を更に増加させる必要がある。しかしながら、有機化合物の添加量が多くなりすぎると、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が低下するため好ましくない。
【0011】
また、特許文献2では、平均粒径がサブミクロンの銀粒子のスラリーに、アルコールを投入して攪拌した後に、ろ過脱水し、乾燥して解砕することを特徴とする銀粒子の製造方法が記載されている。この特許文献2の方法では、銀粒子スラリーの銀重量に対して0.1倍量以上のアルコールを添加することで、90μm目開きの篩に対する通過率が70%以上となるが、70%程度の通過率では製造コストが高くなり生産性が不十分となる。
【0012】
したがって、銀粉の製造方法では、銀粒子の凝集を抑制し、解砕性が良い銀粉を容易に製造することができる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−229480号公報
【特許文献2】特開2010−229481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、解砕性に優れた銀粉を容易に製造することができる銀粉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成するために、検討を重ねた結果、湿式法により製造した銀粒子を、液温が一定温度以下のアルカリ性溶液又は水で洗浄することで銀粒子の凝集を抑制し、解砕性に優れた銀粒子が得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0016】
即ち、本発明に係る銀粉の製造方法は、湿式法により製造した銀粒子を、液温が35℃以下のアルカリ性溶液又は水で洗浄することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、工業的規模でも容易に実施可能な方法であり、銀粒子の凝集を抑制して洗浄、乾燥することができるため、解砕性に優れた銀粉を容易に低コストで製造することができる銀粉の製造方法を提供することができる。このため、電子機器の配線層や電極などの形成に用いる銀ペースト用として工業的価値が極めて大きいものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を適用した銀粉の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、特に限定がない限り、以下の詳細な説明に限定されるものではない。
【0019】
銀粉は、硬化剤、樹脂、溶剤等から構成される樹脂型銀ペーストやガラス、溶剤等から構成される焼成型銀ペーストに含有される。銀粉が含有された樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストは、配線層や電極の形成に用いられる。銀粉を銀ペーストに含有させる場合には、銀ペーストの硬化や焼成、形成される配線や電極の太さが均一となるように、粒径が均一で凝集が少ない銀粉であることが求められる。本発明の銀粉の製造方法では、湿式法により銀粒子を作製し、得られた銀粒子の凝集を抑制して銀粉を作製するため、解砕性に優れ粒径が均一で凝集の少ない銀粉を得ることができる。
【0020】
銀粉の製造方法は、硝酸銀や塩化銀等を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を得る湿式法を用い、この湿式法により得られた銀粒子を液温が一定温度以下のアルカリ性溶液又は水で洗浄を行う。
【0021】
ここで、銀粒子をアルカリ性溶液又は水で洗浄する際には、洗浄液の液温を35℃以下にすることが重要である。即ち、洗浄液の液温を35℃以下とした場合には、銀粒子の分散性を維持できるために、銀粒子をろ過脱水して乾燥する際に銀粒子の凝集が弱くなり、銀粒子にダメージを与えないように弱い力で解砕することが可能となる。また、洗浄液の液温を35℃以下とした場合には、還元析出した銀粒子の分散性を維持できるため、細部まで洗浄が可能となり、不純物が低減しやすく、銀粒子の焼結性を向上させることができる。
【0022】
具体的に、銀粉の製造方法は、以下のような工程を有する方法である。
【0023】
銀粉の製造方法は、先ず、硝酸銀や塩化銀等を錯化剤により溶解して得た銀錯体を含む銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させる湿式法により銀粒子スラリーを生成する工程を行う。銀粉の製造方法では、湿式法を用いることによって、均一な粒径の銀粒子を得ることができる。
【0024】
この銀粒子スラリーを生成する工程では、錯化剤を用いて硝酸銀や塩化銀等を溶解し、銀錯体を含む銀錯体溶液を調製する。錯化剤としては、特に限定されるものではないが、硝酸銀や塩化銀等と錯体を形成しやすく且つ不純物として残留する成分が含まれないアンモニア水を用いることが好ましい。また、硝酸銀や塩化銀等は、高純度のものを用いることが好ましい。
【0025】
硝酸銀や塩化銀等の溶解方法としては、例えば錯化剤としてアンモニア水を用いる場合、硝酸銀や塩化銀等のスラリーを作製してアンモニア水を添加してもよいが、錯体濃度を高めて生産性を上げるためにはアンモニア水中に硝酸銀や塩化銀等を添加して溶解することが好ましい。硝酸銀や塩化銀等を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
【0026】
次に、銀錯体溶液と混合する還元剤溶液を調製する。還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリン、アスコルビン酸などを用いることができる。アスコルビン酸は、還元作用が緩やかであるため、銀粒子中の結晶粒が成長しやすく特に好ましい。ヒドラジンやホルマリンは、還元力が強いため、銀粒子中の結晶が小さくなりやすい。また、反応の均一性や反応速度を制御するためには、還元剤を純水等で溶解又は希釈して濃度調整した水溶液として用いてもよい。
【0027】
還元剤溶液には、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンの少なくとも1種を含む水溶性高分子を添加する。水溶性高分子を添加しない場合には、還元により発生した核や核が成長した銀粒子が凝集を起こし、分散性が悪いものとなってしまう。また、過剰に添加した場合は、銀粒子表面に残留する水溶性高分子の量が多くなり過ぎ、ペースト化して作製した配線の導電性が十分なものとならない。水溶性高分子の添加量は、水溶性高分子の種類及び得ようとする銀粉の粒径により適宜決めればよいが、銀錯体溶液中に含有される銀に対して0.1〜20質量%の範囲とすることが好ましく、1〜20質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0028】
水溶性高分子は、銀錯体溶液に混合しておくことも可能であるが、還元剤溶液に水溶性高分子を混合しておく方が分散性の良い銀粉が得られるため好ましい。このことは、実験的に確認された結果であるが、還元剤溶液と水溶性高分子を混合しておくことで核発生又は核成長の場に水溶性高分子が存在し、生成した核又は銀粒子の表面に迅速に水溶性高分子が吸着するためと考えられる。
【0029】
水溶性高分子を添加した場合には、還元反応時に発泡することがあるため、銀錯体溶液又は還元剤混合液に消泡剤を添加してもよい。消泡剤は、特に限定されるものではなく、通常還元時に用いられているものでよい。ただし、還元反応を阻害させないため、消泡剤の添加量は消泡効果が得られる最小限程度にしておくことが好ましい。
【0030】
なお、銀錯体溶液及び還元剤溶液を調製する際に用いる水については、不純物の混入を防止するため、不純物が除去された水を用いることが好ましく、純水を用いることが特に好ましい。
【0031】
次に、上記のごとく調製した銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して銀粒子を析出させる還元工程を行う。この還元反応は、バッチ法でもよく、チューブリアクター法やオーバーフロー法のような連続還元法を用いて行ってもよい。均一な粒径を有する銀粒子を得るためには、粒成長時間の制御が容易なチューブリアクター法を用いることが好ましい。また、銀粒子の粒径は、銀錯体溶液と還元剤溶液の混合速度や銀錯体の還元速度で制御することが可能であり、目的とする粒径に容易に制御することができる。銀粒子の平均粒子径は、0.1μm〜0.5μm程度であり、形成する配線の太さや電極の厚さによって適宜調整する。
【0032】
次に、得られた銀粒子に対して表面処理を行う。この表面処理は、銀粒子をアルカリ性溶液や水で洗浄する前に行うことが好ましい。アルカリ性溶液や水で洗浄すると、銀粒子の表面に吸着した水溶性高分子が容易に除去されてしまうため、水溶性高分子が除去された部分で銀粒子の凝集が起こる。このため、洗浄した後に表面処理を行うと、凝集した銀粒子の表面に表面処理を行うことになり、乾燥後の解砕により表面処理ができていない面が現われて、表面処理が不均一になるため好ましくない。したがって、洗浄前に表面処理を行うことが好ましい。なお、後述する液温35℃以下のアルカリ性溶液や水で洗浄を行う場合には、不純物を除去する一方で適量の水溶性高分子を残すことができるため、銀粒子の凝集を抑制することができ、このような洗浄であれば洗浄後に表面処理を行うことができる。
【0033】
表面処理は、洗浄する前の銀粒子に界面活性剤で表面処理を行うか、より好ましくは界面活性剤と分散剤で表面処理を行う。表面処理は、カチオン系界面活性剤を用いることが好ましい。カチオン系界面活性剤は、pHの影響を受けることなく正イオンに電離するため、銀粉への吸着性の改善効果が得られる。銀粒子に対して表面処理を行った場合には、硝酸銀や塩化銀等から得た銀錯体を還元して得た銀粒子の表面に、例えば電離状態で少なくとも正イオンとなり得るカチオン系界面活性剤が吸着しているか、又は銀粒子表面に吸着している界面活性剤に更に分散剤が吸着している。
【0034】
銀粒子の洗浄及び表面処理に用いられる装置は、通常用いられるものでよく、例えば撹拌機付の反応槽等を用いることができる。
【0035】
界面活性剤と分散剤とによって表面処理を行った場合には、銀粒子の表面に界面活性剤を強固に吸着させることができ、その界面活性剤を介して分散剤を強固に吸着させることができる。表面処理が施された銀粉は、界面活性剤と分散剤の効果により銀粉の凝集が抑制され、有機溶媒を用いた銀ペースト中でも界面活性剤及び分散剤が剥離しにくく凝集が抑制されて、銀ペースト中において良好な分散性が得られる。
【0036】
有機溶媒を用いた銀ペースト中での界面活性剤及び分散剤の剥離については、メタノールによる洗浄前後における銀粉の炭素含有量の減少率によって評価することが可能である。なお、この銀粉の製造方法により得られる銀粉は、界面活性剤や分散剤の吸着の指標となる炭素含有量の減少量が30%以下である。即ち、銀粒子の表面から界面活性剤や分散剤が剥離しにくいものであるといえる。
【0037】
次に、表面処理をした銀粒子を洗浄する洗浄工程を行う。銀粒子は、表面に不純物、多量の塩素イオン及び水溶性高分子が吸着している。従って、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極の導電性を十分なものとするためには、得られた銀粒子のスラリーを洗浄し、銀粒子の塩素イオン及び過剰に付着した水溶性高分子を除去する必要がある。これらを除去しても、適正量の界面活性剤や分散剤が残るため、銀粒子の凝集抑制と配線層や電極の高導電性を両立させることができる。
【0038】
洗浄方法としては、スラリーから固液分離した銀粒子を洗浄液に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌した後、再び固液分離して銀粒子を回収する方法が一般的に用いられる。また、表面吸着物を十分に除去するためには、洗浄液に銀粒子を投入して撹拌洗浄し、固液分離を行う操作を数回繰り返して行うことが好ましい。
【0039】
洗浄液は、銀粒子の表面に吸着されている塩素イオン及び水溶性高分子を効率よく除去するために、アルカリ性溶液又は水を用いる。アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水のいずれか1つ、または混合して用いることが好ましい。その他に、無機化合物又は有機化合物からなるアルカリ性溶液を用いても問題はない。洗浄液に用いる水は、銀粒子に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水が好ましい。
【0040】
アルカリ性溶液や水の液温は、35℃以下であり、20℃以下であることが好ましい。アルカリ性溶液や水の液温を35℃以下として洗浄を行うことによって、不純物、銀粒子の表面に付着している塩素イオン及び過剰な水溶性高分子を銀粒子の表面から除去できるとともに、銀粒子が凝集することを抑制できる。アルカリ水溶液の液温が35℃を超える場合には、銀粒子の凝集が起こりやすく、銀粒子をろ過脱水して乾燥する際に銀粒子の凝集が進行し、乾燥時に粗大な凝集体が形成され、解砕し難くなるので好ましくない。また、凝集が進行すると、細部まで洗浄し難くなるために不純物を十分に除去できず、不純物を低減し難くなるため好ましくない。アルカリ水溶液の液温が35℃を超えると銀粒子の凝集が進行する機構は明確ではないが、液温が高くなることにより、水溶性高分子が銀粒子表面から除去されやすくなるためと考えられる。なお、アルカリ性溶液や水の温度は、融点以上とする。
【0041】
アルカリ性溶液の濃度は、0.01質量%〜20質量%が好ましい。0.01質量%未満では、洗浄効果が不十分であり、20質量%を超える場合では、銀粒子にアルカリ金属塩が許容以上に残留することがある。従って、高濃度のアルカリ性溶液を用いた場合は、洗浄後に十分な純水洗浄を行い、アルカリ金属塩の残留を抑制する必要がある。
【0042】
洗浄を行った後は、固液分離して銀粒子を回収する。固液分離に用いられる装置は、通常用いられるものでよく、例えば遠心機、吸引濾過機、フィルタープレス等を用いることができる。
【0043】
ここで、この銀粉の製造方法では、上述したように銀粒子の凝集を抑えるため、洗浄前に銀粒子に対して表面処理を行ったが、このことに限定されず、液温35℃以下のアルカリ性水溶液や水で銀粒子を洗浄した後に、表面処理を行うようにしてもよい。液温35℃以下のアルカリ性水溶液や水で銀粒子を洗浄する場合、上述したように適量の水溶性高分子を残して銀粒子の凝集を抑えることができるため、洗浄後であっても各銀粒子に対して適切に表面処理を行うことができ、均一に表面処理することができる。
【0044】
次に、分離した銀粒子は、乾燥工程において水分を蒸発させて乾燥させる。乾燥方法としては、例えば、洗浄及び表面処理の終了後に回収した銀粉をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機などの市販の乾燥装置を用いて、40℃〜80℃の温度で加熱すればよい。
【0045】
次に、乾燥後の銀粒子に対して、弱い解砕を行い、乾燥時に生じた凝集体をほぐす。なお、解砕は、乾燥後の銀粒子において、凝集体をほぐす必要があれば行うようにしてもよい。解砕を行う際には、弱い力で解砕することができる。これは、上述したように35℃以下の液温で銀粒子の洗浄を行ったことにより、洗浄時に銀粒子の分散性が維持され、乾燥する際に銀粒子の凝集が弱くなり、凝集体が生成されても、弱い力で解砕することができるからである。したがって、銀粒子に対して解砕を行っても、弱い力で解砕を行っているため、銀粒子にダメージを与えることが抑えられ、銀粒子が不規則な形状とならず、流動性を低下させることがない。解砕する際の力は、小さい振動、例えば銀粒子をジャイロシフターにて篩いにかけた際の振動程度でもよい。
【0046】
以上の銀粉の製造方法では、銀粒子を洗浄する際に、湿式法により得られた平均粒径が均一な銀粒子を洗浄液としてアルカリ性溶液や水を用い、液温を35℃以下にして洗浄を行うことによって、洗浄時の銀粒子の分散性が維持され、乾燥時の凝集が弱くなり、生成された凝集体を弱い力で解砕することができ、解砕性が良く、平均粒径が均一な銀粉を得ることができる。この銀粉の製造方法は、還元析出させた銀粒子の凝集が抑えられ、洗浄時に分散性が維持されているため、細部まで洗浄が可能となり、不純物が低減される。
【0047】
また、この銀粉の製造方法では、洗浄液にアルカリ性溶液や水を用い、その液温を35℃以下とするだけで銀粒子の凝集を抑えることができるため、凝集を抑えるための他の工程を必要とせず、工業的規模でも容易に実施可能な方法であり、解砕性に優れた銀粉を容易に低コストで製造することができる。
【0048】
更に、上述した銀粉の製造方法により得られた銀粉は、粗大な凝集体を含有していないため、銀ペースト中での分散性に優れており、銀ペーストとしたとき適度な粘度を付与することができる。銀ペーストの粘度が高すぎても低すぎてもペーストの印刷性は好ましくなく、適度な粘度に調整可能な銀粉とすることで、優れた印刷性を有する銀ペーストとすることができる。分散性が十分でない銀粉では、有機溶媒と銀粉が分離しやすく、銀ペーストの粘度調整が困難となる。
【0049】
銀ペーストの粘度について、例えばエチルセルロース含有量が3.8質量%であるエチルセルロースとターピネオールの混合溶液であるビヒクル及び銀粉を、銀ペーストに対してビヒクル87.4質量%及び銀粉12.6質量%となるよう混練して得た一般的なペーストの場合には、コーンプレート型粘度計で測定したせん断速度が0.5(1/sec)におけるペースト粘度は120〜250Pa・sが好ましく、120〜200Pa・sが更に好ましい。また、せん断速度が1.0(1/sec)における粘度では、80〜150Pa・sが好ましい。更に、2.0(1/sec)における粘度は、70〜140Pa・sが好ましく、70〜90Pa・sが更に好ましい。
【0050】
上記した好ましい粘度に比べて、銀ペーストの粘度が低くなる銀粉では、銀ペーストの印刷により形成された配線等に滲みや垂れなどが生じ、その形状を維持できなくなる場合がある。逆に、粘度が高くなる銀粉の場合は、ペーストの印刷が困難となることがある。
【0051】
なお、銀粉のペースト化については、公知の方法を用いることができる。使用するビヒクルとしては、アルコール系、エーテル系、エステル系などの溶剤に、各種セルロース、フェノール樹脂、アクリル樹脂などを溶解したものを用いることができる。
【0052】
また、銀ペーストに用いる銀粉の平均粒径は、0.3μm〜1.5μmの範囲が好ましく、タップ密度は2.5g/ml以上であることが好ましい。なお、平均粒径については、走査型電子顕微鏡による13000倍の観察において400個の粒子を測定して、個数平均することにより求めることができる。また、タップ密度については、JIS Z 2512に準拠した方法により求めることができる。
【0053】
銀粉の平均粒径が0.3μm未満では、ペーストの粘度が高くなり過ぎて配線の形成が困難となる、銀粉の平均粒径が1.5μmを超える場合では、微細な配線の形成が困難になる。
【0054】
また、タップ密度が2.5g/ml未満では、必要な量の銀粉を配合した場合、ペーストの粘度が高くなり過ぎて配線の形成が困難になる。なお、タップ密度は、高いほどよいが、上限は7.0g/ml程度である。
【0055】
上述した銀粉の製造方法では、洗浄及び乾燥の際の凝集が抑えられているため、得られた銀粉の平均粒径が大きくなり過ぎず、銀粉の平均粒径を0.3μm〜1.5μmの範囲とすることができる。また、上述した銀粉の製造方法では、平均粒径が0.3μm〜1.5μmの範囲の銀粉が得られるため、タップ密度を2.5g/ml以上とすることができる。
【0056】
したがって、上述した銀粉の製造方法により得られた銀粉を含有する銀ペーストでは、銀ペースト中における分散性が良く、均一に分散するため、導電性が良いものが得られる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
<実施例1>
実施例1では、38℃の温浴中で液温36℃に保持した25%アンモニア水36Lに、塩化銀2786g(住友金属鉱山(株)製、純度99.9999%)を撹拌しながら投入して、銀錯体溶液を作製した。消泡剤((株)アデカ製、アデカノールLG−126)を体積比で100倍に希釈し、この消泡剤希釈液24.4mLを上記銀錯体溶液に添加し、得られた銀錯体溶液を温浴中で36℃に保持した。
【0059】
一方、還元剤のアスコルビン酸1318g(関東化学(株)製、試薬)を、36℃の純水14Lに溶解して還元剤溶液とした。次に、水溶性高分子のポリビニルアルコール338g((株)クラレ製、PVA205)を分取し、36℃の純水560mlに溶解した溶液を還元剤溶液に混合した。なお、ポリビニルアルコールの濃度は、銀錯体溶液中に含有される銀に対して18.0質量%である。
【0060】
チューブポンプを用いて、銀錯体溶液と還元剤溶液を、それぞれ2.7L/min及び0.9L/minの流量でガラス製の混合部に送液して銀錯体を還元した。この時の還元速度は銀量で126.5g/minである。また、銀の供給速度に対する還元剤の供給速度の比は1.4とした。尚、ガラス製の混合部で混合された銀粒子を含むスラリーは、内径φ12mm、長さ10mのブレードホースを通した後に受け槽内に受け入れ、受け入れ終了後も受槽内での撹拌を60分継続した。撹拌終了後の銀粒子スラリーを、フィルタープレスを使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。
【0061】
引き続き、回収した銀粒子が乾燥する前に、銀粒子を10℃に保持した0.2質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液23L中に投入し、15分間撹拌して洗浄した後、のフィルタープレスで濾過して回収した。
【0062】
前述した水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中での洗浄操作を合計3回実施した後、回収した乾燥前の銀粒子と、表面処理剤として市販のカチオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン付加4級アンモニウム塩0.75g(クローダジャパン(株)製、商品名 シラソル、銀粒子に対して0.04質量%)及び分散剤であるステアリン酸エマルジョン14.08g(中京油脂(株)製、セロゾール920、銀粒子に対して0.75質量%)とを、10℃に保持した0.2質量%の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液23L中に投入し、撹拌して表面処理した後、濾過により固液分離した。
【0063】
固液分離した銀粒子を、10℃に保持した23Lの純水中に投入し、撹拌及び濾過した後、銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で12時間乾燥して銀粉を得た。
【0064】
表1に示すように、真空乾燥器にて乾燥した銀粉1500gを、目開き77μmの篩網を設置したジャイロシフター(徳寿工作所製、GS−A1P)に投入し、1分間運転した結果、1365gの銀粉が篩を通過した。更にジャイロシフターを4分間運転して運転時間を合計5分間とした結果、1471gの銀粉が篩を通過した。1分間後の回収率は、91.0%であり、5分後の回収率は、98.1%となった。平均粒径は、走査電子顕微鏡で銀粉を観察して得られた画像において銀粒子(外見上の幾何学的形態から判断される単位粒子)を300点以上測長した値の平均を用いた。
【0065】
<実施例2>
実施例2では、洗浄に使用するアルカリ水溶液と純水の液温のみを20℃としたこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。得られた銀粉1500gを、目開き77μmの篩網を設置したジャイロシフター(徳寿工作所製、GS−A1P)に投入し、1分間運転した結果、1320gの銀粉が篩を通過した。更にジャイロシフターを4分間運転して運転時間を合計5分間とした結果、1446gの銀粉が篩を通過した。1分間後の回収率は、88.0%であり、5分後の回収率は、96.4%となった。
【0066】
<実施例3>
実施例3では、洗浄に使用するアルカリ水溶液と純水の液温のみを35℃としたこと以外は、実施例1、2と同様にして銀粉を製造した。得られた銀粉1500gを、目開き77μmの篩網を設置したジャイロシフター(徳寿工作所製、GS−A1P)に投入し、1分間運転した結果、1221gの銀粉が篩を通過した。更にジャイロシフターを4分間運転して運転時間を合計5分間とした結果、1353gの銀粉が篩を通過した。1分間後の回収率は、81.4%であり、5分後の回収率は、90.2%となった。
【0067】
<実施例4>
実施例4では、ポリビニルアルコール38gを分取し、純水に溶解した溶液を還元剤溶液に混合したこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。なお、ポリビニルアルコールの濃度は、銀錯体溶液中に含有される銀に対して2.0質量%である。得られた銀粉1500gを、目開き77μmの篩網を設置したジャイロシフター(徳寿工作所製、GS−A1P)に投入し、1分間運転した結果、1358gの銀粉が篩を通過した。更にジャイロシフターを4分間運転して運転時間を合計5分間とした結果、1460gの銀粉が篩を通過した。1分間後の回収率は、90.5%であり、5分後の回収率は、97.3%となった。
【0068】
<実施例5>
実施例5では、還元後固液分離した銀粒子を、ポリオキシエチレン付加4級アンモニウム塩及びステアリン酸エマルジョンとともに純水23L中に投入し、撹拌して表面処理した後、水酸化ナトリウム水溶液による洗浄を行ったこと以外は、実施例1と同様にして銀粉を製造した。得られた銀粉1500gを、目開き77μmの篩網を設置したジャイロシフター(徳寿工作所製、GS−A1P)に投入し、1分間運転した結果、1376gの銀粉が篩を通過した。更にジャイロシフターを4分間運転して運転時間を合計5分間とした結果、1478gの銀粉が篩を通過した。1分間後の回収率は、91.7%であり、5分後の回収率は、98.5%となった。
【0069】
<比較例1>
比較例1では、洗浄に使用するアルカリ水溶液と純水の液温のみを40℃としたこと以外は、実施例と同様にして銀粉を製造した。得られた銀粉1500gを、目開き77μmの篩網を設置したジャイロシフター(徳寿工作所製、GS−A1P)に投入し、1分間運転した結果、975gの銀粉が篩を通過した。更にジャイロシフターを4分間運転して運転時間を合計5分間とした結果、1065gの銀粉が篩を通過した。1分間後の回収率は、65.0%であり、5分後の回収率は、71.0%となった。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示す結果から、実施例では、1分後、及び5分後であっても回収率が比較例1に比べて高かった。これは、実施例では、銀粒子を洗浄する際に、洗浄液にアルカリ性溶液の水酸化ナトリウム水溶液を用い、液温35℃以下で洗浄を行ったことにより、洗浄及び乾燥の際の凝集が抑制され、凝集した銀粒子がほとんどなく、凝集体で存在していても、ジャイロシフターにて篩いにかけた際に生じる振動で解砕されたためといえる。
【0072】
一方、比較例1では、銀粒子を洗浄する際に、洗浄液の液温を40℃としていることから、銀粒子の凝集が生じ、硬い凝集体が多くなり、ある程度の解砕力で解砕をしなければならず、ジャイロシフターによる振動では解砕されなかった。
【0073】
以上より、銀粒子を洗浄する際にアルカリ性溶液や水の液温を35℃以下の低温とすることで、洗浄時の銀粒子の分散性が維持できるため、乾燥する際に銀粒子の凝集が弱くなり、解砕する場合には銀粒子にダメージを与えないように弱い力で解砕することが可能となることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式法により製造した銀粒子を、液温が35℃以下のアルカリ性溶液又は水で洗浄することを特徴とする銀粉の製造方法。
【請求項2】
上記アルカリ性溶液は、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水の何れかを用いることを特徴とする請求項1記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
上記銀粒子を、銀化合物と錯化剤により溶解して得られた銀錯体溶液と還元剤溶液とを混合し、銀錯体を還元して製造するに際し、上記還元剤溶液に、上記銀錯体溶液に含有される銀に対して0.1〜20質量%の水溶性高分子を添加し、
上記銀粒子を上記洗浄前若しくは洗浄後であって、かつ、乾燥前に、界面活性剤及び分散剤により表面処理することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
上記銀化合物は塩化銀であることを特徴とする請求項3記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
上記表面処理を還元後、上記洗浄前に行うことを特徴とする請求項3又は請求項4記載の銀粉の製造方法。